勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 北朝鮮

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    米韓では、対北朝鮮政策で大きな隔たりが見られる。韓国は、ともかく対話を再開すれば北朝鮮が核放棄の話合いに応じるかも知れないと見る。米国は、北朝鮮への無原則な対応が核放棄をはぐらかし、核戦略強化に資するだけという判断である。

     

    韓国が、ひたすら北朝鮮のご機嫌伺いに力を入れているのは、北朝鮮の核による「人質心理」に陥っているとの指摘がある。人質犯が、人質に親切な行為をすると、人質は犯人へ親近感を持ち始めるという「ストックホルム症候群」が、すでに文政権の下で起こっていると指摘する向きが現れたのである。

     

    『朝鮮日報』(2月13日付)は、「韓国版『ストックホルム症候群』を危惧する」と題する寄稿を掲載した。筆者は、崔剛(チェ・ガン)峨山政策研究院副院長である。

     

    核実験を6回も行った北朝鮮は、韓国に対して何のためらいもなく核の脅しを加えてきて、韓国は北朝鮮の核の脅しに戦々恐々とする「核の人質」になってしまった。

     


    (1)「北朝鮮の核武装よりも懸念すべきことは、韓国人が「韓国版ストックホルム症候群」に陥っている点だ。ストックホルム症候群は、1973年にスウェーデンの首都ストックホルムのある銀行で、武装強盗が行員4人を人質にして6日間立てこもった事件に由来する。震え上がっていた人質は、犯人が上着を着せてくれるなど友好的なジェスチャーを見せると、犯人に対し親近感を抱き、後には擁護する態度まで見せた。ある人質女性は「私は警察や国の懐より、彼と一緒にいるときの方が安定的で穏やか」とまで言った」

     

    ストックホルム症候群とは、人質が犯人の親切にしてくれる行動によって親近感を持つ、という倒錯した関係を意味する。現在の韓国政府は、北朝鮮の核保有で脅迫されているにも関わらず、北朝鮮へ親近感を示すという不思議な心理状態である。まさしくストックホルム症候群である。

     

    (2)「2018年に韓国の特使団が平壌を訪れたとき、金正恩は特使団に、核兵器はもちろん通常兵器も韓国に向けて用いないことを確約したという。これを聞いて韓国人が安心したら、ストックホルム症候群に陥るのだ。対北ビラ散布禁止法は、韓国人がストックホルム症候群に陥っていることを示す事例だ。韓国の首都圏が、北朝鮮のミサイル攻撃に対して無防備な状態に置かれているにもかかわらず、追加のTHAAD(超高高度防衛ミサイル)を配備せず、米国主導のミサイル防衛に参加しないという「三不合意」は、ストックホルム症候群のもう一つの事例だ」

     


    文政権は、北朝鮮だけでなく中国に対してもストックホルム症候群の症状を見せている。「三不合意」とは、次の三点である。

    1.米国のミサイル防衛(MD)体制に加わらない
    2.韓米日安保協力が三カ国軍事同盟に発展することはない
    3.THAAD(サード)の追加配備は検討しない

     

    中国が韓国へミサイル攻撃の照準を合わせているのに、韓国は中国へ「無防備」を誓うという異常な約束である。国家としての体裁を失った敗北宣言をしたようなものだ。文政権は、こういう国を売り渡すような行為をしているのである。

     

    (3)「ストックホルム症候群は、人質が犯人に同調して感化され、犯人を弁護するという非理性的な心理現象だ。対北融和政策を行えば、いつか平和が実現すると期待しているのが、韓国版ストックホルム症候群だ。人質状態を抜け出すため努力するよりも、北朝鮮という人質犯の善意に期待しているのだ。北朝鮮の非核化を追求して人質状態から抜け出そうと思うのなら、国全体が人質状態にあることを認めなければならない。まず、北朝鮮の核武装によって韓半島非核化共同宣言がずっと前に破棄されたと認めることから始めるべきだ」

     

    下線部分は、文政権の主張していることである。北朝鮮への愛を示せば、北が応えるという善意の期待だ。北朝鮮が、このような善意を持つ国家ならば、約束を反故にして核開発を秘かに行うはずがない。韓国は、こういう厳然たる事実を受入れなければならない。北朝鮮は、韓国に危害を加える人質犯であるのだ。

     

    (4)「(南北)非核化共同宣言は、韓半島に非核時代がやって来たと錯覚させ、北朝鮮に核兵器を作る時間を稼がせた。30年が経過した今、共同宣言が北朝鮮の違反により紙切れと化した。北朝鮮は、核保有国の地位を認めさせ、南北関係において主導権を握り、北朝鮮主導の赤化統一を達成しようと考えている。北朝鮮は、自由で豊かな韓国が鼻先にあるということ自体が、閉鎖された北朝鮮の体制に対する脅威だから、韓国をなくそうとしているのだ」

     

    北朝鮮は、韓国を侵略した相手である。その相手が今度は、核開発して韓国を脅かしているのである。韓国制圧が目的だ。朝鮮半島の非核化という要求で、在韓米軍の撤退を要求する。その空白期に、南北統一を狙う魂胆である。文政権は、それが分からない。あるいは、承知で北に肩入れしようとしているのかも知れない。北が核を保有しながら、南北統一を主張するのは「クセ玉」である。

     


    (5)「先日来韓し、峨山政策研究院を訪問した米国のビーガン国務副長官は、北朝鮮が核を放棄しない場合、韓国と日本が核武装する可能性があると語った。これは、北朝鮮が非核化しなければ韓国と日本の核武装を容認することもあり得るということだと解釈できる。冷戦時代に米国は3万発、ソ連は4万発の核兵器を持っていたが、これは力の均衡をもたらし、米ソ間の冷戦が終わることになった。韓国も、北朝鮮の核による人質状態から解放されて真の平和を実現したいのなら、韓半島で力の均衡を追求すべきだ

     

    下線部は重要である。韓国が北朝鮮と軍事的に対等になるには、韓国に米軍の戦略核を置くことも必要である。それを、明言して北朝鮮に核開発が無意味であることを知らせることだ。米国シンクタンクが提案した、日米豪韓の共同戦略の展開も必要であろう。

     

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    韓国、「近視眼」文在寅2つの弱点、金正恩は南北対話に「応じない?」

     

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    文在寅(ムン・ジェイン)大統領の任期は、あと15ヶ月である。文氏は、この短い期間に南北対話を実現させて、大統領のレガシーとしたいはずである。この「文構想」は、実現するだろうか。

     

    大きな前提は、米バイデン政権の北朝鮮政策が具体化することだが、米国側は北朝鮮懐疑派で占められている。トランプ政権のようなトップダウン外交ではないことを認識すべきである。

     

    次は、北朝鮮が文政権を信頼しなくなっている点だ。ベトナム・ハノイの米朝会談では、文氏の甘い見通しが外れ、金正恩(キム・ジョンウン)氏が屈辱を味わった。2回も南北対話をしたが、目立った成果はゼロである。3回目の南北対話では、金氏がソウルへ行かざるを得ない。それは、独裁者にとって大きなリスクを伴う。北朝鮮国民が過大な期待を持ち、大きな成果を求めるからだ。

     

    こういう状況を考えると、早期の南北対話再開は難しいであろう。北朝鮮は、文氏の二つの弱点を知っているからだという。一つは、残り任期期間の少なさである。約束しても実行の保障がないのだ。もう一つは、北朝鮮が韓国を脅せばなんらかの見返りがあることを知ってしまったことである。南北対話をするよりも、この方がメリットのあるという判断をしても不思議はない、というのだ。

     

    『朝鮮日報』(2月12日付)は、「金正恩は文大統領の二つの弱点を知っている」と題する寄稿を掲載した。筆者は、マイケル・ブリン元ソウル外信記者クラブ会長。

     

    韓国政府は、北朝鮮を交渉のテーブルに復帰させるという根本的目標に戦略的観点が欠けている。北朝鮮を対話に引き入れたいというのは良いアイデアのように見える。だが、本当にそうだろうか。事実を言えば、北朝鮮は和解に関心がないというのは極めて明白だ。数十年努力したが、何も変わらなかった。

     

    (1)「南北対話(の前提)は、北朝鮮の価値観が変わらないといかなる目標にも到達し得ない。それは、必然的に金日成(キム・イルソン)の遺業に逆らうことになる。彼の孫にそれはできないというのを、今では全ての韓国国民が理解するようになったと思う。南北対話の目的とは、簡単に言えば戦争を防ぐことだ。防御のためのものという意味だ。そしてこの総体的防御には、軍事的にだけでなく、韓国の民主主義を損なわないことも含まれる。北朝鮮との真の和解は、必ず民主的価値に基づいて行わなければならず、韓国自ら民主的価値を守ることができなければ、真の和解の価値もまた損なわれるのだ」

     

    北朝鮮が、価値観を変えない限りいかなる南北対話も成功しない。この価値観を返させるには、韓国の民主主義の価値観を北へ教えることだ。それが、北朝鮮の価値観を変えるきっかけになろう。

     


    (2)「もし文大統領が金正恩に「韓国の体制では国民の権利を保護しており、私が望んでいるからといって全てはできない。私は法に従わなければならない。それが民主主義だ」と語ったら、対話の再開はできないだろうが、韓国の価値を強化し、独裁者を教育したことだろう。先まで見通すと、このようにやることの方が重要だ。韓国政府の顕著な特徴の一つは、長期的戦略がほとんどないという点だ。北朝鮮に対する長期的アプローチ法がないというのも明らかだ。5年単任制の大統領は未来の成果に対する功績を認めてもらえない。韓国では、政治だけでなく他の分野のリーダーも、前任者の成功を引き継ぎたがらない」

     

    韓国には、北朝鮮への長期的戦略がないことである。超党派で話合われたことがないから、政権が代わるたびに右往左往する。安全保障政策の一環として、超党派で対北朝鮮の長期戦略を立てれば、北朝鮮も変わらざるを得まい。

     


    (3)「だから、政策を作る人々は、深い戦略的要因よりも短期的・戦術的利点を優先視したいという誘惑に陥る。逆に金正恩は、戦略的に考えることができ、目の前の和解を追う韓国の切迫感を操縦できる。加えて金正恩は、この「操縦」がかなりうまい。よく知られている通り対北ビラ禁止法は、金正恩の妹、金与正(キム・ヨジョン)が脱北者を「人間のくず」と呼んで開城工業団地の連絡事務所ビルを爆破した直後に出てきた。韓国の対応は「泣く子に乳を飲ませる」ということわざによるもののようだ。それは失策だった。良き養育の第一の原則を忘れている。「あしき行動に補償を与えたら、あしき行動を奨励するだけ」という原則だ。

     

    韓国の「5年単位」の対北政策に対し、北朝鮮は独裁政権ゆえに腰を据えて韓国を操縦できる時間的なゆとりを持っている。この差によって、韓国はキリキリ舞をさせられているのである。

     

    (4)「金正恩は今、文大統領の二つの弱点を知っている。時間があまりないということ、そしてあしき行動にも喜んで補償しようとすることだ。大統領が望む突破口を用意するには、1年しか残っていない。これまで見てきたように、そうした突破口は開かれないだろう。韓国政府は、この事実を悟る前に、北へまた何を与えようとするのだろうか」

     

    このパラグラフは、重要な点を指摘している。文政権の対北二大弱点である。

    1)文大統領の時間があまりないこと

    2)北朝鮮の悪しき行動にも韓国は喜んで補償しようとすること

     

    この二点を見ると、文氏の対北政策は失敗することが分かるであろう。

     

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