日本の半導体国策会社ラピダスが、最先端半導体「2ナノ」(10億分の1メートル)の製造を手がけていることに、韓国メディア『朝鮮日報』記者が「疑問」の声を投げかけている。これまでの日本が、40ナノの半導体までしか製造した経験がないので、「2ナノ」は無理という前提である。だが、日本の半導体は1980年代後半まで、世界半導体の5割のシェアを占めた実勢を持つ。半導体製造設備・半導体素材を一貫生産している世界で唯一の国である。その潜在的能力は、決して韓国に引けを取らないだろう。
『毎日新聞』(3月24日付)は、「『ラピダス』が背負うリスク、日本国民は理解しているか」と題する記事を掲載した。筆者は、朝鮮日報東京支局長の成好哲記者である。
「ラピダス」。周りの日本人にこの会社の話を持ち出すと、ほとんどの人が知らない。関心すら示さない。それは、日本の国会議員でも大差なかった。「半導体会社ですよね」という薄い反応だ。質問を変えてあれこれ聞くと、ようやく関心を示してくる程度だ。
(1)「ラピダスは2022年11月、トヨタ自動車、NTT、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、キオクシア、NECの7社がそれぞれ10億円、三菱UFJ銀行が3億円を出資して設立した民間の半導体会社だ。日本政府はこの新生会社に補助金3300億円を投じ、さらに国の基金に最大6773億円が積み増される。合わせて1兆円余の資金を日本の人口で単純に割ると、1人あたり8000円強負担することになる。4人家族なら3万2000円つぎ込む計算だ」
政府の補助金目的は、ラピダスによって新規雇用が生まれることだ。地域の賃金水準を押し上げる効果もある。日本経済の成長に重要なテコ入れだ。同時に、新しい技術の伝播効果もある。最先端半導体の供給によって新産業が生まれる可能性だ。
(2)「ラピダスは今後4兆円の資金が必要だが、これも日本政府が負担する可能性が少なくない。ラピダスに出資する民間投資家がほとんどいないからだ。ラピダスの目標は、27年初めに最先端レベルの回路線幅である2ナノメートル(ナノは10億分の1)の半導体を生産することだ。半導体工場の設立及び量産にかかる総費用は約5兆円の見通しだ。23年9月、北海道千歳市で工場起工式が行われた。岸田政権は「半導体の復権を導く会社」と補助金支給の理由を説明するが、失敗するリスクが伴う大きな挑戦だ。国家予算1兆円がかかったプロジェクトであるにもかかわらず、国会で主要争点になっていないのは不思議だ」
記事では、失敗のリスクを指摘している。日本の半導体産業が、総合的に世界トップの位置にあることを忘れては困る。日本にとっては、後発のサムスンやTSMCに可能なことが、日本で不可能であろうか。
(3)「匿名を求めた韓国のある半導体専門家は、ラピダスが成功するかどうかについて「不可能ではないが、四つの壁をすべて乗り越える必要がある」述べた。一番目は、ラピダスには2ナノ技術がないため米IBMと提携しているが、その水準がTSMCやサムスン電子に追いつかなければならない。しかし、もともと半導体製造企業ではないIBMの2ナノ技術はまだ実験室レベルで、製造現場では検証されていないという。TSMCとサムスン電子の量産水準でも現在3ナノ台だ。ラピダスが2ナノの生産ラインを実現するかは未知の領域だ」
日本半導体が、グローバル経済下で大きく出遅れたのは事実だ。だが、これからは地政学リスクが全面化して保護主義の時代に移る。世界の半導体研究所が、一斉に日本支援で体制を組んでいる事実を認識すべきだ。IBMのほかに、ベルギーの半導体研究開発機関であるimec(アイメック)と提携している。ラピダスや東大など国立大学、理化学研究所が参画する研究機関「最先端半導体技術センター(LSTC)」と、フランスのLeti(レティ)が昨年10月、協業検討に向けた覚書を結んだ。次世代品でも日米欧で連携し、将来のサプライチェーン(供給網)の安定につなげる。
(4)「二番目は、半導体の製造過程で、不良品を除いた歩留まりがどの程度かという技術力が問題だ。現在、日本で製造する半導体は40ナノにとどまっており、最先端の半導体を製造した経験が全くない。いわば、40ナノ半導体を経験した50、60代のエンジニアが独学しながら、2ナノの生産ラインを設置、運用しようとしている状況だ」
下線部は、全くの誤解である。全員が、米国IBMへ派遣されており、現地で新技術の研修を受けている。独学ではない。
(5)「三番目は資金だ。工場設立後も、設備投資と研究開発に膨大な資金を投じ続けなければならない。TSMCとサムスン電子の設備投資額は22年、それぞれ363億ドル(約5兆4700億円)と320億ドル(約4兆7000億円)だった」
ラピダスは、25年に「2ナノ」試作品を発表してから、株式上場の意向だ。これで、資金調達が可能になる。
(6)「四番目が技術や資金よりもっと高い壁だが、顧客を得られるかだ。ファウンドリーは顧客の企業からチップ設計図を受け取り、製造して納品する企業だ。TSMCはアップルにiPhone(アイフォーン)のチップを供給している。日本には2ナノ半導体を必要とする企業がない。2ナノの顧客はアップル、エヌビディア、グーグル、マイクロソフト、クアルコム、サムスン電子のように、スマートフォンや人工知能、データセンター関連で先端を走る巨大テック企業だ。新生企業が工場を新設したからといって、大企業が取引先を変えるだろうか」
ラピダスは、「チップレット」と言って、異種の半導体も組み合わせる世界最先端技術でサムスンやTSMCへ対抗する。これによって、短納期を実現してユーザーを引きつけられると試算している。ユーザーにとって、ビジネスチャンスを逃さないためにも、短納期は有力な手段である。
(7)「世界的ベストセラー『半導体戦争』の著者で、米タフツ大准教授のクリス・ミラー氏は米経済メディア「ビジネスインサイダー」とのインタビューで、「ラピダスは、小規模の生産でもビジネスとして成り立つということ、そのようなマーケットが存在するのだということを、身をもって証明しなくてはならないでしょう」と述べている」
下線部は、まさに「チップレット」という世界初の技術で開拓可能である。
次の記事もご参考に。
2024-03-07 |