目的は習氏の権威護持
軍最高幹部追放の意味
中国軍の根本的弱みは
情報戦で敗北する宿命
中国とは、どのような性格の国家であるか。その本質は、権威主義である。具体的には、歴史の教科書に出てくるあの専制国家だ。専制主義が、現在の中国を支配しているのである。こういう視点から現代中国を眺めると、そこに多くの欠陥が現れていることに気付くであろう。
専制国家という表現は、もはや時効になっている。今様に言えば、権威主義である。この権威主義という軸によって中国を分析すれば、中国の見えない部分が明瞭に浮かび上がってくる。なぜ、過剰生産を続けているのか。経済の実態が悪化しているにもかかわらず「5%成長」に拘っているのか。人民解放軍の最高幹部二名が同時に粛清された理由は何か。すべての根源は、権威主義に行き着くであろう。それは、中国国家主席習近平氏の「胸三寸」ですべてが決定されるシステムの欠陥の現れである。
中国が、自らを決して権威主義国家と呼ぶことはない。社会主義国と称するが、貧富の格差を放置している社会主義など存在しえないのだ。相続税も固定資産税も存在しない中国は、「富める者がますます富み、貧しき者はますます貧する」格差国家である。この根本的な矛盾は、共産党革命を行った古参幹部子弟を庇うことから始まった。これが、富裕階級をより豊かにする要因として貧富を拡大している。社会主義下における貧富の格差拡大など、原理的にも不可解な事象である。中国は、紛れもない権威主義国家である。
権威主義国家は、「家産国家」とも呼べるであろう。家産制では、国家の支配者が土地や社会的地位を自身の家産のように扱い、家父長制的な支配を行う。ドイツの社会学者マックス・ヴェーバーによって、「近代国家」との比較論で広く認識された概念だ。現代中国を分析するには、この概念が極めて有益な手法となる。
民主主義国家は、近代国家と呼ばれる。中国は、家産国家で帝王が率いる国家である。家産国家の官僚は、近代国家の官僚(「近代官僚制」)と違い「家産官僚制」と呼ばれる。習氏への忠誠が基本となっているのだ。人民解放軍が、習氏に忠誠を誓うのは家産官僚制の特色である。要するに、習氏が帝王で、官僚はその「補佐役」に過ぎない。これが、学術的にみた中国の実態である。
目的は習氏の権威護持
権威主義国家中国の極み付けは、5%経済成長固執と軍部の粛清に要約されている。いずれも、習氏の権威維持優先の下で行われている。「何が何でも5%経済成長」は、共産党の権威=習近平氏の権威を守る上で不可欠になった。軍部粛清は、習近平氏への絶対的忠誠に反した結果、二人の最高幹部が追放されたと理解すべきであろう。
以上二つの硬直的な決定は、習氏の強さの証明ではない。逆に、弱さの証明となっている。自らの地位が安泰でないことを自覚した習氏が、地位を守るべき行った「権力発動」である。こうして、中国の実態は国家として弱体化に向って進んでいる。すでに、衰退全過程の6~7割が進んでおり、傾き掛けた国家になっているとみるべきだろう。
まず、経済からみていきたい。中国は、23~25年にかけて「5%前後」という経済成長目標を掲げて実現させた。これは、習氏が2035年目標で掲げた21年比のGDP規模を2倍、国民一人当たり名目GDPでも2倍目標(平均4.7~5%成長)を掲げたことに縛られている。この「2035年亡霊」が中国の経済政策を硬直化させている。
5%成長を実現するには、インフラ投資と設備投資が不可欠である。25年は、ともに前年比でマイナスである。26年の5%成長目標が、どれだけ不合理であるか明白である。それでも目標維持は、権威主義国家の宿命である。習氏の威厳を傷付けないためには、これが不可欠であるからだ。個人の威厳=権威を守るべく、無理な目標を達成することは、中国の経済体質を損ねることになる。誰も、それに異を唱えられないのは、家産官僚制の当然の結果だ。有り体に言えば、官僚は習氏に「隷属」している。
中国は現在、確実に潜在的成長率が低下し続けている。原因は、過剰投資→過剰生産→価格暴落である。中国の成長躍進産業であったEV(電気自動車)は従来、自動車生産と自動車購入の両面で政府補助金付きであったが、財政ひっ迫を理由に取り止めの方向である。補助金がなくなれば、中国EVは長期的に利益が出るか疑問なほど、収益構造が悪化している。これでは、EVが中国経済の成長に何らの貢献をしないことになる。太陽光パネルも同じ状況にある。
中国の経済成長率は、国民の福祉を満たすことよりも、習氏の個人的な威厳を保つことが目標という、本末転倒の状態になっている。不動産バブル崩壊後遺症は、政府の責任でないとして事実上、「手つかず」である。銀行と不動産開発企業の責任で、過剰債務を処理せよという立場だ。これが、地価下落を長引かせて、さらなる地価下落を招いている。地方政府の土地販売収益が減る結果、地方政府の行政を麻痺させつつある。まさに、悪循環に陥っており、最終的には習氏の権力基盤にヒビ割れを起こすであろう。
軍最高幹部追放の意味
中国経済は、少子高齢化によってますます潜在的成長率が低下して縮小過程へ進んでいる。これが、中国軍部の「粛清」事件を引き起したとみられる。経済成長率の鈍化が、しだいに武器調達の障害になるからだ。こうした背景の下で、中国人民解放軍制服組トップの張又侠・中央軍事委員会副主席が1月、突然の失脚となった。
理由は、汚職と米国への情報漏洩とされているが、意見の対立によるものとみられる。習氏は、27年までに台湾侵攻準備を終えるように軍へ要求した。一方、制服組トップの張氏は35年まで掛るという意見であった。これは、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月2日付)が報じたものだ。この27年と35年をめぐる意見対立が、習氏の逆鱗に触れたのであろう。習氏は、軍部でも「絶対権力」を確立しなければならない。そういうさしせまった焦りが、今回の粛清の裏に隠されている。(つづく)
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