勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: リトアニア経済

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    人口270万人のリトアニア(バルト三国の一つ)が、巨像の中国へ堂々と立ち向かっている。リトアニアは、長いことロシアの支配下で苦しんできた歴史を繰り返すまいと、共産主義への警戒心が根強い。現在、中国と台湾の呼称をめぐって紛争状態になっている。外交機関名を「台湾代表部」にしたことで、中国がお馴染みの経済制裁を課しているのだ。

     

    リトアニアは、これに一歩も引かない構えである。一段と台湾との関係を深めている。台湾は、リトアニアへ10億ドルの基金を設けて、半導体工場設置へ動いているのだ。EU(欧州連合)も、リトアニアを支援する立場を明らかにした。台湾の半導体事業を、EU全体へ広く誘致したいという狙いが透けて見えるのである。

     


    『朝鮮日報』(1月15日付)は、「小国リトアニアに学ぶ中国の扱い方」と題するコラムを掲載した。筆者は、崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長である。

     

    米国で昨年バイデン政権が発足してから、欧州と中国の関係は以前とは異なり悪化の一途です。その先鋒に立つ国が、すなわちバルト海の小国リトアニアです。

     

    (1)「リトアニアでは2020年10月の総選挙によって自由・保守連立政権が発足し、これにより中国との関係が悪化し始めました。中国は中欧と東欧で一帯一路政策を推し進めるため、中国と中欧・東欧・バルカン諸国17カ国による経済協力首脳会議「17プラス1」に力を入れてきましたが、リトアニアは昨年5月にここからの離脱を宣言し、中国への批判を強めました。「中国からの投資は受けない」ということです」

     

    「17プラス1」は、中国の一帯一路政策の一端を担っているが、肝心の投資がなく、中国マネーへの期待は急速に萎んでいる。リトアニアを含め6ヵ国が、「脱中国」の動きをしている。中国は、これを防ぐ目的でリトアニアへ辛く当っていると見られる。

     

    (2)「昨年7月には首都ビリニュスに台湾代表部の設置を認めると発表しました。9月にはリトアニア国防省次官が中国のシャオミやファーウェイのスマホについて「セキュリティー上の問題がある」と直接指摘し「中国スマホは購入せず、すでに購入したなら捨てなさい」と国民に呼び掛けました。11月には中国の反対を押し切り台湾代表部が設置されました」

     

    リトアニアが、台湾との関係強化に努めているのは、台湾が中国の圧力で孤立させられていることへの反発=民主主義防衛という正義論が働いている。ただ、それだけではない。リトアニアの工業水準が高く、台湾との交流強化が利益になるという計算もあって当然だ。

     

    (3)「中国では両国の外交関係を大使級から代理大使級に格下げし、輸出入電算網の輸入対象国リストからリトアニアを排除するなど大規模な報復に乗り出しています。リトアニアに向かう貨物列車の運行も中断しました。しかしリトアニアは全く動じません。「中国の制裁は栄光であり、われわれが正しいことを確実に示している」という雰囲気だそうです。ある西側メディアは「経済的な損益の計算よりも民主主義と人権、国際社会のルールなどを重視するリトアニア式の価値観外交だ」と分析しています」

     

    下線部は、韓国の文政権へ聞かせてやりたい話だ。文大統領の「十八番」である人権・公正は、中国や北朝鮮に対しては「死語」になっている。もっぱら使われるのは、「反日宣伝」の時だけである。

     

    リトアニアは、「価値外交」を高く掲げており、米国と一体化外交を目指している。ここでも、韓国とは大きく異なっている。文大統領の価値外交は、「中朝」に向けられている。同盟国の米国へ背を向けて、中朝へ傾斜する不思議な政権である。

     

    (4)「リトアニアは欧州連合(EU)を中心に中国に対抗しています。中国の制裁を「WTO(世界貿易機関)のルールに反する不当な脅迫」と見なし、「EU加盟27カ国が結束して対抗すべきだ」と世論戦を仕掛けています。EUは第三国から不当な経済制裁を受けた加盟国を保護する手段を作るための協議を始めることにしました。リトアニアが反中の先頭に立つことを自認する背景には、この国の歴史的経験があります。近代以降はずっとロシア帝国の支配を受け、第2次大戦直前にはソ連に併合されましたが、旧ソ連の崩壊によって独立しました。長い間続いた血の支配により大国の横暴や共産党による強圧的な統治に対する反感は非常に強いそうです」

     

    EUでは、フランスが議長国であることからフランス外相が、中国への対抗策をまとめると発表している。リトアニアは、全体主義色を強めるロシアやベラルーシと国境を接する。それだけに、地政学的な危機感が強く、ロシアと気脈を通じる中国への警戒感は、韓国にもあって当然なはずだ。韓国は、逆に米国より中朝へ接近して地政学的危機感はなさそう。

     


    (5)「リトアニアは過去に支配を受けたロシア、独裁国家のベラルーシなどと国境を接しており、常に安全保障上の脅威を受けています。そのため2004年に北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、NATO軍の駐留も認めています。 反中外交を進める最も大きな理由も、ロシアをけん制するには米国の力が必要になるからです。中国と熾烈な体制競争を繰り広げる米国を後押しすることで、米国がリトアニアに継続して関心を持ち続けるよう仕向ける戦略ということです。リトアニアは数年前に大統領自ら米国に米軍の常時駐留とTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備を要求しています」

     

    リトアニアは、NATOへ加盟している。米国へTHAAD配備を要請するほどである。ここでも,文政権と大きく異なる。中国へTHAADを増設しないと約束しているのだ。韓国は、米韓同盟に安住しており、米国を踏みつけ中朝へ接近する外交政策が、いつまで続くはずもあるまい。

     


    (6)「経済的な理由もあります。リトアニアは1人当たりの国内総生産(GDP)が2万ドル前後(注:正しくは3万8700ドル=2019年)に達する中東欧でも代表的なIT(情報技術)強国です。世界的な半導体企業を持つ台湾と協力することが経済的にも実利が大きいと判断したようです」

     

    リトアニアの国土面積は、日本の九州・四国・山口・島根を合計した程度である。一人当たり名目GDPから見て、農業国でないことは明らかで工業化レベルが高い。リトアニアが、半導体生産国になれば、他国へも伝播して「脱中国」の動きが強まるであろう。

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    中国は、リトアニアが台湾と関係を深めていることで圧力を掛けている。具体的には、リトアニアからの輸入だけでなく、同国製の部品が使われた全製品の輸入を差し止めたのだ。その影響は欧州全域に波及している。

     

    リトアニアでは、自動車部品を製造してドイツへ輸出している。ドイツ企業のコンチネンタル社は、それを組立て中国へ輸出するが、中国はリトアニア製部品が含まれているとして、輸入させない強硬措置を取っている。ここへ、フランスが救世主として登場した。フランス外相が、EU(欧州連合)議長国として、中国へ対抗措置を取ると言明したのだ。

     


    『大紀元』(1月13日付)は、「『対抗措置を取る』 仏外相、中国を名指しで批判 リトアニアへの圧力めぐり」と題する記事を掲載した。

     

    ルドリアン仏外相は1月12日、中国当局から圧力を受けているリトアニアを支持する立場を示した。外相は、フランスは欧州連合(EU)の議長国として、中国当局の圧迫に対抗するための法案の制定に取り組んでいくと述べた。

     

    (1)「外相は同日夜、フランス国民議会(下院)の公聴会で、中国当局を名指しして、「一部のEU加盟国、特にリトアニアに対して経済的圧力を加えている」と非難し、対抗するための行動を起こすと表明した。外相によると、EUでは関連法案についての議論がすでに始まっている。今月、EUの議長国となったフランスは、議長国として「(法案の制定などを)引き続き進めていく」という」

     

    中国の圧力は、過去にも例がある。中国は、自国の反体制派の活動家がノーベル平和賞を授与された後に、ノルウェーからのサーモンの輸入を中止した。また、豪州が新型コロナウイルス感染症の発生源の調査を求めた後に、豪州産ワインの輸入を中止した。これらは深刻な影響をもたらしたが、打撃を受けたのは当事国のみだった。今回は、リトアニア製部品を組み込んだ製品の輸入を止めるという露骨な手段に訴えた。

     


    フランスは、こうした中国の姿勢に強く反発している。ドイツ新政府は、発足間もないことから中国との衝突を避けているようだが、フランスは敢然として「受けて立つ」という気構えを見せている。

     

    (2)「外相は、13~14日までの日程で、フランス西部の都市ブレストで開催されるEU加盟27カ国の外相・国防相会合でも、対抗措置を巡って各国の高官らと話し合う予定だと述べた。台湾メディア「自由時報」によると、公聴会でディディエ・クエンティン議員(共和党)は外相に対して、リトアニアへの中国側の圧力を巡って、質疑を行った。

    クエンティン議員によれば、中国当局はドイツの自動車部品企業コンチネンタル社に、リトアニア企業の製品の使用を停止するよう圧力をかけた

     

    下線分が、中国からリトアニアへ圧力がかかってきたドイツ企業である。ドイツ政府が、起ちあがるべきところを逡巡していたのだ。恥ずかしい話である。

     


    (3)「同議員は国民議会の公聴会で、台湾の世界保健機関(WHO)年次総会への参加について、複数回言及したことがある。ルドリアン外相は、議員の質疑に対して、「フランスはEUの議長国を務めている間、(中国の)圧力への対抗措置の制定を進めていく」と再びリトアニアへの支持を強調した」

     

    フランスが、積極的に中国の理不尽な動きに対抗するとなれば、ドイツも静観できなくなるだろう。ドイツ外相は、緑の党出身であり「反中国」姿勢を明確にしている。本領を発揮するうえで、リトアニア問題は格好のテーマであろう。

     

    『大紀元』(1月12日付)は、「台湾、リトアニアへの投資強化 10億ドル規模融資ファンドを創設へ」と題する記事を掲載した。

     

    台湾は、中国当局から経済報復を受けているリトアニアに対して支援する姿勢を打ち出した。経済政策を担う国家発展委員会(NDC)は11日、台湾・リトアニアの共同プロジェクトに対して10億ドル規模の与信制度を創設すると発表した。

     

    (4)「NDCは5日、リトアニアの産業を支援するために2億ドル規模の「中東欧投資基金」を設立すると発表したばかりだ。NDCトップの龔明鑫(クン ミンシン)・主任委員(閣僚に相当)は11日、リトアニアのアウシュリネ・アルモナイテ経済イノベーション相とオンライン会談で、リトアニアとの協力を深化すると約束した。「ともに強力な民主主義的サプライチェーンを構築し、世界の民主主義陣営の結束と強さを高める。同時に、中国共産党の経済的な圧力に対処するリトアニアを引き続き全力で支援する」と述べた」

     

    台湾は、自国の問題でリトアニアを窮地に追い込んでいることから、リトアニアへの経済協力で報いる意向を見せている。

     

    (5)「龔主任委員は、両国の協力が見込まれるリトアニアの産業のために「10億ドル規模の融資ファンド」を創設するとした。半導体開発、バイオテクノロジー、衛星技術、ファイナンス、科学研究の6分野が対象」

     

    台湾は、10億ドル規模の融資ファンドによって、半導体開発、バイオテクノロジー、衛星技術、ファイナンス、科学研究の6分野を支援する。これは、リトアニアにとって願ってもないことが降って湧いた幸運である。特に、半導体が目玉になる。

     


    (6)「両閣僚はその後の記者会見で、台湾とリトアニアは「今後、様々な分野での交流と協力がより緊密に、より頻繁に行われる」と示した。特に、半導体分野での協力が最も著しくなるという。台湾のNDC、経済省などの政府官庁は近く共同で「台湾・欧州半導体産業協力専門チーム」を立ち上げる予定。アルモナイテ氏は台湾側の支援に感謝し、今春に駐台湾代表処を正式に開設すると明らかにした」

     

    台湾が、リトアニアへ半導体工場を建設すれば、EUにとっても朗報である。これをきっかけに、EU全体が台湾歓迎ムードに変わることは疑いない。中国は、台湾という隠し球が出てくることに気付いていなかったのだ。リトアニア・台湾連合チームの勝利であろう。


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    リトアニアは、台湾の大使館設置を承認したことで、中国が猛反発している。具体的に、リトアニアへ経済制裁を加えるべく、中国へ進出している多国籍企業に対して、リトアニア製品を扱わぬように要求。これに違反すれば、中国国内での営業を差止めるという強硬策である。EU(欧州連合)は、すでにリトアニア問題を念頭に「第三国制裁案」を準備している。リトアニア問題が、中国とEUの対立へ発展する気配となってきた。

     

    『ロイター』(12月9日付)は、「中国、多国籍企業にリトアニア製品のボイコット要求 台湾巡り」と題する記事を掲載した。

     

    リトアニアの政府高官と業界団体がロイターに明らかにしたところによると、中国は多国籍企業に対し、リトアニアとの関係を絶たなければ中国市場から締め出すと警告している。「台湾」の名を冠した事実上の大使館である代表機関がリトアニアに設置されたことを受けて、中国政府は先月、リトアニアとの外交関係を格下げした。

     


    (1)「リトアニアと中国の直接貿易はそれほど多くないが、リトアニアには家具、レーザー、食品、衣料などを多国籍企業向けに製造する企業が多く、そうした多国籍企業は中国に製品を販売している。リトアニアのアドメナス外務副大臣はロイターに「(中国は)多国籍企業に対し、リトアニア製の部品などを使用すれば、中国市場での商品の販売・調達を認めないとのメッセージを送っている」と指摘。「一部の企業はリトアニアのサプライヤーとの契約をキャンセルした」と述べた。具体的な社名は明らかにしなかった」

     

    リトアニアが直接、中国へ輸出しているのはリトアニア輸出全体の1%に過ぎない。これでは、中国が圧力を掛けても威力はない。そこで中国は、多国籍企業に対してリトアニア製の部品を使用した製品の販売・調達を認めないと新たな圧力をかけ始めた。

     


    (2)「リトアニア産業連盟の代表も、国内サプライヤーから商品を調達している一部の多国籍企業が中国の標的になっていると指摘。「これまでは脅しにすぎなかったが、今はそれが現実のものになっている」とし、標的となっている多国籍企業は欧州企業で、多くのリトアニア企業と取引があると述べた。政府高官によると、リトアニアは国内企業を中国の報復措置から守るため、基金を設立することを検討している。ランズベルギス外相は、欧州委員会に「欧州連合(EU)レベルで強力な対応が必要だ」と支援を要請。欧州委は加盟国に対するあらゆる種類の政治的圧力と強制的な措置に対抗する用意があると表明している」

     

    リトアニア製の部品を購入しているのは、多くがEU企業である。すでに、リトアニア企業からの調達をキャンセルする企業も出始めた状況である。EUは、この問題をEUとして処理する意向を表明した。リトアニアをめぐって、EUと中国が対決する構図だ。

     


    『日本経済新聞 電子版』(12月9日付)は、「EU、第三国の経済圧力に制裁案 中国など念頭」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「欧州連合(EU)の欧州委員会は8日、EUと加盟国に経済的な手段を使って圧力をかける第三国に対して、貿易関連の制裁を科せる制度案を公表した。原則として加盟国に諮らず、EUが独自に判断できるのが特徴。一方的な行動が目立つ国際社会で迅速に対応できる能力を備える狙いがある。今回の制度案策定の念頭には、台湾との関係を深めるリトアニアに圧力を強める中国の存在がある」

     

    法案によると、欧州委が速やかに対応できる。相手国との交渉で問題が解決されなかった場合、委員会は加盟国の承認を得て12種類の対抗措置を講じることができる。その中には関税の賦課や化学品輸入の禁止、科学分野での協力停止のほか、「銀行、保険、EU資本市場、その他の金融サービス活動へのアクセスの制限」が含まれる。対抗策は企業または個人に対して講じられる。以上は、『ロイター』(12月9日付)からの引用である。

     

    この対抗措置によると、中国の受ける損害はかなり大きいものがある。中国は、「リトアニア制裁」の何十倍もの損失を受けることは必至だ。

     

    (4)「EUは、第三国が経済的な手段を使ってEUや加盟国に政策変更を強要しようとすることを「経済的な強制」と定義。具体的には加盟国などからの連絡を受けた上で、EUが個別に判断する。差別的な追加関税やビジネスに必要な認可の拒否、特定国への国境での検査強化などが予告されたり、実際に起きたりした場合は制裁の対象になり得る。EUの具体的な報復措置としては、商品やサービスへの追加関税のほか、EUから対象国への資金支援の停止、EU内での関連手続きでの認可取り消しなどが想定されている

     

    中国は、リトアニアを「小国」扱いしているが、EU加盟国であることを忘れた「リトアニア制裁」である。加盟国の力は、こういう時に発揮される。

     

    (5)「通商政策はEUが持つ権限。全会一致の原則がある外交政策に比べ、迅速に意思決定できる利点がある。フランスやドイツなどEUの大国は制度の方向性についておおむね支持しているものの、欧州委に大きな権限を与えることに慎重な加盟国は少なくない。欧州議会と加盟国からの承認を得る必要があり、成立には時間がかかる可能性がある」

     

    通商政策は、欧州委が持つ権限である。迅速に行動できるメリットがある。それだけに、加盟国が今回の「第三国制裁案」の成立にすぐ賛成するかどうか不透明である。ただ、欧州委が乗り気であることはリトアニアにとって心強いであろう。

     

    (6)「中国によるリトアニアへの圧力について、EUの外相に当たるボレル外交安全保障上級代表とドムブロフスキス上級副委員長(通商政策担当)は、声明でリトアニアの貨物が中国の税関で止められているとの情報があるとして「EUはあらゆる政治的圧力や強制的な措置に立ち向かう用意がある」と訴えた」

     

    欧州委が、リトアニアの味方であることは、中国に対して大きな圧力になろう。中国にとって、「小国」リトアニア制裁が自らの「逆制裁」になりかねない、笑うに笑えない話になりそうだ。

     

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    「大国を治むるは、小鮮を烹るがごとし」という。小魚を煮るときは型崩れしないように弱火でじっくりと。大国の統治も料理と同じだと老子は説いたのである。現代風に言えば、小魚である「リトアニア」が、台湾との国交を決めて中国が振り回されているのだ。中国は、リトアニアへ経済制裁したくても、リトアニアの対中国輸出は全体の1%に過ぎない。まさに、「箸にも棒にもかからない」状態である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月7日付)は、「中国、対リトアニア『制裁』で苦慮、欧州への影響拡大懸念か」と題する記事を掲載した。

     

    中国が、台湾と急接近する欧州の小国リトアニアへの対応に苦慮している。同国で台湾の代表機関が開設されたのに反発し、中国は外交関係を格下げしたものの、断交などの踏み込んだ措置は見送った。背景には、リトアニアに追随する動きが欧州で広がることへの警戒がある。中国による対立国への経済的な圧力の限界も浮き彫りになっている。

     

    (1)「中国外務省の趙立堅副報道局長は11月下旬の記者会見で、「あしき前例をつくった。代償を払わなければならない」とリトアニアに警告した。中国が激怒した直接の原因は、11月に台湾がリトアニアに開いた事実上の大使館となる「台湾代表処」にある。欧州に置く代表機関で初めて名称に「台北」ではなく「台湾」の採用を認め、台湾を不可分の領土とする中国が駐リトアニア大使の召還を8月に発表するなどして反対していた」

     

    中国は、「戦狼外交」で他国を脅してきたが、リトアニアの方が一枚上手である。リトアニアは、中国と「一つの中国」で外交関係を結んできたが、新たに台湾と国交を結んで、「一つの中国」を反古にしたのだ。

     

    リトアニアにも言分がある。台湾は民主主義国であるが、中国から圧迫されて気の毒な立ち場である。かつて、リトアニアは旧ソ連の支配下で辛酸をなめさせられた。台湾へ同情するとしている。だが、リトアニアの目的はこれだけでない。台湾から半導体企業を誘致したいのだ。具体的に、「商談」を始める雰囲気になっている。

     

    (2)「中国による報復措置は、現段階では政治的なメッセージの意味合いが大きい。リトアニアとの外交関係を格下げし、大使を送らず代理大使にすると11月に決めた。中国共産党系メディアの環球時報が可能性を指摘していた断交には踏み切らなかった。リトアニアへの圧力を巡る混乱もうかがえる。11月に領事業務の一時停止を発表した在リトアニア中国大使館は、ウェブサイトに載せた発表を公開後まもなく削除した。8月にもリトアニアと結ぶ貨物列車の運行を中国が一時停止すると欧州メディアが報じた後で、中国の鉄道運行会社が環球時報などへのコメントで打ち消した経緯がある」

     

    「大国」中国は、「小国」リトアニアを制裁しても、EU(欧州連合)から強い反発を受けるリスクが大きいのだ。こうなると、中国は打つ手がない。EUは、人権擁護で結束している。中国は、リトアニア制裁で大火傷になりかねないのだ。

     

    (3)「背景には、欧州との対立が先鋭化するのは避けたい中国の考えがある。欧州連合(EU)は人権問題で中国を非難しつつも、中国と経済関係が深いドイツのメルケル首相が対中外交をけん引してきた。同氏の退任でEU内の力のバランスが変わりかねず、中国は「欧州との関係を全体的に安定させる必要がある」(北京の国際関係学者)。EU加盟国のリトアニアへの報復を小出しにしながら、ほかの国々の反応を見極めているとみられる」

     

    前述の通り、リトアニアは台湾から半導体企業の誘致で前向きの回答をえている。EU全体も、半導体ビジネスを盛り立てたいところだけに、心情的にも台湾へ傾斜している。こういう状況下で、中国がリトアニアへ報復すれば、大きなブーメランを浴びることは必至だ。

     

    (4)「リトアニアと台湾は、バイデン米政権が9~10日に開く「民主主義サミット」にも招待された。この時期のリトアニアへの制裁は、参加国の結束を強めてしまうとの懸念も中国にはありそうだ。リトアニアは強気の姿勢を崩さない。11月末には同国を中心とするバルト3国の議員団が訪台して台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と会談し、対中国を念頭に関係強化で一致した」

     

    リトアニアは台湾と並んで、12月9~10の米国主宰の「民主主義サミット」へ招待されている。これは、リトアニアにとって米国の支援を受けられる資格を得たようなもの。中国は、ますます迂闊に手を出せなくなっているのだ。

     


    (5)「リトアニアでは2020年12月に人権擁護などを重視する連立政権が発足した。旧ソ連による武力併合を経て1990年に独立回復を宣言(91年にソ連が承認)した歴史を有し、強権国からの圧力への警戒が強い。輸出額に占める中国向けの割合が20年に約1%と経済の中国依存が低く、「失うものがほとんどない」(米政治専門サイトのポリティコ)点も厳しい対中姿勢を裏打ちする。3日には少なくとも同国の5社の製品が中国の税関を通らなくなっていることが明らかになったが、大きな影響はないとみられる」

     

    リトアニアは、ソ連崩壊直前の1991年2月にソ連から独立した。それだけに、自由への希求は極めて強い国家である。中国から威嚇されても、平然と受け流す強靱さを持っている。韓国に見倣わせたいほどである。 

     

    ムシトリナデシコ
       


    中国の「戦狼外交」は、気の毒になるほど世界中から嫌われている。これまで大言壮語してきたが、「金の切れ目が縁の切れ目」になっており、引潮のように「中国熱」が覚めている。特に中東欧国にそれが顕著だ。中国は、これまで中東欧国17国を束ね「17+1」を率いてきた。その原動力は資金であったが、最近はすっかりその魅力も消えた。

     

    そうなると、欧州文化の優越感がそろりと顔を出し、人権弾圧の野蛮国とは言わぬまでも、「さようならチャイナ」という時間も早い。チェコとリトアニアが反旗を翻している。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(9月22日付)は、「『中国熱』が冷めた中東欧諸国、台湾に熱視線」と題する記事を掲載した。

     

    バルト3国の一つ、リトアニアが台北に代表部を設置すると発表した3月以降、台湾ではクレジットカードを保有する人々が25億台湾ドル(約99億円)相当のリトアニア産品を購入している。代表部は公式な外交機関より下のレベルだが、関係の深まりを示すものだ。小国のリトアニアが台湾のインターネット通販利用者の7番目の主要市場となっている。

     

    (1)「このリトアニア産品ブームは、台湾と中東欧諸国の新たな相愛を示す一つにすぎない。この数カ月の間にリトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキアが台湾に新型コロナウイルスのワクチンを無償提供した。欧州連合(EU)加盟国の中で、台湾にワクチンを提供したのはこの4国だけだ。10月には台湾の経済政策の司令塔の役割を担う国家発展委員会の主任委員(閣僚)が官僚や民間企業の代表65人からなる投資視察団を率いて、そのうちの3国を訪問する予定だ」

     

    リトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキアの4ヶ国が、台湾へワクチンを提供して親交を深めている。台湾は、その返礼も含めて3ヶ国へ投資視察団を送るという。台湾は外貨が潤沢だ。投資資金はいくらでもある。

     


    (2)「中国との協力による経済的利益の期待が、権威主義的な超大国に支配される不安へと変わり、各国政府が対中関係を見直すなかでの接近だ。「中国が『17プラス1』を発足させたことで、非常に高い期待があった」と話すのはシンクタンク「ポーランド国際問題研究所」の中国アナリストのユスティナ・スチュドリク氏だ。17プラス1は、中国政府が中東欧諸国との関係強化のために立ち上げたグループを指す。「しかし徐々に、この関係は実りあるものではなく、中国側の働きかけは大部分がPRであるということを私たちは思い知るに至った」という」

     

    中国の大言壮語は、有名である。ご馳走と土産を持たせて歓心を買う。ここに女性がいれば、もう立派なスパイ活動の開始である。中国4000年の歴史は、こういう低俗なことで相手を籠絡してきた。引っかかる方も迂闊である。中国社会では、「魚心あれば水心」で賄賂と同様な社交術なのだ。東欧諸国もこの手に乗せられたのだろう。

     


    (3)「チェコのパラツキー大学オロモウツ校とシンクタンク「中欧アジア研究所」が2020年に公表した欧州市民の対中意識調査によると、中東欧諸国の中で好意的な見方が大部分を占めるのはセルビアとラトビアだけだった。最も反感が強かったのはチェコで、回答者の56%が中国政府に否定的な目を向け、41%がこの3年で対中観は悪化したと答えている。経済的機会に関する幻滅が一つの理由だ」

     

    一度は騙された中東欧国も、時間が経てば中国の意図に気付く。中国から離れるのは当然である。

     

    (4)「前出のスチュドリク氏によると、一連の(中国の)出来事が懸念の高まりにつながった。半導体などの中核産業で自給体制を確立するという産業政策「中国製造2025」の策定、16年の中国企業によるドイツの産業用ロボット大手クーカの敵対的買収、そして相手国に重い債務を背負わせるインフラ整備プロジェクトの「一帯一路」だ。「彼らは基幹インフラに手を伸ばし、投資によって支配権を握ろうとしているということがわかった」と同氏は言う」

     

    中国は欧州の高度技術を狙っていた。日本は、中国のやり口に熟知していたので騙されることはなかった。過去の中国へ抱いていた「偏見」が、まんまと生きたと言える。

     


    (5)「政治の領域での懸念はさらに強い。多くの中東欧諸国にとって、1989年にソ連の占領や支配から解放されたことは自国のアイデンティティーの不可分の一部だ。年配の人々は、自分たちが外国の支配から逃れようとしていたのと同じ時期に、天安門広場でデモを残忍に弾圧した中国に警戒の目を向けている。それと同じ理由で中東欧諸国は、中国のロシアとの関係強化を不安の中で注視している。17年のバルト海での中ロ海軍による合同軍事演習は「ポーランドに衝撃」をもたらしたとスチュドリク氏は言う」

     

    1989年は、中東欧諸国の人々に忘れられない年である。自らは旧ソ連から解放されたが、中国では共産党によって学生が弾圧され、自由を奪われたた年である。中国共産党へは独特の嫌な思いがあるのだろう。それが今、苦々しく思い出されて中国への警戒心を呼戻しているに違いない。

     

    (6)「リトアニアは5月に「17プラス1」から離脱した。同国のナウセーダ大統領は先ごろ『フィナンシャル・タイムズ』(FT)に対し、中国とは「相互尊重の原則に基づく」関係を持ちたいとの考えを示し、どの国と協力するかを決めるのは「自由」だと強調した。「これによって緊張が増すことはないはずだ」と大統領は語っている。バルト3国にとっては、1990年にソ連から独立した後、最初にアイスランドの承認を得たということが新興の小さな民主主義国家を支える原則となっている。「我々はリトアニアから遠く離れた小さな国の大きな支援を得た。アイスランドは我々の独立を承認し、価値観と原則がなおも大きな意味を持つことを世界に示してくれた」とナウセーダ氏は語った」

     

    下線部分は正論である。リトアニアが、台湾と外交関係を持っても自由である。それを、「一つの中国論」で束縛するな、と反駁しているのである。もっともな発言である。内政干渉である。

     

    (7)「リトアニアは対中姿勢の硬化を最も声高に示している。台湾と相互に代表部を設置する決断を下した後、中国と完全に対立し、両国とも駐在大使を召還するに至っている。リトアニア議会は中国に批判的な決議も採択している。その一つは、新疆ウイグル自治区に対する中国政府の政策を非難する内容だ。同自治区では、数百万人の少数民族ウイグル族が収容施設に入れられているとされる。中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の締め出しを求める決議も採択されている」

     

    リトアニアは、中国の高圧姿勢に断固、立ち向かっている。これは、他国にも伝播していくだろう。堤防は蟻の一穴から崩れるという。リトアニアが、その役割を担っている。

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