勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

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    韓国大統領府は、19日発表された南北首脳による「平壌共同宣言」が、実質的な終戦宣言であると発表した。これにつて、米メディアは、核問題について何らの進展もしていないと厳しい見解だ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月20日付)は、「平壌共同宣言の落とし穴」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「今年3回目の(南北)首脳会談後、19日に発表された共同宣言は、友好ムードにもかかわらず、核廃棄の目標に関しては大きな前進をもたらさなかった。金委員長は、確かにミサイル試験施設の廃棄を約束したが、これは6月にシンガポールで行われたドナルド・トランプ米大統領との会談で話したのと同じ内容だ。ただし今回は、世界各国の専門家による監視を容認するとしている。同じものを別物のように売り込むのは、北朝鮮が得意とするやり方だ。そして、もともと象徴的だった譲歩に若干の要素を追加した、今回の首脳会談で得られた唯一の具体的成果を飛躍的な前進とたたえるのは残念なことだ」

     

    金氏の発言は、過去に約束して実行しなかったことを、別物のようにして約束するという巧妙さがある。

     

    (2)「南北問題を注視する一部の人々は、金委員長が核弾頭の中身を生産するための原子炉と遠心分離機を備えた寧辺(ニョンビョン)の核施設を廃棄する可能性にも言及したことに期待感を示した。しかし北朝鮮は、同じことをブッシュ(子)政権の時代にも約束し、それをほごにしている。しかも、今回は落とし穴がある。米国が最初に、何らかの利益を与えなくてはならない点だ」

     

    金氏の約束する原子炉と核施設の廃棄は、同じことをブッシュ(子)政権の時代にも約束し、それをほごにしている。しかも今回は、米国に対して何らかの利益提供を迫っていることだ。要するに、同じ物を二回売りつけ、米国から対価を得ようとしている。

     

    (3)「具体的にどんな利益かは言及されなかった。北朝鮮の要求には、朝鮮戦争の終結を正式に宣言することのほか、国連の制裁措置および米国による一方的な制裁措置の緩和が含まれる公算が大きい。北朝鮮は6月以降、これと同じ非現実的な要求をしている。米国との交渉が停滞している理由はここにある。最も重要なことは、金委員長が北朝鮮の核施設に関する申告と、その廃棄スケジュールを米国に提供すると約束しなかった点だ」

     

    北朝鮮が要求する対価(見返り)は、戦争終結宣言と制裁緩和である。だが、北朝鮮の核施設に関する申告と、その廃棄スケジュールを米国に提供すると約束しなかった。北が米国に対して、「ギブ・アンド・テーク」でなく、「テーク・アンド・テーク」という構図である。

     

    (4)「核施設の申告は、最初の重要なステップになる。同国の研究施設、爆弾格納庫、ミサイル発射台や弾頭設計施設の場所が分からなければ、国際社会は非核化のプロセスを監視できないからだ。これは6月の米朝首脳会談後にマイク・ポンペオ国務長官が最初に要求したことだった。だが、北朝鮮は何も提供していない」

     

    最初の重要なステップは、核施設の申告である。これに関して、北朝鮮はなんらの情報を提供していない。

     

    (5)「このようなすべての事柄から判断すると、古い約束を繰り返すだけの金委員長の態度にトランプ大統領があれほど熱烈に対応したのは奇妙だ。トランプ氏は19日、「金正恩氏は、最終交渉を条件に、核査察の容認に同意した。また国際専門家の立ち会いの下に実験場と発射台を恒久的に廃棄することに同意した」とツイート。そして「この間、ミサイルないし核の実験はないだろう。(朝鮮戦争当時の)英雄の遺骨は米国の故郷に戻り続けるだろう。また北朝鮮と韓国は2032年五輪を主催する申請を共同で出すだろう。非常にわくわくする!」と書いた。

     

    金氏は、古い約束を繰り返すだけで、新味はなにもない。それにも関わらず、トランプ大統領が、あれほど熱烈に対応したのは疑問である。北朝鮮のやり口が上手いのだろう。米国が、北の策略に乗せられるのか。これからが勝負時となる。

     


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    中国政府は、消費の喚起の一助として、輸入関税引き下げを検討している。効果は出るか。内需不振の理由は、二つほど指摘できる。貿易戦争と住宅バブルである。

     

    中国の輸出産業のメッカ広東省は、貿易戦争で輸出受注に影響が出ている。すでに景況感を冷やしているほど。住宅価格高騰も内需に水をかけている。住宅ローン返済が、可処分所得に食い込んでいるからだ。中国経済の抱える矛楯が一挙に表面化している。こういう状態を突破する手段として、輸入関税を引下げてもさしたる効果は上げられまい。

     

    『ブルームバーグ』(9月20日付)は、「中国、広範な輸入関税引き下げ計画、10月にも-関係者」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国は大半の貿易相手国からの輸入品に課している平均関税率を来月にも引き下げることを計画している。事情に詳しい2人の関係者が非公開情報だとして匿名を条件に述べた。李克強首相は先に関税をさらに引き下げると表明。中国は7月にも消費者向け製品の関税を幅広く引き下げており、減速しつつある国内経済を支えるため再び関税引き下げを通じて国内消費の喚起を図る。中国が最恵国待遇の国に課している平均関税率は9.8%」

     

    李首相が、すでに関税率引き下げ発言をしているので、後は実施時期の発表だけだ。10月実施と見られている。平均関税率は9.8%をどこまで下げるのか。

     

    中国はこれまで関税率引き下げに慎重であった。国内産業保護が目的である。その慎重な関税率を相次いで引下げざるを得ないほど、内需が停滞基調に転じているのだ。すでに、乗用車販売は6月以降、前年比マイナスになっている。不動産バブルで高騰した住宅価格が、家計を圧迫している証拠であろう。

     

    中国政府は、これまで意図的に不動産バブルをつくり出し、景気の下支え役にしてきた。それも息切れ。ついに、経済失速の原因になっている。極めて象徴的な出来事だ。改革開放政策から40年、従来の経済政策が賞味期限切れした証拠である。この段階で遭遇した貿易戦争である。甚大な影響を受けて当然だ。

     


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    習近平氏は今、頭を抱え始めたようだ。世界で、米国に対抗できるのは中国だけ。そう進言する側近の声に動かされて始めた貿易戦争だが、覇権国家・米国が持つ総合力を前にして、振り上げた拳のやり場に困っている。

     

    中国は、米国ドルが世界の基軸通貨であることを忘れていた。世界の金融取引の最終決済は、FRB(米連邦準備制度理事会)の手元で行なわれている。私は、このことを何回か書いて、中国は有頂天になっていると、最後は金融で攻められると指摘してきた。中国が、ようやくこのことに気付いて、戦々恐々とし始めたという。

     

    中国は、GDPで世界に2位になってまだ8年。不動産バブルで、意図的に築いたGDPである。中身は脆弱そのもの。米国を相手に貿易戦争するには早すぎたのだ。

     

    『ブルームバーグ』(9月20日付)は、「中国に対米手詰まり感、貿易戦争が封じ込め策に発展、指導部恐々」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「トランプ米大統領による中国製品に対する第3弾の関税措置の発表を機に米中間の緊張が一段と高まる中、中国に手詰まり感が強まっている。強硬姿勢を示せば、米国は貿易分野だけでなく、さまざまな分野で中国の勢力を封じ込めるための長期的な争いにひた走りかねないとの懸念があるためだ。中国の威信を損なわずに経済の一段の悪化を避けたい考えだが、打つ手はほとんどないのが現状だ」

     

    習近平氏の間違った歴史観が招いた外交的失敗である。「米国衰退・中国発展」などあり得ない絵空事だ。側近が吹き込んだ国粋主義に騙されたのだ。優れたマルキストは、優れた資本主義経済分析者でもあるはず。その点で、中国指導部のマルキストは、全員が失格である。戦前日本の青年将校が、東条英機を煽った感覚で、習氏側近が唆したのだろう。

     

    (2)「中国政府当局者によると、政府内ではトランプ政権がすべての中国製品に関税を課す事態に備えており、中国に圧力をかけるため米国が軍事、ハイテク、金融面の優位性を活用し始めるとみている。匿名を条件に語った関係者は、『すべての中国製品に関税を導入した後、トランプ大統領に何ができるだろうか。その後に来るのは体系的な封じ込めと抑圧だろう』と述べた。アリババ会長の馬雲氏は、米中貿易戦争の影響は大半の人々が考えるよりも長く続き、影響は大きくなるだろうと語った。香港・嶺南大学アジア太平洋研究センター長の張泊匯氏は、『中国エリート層の間では、トランプ氏の貿易戦争は単に貿易の公平性や貿易収支の問題だけではないと考える向きが増えている。むしろ中国の長期的な勢力軌道を変えさせようとする封じ込め政策だ』と説明した」

     

    米国は、金融を絞り込んだだけで中国を屈服させられる。次の記事が、それを示唆している。

     

    「(米国が)今、一方的手段で知財権を保護するには、もっと踏み込んだ強制力ある形が必要となる。国外のどこであっても知財権侵害を許さないという抑止力を発揮するには、企業に致命的な罰則を科す必要がある。例えば、ドル建ての銀行システムの利用を禁止するといったものだ」(英誌『エコノミスト』9月15日号)

     

    中国は、上記の記事を読めばいかに自国が無力であるかを知ることになろう。早く、米国との交渉のテーブルに着かないと、ますます米国の怒りに火がつくだろう。日本は1990年前後の日米経済摩擦で米国の凄みを経験させられている。私は、このことを繰り返し指摘している。

     

    (3)「今のところ中国指導部の打つ手は限られている。あらゆる手段を使って報復すれば、さらなる挑発を招き国内経済を損ねる恐れがある。簡単に妥協すれば弱さを見せることになり、トランプ政権の要求が増したり、習主席が国内で植え付けようとしている強い指導者像に傷が付いたりする可能性がある」

     

    独裁者の陥る最大の問題がここにある。周知を集めて判断することがないからだ。この際、徹底的に米国の凄さを学び、「世界覇権挑戦論」の虚しさを知ることだ。少しは、現実感を持つべきである。


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    習近平氏は、今回の米中貿易戦争を振り返ったとき、どのような評価を下すだろうか。現在は、側近に引上げた国粋主義者の発言に迷わされているが、米国と貿易戦争することによって失なうものがどれだけ大きいか、それに気付くはずだ。

     

    米中間では、ヒト・モノ・カネの交流がほとんどゼロ状態にまで低下している。中国の国粋主義者たちは、いかがわしい歴史観を持出して、「米国衰退・中国発展」という非科学的な信仰に酔っている。それは、何ら根拠のない話だ。建国300年に満たない若い歴史の米国が衰退し、4000年の歴史になる中国が再び発展して、世界覇権を握ることなどあり得ない。習近平氏は、このあり得ない話に賭けている。習氏の思考構造は、どうなっているのか聞きたいものだ。

     

    米国が前述の通り、対中国のヒト・モノ・カネの交流を絞ってしまった。これによって、先ず中国の受ける損失は、米国企業への直接投資が不可能になっていることだ。米国政府は安全保障上の理由から事実上、中国の対米直接投資を禁じてしまった。米国企業は、世界一の「経営上手」である。ここへの投資は、採算的にも有利である。その宝の山へ「出入禁止」処分を受けたのだ。これは、大きな痛手である。日本は、市場経済国で世界覇権狙いなどという非現実的な野望をもたない国だ。木戸ご免である。

     

    2018年1~6月期の中国による対米直接投資は前年同期比9割も減っている。中国はもともと先進国へ投資が少なく発展途上国を主体としてきた。これは、「一帯一路」が典型的例である。純粋な投資目的よりも、政治支配権の拡大に主眼を置いている結果だ。それ故、投資リターンが少ないという欠陥を持っている。

     

    バラマキ型の対外直接投資が、中国の経常収支構造を大きく歪めることになった。所得収支の赤字が拡大している。2016年では、170ヶ国中168位というどん尻に位置している。赤字幅は440億ドルである。

     

    これには、膨大な対内直接投資を受入れているという影響もあるが、対外直接投資のリターンが少ないことも原因である。ちなみに日本はどうか。資本収支では2009年までは1位。その後は2位だ、「優等生」なのだ。2016年の所得収支黒字は1665億ドル。日本は、中国と違って政治的野心がないから、純粋に経済要因だけで対外投資して成果を上げている。

     

    中国は、米国から閉出された結果、将来の所得収支赤字は改善見込みが立たないのだ。一方、対照的に日本は一段と対外直接投資に力を入れている。中国は、「一帯一路」で政治性の強いプロジェクトに熱を入れたので、「債務付け」という国際高利貸しのイメージが定着した。日本と中国は、どちらが賢明か。言うまでもあるまい。20世紀までの帝国主義的な発想では、総合的な国力は伸びない時代である。中国政府は、このことを肝に銘じるべきだろう。

     

     


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    広東省と言えば、中国で最大の経済規模を誇り、GDPでオーストラリアと肩を並べる。中国有数の製造業の集積地であり、中国輸出の約3分の1を占める。その広東に米中貿易戦争の冷たい風が吹き始めた。中国政府の強気の姿勢の足下を吹き抜けているのだ。

     

    広東省には、省都の広州やハイテクで発展する深圳が有名である。2017年の市のGDPへの輸出貢献度は、深圳が2.24%、広州が2.15%と中国では1位と2位を占めている。広東省の輸出に占めるハイテク製品の割合は40~45%にも達している。

     

    こうしたビジネス環境の広東が、貿易戦争の影響を受けるのは当たり前だ。PMI(製造業購買担当者景況指数)が、ついに好不況の分岐点50を割った。

     

    『ブルームバーグ』(9月19日付)は、「中国経済の底堅さに疑念、8月製造業PMI、広東省で50割る」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国南部・広東省の8月の製造業活動を測る指数が分岐点の50を割り込んだ。対米貿易摩擦の長期化に備える中、中国経済の底堅さをめぐり疑念が広がっている。広東省の経済・情報委員会が発表した8月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.3に低下し、2016年の早い時期以来で50を割り込んだ」

     

    広東省の8月PMIが、2016年の早い時期以来、50を割ったことは象徴的である。中国輸出産業が、貿易戦争の逆風を真っ正面から受けていることを物語る。中国経済が揺さぶられるのだ。

     

    (2)「広東省の経済・情報委員会は発表文で、今回の指数は国内にある圧力と「急速に変化する国際的な経済・政治要因による悪影響」を反映したと説明した。財新伝媒とマークイット・エコノミクスの製造業PMIやブルームバーグがまとめている先行指標とは傾向が一致している。ブルームバーグの万千エコノミストは、財新製造業PMIと広東のPMIが、『輸出に軸足を置く企業が既に米中貿易戦争による影響を受けており、これが他の沿海部に広がる』ことを示唆した。『貿易戦争が激化する一方となりそうな状況下で、今後数カ月以内に輸出業者の困難が和らぐことはないだろう』とも同エコノミストは話した」

     

    中国のPMIには、国家統計局調べと民間の財新・マークイット・エコノミクス調べがある。広東省のPMIと、後者の民間PMIが似た傾向を示している。国有企業のウエイトが低い結果であろう。ともかく、民間PMIと広東省PMIが、先行き警戒色を強めている。貿易戦争の激化に伴い、輸出産業は厳しい環境に追い込まれた。


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