企業の売上高に直結する生産者物価指数(PPI)が、7月は前年比マイナス0.3%になった。6月が同ゼロであり、景気の実態が悪化していることは間違いない。2016年8月以来のマイナスである。
物価は、経済の体温計である。PPIがマイナスになるのは、生産活動の不活発化を示しており、中国企業の売上高が減少過程にあることを示して深刻だ。原因は、景気循環における在庫循環のボトムと、設備投資循環のボトムという二つのボトムが重なり合っている。その上に、米中貿易戦争が加わった。中国経済が、重苦しい状態になるのは当然である。
『ロイター』(8月9日付)は、「中国PPI 7月は前年比マイナス0.3% 3年ぶりのマイナス」と題する記事を掲載した。
(1)「中国国家統計局が発表した7月の生産者物価指数(PPI)は前年比0.3%低下し、2016年8月以来のマイナスを記録、アナリスト予想(0.1%低下)以上に落ち込んだ。6月は前年比変わらずだった。7月の消費者物価指数(CPI)は前年比2.8%上昇し、2018年2月以来の高い伸びとなった。伸び率は予想の2.7%を若干上回った。6月は前年比2.7%上昇だった」
何の変哲もないニュースである。アナリストの予想を上回るPPIの落込みが、中国政府が人民元相場を1ドル=7元割れに持ち込んだ大きな理由である。PPIのマイナス状況は、人民元への需要が減少過程にあることを示している。「7元割れ」は不可避と言える。
『ウォー・ストリート・ジャーナル』(8月8日付)は、「人民元安の容認、中国政府が認めた経済の弱さ」と題する記事を掲載した。
(2)「人民元は1ドル=7元を割り込み、2008年以来の安値を付けた。これは経済基調にも同調している。中国の4-6月期経済成長率はほぼ四半世紀ぶりの低水準に落ち込んだ。人民元は5日のオフショア取引で約3%下落し、世界の市場に大打撃を与えた。投資家は、人民元の交換レートに影響力を持つ中国の政策立案者が、米中貿易紛争の沈静化という望みを捨てたと結論付けた。貿易紛争は世界的に企業心理を低下させている」
中国政府が、長年にわたって「7元割れ」に抵抗してきたのは、ここから大きく割り込むことによって、世界中に人民元安のイメージが行き渡る「マイナス面」を重視してきたからだ。現実には、もはやそのような「理想論」にこだわれる状況にないので、「流れに身をまかした」といえる苦肉の策である。
(3)「アナリストによると、中国政府にとって現在の主なリスクは、米国の怒りを買うこともそうだが、人民元への信認が損なわれ、消費者と企業の間に人民元の先安観が醸成されることだ。そのためアナリストは一段の人民元安を予想する一方で、中国政府が大幅な低水準に誘導するとはみていない。5日の人民元の下落から数時間後、米財務省は中国を為替操作国に認定した。これは象徴的な意味合いが強く、米財務省は国際通貨基金(IMF)に中国に対する調査を求めた。IMFはコメントしていないが、貿易紛争に関して先月記した文書の中で、IMFのシニアエコノミストのギタ・ゴピナス氏は「為替レートの大幅な柔軟化とそれに伴う過去10年にわたる実質的な上昇」について中国を称賛していた」
中国当局は、「恐怖の綱渡り」をしている。人民元への信頼を損ねないようにしながら、ギリギリまで人民元安を誘導しなければ、中国経済が保たないからである。
私は、IMFへ根本的な疑いがある。中国擁護派のエコノミストが多いことだ。これほど軟弱な通貨をSDR(特別引出権)に組入れさせたが、裏取引があったと見る。中国得意の「浸透作戦」が効果を上げているように見える。
(4)「政府系シンクタク、中国社会科学院の研究員を務める張明氏は、今週の人民元の動きを決定づける要因となったのは米国の対中政策かもしれないが、輸出見通しの低迷や国内金融リスクの上昇といった経済的な冷え込みが背景にあると話す。「米国が貿易摩擦を引き続きエスカレートさせれば、輸出を支援して関税引き上げの影響を相殺するため、中国政府が市場の圧力に応じて元を低下させる可能性は排除できない」
このパラグラフは重要である。下線を引いた部分には、人民元安が必至という理由が上げられている。
① 輸出見通しの低迷
② 国内金融リスクの上昇
③ 米国の対中国圧力の強化
いずれも不可避な問題ばかりである。人民元安は続くという結論だ。