勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    北朝鮮の最も恐れている米空軍B-1Bが、5月末に航空自衛隊機と合同訓練したと6月10日、米空軍から発表された。B―1Bランサーは、超音速爆撃で最高速度はマッハ.25、60m~150mの超低空をマッハ0.96、航続距離1万キロ以上を飛行するという離れ業の爆撃機である。これが、東アジアの防衛を担う。

     

    『東亜日報』(6月12日付)は、「米空軍、B―1B『域内のいかなる標的も攻撃可能』」と題する記事を掲載した。

     

    「死の白鳥」と呼ばれるB-1B戦略爆撃機が5月末に韓半島付近で実施した日本航空自衛隊との合同演習を通じて、北東アジアでいかなる標的でも望む時間に攻撃できる能力を培ったと、米軍が明らかにした。

     

    (1)「米空軍は6月10日(現地時間)、最近のB―1Bの展開について、「米国が選択した時間と場所で域内のいかなる標的も危険に陥れることができる能力をアピールした」と明らかにした。B―1B爆撃機の域内展開演習が、地形熟達の次元を越え、有事に北朝鮮をはじめとする域内の「主要ターゲット」を攻撃する手順を点検する内容だったことを示唆したのだ。また米空軍は、B―1B爆撃機が空対地ミサイルや長距離対艦ミサイルなど多量の精密・非精密誘導兵器を搭載して超音速で世界どこへでも飛んで行き、攻撃任務を遂行できると強調した。これを通じて域内の敵国を攻勢的に抑止することで、同盟国の安全保障に大いに貢献しているということだ」

     

    B―1Bが、グアムと朝鮮半島3000キロの距離を2時間弱で飛行する能力を持っている。北朝鮮にとっては、最も恐ろしい超音速爆撃機となっている。空対地ミサイルや長距離対艦ミサイルなど多量の精密・非精密誘導兵器を搭載している。日本にとっても心強い存在だ。

     


    (2)「これに先立ち5月27日、グアム基地を離陸したB―1B爆撃機2機が東シナ海を経て大韓海峡の上空を通過した後、日本航空自衛隊の戦闘機と共に日本列島を一周するように飛行して基地に戻った。この時、釜山(プサン)から約100キロ離れた韓半島付近まで接近した。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が5月24日の党中央軍事委員会拡大会議で、核・ミサイル挑発の再開を示唆してから3日後に北朝鮮が最も恐れる米戦略兵器が韓半島付近に飛んできたことをめぐって、米国の北朝鮮への警告という分析が出ている」

     

    北朝鮮は6月12日、米国が敵対的な政策を続ければ、金正恩朝鮮労働党委員長とトランプ米大統領の個人的な関係を維持しても、両国の関係改善は見込めないとの認識を示した。朝鮮中央通信(KCNA)が伝えた。KCNAによると、北朝鮮の李善権外相は、米国の政策は米国が北朝鮮国民にとって長期的な脅威であること示していると指摘。米国の軍事的脅威に対抗するため、より強力な軍を構築すると表明した。

     

    この声明は、いつもの強がりであって新味はない。米国は、グアムにB―1Bを4機配置しており、北朝鮮の軍事挑発に即応できる体制である。

     

    (3)「軍関係者は、「北朝鮮が『レッドライン』を越えれば、核・ミサイル基地や指揮部などが「死の白鳥」の最優先ターゲットになるということを米国が繰り返し認識させた」と指摘した。一方、米空軍は、4月のB―1B爆撃機4機のグアム前進配置後、日本航空自衛隊と数回にわたって迎撃、護衛演習を実施して相互作戦の運用性を強化するとともに、域内の敵国に米国の強力な同盟国防衛態勢をアピールしたと強調した

     

    下線分は、米空軍がB―1Bと航空自衛隊が数回にわたり迎撃、護衛演習を実施して相互作戦の運用性を強化したと指摘している。これは、「インド太平洋戦略」における空軍の主体が、日米であることを示唆している。海軍でも、海上自衛隊の潜水艦部隊が、中国海軍と最前線で切っ先を結ぶ。海上自衛隊の潜水艦部隊は、米海軍から世界一の折り紙をつけられているほど。潜水艦の静謐(せいひつ)性では、米海軍の潜水艦部隊を凌ぐとされている。中国の潜水艦の下に日本の潜水艦が潜航しているケースもあるという。

     

    太平洋戦争では、日米海軍が激突して日本は弾薬不足で結果的に大敗した。だが、米海軍は日本海軍の技倆を高く評価し、敗戦直後に日本海軍関係者に接触し、その技倆の温存を図らせたほどだ。旧日本海軍の技倆は、現在の海上自衛隊に受け継がれている。こういう話を書いたが、私は戦争を美化する者でない。護りを固めることが、戦争を防ぐからである。

     

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    自由主義諸国は、中国による香港への国家安全法適用が、一国二制度を破綻させるものとして反対の声を上げている。日本政府は、G7の意見を取りまとめる方向で動いているところだ。一方、日本を含む8カ国の国会議員と欧州議会議員は64日、中国共産党に対抗するため、超国家組織「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)を立ち上げた。

     

    IPACは6月5日、オーストラリア、カナダ、ドイツ、日本、ノルウェー、スウェーデン、英国、米国と欧州議会の議員が参加している。新たに、ルクセンブルク、リトアニア、チェコ、オランダが参加を表明している。このように、中国共産党へ反対意思を表明する動きが始まった。香港の自由を守ろうという国際的な連帯だ。

     

    一方で、中国の強権発動で香港の自由が奪われれば、香港国際金融都市で働いている金融人材を日本へ迎え入れる意思を安倍首相が国会で表明した。

     

    安倍晋三首相は6月11日の参院予算委員会で、香港の金融センターをはじめとする人材受け入れを推進する考えを表明した。「香港を含め専門的、技術的分野の外国人材を受け入れてきた。引き続き積極的に推進する」と強調した。自民党の片山さつき氏への答弁。中国が香港への統制を強める「香港国家安全法」を巡り、片山氏は「香港の金融センターの人材を日本が受け入れるのも選択肢ではないか」と質問したもの。

     

    首相は「東京が金融面でも魅力あるビジネスの場であり続け、世界中から人材、情報、資金の集まる国際都市として発展を続けることは重要だ」と述べた。「金融センターとなるためには人材が集まることが不可欠だ」とも語った。以上は、『日本経済新聞 電子版』(6月11日付)が報じた。

     


    英調査機関の国際金融センター指数によれば、今年3月の調査で東京は、ニューヨーク、ロンドンに次ぐ世界3位となった。アジアでは上海やシンガポール、香港を抜いて1位である国際金融センター指数は、金融センターの国際的競争力を示す指標として2007年3月にスタート。「ビジネス環境」「人的資源」「インフラ」「国際金融市場としての成熟度」「都市イメージ」の5項目を基準に、100以上の都市・地域を1000点満点で点数化し、毎年3月と9月に順位を公表している。

     

    今年3月で東京が一挙に世界3位に浮上したのは、香港デモが影響していると見られる。その意味で、「東京3位」は、敵失という意味もあろう。だが、東京はせっかく掴んだチャンスである。世界3位の好ポジションを生かして、香港に取って代われる地位に着けば、日本のソフトパワーが大きく上がると同時に、経済的なメリットが得られる。それが、国際観光客の増加に繋がるからだ。

     

    英有力誌『エコノミスト』の「都市安全性指数2019」で、東京が世界一に選ばれた。2015年から隔年で実施するこの調査で、東京が1位になるのは3回連続である。森ビル系のシンクタンクによる都市総合力ランキングで2019年、東京が3位になった。ただ、2位のニューヨークとの差が広がり、4位のパリが迫っていることから、都市間競争の激しさを改めて示している。

     

    東京が、上記のように世界の大都市で3本の指に入っていることは、国際金融都市になる資格の一つを満たしている。国際金融センター指数は、上記の通り、次の5項目である。

    1)ビジネス環境

    2)人的資源

    3)インフラ

    4)国際金融市場としての成熟度

    5)都市イメージ

     

    前記5項目で、3)と5)はすでに合格している。4)は、日本の外貨準備高や円の「安全通貨」としての強味がバックに控えている。GDPは世界3位である。申し分ないであろう。そうなると、1)、2)が強化される必要がある。この点については、以下の指摘がされている。

     


    『日本経済新聞』(2019年10月9日付)は、「金融都市構想、環境整備急げ」と題する記事を掲載した。日本取引所グループCEO、清田瞭氏の講演である。

     

    (1)「国際人材にとって英語環境、つまり英語を使える病院や学校などがまだまだ足りないということだと思います。外国人が安心して住めるような環境が不十分です。法人税率でみますと、日本、フランス、ドイツ、米国はそれほど大きく変わりません」

     

    (2)「ところが、当面最も金融センターとして争っているロンドンを持つ英国、シンガポール、香港は10%台で、これでは競争にならないというぐらい金融センターとしての税制は重いといえるかと思います。税が高く、規制が厳しく、言葉や教育の問題を東京は解決しなければいけない。金融産業の強い国は、やはり世界でも主要国として残り続けていく。日本は活力を維持するために、金融産業を強くしていくということが大事ではないかと思います」

     

    英語の人材が不足していることや、法人税率の引下げが課題である。税金面では、特区構想でカバーできるはずだ。英語の人材は、東京都が育成するか海外から呼び集めれば解決可能だ。要は、日本が国際金融都市として、ロンドン・ニューヨークに匹敵する位置を維持できれば、将来性は大きく開けるはず。ここは、何を置いても着手すべきテーマである。


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    文大統領は、2015年に締結された日韓慰安婦合意を破棄した。理由は、被害者の同意を得ていないというもの。今回、検察の捜査を受けている元慰安婦支援団体「正義連」は、日韓慰安婦合意破棄に向けて裏工作を行なっていた事実が存在する。その正義連が、寄付金や政府補助金の使途不明疑惑で捜査を受けている。「正義連」の前代表は、現国会議員である。

     

    事件の展開次第では、前代表の逮捕もありうるとされる。その場合は、一大スキャンダルに発展する。日韓慰安婦合意破棄の正否が問われかねない、際どい局面になるだろう。文大統領の責任問題へ発展することは不可避だ。それだけに、文大統領は早くも火消しに動いているのだろう。

     

    『中央日報』(6月10日付)は、「遺憾な文大統領の慰安婦運動発言」と題する社説を掲載した。

     

    正義連(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)の不正会計論争に対する文在寅(ムン・ジェイン)大統領の言及は事件の本質を大いにわい曲したもので、失望だけを加えたという指摘が出ている。尹美香(ユン・ミヒャン)事件が起きて約1カ月ぶりの立場表明だったが、大統領の状況認識は国民が感じている途方もない怒りとは乖離していることが明らかになったためだ。

     

    (1)「文大統領は8日、「一部で慰安婦運動そのものを否定し、運動の大義を傷つけようとする試みは正しくない」とし「被害者のおばあさんの尊厳と名誉まで押し倒すこと」と批判した。あわせて「私たちは慰安婦のおばあさんがいない慰安婦運動を考えることはできない。慰安婦運動を率いられたことだけでもだれの認定も必要なく自らが尊厳だ」と話した。いったい誰が慰安婦運動の大義を否定するというのか」

     

    文氏は、尹美香氏にまつわる疑惑を意図的に元慰安婦問題と結びつけている。これにより、事件を元慰安婦問題にすり替えて、尹美香氏を庇う意図と見られる。巧妙な弁護士流の問題すり替えである。事態は、尹美香氏が資金の流用をしたかどうかである。それを隠すために、文氏が韓国で聖域の慰安婦支援問題を持ち出しているに違いない。

     

    (2)「今回の尹美香(ユン・ミヒャン)事態の核心は明白だ。政府支援と市民が出した寄付金が、実際にはおばあさんへの支援ではなく、全く関係のないところに多く使われたほか、尹氏がそのうち相当額を横領したという疑惑だ。しかも尹氏と30年同志格の李容洙(イ・ヨンス)さんが公開的に問題を提起した。「30年間、尹美香に利用された」「その多くのお金がすべてどこへ行ったのか分からない」という暴露で、尹氏と正義連が検察の捜査を受ける段階まで来ることになったのが今回の事態だ」

     

    事件はシンプルである。寄付金や制補助金が横領されたかどうか、である。文大統領が恐れているのは、疑われている尹美香氏を相手にして、日韓慰安婦合意を破棄した点であろう。何とも後味が悪い話になってきたからだ。

     

    (3)「それでも文大統領は、疑惑の核心である尹氏や正義連の会計不正に対して一言も直接取り上げなかった。代わりに「市民団体の活動方法や形態に対しても振り返ってみる契機になった」という、どっちつかずの話法でこの問題をスルーした。非常に無責任なだけでなく、不正疑惑をかばって免罪符を与えるような誤解を招きかねない」

     

    日韓慰安婦合意に基づいて、元慰安婦の人たちの過半は素直に日本の提供した資金を受領した。それにも関わらず、文大統領は支援団体と組んで日韓政府の合意を破棄したのだ。捜査の展開次第では、前代表は逮捕されかねない状況である。文大統領は、そういう「いかがわしい」人物の話を真に受けた「道義的責任」を負うはずだ。

     


    (4)「李容洙さんの暴露以降、親尹美香陣営からは「大邱(テグ)おばあさん」「土着倭寇」「大邱っぽい(=図々しい)」といった、とても口にすることさえはばかられるような非難と人格殺人が度を超えている。最低限の良識と礼儀さえ欠乏した言語暴力で李さんは言葉にできない苦痛を受けている。それでも大統領は口を閉じた。納得し難い。尹美香事件が起きたところは政府責任も少なくない。2015年韓日合意で設立した和解・癒やし財団を文在寅政府は「被害者が排除された」とし、手続き的な欠陥を問題にして一方的に解散宣言をしてしまった。日本に対しては破棄や再協議を要求しないという曖昧な修辞で、慰安婦被害者には日本側が作った10億円を韓国政府予算で充当すると明らかにした。しかし2年余りの間、この問題を放置したままだ」

     

    文大統領は、日韓慰安婦合意を破棄したままである。元慰安婦問題は、国内的に未解決のままになっている。無責任な大統領である。

     

    (5)「2015年慰安婦交渉が「国家の不作為による慰安婦問題の放置が被害者の基本権を侵害した違憲」という憲法裁判所の判決に従ったものであることを想起するなら、政府の責任放棄が続くのは明らかな違憲だ。このような傍観的態度が強制徴用者賠償問題とも絡んで韓日間の外交摩擦の雷管として作用し、昨年は貿易戦争まで体験した。それでも文大統領は遅滞と放棄に対する謝罪も、今後の日程を提示することもなかった。大統領の慰安婦発言がより一層無責任に受け止められている理由だ」

     

    文大統領の真意は、慰安婦問題を未解決のままにして日本を批判することにある。その点では、元慰安婦支援団体の思惑と変わらない。尹美香氏は、元慰安婦の人たちに日本提供の資金を受け取るなと説得して歩いたという。慰安婦問題が解決したら市民団体の活動名目がなくなることを恐れていたと指摘されている。この面で、市民団体と文大統領の思惑は一致している。だから、文氏が市民団体を擁護するのであろう。


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    新型コロナウイルスが突然、在宅勤務を余儀なくさせた。一時は、これぞ「コロナ禍」が生んだ改革と注目する意見も続出したが、最近は懐疑的な見方も増えているという。

     

    在宅勤務導入直後、上手く機能したのはそれなりの理由があったのだ。従来の通勤システムで毎日、職場で顔を合せコミュニケーションが成立していたからこそ、スムースに移行できた、という見方だ。そういうコミュニケーションを欠いて、「初めまして」という関係からでは、円滑に仕事が進むか疑問の声が上がっている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月8日付)は、「在宅勤務への大転換『空振り』に終わるかも」と題する記事を掲載した。

     

    経済学者エリック・ブリンジョルフソン氏のグループが4月に発表した調査では、米国の労働者の50%近くが、新型コロナウイルスの流行を受けて在宅勤務になったことが明らかになった。初期の数カ月間の統計によると、企業は現在、会社の文化を大きく変革し在宅勤務制度の恒久化を検討している。だが、生産性が高く、在宅勤務で円滑に動く企業というのは結局、夢物語に終わりかねない。

     

    (1)「米フェイスブックは5月、今後5~10年間で社員の半数を在宅勤務にする可能性があるとの見通しを明らかにした。マーク・ザッカーバーグCEO自身、同社の規模では「最も先進的な」取り組みになるだろうとの見方を示した。同CEOは、これまでのところ在宅勤務社員が着実な生産性をあげていることや、在宅勤務により少ない費用で働ける埋もれた人材を発掘できる見込みがあることを、説得力のある利点として挙げている」

     

    米フェイスブックは5月、今後5~10年間で社員の半数を在宅勤務にする可能性があるとの見通しを明らかにした。だが、それから1ヶ月も経つか経たないうちに懐疑論がでてきた。朝令暮改になりかねない話だ。

     


    (2)「初期の調査結果は確かに、一定の利点を示している。フリーランスで働く人の仲介サイトを運営するアップワークが実施した2回の調査によると、企業の採用担当者の3分の1が、在宅勤務を強いられたことで、今年4月は昨年11月よりも生産性が上がったと感じていた。通勤がなくなったことや不要な会議が減ったことが要因だという。同様に、フェイスブックが先ごろ実施した調査でも、社員の半数以上が、在宅勤務の生産性は少なくともオフィスと同程度だと回答した」

     

    企業は、在宅勤務導入直後は物珍しさも手伝い高評価を与えてきた。生産性が落ちなかったからだ。恒久化した場合、果たしてオフィスでの業務と同様の生産性が維持できるか、疑問が出ている。

     

    (3)「だが、懸念もある。ザッカーバーグCEOは先月、社員の半数が「できるだけ早く職場に戻ることを切望している」と述べ、自由な会話や対面での接触がないことで、連帯感が薄れることに言及した。その上で、「在宅勤務が始まる前にあった絆のおかげで今の状態が成立しているだけなのかどうかは、現時点でははっきりしない」と述べた。在宅勤務に対する世間の考え方は変化してきている。2013年当時、メイヤー氏が生産性の低下や人間関係の希薄化についてもっともな懸念を示していたにもかかわらず、同氏の在宅勤務禁止令は論議を呼んだ。今日では、在宅勤務は無駄が多いものだという見方は少なくなり、少なくとも社員の時間と費用を節約することのできる、より柔軟な制度と考えられるようになっている

     

    在宅勤務によって、通勤時間の節約が可能になる。だが、人間の絆の希薄化という危険性にも関心が向いている。通勤制と在宅勤務制のバランスをどう取るかが焦点のようだ。

     


    (4)「ザッカーバーグ氏は、在宅体制への移行で大幅な節約が実現できるとは期待していないと述べている。在宅勤務者には自宅のインフラを新たに整備する必要が出てくる上、出社の際にはより長距離の移動が必要になる可能性もあるからだ。在宅の生産性が低下した場合は、同じ仕事を完遂するために追加で人員を雇う必要があるかもしれないとも言う。在宅勤務恒久化への転換は、すべての企業にとって魅力的なわけではない。たとえフェイスブックと同業のソーシャルメディア企業であっても、だ」

     

    在宅で生産性が低下する、そういう局面も前提にしなければならないという。社員が、在宅勤務を真面目に行なっているかどうか、この判定が難しくなるからだ。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(4月21日付)は、「在宅勤務『ちゃんと働いているか』企業は監視ソフト」と題する記事を掲載した。

     

    (5)「新型ウイルス感染拡大の影響で、何百万もの人々が唐突に自宅で働き始めた。そのため従業員がその時間をどう過ごしているかを知りたがる企業が増えている。一部の企業は職場管理に用いるのと同じ監視ツールに頼っているが、従業員のノートパソコンに遠隔操作でいつソフトウエアを加えたのかを必ずしも知らせるとは限らない。リモートワーカーの日々の生産性スコアや勤務時間をどのような作業に費やしたかという詳細な報告書がマネジャーに提供されるほか、会社の資料を不正にダウンロードしたり、セキュリティー規則に違反したりする可能性が高い従業員を見つけることが目的のツールもある」

     

    在宅勤務では、オフィス勤務時と異なる社員管理システムが必要である。だが、業務内容をマニュアル化しておけば、「在宅勤務中」サボったかどうかは問題なくなるはず。業務内容を規格化する努力をせずに、在宅勤務にするのでは意義がない。米国ですら、こういう状態であるなら、日本では一層その傾向は強まるであろう。

     

    私の記者時代は、自由出勤制度であった。書いた記事で評価されるから、あえて毎日出勤する必要はない。記事で勝負になるからだ。一般の業務でも、こういう人事評価の規格化を進められれば、在宅勤務で生産性が低下することもないであろう。

     

    (6)「職場管理ツール開発会社は、新型コロナウイルスで働き方が変わって以降注文が増加したと話す。従業員管理ソフトウエアを手がけるアクティブトラックのリタ・セルバッジ最高経営責任者(CEO)は、ここ数週間に1000社余りの企業が新たに同社のソフトの利用契約を結んだと話す。「少し常軌を逸している」と同氏は言う。利用する企業は法律事務所や保険会社、銀行などに広がっているが、こうした業種では「恐らくこれまでリモートワーカーを抱えたことがなく、心配で、心配で仕方がないのだ」と同氏は話す」

     

    社員管理ソフトを導入して、見えない所で監視されているよりも、オフィスで仕事をした方が気分は爽快に違いない。在宅勤務の成功には、社員同士の信頼感や会社全体の気持ちが一つになることも欠かせないことだ。


    ムシトリナデシコ
       

    インドネシアのジャカルタバンドン間の高速鉄道建設は、日本が入札寸前で中国へ横取りされた案件である。中国は、日本のつくった設計図を使うという杜撰な計画で始めた工事である。案の定、その後に工事遅延が発生しており難航している。業を煮やしたインドネシア政府は、日本を工事に加えて、早期の完工を目指す方針に変わった。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月7日付)は、「インドネシア、日本に高速鉄道参加打診へ、中国主導で遅れ」と題する記事を掲載した。

     

    インドネシア政府は近く、中国の支援で建設する首都ジャカルタと近隣のバンドンを結ぶ高速鉄道の計画に日本を加える案をまとめ、日本側に打診する見通しだ。日本が協力するジャカルタと第2の都市のスラバヤを結ぶ既存鉄道の準高速化計画と統合し、事業を効率化する狙いだ。中国側を刺激し、工事が遅れている高速鉄道建設を前進させる効果も期待する。

    ルトノ外相は4日のオンライン記者会見で「高速鉄道の延伸と、日本を共同事業体に加えることが可能かどうかの議論が始まった」と明らかにした。「日本はインドネシアのインフラ開発の重要なパートナーだ。両国が協力すれば、インドネシア国内(の都市)は(鉄道などで)さらにつながり、一段の経済成長を見込める」とも強調した。

     


    (1)「日本は現在、ジャカルタスラバヤ間の約750キロメートルを結ぶ新たな幹線鉄道計画に協力している。インドネシア政府内ではジャカルタから南東と東に2本の鉄道を新設するより、1本にまとめる方が効率的だとの見方が強まった。事業を担当する国営企業省は新しい計画の作成に入り、完成し次第、日本側に正式に打診するとみられる。ジョコ政権は2015年、ジャカルタバンドン間の高速鉄道建設で、インドネシアに財政負担を求めないという中国の提案を受け入れた。ジャカルタバンドン間の140キロメートルを時速350キロメートルで結び、所要時間を既存鉄道の3時間半から45分に短縮する計画だ。16年1月に起工式を開き、19年の開業をめざした」

     

    中国は、インドネシアから受注して、その後の新幹線受注で日本より優位に立とうというのが狙いであった。その意味で、インドネシア工事計画は最初から実態を無視したもので、日本関係者を呆れさせていた。その予感が当り、19年完工予定が21年に延びる見込みという。インドネシア政府にとって、高速鉄道建設は大きな目玉政策である。完工遅延を何としても避けたいところ。日本の支援を求めた形だ。

     

    (2)「事業費の75%を提供する中国の国家開発銀行が融資条件として土地収用の完了をあげ、事情が変わってきた。土地収用が難航して作業が遅れ、開業予定を21年にずらした。追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスだ。感染を防ぐため工事の一時中断に追い込まれた。アイルランガ経済担当調整相は高速鉄道の開業がさらに1年遅れる見通しを示した。インフラ開発事業全体の見直しを進めた結果、費用が新たな予算を上回ることがわかった。55億ドル(約5900億円)と見込んでいた総事業費は60億ドルに膨らむ。持ち上がったのが高速鉄道をスラバヤまで延伸したうえで日本を共同事業体に加える案だ」

     

    工事遅延で事業費はさらに膨らむ。予定より5億ドル増えて60億ドルになるという。この負担増は、インドネシアにとっては痛手である。そこで、日本を工事に加えて、工事遅延を取り戻そうという狙いである。

     

    (3)「ジャカルタバンドン間の高速鉄道の建設事業に日本を加える案は529日に表面化した。ジョコ大統領と関係閣僚が新型コロナウイルスの感染拡大に伴う予算の見直しに伴い、16年から19年にかけてのインフラ計画をまとめた「国家戦略プロジェクト」の内容を洗い直す会議を開いたのだ。会議直後のオンライン会見でアイルランガ氏は「大統領は高速鉄道をスラバヤまで延伸し、共同事業体に日本が加わることを求めている」と明らかにした」

     

    この日本参加案は、日本にとって困惑させられているという。その事情は、次のパラグラフが示している。

     

    (4)「日本側は困惑しているようだ。すでにジャカルタスラバヤ間の鉄道の事業化調査を始め、計画変更は難しい。これは既存のジャワ島横断鉄道を活用する方式で、中国主導の高速鉄道とは線路の規格も異なる。「(インドネシア側が用意する提案が)どんな内容になるのか想像もつかない」(日本の外務省関係者)」

     

    こんな結果になるのだったら、最初から日本に任せれば良かったのだ。日本の技術で走らせている中国の高速鉄道である。本家の日本が、最後は面倒を見る形なのだろう。中国には、大きな汚点になる。

     

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