勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    インドは、インド太平洋戦略「クアッド」で日米豪と共にその一角を形成している。中国の対外膨張主義へのストッパー役である。このインドが、ウクライナ危機では「クアッド」メンバー国と共同歩調を取らず、ロシアへ親近感を見せている。この奇異な光景に、誰でも疑問を持つが、この背景には「対ロ信頼、対米不信」の歴史があるのだ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月27日付)は、「ウクライナ危機中立のインド、対露信頼と対米不信」と題する記事を掲載した。

     

    次々とニューデリーを訪れた米当局者らは、ロシア政府を孤立させる取り組みにインドも加わるよう説得した。だが、傍観者の立場を変えるべきだと納得させるのは難しかった。インドは今回のウクライナ戦争で中立姿勢を維持しており、ロシアの行為に対する国連非難決議の投票で棄権に回り、対ロ制裁への参加も拒否している。インドのこうした姿勢はある意味、必要に迫られたものでもある。ロシアが、インドに対する最大の武器供給国だからだ。

     


    (1)「
    2020年に領土問題でもめる国境地帯で中国との衝突が起き、インド人20人、中国兵士4人が死亡した際には、インドの国防相が3カ月間で2回モスクワを訪問した。当時の状況を直接知る当局者によれば、この訪問の目的の一つは、武器弾薬を追加で確保し、国境地帯の防備を強化することだったという。これを受けてロシアは、ミサイル、戦車部品、その他の兵器をインドに追加供与した。イデラバードのカウティリヤ・公共政策大学の学部長で、元インド国連常駐代表のサイード・アクバルディン氏は「多くの人々は、インドが危機に瀕した際にロシアとの友好関係がインドの利益に貢献したと信じている」と語った」

     

    インドは、国境問題で中国と長年にわたり対立し衝突を重ねている。国境を守るには武器が不可欠であり、ロシアがその武器供給で重要な役割を果たしてきた。ロシアへの「恩義」があるのだ。

     


    (2)「インドは何十億ドルもの資金を費やしてロシアから武器を購入しており、ロシアは何十年にもわたってインドにとって最大の武器の供給元となっている。インドは供給元を多様化する取り組みを行っているものの、2016年~2020年に輸入された武器の50%近くは、依然としてロシアから来たものだ」

     

    インドは、ロシアの武器輸出国構成比(2010~21年)で33.8%と1位である。2位の中国(13.5%)を大きく引離している。ロシアにとっても、インドは最大の顧客になっている。インドとロシアは、持ちつ持たれつの関係だ。

     


    (3)「米当局者は、(ウクライナ)開戦以降続いているインドとの協議で前進していると指摘し、モディ氏が最近、ウクライナのブチャでの市民の殺害を非難する発言をしたことを例に挙げた。それでもなお、一部の米当局者は時々、インドがロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対する一段と強い非難を渋っていることに対して不満を示している。インド当局者は、米国がウクライナについてインドに説教をするようなことになれば、インドの米国に対する懐疑的な見方は一段と強まると述べている」

     

    米国は、インドもロシアを非難してくれるものと期待していたが、武器の購入関係を見ると、深いつながりがある。武器=安全保障である以上、性急に「反ロシア」になるのは無理であろう。実は、ロシアの武器輸出国は45ヶ国に上がっている。これら国々は、表だってロシア批判できない事情にある。その代表がインドだ。中国もこの範疇に入る。

     

    (4)「カーネギー国際平和基金に所属するアジア地政学の専門家、アシュリー・J・テリス氏は、「インドの人々は常に、ロシアの人々から尊敬され、支えられてきたように感じてきた。その一方で、われわれ(米国人)は威圧的な態度を取りがちだ」と述べる。現旧のインド当局者の多くは今も、米国がインドを不当に扱ったと感じられた歴史上の瞬間を容易に列挙できる。1960年代には、ガンジー首相によるベトナム戦争への米国批判に対して食糧支援で報復したこと。1971年には、インド・パキスタン戦争で、米国がパキスタンを支援したこと。1998年には、米国が核実験の実施を理由にインドに制裁を科したことだ」

     

    下線部分は重要である。国際関係は、尊敬されているという実感が友好の裏付けになる。ロシアは、インドが武器輸出で最大の顧客である。丁重に扱って当然であろう。

     


    (5)「バイデン政権当局者はインドの当局者に対し、インドと中国の国境周辺での紛争に関し、米国の方が兵器供給国として信頼性が高いことを納得させようと努めてきている。ウクライナでの戦争は、ロシアの軍事装備が信頼できないことを示しているほか、ウクライナの戦場で装備を消耗し、自国の軍事備蓄を補充しなければならないためロシアは間もなく供給不足に陥る可能性がある、と米当局者らは指摘する。同当局者らはまた、西側の制裁によりロシアは先端兵器システム向けの部品を確保できなくなるだろうと述べた」

     

    ロシアは、遅くも来年には経済制裁で軍需品の生産がストップする筈だ。武器弾薬は、演習による消耗で部品など補給しなければならない。ロシアは、その部品供給が不可能になる時期が近い。ロシアから武器を購入している国は、大変な事態が発生するであろう。

     


    (6)「ボリス・ジョンソン英首相は4月22日にインドを訪問した際、インドへの武器輸出の促進、インドが自国の防衛装備品を製造するのを支援するための専門技術の共有化を図ることを約束した。あるインド当局者によると、同国政府はハードウエアおよび武器の供給拡大に関する米国の提案を検討しているものの、高額なコスト、技術移転に米企業が消極的なことから協議は進んでいない。米国務省当局者によれば、協議にはインドが購入できるようにする目的で米国の余剰防衛装備品を活用することや、各種融資案などが含まれている」

     

    米英は、インドに対して軍需品問題で具体的な提案をしている。インドも、ウクライナ戦争におけるロシア軍の作戦ぶりを見て、ロシア製武器への疑念が湧くであろう。

     


    (7)「ブリンケン米国務長官は、「インドはロシアの関係を何十年にもわたって発展させてきた。この間、米国はインドにとってのパートナーとなることができなかった」と述べた。その上で同氏は、「時代は変わった。われわれは現在、インドの選択するパートナーとなり得るし、またそうなりたいと思っている」と語った」

     

    米国は、インドから選択されるようなパートナーになる、としている。インドは、クアッド・メンバー国である以上、誠実に対応する必要がある。

     

     

     

    テイカカズラ
       

    「歴史決議」という後ろ盾

    硬直性を増す政治経済体質

    中ロは武器の「弱者連合」

    高いコロナと規制のリスク

     

    中国では、習近平中国国家主席を巡る評価が揺れている。これまで、コロナのパンデミックの影響をいち早く脱したこと。対米外交では、ロシアと「共闘」して成果を上げてきたことなどが、中国人の「中華復興の夢」を満足させてきた。ところが、事態は急変した。

     

    今年に入ってからは、前記の二点がことごとく裏返しになった。上海のロックダウン(都市封鎖)によって、「ゼロコロナ」が時代遅れの象徴になった。対米外交でロシアと共闘してきたことは、ロシアのウクライナ侵攻によって大きな外交的な負担に変わった。ロシアが世界の孤児になりそうな事態の中で、中国へも厳しい目が向けられているのだ。

     

    「歴史決議」という後ろ盾

    習氏は、ゼロコロナやロシア蜜月関係が、習氏の「イデオロギー」になっている以上、簡単に変えられないという問題を抱えている。習氏は、中国共産党結党以来三度目の「歴史決議」を成立させている。換言すれは、「神格化」された存在になってしまったのだ。習氏の判断が最も正しいという位置づけである。習氏が存命中は、習路線を歩まざるを得ないという大きな矛楯を背負うことになった。

     

    一人の思想が、一国の発展方向を決める。民主主義社会では、あり得ない事態である。そのあり得ないことが、人口14億人の中国社会で起こっている点に、中国の悲劇性を強く感じざるを得ない。中国に見られる制度や政策の硬直性は、すでに中国の株価や人民元相場の急落に現れている。

     

    具体的に言えば、市場の不安が高まっているのだ。4月25日、人民元相場が対ドルで6.55元と約1年ぶりの安値を付けた。また、上海総合株価指数が急落して、心理的節目とされる3000を下回った。上海株の終値は、約1年10カ月ぶりの安値水準である。この背景には、コロナが上海市から北京市へ拡大したのでないかという懸念が生んだ結果である。上海市が、すでに1ヶ月ロックダウンしても、防疫成果の上がらないことへの不安が増幅されたものである。

     


    上海市は、中国の誇る最大の経済都市である。この上海を軸とした長江デルタ地帯は、中国GDPの2割をも占めている経済圏だ。上海港からの輸出業務もストップしており、上海を巡るロックダウンは、中国経済を左右するほどの影響力を持っている。この経済圏が活動麻痺に陥っている以上、株価も元相場も急落して当然である。

     

    人民元相場の急落に対し当局は、金融機関の外貨預金準備率を1ポイント引き下げ8%にすると発表した。引き下げ実施は5月15日である。準備率の引き下げにより、ドルなど外貨の供給が増え、元安が和らぐと見込んだものである。

     

    株式市場については、3月中旬に高値から75%も下落していた。機関投資家は、それでも中国株を完全に見限っていた。その理由は、次の3点にある。

    1)中国とロシアとの緊密な関係(地政学的リスク)

    2)新型コロナウイルス感染拡大抑制のための極端な「ゼロコロナ」措置(ゼロコロナ・リスク)

    3)規制当局の締め付けがいつまで続くか不透明(規制リスク)

     


    すでに、中国とロシアの親密な関係とゼロコロナ政策の失敗は、習近平氏の功績とされてきたことが逆転していることで明らかである。習氏がますます規制を強めることのマイナス面は、「共同富裕論」をきっかけにして急浮上した。こうした3つのリスクが、中国の経済に重くのしかかっている。これが、中国の将来を一段と暗くさせる要因である。中国は、次に述べる三回目の「歴史決議」を出すことによって柔軟性を失い、激動する世界情勢を上手く乗りきれず、衰退過程へ飛び込むことは疑いない。

     

    硬直性を増す政治経済体質

    共産党は2021年11月に開いた重要会議「6中全会」で、党の歴史上3度目となる「歴史決議」を採択した。歴史決議とは、党の政治体制や基本政策を方向付ける重要な決定である。これを主導した習氏は、党内での権威を大幅に高めることになった。この段階では、コロナのさらなる感染拡大や、ロシアのウクライナ侵攻を予想もしていなかった。

     

    3度目の歴史決議では、鄧小平が主導した第2の歴史決議(第1の歴史決議は毛沢東主導)の核心部分を骨抜きにした。つまり、個人崇拝の禁止、集団指導の堅持、終身制の禁止の3点が引き継がれなかったのだ。鄧小平の外交路線である「韜光養晦(とうこうようかい)」(才能を隠して内に力を蓄える)路線から、強国路線への転換を鮮明にした。党内では「習氏が毛沢東のように独裁的な終身制に道を開くのではないか」との噂を広げるきっかけになった。

     

    習近平氏は、こうした「歴史決議」を背景にして、絶対的な権力を振るえるお墨付きを得たのである。習氏の考え一つで、中国全体を動かせるという、極めて危険な政治体制を構築したことになる。この硬直した政治体制が早速、ロシアのウクライナ侵攻と上海のコロナ感染拡大で試された。(つづく) 

     

     

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    習近平氏は、すべて自分の出世のために中国を利用しようとしている。「オミクロン株」という感染力の強いコロナの伝播を防ぐため、かつてない厳しいロックダウンを実施している。それにも関わらず、当局へは、「今年のGDP成長率で米国を抜け」と厳命を下した。

     

    こうなると、得意の「データ改ざん」する以外に道はなさそう。今年1~3月期のGDP成長率4.8%も改ざんの跡が見えるという指摘も出ているのだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月27日付)は、「習氏、経済成長率で米国超え指示 ゼロコロナ政策も」と題する記事を掲載した。

     

    中国では新型コロナウイルスの感染拡大が経済を圧迫しているものの、習近平国家主席は2022年の国内総生産(GDP)成長率で米国を上回ることを目指しており、当局者らにハッパを掛けている。複数の関係者が明らかにした。

     

    (1)「習氏はここ数週間の会合で経済・金融担当の高官らに対し、経済の安定と成長を確保することの重要性を指摘した。背景にあるのは、中国共産党による一党支配体制は欧米の自由民主主義に代わる優れた選択肢であり、米国は政治的にも経済的にも衰退していることを示すことができる、との考え方だ。関係者によると、中国の政府機関は成長拡大を目指す習氏の号令に呼応し、大規模な建設事業を加速させる計画を検討している。製造業やテクノロジー、エネルギー、食品が重点分野とみなされている。個人消費の刺激に向けたクーポンの発行なども議題に上っているという」

     


    下線部分が、習氏の認識であると言う。こういう間違った認識で、「中華再興論」を囃し立てているのだ。本人が、真面目にそう考えているとしたら、相当の「重症」であろう。留学経験のない「井の中の蛙」である。毛沢東も留学経験がなかったから荒唐無稽な計画を立てた。鄧小平や周恩来はフランスへ遊学している。外国の空気を吸っている。この差が、鄧小平の現実的な政策展開になったのであろう。

     

    (2)「米国の2021年10~12月期GDPは前年同期比5.5%増え、中国の4.0%増を上回った。ジョー・バイデン米大統領は、米経済が中国経済を成長率で上回ったのは20年ぶりと述べ、自身の功績との認識を示した。中国の政府高官らはこれにいら立った。中国人民銀行(中銀)金融政策委員会の王一鳴委員は、コロナの影響を緩和するために中国は「より強力な」マクロ政策を導入する必要があると語る。王氏は今週北京で開かれた経済フォーラムで、中国は今年の目標とする5.5%の成長率達成に向け、4~6月期の成長率を5%超に回復させることが重要との認識を示した。中国の1~3月期GDP成長率は4.8%となったものの、多くのエコノミストはこの数字は中国経済の強さを誇張している可能性が高いと指摘する」

     

    下線部で、指摘されたように1~3月期のGDP成長率は、「誇張」=「改ざん」していると見破られている。中国社会の脆弱性とその限界が浮き彫りになっている。習氏は、ウソのデータでもつくって、自らの国家主席3期目に「花を添えたい」のだ。

     


    (3)「中国経済の成長ペースが減速している兆候があるにもかかわらず、当局者らは今年の成長率目標は5.5%との認識を繰り返している。景気刺激策の強化を目指す習氏の掛け声は、成長拡大と目標達成に向けて当局者らが直面する試練を浮き彫りにしている。習氏が発する指示は、たとえ詳細が曖昧であっても非常に大きな重みを持つ。コロナ感染者ゼロを目指す「ゼロコロナ政策」を中国が維持する限り、成長率目標の達成に懐疑的なエコノミストは多い。中国経済は既に不動産市場の低迷や輸出需要の後退が足かせになっており、コロナ禍で個人消費や工業生産への打撃が深まっている」

     

    不動産バブルの後遺症とゼロコロナの経済萎縮によって、中国経済は大きく傷ついている。それでも、4~6月期は5%成長へ「改ざん」させる積もりのようだ。現実は、決してそのような「ウソ」を認めるような状況でない。

     


    『ロイター』(4月27日付)は、「
    中国の消費、コロナ流行の沿岸地域で低迷鮮明に」と題する記事を掲載した。

     

    中国の各地方の統計部門がこれまでに公表したデータによると、第1・四半期の小売売上高は新型コロナウイルス流行で打撃を受けた主要沿岸地域が特に低迷したことが分かった。第2・四半期には消費がさらに低迷する可能性も指摘されている。

     

    (4)「経済規模の大きい南部の広東省と上海に近い江蘇省の小売売上高伸び率はそれぞれ前年同期比1.7%と0.5%となり、中国全体の伸び3.3%を下回った。中国で最も人口の多い市である上海では、コロナの流行が深刻化し、小売売上高が3.8%減少。第1・四半期にオミクロン変異株の流行に見舞われた北京近くの主要港湾都市・天津は3.9%減となった」

     

     

    中国沿海部の小売売上高の伸び率は、1~3月期は軒並み全国平均の3.3%を下回った。平常な時期であれば、8%前後の伸びが維持できたにもかかわらず、惨憺たる状況である。4~6月期については、次のパラグラフで指摘されているように、コロナ規制の強化でさらに悪化見通しである。

     

    (5)「キャピタル・エコノミクスは26日付のノートで「家計支出の増加ペースは第1・四半期に軟化し、第2・四半期初めにはコロナ規制が強化されたためさらに弱まったと思われる」とする一方、「新たな感染拡大が抑制される限り、妥当な回復が依然として見込まれる」とも指摘している。半面、南部の江西省は3月中旬までコロナ感染者がほとんど確認されず、小売売上高は第1・四半期に8.9%の伸びを記録。これまでにデータを報告した省レベルの地域の中で1~3月のGDP(域内総生産)成長率がトップとなった」

     

    南部の江西省では、コロナ感染者が出なかったので、小売売上高は1~3月期に8.9%と標準的な増加率を示している。ゼロコロナをやらなければ、それなり増加率を期待できたであろう。習氏の国家主席3期目を確実にすべく、ロックダウンを押し付けられている。

     

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    ロシアは、世界の武器輸出で米国に次ぎ2位である。だが、部品からの一貫生産ではない。多くの部品を西側諸国からの輸入に頼ってきた。その肝心の西側諸国からの経済制裁で、軍需部品生産に影響が出るのだ。国内使用の武器生産だけでなく、武器輸出も困難になれば、これまでロシアを支持してきた中国、インドを初めとする多くの新興国が、輸入先を変更しなければならなくなろう。

     

    ウクライナ戦争がもたらしたロシアの兵器生産における変化は、目に見えないところで国際情勢を激変させる要因になろうとしている。「風が吹けば桶屋が儲ける」で、予想外の展開になろう。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月26日付)は、「ロシアの兵器生産に暗雲 補充・輸出に影響も」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアは今回のウクライナ侵攻で大量の兵器を導入し、かなりの部分を失った。これに西側の厳しい経済制裁も重なり、新規兵器システムから既存武器の予備部品に至るまであらゆるものを生産する能力が損なわれ、向こう数年にロシアの軍事力と兵器輸出は深刻な打撃を受けるとみられている。

     

    (1)「短期決戦との当初想定に反して、ウクライナ侵攻は9週目に突入しており、ロシアはこれまで最新鋭の装備も含め、兵器の大部分を展開している。ロシアは近年、戦車を年間およそ250台、軍用機150機を生産していた。米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)のシニアアドバイザー、マーク・カンチアン氏が分析した。これに基づくと、ウクライナ軍はここ2カ月に、少なくとも2年分の生産台数に相当するロシア戦車を破壊したことになる」

     

    ロシアは、ウクライナ侵攻2ヶ月間で被った戦車の損失が、2年分の生産台数に当る500台に達している。

     

    (2)「米国は、ロシアが当初ウクライナ侵攻に振り向けた兵力の4分の1を失ったとみている。米国防総省のある高官は先週、詳細を明かすことなく、こうした見方を明らかにした。ただ、ウクライナに侵攻するロシア軍は、膨大な在庫から再補給を受けるため、兵器の損失が目先の戦況に影響を与える可能性は低い。ロシアは数万台の軍用陸上車を保有しているとされる。だが、大半は保全や修復が必要で、多くは実戦配備されることなく、単に予備部品として使用されている可能性があるとロシア軍の専門家はみている」

     

    ロシア軍は、厖大な武器の在庫を抱えている。多くは実戦配備されることなく、部品供給用に補完されていると見られる。

     

    (3)「仮に戦争が何カ月も長引けば、ロシア軍が保有する装備の消費・破壊に加え、西側の金融制裁や輸出規制によって、より高性能な装備を兵士らに提供することは一段と難しくなるとの指摘が出ている。ロシアの防衛請負業者についても、政府と輸出先の双方の需要を十分に満たせない、あるいは最新兵器の研究・開発(R&D)への投資が不足することがあり得る。西側の当局者やアナリストはこう話している」

     

    問題は、経済制裁で国内の武器製造が困難になるだけでなく、武器輸出が抑制されることである。今回のウクライナ侵攻で、多くの新興国が「ロシア非難」の声を出さなかったのは、ロシアからの武器輸入が理由である。ロシアが、事前にその旨を警告していたのだ。だが、肝心の武器輸入が困難になって「脱ロシア」となれば、状況は大きく変わる。

     

    (4)「ロシアは、旧ソ連時代から生産システムを全面的に現代化しておらず、今では制裁対象となった外国製の設備や工作機械、電子製品やベアリングといった精密部品になお大きく頼っているためだ。またロシアの軍産セクターは旧ソ連時代からかなり規模が縮小しており、第2次世界大戦のような生産急増への対応はかなりハードルが高い。ウェンディー・シャーマン米国務副長官は21日、ブリュッセルで「われわれの制裁がロシアの軍産複合体を後退させており、早期に戻る見込みはない」との見方を示した

     

    ロシアの軍需産業は、西側諸国からの輸入部品に依存してきた。それが、経済制裁を受ければ状況が一変する。下線部分のような事態を招くのである。

     

    (5)「業界が生産に関して真の正念場を迎えるのは数カ月後か来年になるだろう」。スウェーデン国防研究所の上級軍事アナリスト、トマス・マルムロフ氏はこう指摘する。ちょうど制裁対象である部品の在庫が尽き、大半の軍装備に搭載されている外国製半導体が不足してくる時期に当たるという。兵器製造の問題が輸出に打撃を与えれば、すでに異例の制裁で痛みが広がっているロシア経済がさらに弱体化しかねない。ロシアは武器輸出で米国に次ぐ世界第2位だ。ロシア経済を支配する天然資源を除けば、輸出品の上位に入る。ロシアは世界45カ国余りに武器を輸出しており、2016年以降、世界の武器売却の約2割を占めている」

     

    下線部の指摘は重要である。ロシア軍需産業は、部品不足で生産が音を上げるのは、1年以内である。ウクライナ戦争は、武器弾薬の供給面から見て越年は困難のようだ。

     


    (6)「武器在庫の取り崩し以外にも、戦場における兵器の実績が輸出を下押しする恐れもある。ランド研究所の上級防衛アナリスト、スコット・ボストン氏は、西側が提供したドローン(小型無人機)や重火器、携行式ミサイルを駆使して、ウクライナ軍がロシアの軍装備を大規模に破壊したことで、ロシア製兵器の評価を落とすことになったと話す。「戦場のあらゆる場所でロシアの兵器が爆破される様子が伝われば、この軍装備は大したことはないかもしれないとの見方が出てくる」

     

    ウクライナ戦争で伝えられるロシア製戦車の無惨な映像は、ロシア製武器への信頼を損ねる危険性がある。

     


    (7)「予備部品を巡っては、ロシア軍にまた別の問題をもたらす可能性がある。戦闘を伴わない軍事作戦であっても、装備品の消耗は激しいためだ。旧ソ連の産業は、軍靴から戦闘機まで完成品の生産目標を達成することを優先し、製品に対するサービスは後回しにしてきた。ロシア工場の勤務者によると、ソ連崩壊後のロシア防衛産業も、若干の改善にとどまるという。部品の補給が難しいとなれば、インドやベトナム、エジプトといった主要顧客への武器輸出にも影響を与えかねない。「ロシア製兵器の大口顧客の間で部品確保への不安が広がれば、自国での兵器開発にかじを切るか(中略)調達先を乗り換えるかもしれない」とパラチニ氏は話した。

     

    武器弾薬は、日常の演習でも消耗は激しいもの。その部品の補給が滞れば、満足な演習も不可能になる。それは、輸出用の武器についても同じことだ。中国、インド、ベトナム、エジプトなどの主要輸入国も、新たな悩みに直面する。

     

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    「いつまでもあると思うな親と金」は、親が子どもを戒める言葉である。これがそっくり,中国へ当てはまる局面になった。「いつまでも続くと思うな人口世界一論」が、中国の苦悩を浮き彫りにしている。

     

    中国は今年、人口減社会へ突入する。21年の中国の出生数は1062万人。一方、死亡者は1014万人と接近。昨年の「自然増」は48万人にすぎず、今年から「自然減」は不可避であるからだ。こうした人口動態の悪化が、早くも中国の長期金利低下に現れていると読めるのである。

     


    『日本経済新聞 電子版』(4月24日付)は、「中国、金利低下が映す『人口の崖』 バブル処理困難に」と題する記事を掲載した。

     

    中国の長期金利が低下している。指標となる10年物国債の利回りは同米国債利回りを約12年ぶりに下回った。習近平(シー・ジンピン)指導部が堅持する「ゼロコロナ」政策で経済の下振れリスクが高まっているためだ。見逃せないのは中国の金利低下の根底に人口減少と過剰債務という2つの長期的な構造問題が横たわっていることだ。経済停滞から抜け出せない「日本化」に陥りかねない。

     

    (1)「UBSグローバルウェルスマネジメントの胡一帆氏は、「4月の経済指標には大きな下押し圧力が掛かっている」と警鐘を鳴らす。新型コロナウイルスの感染拡大で、中国最大の経済都市、上海市が1カ月近く都市封鎖(ロックダウン)され、中国経済は短期的に下振れリスクが浮上している。野村の陸挺氏は「4~6月の国内総生産(GDP)が前年同期比で減少に転じるリスクが高まっている」と見る」

     


    中国は、上海市のコロナによるロックダウン(都市封鎖)によって、経済活動がストップしている。それだけでない。長江デルタ地帯の経済の要であるので、「上海経済圏」は中国GDPの2割を占める。この巨大経済圏が、麻痺状態に陥っているのだ。4~6月のGDPは、マイナスの危険性が高まっている。

     

    (2)「中国人民銀行(中央銀行)は25日から預金準備率を引き下げる。金融緩和色の強まりで、中国の長期金利は22日時点で2.878%と、新型コロナの大流行で湖北省武漢市が都市封鎖された2020年春の水準(2.%前後)にじわじわ近づいている。一方、新型コロナウイルスとの共生を志向する「ウィズコロナ」政策にかじを切った米国などの先進国は利上げの手を緩めない。中国の長期金利は4月中旬以来、米国の長期金利を下回る場面が増えている」

     

    中国の長期金利が、ロックダウンを反映して2.878%と低下し、米国の長期金利を下回る局面が増えてきた。これは、米中経済の潜在成長率を反映しており、中国経済は米国経済を抜けないことを暗示している。長期金利は、設備投資需要を映す。中国経済の「短命」を予告しているのだ。

     


    (3)「米国を下回る中国の金利水準は、長期的には人口減少社会の到来と過剰債務という不都合な未来を映す鏡でもある。中国の21年の出生数は1949年の建国以来最も少なかった。2021年から解禁した3人目の出産政策の効果は乏しい。「一人っ子でも経済負担は大きい」(湖北省武漢市の女性)。一人っ子同士の夫婦が双方の両親4人と子ども1人、計5人の面倒を見なければならないケースが大半だからだ」

     

    中国の出生率低下は構造的要因である。女性の高学歴化によって、職業キャリアを出産よりも優先させる傾向が強まっている。中国は、女性社員が出産で休暇を取ることを奨励しない雰囲気が強く、結婚しても出産しない。あるいは「一人っ子で十分」というムードを高めている。こうして、二人、三人という子どもは望めなくなっている。

     


    (4)「中国では今後、人口減少が確実視されている
    。国連の最も出生率が低い低位推計では人口の減少は25年から始まる。今秋の共産党大会での続投を前提にすると、習氏の次の5年の任期(22~27年)中に減少に転じ、2100年には約6億8000万人と半減する。米国は2100年まで一貫して人口増加が続く。低位推計でも、人口減が始まるのは48年からとなる」

     

    私が、冒頭に掲げたように今年から中国は「人口減」社会に突入している。国連による出生率の低位推計さへ下回る出生率に低下したのだ。このパラグラフは、大幅に修正する必要がある。米中の人口動態比較からみても、米中経済の逆転は起こりようがない。従来の逆転論者は、目を覚ますべきだろう。



    (5)「人口が減少すると潜在成長率を押し下げ、デフレ圧力を通じて実質的な債務返済の増大をもたらす。国際決済銀行(BIS)によると、中国の民間企業債務(除く金融部門)はGDP比で161%(20年)。米国(85%)の2倍近い。約2兆元の負債を抱え、部分的な債務不履行(デフォルト)に陥った中国恒大集団がその象徴的存在と言える」

     

    中国の人口減少は、潜在成長率を押し下げるので、デフレ圧力を通じて実質的な債務返済の増大をもたらすはずだ。これまで、中国経済についてバラ色論をまき散らしてきた国際機関は、中国の現状を深く認識して撤回すべきであろう。中国企業は,潜在成長率低下の中で過剰債務の返済に苦しむのだ。

     


    (6)「苦しむのは企業だけではない。人民銀の調査によると、中国の都市部の持ち家比率は9割を超す。一人っ子同士の夫婦の間に生まれた子どもは少なくとも3戸の住宅を相続する可能性が高い。建築ラッシュが続いた住宅の価格が下落に転じれば、投資目的で複数の住宅を保有する富裕層や不動産会社が売り急ぎ、負の循環を引き起こしかねない。中国に先行して人口減が続く日本はバブル崩壊後に長期停滞に陥った」

     

    一人っ子が将来、少なくの3戸の住宅を相続する形になる。2戸は不要になるので売却対象だ。住宅市況は、大幅下落に見舞われるであろう。それは、新築住宅の販売不振へと跳ね返り、中国GDPを押し下げるに違いない。人口減社会は、こういうこれまで想像もできなかった現象をもたらす。中国経済の「終り」が、始まるのだ。 


     

     

     

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