勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

    a1320_000159_m
       

    中国は、国内経済不振を打開すべく、EV(電気自動車)・電池・太陽光発電パネルの3点を重点輸出品目として売り込む姿勢を鮮明にしている。中国は、国内の過剰生産を輸出で切り抜けようという戦略である。米国は強い警戒姿勢をみせている。

     

    『レコードチャイナ』(3月17日付)は、「駐中国米国大使『中国が不当廉売で過剰生産能力を輸出すれば世界の貿易体系にダメージ』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「シンガポール華字メディア『聯合早報』によると、米国のニコラス・バーンズ駐中国大使は15日、米シンクタンク、イースト・ウエスト・センターが開催したオンラインセミナーで、「中国がダンピング(不当廉売)という形で過剰生産能力を輸出すれば、世界の貿易体系にダメージを与えることになり、他の国々もそれに反応するだろう」と語り、製造業の奮い起こしに力を入れる中国の取り組みに懸念を示した」

     

    EU(欧州連合)は、中国がEV(電気自動車)のダンピング輸出を行っているという疑惑を強めている。すでに関連調査を進めており、間もなく結論を出す予定だ。現在の様子では、「ダンピング濃厚」で、EUはすでに取締りの準備に入っている。米国も、中国EVがメキシコへ工場進出して、「無関税」での輸出を狙っていると関心が集まっている。

     

    (2)「中国政府は今年の政府活動報告で、政府活動任務における最初の項目として「現代化産業体系の建設を大いに推進し、新たな質の生産力発展を加速させる」ことを挙げ、現代製造業の発展に全力を尽くすというシグナルを発した。バーンズ氏は「終わったばかりの全人代と全国政協会議の年次総会から判断すると、中国は、経済の減速に対処し、より一層の成長を達成し、より多くの雇用機会を創出するため、製造能力を大幅に引き上げる方針だ」とし、「もしそうなれば、生産能力が過剰になり、太陽電池パネルや電気自動車などの製品が増えることになる。中国がこれらの製品を人為的な低価格やさらに進んでダンピングという形で世界の他の国に輸出すれば、世界的な貿易システムの破壊につながる」と懸念を示した」

     

    駐中国の米国大使は、中国が国内景気テコ入れ目的で世界中へダンピングによってEVや太陽光発電パネルの輸出を行えば、世界貿易システムを破壊すると警告している。バイデン大統領は、この問題について表だった発言をしていないが、中国EVのメキシコへ進出には、政府高官が警戒観を滲ませている。一方、次期米大統領への返り咲きを目指すトランプ氏は、過激な発言をして牽制している。

     

    『ブルームバーグ』(3月17日付)は、「トランプ氏、100%関税の意向ー中国企業がメキシコで製造の自動車」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ前大統領は3月16日、11月の米大統領選でホワイトハウス返り咲きを果たした場合、中国メーカーがメキシコで製造した自動車に100%の関税を課す意向を示した。トランプ氏が先に表明していた関税率の倍となる。

     

    (3)「トランプ氏はオハイオ州デイトンの選挙集会で演説し、中国の習近平国家主席に直接言及。その上で、中国自動車メーカーがメキシコに大規模な工場を建設し、米国の労働者を雇用せずに対米輸出することを考えているのなら、そうはさせないとの考えを示した。「国境を越えて来る全ての自動車に100%の関税を課す」と語った」

     

    中国が、メキシコへの工場進出を狙っているのは、米国・カナダ・メキシコ3ヶ国の貿易協定で無税になっていることを利用するものだ。この件で、中国BYDはメキシコへEV工場を作っても米国へ輸出しないと発言している。中国にとっても、「もしトラ」(トランプ氏当選)の場合、大変な損害になるので慎重になろう。

    (4)「トランプ氏は今月早い時点で、中国企業がメキシコで製造する自動車への50%の関税賦課も辞さない考えを表明していた。同氏はこれまでに、中国からの全ての輸入品に最大60%の関税を課す考えなどを示すとともに、(中国の)対抗措置を懸念していないと話している」

     

    トランプ氏は、中国EVへ100%関税率を科すとしている。十分に根拠があるわけでないが、米国自動車労働者向けの発言であることは間違いない。大統領選を有利に運ぶレトリックである。

     

     

     

     

     

    a0960_008527_m
       

    米国は、日鉄とUSスチールを巡る合併反対論で政治的圧力をかけている。だが、USスチールは15日、日鉄による買収が今年後半に完了する見込みと規制当局に提出した資料で明らかにした。『ロイター』(3月16日付)が明らかにした。日鉄は15日、合併を実現するという強い決意を表明した。 

    『ブルームバーグ』(3月15日付)は、「日鉄、『強い決意』でUSスチール買収完了させると声明で主張」と題する記事を掲載した。 

    日本製鉄は15日、米USスチールの買収に関して「強い決意のもと」で完了させるとの声明を発表した。バイデン米大統領はUSスチールについて、米国資本の企業として存続するよう求めている中でも、退かない姿勢を示した。 

    1)「日鉄は声明で、買収はUSスチールだけでなく労働組合や米国鉄鋼業界、米国の安全保障に明確な利益をもたらすと指摘。投資の拡大と先進技術の提供を通じて競争力がある製品やサービスを生み出し、米国の優位性を高めるとした。これらを独力で実現できる他の米企業はなく、USスチールが今後何世代にもわたり米国の象徴的企業としてあり続けるための最適なパートナーだと確信していると述べた」 

    USスチールは、米国独禁法上で国内有力鉄鋼企業との合併が不可となっている。USスチールを救済できるのは、独禁法上でも日鉄しか存在しないことが明らかだ。

     

    2)「日鉄はまた、全米鉄鋼労働組合(USW)に対し、雇用、年金、設備投資、技術共有、財務報告や買収成立後のUSWとの労働協約に関する義務履行の確保に関する重要な約束事項を提案し、相互に合意可能な解決に向けた努力を継続するとも述べた。日鉄によるUSスチール買収を巡っては、バイデン大統領が先に「USスチールは1世紀以上にわたって米国を象徴する鉄鋼会社だった。米国の鉄鋼会社として国内で保有され、経営を続けていくことが極めて重要だ」と声明で主張。「米国の鉄鋼労働者を原動力とする強力な米国の鉄鋼会社を維持することが重要だ。米鉄鋼労働者には私がついていると伝えた。それが私の本心だ」と述べた」 

    USWは、合併反対派の強い影響を受けているとされる。独禁法上の限界を理解せず、政治的に振る舞っているだけだ。 

    3)「バイデン大統領の今回の声明では、買収計画に対する連邦当局による現在進行中の精査については言及しておらず、計画を阻止する方針だとも明言していない。この買収計画の実現には株主の承認が必要だが、市場が注目しているのは対米外国投資委員会(CFIUS)による審査だ。CFIUSには、買収計画を承認するか、国家安全保障上の懸念を理由に阻止する、ないし修正を求める権限を持つ。またバイデン大統領に判断を委ねる可能性もある。バイデン大統領の声明が、この審査に何らかの影響を及ぼすのかは明らかではない」 

    CFIUSは、財務省の管轄下にある。財務省は一切、この問題に言及せず沈黙している。中立を守っているようだ。CFIUSは、政治的思惑を排除して純粋に手続き論で審査している。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月15日付)は、「日本製鉄を巡るバイデン氏の大失態」と題する社説を掲載した。 

    かつて米政界の一致した見方は、外国からの投資は米経済の強さの表れであり、高給の雇用を生み出すというものだった。保護主義者たちは、米国製品と競合する輸入品の流入阻止に焦点を合わせていた。しかし、彼らは今では、友好国が米製造業に投資する場合さえも標的にしている。 

    (4)「それは、日本製鉄がUSスチールに提示した141億ドル(約2兆円)での友好的買収案にも当てはまる。USスチールは老舗の米国企業だが、世界の製鉄会社ランキングで大きく順位を落としてしまっている。日本製鉄の幹部は、USスチールの生産性を高めるために大規模な資本注入を計画している。しかし、この買収案に対してライバルである米クリーブランド・クリフスや全米鉄鋼労組(USW)から反対の声が上がっており、政治家は羊のように従っている」 

    大統領選を前に、合併に伴う経済的利益よりも政治的思惑で反対論が横行している。

     

    (5)「それに新たに加わったのが、バイデン大統領だ。同大統領は14日、日本製鉄への売却に反対する意向を示す声明を出し、「USスチールは1世紀以上にわたって米国の象徴となってきた鉄鋼メーカーであり、国内資本に所有され、国内で操業する米国の鉄鋼メーカーであり続けることが必要不可欠だ」と述べた」 

    バイデン大統領は、大統領選を有利に運ぶために「反対」とは明確にせず、労組側を引きつける戦術を取っている。 

    (6)「世界には鉄鋼があふれているため、なぜそれが米国製でなければならないのかは明確でない。しかし、米国で製造されるとしても、そのメーカーが「国内資本に所有」されることが「必要不可欠」な理由は何なのだろうか。日本製鉄は世界4位の鉄鋼メーカーであり、同社の工場はUSスチールの老朽化した工場よりはるかに効率的だ。日本製鉄の専門技術と資本は、USスチールの事業の競争力を向上させることで、米国の経済力の向上につながるだろう。しかし、日本製鉄の買収提案に対する政治的反対は、経済的利益に関連したものではない。それは、クリーブランド・クリフス、USW、そして11月の大統領選でのブルーカラー労働者票の獲得に絡んだものだ」 

    合併反対論者は、独禁法上の制約を全く理解せずに騒いでいる。USスチールは、米国の有力な同業と合併できないのだ。

    a0960_008527_m
       

    日本製鉄とUSスチール合併問題は、バイデン大統領の声明で実現困難な印象を与えたが、米国での手続き論からいえば、まだ「脈あり」という結論にたどり着くようだ。それは、米財務省が主導する省庁横断組織である「対米外国投資委員会」(CFIUS)による審査がカギを握っているからだ。

     

    日本製鉄とUSスチールの弁護団は現在、CFIUSの承認を求めている段階にあるという。CFIUSは、大統領に対し取引を阻止するよう勧告することはできるが、そうすることはまれとされている。あくまでも法的に正しければ、政治的な動きがあっても筋を通すのが米国であるので、ここに期待が掛っている。

     

    政治的圧力が高まる中で、バイデン氏は3月14日、買収を阻止するとは明言しなかったものの、反対する姿勢を示した。「USスチールは、1世紀以上にわたって米国を象徴する鉄鋼会社であり、国内で所有・運営される米鉄鋼会社であり続けることが重要だ」と述べるにとどめた。バイデン氏は、大統領選後に承認する方針と『ウォール・ストリート・ジャーナル』は分析している。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月15日付)は、「日鉄の買収にバイデン氏反対、背後に何が」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスは昨年、USスチールの買収を試みた。だが現在、日本製鉄の豊富な資金力と日本の自動車メーカーとの緊密な関係によって強化されたライバルと競わなければならなくなる見通しに直面している。USスチール買収が頓挫した後、好戦的な姿勢で知られるクリーブランド・クリフスのローレンソ・ゴンカルベス最高経営責任者(CEO)は、米連邦議会を通じて日本製鉄による買収を阻止しようとしている。全米鉄鋼労働組合(USW)とも異例の連携を組む」

     

    クリーブランド・クリフスは昨年、USスチールとの合併交渉で失敗した。このリベンジで、USWと手を組んで反対運動を行っている。

     

    (2)「クリーブランド・クリフスによるゲリラ的なロビー活動は、バイデン氏の産業政策の柱に関わる決定に影響を与えている。日本製鉄によるUSスチール買収は多くの点において、米国の製造業復活を目指すバイデン政権にとって勝利を意味していた。以前は輸出攻勢で米国の鉄鋼産業を苦しめた日本の大手企業が米国内で鉄鋼を製造し、米鉄鋼産業の象徴から色あせた存在になったUSスチールは資本と技術を手に入れ、日米は世界の鉄鋼市場で優位を誇る中国に共同で対抗する、といったことが想定されていた。米政府が、国家安全保障を理由に買収計画を阻止すれば、外国人投資家は米国に資金などを投じることに二の足を踏みかねない」

     

    理屈の上では、日鉄とUSスチールの合併は有意義である。だが、ペンシルベニア州では鉄鋼は州の象徴的存在だ。もし、バイデン氏が買収を承認すれば、11月の大統領選で激戦州である同州の有権者の支持を失う恐れがある。バイデン氏は、政治的に苦しい立場だ。

     

    (3)「日本製鉄は反撃に出ており、USスチールとの13日の共同声明では、バイデン政権による客観的・包括的な審査により、買収計画は米国の雇用や競争力、また、経済・国家安全保障の強化につながることが証明されるとの見通しを示した。日本製鉄はロビイストを起用したほか、海外事業担当の森高弘副社長が最近、首都ワシントンとペンシルベニア州ピッツバーグを訪問した。日本製鉄は老朽化が進むUSスチールの製鉄所に14億ドルを投資し、2026年末までは時間給労働者を解雇しない方針を表明した。日本製鉄はUSスチールの時間給労働者約1万人が加入する労組USWを味方につけることを目指す。森氏はインタビューで、合意がまとまれば、政治的な逆風は落ち着くとの見方を示した」

     

    日鉄は13日、USスチールとの共同声明を発表した。日鉄は、老朽化が進むUSスチールの製鉄所に14億ドルを投資し、2026年末までは時間給労働者を解雇しない方針を表明した。これを機に、USWを味方につけるべく動くという。USWとの合意がまとまれば、政治的な逆風が収まるとみている。

     

    (4)「バイデン政権幹部は今年に入り、クリーブランド・クリフスへのUSスチール売却を仲介することを検討したものの実現不可能と判断したと、交渉に詳しい関係者が明らかにした。現在では、単にCFIUSの審査を大統領選が終わるまで引き延ばすことが目的になっているという。関係者の一部は、買収はその後に承認されると予想している」

     

    バイデン政権は、クリーブランド・クリフスへのUSスチール売却を仲介することを検討した。だが、独禁法上の規定に触れて不可能という結論になった。こうなると、日鉄とUSスチールの望む合併こそ、最善策という結論になろう。政治的な雑音が収まる11月の大統領選後に、決着がつく可能性も残されている。

     

    a0005_000022_m
       


    バイデン米大統領は14日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を巡る声明を出し、USスチールは「国内で所有・運営される米鉄鋼企業であり続けることが重要だ」と表明した。日鉄の買収に慎重な姿勢を鮮明にした。 

    米国は11月の大統領選を前に、激戦州である中西部・東部の労働組合が政策決定に強い影響力を持っている。同地域の215万組合員票の行方が、大統領選の勝敗を決定づけるためだ。有権者の1%が、全米を動かす構図であり、民主党、共和党ともに支持獲得に躍起になっている。バイデン氏としては、鉄鋼労組の支持を失いたくない事情を抱えている。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月14日付)は、「バイデン氏声明、日鉄が買収のUSスチール『米で所有を』」と題する記事を掲載した。 

    (1)「バイデン氏は、「USスチールは1世紀以上にわたって米国を象徴する鉄鋼会社である」と強調した。「米国人の鉄鋼労働者によって運営される強力な米国の鉄鋼会社を維持することが重要だ。私は鉄鋼労働者たちに、彼らの背中を押していると言ったが、それは本心だ」とも述べた。買収には全米鉄鋼労働組合(USW)が反対している。USWは2月、「バイデン氏が我々の背中を押してくれるという個人的な確約を得た」と声明を出していた」 

    米国メディアでは、米鉄鋼同士の合併がシェアの点で独占禁止法に触れるので、日鉄の合併が最善として賛成していた。ただ、政治がこういう合理的合併を阻止する形になった。

     

    (2)「米株式市場では、USスチール株が急落している。月初から47ドル前後で安定推移していたが、14日午前の時点で一時40ドルを下回った。USスチール株は2023年12月に日本製鉄が1株あたり55ドルで買収提案したため急騰していた。大統領声明で買収の先行きが危ぶまれるとの警戒感から、上昇分の大部分が失われた」 

    日鉄は、USスチール株を1株当たり55ドルで買収提案し、株主からも歓迎されていた。それだけに、今回のバイデン声明で元の木阿弥になった。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月14日付)は、「日鉄拒む米労組、有権者1%が全米動かす 大統領選左右」と題する記事を掲載した。 

    大統領選の投票まで残り8ヶ月、米国ではあらゆる政策判断が選挙と結びつく。企業や個人が投資を決める際の政治リスクは極めて高い。バイデン政権は、自動車メーカーに電気自動車(EV)の製造・販売を事実上、義務付ける環境規制を先送りする検討に入った。急激なEVシフトに反発するミシガン本拠の全米自動車労組(UAW)に配慮した。共和党のトランプ前大統領は、日鉄の買収を阻止すると表明。組合員の支持が、前大統領に流れるのを恐れたバイデン氏が手を打った形だ。

     

    (3)「ラストベルト(さびた工業地帯)の製造業労組は国内保護のため、安価な海外製品の流入を抑えるよう要求する。自由貿易の推進に反対し、中国からの輸入品に高関税を求める。バイデン氏と前大統領はこうした声を政策や公約に反映しようと競う。12日には全米鉄鋼労働組合(USW)などの労組やウィスコンシン・ペンシルベニアの上院議員が中国製の船舶を締め出す政策の導入を要求し、米政府は検討する意向を表明した。米労働省によると、2023年時点で組合員はペンシルベニア州に74万人、オハイオ州に64万人、ミシガン州に56万人、ウィスコンシン州に20万人いる。4州の組合員数は、全米で投票資格を持つ人(2億3000万人)のうち1%弱だ」 

    ウィスコンシン州やミシガン州は、ラストベルト称されているが、大統領選ではその帰趨を左右する影響力を持っている。それだけに、政治的に無視できない地域だ。オハイオ州とペンシルベニア州を加えると、4州の組合員数は全米の投票資格者の1%に当る。バイデン氏が、USスチール合併問題で反対を表明せざるを得ない背景がある。 

    (4)「20年大統領選の票差は、ペンシルベニアで8万、ウィスコンシンで2万と僅差だった。組織で動く組合票の動向が、勝敗を左右する。ラストベルトは長年、民主党が強かったが、16年大統領選で労働者の復権を掲げた前大統領が4州で全勝した。20年はバイデン氏が組合員支持を挽回し、オハイオ以外の3州を奪還した。労組の中でも大規模労組のUAWとUSWの影響力が突出する。ラストベルトの労働者を研究するレイニー・ニューマン氏は、「UAWやUSWは特定産業の工場労働者だけでなく、教師や看護師など幅広い層に組合員を広げている」と説く」

     

    UAWとUSWは、地域と深い連帯関係にある。工場労働者だけでなく幅広い層へ支持者を増やしている。バイデン氏は、EVの製造・販売を事実上、義務付ける環境規制を先送りする検討に入った。急激なEVシフトに反発するミシガン本拠の全米自動車労組(UAW)に配慮した。USスチール合併反対で、全米鉄鋼労働組合(USW)の支持取付けだ。 

    (5)「バイデン氏は、「史上最も労組寄りの大統領」とアピールするが、ラストベルトの組合員の支持を固められていない。ラストベルトの労働者を研究するレイニー・ニューマン氏は、最近の現地の聞き取り調査で「多くのメンバーが前大統領にシンパシー(共感)を感じている」と指摘する。米ピーターソン国際経済研究所のゲイリー・ハフバウアー氏は、「バイデン氏は労組の強力な支持がなければ、激戦州を制する可能性はほとんどない」と予測する。CNNの調査によると20年選挙でも、ペンシルベニアは前大統領に投票した組合員がバイデン氏を僅差で上回った」 

    バイデン氏が、激戦州での支持を固めるには労組の組織票を固める以外に方法がない。こういう状況下で、日鉄とUSスチール合併反対論を言わざるを得ないのだろう。

    a0960_008532_m
       

    地方政府に大きなウミ

    「鎖国」で安全確保へ

    決定的な中所得国の罠

    生きているマルクス教

     

    中国の全人代(国会)は3月11日、7日間の全日程を終えた。24年の経済成長率目標は、「5%前後」を掲げたが、具体的な経済支援策を明示しなかった。一方、明確になったのは「国家安全」である。次のような内容である。「中国の国家安全保障のシステムと能力を近代化する」ための法案を制定し、国防教育に関する法律を改正することを決めた。中国は2月、国家機密保護法を改正し、制限される機密情報の範囲を日常行われる「業務上の秘密」にまで広げている。

     

    こうして、中国が国家安全対策を固めるのは、始まった経済危機の裏返しである。中国共産党は、「和平演変」という国内民主化運動による共産党崩壊を最も警戒している。旧ソ連や旧東欧の社会主義国が民主化したのは、西側諸国の働きかけの結果という誤った見方に立っている。いずれも国内経済が立ちゆかなくなり、共産党政権が自然崩壊したのが真相だ。中国は、不動産バブル崩壊による打撃が、極めて大きいことを自覚した結果、「国家安全」という隠れ蓑を用意したのであろう。「鎖国」へ逆戻りである。

     

    中国が、こうした時ならぬ「国家安全」重視政策に転換したのは、習近平国家主席による決定である。中国共産党政権が動揺することは、習氏にとって自身の政治生命に関わる重大事態である。習氏が自己の安全を担保するためには、「国家安全」という御旗を立てることが必要である。習氏は、巧みな形で自己保身のために国家政策を転換させた。

     

    地方政府に大きなウミ

    中国経済の最大の問題は、不動産バブル崩壊によって地方政府が莫大な債務を背負っていることだ。中央政府は、習氏が国家主席に就任以来、インフラ投資を核にして経済成長率を押し上げてきた。その実行部隊は、地方政府であった。中央政府は、高めの経済成長率目標を掲げると、地方政府にインフラ投資を割当て実施させてきたのだ。その財源は、地方政府に不動産バブルによる土地売却益を充当させた。極めて杜撰な資金調達であった。

     

    地方政府は、矢継ぎ早のインフラ投資増大計画に対応すべく、「融資平台」という資金調達と投資実行の組織を立上げた。これを足場に、「膨大な隠れ債務」を作りながらも、中央政府の要請に応えてインフラ投資と行ってきた。むろん、地方政府独自の計画でインフラ投資を行った。これらの資金も全て、融資平台の隠れ債務に求めてきたのだ。

     

    中国のインフラ投資に要した資金の多くは、究極的に地方政府の土地売却益に依存した。中国経済は、「土地本位制」(学術用語でない)という表現がピッタリするように、土地の値上がり益に依存して成長してきた。これは、極めて不自然な資金調達方法である。世界的に普及した「金本位制」(16~18世紀)が機能できたのは、金地金の生産が一定の増加であったことにある。金の供給制限が、金本位制を成功させた理由だ。

     

    この金本位制に比べて「土地本位制」は、地価の値上がりとともに供給自体が増える「バブル的」性格を持っている。中国の地方政府が、インフラ投資の財源に土地売却益を充当したことは、一種の「麻薬」効果でもある。中国は、この麻薬によって経済が急発展したことになる。麻薬は、今や効果を失い長期服用による副作用が表面化している。麻薬の治療には、麻薬を絶つことしかない。この苦しみは、「断末魔」と言われている。中国経済がこれから、この段階へ向うのは不可避であろう。

     

    中国の調査会社Windによると、地方政府が正規の発行したインフラ債残高は3月8日時点で約25兆3000億元にのぼるという。これは、地方政府の信用力のみを背景に発行する一般地方債(約16兆元)を大きく超え、国債(約30兆元)に迫る規模である。このインフラ債は、財政赤字に分類されない恩典がある。インフラ事業の利益が建前上、返済原資になっているからだ。

     

    だが、インフラ債にも暗い影が忍び寄っている。健全財政で知られる深セン市のインフラ債が、償還期7年のうち5年を過ぎれば繰上げ償還するという慣例を破ったからだ。深セン市ですら、インフラ投資の返済で齟齬を来しているシグナルが出てきたのだ。

     

    上記の通り、地方政府はインフラ債で約25兆3000億元(約511兆円)、一般地方債で約16兆元(323兆円)の債務を抱えている。実は、これだけでないのだ。米金融大手ゴールドマン・サックスの試算によると、中国の地方政府は融資平台による隠れ債務も含め、最大で94兆元(約1900兆円)の負債を抱えている。『フィナンシャル・タイム』(3月10日付)が報じた。

     

    中国は、国債発行残高が約30兆元である。だが、地方政府が最大94兆元の債務残高を抱えているとなれば、ざっと国債発行残高の3倍にもなる計算だ。習氏は、財政赤字拡大に神経を昂ぶらせている。地方政府に対して、想像以上の財政「大穴」を認識したこともその理由であろう。(つづく)

     

    この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

    このページのトップヘ