待ちに待ったワクチン接種のメドがついた。河野担当相は、現在接種対象とされている16歳以上の全員分が9月末までに調達できるとの見通しを示した。これは、米国が4月からワクチン輸出を解禁する結果でもある。日本は、昨年2月から始まったパンデミック・トンネルから、約1年半ぶりに開放される見通しがついたもの。
『ロイター』(4月18日付)は、「ワクチン、9月末までに全員分 ファイザーが追加供給―河野担当相」と題する記事を掲載した。
河野太郎行革担当相は18日、民放のテレビ番組で、新型コロナウイルスワクチンの追加供給で米ファイザー社と実質合意したと述べ、現在接種対象とされている16歳以上の全員分が9月末までに調達できるとの見通しを示した。
(1)「訪米した菅義偉首相は現地でファイザー社のブーラ最高経営責任者(CEO)と電話会談を行った。河野担当相は「9月末までに日本が入手できるすべてのワクチンで、今の接種対象者がワクチンの接種を完了できる。そういうペースでワクチンを供給してもらう」と発言。「それに足りる分だけファイザー社にも追加供給をお願いし、首相とCEOの間で実質的に合意がなされた」と説明した。「9月までのスケジュールの調整はこちらで行う」と述べた」
菅首相が、訪米中にファイザー社CEOと電話会談を行い合意したもの。
(2)「追加供給量に関し「回数の詳細は申し上げることができないが、現時点で16歳以上に接種していただくことになっており、16歳以上はカバーできる」と説明した。これまで政府はファイザー社と7200万人が2回接種可能な1億4400万分の供給で合意。6月末までに高齢者は接種可能としていた」
これまでは、6月末までに高齢者に接種可能な1億4400万分の供給が約束されていた。それが、さらに積み増されて9月末までに16歳以上の全員に接種可能なワクチンが供給されることになった。
このように、ファイザー社が輸出量の上乗せに合意した背景には、米国の接種が順調に進んでおり早晩、過剰供給が問題になるところであった。
『日本経済新聞 電子版』(4月18日付)は、「米も『ワクチン外交』参戦へ、中・ロをけん制と題する記事を掲載した。
米国が新型コロナウイルスワクチンの輸出に乗り出す。国内での接種が進み、最大数億回分が余剰になる見通しとなったためだ。海外援助を担う米国際開発局(USAID)の元幹部を輸出の調整役に指名し、まずメキシコなどに供給する。自国民向けの確保を最優先してきた政策を転換し、「ワクチン外交」を展開する中国やロシアをけん制する。
(1)「ブリンケン国務長官は5日、「自らの責務として引き受ける必要がある」と、米国が諸外国の感染抑制に向けて取り組むことを表明。ワクチン供給支援を含む国際コロナ対応・保健安全保障の調整役に、USAID幹部を務めたゲイル・スミス氏を指名した。これに先立ち、バイデン政権は初の輸出事例としてカナダとメキシコに英アストラゼネカのワクチン400万回分を供給すると発表していた。一連の動きは、従来の内向き姿勢からの転換を印象づけた」
米国のワクチン接種は、英国に次いで世界2位の実績を上げている。早晩、米国のワクチン生産が過剰になると見られていたので、早手回しに輸出解禁に出たものと見られる。
(2)「バイデン大統領は、「自国民向け供給が確保されない限り、国外輸出はしない」と公約するなど慎重な姿勢を崩さなかった。ヘルスケア関連調査の英エアフィニティによると、コロナワクチンの国内生産規模で米国は世界最大規模にもかかわらず、3月中旬まで輸出はゼロだった。積極的なワクチン外交を展開する中ロも念頭にあるようだ。中国製を承認・契約した国・地域は70以上に上り、ロシアの「スプートニクV」は約60カ国が承認した。中国が国内生産の5割近くを輸出に振り向けるなど、両国は中南米や中東、アフリカのほか、欧州連合(EU)加盟国でもハンガリーなどに売り込みをかける」
中ロのワクチンは、ワクチン情報が公表されないなど信頼度において劣っていた。そこへ、米国が本格的に情報開示100%のワクチンを輸出して、ワクチン外交でトップに立とうという狙いである。
(3)「米国はカナダなどに続き、今後は中ロが攻勢をかける中南米に供給するとみられる。効果や安全性への信用を強みに、供給先への影響力を高めたい中ロに対抗する。またバイデン政権は2月、新型コロナワクチンを共同購入し途上国などに分配する国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」に40億ドル(約4400億円)の拠出を表明している。日本、米国、オーストラリア、インドの4カ国が連携する「Quad(クアッド)」を通した途上国向けワクチン増産も支援する。ワクチン分野で国際的リーダーシップを強めることで、間接的に中ロをけん制する狙いがあるようだ」
米国は、クアッドによってインドでワクチンを生産し、途上国への供給も目指している。こうして一斉にワクチン輸出を盛上げる体制が整ってきた。日本が、ファイザー社のワクチンで数量未定だが9月までの接種可能量の供給を受けられる背景には、こうした「世界ワクチン事情」がある。