勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ロシア経済ニュース

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    ロシアのプーチン大統領は、ライバル不在の中で大統領選に圧勝した。当面の課題の第一は、ウクライナ侵攻をいつ止めるのかだ。そのカギは、ロシアの兵器増産力がいつまで保つかにもかかっている。数年説もあるが、長引けば長引くほどロシアの国力を消耗する。すでに予算の29%を国防費に向けている。確実に国力衰退に向っている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月20日付)は、「ロシアの兵器増産 持続力には疑問」と題する記事を掲載した。 

    ロシアの戦車・ミサイル・砲弾生産能力は西側諸国を驚かせ、ウクライナにさらなる圧力をかけた。問題は、それがいつまで続くかだ。欧米の当局者やアナリストの間では、ロシアが公表している軍事生産量は誤解を招きやすく、労働力不足や品質低下などの問題を覆い隠しているとの声がある。増産は経済全体の資源を消耗するため、長く続けるのは難しい可能性がある。生産量が落ちれば、中国・イラン・北朝鮮といった友好国からの援助にさらに頼ることになるかもしれないという。

     

    (1)「ロシアが2022年にウクライナに侵攻すると、米国とその同盟諸国は一連の制裁を科し、ロシアの軍需産業を阻害しようとした。戦場では、ロシアはすぐに装備を失い、ミサイルや砲弾の在庫が底を突いた。これを受けて、ロシア政府は直ちに兵器産業に資源を投入した。昨年は、連邦政府支出に占める国防費の割合が21%と、2020年の約14%を上回った。2024年の連邦予算ではこの割合がさらに大きくなり、29%を超えた」 

    ロシアの国防費は24年、予算の29%超にもなった。ウクライナ侵攻前の20年は、14%だ。この間に倍増している。国家経済を大きく圧迫していることは疑いない。 

    (2)「欧米の当局者らによれば、ロシアはミサイルなどの兵器も増産している。例えば、2021年に40万発だった砲弾生産量は翌年に60万発となり、米国と欧州連合(EU)の合計生産量を上回ったと、エストニアの軍事情報機関は推定している。北大西洋条約機構(NATO)の高官によれば、ロシアは現在の規模であと2~5年は戦力を維持できるとみられる。欧州の少なくとも二つの軍事情報機関は、あと数年は十分な兵器を生産できるとの見方を示している」 

    欧州の複数の軍事情報機関は、ロシアがあと数年は兵器生産ができるとみている。

     

    (3)「ロシア経済の他部門からの投資・労働力・資材の流出を考えると、増産――および軍事費全体の水準――は持続可能なものではない可能性があるとフィンランド銀行は結論づけている。同行の分析では、増産された防衛関連品の大半はローテク製品(加工鋼など)であり、ロシアが国外のサプライヤーに依存している、より高度な製品(半導体など)ではないことも明らかになっている。ロシアは一部の製品については制裁を回避することができたが、戦車の乗組員の視界を確保する光学部品など、ロシアが欧米から購入していた特殊部品は、第三者を通じて購入することがはるかに難しい」 

    フィンランド銀行は、ロシア経済の他部門からの投資・労働力・資材の流出を考えると、兵器生産「数年説」を否定する。増産された防衛関連品の大半が、ローテク製品(加工鋼など)であると指摘している。ハイテク兵器ではないのだ。 

    (4)「ロシアが主張する生産数に疑問を呈するアナリストもいる。例えばロシアの生産数は、新たに生産された装甲車と、倉庫から出して改修した旧型車を区別していない。「生産数は誇張されている」と国際戦略研究所のマイケル・ジェルスタッド研究員は言う。ジェルスタッド氏が開戦前後の衛星画像を調べたところ、ロシアが昨年、少なくとも1200両の旧型戦車を倉庫から引っ張り出してきたとみられることが分かったという。つまり、ロシアが昨年生産した戦車はせいぜい330両ということになるが、実際の数はその半分である可能性が高いと同氏は指摘する」 

    ロシアは、兵器の生産数を誇張しているとみられる。これまで眠っていた旧型戦車(約1200両)を引っ張り出して、「増産」に数えている節がある。ロシアが、昨年生産した戦車はせいぜい330両とみられる。

     

    (5)「ロシアの兵器メーカーは人手不足に直面している。ロシア大統領府のウェブサイトに掲載された発言記録によれば、ウラジーミル・プーチン大統領は2月に同国最大の戦車工場を訪問した際、熟練工が不足していることは認識していると従業員に語った。ウラルバゴンザボード社の同工場では昨年初め、特に深刻な人手不足に陥り、近隣の刑務所から250人の受刑者を受け入れたと、同刑務所が当時明らかにしていた。ユーリ・ボリソフ副首相は2022年6月、兵器産業では労働者が約40万人不足していると述べた。ボリソフ氏などの当局者は同産業の必要人員を約200万人としていることから、約20%の人員が足りていない計算になる」 

    ロシアの兵器生産では、労働力不足で刑務所の受刑者を兵器生産に当らせているほどだ。兵器産業では労働者が約40万人不足(20%)している状態だ。増産説に疑問がつく大きな理由だ。 

     

     

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    ロシアのウクライナ侵攻から、すでに満2年を経て戦線は膠着状態である。ウクライナ支援の米英やEU(欧州連合)は、西側に預けられていたロシア中央銀行の約3000億ドルを巡って、没収論(米英)と利子利用論(EU)で意見が対立している。

     

    国際法上、国家資産は原則没収できないことになっている。ロシア資産を例外とする論拠にしたのは、国連の国際法委員会が2001年にまとめた文書が論拠である。それによると、違法行為によって特別に影響を受ける国は、加害国の責任を追及できると記した。米国はこれに基づき、予算の面などで影響を受けるG7も対抗措置が可能だと主張した。英国は、米国の意見に賛成している。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアの凍結資産そのものの活用を求めている。資産没収には各国の国内手続きも必要になる。旗振り役の米国も、没収を可能にする国内法の成立は見通せていないのだ。独仏は、没収できるとする米国の解釈に真っ向から反論する。交戦状態にない第三国の資産を没収すれば、異例の措置となるからだ。国際法違反の悪しき前例になると訴えている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月11日付)は、「ロシア凍結資産の没収論。民間投資に逆風 歴史学者」と題するインタビュー記事を掲載した。米コーネル大ニコラス・ミュルデル助教授へのインタビューである。

     

    ウクライナ侵攻から2年がたち、主要7カ国(G7)はロシア向けの経済制裁の強化を模索している。凍結資産の没収といった踏み込んだ対応は、世界経済にどのようなリスクをもたらすのか。制裁の歴史に詳しい米コーネル大助教授(欧州近現代史)のニコラス・ミュルデル氏に聞いた。

     

    (1)「(質問)ロシア向けの経済制裁は歴史的にみて異例か。(答え)「これまでとは量的にも質的にも違う。イランやベネズエラのような小国ではなく、世界で10〜11番目の経済大国に制裁を科した例は1930〜40年代以来だ。エネルギー市場での存在感が強いため、ロシアに原油供給を続けさせながら値段を下げる上限価格措置が導入された点も新しい。ロシアの中央銀行の資産凍結までは一般的な対応だ。アフガニスタンやイランでも凍結した。ただ、資産を没収すれば大きな影響がある。通常は戦争後に勝利した国が実施するものだ。欧州にとって凍結資産はロシアに和解させる際の交渉材料にもなるはずだが、その影響力もなくなる

     

    ロシアの資産凍結は、過去の例でもみられた案件だ。だが、没収となると事態は複雑になる。ロシアが、永遠に戦争が可能でない以上、どこかで和平が求められる。凍結資産は、和平交渉の材料に使える、としている。

     

    (2)「(質問)G7の力は金融市場で圧倒的ですが、GDPのシェアは低下している。経済を武器として使うやり方は持続可能か。(答え)「重要な問いだ。米国が非常にユニークなのは、世界最大の経済大国でありながら産油国である点だ。ドイツはエネルギーを輸入に依存しているため、経済を武器として使えない。日本もロシアでの石油・天然ガス開発事業『サハリン2』のような事例があり、限界がある。経済を武器に使えるかどうかという観点でみると、米国は世界の歴史でみても特異な存在であり、他のほとんどの国にはまねができない」

     

    米国の没収論は、米国経済の特異性にある。米国が、世界最大の経済大国であり同時に、産油国であることだ。米国には、こうして強気の姿勢で交渉できる強みがある。ただ、他国はこれを鵜呑みにすると、後からロシアの「しっぺ返し」を受ける危険性を抱え込む。

     

    (3)「(質問)ロシア原油の価格上限のようにドルを武器として使うやり方は、ドル離れを加速させるのでは。(答え)「世界経済が、急速に脱ドルに向かう現実的な見通しは存在しない。ドルは、非常に重要な基軸通貨であり続ける。アジアの貿易取引では、ドルが人民元におされ始めているが、金融資産や外貨準備という点では人民元の量が足りないためドルの地位は維持される」

     

    米国が基軸通貨国である理由は、前述のように世界最大の経済大国であり、世界最大の軍事力を擁することにある。他国が、米ドルを資産として持つことに何らの不安もないのだ。ふらつく中国経済とは、比較にならない強みを持っている。

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    ロシア軍のウクライナ侵攻が始まって、間もなく3年目を迎える。ウクライナは、多大な被害を受けながらも、国土を守り抜く強い意志を示している。だが、世論調査ではそういう強い意志をみせる国民は8割を下回っており、「休戦」の二文字がちらつき始めている。

     

    『毎日新聞』(2月15日付)は、「対露戦争3年目を前に疲弊漂うウクライナ 徴兵逃れや関心低下も」と題する記事を掲載した。

    ロシアの侵攻が続くウクライナ。昨年2月以来、1年ぶりに現地入りした記者(鈴木)が感じたのは、人々の間にじわりと広がる疲弊ムードだ。24日で3年目に突入する戦いは終わりが見えない。捕虜への関心低下や、兵員不足の深刻化など重い課題が浮き彫りとなっている。

     

    (1)「前線で戦った兵士のことを忘れるな!」「捕虜を解放させろ!」――。11日、首都キーウ(キエフ)市内の大通りの交差点。冬曇りの下で、ウクライナ内務省傘下の戦闘部隊「アゾフ大隊」の隊員家族ら約200人がプラカードを掲げてデモを行った。アゾフ大隊は開戦当初に、南東部の要衝マリウポリの製鉄所などを拠点としてロシア軍と激戦を繰り広げた部隊だ。製鉄所に立てこもった隊員たちは2022年5月中旬に投降し、ロシアの捕虜となった」

     

    南東部の要衝マリウポリの製鉄所は、激戦地で多数の犠牲者が出た場所だ。多くの兵士が、ロシア軍の捕虜となった。

     

    (2)「デモに参加したカトリーナさん(25)の婚約者の男性(27)は、今もロシアの収容所に捕らわれている。カトリーナさんは昨年6月にテレビ番組のニュース映像でロシアの法廷に姿を現した婚約者を見たというが、それ以降の消息は不明だ。「映像を目にしたときは驚きで息が止まるかと思った。痩せこけていて心配だ」と目に涙を浮かべる。ロシア側との捕虜交換で解放された隊員もいるが、現在でも700人以上が拘束されているとされる。手詰まり状態の戦況に、カトリーナさんは「兵士ではない私が無責任なことは言えない。ただ早く戦争が終わって婚約者が無事に帰ってきてほしい」と声を落とした」

     

    捕虜の解放を待つ身にしてみれば、早い戦争終結を待ちわびている。 

     

    (3)「毎週日曜に続けるこのデモの企画者の一人、ターニャさん(44)は「ウクライナの人々も戦争状態に慣れたり疲れたりしてきている」と指摘する。捕虜の存在にも関心が薄れてきているといい、「彼らは英雄だ。忘れてはならないと訴え続ける」と力を込めた。総動員令が出ているウクライナでは、18~60歳の男性は出国が原則禁止されている。地元メディアによると、侵攻開始後の数カ月間は何万人もの男性がこぞって兵役を志願したが、熱意は次第に低下。前線では兵員不足が深刻化している。ゼレンスキー大統領は昨年12月、最大50万人の追加動員を検討中と明かした」

     

    ゼレンスキー大統領は昨年12月、最大50万人の追加動員を検討している。18~60歳の男性は、すでに全員が出国禁止されている。そのなかで、50万人を動員できるのか。

     

    (4)「こうした状況の中、徴兵逃れが大きな問題となっている。英公共放送BBCは昨年11月、これまでに約2万人の男性が国外に出国したと報道。また、約2万1000人が出国に失敗してウクライナ当局に拘束されたという。徴兵事務所から数回にわたって兵役を呼びかける手紙を受け取ったという男性(31)は匿名を条件として取材に応じ、「適切な装備も訓練もなく前線に放り込まれるのは絶対にごめんだ」と語気を強めた。軍の徴兵担当者らが街頭で対象者をチェックしている場合があるといい、外出の際には、仲間らとネット交流サービス(SNS)で情報交換をするなど警戒しているという。「強制的に徴兵事務所に連行されるのではないかと恐怖を感じている」と話すこの男性。「2年前は国の未来を守るために兵役を志願する人々がいた。今、私は妻と6歳の長女を守るため、戦場へ行くことを拒否する」と断言した」

     

    戦争忌避する人々もいる。中には、不正手段で出国するという事態も発生している。こういうなかで、ゼレンスキー大統領は今後の展望をどのように描いているのか。戦闘機の導入が本格化すれば、新たな展開も期待できるのであろう。

     

    (5)「ウクライナの世論調査機関「キーウ国際社会学研究所」が23年12月に公表した世論調査によると、「どんな状況の下でも領土を諦めるべきではない」と回答したのは74%。多数派ではあるが、22年5月からの調査で初めて8割を下回った。また、「平和のために領土を諦めてもよい」と答えたのは全体の19%で、昨年5月の10%から9ポイント上昇している。回答者の居住地域別にみると、激戦が続くウクライナ東部では25%が「諦めてもよい」と回答。南部、中央部、西部よりも領土放棄を容認する割合が高くなっている。一方で、「領土を諦めてもよい」と答えた人のうち71%は「西側諸国からの適切な支援があれば(露軍の撃退に)成功できる」と回答。「領土を諦めるべきではない」と答えた人では93%が同様の回答をしている。市民レベルでも、欧米の軍事支援が戦況のカギを握ると強く意識している模様だ」

     

    最終的には、ウクライナ世論が停戦=和平案を決めることだ。その時期は、24年中に来るであろうか。

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    ウクライナのゼレンスキー大統領が8日、ザルジニー総司令官を解任した。後任のシルスキー氏は、これまで陸軍司令官を務めてきた。シルスキー氏は、ザルジニー氏よりも年長者であらが、ザルジニー総司令官の補佐を快く務めるなど軍人らしい「度量」の大きさをみせてきた。あくまでも、「国家防衛」という任務に徹する軍人タイプである。

     

    世上では、今回の交代人事についていろいろ取り沙汰されている。ザルジニー氏の国民的な人気が高いことから、ゼレンスキー大統領にとって次期大統領選でライバルになる恐れがあるので交代させたというものである。

     

    こういう「陰謀説」は説得力を持つが、ウクライナ防衛が行き詰まっている現在、総司令官交代は当然である。米国では、作戦に失敗すれば司令官を交代させるのは常識である。旧日本軍の常識では、勝ち戦まで「司令官を変えない」が、これこそ異常である。旧日本軍は、この悪弊のために多くの将兵が命を失う羽目になった。新しい司令官の下で作戦計画を立て直すことだ。

     

    『ロイター』(2月9日付)は、「ウクライナ大統領、国民に人気の軍総司令官更迭 米『決定を尊重』」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、ウクライナ軍のザルジニー総司令官の更迭を発表した。後任に陸軍のオレクサンドル・シルスキー司令官を充てる。国民的英雄と見られているザルジニー氏と大統領の間に亀裂があるとの憶測が出ていた中、同氏の解任は前線部隊の士気に影響を与えるほか、大統領の評価にも傷がつく可能性がある。

     

    (1)「ゼレンスキー氏は、声明で「きょうから新しい指導部がウクライナ軍を引き継ぐ」と表明した。ウメロフ国防相も、軍の指導者を交代させる決定が下されたと声明で発表した。ゼレンスキー氏は声明で、ザルジニー氏とウクライナ軍に必要な刷新について協議したとし、誰が軍の新たな指導者に得るかについても話し合ったと表明。ザルジニー氏に自身のチームにとどまるよう要請したとした」

     

    ウクライナにとっては、西側諸国の軍事支援に陰りが出ている中で、効率的な戦い方を迫られている。総司令官を交代させることは、作戦の見直しに結びつく。

     

    (2)「ザルジニー氏は、自身の声明で大統領と「重要かつ真剣な対話」を行い、戦術と戦略を変更することを決定したと表明。「(ロシアによる全面侵攻が始まった)2022年の課題と24年の課題は異なる」とし、「勝利するために、誰もが新しい現実にも適応しなければならない」と述べた。ゼレンスキー氏は、軍を率いたザルジニー氏への謝意を示し、2人が笑顔で握手している写真を投稿した。発表後、「鉄の将軍」として知られたザルジニー氏への感謝のメッセージがソーシャルメディアにあふれた。昨年終盤の世論調査では、国民の90%以上がザルジニー氏を信頼していると回答。ゼレンスキー氏の77%を大きく上回った」

     

    ザルジニー氏を総司令官へ抜擢したのは、ゼレンスキー大統領である。シルスキー氏という年長者を差し置いての起用が、見事に成功したと評されてきた。今度は、逆にシルスキー氏を総司令官へ起用して膠着した戦線を見直すのは、十分にあり得る戦術交代だ。

     

    (3)「ゼレンスキー氏は、ザルジニー氏更迭を決めた背景には昨年の失敗があったと示唆。「この戦争の2年目、われわれは黒海を制した。冬を制した。ウクライナの空を再び支配できることを証明した。しかし、残念なことに地上では国家の目標を達成できなかった」と述べた。「ユキヒョウ」のコールサインで呼ばれる後任のシルスキー氏(58)については、22年のキーウ防衛と同年のハリコフ反攻を指揮した際の功績を挙げた」

     

    シルスキー氏は、ロシア人である。両親や親戚は、ロシア在住でロシア国籍を持つ。父親はロシアの退役軍人であり、また兄弟もロシアに住んでいる。ロシア在住の両親は2019年、ウクライナで禁止されているゲオルギーリボンをつけて行進する等ロシア愛国者である。こういう家庭環境から、ロシア前大統領のメドベージェフ安全保障会議副議長は9日、シルスキー氏を裏切り者だと批判した。

     

    シルスキー氏は、1965年7月に当時ソ連の一部だったロシアのウラジーミル地方で生まれ、同世代の多くのウクライナ軍関係者と同様、モスクワの高等軍事学校で学んだ。ソ連軍に5年間在籍し、1980年代からウクライナに住んでいる。ソ連崩壊後のロシア軍に在籍したことはない。こういうシルスキー氏の経歴をみると、筋金入りの「ウクライナ軍人」と言えよう。

     

     

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    米国政府は、ロシアの凍結資産3000億ドル(約42兆3600億円)相当を接収する方策について、主要7カ国(G7)の作業グループで検討するよう提案したと英紙『フィナンシャル・タイムズ』(FT)が28日報じた。米国は、ロシアによるウクライナ侵攻から2年の節目となる来年2月24日に間に合うよう合意を急いでいるという。

     

    事情に詳しい複数の関係者がFTに語ったところでは、12月開かれたG7財務相のオンライン会合で協議されたが、決定には至っていない。FTによれば、欧州各国で引き続き活発に検討され、ウクライナ支援への活用に向け、ロシア資産接収に向けた作業が加速している。西側にとって、その重要性が増す状況を浮き彫りにすると同紙は伝えた。

     

    米国政府が、ロシアの凍結資産の接収について結論を急いでいるのは、米議会で共和党がウクライナ支援を渋っていることと関係があろう。共和党は、来秋の大統領選でバイデン大統領を破るためには、ウクライナ侵攻でロシアの勝利が打撃を与えられるという近視眼的な対応を始めているからだ。こういう事態を見据えて、米国政府は苦肉の策に出ている。

     

    『フィナンシャル・タイム』(12月13日付)は、「米共和党で広がるプーチン支持の影」と題する記事を掲載した。

     

    米国の外交政策において、ウクライナを巡る問題ほど議論の流れが大きく変わった例はあまりない。1年前にはロシアを分割し、プーチン大統領を戦争犯罪で裁くべきだと議論していた。ところが米議会は今、ウクライナ支援を継続すべきかどうかで分かれ、紛糾している。米政府はウクライナがロシアの手に落ち、それにより西ヨーロッパがロシアの脅威にさらされるようになるのではないかとのリスクにおびえている。

     

    (1)「客観的に分析すると、ロシアのウクライナ侵攻による地上戦は、西側諸国がウクライナ支援を継続できなければプーチン氏に有利に傾くことは明らかだ。プーチン氏は今、米国の「ウクライナ支援疲れ」につけ込み、同国のもう片方の腕をも無力化しようとしている。それは、ここへきて米国内でかつてないほど存在感を増しているプーチン氏に好感をもつ、あるいは共感する人々の力を活用しようという目論見だ。共和党は強力なウクライナ支持派と、孤立主義とあからさまなプーチン信奉者がない交ぜとなった勢力に二分している」

     

     

    共和党内には、プーチン支持派が増えているという。目的は、バイデン大統領を窮地に追込むことである。

     

    (2)「ウクライナ支援に反対する主張のほとんどは精査すれば根拠に欠けることがわかる。米国からの支援金の大半は米国内での兵器製造に使われており、ウクライナに直接投入されるわけではない。ウクライナへの支援額は米連邦予算の1%にも満たない。金融支援としてウクライナ政府に送られる米ドルは厳しい監査を受けており、大型ヨットの代金などに使われることは決してない。また米国がウクライナで実際に戦っているわけではないので、米市民の間でウクライナ戦争に対する疲労感が生じているということもほぼない」

     

    ウクライナへの支援額は、米連邦予算の1%にも満たない金額である。それでも、共和党の一部は、バイデン大統領を困らせて大統領選で共和党の勝利に導こうという狙いであるという。

     

    (3)「よく耳にするのは、ウクライナ支援に1ドル支出するたびに台湾防衛のための資金が1ドル減るという議論だ。だが、実際はその正反対に近い。中国とロシアは「制限なき」協力関係を結んでおり、米国の弱体化を狙っている。それを達成するための最も効果的な取り組みはロシアがウクライナ戦争で勝利することだ。そうなれば北大西洋条約機構(NATO)の士気が下がり、欧州の穀倉地帯はロシアの手に落ちるだろう。軍事戦略家が100年以上前から指摘してきたように「ウクライナを制する者がユーラシアを制す」ということになるのだ。むしろ、米国がウクライナに兵器を送るたびにロシアはウクライナ戦争に勝つことが難しくなるわけで、そのことは中国に台湾問題について熟考させることにつながる

     

    ロシアがウクライナで勝利を収めることは、中国の台湾侵攻を促す口実になる。こういう関連性を共和党議員は、理解していないようである。

     

    (4)「なぜ、プーチン支持者がここまで米共和党内に広がるのだろうか。それはプーチン氏がバイデン氏の敵だからだ。「敵の敵は自分の味方」ということで、それ以上複雑な事情はない。米国の極右勢力には純粋にプーチン氏を支持する人もいるが、プーチンの肩を持つ大多数はトランプ米前大統領のような現金な日和見主義者だ。つまり、「バイデン氏にとって悪いことは共和党にとってよいこと」であり、従ってウクライナが負ければ、それは共和党にとって喜ばしいことを意味する

     

    米共和党の一部が、プーチン氏の肩を持つのはバイデン大統領を困らせることが目的である。米国政府は、こういう共和党の動きを封じるべく、ロシアの接収資産3000億ドルを、戦費に充てる案を大急ぎでまとめようとしているのであろう。

     

     

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