欧米では、プーチン・ロシア大統領への怒りが沸騰している。国家元首であるプーチン氏を個人制裁する意向を固めた。異例のことである。これにより、プーチン氏が外国に所有する資産(一説では400億ドル)が凍結される。ただ、実際にどれだけの資産が海外にあるかは不明で、「プーチン制裁」は象徴的な意味とされる。
『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「米政府、プーチン氏個人を標的に制裁発動へー主に象徴的な措置」と題する記事を掲載した。
ロシアがウクライナに侵攻したことを受け、米国はロシアのプーチン大統領個人を対象とした制裁発動を計画している。事情に詳しい関係者が明らかにしたもので、近く発表される見通しだという。欧州連合(EU)と英国もプーチン氏個人を標的にした制裁を発動する方向にある。プーチン氏の資産については、その規模や所在に関する情報が不確かなため、制裁を発動しても主に象徴的な意味合いになる。
(1)「プーチン氏は2008年、欧州一の富豪として400億ドル(約4兆6230億円)の資産を保有すると報じられたが、年次記者会見で「根も葉もないでっち上げだ」と一蹴した。ニューヨークのコンサルタント会社オリバー・ワイマンで制裁を担当するダニエル・タネンバウム氏は、制裁の意図がプーチン氏に対する西側の団結した姿勢を示すことにあるのならその目的を果たす可能性はあると指摘。しかし、「同氏の個人資産接収が目的ならば、完全な成功を遂げるのは極めて難しいだろう」と述べた」
プーチン氏は2008年に、400億ドルの資産家と言われたことがある。ロシアの新興財閥の後ろ盾になっていることから言えば、あながち「噂」とは言えまい。献金があったとしても不思議はない。国家元首が個人制裁を受けるとは、ロシアにとって最大の恥辱である。
西側諸国が一致した対ロ経済制裁に踏み切る。これは、ロシア経済にとって大きな負担になるはずだ。経済沈滞を招くことは不可避である。格付け会社は、一斉にロシアの格付けを「ジャンク級」に引下げる。
『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「S&Pがロシアをジャンク級に格下げー引き下げや見直し相次ぐ」と題する記事を掲載した。
ロシアとウクライナとの戦闘激化の中にあって、格付け会社S&Pグローバル・レーティングは25日、ロシアの信用格付けをジャンク級(投機的格付け)に引き下げ、ウクライナも格下げとした。ウクライナの格付けを引き下げたフィッチや、両国のソブリン格付けを引き下げ方向で見直すと発表したムーディーズ・インベスターズ・サービスの動きに加わった。
(2)「S&Pは従来「BBB-」だったロシアの格付けを「BB+」と、投資適格級を下回る水準に引き下げるとともに、さらなる格下げの可能性を指摘。ウクライナ侵攻に対する「強力な」国際的な対ロシア制裁を理由に挙げた。同社はウクライナの格付けも「B-」と、これまでの「B」から引き下げた」
S&Pは、ロシア国債の格付けを「BB+」とした。これは、投資適格級を下回る水準であり、ジャンク級を意味する。国際的な対ロシア制裁が、ロシア経済を徹底的に「打ちのめす」という理由である。外貨準備高6300億ドル(22年1月)も、防波堤にならない。
(3)「ムーディーズは現在、ロシアをジャンク級より一つ上回る「Baa3」、ウクライナはジャンク級で上から6番目の「B3」としている。フィッチはウクライナの格付けをジャンク級で上から7番目の「CCC」と、従来の「B」から引き下げた。ムーディーズは発表文でロシアによるウクライナ侵攻について、地政学的リスクの「一段と大幅な高まり」を示すもので、厳しい対ロ制裁が講じられ、「ソブリン債の返済に影響する可能性がある」と説明した」
ムーディーズは現在、ジャンク級よりも一つ上の格付けであるが、引下げる可能性を認めている。
国際的な格付け会社が、ロシア経済に対して否定的見方をしている。これを受けて、中国は「ロシア接近」のポーズから微妙にスタンスを変えている。国連安全保障理事会の「ロシア非難決議」において、反対せず棄権に回ったのだ。中国が、国際社会からロシアと同じであると見られたくない。そういう「本音」をのぞかせた。
『ブルームバーグ』(2月26日付)は、「中国の大手国有銀、ロシア産商品購入のための融資を制限-関係者」と題する記事を掲載した。
中国の大手国有銀行で少なくとも2行がロシア産商品購入のための融資を制限している。米国と同盟国が対ロシア制裁を発表する中で、戦略的に特に重要なロシアとの経済関係を維持するとした中国の方針に、限界が迫っていることが浮き彫りになった。
(4)「事情を知る関係者2人によれば、中国工商銀行の国外部門は、ロシア産商品現物を購入するためのドル建て信用状(LC)の発行を停止。人民元建てのLCは一部顧客を対象に発行可能だが、上級幹部の承認を要するという。関係者は部外秘情報だとして匿名で話した。中国銀行(バンク・オブ・チャイナ)も自社によるリスク査定に基づき、ロシア産商品向け融資を制限している。別の関係者が明らかにした。関係者2人によれば、中国規制当局からロシアについて同行に明示的な指針は出されていない」
中国工商銀行は、ロシア産商品現物を購入するためのドル建て信用状(LC)の発行を停止した。LCが出なければ、輸入が不可能という意味だ。中国政府はロシア産の小麦・大麦の輸入を増やすと発表したが、現実は抑制に動いている。中国銀行もロシア産商品向け融資を制限しているのだ。
(5)「中国の大手金融機関と習近平国家主席にとって、今回の融資制限は難しいバランスを探った結果だ。中国にとってロシアは主要なエネルギー供給元であり、米国との地政学的な対立で中ロが協調することも多い。その一方で、中国製品を多く輸入し、ドルが支配する国際金融システムへのアクセスをコントロールする西側諸国に比べると、中国におけるロシア経済の重要性は見劣りする」
下線のように、中国ビジネスの多くは西側諸国との間で行なわれている。ロシアを救って、西側市場を失えば元も子もない。中国が、経済的にロシアへ接近することは困難になっている。欧米の経済制裁の強さに驚いているのだろう。これは、中国の台湾侵攻の際にも起こりうる経済制裁である。習近平氏は、首をすくめて見ているはずだ。