勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

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    先のオンラインによる日米首脳会談において、バイデン大統領は日本で開催される今春の「クアッド首脳会談」(日米豪印)で訪日が決まった。韓国は、この情報にヤキモキしている。訪韓の話が一切、出ていないからだ。韓国は、米国からの度重なるクアッド参加要請に反応しなかった。訪韓が、話題にも上がらないのは当然であろう。

     

    『朝鮮日報』(1月24日付)は、「バイデン大統領『今年上半期に訪日』 訪韓は検討もせず」と題する記事を掲載した。

     

    米国と日本の両首脳は今月21日(米国現地時間)にテレビ会談を行い、今年上半期に日本で米国、日本、インド、オーストラリアの4カ国による安全保障協力体「クアッド」首脳会議を開催することで合意した。米国のバイデン大統領と日本の岸田文雄首相はさらに「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、香港や新疆ウイグル自治区における人権問題への深刻な懸念についても共有したことを明らかにした。両国は北朝鮮による先日の相次ぐミサイル挑発についても共同で糾弾声明を出すなど、対北朝鮮政策や中国けん制路線で徐々に密着度を強めている。

     

    (1)「これに対して文在寅(ムン・ジェイン)政権は終戦宣言など任期末の「南北平和イベント」への執着を捨てられないことから「米国中心の対北・対中圧力路線から離脱している」との見方が浮上している。実際にワシントンでは「かつて米国が東北アジア政策の重要なツールとして活用していた韓米日三角協力が韓国の非協力的な態度でその機能を発揮できず、クアッドやAUKUSなど新たな安保協力体に依存するに至った」との見方もある」

     

    韓国は、日米韓三角協力の環から脱落して、南北融和路線を模索して突き進んでいる。文大統領の両親は、北朝鮮出身だけに文氏自身も北朝鮮が墳墓の地となる。北へは格別な思いがあって当然としても、それは私情である。大統領として外交の采配を振るう身とすれば、私情を封印して韓国の将来に身を捧げるのが筋だ。

     


    (2)「複数の専門家は、このように韓米日協力体制が揺らぐ状況でバイデン大統領訪日のニュースが飛び込んだことに注目している。バイデン大統領は昨年4月、就任後最初の首脳会談で日本の菅義偉首相(当時)、2回目には文大統領を選んだ。今回日本とはそれから約1年ぶりの首脳会談が実現したが、韓国との首脳会談は現時点で検討されていないという。韓国のある外交官幹部OBは「バイデン大統領が、東京だけを訪れソウルをパッシングするという万が一の外交惨事を懸念している」「大統領選挙を前に韓国の政治情勢が流動的であることを考慮しても、これはできれば避けたい状況だ」と述べた」

     

    バイデン氏は、クアッド首脳会談目的で訪日する。そのクアッド参加を拒んだ韓国が、バイデン氏に訪韓してもらいたいというのは、余りにも虫が良すぎる話だ。

     

    (3)「クアッド首脳会議に中国は極度に神経質な反応を示す。日本の読売新聞によると、今回の首脳会談でバイデン大統領は中国の習近平国家主席が、かつて米中首脳会談で「クアッド首脳会議は開催しないでほしい」と発言した逸話を紹介したという。当然、中国は強く反発した。日本の中国大使館は「(米日)両国が冷戦的な思考にこだわって集団政治を行い、陣営対立を扇動している」と批判した」

     

    習近平氏は、バイデン氏に対して「クアッド首脳会談を開催しないで欲しい」と要望した。日米豪印の対中結束が、習氏への圧力になっているのだ。これは、クアッド結成が成果を上げている証拠である。

     


    (4)「昨年1年の間に米国は、通商・外交・情報分野の閣僚や次官クラスを日本だけでなく韓国にも何度も派遣し、グローバル・サプライ・チェーンの再編など中国に対するけん制・圧力への韓国の参加も強く求めた。これに対して韓国は、今も明確な回答を示していない。米国中心の北京冬季オリンピックに対する外交的ボイコットも日本は即座にこれに同調したが、韓国は「ボイコットは検討していない」として事実上拒否の意向を明確にした
    。ワシントンのある外交筋は「昨年5月の韓米首脳会談後の共同声明は、米国による対中けん制路線に事実上韓国が加わる内容だったが、その後に韓国が示した行動はそうではなかった」と指摘した

     

    下線部分は、韓国の言行不一致を証明している。米韓共同声明では米国へ寄り添う姿勢を見せても、後は実行しないのだ。典型的な、「口舌国家」である。これでは、バイデン氏が韓国へも寄ろうという気持ちになるはずがない。

     

    (5)「北朝鮮が先日4回にわたりミサイル挑発を行ったことへの対応でも韓国と米国の温度差は明確になっている。米国は、北朝鮮が武力示威を行うたびに「安保理決議違反」として糾弾はもちろん単独制裁まで発動した。北朝鮮ミサイルの射程圏内にある韓国政府は、糾弾でなく遺憾という言葉ばかりを繰り返している。北朝鮮による挑発を糾弾する声明に韓国が抜け日本が加わるパターンも繰り返されている」

     

    韓国は、北朝鮮へ腫れ物に触るような逃げ腰である。これでは、北朝鮮に舐められて当然である。北にとっての韓国は、「でくの坊」に映っているに違いない。操縦しやすい相手なのだ。

     


    (6)「文大統領による最近の中東歴訪も「任期末外交が混乱している一つの断面」との指摘が相次いでいる。文大統領の歴訪はコロナの感染拡大や北朝鮮によるミサイルの連続発射という状況で行われた。青瓦台(韓国大統領府)は「必ず行かねばならない事情がある」と主張しているが、事前に予告していたエジプトへの防衛装備品輸出などは実現せず、アラブ首長国連邦(UAE)では首脳会談も行われなかった。そのため野党などからは「確実な成果が得られる見通しもないままこの渦中に席を空けるべきだったのか」との批判が出ている。上記の外交官幹部OBは「外交政策の優先順位に対する判断が麻痺したと言わざるを得ない」とコメントした」

     

    中等歴訪は、疑義の多い海外訪問であった。下線のように、UAEでは首脳会談が直前に中止となったのだ。「突発的な事故発生」が理由であるが、海外の賓客に対する態度ではない、文氏は、帰国に当たり「韓国の国格が確実に上がっている」と自画自賛した。こういう「お国自慢」をしているのも韓国らしい話である。

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    台湾は、欧米への経済的協力で積極的姿勢を見せる。米国に対しすでに、インド太平洋戦略の経済的枠組に協力する意向を固めている。中国が、「戦狼外交」によって反感を買われているのをチャンスに、台湾のトレードマークである半導体技術をひっさげ、台湾への友好国を増やす戦術だ。

     

    中国は、東欧のリトアニアが台湾代表部設置することで反対し対立を深めている。台湾は、これを機にリトアニアへ10億ドルの協力金を提供し、半導体工場建設を示唆している。これは、EU(欧州連合)全体に「台湾歓迎ムード」をもたらしており、EUは中国によるリトアニアへの経済制裁に対抗措置をとる方向へ動いている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(1月20日付)は、「台湾、米主導の経済枠組み参加に意欲 駐米代表会見」と題する記事を掲載した。

     

    台湾の駐米大使に相当する駐米台北経済文化代表処の蕭美琴代表は日本経済新聞のインタビューに応じ、米国が創設をめざすインド太平洋地域の経済的な協力の枠組みに「台湾も加われるよう希望している」と参加に意欲を示した。サプライチェーン(供給網)やデジタル貿易、インフラなどで民主主義勢力が連携し、中国の威圧に対抗する必要があると強調した。

     

    (1)「蕭氏は、安全保障に関する蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の上級顧問を経て2020年7月に現職に就いた。蔡氏の右腕として知られ、外交政策の決定に深く関わる。21年1月にはバイデン大統領の就任式に出席した。米大統領の就任式に台湾の駐米代表が正式に招待され、出席するのは1979年の米台断交後初めて。21年12月にバイデン氏が主催した「民主主義サミット」にも参加した。蕭氏はインタビューで、民主化の成功で開放性や創造性を高めた台湾の民主主義の維持は「価値だけでなく、戦略としての重要性がある」と語り、中国による香港への抑圧などアジアの民主主義を後退させないために極めて重要と指摘した」

     


    中国による香港への「国家安全維持法」導入以来、西側諸国は台湾を守れという意識が高まっている。これは、中国にとって予想外のことであろう。香港を得て台湾を失った感じである。インド太平洋戦略は、表面には出ていないが台湾防衛が主題である。そうでなければ、結成する意味はなかったであろう。

     

    (2)「バイデン米政権の複数の高官は、日本などの同盟国・友好国と近く「インド太平洋経済枠組み」を立ち上げ、経済面でのアジア関与を強める意向を示している。蕭氏は「中国の経済的な威圧、不正な操作、影響力の行使に対抗するには、国際的な貿易ルールを尊重する民主主義勢力が結束、連携するしかない」と語り、サプライチェーンの安定へ重要な役割を担う台湾を枠組みに入れることが「全ての参加者にとっての利益になる」と言明した。台湾が締結を目指す米国との貿易協定については「米国が重要性を真剣にとらえるよう希望する」と述べた」

     

    「インド太平洋経済枠組み」は、条約という形式を踏まない見込みである。議会で承認という煩雑さを嫌い、実効面で効果の上がる方式を模索していると言う。台湾も、この枠組に加入して、「クアッド」を経済面で支えることで「日米豪印」へ貢献しようという狙いと見られる。こうなると、台湾は韓国とバッティングすることになる。韓国の立ち位置が微妙になろう。

     


    (3)「中国による台湾への軍事的、経済的な威圧については、「武力行使を排除しない意志、軍事能力の急速な強化の両面で、深刻な脅威を感じる」と明言。台湾の自衛力増強によって中国の実力行使を阻止することを最優先の課題に挙げた。中国の抑止に向けた米国と台湾の防衛協力は「非常に幅広く多面的だ」と強調し、台湾海峡の現状維持へ米国が日本、オーストラリアや欧州の同盟国と結束を強めている動きを評価した」

     

    台湾は、秘密裏に山中に飛行機や武器弾薬を隠していると言われる。中国の不意を突く戦略である。米軍によって、台湾軍の訓練が行なわれている。

     


    (4)「蕭代表は、「米国の党派を超えた台湾への支持に感謝する」と述べ、与党・民主党、野党・共和党の両党議員から数多くの台湾訪問の申し出があると明らかにした。現在は新型コロナウイルスの厳しい感染防止措置で動きが鈍ったが「さらに多くの米議員による台湾訪問を歓迎する」と、交流の一段の深化に期待を示した。日本との関係では「台湾への新型コロナワクチンの寄付に感謝する」と表明。台湾が中国とほぼ同時に申請した環太平洋経済連携協定(TPP)への参加では「日本や地域の有力国がオープンな姿勢で台湾を支持してくれることを強く期待する」と述べた」

     

    台湾のTPP加盟について、日豪は「歓迎する」と言明している。だが、中国については、「条件クリアは厳しいだろう」と釘を刺している。台湾を歓迎し、中国を拒否する意向だ。台湾が、TPPへ加盟すれば台湾の国際的認知が一層進むと見られる。

     

     

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    安易な財源造りが命取り

    地価値下がりで経済直撃

    ゼロコロナが消費を圧殺

    高齢社会入りの「悲劇」

     

    中国のGDP統計が発表された。21年の実質経済成長率は、前年比8.1%である。その限りでは、高い成長率という評価になるが、四半期別に成長率推移を見れば、ゾッとするような急激な右肩下がりの成長であった。参考までに、四半期別成長率を示したい。

     

    21年四半期別成長率推移(前年同期比)

    1~3月期   18.3%

    4~6月期    7.9%

    7~9月期    4.9%

    10~12月期  4.0%

     


    上半期は、パンデミック下で前年同期が低成長で「ベース」が低かったので、高い成長率になったもの。いわば、形式的な高い成長率と言える。ところが、下半期になると事情は一変する。4%台へ低下している。注目点は、この4%台の成長コースが、22年経済にそのまま引継がれるリスクである。22年に入って改善を期待される需要項目が見当たらないのだ。今年の中国経済が、深刻な事態に向かっていることは明らかである。

     

    前記の短期的な経済問題に加えて、さらに大きな問題が浮上した。21年の出生数が1062万人と、1949年の建国以来で最低水準へ落込んだことだ。一方、死亡者は1014万人と出生数と接近している。こうして、昨年の「自然増」は48万人にすぎず、今年から「自然減」は不可避の状況になった。世界一の人口大国である中国が、ついに「人口減社会」へ突入する。この経済的、政治的インパクトは極めて大きいのである。

     

    これまで2027年ごろに、インドの人口が中国を抜くと見られてきた。だが、中国の予想以上に早い人口減入りによって、世界の人口トップの座はインドへ移る時期が早まる見込みである。

     


    中国は、これまで「世界一」の人口を誇ってきた。そのプライドが消え、同時に低水準の経済成長率が恒常化すれば、中国経済は一挙に「老齢期」を迎える。もはや、「元気溌剌」な経済は昔話になり、これからは常時、「年金財政破綻」を気にしながら経済運営する綱わたり経済へ移行する筈である。

     

    安易な財源造りが命取り

    中国における最大の見誤りは、「土地本位制」経済にたっぷりと浸かってきたことだ。日本の平成バブルが、不動産担保金融の破綻であったと同様に、中国も同じ過ちを国家レベルで行なったという救いがたい事態へ落込んでいる。

     

    平成バブルは、民間企業が土地を担保にして銀行から借り入れを増やしたことが発端である。通常の不動産担保は、時価の6割が妥当な評価水準である。ところが、実際には120%というさらなる値上り期待で銀行融資が行なわれていた。こういう貸出姿勢の金融機関が、その後の地価崩壊ですべて整理の対象になった。私は、この状況を記者として目の当たりにした。1990年のバブル崩壊(1月4日に株価大暴落)を、最も早い時点で「週刊東洋経済」社説で取り上げたのである。

     

    日本の場合は、民間企業における異常な金融問題であった。中国は、土地国有制を「悪用」して、土地売却益を中央・地方政府の財源(2020年は35%)に繰り入れていることだ。これは、中国全体が不動産担保金融に落込んでいた希有の事例である。

     

    世界最初の中央銀行は、英国のイングランド銀行(1844年)である。通貨発行の担保を何にするかで議論した。その際、土地担保案が出されたが、地価上昇によるインフレを警戒して却下した。代わって、商業手形が選ばれた。これならば、経済活動が一巡すれば回収されてインフレを招かないという理由である。この背後には、金本位制が控え通貨価値への信頼性をさらに保証した。

     

    中国は、前記のような通貨発行の歴史に挑戦して、「土地本位制」を選んでしまった。これまでは、地価値上りで財源が豊富であった。インフラ投資や国防費の隠れ予算にふんだんに使ってこられたのである。中国が、世界覇権を握れると錯覚した経済的な要因は、この土地本位性の「魔性」にある。打ち出の小槌を握っていると錯覚したのだ。

     


    現在、住宅バブルの崩壊で地価が値下がりしている。地価値下がりによる土地売却益減少で、地方政府は財源不足の直撃を受けている。すでに公務員の給与が大幅カットされた。中国経済は、地価値下がりで沈没の危機を迎えている。そういう認識が、中国当局にあるだろうか。

     

    20年の土地売却益は、過去最高の8兆4000億元(1兆3000億ドル)であった。これは、豪州のGDPを若干、下回る程度である。豪州のGDP(1兆4234億ドル)は、世界13位だ。これだけの「国富」を地価値上りで手にした中国は、錬金術で土地を「通貨」に変えたのである。手品は、いつまでも通用しない。去年から「ネタばれ」状態になっており、今年はさらに下落するという予測が一般的である。(つづく)

    次の記事もご参考に。

    2022-01-13

    メルマガ325号 「自縄自縛」習近平の敗北、コロナとバブル崩壊が追詰める中国経済

    2021-12-20

    メルマガ320号 予想以上の経済失速 習近平は「顔面蒼白」 危機乗切り策やっぱり「

     


     

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    前駐米大使の崔天凱氏は、帰国後の半年間姿を見せなかったが、昨年12月に初めて公の場に現した。その目的は、中国の「戦狼外交」が主要国から反感を招いており、味方にまで損害をもたらすという警告発言にあった。中国の政界、外交関係者の間で大きな話題になっているという。

     

    その成果が早速現れている。あの強面の王毅外相が、しおらしい発言をしたのだ。1月17日、南シナ海を巡る対立の平和的な解決が重要と強調し、中国が力を行使し、フィリピンを含む小規模な隣国を「脅かす」ことはないと表明した。

     

    『ロイター』(1月17日付)は、「中国、隣国を『脅かさず』平和的解決望む 南シナ海巡りー外相」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「王氏は、在マニラの中国大使館などが主催したバーチャル形式フォーラムで、「一方の主張を強調し、一方の意志を押し付けることは、隣国に対応する適切な方策ではなく、東洋の哲学に反する」と語った。さらに、両国が「善意と実用主義の精神に基づき、問題を適切に管理し、解決する」ことを望むと述べた。フィリピンは昨年11月、南シナ海を航行していた物資補給船に中国海警局(日本の海上保安庁に相当)の船が放水銃を使用して妨害したとして、中国を「最も強い表現」で非難すると表明した」

     

    王毅外相にしては、完全に穏やかな調子の話法であった。一昨年11月、駐豪州中国大使館は、豪州外務省に極めて強圧的な書簡を送った。その内容は、豪州が中国に対抗するような姿勢を続ければ、中国の強い対応を招くという「脅迫状」である。豪州はこの非礼に激怒して、軍事同盟「AUKUS」(米英豪)を結成して、あくまでも中国へ対抗する姿勢を鮮明にしたのである。

     


    前記の
    崔天凱氏が、古巣の外交部を公然と批判する演説をしたのである。これは、習近平氏の了解のもとに行なわれたという見方もあるほど、痛烈な「身内批判」であった。次のような内容だ。

     

    1)決して、私たち自身の不注意、怠惰、無能によって味方に損害を与えてはならない。

    2)中国の対米政策で重要なカギは対等な対抗措置による反撃ではない。中国人の利益になる反撃を考えることだ。

    3)原則として、準備のない戦い、現状把握なしのむちゃな戦い、腹立ちまぎれの戦い、消耗戦をしてはいけない。

     

    これらの3項目をみると、「戦狼外交」がまさにこれらに該当することが分る。中国外交は、味方をつくらず、敵だけを増やす結果になったのだ。中国外交を担う王毅氏にしてみれば、実に耳の痛い演説であったろう。その成果が、在マニラ中国大使館のバーチャル形式フォーラム発言になったと見られる。

     

    中国が、自ら戦狼外交へブレーキを掛けた裏には、米国務省の「南シナ海報告書」の存在も影響しているはずだ。

     


    『大紀元』(1月14日付)は、「南シナ海めぐる中国の主張は『違法』米国務省、報告書を発表」と題する記事を掲載した。

     

    米国務省は12日、南シナ海をめぐる中国の主張について報告書を発表した。「中国は南シナ海の大部分において不法な海洋権益を主張している」と結論づけ、違法かつ威圧的な活動を停止するよう求めた。

     

    (2)「米国務省は声明のなかで、南シナ海の歴史的権利を主張する中国を批判し「国連海洋法条約に反映されているような国際法との海洋権益を合致させるよう求める」と明記した。また中国が独自に策定した南シナ海のほぼ全域を囲う境界線「九段線」には法的根拠がないとし、2016年7月のオランダ・ハーグの仲裁裁判所の判決を順守すべきだと述べた」

     

    中国の南シナ海支配は、常設仲裁裁判所から違法判決が出ている。第二次世界大戦中であれば、戦争に発展する危険行為である。

     


    (3)「国務省がまとめた47ページの報告書には、中国の海洋主権の主張などが国際法と矛盾していると反論する内容も含まれた。例えば、中国が管理権を主張する100カ所以上の海底地形は、国が領海として定める「法的権限を超えている」と否定。中国の不法な主張は「海洋における法の支配を著しく損なっている」と非難した」

     

    米国務省が、中国の行為を違法と断定したことは、米国が中国艦船を攻撃する法的根拠を世界に明らかにしたとも言える重要な「警告行為」と言える。中国は、決して軽んじていいはずがない。

     

    (4)「米政府は、南シナ海をめぐって中国に厳しい目を向けてきた。2020年7月にはポンペオ前国務長官が中国の海洋主権の主張は「完全に違法」だと述べ、米国として中国の主張を初めて公式に否定した。また、九段線については「中国は筋の通った法的な根拠を出していない」と断じ「略奪的な中国の世界観は21世紀にはあり得ない」との見解を示した」

     

    下線部は、中国の野蛮な領土拡張を非難している。第二次世界大戦後、領土拡張は「野蛮行為」ということが暗黙の了解事項である。中国やロシアという全体主義国家は、「野蛮行為」から抜け出せないでいる。

     


    (5)「昨年4月にワシントンで行われた日米両首脳会談では、台湾海峡の安定や南シナ海問題などに言及した共同声明を発表。バイデン大統領は会談後の共同会見で、南シナ海や東シナ海における中国の挑戦に対抗していくとした上で「日米が共有する安全保障を断固として支持する」と述べ、中国を牽制した。1月7日の日米安全保障協議委員会(2プラス2)でも東・南シナ海で軍事的圧力を強める中国を念頭に日本の防衛力強化に向けた取り組みを協議し、中国に対抗する姿勢を示した」

     

    日米外交防衛「2プラス2」会談では、中国の「野蛮行為」への警戒を強めている。このほか、日英・日独・日仏がいずれも外交防衛「2プラス2」会談を組織しており、インド太平洋戦略への世界的な関心が高まっている。中国は、こういう動きを決して軽視してはならない。

       

    文氏はレガシー造り狙う

    最後まで北に賭ける哀れ

    聞く振りの米国バイデン

    対北問題は日米が主導権

     

     

    北朝鮮が、年明け早々5日、11日、14日と極超音速ミサイルの発射実験を行なった。

    韓国の文大統領は、昨年9月の国連総会で朝鮮戦争の「終戦宣言案」を公表。以来、この終戦宣言をめぐり議論されたものの、日米には反対論が強かった。北朝鮮の「終戦宣言」への回答は、3連続のミサイル発射実験で「ノー」と読めるのだ。

     

    文氏によれば、この終戦宣言は米朝の協定でない、としていた。米韓が一方的に宣言することで、北朝鮮が話合いに応じるような環境整備を促すというものである。百戦錬磨の北朝鮮は、在韓米軍の撤退を話合い条件に付ける可能性もあろう。その意味で、「終戦宣言」は北朝鮮に利用されるだけ。反対論者は、こういう危惧を前面に出していた。

     


    文氏はレガシー造り狙う

    文氏が、反対論にも関わらず終戦宣言構想に固執した理由は、大統領としての「業績」にしたかったことであろう。大統領職は5月10日までだ。残りの任期期間は僅かである。3月9日には、次期大統領が決まる。こういう政治日程を考えれば、文氏にとって「終戦宣言」が最も手っ取り早い業績つくりに違いない。北朝鮮が喜びそうなこの案について、北朝鮮はこれまで沈黙してきた。

     

    北朝鮮の金正恩氏は、北京冬季五輪への北朝鮮不参加を発表した。北京で文氏との遭遇機会を避けたのである。金氏が、文氏を忌避したのには理由がある。大統領の残り任期僅かな文氏と会って約束しても、実行される可能性がないことだ。金正日時代にも、盧武鉉大統領との面会でそういう事例があった。韓国次期政権が交代すれば、文氏と交わす約束も実行される保障はない。北朝鮮が、そうした無駄なことに時間を使う可能性はない。

     

    文氏は、こういう見通しを持てなかったのである。換言すれば、文氏の外交認識はこれほど低いというのが現実だ。

     

    韓国大統領は、国家元首である。誰の意見を聞かずとも、大統領一人の意見で政策を決められるという弱点がここに現れている。日本のような議院内閣制では、国会議員の意見が政策の舵を握る。韓国は「皇帝的大統領」ゆえに、間違ったことでも実行に付すという「裸の王様」である。韓国外交で起こりうる悲劇は、この大統領制にある。大統領が間違えば、国を滅ぼすリスクを抱える政治制度そのものにあるのだ。

     

    文氏の外交知識は、浅薄そのものである。言葉は悪いが思いつきである。その源流は、1980年5月の光州事件に始まる80年代の韓国民主化運動にある。学生運動を初めとする民主化運動が、国を揺るがし激動の時代のさなかにあった。連日のように大学キャンパスで開かれる学生集会。学生と機動隊の衝突。学生たちは火炎ビンを投げ、石を投げつけていた。ここでは当然、「親中朝・反日米」が運動の起点になる。

     

    文氏は、1975年の朴正熙時代の民主化闘争で検挙されている。その後、兵役に就いており、大学卒業は1980年だ。激動の韓国民主化時代を経験していることが、一生の政治姿勢を決めた。ただ、大統領就任後も前記の「親中朝・反日米」を無批判に受入れてきたことが致命傷になっている。現在は、2020年代である。すでに40年間のズレが生じている。その間の国際情勢変化を折り込まず、学生運動の「ノリ」で韓国外交を指揮した。その誤りは取り返しのつかない結果をもたらした。

     


    文大統領の下に集まった大統領府の秘書官の6割は、80年代の学生運動経験者である。この一大「元学生運動家」が、「親中朝・反日米」外交政策で邁進したことは疑う余地もない。韓国外交は、「40年間」の時代のズレを伴って生き続け、ついに後述のように破綻したのである。

     

    最後まで北に賭ける哀れ

    北朝鮮は1月5日、弾道ミサイルと推定される飛翔体1発を日本海に向けて発射した。昨年10月の新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射以来である。この際、文氏はなんと発言したかだ。驚くべきことを言ってのけたのである。

     

    文大統領は、「南北間の信頼を蓄積していけば、ある日突然、私たちに平和が訪れるだろう」と述べたのである。何か、教会で牧師の説教を聞かされている錯覚さえ覚えるのだ。「神のお恵みによって地上へ平和が訪れるように」と祈りを捧げている場面である。もちろん、神への祈りを否定するものではない。だが、一国の運命を率いる大統領の発言としては、他人事のように聞えるのである。そこには、外交政策も安全保障政策も消えているからだ。

     


    韓国では、北朝鮮のミサイル発射を「挑発」と規定せず、警告や遺憾の表明もしなかった。韓国政府は、北朝鮮をいつものようになだめることに汲々としている。これでは、北朝鮮が増長して、ミサイル発射実験をやりたい放題に行って当然であろう。

     

    文氏にとって北朝鮮は、「主敵」の位置にない。大統領就任後に、韓国軍の「主敵」が北朝鮮であるとの規定を削除してしまった。「主敵」でない北朝鮮が、ミサイル発射実験を行なっても「隣国」の出来事くらいしか捉えていないのだ。恐るべき安全保障の「不感症」に陥っていると言うほかない。代わって、「主敵」は周辺国に置換えられている。つまり、日本である。1980年代、韓国学生運動の「親中朝・反日米」の「反日」が、現実の安保政策で実現したことになろう。(つづく)


     

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