「帝国」は、領土拡張を最大目的にすると言われている。中国は今、この延長線で琉球(沖縄県)がかつての中国支配権が及んでいたと言い始めている。狙いは何か。沖縄県民を煽って、独立させようというのかも知れない。いやはや、この古い認識に驚くほかない。
『時事通信』(4月12日付)は、「『琉球独立』あおる? 中国で強まる日本の領有権懐疑論」と題する記事を掲載した。
中国でこのところ、「琉球」(沖縄)に対する日本の領有権を疑問視し、中国との歴史的関係の深さを強調する主張が目立つ。共産党政権の公式シンクタンクに所属する専門家が相次いで論文を発表。「琉球独立」をあおるかのようなキャンペーンを展開している。
(1)「中国歴史研究院は3月下旬、SNSを通じて、琉球に関する論文3本を紹介した。いずれも、同研究院が出版する「歴史評論」(隔月刊誌)の今年第1号に掲載されたもので、同国最大級の公式シンクタンクである社会科学院日本研究所の専門家が執筆した。歴史研究院の別の専門誌「歴史研究」の昨年第6号、日本研究所の「日本学刊」の昨年第6号なども琉球を取り上げ、今年2~3月にSNSに転載された」
中国共産党は過去、毛沢東の命令で歴史の改ざんを行ってきた経緯がある。自国(共産党)の利益になれば、こうした忌むべき行為を平然と行うのだ。
(2)「歴史研究院は習近平国家主席2期目の2019年成立。社会科学院に属するが、院長は閣僚級で格が高く、中国における歴史研究の最高峰と言える。これらの論文は以下のような見解を示した。
1)琉球は昔から日本に属していたというのは、日本の統治を合法化するための偽の歴史だ。(江戸時代になっても)薩摩藩の琉球に対するコントロールは限定的で、琉球は中国の属国だった。
2)琉球人は南方や大陸の影響を受けながら、独自に発展した。「日琉同祖論」は成り立たない。
3)明は琉球への支援を通じて、東海(東シナ海)に対するコントロールを常態化していた。中国の東海に対する権利には完全な証拠がある。
4)日本の琉球併合は近代日本軍国主義の侵略・拡張の第一歩だった。
5)琉球諸島は「地位未定」の状態にある。カイロ宣言、ポツダム宣言などに基づく第2次世界大戦の国際秩序は、琉球を日本領として認めていない。中国を除外したサンフランシスコ講和条約体制は本質的に非合法である」
琉球王朝は、徳川幕府の命で薩摩藩が支配した。目的は、中国との交易である。琉球は当時、朝貢貿易によって中国から貴重な物資を得ていたので、それが日本へ流れていた。琉球は、中国から政治的な支配を受けず、琉球王朝が治めていた。ただ、年一度は、中国の役人の訪問を受入れていた。徳川幕府はそれを認めていたのだ。琉球王朝には、薩摩藩を迎える玄関と中国役人を受入れる玄関を別々につくっていたほどである。
この歴史的事実と中国の主張を比べれば、いかに真実でないかがわかる。5)の主張は台湾に当てはまる。台湾は、日本が放棄したものの「地位未定」のままだ。中国は、「やぶ蛇」な振舞をしている。
(3)「いずれも「琉球は中国のものだ」とは言っていないが、琉球は歴史的に日本より中国との縁が深かったという主張は共通している。共産党の指導下で統一見解がまとめられていると思われる。中国共産党は前近代の中国が治めた、もしくは関わった地域を自分たちの縄張りと見なす傾向があるので、同党指導下の研究機関が中国・琉球関係の歴史を重視するのは不思議ではなく、公式メディアが過去に同じような見解を示したこともある。それにしても、今ここまで力を入れるのはなぜか」
一国政府は、歴史的事実に基づかない領土論の主張をしてはならない。これが、常識のはずだ。だが、中国はあえてこのタブーを冒してくる。中国は、いまだに領土拡張が国益と考える「帝国主義」の域に止まっている証拠であろう。
(4)「思い当たるのは、習主席の「琉球」言及だ。習主席は昨年6月、古文書などを収蔵する北京の国家版本館(中央総館)と歴史研究院を視察した。党機関紙の人民日報によると、版本館の職員は明代の文書「使琉球録」(写本)を、「釣魚島」(沖縄県・尖閣諸島)が中国に属することを示す早期の史料として紹介。元福建省長の習主席は同省勤務時代を振り返り、省都の福州と琉球の交流が盛んだったことを知ったと述べ、史料の収集・整理を強化して中華文明をきちんと伝承していくよう指示した。琉球を中華文明の中に含めたようにも聞こえる。さらに翌7月、福建省は玉城デニー沖縄県知事の来訪を受け入れ、同省指導部トップの省党委員会書記が会談に応じるなど厚遇した」
習氏は、台湾統一を最大の政治使命としている。その視点で、琉球を自国領と言いたいのだろう。中国は、南シナ海を中国領海と偽っているが、国際司法の場では「虚偽」と立証されている。
(5)「こうした動きを機に、シンクタンク側が党からの指示、または習主席の意向への忖度(そんたく)に基づいて、琉球関連論文の量産を始めた可能性がある。「琉球ですら日本の領土かどうか怪しいのだから、釣魚島が日本領であるわけがない」と言いたいのだろう。以上のような中国の琉球論は現在、インターネット上で一般の人々も盛んに取り上げており、全く規制されていない。日本をけん制する愛国的言論と見なされているようだ。しかし、自国の分裂反対を日々叫びながら、隣国の分裂をあおるのは矛盾した姿勢であり、中国自身にとって危険な「火遊び」をしているように見える」
下線部は、中国にとって手痛い反論である。台湾独立を絶対に許さないとしながら、琉球は独立せよと煽っているからだ。