勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 米国経済ニュース時評

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    中国の李強首相は、今月下旬に開催される「中国発展ハイレベルフォーラム」で、訪中する外国企業の最高経営責任者(CEO)らとの会合を見送る方針である。中国政府の外資誘致姿勢に対する懸念を強めそうだ。全人代の李首相報告では、外資誘致に注力するとしていた。製造業の参入規制を全面的に撤廃し、電気通信、医療などサービス業への参入規制を緩和すると公にしたのだ。

     

    『ロイター』(3月12日付)は、「中国首相、年次フォーラムで外国企業CEOとの会合見送りへと題する記事を掲載した。

     

    中国の李強首相は今月下旬に開催される「中国発展ハイレベルフォーラム」で、訪中する外国企業の最高経営責任者(CEO)らとの会合を見送る方針であることが分かった。関係筋3人が明らかにした。中国政府の外資誘致姿勢に対する懸念が強まりそうだ。

     

    (1)「フォーラムは北京の釣魚台国賓館で2000年から毎年開催されており、中国の政策立案者が海外のCEOと投資について話し合う場となっている。常連の出席者にはアップルのティム・クックCEOやブリッジウォーター・アソシエイツの創業者レイ・ダリオ氏らがいる。中国首相と外国企業トップの意見交換は、この会合の目玉となっていた」

     

    2000年から毎年、開催されてきたフォーラムは、外国企業トップと中国首相の意見交換の目玉でもあった。ところが、今年は見送られるという。

     

    (2)「関係筋によると、李首相は24~25日に開催されるフォーラムに出席する予定だが、CEOらとの会合は行わない見通し。中国外務省の公表文によると、李首相は、就任から1カ月も経っていなかった昨年のフォーラムでは、外国企業CEOとの会合を行い、中国の開放をさらに進めると述べていた」

     

    李首相が、意見交換を見送る理由は不明である。全人代終了後の首相と内外記者団の会見が中止されたことと、同じ理由で経済実態の悪化を悟られたくないという思惑かも知れない。ただ、ヘインズ米国家情報長官は3月11日、中国が2024年に外国から投資を呼び込むため対米関係の安定を探ると指摘したことと食い違いが起こっている。米国は、中国が外国企業の投資呼び込みの必要性が一段と高まっているとみているからだ。こうした指摘がある一方で、中国は米国ハイテク企業を排除するとの報道が出ている。今回のフォーラムで出席する米国企業は、アップルのティム・クックCEOらである。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月12日付)は、「中国、テック分野で『米国排除』急ぐ」と題する記事を掲載した。

     

    中国に進出している米テック企業に災いが降りかかろうとしており、その前兆は紙に書かれている。「79号文書」だ。中国政府が2022年に作成したこの文書は、米国産技術の排除を強化するよう指示する内容で、この取り組みは「Delete America(米国を排除)」を表す「DeleteA」とも呼ばれる。

     

    (3)「79号文書は機密性が極めて高く、そこには、金融やエネルギーなどの分野の国有企業に対し、ITシステムで使われている外国製ソフトウエアの置き換えを27年までに完了するよう指示されていた。米テック大手は長年、コンピューターや基本ソフト(OS)、ソフトウエアを通じて中国の急速な産業発展を支え、同国で大きな利益を上げてきた。だが中国指導部は、長期的な安全保障上の懸念を理由にこの関係を絶ちたいと考え、自給自足を急がせている」

     

    中国政府は、すでに国産のソフトウエアへ置き換える方針を実行している。

     

    (4)「最初に標的となったのはハードウエアメーカーだ。デル・テクノロジーズやIBM、ネットワーク機器大手シスコシステムズは、自社製品の多くが中国企業製に置き換えられていくのを徐々に目の当たりにするようになった。中国のこの取り組みは、習近平国家主席の長年の構想の一端に過ぎない。習氏は、半導体や戦闘機といった重要技術から穀物や油糧種子に至るあらゆるものの自給自足を促している。大局的には、食料や原材料、エネルギーで西側諸国への依存を減らし、サプライチェーンを国内に絞る戦略を掲げる」

     

    米国のテック企業では、まずハードウエアメーカーが中国政府から排除された。

     

    (5)「中国の22年の公的支出は、48兆元(約988兆円)余りに達した。こうした公的部門の購買力に支えられたテック企業は、製品を改良して米企業との技術格差を縮めることができる。中国製の代替品が品質で劣る場合でも、国有企業が忠実に購入を増やしたことが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)が確認したデータや仕入れ書、関係者の話で分かった。購入したのは銀行や金融サービス会社、郵便局などだ」

     

    中国政府は、国内企業から優先的にテック製品を購入している。これは、TPP(環太平洋経済連携協定)に違反している。中国が、TPP加入資格を欠いていることを証明している。

     

     

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    ロシアのウクライナ侵攻から、すでに満2年を経て戦線は膠着状態である。ウクライナ支援の米英やEU(欧州連合)は、西側に預けられていたロシア中央銀行の約3000億ドルを巡って、没収論(米英)と利子利用論(EU)で意見が対立している。

     

    国際法上、国家資産は原則没収できないことになっている。ロシア資産を例外とする論拠にしたのは、国連の国際法委員会が2001年にまとめた文書が論拠である。それによると、違法行為によって特別に影響を受ける国は、加害国の責任を追及できると記した。米国はこれに基づき、予算の面などで影響を受けるG7も対抗措置が可能だと主張した。英国は、米国の意見に賛成している。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの凍結資産そのものの活用を求めている。資産没収には各国の国内手続きも必要になる。旗振り役の米国も、没収を可能にする国内法の成立は見通せていないのだ。独仏は、没収できるとする米国の解釈に真っ向から反論する。交戦状態にない第三国の資産を没収すれば、異例の措置となるからだ。国際法違反の悪しき前例になると訴えている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月11日付)は、「ロシア凍結資産の没収論。民間投資に逆風 歴史学者」と題するインタビュー記事を掲載した。米コーネル大ニコラス・ミュルデル助教授へのインタビューである。

     

    ウクライナ侵攻から2年がたち、主要7カ国(G7)はロシア向けの経済制裁の強化を模索している。凍結資産の没収といった踏み込んだ対応は、世界経済にどのようなリスクをもたらすのか。制裁の歴史に詳しい米コーネル大助教授(欧州近現代史)のニコラス・ミュルデル氏に聞いた。

     

    (1)「(質問)ロシア向けの経済制裁は歴史的にみて異例か。(答え)「これまでとは量的にも質的にも違う。イランやベネズエラのような小国ではなく、世界で10〜11番目の経済大国に制裁を科した例は1930〜40年代以来だ。エネルギー市場での存在感が強いため、ロシアに原油供給を続けさせながら値段を下げる上限価格措置が導入された点も新しい。ロシアの中央銀行の資産凍結までは一般的な対応だ。アフガニスタンやイランでも凍結した。ただ、資産を没収すれば大きな影響がある。通常は戦争後に勝利した国が実施するものだ。欧州にとって凍結資産はロシアに和解させる際の交渉材料にもなるはずだが、その影響力もなくなる

     

    ロシアの資産凍結は、過去の例でもみられた案件だ。だが、没収となると事態は複雑になる。ロシアが、永遠に戦争が可能でない以上、どこかで和平が求められる。凍結資産は、和平交渉の材料に使える、としている。

     

    (2)「(質問)G7の力は金融市場で圧倒的ですが、GDPのシェアは低下している。経済を武器として使うやり方は持続可能か。(答え)「重要な問いだ。米国が非常にユニークなのは、世界最大の経済大国でありながら産油国である点だ。ドイツはエネルギーを輸入に依存しているため、経済を武器として使えない。日本もロシアでの石油・天然ガス開発事業『サハリン2』のような事例があり、限界がある。経済を武器に使えるかどうかという観点でみると、米国は世界の歴史でみても特異な存在であり、他のほとんどの国にはまねができない」

     

    米国の没収論は、米国経済の特異性にある。米国が、世界最大の経済大国であり同時に、産油国であることだ。米国には、こうして強気の姿勢で交渉できる強みがある。ただ、他国はこれを鵜呑みにすると、後からロシアの「しっぺ返し」を受ける危険性を抱え込む。

     

    (3)「(質問)ロシア原油の価格上限のようにドルを武器として使うやり方は、ドル離れを加速させるのでは。(答え)「世界経済が、急速に脱ドルに向かう現実的な見通しは存在しない。ドルは、非常に重要な基軸通貨であり続ける。アジアの貿易取引では、ドルが人民元におされ始めているが、金融資産や外貨準備という点では人民元の量が足りないためドルの地位は維持される」

     

    米国が基軸通貨国である理由は、前述のように世界最大の経済大国であり、世界最大の軍事力を擁することにある。他国が、米ドルを資産として持つことに何らの不安もないのだ。ふらつく中国経済とは、比較にならない強みを持っている。

    テイカカズラ
       

    中国の全人代(国会)が、11日閉幕した。恒例の首相による内外記者団との会見は、27年まで中止となった。記者会見で、経済について厳しい質問に対し、ボロが出ないように予防線を張ったのであろう。国内での経済的不満を抑えるには、海外で軍事的緊張関係をつくり出すことが必要になる。北朝鮮ほどの「瀬戸際」政策でなくても、国民を鼓舞するような「揉め事」をつくり出して、「強い中国」を演出するのだ。 

    『日本経済新聞 電子版』(3月11日付)は、「習指導部、国家の安全優先で構造改革先送り 全人代閉幕」と題する記事を掲載した。 

    中国の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が11日閉幕した。習近平(シー・ジンピン)指導部は景気停滞下でも、経済成長の目標を「5%前後」と高めに設定した。具体策は乏しく、定年延長や地方財政の改善などの構造改革は先送りが濃厚だ。社会不安を抑え、国家安全を優先する姿勢を鮮明にした。

     

    (1)「全人代は5日に開幕し、7日間の日程を終えた。かつては約2週間だったが、新型コロナウイルスが流行した2020年以降は1週間ほどに短縮した。今年は閉幕後に恒例だった首相の記者会見も開かず、節目がないまま終わった。「成長目標の達成は容易ではない。的確な政策を講じいっそう努力する必要がある」。李強(リー・チャン)首相は5日の開幕式で、所信表明にあたる政府活動報告を読み上げた。李氏は目標の高さをにじませつつ、景気安定へ全力を注ぐ姿勢を示した。それでも、具体的な対策として挙げたのは発表済みの焼き直しばかり。政府活動報告に掲げた「24年の任務」のうち、前年はトップに記した「内需の拡大」が3番目に後退した」 

    中国にとって経済回復は重要課題のはずだが、政府活動報告では「内需の拡大」が3番目に後退した。政策的な行き詰まりを証明している。 

    (2)「米国は先端半導体などのハイテク分野で日欧などと対中包囲網を構築する。これに対抗し、経済安全保障を重視する思惑が透ける。政府活動報告の草案には「安全」という言葉が29回登場した。2年連続で前年より増えた。国家の安全に重きを置くのは、習指導部にとって共産党による統治の継続が最大の目的だからだ。従来は改革開放政策で経済を押し上げて国民の生活を豊かにし、事実上の一党支配に対する不満を抑えられた。高成長時代が終わったいま、国民の支持をつなぎとめるにはリスクの芽を摘み取る必要がある。不動産政策は好例といえる。開発企業の資金不足で「青田売り」物件の引き渡しが遅れる例が全国に広がると、中国人民銀行(中央銀行)の資金供給で完成を急がせた。物件が竣工してから販売する「完成後販売」の促進も、消費者の不安を和らげる狙いがある」

    習氏は、「国家の安全」を頻りと強調している。奇異な感じである。中国を侵略する國は、存在しないからだ。これは、中国による台湾侵攻の場合、米国などに反撃されるという前提あっての話であろう。「国家の安全」問題は、台湾侵攻と深く関わっている。

     

    もう一つは、西側諸国が「和平演変」で中国の民主化を働きかけ、共産党政権崩壊を誘導するという恐怖感である。習氏は、最終的に国内統治で自信を持っていないことを問わず語りにしているのだ。ならば、国内経済に立直しに全力投球すれば解決するはずだが、それも行わないという中途半端な姿勢である。財政赤字拡大による、格付け引下を最も危惧している結果だ。要するに、「あちらを立てれば、こちらが立たぬ」という矛盾した事態に陥っている。世界覇権という野望に取り憑かれている証拠だ。 

    (3)「国民への配慮は、痛みを伴う構造改革の先送りにつながる。政府活動報告や全人代期間中に開いた閣僚級の記者会見では、法定退職年齢の引き上げに触れなかった。国民の反発が根強いためだ。中国では夫婦共働きが一般的で、祖父母が孫の面倒をみる。一家総出の子育てに影響し、年金の受取総額も減少するとの懸念は残る。若年層は企業の求人が減り、職探しが一段と難しくなると警戒する」 

    経済的に苦境にあるだけに、国民に対して痛みを伴う改革を言い出せないという弱みを抱えている。怖いものなしの中国共産党が、最終的に恐れているのは国民の反乱である。 

    (4)「中国が現状変更を試みる南シナ海や台湾海峡では、米中両軍のにらみ合いが続く。米中関係の不安定化は衝突リスクを高めかねない。習指導部が執念を燃やす台湾統一の実現への道筋も描けていない。習氏は6日の全人代分科会で台湾の「平和統一」に意欲を示した。ただ、対立する台湾の与党・民主進歩党(民進党)との対話は途絶えたままだ。実際、全人代で採択した24年の政府活動報告は、23年版にあった「平和統一」の文言が抜け落ちた。民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権は米国からの武器購入を増やしており、平和統一の難易度が高いと判断した可能性がある」

     

    習氏は、国内に解決困難な経済問題を抱えており、国民の不満を逸らす工夫も必要だ。それが、周辺で軍事摩擦を引き起こして、「強い中国」を演出ことである。「火事」なにならない「ボヤ」程度の緊張感を引き起こすリスクは高いであろう。 

    (5)「習氏が7日、中国軍と人民武装警察部隊(武警)の分科会で指示した「海上軍事闘争への備え」は台湾への武力侵攻を含むとみられる。かねて「独立分子」と敵視してきた民進党の頼清徳氏が総統に就く5月以降、中台情勢はさらに緊迫しかねない」 

    武警は、「第二海軍」と言われている。習氏は、中国軍と武警に対して「ハッパ」をかけている。有事の際は「頑張れ」という指示だが、周辺国へは中国の警戒を一段と強めることになろう。 

    次の記事もご参考に。

    2024-03-11

    メルマガ548号 中国経済、これから4年「最悪期」 首相記者会見も開けぬ「不都合な真

     

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    米国経済は、高金利下でも失速せず軟着陸の可能性が高まっている。2月の雇用統計では、雇用者数の伸びは健全さを維持したものの、失業率が2年ぶりの3.9%へと悪化したことから、5月にも利下げの可能性が強まっている。

     

    FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長は3月6日、米下院金融サービス委員会の公聴会で、年内に利下げを開始する見通しを示し、米経済がリセッション(景気後退)に陥るリスクがあるとは考えていないことを示唆した。ただ、利下げ時期については明言を避けた。FRBは利下げ前に「インフレ率が2%まで持続的に低下していることを確認し、かつその確信を高めるさらなるデータを見ることを望んでいる」と述べた。

     

    バイデン米大統領は3月8日、FRBが金利を引き下げるとの見方を示した。選挙演説で「金利を決定するあの小さな組織」と言及し、「保証はできないが、金利はきっと下がるに違いない」と語った。『ロイター』が報じた。

     

    円相場は、3月8日のニューヨーク外国為替市場で4日間続伸し、前日比95銭円高・ドル安の1ドル=147円05〜15銭で取引を終えた。同日発表の2月の米雇用統計で平均時給の伸びが市場予想を下回った。賃金インフレ鈍化が意識されたことが円買い・ドル売りを誘った。一時は146円48銭と2月上旬以来の円高・ドル安水準を付けた。『日本経済新聞』が報じた。円相場の流れが明らかに変わってきた。ドル高円安の原因は、米高金利にあった以上、利下げ気運が強まれば、円安反転は自然の動きである。

     

    『ブルームバーグ』(3月9日付)は、米失業率2年ぶり高水準 労働市場に減速感ー雇用者数は伸び堅調

     

    2月の米雇用統計では、雇用者数の伸びは健全さを維持したものの、失業率が2年ぶりの高水準に上昇した。労働市場はなお堅調だが、減速感も見られる。

     

    (1)「今回の雇用統計は、労働市場が徐々に減速していることを示した。雇用と賃金の伸びがやや落ち着いたことで、インフレ再燃リスクがそれほど高まらずに米経済が拡大し続ける可能性が示唆された。米金融当局にとっては、年内に利下げに踏み切る余地が生まれる。雇用者数と平均時給は事業所調査、失業率はより対象の少ない家計調査が基になっている。家計調査は失業者数の大幅増加を反映した。失業率上昇の一因は、労働市場に参加したもののすぐに職を得られない人が増えたことにある。2月の雇用の伸びは医療や娯楽・ホスピタリティー、政府部門などで特に目立った」

     

    下線部は、重要な指摘である。いわゆる米国経済の理想的な「軟着陸」が現実のものとなって来たことを示している。米国経済強さの証明だ。

     

    (2)「米金融当局はインフレ動向を見極める上で、雇用市場やそれが消費支出に与える影響を注視している。2月の米消費者物価指数(CPI)は12日に発表される。労働市場の減速が非常に緩やかであることが利下げを急がない理由の一つだと、当局者らはこれまでに示唆している。他の重要なポイントは労働需給と賃金の関係だ。平均時給の伸びは2月に鈍化したが、1月には加速していた。ブルームバーグ・エコノミクスのアナ・ウォン氏らエコノミストは、「非農業部門雇用者数は春にかけて伸びが鈍化し続けるとわれわれは予想しているので、米金融当局のリスクバランスは一段と改善し、5月利下げの可能性が開けるとみている」と述べた」

     

    米国経済は、失業率と賃金がバランス良く動いていることから、5月利下げ説が登場した。2月のCPI動向が発表される12日には、先行き見通しがさらにハッキリするであろう。

     

    (3)「コメリカ・バンクのチーフ・エコノミスト、ビル・アダムズ氏は、「2月雇用統計は景気後退を思わせるものではなかった。だが、高インフレの要因となっていた熱を帯びた雇用市場を沈静化させるという任務の達成に、金融当局が近づきつつあることが示唆された」とリポートに記した」

     

    これまで熱を帯びていた雇用市場が落ち着くことは、インフレ率にも好影響を与えるであろう。高金利を継続する理由が薄れるのだ。

     

     

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    韓国の半導体技術が米国へ流出したとして、韓国裁判所はSKハイニックスを退職した技術幹部社員の米国マイクロン転職を禁じる判決を出した。判決に従わない場合、1日当たり110万円の罰金を科すという異例の内容である。

     

    『中央日報』(3月8日付)は、「HBM技術流出疑惑 韓国半導体が危機」と題する記事を掲載した。

     

    高帯域幅メモリー(HBM)業界トップのSKハイニックスが、後発企業の米マイクロンに転職した自社退職職員を相手に出した転職禁止仮処分申請を裁判所が受理した。人工知能(AI)半導体の主要部品HBMをめぐる業界の開発競争が激しく、核心技術の流出が懸念される状況だった。

     

    (1)「ソウル中央地裁はSKハイニックスが退職職員A氏を相手に出した転職禁止仮処分申請を先月29日に受理したと7日、明らかにした。裁判所は、再就職した会社を即時退社しない場合、A氏はSKハイニックス側に毎日1000万ウォン(約110万円)ずつ支払うよう決定した。A氏はすでに、マイクロンに再就職し役員級で在職中だ」

     

    SKハイニックスの技術幹部社員が、ライバル企業の米マイクロンへ転職した件で、ソウル中央地裁が違法と認定した。即刻、退職しない場合、1日当たり110万円ずつSKハイニックスへ支払えという判決内容だ。日本では、想像もできない事例である。

     

    (2)「A氏は、SKハイニックスに入社した後、メモリー研究所設計チーム主任研究員、DRAM設計開発事業部設計チーム専任研究員、HBM事業首席、HBMデザイン部署プロジェクト設計総括などを務めた。さらに、DRAMおよびHBM設計関連業務を担当してきたが、2022年7月26日に退社した。A氏は、2015年から毎年情報保護誓約書を、退職時期の2022年7月にも転職禁止約定書と国家核心技術などの秘密維持誓約書を作成した。約定書には、マイクロンを含む転職禁止対象企業と期間(2年)が明示されている。A氏の再就職事実を確認したSKハイニックスは昨年8月、裁判所に転職禁止仮処分を申請した」

     

    A氏は22年7月、SKハイニックスを退職する際に、マイクロンを含む転職禁止対象企業と期間(2年)が明示された約定書に署名している。それにもかかわらず、昨年8月にマイクロンへ転職していた。明らかに約定書違反である。これでは、抗弁できるはずがなく、即時に退職しない場合、1日当り110万円の違約金支払いが命じられた。

     

    (3)「裁判所が、A氏の転職禁止約定期間が5カ月しか残っていない状況で仮処分申請を受け入れたのは、最近、HBM業界の激しい開発競争と無関係でない。約定期間が1年余り残っていても仮処分申請が棄却されたりしたが、裁判所が今回受け入れた点、そして1人あたり1000万ウォンの履行強制金まで賦課した点を業界は異例と評価する。裁判所は「債務者(A)が取得した情報が流出する場合、マイクロンは同種分野で債権者(SKハイニックス)と同等な事業能力を備えるのに要する時間を相当期間短縮できる半面、債権者は競争力を相当部分毀損されるとみられる点、情報が流出すれば原状回復は事実上不可能な点などを考慮する必要がある」と決定の背景を説明した」

     

    A氏は、国家核心技術などの秘密維持誓約書まで署名している。それにも関わらず、署名を反故にしたのは契約精神の欠如と言うほかない。

     

    (4)「HBMは、複数のDRAMを垂直に積層して接続したもので、従来のDRAMに比べデータ処理速度を革新的に高めた。SKハイニックスは、AI半導体分野で世界市場シェア90%以上のエヌビディアと提携し、HBM業界1位になった。台湾市場調査会社トレンドフォースによると、昨年の世界HBM市場シェアはSKハイニックスが53%、サムスン電子が38%、マイクロンが9%である。SKハイニックスは、このようにHBMを前面に出して過去30年間メモリー半導体1位を維持してきたサムスン電子の地位を揺るがした」

     

    SKハイニックスは、AI半導体トップのエヌビディアと提携している。エヌピディアは、AI半導体世界シェアの90%以上を握っている。SKハイニックスは、HBM業界1位に輝いているが、今回の技術流出でライバル・マイクロンのシェア上昇があれば、損害を被ることは間違いない。

     

    (5)「HBMは、製造工程の難易度が高く高価格で収益性がよい。エヌビディアが、今年販売するAI半導体H200、B100には第5世代のHBM3Eが6、8層積層される。SKハイニックスはこれまで、エヌビディアへHBMを事実上独占供給しており技術力の側面でリードしている。サムスン電子も最近、業界で初めて36GB HBM3E 12層積層DRAM開発に成功した。現在、8層水準のSKハイニックス・マイクロン製品より多い12層から直ちに量産に入る勝負に出たのだ。マイクロンも先月26日(現地時間)、「HBM3Eの量産を始め、今年4-6月期に出荷する」と発表した。第4世代HBM開発を放棄し、第5世代の生産に入った」

     

    SKハイニックスはこれまで、エヌビディアへHBMを事実上独占供給し技術力の側面でリードしている。その立役者が、A氏であったのだろう。SKハイニックスは、このA氏へ十分に報いなかったという事情もあろう。それが、「異常転職」の引き金になっている感じもする。

     

     

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