勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ:経済ニュース時評 > 日本経済ニュース時評

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    「帝国」は、領土拡張を最大目的にすると言われている。中国は今、この延長線で琉球(沖縄県)がかつての中国支配権が及んでいたと言い始めている。狙いは何か。沖縄県民を煽って、独立させようというのかも知れない。いやはや、この古い認識に驚くほかない。 

    『時事通信』(4月12日付)は、「『琉球独立』あおる? 中国で強まる日本の領有権懐疑論」と題する記事を掲載した。 

    中国でこのところ、「琉球」(沖縄)に対する日本の領有権を疑問視し、中国との歴史的関係の深さを強調する主張が目立つ。共産党政権の公式シンクタンクに所属する専門家が相次いで論文を発表。「琉球独立」をあおるかのようなキャンペーンを展開している。 

    (1)「中国歴史研究院は3月下旬、SNSを通じて、琉球に関する論文3本を紹介した。いずれも、同研究院が出版する「歴史評論」(隔月刊誌)の今年第1号に掲載されたもので、同国最大級の公式シンクタンクである社会科学院日本研究所の専門家が執筆した。歴史研究院の別の専門誌「歴史研究」の昨年第6号、日本研究所の「日本学刊」の昨年第6号なども琉球を取り上げ、今年2~3月にSNSに転載された」 

    中国共産党は過去、毛沢東の命令で歴史の改ざんを行ってきた経緯がある。自国(共産党)の利益になれば、こうした忌むべき行為を平然と行うのだ。

     

    (2)「歴史研究院は習近平国家主席2期目の2019年成立。社会科学院に属するが、院長は閣僚級で格が高く、中国における歴史研究の最高峰と言える。これらの論文は以下のような見解を示した。

    1)琉球は昔から日本に属していたというのは、日本の統治を合法化するための偽の歴史だ。(江戸時代になっても)薩摩藩の琉球に対するコントロールは限定的で、琉球は中国の属国だった。

    2)琉球人は南方や大陸の影響を受けながら、独自に発展した。「日琉同祖論」は成り立たない。

    3)明は琉球への支援を通じて、東海(東シナ海)に対するコントロールを常態化していた。中国の東海に対する権利には完全な証拠がある。

    4)日本の琉球併合は近代日本軍国主義の侵略・拡張の第一歩だった。

    5)琉球諸島は「地位未定」の状態にある。カイロ宣言、ポツダム宣言などに基づく第2次世界大戦の国際秩序は、琉球を日本領として認めていない。中国を除外したサンフランシスコ講和条約体制は本質的に非合法である」 

    琉球王朝は、徳川幕府の命で薩摩藩が支配した。目的は、中国との交易である。琉球は当時、朝貢貿易によって中国から貴重な物資を得ていたので、それが日本へ流れていた。琉球は、中国から政治的な支配を受けず、琉球王朝が治めていた。ただ、年一度は、中国の役人の訪問を受入れていた。徳川幕府はそれを認めていたのだ。琉球王朝には、薩摩藩を迎える玄関と中国役人を受入れる玄関を別々につくっていたほどである。 

    この歴史的事実と中国の主張を比べれば、いかに真実でないかがわかる。5)の主張は台湾に当てはまる。台湾は、日本が放棄したものの「地位未定」のままだ。中国は、「やぶ蛇」な振舞をしている。

     

    (3)「いずれも「琉球は中国のものだ」とは言っていないが、琉球は歴史的に日本より中国との縁が深かったという主張は共通している。共産党の指導下で統一見解がまとめられていると思われる。中国共産党は前近代の中国が治めた、もしくは関わった地域を自分たちの縄張りと見なす傾向があるので、同党指導下の研究機関が中国・琉球関係の歴史を重視するのは不思議ではなく、公式メディアが過去に同じような見解を示したこともある。それにしても、今ここまで力を入れるのはなぜか」 

    一国政府は、歴史的事実に基づかない領土論の主張をしてはならない。これが、常識のはずだ。だが、中国はあえてこのタブーを冒してくる。中国は、いまだに領土拡張が国益と考える「帝国主義」の域に止まっている証拠であろう。 

    (4)「思い当たるのは、習主席の「琉球」言及だ。習主席は昨年6月、古文書などを収蔵する北京の国家版本館(中央総館)と歴史研究院を視察した。党機関紙の人民日報によると、版本館の職員は明代の文書「使琉球録」(写本)を、「釣魚島」(沖縄県・尖閣諸島)が中国に属することを示す早期の史料として紹介。元福建省長の習主席は同省勤務時代を振り返り、省都の福州と琉球の交流が盛んだったことを知ったと述べ、史料の収集・整理を強化して中華文明をきちんと伝承していくよう指示した。琉球を中華文明の中に含めたようにも聞こえる。さらに翌7月、福建省は玉城デニー沖縄県知事の来訪を受け入れ、同省指導部トップの省党委員会書記が会談に応じるなど厚遇した」 

    習氏は、台湾統一を最大の政治使命としている。その視点で、琉球を自国領と言いたいのだろう。中国は、南シナ海を中国領海と偽っているが、国際司法の場では「虚偽」と立証されている。

     

    (5)「こうした動きを機に、シンクタンク側が党からの指示、または習主席の意向への忖度(そんたく)に基づいて、琉球関連論文の量産を始めた可能性がある。「琉球ですら日本の領土かどうか怪しいのだから、釣魚島が日本領であるわけがない」と言いたいのだろう。以上のような中国の琉球論は現在、インターネット上で一般の人々も盛んに取り上げており、全く規制されていない。日本をけん制する愛国的言論と見なされているようだ。しかし、自国の分裂反対を日々叫びながら、隣国の分裂をあおるのは矛盾した姿勢であり、中国自身にとって危険な「火遊び」をしているように見える」 

    下線部は、中国にとって手痛い反論である。台湾独立を絶対に許さないとしながら、琉球は独立せよと煽っているからだ。

     

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    初の開催となった11日の日米比首脳会談では、海洋安全保障や経済面での協力が前面に打ち出された。中国は、東シナ海や南シナ海での海洋進出に拍車をかけ、経済的な威圧も強めている、日米比三カ国は、結束してこれを抑止しようとするものだ。

     

    昨年11月、岸田首相はフィリピンのマルコス大統領と会談した。日本政府による装備品提供などの新たな枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」や、自衛隊とフィリピン軍の相互往来をスムーズにする「円滑化協定(RAA)」など安全保障分野での連携が中心テーマとなった。こうして日比両国は、すでに安全保障で固く結び合っている。

     

    『毎日新聞』(4月12日付)は、「日米比首脳会談、バイデン政権が熱望『格子状の同盟』で中国に対抗」と題する記事を掲載した。

     

    初の開催となった11日の日米比首脳会談は、海洋安全保障や経済面での協力が前面に打ち出された。

     

    (1)「バイデン米大統領は11日の会談冒頭で、「フィリピンの航空機、艦船、軍が南シナ海で攻撃されれば、相互防衛条約(の防衛義務)を発動する」と、フィリピンが実効支配する南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンドトーマス礁)で威圧を強める中国に警告した。左右に座る日比首脳に視線を送りながら「米国の防衛義務は強固だ」とも強調した。

     

    中国は、フィリピン船へ放水するなど、嫌がらせを続けている。米国が、こういう形で中国へ警告すれば、少しは自粛するであろう。フィリピンは、米国の強い後ろ盾を得て安堵しているに違いない。

     

    (2)「今回の会談は、米国の強い意向で実現した。本来なら国賓待遇の首脳の訪問中に他国の首脳を招くことはない。米国は、2022年に発足したマルコス比政権がドゥテルテ前政権の中国寄りの姿勢を一転させ、米比の安保協力を進めたことを評価。11月の大統領選が近づくと外交に割ける余力が減ることから、岸田首相の訪米に合わせた「歴史的な3カ国首脳会談」(バイデン氏)にこぎ着けた」

     

    フィリピンは、岸田首相が国賓で招待されている中で、あえて三カ国首脳会談へ臨んだのは、それなりの決意を秘めている結果であろう。体裁に拘らず、日本との関係強化を選んだに違いない。メンツよりも国益選択である。

     

    (3)「バイデン政権は、米国を中心に同盟国がつながる「ハブ・アンド・スポーク」の2国間型の同盟関係から、同盟国同士が関係を強化してネットワーク化する「格子状」の同盟関係に進化させようとしている。会談直前の7日には「海上協同活動(MCA)」と称し、南シナ海で自衛隊と米、比、オーストラリア海軍による共同訓練を実施。中国の威圧に対抗するために米比が23年に再開した合同パトロールの拡大版となった。南シナ海で中国の攻撃的な行動が強まる中、フィリピンは日豪などとそれぞれ安保協力を強化してきた。近年はより大きな枠組みに昇華すべきだとの声が出ており、シンクタンク「ストラトベースADR研究所」のビクター・マンヒット代表は「バイデン政権の『格子状』の同盟関係は、比側が求める未来図とも一致した」と説明する」

     

    フィリピンは、中国に裏切られた関係にある。中国から甘くみられたのだ。それだけに、多国間との協定を縦横無尽に結んで、フィリピンの安全保障を維持する戦術に転じている。中国は、周辺国がこのように「格子状」で重層的な安保体制を取っていることをどのように捉えているのか。寡聞にして聞かないのだ。

     

    (4)「フィリピンでは、中国との経済関係が弱まるとの見方が強まっている。このため、マルコス氏は今回の会談について「経済安全保障の促進にとっても重要だ」と強調し、インフラなど安保以外の分野での連携も確認した。首脳会談で合意したフィリピンの首都マニラの南北を結ぶ「ルソン経済回廊」の整備は、米軍撤退(1992年)前に基地があったスービックやクラークをつなぐインフラの建設が目玉だ。マルコス政権は、スービックとクラークを結ぶ鉄道建設で中国の支援を断った経緯があり、日米が中国の「穴」を埋めることで存在感を高める狙いもあるとみられる」

     

    フィリピンは、安保体制の強化だけでなく、経済面での日米比の関係強化を求めている。フィリピンの「ルソン経済回廊」の整備で日米が協力する。また、その見返りにフィリピンからニッケルの提供を受ける。EV(電気自動車)生産には、不可欠なレアメタルである。

     

    (5)「電気自動車の電池に欠かせない希少金属のニッケルについても、インドネシアに次ぐ世界2位の生産国であるフィリピンをつなぐサプライチェーン(供給網)を構築する。中国が東南アジアでニッケル獲得の動きを強める中、3ヶ国の連携で安定供給の強化を図る考えだ」

     

    フィリピンが、世界2位のニッケル埋蔵量であることは強みである。これは、日米比をつなぐ貴重な素材だ。

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    米マイクロソフト(MS)は9日、日本における人工知能(AI)インフラの強化を目指し、今後2年間で29億ドル(約4400億円)を投資すると発表した。MSによる日本への投資額としては過去最大である。発表資料によると、AIとロボット工学に特化したラボを日本に開設し、サイバーセキュリティー分野で日本政府との協力関係を深める計画だ。

     

    MSが、日本で4400億円という巨額投資を行う背景はなにか。それは、有望市場であることだ。独スタティスタによると、生成AIの世界市場は年平均約2割のペースで成長し、30年には約30兆円となる見通し。日本は米国、中国に続く規模で、ロボット関連のほか生成AIを活用した日本発のサービス開発で生まれる国内のデータセンター需要を取り込む。MSにとっても十分に採算に乗る見通しであろう。

     

    AIは企業の生産性向上に貢献する一方で、様々な産業で人間から仕事を奪う可能性が指摘されている。マイクロソフトは、今後3年で非正規雇用を含む国内300万人を対象にAIの活用スキルを学べる教育プログラムを提供し、転職やキャリアアップを後押しする。

     

    『日本経済新聞』(4月10日付)は、「『日本の競争力はAI導入が左右』、マイクロソフト・スミス社長 支援拠点を都内に設立」と題する記事を掲載した。

     

    (1)米マイクロソフトが、日本で約4400億円を投じて生成AI(人工知能)の計算基盤となるデータセンターを整備する。日本経済新聞社の単独取材に応じたブラッド・スミス社長は、「人口が高齢化し減少する中、持続的な経済成長にとってAIは不可欠な要素だ」と述べ、「日本経済の競争力はAI導入にかかっている」と強調した」

     

    先進国の中で、最も早く労働力人口が減少するのは日本である。これをロボットとAIでカバーできれば、2026年以降も潜在成長率1%を維持できるという試算が出ている。日本にとっては、真剣勝負で臨むべきテーマである。

     

    (2)「米マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、生成AIが生み出す経済的価値は世界で年2.6兆~4.4兆ドル(約390兆~670兆円)に達すると見込まれている。AIの開発や運用に使うデータセンターや半導体の確保は国家の産業競争力を左右するようになっている。競合する米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)はサウジアラビア、米グーグルは英国などでそれぞれデータセンターの立ち上げを計画している。スミス氏は、「世界各国の政府にとってローカルのインフラを含むAIの導入が国家の優先事項になっている」と説明した」

     

    AIについては、いろいろと欠陥が指摘されている。だが、労働力不足を緩和するには不可欠である。弊害問題は、AIの利用法を誤った場合であろう。

     

    (3)「日本におけるAIの導入を支援するため、マイクロソフトは新たな研究施設を東京都内に設置する。スミス氏は、「日本が強みを発揮するためにはロボット開発にAIを導入していくことが重要だ」と話し、労働生産性を高める自動化技術を大学と共同で研究する構想を明らかにした日本政府とはサイバーセキュリティー分野でも連携する。スミス氏は「サイバー攻撃は国家の脅威になっている。特に中国やロシアによるランサムウエア(身代金要求型ウイルス)が活発化している」と述べ、「大手ハイテク企業と政府が緊密に連携していくことが必要だ」と訴えた」

     

    少子高齢化は、日本だけの問題ではない。今のところ日本で顕著だが、先進国とアジアなど発展途上国でも兆候が見えている。となると、日本が少子高齢化をAIとロボットで克服できれば、他国に取っても福音となろう。

     

    (4)「24年は米大統領選をはじめ、世界各地で重要選挙が相次ぐ。生成AIの急速な普及は、偽情報の拡散による世論の分断といったリスクも抱える。欧州連合(EU)の欧州議会は3月にAIに関する世界初の包括的な法規制案を可決した。日本は23年に主要7カ国(G7)がAIのルールを話し合う「広島AIプロセス」を主導した。スミス社長は、「日本政府は世界の舞台でリーダーシップを発揮している。米国や英国、カナダ、EUを結びつける上で非常な影響力を持っている」と話し、各国に協調を促す日本の役割に期待感を示した」

     

    AIは、利用法をあやまらなければ、社会にプラスとなる。一方では、これを悪用する政治勢力も存在する。ニセ情報をいかに排除するか。これもAIの利用しだいだ。

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    AI(人工知能)普及がもたらす最大の悩みは、消費電力量が膨大であることだ。データの計算や保存を行うデータセンターを新設する企業が相次ぎ、日本では2050年に4割弱も増えるとの予測が出ているほどだ。こうした悩みを解決するのが、NTTが開発した光半導体を使った次世代通信(6G)「IWON」である。日本初の技術開発である。 

    NTTが、米サンフランシスコで現地時間10~11日に開いた技術イベントで、IWONの実証実験成功が公開された。英国では約89キロメートル、米国では約4キロメートル離れたデータセンターを1000分の1秒以内というわずかな時間差でつなぎ、一つのインフラのように運用できたと公開した。 

    今回の日米首脳会談では、「日米企業は、IOWNグローバルフォーラムのようなパートナーシップを通じ、光半導体を通じて得られる幅広い可能性を模索している」と確認された。政府間の文書でIOWNへの言及があったのは初めて。6Gの切り札として国際標準化へ向けた動きが活発化する。 

    『日本経済新聞』(4月13日付)は、「NTT、光技術で世界標準へ 次世代通信『IOWN』実証成功 『iモード』教訓 米で布石」と題する記事を掲載した。 

    NTTが、光技術を使った次世代通信基盤「IOWN(アイオン)」で世界市場を狙う。離れた場所にあるデータセンターをつなぐ実証に英国と米国でそれぞれ成功した。NTTが米サンフランシスコで現地時間1011日に開いた技術イベント会場には独自開発した大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi(つづみ)」やセキュリティー関連の展示が並んだ。IOWNは会場の目立つ場所に展示ブースを構え、英国と米国での実証実験の結果も発表した。

     

    (1)「生成AI(人工知能)のデータ処理を担うデータセンターの重要性は急速に高まる。ただ、都市部で設置を増やすにはスペースの制約があった。複数のデータセンターをつないで遅延がない運用ができれば、設置場所の選択肢が郊外に広がる。NTTが2019年5月に構想を表明したIOWN。得意とする光通信技術を応用し、少ない電力で大容量のデータのやり取りを可能にする。2030年以降には現在のインターネットと比べて消費電力を100分の1まで減らせると見込む。段階的に商用化を進めている」 

    NTTは、半導体内の電子処理を電気信号から光に置き換える「光電融合技術」を開発し、大幅な消費電力の削減を実現させるメドがついた。すでに製品化へ向けて動き出している。演算用の半導体を手掛けるインテルや、記憶用の半導体を手掛けるSKハイニックスと必要な技術の擦り合わせなどで協力を要請した。NTTは、この技術を核にして次世代通信基盤「IOWN」の実用化に成功した。 

    IWONは、2028年度に伝送容量125倍を処理し、32年度に電力消費100分の1削減を達成できると見込んでいる。つまり、現在よりも125倍のデータ伝送を1%の電力消費で行うのだ。夢の実現である。 

    (2)「NTTは、IOWN構想推進で米国を重視した。20年1月にソニーグループ、米インテルと国際団体「IOWNグローバルフォーラム」を設立。拠点は日本でなく米国に置いた。インテルのボブ・スワン最高経営責任者(CEO、当時)や米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOらビッグネームと会い、次々と提携をまとめた。なぜ米国なのか。IOWNの優位性を売り込んでも「米国には米国の優れたサービスがあるという議論になってしまう。だから最初に仲間に引き込んだ」(NTT澤田会長)」 

    IWONは、国際標準化することで世界通信市場を席巻できる。それには、米国の力を借りるほかない。米国を仲間に引き入れることだ。

     

    (3)「沢田氏は、「ハードウエアのメーカーでないNTTにとって、IOWNをいかに製品やサービスに応用できるかが重要だ。テック大手のGAFAMについても「ライバルであり、お客さんでもある」と語る。「日本に閉じこもらず、世界標準にする」。澤田氏がこの目標を掲げる背景にはiモード(注:携帯電話でのメールのやりとり)の苦い経験がある。iモードは自社技術を押しつけようとして海外に普及しなかった。IOWNでは初期段階から海外企業を含めた仲間づくりに力を注いできた」 

    NTTは,iモードが世界標準になれなかった理由として、海外での「仲間づくり」に失敗したことを挙げる。これを教訓に、IWONは米国という最大の仲間をつくり、「6G」の骨格を担う。 

    (4)「道のりは半ばだ。グローバルフォーラムの参加企業は約140社まで広がったが半分は国内勢。残る半分のうち米企業は数社にとどまる。研究開発の成果の開示義務を課すNTT法が足かせになっている。だが、そのNTT法は転機を迎えている。改正案が4月5日の衆院本会議で与党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。オープンイノベーションを探るうえでの障壁は取り払われる見通しだ」 

    NTTは、オープンイノベーションによって世界中から研究に参加できる仕組みをとっている。これが、IWONの改良に繋がり世界へ普及させる基盤になるからだ。 

    (5)「NTTはパートナー拡大の布石を打ち始めている。米国に拠点を置く研究機関「NTTリサーチ」を通じて米ハーバード大に最大170万ドル(約2億6000万円)を寄付することも技術イベントで発表した。優秀な研究者が集まるトップ大学との関係を深める。今回の日米首脳会談では「日米企業はIOWNグローバルフォーラムのようなパートナーシップを通じ、光半導体を通じて得られる幅広い可能性を模索している」と確認された。政府間の文書でIOWNへの言及があったのは初めてという」 

    NTTは、ハーバード大学へ最大170万ドルを寄付して、IWONの研究普及を目指す。米国企業が、よく行う手段である。日本企業がこれに倣ったものだ。今回の日米首脳会談の政府間の文書でIWON普及への文言が入った。大きな前進である。

     

    次の記事もご参考に。

    2024-04-11

    メルマガ557号 日本経済「再飛躍」は確実、水素エネルギーと光半導体の2技術「国際標

     

     

     

     

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    日本は戦後、太平洋戦争開戦の贖罪から外交面で一歩も二歩も引き下がる姿勢をとり続けてきた。それが、逆に中国の領土拡張的な動きを押し上げる逆効果をもたらした。中国が、二言目には日本の太平洋戦争責任に言及することにあらわれている。その日本が、西側陣営の核の一つとして中国への抑止力として立ち上がる。日本は、太平洋戦争で甚大な被害を与えたフィリピンの「僚友」として、ともに中国抑止へ動き出した。

     

    『日本経済新聞』(4月12日付)は、「日米比、原発・半導体で供給網 初の首脳会談 中国に『深刻な懸念』」と題する記事を掲載した。

     

    日米フィリピン3カ国の首脳は4月11日(日本時間12日午前)、ホワイトハウスで会談した。エネルギーや半導体など重要物資について中国に依存しすぎないサプライチェーン(供給網)をつくる。南シナ海における「中国の危険で攻撃的な行動に深刻な懸念」を共同文書に盛り込んだ。


    (1)「岸田文雄首相、バイデン米大統領、フィリピンのマルコス大統領が参加した。日米比3カ国による首脳会談は初めて。首相は会談の冒頭で「国際秩序の維持・強化に向けて同盟国・同志国との重層的な協力が重要だ」と指摘した。「インド太平洋地域の平和と繁栄のために日米比の協力のさらなる強化を確認したい」と期待を示した。日米はオーストラリアや韓国、インドといった同志国との3カ国や4カ国の枠組みを活用して国際秩序を維持する戦略を描く。フィリピンは南シナ海で中国の覇権主義と向き合う。11日の3ヶ国会談はこれまで日米比の協力の柱だった安全保障に限らず、経済面での結びつきを強めた」

     

    中国は、みすみすフィリピンを西側陣営へ追いやる結果になった。中国が約束したフィリピンへの経済援助を空手形にしたからだ。中国は、フィリピンを属国のように扱い、外交的に大きな損害を被っている。「一寸の虫にも五分の魂」を忘れた中国の振舞が、フィリピンの逆襲を招くことになった。中国は、防衛面で大きなしくじりになったのだ。

     

    (2)「中国が、経済力を背景に影響力を行使する威圧に「強い反対」を表明し、日米でフィリピンを支援しながら「強靱(きょうじん)で信頼性のある多様な供給網」をつくるとした。半導体の供給網確保へ人材を育成する。フィリピンの学生が日米の主要大学で高い水準の研修を受けられるようにする。電気自動車(EV)の電池に欠かせないニッケルを念頭にフィリピンを含めた重要鉱物の安定した供給網づくりを進める」

     

    フィリピンの工業化には、日本の広範な支援が不可欠である。人材教育のために、日米はフィリピン留学生を受入れる。工業化促進には、先ず人材養成が必要だ。フィリピンはニッケル資源保有で世界2位である。日米にとっては、貴重な資源国である。

     

    (3)「民生用の原子力に関する知識を持つ人材育成で協調する。フィリピンではIHIや日揮ホールディングスなどが出資する米新興企業のニュースケール・パワーが次世代原発「小型モジュール原子炉(SMR)」の建設を計画する。日米でフィリピンの港湾や鉄道などのインフラ整備を後押しする。首都マニラを含む地域に「ルソン経済回廊」を立ち上げる」

     

    「ルソン経済回廊」とは、ルソン島にあるスービック湾、クラーク、マニラ、バタンガスを結ぶ地域で、港湾、鉄道、クリーンエネルギー、半導体の供給網(サプライチェーン)関連のインフラを整備する。また、フィリピンの情報インフラを整備するため、オープン無線アクセス・ネットワークの技術普及支援にも乗り出す。

     

    (4)「海洋安全保障をめぐっては南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島のアユンギン礁近くで中国船がフィリピンの船舶に衝突したり、放水銃を使ったりして緊張が高まっている。

    日米がフィリピン沿岸警備隊の能力向上を支援する。今後1年以内に3カ国の海上保安機関がインド太平洋地域で共同訓練を実施する。中国が民兵や民間船を使って南シナ海の実効支配を進める「グレーゾーン戦術」に結束して対処し、抑止力を高める」

     

    中国船が、フィリピン船に向って放水するなど、無謀行為を行っている。中国の主張する南シナ海領有権は、国際仲裁裁判所から100%否定されている。中国が、南シナ海で居座っているのだ。

     

    (5)「海上防衛の協力も深める。オーストラリアを含めた日米豪比4カ国で7日に南シナ海で海上自衛隊と各国海軍による本格的な訓練を初めて実施している。共同文書では台湾海峡の平和と安定の重要性を共有した。海洋をめぐる協力を促進する協議の枠組みをつくる。沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海での力による一方的な現状変更の試みに反対した」

     

    マルコス政権による中国への厳しい対応は、国内世論が好意的に受け止めている。民間調査会社が23年末にまとめた全国世論調査で、南シナ海への対応を評価すると答えた人は58%にも上った。「外交を通じて領有権をさらに主張すべきだ」との意見は、7割を占めている。

     

     

     

     

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