勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

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    欧米では、プーチン・ロシア大統領への怒りが沸騰している。国家元首であるプーチン氏を個人制裁する意向を固めた。異例のことである。これにより、プーチン氏が外国に所有する資産(一説では400億ドル)が凍結される。ただ、実際にどれだけの資産が海外にあるかは不明で、「プーチン制裁」は象徴的な意味とされる。

     

    『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「米政府、プーチン氏個人を標的に制裁発動へー主に象徴的な措置」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアがウクライナに侵攻したことを受け、米国はロシアのプーチン大統領個人を対象とした制裁発動を計画している。事情に詳しい関係者が明らかにしたもので、近く発表される見通しだという。欧州連合(EU)と英国もプーチン氏個人を標的にした制裁を発動する方向にある。プーチン氏の資産については、その規模や所在に関する情報が不確かなため、制裁を発動しても主に象徴的な意味合いになる。

     


    (1)「プーチン氏は2008年、欧州一の富豪として400億ドル(約4兆6230億円)の資産を保有すると報じられたが、年次記者会見で「根も葉もないでっち上げだ」と一蹴した。ニューヨークのコンサルタント会社オリバー・ワイマンで制裁を担当するダニエル・タネンバウム氏は、制裁の意図がプーチン氏に対する西側の団結した姿勢を示すことにあるのならその目的を果たす可能性はあると指摘。しかし、「同氏の個人資産接収が目的ならば、完全な成功を遂げるのは極めて難しいだろう」と述べた」

     

    プーチン氏は2008年に、400億ドルの資産家と言われたことがある。ロシアの新興財閥の後ろ盾になっていることから言えば、あながち「噂」とは言えまい。献金があったとしても不思議はない。国家元首が個人制裁を受けるとは、ロシアにとって最大の恥辱である。

     

    西側諸国が一致した対ロ経済制裁に踏み切る。これは、ロシア経済にとって大きな負担になるはずだ。経済沈滞を招くことは不可避である。格付け会社は、一斉にロシアの格付けを「ジャンク級」に引下げる。

     

    『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「S&Pがロシアをジャンク級に格下げー引き下げや見直し相次ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアとウクライナとの戦闘激化の中にあって、格付け会社S&Pグローバル・レーティングは25日、ロシアの信用格付けをジャンク級(投機的格付け)に引き下げ、ウクライナも格下げとした。ウクライナの格付けを引き下げたフィッチや、両国のソブリン格付けを引き下げ方向で見直すと発表したムーディーズ・インベスターズ・サービスの動きに加わった。

     


    (2)「S&Pは従来「BBB-」だったロシアの格付けを「BB+」と、投資適格級を下回る水準に引き下げるとともに、さらなる格下げの可能性を指摘。ウクライナ侵攻に対する「強力な」国際的な対ロシア制裁を理由に挙げた。同社はウクライナの格付けも「B-」と、これまでの「B」から引き下げた」

     

    S&Pは、ロシア国債の格付けを「BB+」とした。これは、投資適格級を下回る水準であり、ジャンク級を意味する。国際的な対ロシア制裁が、ロシア経済を徹底的に「打ちのめす」という理由である。外貨準備高6300億ドル(22年1月)も、防波堤にならない。

     

    (3)「ムーディーズは現在、ロシアをジャンク級より一つ上回る「Baa3」、ウクライナはジャンク級で上から6番目の「B3」としている。フィッチはウクライナの格付けをジャンク級で上から7番目の「CCC」と、従来の「B」から引き下げた。ムーディーズは発表文でロシアによるウクライナ侵攻について、地政学的リスクの「一段と大幅な高まり」を示すもので、厳しい対ロ制裁が講じられ、「ソブリン債の返済に影響する可能性がある」と説明した」

     

    ムーディーズは現在、ジャンク級よりも一つ上の格付けであるが、引下げる可能性を認めている。

     


    国際的な格付け会社が、ロシア経済に対して否定的見方をしている。これを受けて、中国は「ロシア接近」のポーズから微妙にスタンスを変えている。国連安全保障理事会の「ロシア非難決議」において、反対せず棄権に回ったのだ。中国が、国際社会からロシアと同じであると見られたくない。そういう「本音」をのぞかせた。

     

    『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「中国の大手国有銀、ロシア産商品購入のための融資を制限-関係者」と題する記事を掲載した。

     

    中国の大手国有銀行で少なくとも2行がロシア産商品購入のための融資を制限している。米国と同盟国が対ロシア制裁を発表する中で、戦略的に特に重要なロシアとの経済関係を維持するとした中国の方針に、限界が迫っていることが浮き彫りになった。

     

    (4)「事情を知る関係者2人によれば、中国工商銀行の国外部門は、ロシア産商品現物を購入するためのドル建て信用状(LC)の発行を停止。人民元建てのLCは一部顧客を対象に発行可能だが、上級幹部の承認を要するという。関係者は部外秘情報だとして匿名で話した。中国銀行(バンク・オブ・チャイナ)も自社によるリスク査定に基づき、ロシア産商品向け融資を制限している。別の関係者が明らかにした。関係者2人によれば、中国規制当局からロシアについて同行に明示的な指針は出されていない」

     

    中国工商銀行は、ロシア産商品現物を購入するためのドル建て信用状(LC)の発行を停止した。LCが出なければ、輸入が不可能という意味だ。中国政府はロシア産の小麦・大麦の輸入を増やすと発表したが、現実は抑制に動いている。中国銀行もロシア産商品向け融資を制限しているのだ。

     


    (5)「中国の大手金融機関と習近平国家主席にとって、今回の融資制限は難しいバランスを探った結果だ。中国にとってロシアは主要なエネルギー供給元であり、米国との地政学的な対立で中ロが協調することも多い。その一方で、中国製品を多く輸入し、ドルが支配する国際金融システムへのアクセスをコントロールする西側諸国に比べると、中国におけるロシア経済の重要性は見劣りする

     

    下線のように、中国ビジネスの多くは西側諸国との間で行なわれている。ロシアを救って、西側市場を失えば元も子もない。中国が、経済的にロシアへ接近することは困難になっている。欧米の経済制裁の強さに驚いているのだろう。これは、中国の台湾侵攻の際にも起こりうる経済制裁である。習近平氏は、首をすくめて見ているはずだ。

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    2月24日未明、ロシアがウクライナへ軍事行動を開始した。この侵攻作戦は、いかなる目的を持っているのか。ロシアは、ウクライナに親ロ派で米国の影響を受けない新政権の樹立を狙っていると、ロシア与党の幹部議員が語った。ロシア下院国際問題委員会の第1副委員長を務めるニコノフ議員は、「ウクライナ新政権にはロシアとの建設的な関係を支持することを求める」と国営テレビで述べ、「その実現に必要なことは何でもする」と主張した。以上は、『ブルームバーグ』(2月24日付)が伝えた。

     

    ロシア国内では、この無謀な戦いの先行きを懸念して株価の暴落とルーブルの急落を招いている。ロシアでもこの侵攻が招く経済制裁によって、混乱することを予感しているのだろう。

     


    『ブルームバーグ』(2月24日付)は、「ロシア株大幅安、ルーブルは対ドル最安値-中銀が為替介入へ」と題する記事を掲載した。

     

    ロシア資産の価格が24日の金融市場で急落した。通貨ルーブルは対ドルで急落し、最安値を更新。株式相場も過去最大の下落となり、MOEX指数は一時45%下げた。

     

    (1)「ロシア銀行(中央銀行)は外国為替市場に介入し、金融市場の安定化を図る措置を講じると発表した。介入は数年ぶり。同中銀は利上げには言及していないものの、1兆ルーブル(約1兆3700億円)の翌日物レポ入札を同日実施し、銀行システムに追加の流動性を供給するとした。午後の取引で株価とルーブルは下げ幅を縮小。一時9.4%安となったルーブルはモスクワ時間午後0時59分(日本時間同6時59分)現在、3.6%安の1ドル=84.2250ルーブル。MOEX指数は25%安。ロシア最大の銀行ズベルバンクの株価は45%安、ガスプロムは39%下げた」

     

    ロシア国内では、多くがウクライナ侵攻をないと見ていた。それだけに、その反動が大きくなっている。今後、本格化する西側諸国の経済制裁の事態が明らかになると共に、株価はルーブルへの影響が大きく出るであろう。

     


    ルーブル安は、国内消費者物価を刺激する。昨年9月から前年比8%台の上昇率である。今年1月は8.73%でジリジリと上昇速度が上がっている。今回のルーブル安が、輸入物価を押し上げるのは確実。消費者の不満を高めるであろう。

     

    『ロイター』(2月23日付)は、「プーチン大統領に残された選択肢は戦線拡大」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部ドンバス地方の親ロシア派が実効支配する地域を独立国家として承認し、手持ちのカードがこれで尽きたわけではないと述べた。同氏は22日、「今後どんな行動を取り得るのかを具体的に示すことは到底できない。現地の状況次第だ」と話した。

     

    (2)「政治コンサルティング会社R・ポリティークの創設者タチアナ・スタノバヤ氏は、「ロシア軍の侵攻が親ロ派地域にとどまるわけがない。さらに戦線を広げなければ彼らにとって意味がない」と語る。「プーチン氏の論法に従えば、ウクライナの大部分を手に入れる必要がある」。スタノバヤ氏はさらにこう付け加えた。「ウクライナに対する攻撃をどう正当化するのか想像もできないが、ほかに選択肢は見当たらない。目標は今の状態のウクライナを終わらせることだ。ウクライナがなくなれば、問題は解決する」と指摘する」

     

    プーチン氏は、ウクライナを消さない限りロシアの安全保障が維持できないという極端な考えに立っている。これは、西側諸国と完全に対立する考えである。プーチン氏は、解決のない道へ踏込んでしまった感が強い。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月22日付)は、「プーチン氏の終盤戦、ウクライナ超えた野望」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「ジョンズ・ホプキンス大学のメアリー・サロッティ教授(歴史学)は指摘する。プーチン氏はベルリンの壁が崩壊したとき、独ドレスデンの旧ソ連国家保安委員会(KGB)にいた。その後、ソ連が崩壊する直前の1990年に自国に戻された。サロッティ氏によると、プーチン氏は現在、ソ連時代のようにロシア周辺に緩衝地帯を築き、超大国の米国と肩を並べ影響力を誇示したいと考えているプーチン氏のアプローチは、他のNATO加盟諸国を通り越して米国と真っ向勝負することを狙っている。それには同氏の信念が見て取れる。つまり、世界の問題はロシアを含む大国が解決するべき、というものだ」

     

    プーチン氏は、ロシアの国力を忘れて米国と真っ向勝負する覚悟という。米ソ対立時代の再現である。これは、プーチン氏の認識錯誤である。米国には同盟国が控えている。ロシアへ共同経済制裁することを忘れているのだ。こういう点から、プーチン氏は故サッチャー英国首相と同様に辞任寸前の「頑迷固陋」に陥っているのでないか。もっとはっきり言えば、「認知症」を疑われているのだ。

     


    (4)「プーチン氏はこれまで、危機の瀬戸際で能力を発揮してきた。今回、プーチン氏は相当大きな賭けに出ており、簡単には出口が見えない状況に自ら身を置いている。軍部隊を撤退させ、西側各国指導者の注目を集めたばかりか、欧州の安全保障について協議するという米国の約束を得たと主張することもできるが、実現は困難であろう新安保条約を同氏が要求していることを考えれば、従順な段階的緩和を行えば面目を失いかねない」

     

    プーチン氏は、大きな賭けに出ている。ウクライナを消してしまうほどの振る舞いである。途中での妥協を許さないもの。それだけ、解決が難しくなる。

     


    (5)「プーチン氏がウクライナを侵攻するなら、リスクは高まる。西側の軍事専門家はロシア軍が勝利するとみている。だが、敵対的な住民を長期間服従させようとすれば、泥沼にはまる可能性がある。ウクライナの一部地域を切り取ろうとして軍部隊を派遣する場合(例えば、ロシアが併合したクリミアをロシアとつなぐ横断陸路の建設)でも、西側は大規模な制裁を科す可能性が高い。そうなれば、2024年の再選を目指すプーチン氏にとって大きな逆風となる恐れがある

     

    下線部は、重要な指摘である。西側は経済面で優位に立っている。ロシアの産物は、穀物(小麦とトウモロコシ)、原油・天然ガスである。工業製品では見るべきものがない。西側諸国は、ここを狙って経済制裁を加える。半導体も輸入禁止だ。いずれ、ルーブルが米ドル決済機構から追放される。ロシア経済は万事休すとなろう。プーチン氏は、ここまで考えているとは思えない。「認知症」疑惑が、つきまとう理由である。

     

    あじさいのたまご
       

    ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ問題で巧妙に立ち回っている。大軍をウクライナ国境に集め、軍事侵攻の構えを見せながら、現実にはウクライナ東部の「独立国承認」という手を使ってきた。西側の予想を超えた動きである。プーチン氏は、これからどう動くのか。韓国メディアが注目すべき報道をしているので取り上げる。

     

    『東亞日報』(2月24日付)は、「プーチン氏の『グレー戦術』 派兵『今すぐではない』混乱誘発」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部への派兵を決定した翌日の2月22日(現地時間)、「今すぐウクライナのドンバス地域に軍隊を送るとは言っていない」と述べた。しかし、北大西洋条約機構(NATO)は、ロシア軍がウクライナ東部ドンバス地域に進入したことを確認した。これについて米紙ニューヨーク・タイムズなど外信は、自身の考えと真実をわからなくし、相手に圧力をかけるプーチン氏特有の「グレー戦術」と指摘した。



    (1)「ロシアのノーボスチ通信などによると、プーチン氏は同日、ロシア上院の派兵承認後、メディアに「ロシアは(ドンバス地域の親ロシア派武装勢力の)『ドネツク人民共和国(DPR)』、『ルガンスク人民共和国(LPR)』と結んだ脅威時の軍事協力の規定によって軍事的支援をする」と明らかにした。また、「今すぐにロシア軍隊がドンバスに行くとは言っていない。現地の状況次第だ」と述べた」

     

    プーチン氏は、DPRとLPRの独立承認という国際法違反行為をしているが、すぐにロシア軍を派遣するかは状況次第としている。

     


    (2)「NATOと欧州連合(EU)が、ロシア軍の進入を確認した状況で、プーチン氏がこのようなメッセージを出すのは、西側に混乱を与えようとするプーチン氏特有の「グレー戦術」であり、軍事作戦に心理戦、フェイクニュース、政治工作などを結合させた「ハイブリッド戦術」だと、軍事専門家らは指摘する。ニューヨーク・タイムズは、「プーチン氏は、大規模な攻撃と一国家を解体する方式、ニシキヘビのように締め付ける戦略を活用している」とし、「莫大な費用と軍事力が必要な全面戦争よりも段階的にウクライナ内部を破壊し、戦車を動員せず西側に圧力をかけている」と報じた。ロシアが15日にウクライナ国境付近のロシアの一部部隊を撤収したと言ったが、実際は兵力を増強したことも同じ脈絡だ」

    プーチン氏は、大軍を動かして圧力をかけるが、巧妙に立ち回っている。「孫氏の兵法」を彷彿とさせるような振る舞いである。「戦わずして勝つ」という方程式を実践している。

     

    (3)「一部では、プーチン氏が全面戦争に対する負担を感じているという分析もある。プーチン氏のDPR、LPR独立承認および派兵決定直後、ロシアの株価指数であるMOEX指数は10.5%、ロシアの通貨ルーブルの為替レートが3.4%急落した。ロシアの独立系世論調査機関レバダ・センターが昨年末、「ロシアのウクライナ侵攻およびロシア統合」についてアンケート調査を行った結果、賛成は25%にとどまった」

     

    ロシアの株価とルーブルが急落している。西側の経済封鎖がロシア経済に及ぼす悪影響を予知しているのだ。ロシアの世論調査では、ウクライナ侵攻賛成は25%に止まっている。プーチン氏は、2024年の大統領選を意識したウクライナ侵攻という見方もある。思惑が外れる可能性も出て来た。

     

    (4)「CNNは、プーチン氏は、「巧みな日和見主義者であり、実用主義者で合理的選択ができる。今やプーチンが次にすることにすべての視線が集まった」と伝えた」

    プーチン氏については、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月22日付)が興味深い指摘をしている。

     

    プーチン氏には、同じく長期政権を担ったマーガレット・サッチャー元英首相と重なる点があるかもしれない。「政治的な勘を失いつつあった1989年、1990年のサッチャー氏のような立場にある」と。「彼(プーチン氏)は以前ならやめ時を分かっていたが、今はそうした勘を失っていると言っていいかもしれない」


    サッチャー氏の首相末期は、強引な振る舞いで側近すら反旗を掲げて辞任へ追い込まれた。悲劇的な末路であったが、プーチン氏はそれに重なる部分があるというのである。一見、「孫氏の兵法」のごとく行動しているが、落し穴は米ドル決済網から外される日を予測していないことだろう。

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    中国は、ロシアのウクライナ対応をめぐる西側諸国の動きを、他人事ならず見ているであろう。中国が、台湾侵攻をした場合にどのような制裁を受けるか、予測できるひな形がウクライナ問題であるためだ。

     

    中国は、ウクライナ問題では対米関係を考慮して慎重になっている。ロシア支持一辺倒という態度を取ることなく、王毅外相は「あらゆる国の主権、独立、領土の一体性は尊重されるべきだ」と発言しているからだ。この辺に、中国の悩める姿勢が滲み出ている。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(2月21日付)は、「ウクライナ危機、中国の対ロシア政策に試練」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアによるウクライナ侵攻の懸念が高まるなか、中国は習近平国家主席のプーチン・ロシア大統領への支持と地域の安定という自国の利益との間でバランスを取る必要が生じていると専門家は指摘する。

     

    (1)「中国は2月4日、ロシアと歩調を合わせて北大西洋条約機構(NATO)拡大に反対し、習氏とプーチン氏の協力関係が新たな段階に達したことを示した。しかし、中国の王毅外相は19日、ドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議で「あらゆる国の主権、独立、領土の一体性は尊重されるべきだ」と発言した。また「対話と協議を通じて欧州の安全と安定が真に保障される解決策が見つかることを期待する」とも述べた。王氏は1月下旬にはウクライナをめぐり米国とNATOと対立するロシアへの支持を表明し、ロシアは「安全保障上の合理的な懸念」を抱いていると述べていた。19日の発言は立場の変化を示している」

     

    中国の王毅外相はウクライナ問題に付いて、1月下旬の発言でロシア支持を明らかにしたが、2月19日の発言では中立的な発言にもどっている。ウクライナをめぐる揺れる中国の立場を示すものだ。余りにロシア寄り姿勢を見せれば、西側諸国との溝を深めることを懸念しているからだ。

     


    (2)「王氏の論調は、緊張を高めているとバイデン氏を非難する中国外務省の見解とも異なる。
    中国のある有名大学の国際関係論のベテラン研究者によると、中国はロシアを支持する一方でウクライナとの軍事的、経済的関係を損なわないよう「バランスを取る」必要があるという。「欧米メディア、さらに欧米政府関係者の一部には、中国がロシアのウクライナ侵攻を支持するという共通の誤解がある。それは事実ではない」とこの研究者は匿名を条件に話す。「いかなる軍事紛争も、特に大規模な戦争は疑いなく中国の欧州での利益を損なう」王氏は中立を保っていると見せようとしているが、欧米がロシアに金融制裁を課した場合はその立場が試される

     

    中国は、米国との対立に加えて欧州とも溝を深めれば、先進国から「外交孤児」となる。「一帯一路」のリーダーというお山の大将では、どうにもならないからだ。

     

    (3)「米シンクタンク、外交政策研究所のユーラシア担当部長クリス・ミラー氏は、「中国が欧米の新たな制裁を順守するか、あるいはロシアの制裁回避を手助けするかによって、状況がどうエスカレートし、制裁でどの程度ロシアが経済的、政治的に孤立するかが決まる」とリポートに記した。中国は米国やNATOへの対抗に関しては公にロシアを支持しているが、ウクライナの主権侵害に関する留保は別の問題として扱おうとするだろうと専門家は指摘する。「中国とロシアの相互支持は、米国の優位性に挑戦する時に最も強くなる。この点で両国の利益が一致するからだ。だが、領土問題になるとお互いの行動に関してやや曖昧な立場を示す」と豪シドニーにあるニューサウスウェールズ大の中ロ安全保障関係の専門家、アレクサンダー・コロレフ氏は指摘する」

     

    中国には、下線部の領土問題が絡む事態になると、ロシアと微妙な違いを見せている。中国が「一帯一路」で経済権益拡大を目指す地域に旧ソ連領を含む。ロシアが、この地域に対して「宗主国」としての権利を主張し軍事行動を発動する事態になれば、中国は大きな被害を受けるのだ。ここが、中ロ協調路線の「レッドライン」となろう。

     


    (4)「中国のウクライナでの権益は、数十億ドル(数千億円)規模の建設契約、通信機器大手華為技術(ファーウェイ)を通じた通信分野への投資やウクライナ製の軍事装備品の購入などが含まれる。中国は、ウクライナとロシアに対し(ウクライナ東部紛争の停戦と和平への道を示した2015年の)ミンスク合意の復活を求めているが、一方で「内政不干渉」の立場の堅持も主張している。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の初期から内向き志向を強めている中国が緊張緩和に向け、より大きな外交上の役割を果たそうとするのか、あるいは軍事行動に傾くプーチン氏を支持するのか、専門家の間でも見方が分かれている」

     

    このパラグラフは、苦しい中国の胸の内を示している。中ロは、NATOの拡大反対で一致する。NATOが将来、インド太平洋地域へ拡大されれば、中国が封じ込められるからだ。だが、ロシアによる「内政干渉」になる軍事行動が始まれば、ロシアへ同調できなくなるという限界点を抱える。欧米の対ロ経済制裁が発動されて、中国へもその影響が及び兼ねないからだ。

     


    (5)「欧米が、ウクライナ危機で制裁を発動すれば、ロシアの中国依存度が高まる。習氏は将来、米国と紛争が起きた際にどう行動すべきか制裁の成否から学べると専門家は見ている。
    「欧米がロシアに高い代償を払わせることに成功すれば、アジアで危機が起きた際に中国に制裁を課すとの脅しが通用しやすくなる」とミラー氏は指摘する。「(しかし)もし制裁の影響を緩和するために中国がロシアに協力すれば、米国は重要なツールを失い、経済的手段で中国を抑え込む能力は低下する」。22年2月に習氏とプーチン氏が北京で会談した際、ロシアから中国への天然ガス供給増でも合意した」

     

    中国外交部は、ロシアと同盟を結んでいないと発言している。だが、ロシアは欧米から受ける経済制裁の逃げ道を中国に求めて手助けされる形となれば、最終手段として金融制裁が発動される。これは、中国に甚大な影響が出るはず。中国には、台湾侵攻で予想される広範囲な経済制裁の「模擬実験」となろう。

     

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    文政権は、これまで南北統一を目指して動いてきたが、具体的に国連軍の機能弱体化を狙ってきたことが分った。文政権下で韓国軍の首脳を務めた元将官5人が、揃って『中央日報』のインタビューに答えて明らかにしたもの。

     

    文政権は、北朝鮮の意向に沿って行動すれば、それによって南北交流が進展するという、極めて主体性のない行動規範に従ってきた。これでは、韓国の主権を喪失する大きな危険性を持っている。日本の安全保障にも関わる重大問題である。

     


    『中央日報』(2月21付)は、「尹候補陣営に合流した文政権の軍指揮部5人『大統領府は国連軍司令部の弱化を望んだ』」と題する記事を掲載した。

     

    「青瓦台(チョンワデ、韓国大統領府)は国連軍司令部の機能と役割を持続的に弱化させることを望んだ」。最大野党・国民の力の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領候補陣営に合流した文在寅(ムン・ジェイン)政権の軍指揮部5人(陸・海・空軍参謀総長、韓米連合司令部副司令官、海兵隊司令官)が18日、中央日報のインタビューに応じ、このような発言が出てきた。青瓦台が2020年4月の総選挙を控え、「ソウル龍山(ヨンサン)基地内の連合司令部などの平沢(ピョンテク)早期移転を勧めた」と主張しながらだ。

     


    (1)「将星を意味する星の個数だけで計19個、5人の予備役大将・中将がメディアのインタビューに団体で応じるのは今回が初めてだ。この日のインタビューで予備役将星らは「青瓦台は終戦宣言のために国連軍司令部を最も大きな障害物とみている」と口をそろえた。崔秉赫(チェ・ビョンヒョク)元韓米連合軍司令部副司令官(2019年4月~2020年9月在任)は、「青瓦台の会議(2019年12月)で『国連軍司令部がなぜ作戦権限の拡大を図るのか』などと露骨に不満を表した」とし「政府の開城(ケソン)工業団地支援を国連軍司令部が妨害して阻止するという理由から、国連軍司令部を弱化させて試みた」と述べた」

     

    韓国軍は、国連軍司令部の指揮下にある。いわゆる「統帥権」は韓国にないのだ。制度的に言えば、現状は朝鮮戦争の「休戦状態」にある。韓国軍が、国連軍の指揮下にあるのはやむを得ない措置だ。

     


    文政権のように「親中朝政権」が登場すると、「統帥権」が韓国軍に渡ると極めて厄介な問題が起こる。南北が示し合わせて軍事行動を起せば、韓国の北朝鮮化が実現するからだ。この事態を避けるためにも、国連軍司令部の存在は不可欠であろう。

     

    (2)「続いて、「国連軍司令部といかなる協議もなく『板門店(パンムンジョム)共同警備区域(JSA)管理主体から米国側を抜いて南北が直接統制しようという試みがあった』と、国連軍司令部の関係者から聞いた」と具体的な事例を挙げた。崔元副司令官によると、3回の南北首脳会談以降に政府が推進した東部戦線非武装地帯(DMZ)内「高城GP(監視哨所)」の民間人開放問題も葛藤を招いた。このGPは「9・19南北軍事合意」に基づき警戒兵力が撤収したところであり、今年1月1日に脱北者越北事件が発生したところでもある」

     

    文政権は、GP(監視哨所)の警戒兵力を撤収したが、脱北者越北事件を発生させた。北朝鮮との軍事的緊張関係は、依然として続いているにもかかわらず、こうした失態を招いている。最大の問題は、韓国軍全体が緊張感を低下させることだ。前線に歩哨が立たない軍隊など、聞いたこともない話だ。

     


    (3)「崔元副司令官は、「(青瓦台は)金剛山(クムガンサン)観光再開のための前哨作業として『平和の道』を作りながらGPと前方の鉄柵の開放を望んだ」とし「国連軍司令部が基本的な安全措置に言及しながら意見を尊重してほしいと要求したが、政府はこれを守らず不必要な葛藤を誘発した」と明らかにした」

     

    国連軍司令部は、GPに歩哨が立たないことに異を唱えた。文政権は、これを無視したのだ。

     

    (4)「国連軍司令部解体の主張は、与党から引き続き提起されてきた。共に民主党の宋永吉(ソン・ヨンギル)代表は国会外交統一委員長当時の2020年8月、「国連軍司令部が南北関係に干渉できないよう統制しなければいけない」と述べた。これに先立ち「南北関係の最も大きな障害物」(文正仁大統領統一外交安保特別補佐官、2019年9月)、「国連軍司令部が話にならない越権を行使する」(任鍾ソク元大統領秘書室長、2020年5月)などの発言もあった。これに関連し、崔元副司令官は「1、2人でなく青瓦台の全般的な基調がこのような意見だった」と伝えた」

     

    韓国与党は、国連軍司令部を邪魔物扱いである。国連軍が、朝鮮戦争の敗北を食止めた事実を忘れているのだ。これが、韓国の「恩知らず」と言われる一面を現している。

     


    (5)「国連軍司令部の解体は、北朝鮮の長い念願でもある。昨年10月27日、北朝鮮の金星(キム・ソン)国連大使は国連会議で「米国が国連軍司令部を不法に設立した」とし「邪悪な政治・軍事目的を達成するために平和維持という口実で国連の名前を悪用してはいけない」と主張した」

     

    文政権の主張は、北朝鮮に同調している。それが、南北交流を促進していると錯覚しているからだ。ここまで、文政権は「従北姿勢」を明確にしている。

     

    (6)「崔元副司令官は、「青瓦台が連合司令部の敷地をはじめ、ドラゴンヒルホテルなど龍山(ヨンサン)米軍基地施設の平沢(ピョンテク)早期移転を勧めた」とも明らかにした。続いて「ドラゴンヒルホテルは米国政府関係者が訪韓すれば宿舎としても使用するところだが、代替施設を用意など関連予算も確保していない状態で『まず移転しよう』という形で強行した」とし「選挙(2020年4月の国会議員選挙)の前に政治的な成果を誇示しようという意図があったようだ」と話した」

     

    文政権は、リベラルでなく民族主義で凝り固まっている。これが、北朝鮮への無原則なまでの同調に現れている。北朝鮮は、韓国を侵略した国である。文政権は、こういう解釈でなく「民族統一戦争」と理解している。北朝鮮の主義主張と一致するのだ。それゆえ、国連軍司令部は、邪魔な存在になる。

     

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