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メルケル首相は、4期16年の任期を終えて9月に引退予定である。大の「中国贔屓」であり、訪中しても日本には寄らないという人だ。

 

この1月、保守系与党キリスト教民主同盟(CDU)は、メルケル氏の後任に党内リベラル派の重鎮ラシェット氏を党首に選んだ。9月の議会選挙で後任首相を目指す。世論調査で、CDUは第1党の勢いだから、ラシェット氏が次期ドイツ首相の有力候補となっている。「ラシェット首相」が実現すれば、日独関係はどのように変わるか。新風を期待したい。

 

『日本経済新聞 電子版』(2月7日付)は、「メルケル後、日独に吹く風」と題する記事を掲載した。

 

(1)「日本では無名のラシェット氏。実は対日外交に強い関心を示したことがある。「日本との経済関係を深めたい」。そんな思いが募った20年初め、訪日計画の策定に動いた。自らが州首相を務める独西部ノルトライン・ウェストファーレン州への投資を日本で呼びかけようとした。同州はオランダなどと国境を接し、近隣外交はお手の物。遠い日本に足をのばせば外交の裾野が一気に広がり、独首相を目指すうえでアピール材料となる」

 

ラシェット氏は、独西部ノルトライン・ウェストファーレン州首相である。日本企業を同州に誘致すべく訪日計画を持っていたが、コロナ騒ぎで沙汰止みとなった。日本への関心が深いのだ。

 


(2)「しかも州都は、欧州有数の日本人街があるデュッセルドルフ市。州経済を担う日本は大切だし、あわよくば欧州統合に背を向けた英国から日本企業を奪いたいとの思惑もあった。日本ではなお中国偏重という印象のあるドイツ。政界での風向きは少し前から変わっている。アルトマイヤー経済相は18年、アジアの初訪問先として東京を選んだ。ジルバーホルン国防政務次官も取材に語気を強める。「ここには日韓豪やシンガポールなど価値観を共にする国がある」。いま独海軍の太平洋派遣を検討中だ。欧州の政治情勢の変化が日本への歩み寄りを促す」

 

メルケル首相のドイツ贔屓は、ドイツ自動車の中国進出を支援するという面もあった。中国では、日独自動車企業が強烈なライバル同士である。メルケル氏は、習近平氏との面会を重ね、ドイツ企業が有利になるように働きかけていたのだ。その意味では、いささか行き過ぎの面が強かった。これが、ドイツ国内で「メルケル氏は中国へ甘い」という批判を浴びた理由である。中国の強権ぶりが目立つと共に、メルケル氏の影響力は落ちたのだ。

 


(3)「(ドイツは)債務・難民危機や英国の欧州連合(EU)離脱といった欧州内の懸案にめどがつき、外に目を向ける余裕ができた。伝統的な関心領域の米ロ・中東は体制が充実しているから、自然と「手薄なアジアを強化しよう」という流れになる。一方で欧州に触手を伸ばす中国への警戒感は強まった。倫理観で世界をリードしたい欧州。強権ぶりが目立つ中国に沈黙したままでは示しがつかない――。そんな機運が広がる」

 

中国経済のピークが過ぎたことから、ドイツも次第に冷静になっている。中国の弱点がようやくはっきり把握できるようになってきたのだ。メルケル氏の引退後のドイツは、「脱中国」へ大きく舵を切るであろう。その意味で、日独が対中国問題で冷静に話し合える機会が増えるであろう。

 

(4)「人権外交は、次期政権でさらに活発になりそうだ。選挙で人権を重んじる緑の党が躍進し、CDUなどと組んで与党入りするとの見方がある。香港やウイグル、南シナ海。緑の党は辛辣だ。主要閣僚を握れば一気に対中強硬に傾くだろう。日本は喜んでばかりもいられない。緑の党は返す刀で日本に注文をつけるかもしれない」

 

CDUが緑の党と連合政権を組めば、中国の人権問題に厳しい要求を突きつける可能性が高まる。日本へも要求を出すというが、「友好国」でそういう例は少ない。

 


(5)「(日本にとっては)追い風のなかに時折、向かい風が吹きそうな気配だが、ほかのリスクもある。合理主義のドイツは無駄を避ける。主張が曖昧で回転ドアのように政権が入れ替わるなら力を入れる必要がないと考える。傲慢な半面、裏表がないのがドイツ流。幸いチャンスはある。交流の舞台を日独が自ら用意する。来年はドイツが主要7カ国(G7)の議長国。翌23年は日本が続く」

 

自由と民主主義が共通の価値観であれば、日独が対立することはありえない。取越し苦労というものだ。日独が対立する前に、中独の対立が激化するはずだ。

 

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