米国トランプ大統領は、多国間貿易協定よりも二国間貿易協定にこだわっている。後者の方がディールの余地があると見ている結果かも知れない。トランプ氏が大統領就任後、最初の貿易協定が日米協定になった。対EU、対中国、対加墨は、まだ発効にまでほど遠い。
トランプ氏は、TPP(環太平洋経済連携協定)から脱退せず加盟していれば、対中国の通商交渉ははるかに楽であったと見られる。そのチャンスを自ら捨ててしまい、遅ればせながら、日米貿易協定でTPP効果の農産物関税引き下げの「余慶」を受けられる。今からでも遅くない。TPPに復帰することだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月26日付)は、「日米貿易協定、TPP離脱の穴埋め」と題する社説を掲載した。
ドナルド・トランプ米大統領は9月25日、日本との間で、細身になった貿易協定を発表した。2年前に「環太平洋経済連携協定(TPP)」を離脱して自ら招いた打撃を緩和するものだ。トランプ氏が貿易の試合で勝利を重ねたいのなら、オウンゴールを止める必要がある。
トランプ氏はTPPを捨てた際、二国間貿易合意を目指すと言明した。だが、安全保障の名の下、鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課し、自動車に対する追加関税をちらつかせた。これに対し、米国以外の11カ国はTPPを発効させ、日本はそれとは別に欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も発効させた。以来、米国の農家は日本で劣勢に立たされている。
(1)「日本の4~7月(EUとのEPAおよびTPP両方の関税引き下げ後の当初4カ月)の農産品輸入は2016~18年の同期に比べ、欧州産が15.9%増、メキシコ産が27.6%増、ニュージーランド産が16.9%増となった。これに対し、米農家から日本への輸出は5.8%増にとどまった。中国の関税で世界貿易の流れが変わったことが影響した。日本の豚肉輸入は、米国産が1%減少した一方で欧州産が17%増加し、米国の市場シェアは3.7ポイント縮小した。欧州は乳製品でもシェアを3ポイント伸ばし、米国のシェアは横ばいとなった」
日本市場は、EUとTPP11ヶ国との貿易協定が発効したので、これら諸国の農産品輸入の関税が引下げられて、輸入が急増している。米国農家は、米中貿易戦争の煽りを受けて輸出急減に陥っているだけに、日本市場での挽回を目指す。
(2)「こうした状況はウィスコンシン州の酪農家を窮地に追いやっている。日本が(米国以外の国に対する)関税を段階的に引き下げるなか、今回の協定がなければ米国の酪農家は一段の衰退を経験したことだろう。トランプ氏は今、こうした打撃を痩せ細った日米貿易協定によって和らげようとしている。同協定は、EU諸国やTPP参加国の農家が得ているのに似たアクセスを米国の農家に与える。日本は米国からの農産品・食料輸入の約半分に対する関税を撤廃するか引き下げることになり、そうした輸入の90%は無関税か、特恵関税の対象になる」
日本は、米国に対して農産物輸出増加を目指すならば、TPP復帰を促すこともできた。だが、相手は米国である。トランプ氏の「ツイッター砲」の餌食にされるよりも、「実利」を選んだ方がベターである。米国に「貸し」をつくって置くことも外交上の戦略である。
(3)「米国は見返りとして、工作機械、楽器、自転車といった一部の日本製品に対する関税を引き下げるか撤廃する。ヤマハのピアノのファンはヘンデルの「メサイア」を弾くことができる。中国製自転車への関税引き上げは小売店や消費者を悩ませてきた。米国と日本はデジタル製品に関税を課さないことでも合意した。政府が「恣意(しい)的」な――政治的という意味だ――理由で企業のコンピューターのソースコード、アルゴリズム、暗号技術に口出しすることは許されなくなる」
日本製自転車の関税が下がることは、中国シェアを食う上でまたとないチャンスである。中国は、高関税で苦しんでいるので、日本品がシェアを伸す機会になる。
(4)「日米協定が生むメリットはTPPより少ないだろう。TPPであれば、アジア・太平洋地域の他の国からも関税引き下げを勝ち取れたはずだ。トランプ氏は自身の交渉力がより発揮できるとの考えから二国間協定を好むが、効率的生産の強化には多国間協定の方が効果的だ。米国がTPPに参加していれば、アジアで中国に対抗する力も強まっていただろう。北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる協定の議会承認が危ぶまれ、対中関係もこじれるなか、日本との協定はトランプ大統領1期目の貿易政策で最大の勝利かもしれない。しかし、それを本来よりもずっと厳しいものにしたのはトランプ氏自身に他ならない」
日本は、トランプ大統領に「恩を売った」形だ。日米貿易協定の署名では、米国農家代表が出席しており、トランプ氏は顔が立った。外交とは、こういう積み重ねが相互信頼を高めるのであろう。そういう意味で、韓国に見せてあげたいケースである。