EV業界はSOS状況
同型タイプで過激競争
模倣が生んだ傍流技術
中国の特技は大量生産
中国は、不動産バブル崩壊後の産業政策で、EV(電気自動車)を目玉にして全力疾走してきた。ガソリン車の国際競争力はないが、EVであれば安価な電池で勝負できると踏んだ結果だ。この思惑は的中した。中国は、2023年に輸出台数で日本を抜き、25年の世界累計販売台数でも日本を抜いて初めて世界首位に立った。この原動力は、安い電池がEV生産コストを抑えたのだ。
EVコストでは、電池が平均(中型)で全体の35~45%も占める。小型EVは、40〜45%。高級EVが、30〜35%である。それだけに、電池コストをいかに切下げるかが競争のポイントだ。この点で、中国は技術の本流を歩まずに「近道」を選んだのである。つまり、中国は傍流技術の「LFP電池」によって、本流の「三元系」よりも30~40%も低コストを実現した。中国全体が、このLFP電池で大増産号令を掛けて、世界のEV競争へ打って出たのである。
LFP電池は、なぜ安いのか。原料が地球上に豊富な鉄やリンであるからだ。一方、本流技術とされる三元系は、原料に高価なニッケル・コバルト・マンガンを使用する。この原料コスト差が、中国EVの低価格を実現して、急速な伸びを実現させた。だが、LFP電池は亜流技術であるという根源的問題を抱えている。三元系は、次世代電池の「全固体電池」へ技術的に繋がるのだ。その点で、LFPは全く遮断されている。中国は、EVの短距離競走を勝ち取ったが、中・長距離競争で日本へ敗北の公算が大きいのだ。
EV業界はSOS状況
冒頭から、いささかショッキングな話題を提供した。中国EVの技術的弱点を明らかかにしたいからだ。中国EVは今、「ドングリの背比べ」同様に、深刻な低価格競争に陥っている。営業利益率が、自動車業界の「レッドライン」とされる5%を割る状態だ。中国自動車業界の営業利益率が、2026年1〜2月に2.9%まで落ち込み、過去最低水準を更新した。25年営業利益率は、4.1%であった。現状は、17年の7.8%からみると6割強の落ち込みとなった。中国自動車業界は、まさに「SOS」状況にある。
こうした、危機的状況に陥っている理由は何か。中国EVを支えてきた補助金が、削減方向にあることが大きな理由である。
1)中央政府の「直接補助金」は終了(2022年末で打ち切り)したが、税優遇(購入税50%免除)でソフトな支援に移行している。これは、低価格EVをふるい落とす方向への政策転換とみられる。
2)地方政府は、地元メーカーを守るため、独自の補助金を継続している。地方財政が苦しいにもかかわらず、EV支援を止められない理由は、雇用確保と「増値税」(消費税)確保が目的である。
3)EVメーカーは、補助金縮小に伴って価格競争が激化している。今年1~2月の営業利益率が2%台へ低下した背景でもあり、過当な価格競争である「内巻(ネイジュアン)」がさらに深刻化する気配をみせている。
4)消費者の大半は、すでに2025年末に駆け込みによって購入を済ませている。それだけに、26年の補助金縮小による販売急減が危惧されている。
以上を要約すると、補助金で育てられてきた中国EVが、需要を先取りしてしまったという限界点に突き当たっている。補助金政策の最大の問題は、新規需要を掘り起こすよりも、需要先取りであることだ。補助金が終われば、「元の木阿弥」になる。
皮肉なことに、補助金縮小が中国EVを淘汰させる事態を引き起すことだ。その結果、低価格EVメーカーから連鎖倒産が始まるであろう。購入税免除が、2026〜27年にこれまでの100%が50%へと縮小される。下取り補助は継続するが、金額は上限2万元(約2.8万円)に固定する。つまり、補助金は、「縮小しつつ延命」という先細り状態が必至となっている。
これは、低価格EVにとっては致命的となる。低価格EV(10〜15万元帯:約230万~345万円)が最も打撃を受ける場面だ。価格の12〜15%が補助金で支えられていたため、補助金縮小によって利益が消える計算である。以上の説明を通して、中国EVが巧妙な補助金網によって支えられていることが分かる。政府補助金が守って来たEVだけに、補助金縮小は即赤字化をもたらす脆弱構造である。こうして、営業利益率はさらに悪化の方向にある。
補助金縮小の裏には、地方政府の財政悪化がある。原因は言わずと知れた不動産バブル崩壊後遺症による地価下落である。北京や上海ですら、21年にピーク時から25年で3割の下落である。地方は5割以上も下落している。これに伴う土地売却益の減少状況は次の通りだ。土地売却益のピークは、21年1~2月である。これが、不動産バブルの頂点であった。今年1~2月期の土地売却益は、このピークから7割減である。地方政府の財政麻痺は当然だ。EV補助金カットは、不可避の情勢である。
地価下落は、地方銀行の不良債権を増やしている。これが、低利益率に苦しむEVメーカーへの融資を絞る結果、倒産を増やす悪循環が始まるであろう。補助金縮小と銀行の貸し渋りによって、量的な「栄華を極めた」EVもついに終幕を迎えるほかなくなっている。
同型タイプで過激競争
中国自動車業界が、1~2月の営業利益率で3%割れという危機状態へ落込んだ。自動車業界の営業利益率は、5%以上が必須とされる。理由は、新車開発費用が賄えないからだ。この状態では、中国EVで画期的製品の登場は不可能であろう。
中国EVは今後、ますます中国企業の抱える「宿命」を体現化していくことになる。中国では、「同じものを作る」という文化が存在し、産業全体を同質化させていることだ。これは、始皇帝の「農本主義」に源流がある。農業は、同じ品種で大量生産することで効率を高める。工業製品にもこれを適用しているのだ。毛沢東時代、新しい技術は全て公開されて、同一種類の製品の大量生産を目指してきた。この流れが、今も続いている。(つづく)
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