勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

    a0005_000022_m
       

    米中デカップリングの進行により、中国は米同盟国からの経済封鎖を現実のものとして備え始めた。北京冬季五輪開会式出席で訪中したロシアのプーチン大統領と、天然ガス供給で100億立方米購入契約を結んだのである。また、「中国は一つ」とすることで中ロが意見の一致を見たと発表した。

     

    これら二つの中ロをめぐる動きは、改めて中ロの接近を覗わせるものである。具体的には、ロシアが中国へ「助け船」を出した印象が極めて強い。これは、国内における習近平氏の「劣勢」を支えるような形にも映る。習氏は、対ロシアとの協定を後ろ盾に、国内問題を乗り切る意図にも読めるのだ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(2月9日付)は、「台湾戦にらみロシアからガス、習近平氏が恐れる孤立」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の中沢克二編集員である。

     

    中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)は、ロシア大統領のプーチンがあおるウクライナを巡る戦争の危機というプロパガンダにかなり露骨に手を貸した。「中国が、ロシアの欲する『北大西洋条約機構(NATO)拡大反対』に踏み込んだのは注目に値する。一見、プーチンの老獪(ろうかい)さが目立つが、裏で習が台湾に絡む大きな見返りを得たのを見逃してはならない」。中ロ関係に詳しい外交筋は、台湾との戦いまで意識した習の中長期戦略が前進する危険性を指摘する。

     

    (1)「見返りとは、まず中ロ共同声明に「一つの中国」原則を明記したことである。プーチンは、それを「厳格に守る」とまで約束した。「一つの中国」原則は、中国の台湾に関する主張を全面的に受け入れる象徴的な表現だ。中ロ蜜月といわれながらも、ここに至るには曲折があった。例えば2021年8月の中ロ首脳電話協議では、プーチンがあえて「一つの中国」政策の堅持を約束した。これは中国側の報道でも確認できる。だが、その半年後となった今回は、ウクライナ問題で中国から強い支持を取り付けるため一段と踏み込まざるを得なかった。バイデン米政権が進めるインド太平洋戦略を警戒する習に花を持たせたのだ

     

    ロシアは、軍事侵攻するかどうか、土壇場で見方が変わってきた。外交交渉継続という線が強く出ているのだ。これまで、中立を装っていたドイツが、はっきりと反ロシア姿勢を見せたことも響いているだろう。仮に、中国はロシアの軍事侵攻を承知で、ウクライナ情勢でロシアを支持したとすれば、中国のイメージも急落する。その点、中国はロシアの立場を十分に詮索したはずだ。

     


    (2)「過去を振り返れば、01年、まだ40代だったプーチンが当時の国家主席、江沢民(ジアン・ズォーミン)と交わした中ロ善隣友好協力条約の第5条には「台湾は中国と不可分の一部分で、ロシアはいかなる形式の台湾独立にも反対する」という強い表現を盛り込んでいる。それでも「一つの中国」原則という典型的な表現は使わなかった。今回は、中国が対外的に「プーチンも『一つの中国』原則を厳格に守ると明言した」と宣伝するのを公式に許した。台湾に接近する欧州連合(EU)加盟国、リトアニアの問題などへの対処に追われる中国にとっては力強い援軍になる」

     

    中国が、ロシアの軍事侵攻を容認したとなれば今後、対EU関係で取り返しのつかないことになる。EUは、完全に中国を無視するであろう。中国もこのくらいの計算をしている筈だ。

     

    (3)「中ロ首脳会談でもう一つ、重要だったのが「一つの中国」原則とセットといえる天然ガス合意だ。ロシアは中国に天然ガスを年間100億立方メートル追加供給し、計480億立方メートルにする。実現すれば、20年のパイプラインによる供給実績の実に10倍に膨らむ。「中国側からみれば、これは台湾との戦争も意識した高度なエネルギー戦略だ」。アジアの安全保障に通じる関係者が解説する。ウクライナ侵攻で欧州への販路を失った場合に備えて中国という大市場を確保しておくのがプーチンの狙いなら、習にもまた台湾に絡む深謀遠慮があった」

     

    中国が、ロシアに対して改めて「一つの中国」を持ち出しているのは、ウクライナ問題で支援することの見返りである。ウクライナが、外交交渉に委ねられれば、中国の支援は精神論に止まる。つまり、「エールの交換」程度という話だ。

     


    (4)「習は台湾独立を阻止するための武力行使を否定していない。もし戦闘があれば、米国が率いる同盟国からの強力な経済制裁で石油、天然ガスなどエネルギーの供給を断たれかねない。中ロは、米英豪による安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」にも深刻な懸念を示した。石油・石炭の大量消費国である中国にとって、海を経由したエネルギー輸入の滞りは、極めて現実的な脅威なのだ」

     

    中国が、陸上でロシアから天然ガス供給を受けられるのはプラス要因である。だが、食糧輸入という大きな難題を抱えている。これは、海上輸送に頼るほかない。中国は依然として、戦争を起こせない立場にある

     

    (4)「習とプーチンが米欧の民主主義陣営との対決を鮮明にしたことは、日本にも影響する。共同声明には、福島第1原発の処理水海洋放出への懸念も盛り込まれた。今後、北方領土に絡む日本への揺さぶりも激しくなる可能性がある。北方領土返還を求める日本を支持する中国の立場は、64年の東京五輪前、毛沢東が社会党訪中団に明言して以来、一貫しているはずだ。ただ、当時、中ソは激しく対立していた。最近の足早な中ロ連携は情勢を変えうる。十分、注意すべきだ」

     

    日本は、対ロシアへの外交戦術において見直しを求められるが、対立は避けるべきだ。中ロをワンセットで扱うよりも、別々の視点から取り組むことが日本の国益に適う。中ロ関係で、中国に疑心を起させるように取り組む。これが、日本外交の秘策であろう。

    a0001_000268_m
       

    中国は、人口動態的に見て米国よりも不利な条件を抱えている。昨年、高齢社会(65歳以上が総人口の14%超)入りしたこと。今年から「人口減」社会に入るなど、すでに「日没する経済」へ足を踏み入れているのだ。

     

    現在、開催されている北京冬季五輪では、2008年の北京五輪へ出席した各国首脳の数より大幅に減っている。今回は21ヶ国に過ぎず、G7からの首脳はゼロであった。国際関係における、中国の孤立ぶりをはっきりと浮かび上がらせている。中国のような「日没する経済」は、緊張緩和を実現して自由貿易の中で生きるほかない。習近平氏は、その認識が欠如している。

     

    『日本経済新聞』(2月5日付)は、「中国、成長持続へ緊張緩和を」と題する寄稿を掲載した。筆者は、米クレアモント・マッケナ大学教授 ミンシン・ペイ氏である。専門は、比較政治学や米中・米アジア関係。

    世界第2位の中国経済は、2021年通年の実質国内総生産(GDP)が前の年に比べ8.%増えた。ただ四半期ごとにみると、10~12月は前年同期比4.%増にとどまり、7~9月の4.%増からも減速した。

     

    (1)「22年も停滞が続きそうだ。中国は新型コロナウイルスを徹底して封じ込めようとしているため、経済活動は引き続き抑制されるだろう。国際通貨基金(IMF)は1月、22年の中国の成長率を4.%と下方修正したが、なお楽観的かもしれない。米金融大手ゴールドマン・サックスは同月、新型コロナの収束が難しいことを理由に、4.%に下方修正した。経済の停滞は、いまや中国の最大の懸念事項といえる」

     

    習氏は、中国国民に向かって「強い指導者」を演じて見せている。民族主義者の習氏が考えそうなシナリオであるが、これによって中国は外交的・経済的に自らを窮地に追い込んでいる。中国14億の民が安んじて暮らせる条件は、西側諸国との対立でなく協調である。

     

    昨年、「人口高齢」社会へ移行した。一人当たり名目GDPは、昨年でやっと1万1000ドルへ接近した程度である。ここで、労働力不足(生産年齢人口減少=年間1000万人減)に見舞われるので、経済成長率は落込まざるを得ない。さらに、不動産バブル崩壊の後遺症が加わるのだ。中国は、この危機をどうやって凌ぐ積もりか。ここで目を覚まさなければ、中国経済は「三重苦」(労働力不足・不動産バブル崩壊・西側との対立)で自滅は間違いない。

     


    (2)「
    中国共産党が21年12月、22年の経済運営方針を決めた中央経済工作会議の発表では、「安定」を意味する文字が25回も使われた。安定が強調され、習近平(シー・ジンピン)国家主席の優先課題が変わったのではとの臆測も呼んだ。もっとも、中国指導部が経済発展を優先する方針は続くようだ中国政府による21年のハイテク企業に対する規制強化は、民間の起業家の自信喪失につながった。事態悪化は避けられない公算が大きい。米中の地政学的な対立が激しくなるなか、米国との経済的なデカップリング(分断)の加速が予想される。欧州連合(EU)など他の主要な貿易相手との関係も、中国の人権侵害の疑いに伴うサプライチェーン(供給網)規制の動きなどにより、ほころびが生じている」

     

    今年の中国は、「安定」が最大の条件である。つまり、さらなる経済悪化を食い止めることである。それには、「三重苦」の一つである西側諸国との対立を緩和させることだ。他の二つは、どうにもならない「自壊作用」である。三つある重石の一つでも軽くなれば、中国経済は、息をつげるであろう。

     

    (3)「中国政府が安定を強調したからといって、民間起業家や外国人投資家のアニマルスピリット(血気)がよみがえるわけではない。習氏は経済重視の姿勢を強調すべきだろう。また中国政府は、経済界に有害とみなされる政策や規制の実施を一時停止するか無期限に延期することだ。経済界の主要な利害関係者と協議する必要もある。ハイテク企業などの信頼感を損ねた政策の撤回は急務だ。特に当局は、21年9月に施行したデータの統制を強化するデータ安全法(データセキュリティー法)などデータ関連のルールについて、透明性の向上や制限緩和が欠かせない」

     

    習氏は、疑心暗鬼に陥っている。民間企業が急成長すれば、習氏の管理を離れて謀反を企むという妄念に取り憑かれている。民間企業の成長なくして、GDPは増えず雇用が改善しないのだ。

     

    (4)「中国が主要な貿易相手との関係を改善する対策を何もとらなければ、企業の信頼感を全面的に回復するのは難しい。習氏の外交政策の優先課題は、米国やEU、日本との緊張緩和であるべきだ。台湾海峡と南シナ海での挑発的な軍事活動を停止することも、地域の安定を取り戻すのに役立つ。例えば習指導部は21年12月、新疆ウイグル自治区のトップである中国共産党委員会書記を交代する人事を発表した。ウイグル人への抑圧を軽減し、欧米が制裁を緩和するきっかけにできるかもしれない。香港については、香港国家安全維持法(国安法)に基づく民主派の起訴や裁判を中止すれば、欧米も歓迎するだろう」

     

    習氏は、民族主義で中国を完全掌握している。今さら、方向転換が不可能になっている面もあろう。だが、このまま西側諸国と対立を深めれば、中国の生存できる空間は狭まるばかりである。習氏に進退を迫る時期が迫っていることは疑いない。習氏にとって、人生最大の選択局面が迫っている。

     


    (5)「北京の強硬派にとっては、こうした提案でも到底受け入れられないかもしれない。
    だが、習氏が中国共産党の総書記として3期目入りを目指す22年に経済発展を本気で考えているのであれば、緊張緩和策は中国政府のとるべき最低限の措置だ」

     

    中国は、客観的に自国の潜在的な成長力を知るべきである。もはや、「日没する経済」である。その点が、米国と決定的に異なる。習氏には、その認識がないのだ。民族主義で目が眩んでいるのであろう。強い中国経済の時代は終わったのだ。

     

    a0960_005442_m
       


    パンデミック下で米中経済は、対照的な動きをしている。中国は、「ゼロコロナ」対策である。米国は「ウィズコロナ」対策によって、経済とのバランスを取っている。

     

    米国の場合、パンデミック対策として十分な個人補償を行なったこともあり、失業しても暮しに困らないという恵まれた環境にある。これが、求職動機を弱めている。求人が増えても必要な労働力を確保できない、という珍現象を生んでいるのだ。こうして、時給を引き上げざるをえず、これが価格に転嫁されている。この結果、消費者物価上昇率は約40年ぶりのレベル(昨年12月、前年比7.0%)へ押し上げられた。

     

    この事態が、米国経済の足腰を強めることになりそうだ。企業は、足りない労働力をカバーすべく、生産性向上に取り組まざるを得ない。転んでもタダで起きない、そういう事業展開が予想される。中国は、習近平氏の鶴の一声で「ゼロコロナ」である。創意工夫する米国企業と、漫然と休業するほかない中国企業では、こうして大きな差がついて当然だ。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(2月2日付)は、「『大退職時代』 企業に変化迫る」と題する社説を掲載した。

     

    米国の労働力に一体なにが起きているのか。米国におけるインフレの要因になっている賃上げの問題だけではない。新型コロナウイルスの世界的感染拡大(パンデミック)が始まってから何百万人ものアメリカ労働者が退職し、「大量退職時代」として大きな議論を呼んでいる。米国における退職者数は昨年11月にピークに達した。求人数が非常に高水準にあるなか、2000年以来で最も多い450万人のアメリカ人が職場を去った。

     

    (1)「マイクロソフトのリポートによれば、全世界の労働者の41%が退職を考えているという。長期化するパンデミックに伴う「デジタル燃え尽き症候群」や孤立感、人とのつながりが失われたことなどが原因とみられている。しかし、米国の労働市場は他の多くの国よりもひっ迫しており、その状況は当分続くとみられる。米国の労働参加率は、他の先進国よりも低下が著しく、際だって低い水準にある。企業の間で労働力を確保するための競争が激しくなっており、一定の生産に必要な労働コストは、コロナ前の水準と比べて大幅に上昇している。対照的に、他の先進国では、労働コストは下落傾向にある」

     

    下線部で、米国企業は労働者不足をカバーすべく賃上げしているので「賃金コスト」が上昇している。この実態解消で、米国企業は生産性向上に取り組まざるを得ないのだ。

     


    (2)「この状況を生んだ一因は、パンデミックに対する米国の対応の方法にもある。欧州が雇用を守ることを優先したのに対し、米国は成長の維持に主眼を置いた。米国は、企業が自由に従業員を解雇することを許し、失業者に手当を支給する政策を取った。結果的に、特に大きく落ち込んだ米国のサービス部門が急回復するにつれ、企業は慌てて新たに労働者を雇い入れる必要に迫られた。この解雇・転職の大波に、コロナ対策の一環としての特別失業給付が加わり、何百万もの労働者にとってかつてないほど有利な状況が生まれた

     

    米国は、パンデミック下の従業員解雇を認めた。これが現在、労働力不足となったはね返っている。従業員は、たっぷりと解雇手当を手に入れたので失業していても裕福である。これが、求職活動を消極化させている。

     

    (3)「転職率は、レジャー、接客、外食産業などで特に高くなっている。こうした業界で働く労働者の多くは、低賃金で長時間労働を強いられていた以前の職に戻る気はない。売り手市場で、企業が賃金や手当の引き上げを迫られている状況を利用して、より好条件の仕事を探す労働者も少なくない。アトランタ連銀のデータによると、昨年の8月から10月までの期間に転職した労働者の賃金上昇率は、中央値で5.%だった。これに対して、転職しなかった労働者の賃金上昇率は3.%にとどまった。転職している労働者の多くは低賃金層に属するが、この層の賃金が上昇することで、企業は、高賃金の労働者の給与も引き上げざるを得なくなりつつある。これが転職ブームにさらに拍車をかける要因になる」

     

    転職率の高い業種は、レジャー、接客、外食産業などだ。この業種では、時給を引き上げねば労働力を確保できなくなっている。これが、他産業にも波及している。ここに、企業側は抜本的な対策を打つはずである。労働生産性向上の投資などだ。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月4日付)は、「米労働生産性、コロナ収束後に大きく上昇も」と題する記事を掲載した。

     

    米労働省が2月3日発表した2021年10~12月期の非農業部門の労働生産性は前期比年率換算で6.6%上昇した。大きな伸びではあるが、5%もの低下を記録した7~9月期から持ち直したにすぎない。21年通年の伸びは1.9%で、20年の2.4%や、新型コロナウイルス流行前の19年の2%を下回った

     

    (4)「米国は今、生産性の向上を必要としているということだ。時間当たりの生産高が増えれば、生産にかかる労働コストはそれだけ下がる。生産性の伸びが高ければ、企業は価格を据え置いたまま販売量を増やすことができ、利益の拡大や労働者の賃上げが可能となる。「賃上げが利益率を圧迫するのではないか」とか「持続的なインフレを受けて米連邦準備制度理事会(FRB)が経済にブレーキをかけるのではないか」などと投資家が懸念している時に、生産性の伸びが拡大すれば大歓迎されるだろう」

     

    米国経済は、時ならぬ「労働力不足」に直面している。これを乗り切るには、設備投資を増やすこと。また、仕事の流れを抜本的に変えて在宅勤務を取り入れるなど、種々の方法が試されるだろう。これが、米国経済の足腰を強くするはずだ。

     


    (5)「都合に応じて在宅勤務と出社を切り替えたり、オンラインと対面の会議を適宜使い分けたりできるようになれば、人々の効率性は飛躍的に高まる。オンラインでメニューを選び注文するシステムは多くのレストランが導入しているが、それが生産性に及ぼすメリットを実感できるようになるのはレストラン事業が完全に回復してからだろう。また、需要は強いが労働者の確保は難しいという状況を受け、企業の間では生産性向上策を見いだそうという機運が数年ぶりの高まりを見せている。賃金が、停滞し経済成長がさえなかった時代に考えられなかったような効率化を図る企業が多く出てくるだろう」

     

    米国企業は、人手不足という「危機」を「ビジネスチャンス」に変えるであろう。今、その機会がめぐってきたのだ。

    a0960_001611_m
       

    米国バイデン大統領は、日豪印の大使に長年の盟友を指名した。インド太平洋戦略の要である「クアッド」(日米豪印)に、気心の知れた人物を大使として配置した。中韓は、ベテラン外交官を指名して米国とのさらなる関係密接化を図る意図は見えない人事である。韓国の反応はまだ分らないが、文政権の二股外交によって米国の信頼は揺らいでいることを見せつけた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月3日付)は、「バイデン氏、日豪印大使に盟友 対中抑止へ戦略配置」と題する記事を掲載した。

     

    バイデン米大統領は日本、オーストラリア、インドの米国大使に自らに近い人物を相次ぎ起用した。インド太平洋地域で中国抑止へ協力する国と緊密に連携できる陣容をそろえた。対立する中国や北朝鮮と向き合う最前線になる中国、韓国の大使には職業外交官を据える。

     


    (1)「
    新たに駐日米大使に着任したラーム・エマニュエル氏は、クリントン政権の政策顧問や下院議員を経て、バイデン氏が副大統領を8年務めたオバマ政権で大統領首席補佐官を務めた。日本側はバイデン氏を含む政権中枢とのパイプを通じ、日本政府の意向を迅速に伝える窓口役を期待する。エマニュエル氏は2月1日、外務省で林芳正外相と面会した際に北朝鮮のミサイル発射やウクライナ情勢に触れて「日米が直面する課題にしっかり取り組む」と話した。中国を念頭にルールに基づく民主主義の秩序が脅かされていると指摘した。林氏は「日米同盟をさらに強固なものにするため率直に議論できる関係を築きたい」と伝えた。両氏は「自由で開かれたインド太平洋」実現に協力を申し合わせた」

     

    米国にとって今や、日米関係は最も重要な関係になった。対中戦略の要として日本が位置づけられているからだ。民主主義の防波堤といっても言い過ぎでない。日本は、尖閣諸島の防衛で米軍の協力を必要とする。一方、米国はインド太平洋戦略において、日本が持つ豪印との親密性がクアッドの基盤を強化するメリットを受けられるのだ。

     


    (2)「これまでの駐日米大使は、政府・議会の大物、大統領の盟友・側近、知日派の学者――に大別できる。知日派といえないエマニュエル氏は他の要素を併せ持つ。軍事・経済両面で台頭する中国をにらみ、同盟国である日本とインド太平洋で民主主義国家の結びつきを広げる責務を担う。2000年代前半までは副大統領や下院議長などを経験した大物が就く例が目立った。最近は大統領との個人的な関係を重視する傾向にある。エマニュエル氏の前任のハガティ上院議員はトランプ前大統領の政権移行チームで政治任用の人事担当の責任者だった」

     

    戦後の駐日米国大使は、いずれも米国の「大物」が赴任してきた。当時は、日米関係の強化発展が眼目であった。現在は、さらに豪印とりわけインドとの関係強化が必要になっている。米印関係は、これまでそれほど親密といえる関係でなかった。インドの「非同盟主義」が立ちはだかったからである。そのインドが、米国との関係強化に乗出した背景には、中国との対立が深刻化している外に、日印関係の良好さが土台になり米印関係も深まったという事情がある。日本がその仲介役を担った。具体的には、安倍元首相の外交力に負うものだ。

     


    (3)「米アメリカン・エンタープライズ研究所のザック・クーパー氏は「関係が良好な日豪印で大使が扱う懸案は比較的少なく、各国は政権に影響力を持つ人物を望むケースが多い」と話す。豪印にもバイデン氏とつながりが深い大使を送る。豪州にはオバマ政権で駐日大使を務めたキャロライン・ケネディ氏を指名した。20年大統領選でバイデン氏を支持し、資金面でも支えた。ケネディ元大統領の長女という名門の出身で、なお民主党内に影響力を維持する。豪州は日米印と構成する「Quad(クアッド)」に加え、米英との安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」の一角。いずれも中国抑止を主眼にバイデン政権が21年に立ち上げた集まりで、豪州の戦略的価値の高さを裏付ける。日米に張るケネディ氏の人脈も使い、円滑に調整する態勢を整える」

     

    豪州が、対中関係で強硬姿勢に転じたのは、中国の対豪経済制裁と「戦狼外交」によるあからさまな「侮辱」にあった。豪州を属国扱いする文書を手渡し、「イエスかノーか」を迫ったのである。これが、AUKUSという軍事同盟を生んだきっかけである。豪州は、「台湾防衛」を広言するほど、中国へ敵意を見せている。

     

    豪州大使のケネディ氏は、駐日大使を務めた人物である。日豪関係の親密さを象徴するような人事である。菅前首相とは昵懇の関係にある。菅氏が首相としての訪米時に、自宅へ招待するほどで日米関係の良好さを見せている。そのケネディ氏が駐豪大使である。クアッドは一層強いつながりに発展するであろう。

     

    (4)「インド大使にはロサンゼルス市長で閣僚への起用も取り沙汰されたエリック・ガルセッティ氏を充てる。米メディアによると、大統領選で「個人的に親しい友人」であるバイデン氏の支持を表明し、陣営を取り仕切った幹部の一人とされる。高校時代に日本に留学した経験もある」

     

    インド大使は、バイデン政権で閣僚起用も話題になった人物である。バイデン氏と親しい関係にある。

     

    (5)「中国と韓国の大使にはプロの外交官を配置する。「最大の競争相手」と位置づける中国にニコラス・バーンズ元国務次官を充てた。必ずしも中国の専門家ではないものの、30年近い外交官生活で携わってきた旧ソ連や中東、欧州は時の最重要テーマの一つだった。バーンズ氏は党派を超えて要職に起用され続けた。民主党のクリントン政権で国務省報道官、共和党のブッシュ政権(第43代)で同省ナンバー3の国務次官などを歴任した。21年12月の上院本会議で与野党議員の賛成で承認されたバーンズ氏の人事は、超党派で中国に対峙するメッセージになる。駐韓国大使には対北朝鮮制裁調整官を務めたフィリップ・ゴールドバーグ氏(現コロンビア大使)が内定した。米メディアが報じた。クーパー氏は「当面は朝鮮半島情勢に精通する実務者を求めている表れだろう」とみる」

     

    中韓の米国大使は、専門外交官である。それぞれ米国との関係を覗わせる人事である。バイデン政権が、中韓をどのように扱っているかを示している。韓国は、明らかに米国の「外様大名」に落ちたことを示している。二股外交による信用失墜が理由であろう。

    a1180_012431_m
       


    トヨタ自動車は、在庫を持たない経営である「ジャストインタイム」の元祖である。世界を風靡したが、今回のパンデミックによるサプライショックで、見直し気運が強まってきた。多目の在庫を持った方が安心して操業できることに気づいたからだ。経営は、時代の風の変化を受けて変わるという象徴的な動きである。

     

    パンデミックは、「企業共同体意識」を高めているようだ。これまで、下請け企業は大手企業からは絶えず、選別対象にされ不安定な地位に甘んじてきた。だが、部品一つ不足していても製品組立ができない以上、共存共栄を図ることが利益になるという意識に立ち返ったようである。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(1月31日付)は、「供給網混乱で『ジャストインタイム』見直す米企業」と題する記事を掲載した。

     

    企業幹部らの話では、新型コロナの感染拡大による工場の閉鎖や輸送費の高騰、ドライバー不足の影響が広範にわたっているため、長年重視してきた「ジャストインタイム」の生産体制の見直しを迫られている。取引するサプライヤーの数、主要部品の生産地との距離、補完できる在庫の限度を再検討しなければならないという。

     

    (1)「鉄道会社ノーフォーク・サザンのエド・エルキンス最高マーケティング責任者(CMO)は「パンデミックによって、メーカー各社が確実な供給と、販売地に近い場所での在庫確保を優先したサプライチェーンの再設計を余儀なくされた」と投資家に語った。物流大手プロロジスのハミード・モガダムCEOは、不測の事態への備えを増やすために倉庫スペースを20~25%拡大しなければならないという相談を顧客から受けていると話す。「エンジニアは予測可能性を軸にサプライチェーンを設計してきた。その予測可能性が消えてしまうと、あっという間に何もかもが台無しになる」とモガダム氏は説明した」

     


    ジャストインタイムの全盛期では、部品を積んだトラックが工場正門にズラリと並んでいたものだ。そういう光景が、これから消えて企業が倉庫をつくって部品を貯蔵し、欠品不足のリスクを減らすという。180度の変化である。

     

    このことは、需要地の近くで生産するという工場立地条件の見直しにも通じる。一カ所で大量生産して各地へ運ぶこれまでのスタイルが見直されるのだ。これは、サプライチェーンとしての中国の地位が沈むことを意味する。大きな変動である。

     

    (2)「ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のリッチ・レッサー会長もインタビューで「ほとんどの企業が、リスク対応能力より業績を伸ばすための業務を優先しすぎていたことに気づきつつある」と指摘し、顧客の間で「ジャストインケース(有事想定型)」の意識が強まっていると付け加えた。レッサー氏によると、在庫拡大は対応の一例にすぎず、サプライチェーン稼働状況の追跡に使うデータの精度を上げ、将来起こりうる非常事態に備えておくという方法もある」

     

    リスク対応能力が、業績を伸ばす業務より優先される時代に変わったようだ。この変化は大きい。まさに、企業会計の原則である「ゴーイング・コンサーン」の再確認である。

     

    (3)「産業機械大手のダナハーが、特殊な部品の調達に苦戦し、航空機・防衛大手のレイセオン・テクノロジーズで溶接工の人手が不足するなど、企業幹部らが言及したサプライチェーンの問題は幅広い。対応の仕方も企業によってさまざまで、塗料大手シャーウィン・ウィリアムズは樹脂メーカーを買収し、VFコーポレーションは調達に使う「フルサイズのジェット機」をチャーターした」

     

    企業は、自社でフルセットを持つ時代になってきた。外注すれば、低コストで済むことが分かっていても、万一に備えて「無駄」な部分も抱えようというのだ。パンデミックの影響は凄いところまで及んでいる。

     


    (4)「事業規模が小さく、経営環境の厳しさに耐えかねているサプライヤーに、金銭的な支援を提供せざるを得ない場合もある。防衛大手ロッキード・マーチンは21年10~12月期「賢明なリスク低減戦略」として、サプライヤーに対する22億ドル余りの支払いを早めた。サプライチェーン専門のコンサルティング会社セラフのアンブローズ・コンロイCEOは、サプライヤーの財務状況が悪化するとの懸念が広がっていると指摘した。自動車業界で財務の厳しい顧客がいくつかある。以前なら経営破綻に追い込まれたはずだが、顧客が資金を注入している」。

     

    下請け企業も大事に扱うというのだ。これまでの下請けは、将棋の駒に過ぎなかった。それが、ファミリー扱いに昇格である。資本主義経済は、「切り捨て型」から「抱えこみ型」へと血の通った関係になるとすれば、大きな進歩であろう。

     


    (5)「企業の財務健全性を調査するラピッドレーティングスのジェームズ・ジェラートCEOは、利上げが今年続くとの見通しを踏まえると、さらに懸念は強まると話した。「金融市場が不安定化し、多くの企業で信用力が疑問視され始めると、格付けの最下層に影響し、大手の上場企業より非上場企業が痛手を被る」。レイセオンのグレッグ・ヘイズ会長兼CEOは、複雑なサプライチェーンを擁する大企業にとって、小さなサプライヤーが極めて重要な意味を持ち得ると力を込めた。レイセオンが取引する1万3000社のサプライヤーのうち「本格的に懸念されるのは100社未満だ」と語り、「それでも1社の問題だけで出荷が1件遅れる」と続けた」

     

    戦後の日本では、行政が「護送船団方式」によって脱落する企業を出さないことに努力した。今度は、企業グループで金融面から中小企業の脱落を防ぐ方式が推奨されるという。時代は、競争から協調へ動く前兆であろうか。そうだとすれば、大きな変化である。 


    このページのトップヘ