米国バイデン政権は、中国EV(電気自動車)の米国進出を警戒している。中国EVが、諜報機能を備えており、身近な情報がすべて北京へ筒抜けになる危険性が強調されている。バイデン大統領は、全米自動車労組の支持を得ているので、中国EV叩きに熱が入っている。
『ロイター』(3月4日付)は、「米の中国車調査、バイデン氏に大統領選への計算も」と題する記事を掲載した。
バイデン米大統領は「米国の自動車労働者を守る」と宣言し、中国製コネクテッドカーが米国でスパイ活動に使われる恐れについて調査を開始した。現時点でそうした脅威は現実味が薄く、バイデン氏の言動の裏には大統領選を控えた政治的な計算がありそうだ。ホワイトハウスは2月29日、インターネットに常時接続する「コネクテッドカー」が「スパイおよび妨害活動の新たな道」になるという国家安全保障上のリスクを理由に、調査開始を発表した。
(1)「米自動車メーカーは現在、中国製の電気自動車(EV)と自国で競争しなければならなくなる可能性について、パニックに近い恐れを抱いている。自動車業界のロビー団体は最近、米メーカー「絶滅」の危機を引き起こしかねないとまで述べた。中国のEV産業は近年、諸外国を圧倒する勢いで急成長しており、世界中への輸出を視野に入れている。多くの場合、中国製EVの価格は米国製よりはるかに安い。バイデン氏は「自動車産業の未来が米国の労働者らによって、ここ米国で作られるようにする」と誓った」
中国製EVが低価格であるのは、政府補助金とリチウムイオン電池の原料生産で有利なことなどが重なっている。ただ、次世代電池である全固体電池ではトヨタが世界トップである。それだけに、中国EVが競争力を維持できるのは「限定的」である。
(2)「政治、政策の専門家らは、中国によるスパイ活動の脅威を認めつつも、バイデン氏の攻撃的な発言には対中強硬姿勢を強調する狙いがあるとみる。戦略国際問題研究所の中国専門家、スコット・ケネディー氏は「今回の発表は、この課題の解決策を見つけるという目的もさることながら、中国に対して弱腰だという批判を和らげる狙いがあるようだ」と語った。ケネディー氏は、調査は妥当だとしながらも「国家安全保障への過剰な懸念」に基づく保護主義に拍車をかける可能性に懸念を示した。業界関係者の多くは、中国の自動車メーカーに対する貿易障壁の強化を求めており、米欧各国の政府は実際にそれを検討している。米EV大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は1月、障壁を高めなければ中国は競合する世界の自動車メーカーを「壊滅」させると述べた」
テスラは、中国でBYDと値下げ競争を繰り広げている。それだけに、中国EVの手強さを実感している。
(3)「対中貿易を制限する政策は、民主党と共和党の考えが一致する数少ない分野の一つだ。バイデン氏はトランプ前大統領が始めた「対中貿易戦争」を実質的に継続している。ミシガン州の世論調査員バーニー・ポーン氏はバイデン氏の発言について、米自動車産業の中心地であり、大統領選における激戦州の一つであるミシガン州で支持を高めるのが狙いだと解説。「彼(バイデン氏)は攻勢に本腰を入れ、雇用が中国のような場所に奪われるというトランプ氏の主張を骨抜きにする必要がある」と語る。トランプ氏は選挙戦でしばしばEVについて、雇用を奪う「詐欺」であり中国への屈服だと揶揄(やゆ)している」
米政界では、民主党も共和党も対中国では強硬策で共通している。米国は、過去の中国支援でみせた善意が裏切られたという深い挫折感に襲われている。米国は一時、日本よりも中国へ肩入れするほどだった。中国の「ニーハオ」謀略に引っかかった結果だ。それだけに、中国には「裏切られた」という怒りが収まらないのだ。
(4)「全米自動車労組(UAW)の支持を受けるバイデン氏は、ミシガン州デトロイトの3大自動車メーカーと、その工場労働者の重要性を繰り返し強調している。ミシガン州選出のゲーリー・ピーターズ上院議員(民主党)は、中国製EVは経済的にも安全保障上も脅威だとし「要するに、中国共産党を後ろ盾とする企業が作る自動車の居場所は、米国には無いということだ」と言い切った」
民主党は、親中姿勢をみせていただけに、中国の裏切りを許さないという姿勢だ。開拓時代の「カーボーイ」と同じ心理状態である。
(5)「中国製EVの輸出急増は、業界の不安とバイデン氏への政治的圧力をさらに強めている。世界最大のEVメーカー、中国の比亜迪(BYD)は、メキシコに工場を開設する計画を確認するとともに、最も安価なモデルを中南米で発売した。BYDは、メキシコを米国市場への輸出拠点とする計画は無いとしている。一方、バイデン氏はEV政策に関し、相反する目標を両立させるという難題に直面している。つまり、環境保護の目的からEVを急速に普及させる貿易政策を採りながら、世界で最も先進的かつ手頃なEVバッテリーおよび部品を供給する中国からのEVや部品の輸入を事実上禁止しているのだ」
BYDは、米国内の「反中姿勢」を十分理解している様子だ。メキシコへ工場建設しても米国への輸出を控えるとしている。ただ、米国・カナダ・メキシコ3カ国の貿易協定では、中国企業への制限があるはず。メキシコは、この規制をどのようにしてクリアするのか。