米中デカップリングの進行により、中国は米同盟国からの経済封鎖を現実のものとして備え始めた。北京冬季五輪開会式出席で訪中したロシアのプーチン大統領と、天然ガス供給で100億立方米購入契約を結んだのである。また、「中国は一つ」とすることで中ロが意見の一致を見たと発表した。
これら二つの中ロをめぐる動きは、改めて中ロの接近を覗わせるものである。具体的には、ロシアが中国へ「助け船」を出した印象が極めて強い。これは、国内における習近平氏の「劣勢」を支えるような形にも映る。習氏は、対ロシアとの協定を後ろ盾に、国内問題を乗り切る意図にも読めるのだ。
『日本経済新聞 電子版』(2月9日付)は、「台湾戦にらみロシアからガス、習近平氏が恐れる孤立」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集員である。
中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)は、ロシア大統領のプーチンがあおるウクライナを巡る戦争の危機というプロパガンダにかなり露骨に手を貸した。「中国が、ロシアの欲する『北大西洋条約機構(NATO)拡大反対』に踏み込んだのは注目に値する。一見、プーチンの老獪(ろうかい)さが目立つが、裏で習が台湾に絡む大きな見返りを得たのを見逃してはならない」。中ロ関係に詳しい外交筋は、台湾との戦いまで意識した習の中長期戦略が前進する危険性を指摘する。
(1)「見返りとは、まず中ロ共同声明に「一つの中国」原則を明記したことである。プーチンは、それを「厳格に守る」とまで約束した。「一つの中国」原則は、中国の台湾に関する主張を全面的に受け入れる象徴的な表現だ。中ロ蜜月といわれながらも、ここに至るには曲折があった。例えば2021年8月の中ロ首脳電話協議では、プーチンがあえて「一つの中国」政策の堅持を約束した。これは中国側の報道でも確認できる。だが、その半年後となった今回は、ウクライナ問題で中国から強い支持を取り付けるため一段と踏み込まざるを得なかった。バイデン米政権が進めるインド太平洋戦略を警戒する習に花を持たせたのだ」
ロシアは、軍事侵攻するかどうか、土壇場で見方が変わってきた。外交交渉継続という線が強く出ているのだ。これまで、中立を装っていたドイツが、はっきりと反ロシア姿勢を見せたことも響いているだろう。仮に、中国はロシアの軍事侵攻を承知で、ウクライナ情勢でロシアを支持したとすれば、中国のイメージも急落する。その点、中国はロシアの立場を十分に詮索したはずだ。
(2)「過去を振り返れば、01年、まだ40代だったプーチンが当時の国家主席、江沢民(ジアン・ズォーミン)と交わした中ロ善隣友好協力条約の第5条には「台湾は中国と不可分の一部分で、ロシアはいかなる形式の台湾独立にも反対する」という強い表現を盛り込んでいる。それでも「一つの中国」原則という典型的な表現は使わなかった。今回は、中国が対外的に「プーチンも『一つの中国』原則を厳格に守ると明言した」と宣伝するのを公式に許した。台湾に接近する欧州連合(EU)加盟国、リトアニアの問題などへの対処に追われる中国にとっては力強い援軍になる」
中国が、ロシアの軍事侵攻を容認したとなれば今後、対EU関係で取り返しのつかないことになる。EUは、完全に中国を無視するであろう。中国もこのくらいの計算をしている筈だ。
(3)「中ロ首脳会談でもう一つ、重要だったのが「一つの中国」原則とセットといえる天然ガス合意だ。ロシアは中国に天然ガスを年間100億立方メートル追加供給し、計480億立方メートルにする。実現すれば、20年のパイプラインによる供給実績の実に10倍に膨らむ。「中国側からみれば、これは台湾との戦争も意識した高度なエネルギー戦略だ」。アジアの安全保障に通じる関係者が解説する。ウクライナ侵攻で欧州への販路を失った場合に備えて中国という大市場を確保しておくのがプーチンの狙いなら、習にもまた台湾に絡む深謀遠慮があった」
中国が、ロシアに対して改めて「一つの中国」を持ち出しているのは、ウクライナ問題で支援することの見返りである。ウクライナが、外交交渉に委ねられれば、中国の支援は精神論に止まる。つまり、「エールの交換」程度という話だ。
(4)「習は台湾独立を阻止するための武力行使を否定していない。もし戦闘があれば、米国が率いる同盟国からの強力な経済制裁で石油、天然ガスなどエネルギーの供給を断たれかねない。中ロは、米英豪による安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」にも深刻な懸念を示した。石油・石炭の大量消費国である中国にとって、海を経由したエネルギー輸入の滞りは、極めて現実的な脅威なのだ」
中国が、陸上でロシアから天然ガス供給を受けられるのはプラス要因である。だが、食糧輸入という大きな難題を抱えている。これは、海上輸送に頼るほかない。中国は依然として、戦争を起こせない立場にある
(4)「習とプーチンが米欧の民主主義陣営との対決を鮮明にしたことは、日本にも影響する。共同声明には、福島第1原発の処理水海洋放出への懸念も盛り込まれた。今後、北方領土に絡む日本への揺さぶりも激しくなる可能性がある。北方領土返還を求める日本を支持する中国の立場は、64年の東京五輪前、毛沢東が社会党訪中団に明言して以来、一貫しているはずだ。ただ、当時、中ソは激しく対立していた。最近の足早な中ロ連携は情勢を変えうる。十分、注意すべきだ」
日本は、対ロシアへの外交戦術において見直しを求められるが、対立は避けるべきだ。中ロをワンセットで扱うよりも、別々の視点から取り組むことが日本の国益に適う。中ロ関係で、中国に疑心を起させるように取り組む。これが、日本外交の秘策であろう。