NATO軍(北大西洋条約機構)は四六時中、空からロシア周辺情報を収集している。この情報が即、ウクライナ軍に伝えられている。一方、米軍も独自情報をウクライナ軍へ提供している。ただ、提供された情報の選択については、ウクライナ軍の判断に任されている。そういう面で、米軍とウクライナ軍は画然と分業体制になっているという。
それにしても、ウクライナ軍はNATOと米軍との二本建による情報収集の機会を持っており、ロシア軍に比べて極めて優位な立場である。今後のウクライナ・ロシア両軍の戦術では、この情報量の差が大きく開いてくるものと見られる。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月9日付)は、「ウクライナと対ロ機密情報を共有、米の綱渡り」と題する記事を掲載した。
米国は大量の機密情報をウクライナと共有する上で際どい綱渡りをしている。ウクライナ軍がロシア軍を撃退できるよう支援しつつ、米国がロシアのウラジーミル・プーチン大統領と直接衝突するのを避ける取り組みだ。米国の現・元当局者らが明らかにした。
(1)「現・元当局者らによれば、米国の情報共有政策の要諦は、米国がロシア軍の部隊・戦車・艦船の動きに関するデータを提供し、ウクライナが自らの情報収集能力も活用して攻撃のタイミングを決める、というものだ。ウクライナ軍が米国から提供された情報を使って、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の位置を特定して攻撃したり、ロシア軍の将軍らを戦場で死亡させる攻撃を行ったりしたことが、過去1週間に明らかになった。これにより、米情報機関からウクライナ政府にデータが迅速に提供されていることが浮き彫りになった。こうした情報共有はほぼ前例がないと当局者らは指摘する。米国が、ウクライナに対し、攻撃すべきロシア側の目標や殺害すべき人物を指示していたのではないかとの見方を強く否定している」
米国の情報収集能力の高さから見て、超一級の情報が集められているのだろう。ウクライナ軍は、それを活用して攻撃目標を決めている。武器の面で劣勢であるが、それを補っているのだ。
(2)「戦争が3カ月目に入り、ウクライナは米国やその同盟諸国から提供された一層高度な兵器を手にしている。その中で米バイデン政権が、当局者らが「微妙なバランス」と認める状態を維持できるかどうかは分からない。元米当局者らは、プーチン氏が米国の情報共有政策の微妙な意味合いを理解する可能性は低いと指摘。地上と海上でロシア兵を殺害している攻撃にバイデン政権が直接関与していると、ロシア政府が判断するリスクがあるとの見方を示している」
米国とウクライナが、情報収集において二人三脚で進んでいることに対して、ロシアがどのように反応するか。これが、今後の課題という。
(3)「ロシアで活動していた元米中央情報局(CIA)の高官、ダン・ホフマン氏は、「われわれの見方からすると、われわれは彼らに戦術的な情報を与えている。ここに司令部があって、ここに艦艇がある、といったことだ。判断は彼ら自身で下している」と話した。しかし、ホフマン氏によれば、ロシアはそうしたやりとりを同じようには捉えていない。「重要なことはロシアがこれをどう見るかであり、彼らはこれを米国との代理戦争と捉えたがっている」
米国は、ウクライナに対して情報提供だけである。ウクライナは、その提供されたデータを活用して具体的な攻撃目標を決めている。
(4)「米国は4月、ウクライナに提供する情報を大幅に拡大し、ドンバス地方やクリミア半島などのロシア支配地域で展開するロシア軍をウクライナが標的にできるようにした。米当局者は安全保障上の懸念から、共有している情報の詳細を明らかにしていない。ただ、それには衛星写真が含まれることが知られているほか、傍受した通信の内容が含まれることもほぼ確実だ。米当局者によると、情報共有の制限はごくわずかしかない。米国は、ロシアの軍指導部や民間指導者を狙うのを手助けするような情報も共有していないという」
米国は、4月から大幅に情報提供の範囲を広げている。衛星写真・傍受した通信などである。ウクライナは、豊富になった情報を組み合わせれば、自ずと攻撃目標が決まるのであろう。
(5)「米国の情報共有に関する姿勢や、ウクライナへの武器供与に何十億ドルもの予算を割いていることは、バイデン政権が二大核保有国の衝突を引き起こすことなく、ロシア軍にウクライナ侵攻の高い代償を払わせる取り組みの一環だ。ロイド・オースティン国防長官は4月下旬にアントニー・ブリンケン国務長官とともにキーウを訪問した後、「ロシアがウクライナ侵攻でこれまでしてきたようなことをできなくなるまで弱体化することを望む」と述べた」
下線部が、米国のロシアに対する本音部分であろう。この一環として情報がウクライナへ提供されているものと見られる。
(6)「米国の現・元当局者はウクライナ独自の情報収集能力を過小評価すべきではないと指摘する。2014年のロシアによるクリミア半島併合やドンバス地方の不安定化を狙った作戦が行われたあと、米軍とCIAの支援を得て情報収集能力が向上したという。ウィリアム・バーンズCIA長官はこのほど、英フィナンシャル・タイムズ紙主催のイベントで、「ウクライナが持つ独自の強大な情報収集能力を過小評価するのは大きな誤りだ」と語った」
ウクライナ軍は2014年以降、NATOや米軍から軍事訓練を受けてきた。これによって、旧来のソ連式軍隊から脱皮している。その成果が、戦術面に現れていると見られる。
(7)「元CIA諜報(ちょうほう)員のダグラス・ロンドン氏によると、標的となり得る対象の追跡情報を米国がウクライナに提供しているのは明らかだが、ドローンからのライブ映像といった、米政府が過去にパートナーと共有していた情報が含まれているかどうかは分からない。ロンドン氏は、米国がウクライナ側にロシア軍の配置に関する情報を提供する際、何らかの行動を示唆することはないと指摘。「われわれは、こうしろとは指示してい
ない。彼らは主権国家であり、独自の課題がある」と語った」
ウクライナの愛国精神は、極めて高いものがある。過去の歴史で、従属させられてきた屈辱の経験を持つだけに、抵抗精神が強いのであろう。