勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 日本経済ニュース時評

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    韓国経済に不吉な影が濃くなってきた。9日、新型コロナウイルス大流行(パンデミック)への恐怖に加え、国際原油市況の急落など悪材料が重なったためだ。現状のウイルス騒動が3ヶ月続けば、韓国GDPは1%ポイントの低下が確実とする見方も登場している。

     

    文政権は、ウイルス対策で「日本より上」と自画自賛して顰蹙(ひんしゅく)を買っている。韓国の死亡者数が53人(3月9日)に達しているからだ。日本はクルージング船を含めて16人(同)である。日本の治療効果が成果を上げている証拠だろう。韓国政府が主張するように、コロナウイルスの検査件数を競うのでなく、死亡者数を減らすことこそ治療の使命である。ことの本質を間違えた、優劣論を声高に言うべきでないのだ。

     

    9日は、日本も株価は急落した。だが、円相場は1ドル=101円台へ急騰している。円が「世界の安全通貨」とされているからだ。韓国は、株価が急落してウォン売りを誘っている。世界が見る、日韓の経済力にはこれだけの差がある。この事実を受入れるべきだろう。

     

    9日の韓国株式市場は、新型コロナウイルス感染の世界的な大流行(パンデミック)への懸念が広がり、総合株価指数(KOSPI)が急落した。終値は前日比85.45ポイント(4.19%)安の1954.77だった。昨年8月29日(1933.41)以来の安値水準である。

     

    ウォンは、一気に1ドル=1200ウォン台に急落した。この日ソウル外国為替市場でウォン相場は前取引日より1ドル当たり11.9ウォンのウォン安ドル高となる1204.2ウォンで引けた。外国人投資家の株売りが影響を及ぼしたもの。株価やウォン相場の下落は、韓国経済への不安感の表れである。

     

    『韓国経済新聞』(3月9日付)は、「新型肺炎3カ月間続けば『韓国の経済成長率1ポイント下落』」と題する記事を掲載した。

     

    新型コロナウイルスによる肺炎で韓国の経済成長率が最大1ポイント下落し、就業者数は36万人近く減る可能性があるという分析が出てきた。

     

    (1)「アジア開発銀行(ADB)が8日に発表した「新型肺炎の経済的影響評価」によると、最悪のシナリオでは韓国の国内総生産(GDP)は165億3100万ドル減少することが明らかになった。これは韓国のGDPの1.02%(2018年基準)に相当する。雇用にも少なくない影響を与え、就業者数は35万7000人減ると予測された」

     

    ADBは、最悪シナリオで就業者数が35万7000人減と見ている。OECD(経済協力開発機構)の最新予測では、今年のGDPが2%である。もはや、実現不可能である。最低限、1%ポイントの低下である。これ以上の低下が必至の情勢である。

     


    (2)「ADBが出した最悪のシナリオは、中国旅行禁止と内需減少が6カ月間続き、韓国で新型肺炎が発病して3カ月間持続する場合を仮定した。中国内消費と投資が通常時より2%減少し、韓国で消費が2%減ることも前提条件だ。このほか中国から海外へ向かう観光客は6カ月間半減し、アジア以外の国から東アジア・東南アジアを訪れる観光客数も最上のシナリオより40%減少すると仮定した」

     

    GDPが、1%ポイントも下落する前提は、次のようなものである。

    .中国旅行禁止と内需減少が6カ月間続く

    .韓国で新型肺炎が発病して3カ月間持続する

     

    前記のように新型コロナウイルスは、3ヶ月継続という前提である。だが、現在の感染者数の増加から見て、3月一杯で終息するはずがない。4~6月期へずれ込むのは必至であろう。となると、この前提は崩れる。GDPは「0%台」となろう。


    (3)「国策研究機関である韓国開発研究院(KDI)は、この日刊行した「KDI経済動向3月号」で新型肺炎の感染拡大により景気全般が急速に萎縮していると診断した。KDIは「先月の輸出が中国を中心に振るわず、内需も経済心理悪化で萎縮している」と評価した。昨年末から今年1月まで景気不振が次第に緩和されていたが、2月から新型肺炎の衝撃で景気が再び急激に沈み始めたという説明だ

    韓国経済は、2月から急激な落込みである。株価とウォンの急落した背景がこれだ。本欄は一貫して、韓国経済の脆弱性を指摘し警戒信号を上げてきた。いよいよ、本番が来たという実感を否めない。通貨危機へ繋がるかどうか。その瀬戸際である。


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    中国政府は巧妙である。在韓中国大使館を使って、ビザ発行を停止していた。中国政府が韓国人の「全面入国禁止」を宣言する代わりに、ビザ発行を中断することで韓国人の入国を遮断しているのだ。

     

    日本が韓国と中国に対して入国制限したことに対し、韓国は日本へ同様の報復措置を取った。韓国国内では、「日本だけに対抗措置を取って、中国には不問か」という議論が巻き起こっている。そこへ、在韓中国大使館が韓国人ビザ発行停止を始めたのだ。韓国政府は、この事態に何と弁明するのか。

     

    『韓国経済新聞』(3月9日付)は、「中国、韓国人へのビザ発行を事実上中断『サムスン電子・SKハイニックス、気が気でない』」と題する記事を掲載した。

     

    在韓中国大使館が新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大の影響で韓国人を対象にしたビザ発行を事実上中断したことがわかった。中国政府が「全面入国禁止」を宣言する代わりにビザ発行を中断することで韓国人の入国を遮断しているという分析が出ている。サムスン電子やSKハイニックスなど中国に進出した韓国の大企業と協力企業などは中国工場の運営に影響が出ないか気を揉んでいる。

     

    (1)「最近ビザを申請した役員は、「14日間隔離」などを甘受してでも緊急に中国に行かなければならない「必須人材」であるが、出国を見通せないためだ。8日の関連業界によると、中国大使館が先月28日から今月6日まで韓国人に発行したビザは14件前後にすぎないという。ビザ発行には通常4日程度かかるという点を考慮すると、先月最終週の月曜日(2月24日)以降に申請したほとんどの人がビザを受けられなかったのだ。この期間の中国ビザ申請者は1日平均100人ほどだったという。ビザ発行代理店関係者は「こうした状況が1カ月以上続きそうだ」と伝えた」

     

    在韓中国大使館は2月24日以来、ビザ発行を停止している。毎日、100人以上が入国申請しているがストップしたまま。理由は、韓国の新型コロナウイルス感染者の激増である。今回のウイルス感染震源地である中国が、韓国人の閉出しを図っている。韓国外交部が、この事態を知らないはずがない。

     

    (2)「北京市など中国の19省市は、新型肺炎の感染拡大を防ぐため韓国人入国者に対し14日間の隔離措置を実施中だ。こうした状況でも中国ビザを申請した人は2週間足止めされてでも出国しなければならない人たちだ。中国で学校に通う韓国人留学生が集まるインターネットコミュニティでは、「ビザが出ず日程が完全に狂った」という嘆きが上がり続けている」

     

    中国への留学生が足止めを食っている。

     

    (3)「中国に大規模生産施設を稼動中であるサムスン電子、SKハイニックス、LGディスプレーなど韓国企業も当惑しているのは同様だ。これら企業は新型肺炎の感染拡大以降中国をはじめとする海外出張を原則的に禁止したが、中国の生産施設稼動や研究開発などに必要な人材は送っている。半導体企業高位関係者は「中国で勤務すべき研究開発人材が最近ビザを受けられず韓国で足止めされている。毎日焦っている」と話した。ディスプレー企業関係者は「協力会社の社員も出国できなくなっている。中国現地の従業員だけではすべての状況に対応できず心配が大きい」とした」

     

    企業も困惑している。半導体のような高度技術については、関係者が直接赴き面談しなければならないだろう。ビジネスがストップしかねない状態になっている。

     


    (4)「業界では、中国政府が意図的にビザ発行を拒否しているのにではないかとの疑いを持っている。外交部が積極的に中国のビザ発行拒否問題に対応すべきという声も大きくなっている」

     

    在韓中国大使館の判断だけで、ビザの発行停止をできるはずがない。中国外交部の指示に決まっている。韓国政府は、ここではたと困ると見られる。中国への対抗措置をできないからだ。それは、日本に対抗措置を取って、中国へ行なわない理由を次のよう説明してしたことによる。

     

    『中央日報』(3月9日付)は、「日本、韓国から出発して他国経由で入国しても2週間隔離」と題する記事を掲載した。

     

    (5)「青瓦台(チョンワデ、大統領府)は8日「日本だけに強硬に対応した」という世論を受け、2700文字に至る反論文を発表した。カン・ミンソク報道官名義で「日本の消極的な防疫にともなう不透明な状況、地理的な隣接性および人的交流の規模、日本国内の感染拡散傾向などを総合的に考慮して決めた」としている」

     

    韓国政府は、苦しい弁明である。日本の防疫対策が不十分としているが、日本は緊急時対応で、コロナウイルス感染が疑われる人間を重点的に検査して成果をあげている。感染者数に対する退院者数比率で、日本は韓国の約15倍に上がっている。日本の「狙い撃ち作戦」が成功している証拠だ。詳細は、私のメルマガ136号で指摘した。韓国は最近、全数調査を止めて、日本型に切り替えると発表している。日本を批判するのは、現実を知らない人たちの言い分に過ぎない。

     


    (6)「依然として青瓦台に対する疑問は、下記の点から納得できないとしている。

    .中国の防疫を信じられると主張し

    .中国地方政府の隔離措置には特別な言及がなく

    .韓国政府とは違い、中国は日本の措置に対して「理解できる」としたことには釈明していないという指摘がある」

    韓国は、中国の防疫対策を信じると言い切った以上、在韓中国大使館がビザ発行停止していることに、何らの対応もできないはずだ。新型コロナウイルス発症地の中国の防疫対策が万全であったならば、ここまで世界中に感染者は増えるはずもない。韓国は、「日本憎し」が昂じて、中国に対し「あばたもえくぼ」の心境に陥っている。



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    中国は、習近平国家主席の名誉欲を満たすために、今年の経済成長率は途方もない「6%」という非現実的な目標に拘っている。このために、倒産予備軍の企業救済目的で、金融機関に野放図な融資を迫っている。この結果、中国経済は再起不能なまでに不良債権を積み上げ、その額が1兆ドル超にもなると指摘されている。

     

    今年は、中国共産党政権樹立後71年目を迎える。ソ連共産党は74年でその歴史を閉じた。独裁政権の寿命を「ソ連邦」並とすれば、中国はその限界点にぶつかる時期に来たとも言える。

     

    市場経済であれば、経済機構の矛楯は価格機能で完全とは言えないまでも解決可能である。だが、習近平氏が政権を握って以来、価格機能を奪い計画経済の矛楯を溜め込み、GDP統計にはゲタを履かせて問題点を隠蔽してきた。その矛楯が、限界点に達したところで、米中貿易戦争と新型コロナウイルス発症という二大重圧によって、過去の不動産バブルに伴う過剰債務が「爆発」寸前の危機を迎えている。これを糊塗すべく、さらなる貸出促進に走るという。ラクダは、最後の藁1本で背骨が折れるとされている。中国経済は、その段階に達したようだ。

     


    『ロイター』(3月3日付)は、「新型ウイルスが促す中国の金融再編弱小銀行に淘汰の波」と題するコラムを掲載した。

     

    感染拡大が経済活動に急ブレーキをかけている今、国営銀行は何が何でも経営難の企業を支えるよう命じられている。体力の弱い銀行は既に沈没寸前で、さらなる救済措置が必要になりそうだ。しっかりとした救済措置を講じる限り、今回の危機は銀行の合従連衡を促すチャンスと言えるかもしれない。

     

    (1)「中国の民間セクターは昨年から景気減速に圧迫されていたが、今年初めは一段と厳しさを増しただろう。UBSのエコノミストは、第1・四半期の国内総生産(GDP)が前期比1.5%のマイナス成長になると予想している。中国政府は今年の成長率目標の6%に固執しているが、これは賢明ではない。中国人民銀行の陳雨露副総裁は最近、中国の公的債務はGDPのわずか56%であり、成長押し上げの選択肢は数多くあるとの見解を示した。数字的にはその通りかもしれないが、中国政府は公的債務の何倍もの債務を保証しなければならなくなる

     

    中国経済に「無理」は効かない高齢体質になっている。生産年齢人口比率が2010年にピークを迎え、「人口オーナス期」(人口負担)に入っているからだ。2010年までの「人口ボーナス期」とは、置かれている環境が180度変わっている。ここでさらなる債務を背負い込むことが、いかなる結果を生むか想像力働かせるべきなのだ。中国の2010年が、日本では1990年に当る。その後、日本経済が苦難の道を歩まされた。中国は、全く同じ事態に見舞われるだろう。

     


    (2)「2009年のように、単に与信を拡大して済む話でもなければ、重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染が拡大した03年のように速やかな需要回復をあてにすることもできない。両年とも中国経済の成長見通しは今より明るく、地政学的上の立ち位置も良好だった。もはやそうではない。景気刺激策が株価をある程度支えているが、刺激策は銀行のバランスシートには悪影響を及ぼす。筆者の概算によると、つぶれそうな企業を支えることで、不良債権および不良化しつつある債権は1兆ドルを超える恐れがある

     

    2003年のSARSや2009年のリーマンショックは、「人口ボーナス期」に起こったことだ。ただ、09年は4兆元という莫大な財政支出で生まれた後遺症(借入れ返済)が未解決のままである。そこへ2010年以降の債務が重くのしかかる。船で言えば、吃水線ギリギリの貨物(負債)を積み込んでいる。ここで、大波が来ればひとたまりもない。中国経済はこういう状況に置かれている。

     

    (3)「中国では昨年、経営難の銀行が何行も救済された。さらに多くの救済行予備軍が控えているのは間違いない。不良債権隠しで罰金を科されたり、逮捕者を出したりした銀行が、その候補だ。次の救済劇は、新型ウイルスがまん延した湖北省武漢市から始まりそうだ。武漢市はとりわけ、体力の強い銀行を欠いている。ただ、銀行救済は武漢市にとどまらないだろう。中国指導部は不良債権削減の必要性を重々承知しており、与信管理の厳格化を指導してきた。不良債権の大半は、世界金融危機の影響を和らげるために実施された景気刺激策の置き土産だ」

     

    武漢市は、「新型コロナウイルス」発症地になったが、次は銀行倒産の震源地になりそうである。コロナ禍で甚大な経済的損失を被っている以上、不良債権は山ほど積まれている。ここが、中小金融機関の整理倒産の発火点となる可能性が強い。

     


    (4)「不良債権処理は完了とはほど遠い上に、目下は融資を継続して資金を回転させ続ける必要がある。このため銀行監督当局は厳格化した規則を一部緩和した。銀行に財テク商品をすべてバランスシート上に載せるよう義務付ける措置を延期したのが、その最たるものだ。同時に銀行業監督管理委員会(銀監会)は、合併や閉鎖を通じた銀行の統合加速を検討するかもしれない。特に標的となるのは資本が不足している、農村部の銀行だ。整理淘汰にはコストがつきものだが、これまでは先送りされてきた。これは地元銀行と癒着した地方政府当局からの抵抗に一因がある。今回の危機は、中央政府がこうした抵抗をはねのけ、必要な措置を敢行する千載一遇のチャンスをもたらしている

     

    習近平氏が、自分の名誉欲を満たそうとして、さらなる無理(負荷)を経済にかければ、習氏の2022年の「国家主席3選」の夢は怪しくなろう。中国経済が破綻同様の中で「終身国家主席」と嘯縷(うそぶ)いていられる状況でなくなる。習氏は、自らその座を降りるほかあるまい。そういう潜在的なリスクを抱えている現在、地方金融機関の経営立直しは不可欠である。習氏に、それを選択する冷静な眼力が残っているか。中国経済のカギはここにありそうだ。

     

     

     

     

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    けさ、メルマガを下記の目次で発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    韓国首相が公然と日本批判

    日本の診療が韓国を上回る

    日本の特効薬を米国も注目

    対日批判は古い政治ショー

     

    日本政府が、3月9日から中国と韓国に対して「入国制限」することになった。これに対して韓国政府の感情的反発はもの凄く、日本に対して同様の入国制限措置で対抗する。一方の中国は「理解可能」と日本の措置を理解する姿勢である。

     

    韓国は、3月8日現在、世界の102ヶ国から何らかの入国制限措置を受けている。その中で唯一、日本に対してだけ対抗措置を取る特別対応である。国民の間にある「反日感情」を利用して、韓国政府への批判をかわす狙いと見られている。4月15日が、韓国の総選挙である。コロナ禍・経済悪化など形勢不利の韓国与党にとって、「反日」で煽り立てることが情勢好転へのテコになるという判断だ。

     

    韓国首相が公然と日本批判

    韓国が日本を非難する理由は、次の点にある。韓国首相発言にその点を見ておきたい。

     

    丁世均(チョン・セギュン)首相は7日、「新型肺炎問題は個別の国レベルの問題ではなく人類すべての危機で、内部的連帯に劣らず国際的な協力が重要だ。だがわれわれの長い隣国である日本政府は遮断し目を背けることを選択した」と指摘した。この見解は、妥当なものだろうか。

     

    感染症の防疫は、国権の問題である。他国からの罹患リスクから自国民をいかに保護するか。これは政府の重大任務なのだ。国際的な協力は、入国の門戸を開けておくことでなく、治療薬・防疫体制整備・情報交換であろう。先ず、自国内で感染症伝播を防ぐには、他国からの病原菌侵入防止、つまり人間の移動制限である。日本政府が、遅まきながら中国と韓国に対して行なった措置が、非難されるべきことではない。

     

    韓国は、「隣国」をことさら強調する。極論すれば、友人から新型コロナウイルスを罹患しても我慢すべきという話になろう。古来、伝染病患者の隔離は、蔓延を防止する第一手段である。時期的に遅れたとはいえ、日本が感染者数で世界1位の中国と、同2位の韓国へ行なう入国制限は、外交慣例に反するという形式次元の問題でない。日本国民を守る当然の権利行使である。

     

    韓国外交部は、駐韓日本大使館に対して、大使と総括公使の二人を別個に呼び出すという異例の抗議をしている。すでに102ヶ国が、韓国人の入国制限などを行なった。その中で、日本だけに厳重抗議するのは、韓国国民向けの「外交ショー」に映るのである。国民の不安を鎮める手段として日本をヤリ玉に挙げたと見るほかない。これが、国民の「反日感情」に火を付けられれば、文政権への批判をかわせるという狙いであろう。こういう見え透いた「外交ショー」に、韓国国民はどれだけ納得するのか疑問である。

     

    日本の診療が韓国を上回る

    丁首相は、次のような理由で日本を批判している。

     

    韓国の検査能力は世界最高水準で、致死率は主要国で最も低い。1日1万人以上の大規模検査と検査結果に対する透明な公開は、世界が新型肺炎の特性と正確な致死率を把握するのに大きく寄与している。その上で、「日本が果たして韓国ほど透明で積極的なのか疑わしい状況」と付け加えた。

    下線部分の発言は、日本の「コロナ」検査体制への公然とした非難である。外交的にもこういう発言はタブーだ。それを、あえて冒してまで韓国の立場を守ろうとするところに苦しさが感じられる。

     

    日本の検査体制は、先ず、感染の疑われる人たちを対象にした。37.5度以上の体温が続いている人を優先した。これは、緊急医療の常識であろう。大地震が起こった際、負傷者の治療は重症者から優先するという「クラス分け」が行なわれている。多分、こういう緊急時の対応ルールが適応されていると見られる。これに対して、韓国では言われなき批判が横行している。

     

    安倍政権は、東京五輪開催を強行するため、できるだけ感染者数を少なくするように、検査件数を少なくしている、というものだ。「新型コロナウイルス感染症」は、隠しておけば感染者が一段と増える意味で、隠しておくメリットはなくデメリットだけである。こういう常識が、なぜ通じないのか。その方が不思議である。

     

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    韓国は、「コロナ禍」で世界の100ヶ国以上から入国制限を受けている。この中で唯一、日本に対してだけ対抗措置を取って「反日」の狼煙を上げ続けている。この狙いは、4月15日の総選挙で反日の国民感情を刺激して、総選挙で汚名挽回のテコにしようとしているのだろう。韓国国内では、「日本にだけ対抗措置を取って、中国には沈黙しているのはなぜか」という疑問を抱かせている。

     

    朝鮮日報に興味深いコラムが掲載された。編集局副局長の鮮于鉦(ソンウ・ジョン)氏によるもの。長らく、日本での特派員生活を送った韓国有数の「日本通」記者だと思う。面識はないが、鮮氏の書く記事を一貫して読んできた者として、日本への偏りのない認識に尊敬の念を持っている。

     

    その鮮氏が、日本で自民党政権が復活し民主党が敗北した背景を説明しながら、韓国政治に筆を進めている。そこから浮かび上がるのは、「大事故・中国・政治的未熟さ」が、国民感情を刺激して、政権を交代させるという政治論である。味わい深いコラムと思う。

     


    『朝鮮日報』(3月8日付)は、「
    「韓国人だという理由で侮辱されるのは初めて見た」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の編集局副局長・鮮于鉦(ソンウ・ジョン)氏である。

     

    (1)「歴史をひもとけば、政権が崩壊する原因はさまざまだ。最もよくあるケースは、敗戦後の政治変動のように国に対する国民の自負心が崩壊した時だ。どん底まで落ちた時にはい上がる回復弾力性は、個人・企業はもちろん、国家と国民の本性でもある。政治家がこの本性をどのような道に誘導するかによって、国の未来が変わる。イラン米国大使館人質事件後の米国の政治変動、東日本大震災後の日本の政治変動が戦後における代表的な事例だ。進歩派の没落と保守派の復活、国家の再飛躍、国民の自負心の回復につながったという点で、いくつかの示唆がある

     

    未曾有の大事件が起こったとき、政権がどのように対処するか。国民はそれをじっと見ており、政権を選択するという趣旨である。その好例が、安倍政権の復活にあると説く。そして、韓国で起こっている「コロナ禍」が、国民感情をどれだけズタズタにしているか。目前の総選挙にその結果が表れるという示唆である。

     

    (2)「日本の事例だ。2011311日の東日本大震災発生翌日、取材のために福島に行った。原発が爆発した時だ。西欧のメディアは災害に対処する日本人を「人類精神の進化だ」と評価した。だが、私は無力な日本について書いた。国民は放置され、2次被害が広がっていた。政府の未熟な対処は福島全体を死の地にした。その時、日本の首相は「戦後の焼け野原から立ち上がったように、我々は日本を再生させるだろう」と言った。数年後、彼の言葉は実現した。民主党ではなく、自民党によってだ」。

     

    民主党はなぜ敗北したか。東日本大震災における対応の失敗で、国民の信を失ったからだ。もう一つ、「反米・親中」の外交スタイルが、「何も決められない政権」というイメージを決定的にした。

     

    (3)「『民主党の没落は大震災のためだ』という言葉は、部分的には事実だ。最後の刀は中国から飛んできた。民主党は親中路線を打ち出し、基地問題で米国との間で確執を生んでいた。日米同盟のすき間は広がり、大震災で日本の国力が弱まると、中国は尖閣諸島問題を起こし、東シナ海へと覇権を広げた。前近代的覇権に精通している中国は、近代外交の原則である互恵精神を知らない。甘ければ飲み込み、苦ければ吐き出す。今日、我々が経験していることだ。日本ではそれが国民の自負心を完全に崩壊させ、進歩派政治に回復不能の傷を負わせた」。

     

    中国の対日外交は、完全に日本を見くびったものであった。日本は、尖閣諸島に対する中国の傍若無人の行動を見て奮起したというのだ。韓国は、日本が味わった苦汁を飲めと突付けられている。文政権は、喜々としてそれを受入れる姿勢だ。韓国国民が、これを受入れるのか。あるいははね返すのか。岐路に立っている。

     

    (4)「日本の示唆するところは民主党の失敗だけではない。自民党はどのように国民の回復弾力性を支持エネルギーに引き込んで長期執権に成功したのだろうか。保守の復活を導いた安倍晋三首相は第1次政権時、腸の病気を理由に権力を放棄し、自民党は没落の道をたどった。そんな人物がどのようにして日本の保守を復活させたのか。昨年末、日本の総合誌「文藝春秋」に掲載された安倍首相のインタビュー記事にその手がかりを見つけた」

     

    安倍政権の復活は、自らの経験した第一次安倍政権の「失敗学」を基礎にしている。反省があって、初めて長期政権が可能になったというのである。

     


    (5)「日本の自民党の長期的優位体制、言い換えると日本社会の長期的保守化は、世界の政治学界における長年の研究対象だ。ソウル大学の朴チョル煕(パク・チョルヒ)教授は「野党分裂」「イデオロギー的包括性」と共に「政策アジェンダの差別性」を挙げる。はっきりと差別化された政策で流動層を長年の支持勢力としてくくり付けているということだ」

     

    戦後日本での自民党長期政権は、流動層=中立派を支持層に取り込んできた結果と指摘している。この点で、文政権は労組と市民団体だけに奉仕する「階級政党」である。自民党は中立層を取り込む政策が、幅広い国民の支持を集めてきたと見ている。

     

    (6)「2012年の日本の政治変動は、自民党の保守化戦略や政治家の姿勢という面で、今の韓国政治に有用な情報を多く含んでいる。世界各地で韓国人約1200人が隔離されたという。文在寅(ムン・ジェイン)政権は「中国に行ってきた韓国人のため」と感染拡大の原因を国民にかぶせた。今、韓国には政権に対する特定集団の狂的忠誠があるだけで、国民の国に対する自負心は崩壊した。国民の回復弾力性は政治変動を引き出す。どん底からはい上がる国の本性をどの道に誘導するかは、代案勢力の資格と実力にかかっている

     

    韓国政治は、硬直性そのものだ。特定集団の利益に奉仕し、国民一般を忘れている。世論調査を見ても、中立派が文政権から離れている。安倍政権復活の条件を韓国に当てはめれば、文政権は真逆の道を進んでいる。このエッセイは、文政権への強烈な批判と示唆に富んでいる。


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