勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

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    米中貿易戦争の本質は、中国がWTO(世界貿易機関)のルールを守るか否かという問題だ。WTOには罰則規定がない。WTO規約は、中国が加盟する(2001年)前に制定したので、中国のようなルール破りが現れるとは想定していなかった。この弱点をまんまと衝いたのが中国である。

     

    WTO違反(補助金支給など)こそ、中国の経済政策の根幹である。国有企業に補助金を与えて、促成栽培し競争力をつけさせる。産業高度化政策である「中国製造2025」は、政府補助金の塊とも言える。これは、米国でなくてもWTO加盟国すべてが、拒否すべき政策である。中国は、あくまでもこれを強行する姿勢である。その結果、米中貿易戦争には「休戦」はあっても、「講和条約」があり得ないという悲劇的な関係にある。

     

    中国政府もこの認識を持っているので、国内引締め政策に転じている。輸出低迷、輸出関連企業の倒産、外資企業の撤退、失業人口の急拡大を予測している理由はここにある。

     

    『大紀元』(5月15日付け)は、「米中貿易戦、中国当局は大規模な失業に警戒」と題する記事を掲載した。

     

    中国当局は、米中貿易戦の激化による国内失業者の急増を警戒している。李克強首相は13日、北京市で開かれた雇用問題に関する会議で、『大規模な失業』を回避するよう各地方政府に明確に指示した。

     

    (1)「李克強首相は同日、『全国就職起業工作および大学卒業生の就職起業工作テレビ電話会議』において、『今年の就職圧力は依然として大きい。特に大学生の卒業者数が過去最多となるため、各地と各関係部門は重視しなければならない』『大規模な失業を起させないというレッドラインを守り抜かなけばならない』と述べた」

     

    都市部の若者は、ボランティアという形だが、農村部へ派遣されて農業を手伝う手はずになっている。期間は3年間、農村で働き農作業を手伝うというもの。農村は、高齢化が進み頼みの跡継ぎは農民工として都会へ出稼ぎに出ている。この穴を、大学(短大クラス)を卒業して職の無い者でカバーする。「一石二鳥」なのだろう。

     


    (2)「農民工の就職問題について、李首相は『労働力を必要とする地方政府は、失業者による大規模な帰郷を回避するために、できれば失業者を現地に留めるべきだ。労働力を提供する地方政府は、帰郷した農民工に対して起業の支援をしなければならない』と発言した。
    中国問題評論家の文小剛氏は大紀元に対して、『制裁関税を強化した米政府の圧力を前に、中国当局は恐怖を感じている』と指摘した。中国当局も、米政府の関税引き上げで、今後中国の輸出低迷、輸出関連企業の倒産、外資企業の撤退、失業人口の急拡大を予測している」

     

    失業した農民工も、できるだけ都市部で働けるように工夫せよ、と李首相は地方政府に命じている。そうは言っても、都市では住宅建設ぐらいしか仕事はなくなっている。製造業で解雇者が出ている以上、就職口は減っているのだ。政府が、農民工をできるだけ農村に返さない工夫をしているのは、帰村した地方で不満に火を付けかねないリスクを抱えているからだ。中国中が不満の坩堝となっている。

     

    (3)「米『ラジオ・フリー・アジア』(RFA)10日付は、中国独立系の経済学者の統計として、『中国の輸出業で働く人の数は約1億人だが、その家族と輸出業関連サービス業の従業員も考量すると、貿易戦で中国輸出業が打撃を受けた場合、4億人の人が影響を受ける』との見方を示した」

     

    輸出業は、直接・間接を問わず関係のある人口が、約4億人と推計されるという。米中貿易戦争の長期化に伴い、中国中心のサプライチェーン再編成は不可避である。米中の嵐を避けるには、「脱中国」が最大の安全策である。ASEAN(東南アジア諸国連合)が、最適の受け手として、中国に代わり「世界の工場」を目指し始めている。それだけ、中国のポジションは低下する運命だ。米中貿易戦争は、中国に甚大な被害を及ぼすことにあろう。

     

    中国式社会主義とは、世界のルールを破って自国だけが「蜜」を吸うシステムだ。いわば、「盗賊ルール」である。このように、今後も掟破りを堂々と続ける。「中華の親分」は、そう宣言しているのだ。


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    15日のブログで、「中国、『的外れ』米へ報復策、米国債売却よりも資金流『懸念が大』」と取り上げた。中国が米国債を売却しても報復にならず「意味なし」という結論であった。

     

    ところが16日、中国は3月に米国債を204億ドル売却したというニュースが報じられた。中国は、「鬼の首」でも取ったような感じだが、ますます「田舎侍」という印象を強めるだけだろう。

     

    『日本経済新聞』(5月16日付け)は、「中国が米国債を売却、32年ぶり少なさに」と題する記事を掲載した。

     

    この記事と同時に、私が15日に書いた記事、「中国、『的外れ』米へ報復策、米国債売却よりも資金流『懸念が大』」をぜひ、読んでいただきたい。私の記事の情報源は、米経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』である。米国を代表する経済紙と日本を代表する経済紙では、これだけ見方が異なるという点でも興味深い。

     

    (1)「米財務省によると、中国の3月の米国債保有額は11205億ドル(約120兆円)と20173月以来、2年ぶりの少なさになった。市場では、米国の関税引き上げの報復で、中国が今後米国債の売却を増やすのではないかとの思惑がある。中国は米国債の最大の保有者であり、仮に売りを強めれば、米金利が上昇し、景気に強い逆風となる。財務省が15日公表した米国債の保有状況で明らかになった。中国は3月に米国債を204億ドル売り越しており、この額も1610月以来、約2年半ぶりの大きさだ5月の米中貿易摩擦の激化は反映されていないものの、すでに米国債の保有を減らす傾向が強まっている」

     

    先ず、米国の国債出来高が1日当たりどの程度かを明確にしたい。最大限で6000億ドル。月間では20兆ドルに達している。15日の私の記事では「1日当たり20兆ドル」としたが、「1ヶ月」に訂正したい。中国は、3月1ヶ月で204億ドルの売却である。何回かに分けて売却したはずだから、国債市場では、「さざ波」も立っていないはず。これでは、報復にはならないのだ。

     


    (2)「中国共産党系メディアの環球時報の幹部は13日、『多くの中国の学者が米国債を圧縮する可能性を議論している』とツイッターで投稿した。中国が米国に対し、報復関税を課した日の投稿で、市場では中国政府の意向と読む向きもあった。5月に入り、中国政府高官は米国債の保有について具体的には言及していない。ただ、報復の意図がなくとも、関税引き上げで中国の輸出が鈍れば外貨を稼ぐ力が落ち、回り回って米国債に投資する原資が細る。ここ数年は日本国債への投資や、途上国の開発支援など対外資産の運用を多様化している面もある。ただ、中国が実際に米国債の圧縮を強めれば米中関係は泥沼化する。米中双方の景気に打撃となる。市場では非常にリスクの高い交渉カードとして、「核兵器」にたとえる声もある

     

    上記記事で、下線を引いた部分について、コメントを付けたい。

     

        「報復の意図がなくとも、関税引き上げで中国の輸出が鈍れば外貨を稼ぐ力が落ち、回り回って米国債に投資する原資が細る」

     

    中国の生産年齢人口ピークは、2013年であった。その後は減少に向かっており、貯蓄率が低下している。これは、経常黒字の減少を意味するもので、米中貿易戦争がなくても米国債を購入する余力は減っている。この重大事実をぜひ知って欲しいのだ。中国による米国債市場への影響力は、極論すれば「自然消滅」に向かうはずだ。

     

        「中国が実際に米国債の圧縮を強めれば米中関係は泥沼化する。米中双方の景気に打撃となる。市場では非常にリスクの高い交渉カードとして、『核兵器』にたとえる声もある」

     

    この指摘は、かなり現実とは異なる。中国が3月に204億ドル売却しても国債利回りには何の影響もなかった。米国債の流通利回りは、FRBの政策金利に影響されるので、中国が売却したところで、「大海の一滴」程度である。中国が、米国債保有額1兆ドルを一度に売却するという仮定は、余りにも非現実的で最大の損を被るのは中国だ。従って、少しずつ売却するのが、中国自身にとっても最大の利益確保策となる。これでは、報復にならない。一度の売却は、「自爆テロ」と同じなのだ。

     

    米国債は、流動性の面でも抜群の魅力である。中国は、その米国債を売って何を買うのか。代替の有価証券は存在しない。基軸通貨国の米国債が最大の魅力を備えていることに変わりない。「核兵器」になるとは、まさに空想の世界である。


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    米中関係は、完全に「冷戦」状態へ移行した。米国が、ファーウェイ(華為技術)・関連70社に対し米企業からの購入規制対象に加えたからだ。これは、米企業が次世代通信網「5G」でファーウェイに協力させないための措置である。「5G」の基盤技術であるソフトと半導体で、米企業が協力関係にある。

     

    『ロイター』(5月15日付け)は、「中国ファーウェイと関連70社、米企業からの購入規制対象に」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米商務省は15日、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と関連70社を『エンティティーリスト』に追加すると発表した。ファーウェイは米政府の許可なく米企業から部品などを購入することが禁止される。米当局者によると、ファーウェイは部品調達を米国のサプライヤーに頼っているため、一部製品を販売することも難しくなるという」

     

    米国の中国に対する厳しい「輸出規制」は事実上、朝鮮戦争後(1952年)に中国への輸出規制を課した「チンコム」(1994年廃止)の復活であろう。私は、かねてからこの制度の復活が必要と本欄で指摘してきた。

     


    (2)「今回の措置は数日中に実施される。今後ファーウェイが米国の技術を購入するためには、米政府からライセンスを取得することが必要になる。ロス商務長官は声明で『外国企業が米国の安全保障や外交政策上の利益を損ないかねない形で米国の技術を利用することを阻止』する決定をトランプ大統領が支持したと明らかにした」

     

    ファーウェイは、米国での製品販売と技術購入を封じられることになった。ファーウェイの組織的スパイ行為が摘発されている結果だ。

     

    (3)「商務省は今回の決定について、米司法省が開示したファーウェイと一部関連企業に対する起訴状で、同社が禁止された金融サービスをイランに提供しようとしたと指摘されたことを受けたものと説明。ファーウェイが『米国の安全保障や外交政策上の利益に反する活動に関与した』と結論付ける正当な根拠があるとした」

     

    ファーウェイは、中国政府と無関係の立場を強調しているが、社員株主制を裏で操っているのが中国政府であると分析されている。本欄で取り上げたテーマである。


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    米国トランプ大統領が、次々に繰り出す新手に中国は攪乱されている。米中経済の基盤を見れば、天と地もの開きがある。トランプ氏は余裕を持って中国を攻めている。中国は手持ちの米国債売却をちらつかせて、米国の攻めを防ごうとしているが米から一蹴されている。

     

    金融面では、米国の力量は圧倒的である。中国が米国債売却話を持出しても鼻の先で笑われている。それどころか、関税戦争で中国の輸出減が鮮明になっており、貿易黒字の大幅減少は不可避となってきた。貿易黒字の減少が、人民元安に結びつくと外貨準備高の取り崩しが始まる。中国は、防戦一方だ。こんな割のあわない関税戦争をしても得るところは何もない。早く止めるべきだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月15日付け)は、「米国の関税、人民元に打撃、中国は資本流出を懸念」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米中の貿易摩擦の激化が人民元に打撃を与えている。人民元を通商政策の武器に使おうとする中国の目論見に対する疑問も再燃している。オフショア市場の人民元は今週、米国との関係悪化を背景に1ドル=6.9元を割り込み、昨年12月下旬の水準まで下落した。14日時点では1ドル=6.89元近辺で取引されている。人民元の急落で中国政府は難しい立場に置かれている。中国製品は米国市場で割安になり、米政府による関税引き上げの影響をある程度相殺することになる。一方で、中国政府は人民元下落に対する懸念が資本流出やさらなる通貨安を招く事態を回避したい考えだ。そうした動きが生じる分岐点は1ドル=7元とみられている」

     

    中国は、1ドル=7元が資本流出や通貨安を防ぐ「マジノ線」としている。後退しても、この「7元」を絶対防衛圏として守りたいという。

     

    (2)「ドイツ銀行アナリストの試算によると、米国が中国製品2000億ドル相当への関税を25%に引き上げた措置の効果を打ち消すには、人民元は1ドル=7元よりも若干安い水準まで下落する必要がある。ただ、ドナルド・トランプ米大統領はさらに3250億ドル相当の品目にも関税を課す意向を明らかにしている。トランプ氏は以前から中国による為替操作を非難しており、人民元が大幅安になれば米国との摩擦がさらなる火種となる可能性がある。ING(香港)の大中華圏担当エコノミスト、アイリス・パン氏は、中国政府は関税の影響を緩和するためよりも、交渉戦術として人民元のある程度の下落を許容する心づもりだと指摘。ただ、資本流出のリスクを最小限に抑えるため、変動が大きくなりすぎないように注意するだろうと述べた。パン氏は『貿易戦争によって人民元は現在、経済的なツールではなく、政治的なツールになっている』としている」

     

    中国が、トランプ氏の「2000億ドル25%関税」をクリアするには、1ドル=7元を若干下回る程度まで人民元相場が軟化する必要があるようだ。だが、その7元を若干下回る相場レベルで止まってくれる保証はない。国際投機筋が手ぐすね引いて人民元売りを仕掛けたい所だけに綱渡りになろう。

     

    習氏が、世界覇権云々と取らぬ狸の皮算用をしたばかりに、これだけの苦悩を背負わされて、国力を疲弊して行くのだ。統制経済が、市場経済に攻め立てられる歴史的な攻防がこれから始まるのだ。


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    中国は、先行きの見通しのないまま、米国との貿易戦争へ引きずり込まれている。「メンツ」とか「国権」とか形容詞はいくつかあるが、習近平氏の統治力がなくなってきた結果であろう。いったんは、米国と合意しながら国内の反対勢力の逆襲に遭い、米中合意を撤回せざるを得なかったのだ。

     

    4月の経済統計が発表された。鉱工業生産や小売売上高の停滞が明らかになった。1~3月期のGDPは、前年同期比では6.4%成長であったが、前期比伸び率を年率換算した成長率は5.7%である。すでに6%台を割っている。

     

    『ロイター』(5月15日付け)は、「中国、4月鉱工業生産は前年比5.4%増に鈍化、小売は約16年ぶり低い伸び」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国国家統計局が15日発表した4月の鉱工業生産は、前年同月比5.4%増と、前月から伸びが鈍化し、市場予想を下回った。アナリストの予想は6.5%増だった。3月は8.5%増と4年半ぶりの高い伸びを記録していた。一部のアナリストは3月の急増について、季節要因や一時要因が影響したとの見方を示している」

     

    鉱工業生産は、前年同月比5.4%増と3月の同8.5%増からの急減速である。3月は、1~2月が春節の影響を受けて一時的なアヤ戻しであった。今年は4年に一度起こる在庫循環のボトムになっている。その影響も出ているはずだ。

     

    (2)「4月の小売売上高は、前年比7.2%増と3月の8.7%から大幅に縮小し、2003年5月以来の低水準となった。市場予想は8.6%増。景気減速や米中貿易戦争で消費者信頼感が低下しつつあるとの懸念が浮上している。項目別の内訳では、衣類の販売が2009年以来10年ぶりの減少となった。中国の消費者が景気への懸念を強めていることが示された。 華宝信託のエコノミスト、ニエ・ウェン氏は、『弱い小売売上高の一因となったのは、雇用の悪化と中低所得層の所得の減少だ』と分析。『消費を景気の安定化装置とする政策を今後も続けるにあたり、中国政府は中低所得層に的を絞った減税あるいは補助金を打ち出す可能性がある』とした」

     

    4月の小売売上高は、前年同月比7.2%増。3月の8.7%から見て急減速した。長いこと10%増が続いた。今から見ると隔世の感がする。雇用の悪化と中低所得層の所得の減少が理由としている。こういう漠然とした説明では分らないが、不動産バブルによって高い住宅を買わされた反動である。住宅ローンの返済が、可処分所得を減らしている結果だ。

     

    債務増加は、GDPの伸び率を抑制するもの。この普遍的な現象が、現れたにすぎない。中国だけが、高額負債の重圧を切り抜ける「魔法の杖」を持っているわけでない。必ず、この重圧に押し潰されるはずである。それは、習近平氏の政治生命に影響を与えるであろう。

     


    (3)「1~4月の固定資産投資は前年比6.1%増で、これも伸びは市場予想(6.4%増)に届かなかった。1~3月は6.3%増だった。投資全体の約60%を占める民間固定投資は1~4月に5.5%増加。1~3月は6.4%増だった。1~4月のインフラ支出は前年比4.4%増。増加率は1~3月と同水準だった」

     

     1~4月の固定資産投資は、前年同期比6.1%増に止まった。1~4月のインフラ投資支出は前年比4.4%増と1~3月と同水準であるので、民間の固定資産投資が落込んでいることを表している。米中貿易戦争の影響と見られるほか、今年は10年に一度起こる設備投資循環のボトムと重なる。

     

    (4)「BOfAメリルリンチのアナリストは、米中の瀬戸際戦術が長期化すれば、今年の中国の経済成長率が6.1%に減速すると予想。目先、一段の政策緩和、預金準備率の引き下げ、銀行融資の急増、乗用車・家電・スマートフォンなどの消費喚起策導入が予想されるとの見方を示した」

     

    今年のGDPは、6.1%増に減速するとの予測も出てきた。今年が、在庫循環のボトムと設備投資循環のボトムが重なり合う。そういう最悪局面にあることを念頭に置くべきだ。さらに、このうえに米中貿易戦争の影響が加わる。良いことは一つも期待できないであろう。


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