勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    EV業界はSOS状況

    同型タイプで過激競争

    模倣が生んだ傍流技術

    中国の特技は大量生産

     

    中国は、不動産バブル崩壊後の産業政策で、EV(電気自動車)を目玉にして全力疾走してきた。ガソリン車の国際競争力はないが、EVであれば安価な電池で勝負できると踏んだ結果だ。この思惑は的中した。中国は、2023年に輸出台数で日本を抜き、25年の世界累計販売台数でも日本を抜いて初めて世界首位に立った。この原動力は、安い電池がEV生産コストを抑えたのだ。

     

    EVコストでは、電池が平均(中型)で全体の35~45%も占める。小型EVは、40〜45%。高級EVが、30〜35%である。それだけに、電池コストをいかに切下げるかが競争のポイントだ。この点で、中国は技術の本流を歩まずに「近道」を選んだのである。つまり、中国は傍流技術の「LFP電池」によって、本流の「三元系」よりも30~40%も低コストを実現した。中国全体が、このLFP電池で大増産号令を掛けて、世界のEV競争へ打って出たのである。

     

    LFP電池は、なぜ安いのか。原料が地球上に豊富な鉄やリンであるからだ。一方、本流技術とされる三元系は、原料に高価なニッケル・コバルト・マンガンを使用する。この原料コスト差が、中国EVの低価格を実現して、急速な伸びを実現させた。だが、LFP電池は亜流技術であるという根源的問題を抱えている。三元系は、次世代電池の「全固体電池」へ技術的に繋がるのだ。その点で、LFPは全く遮断されている。中国は、EVの短距離競走を勝ち取ったが、中・長距離競争で日本へ敗北の公算が大きいのだ。

     

    EV業界はSOS状況

    冒頭から、いささかショッキングな話題を提供した。中国EVの技術的弱点を明らかかにしたいからだ。中国EVは今、「ドングリの背比べ」同様に、深刻な低価格競争に陥っている。営業利益率が、自動車業界の「レッドライン」とされる5%を割る状態だ。中国自動車業界の営業利益率が、2026年1〜2月に2.9%まで落ち込み、過去最低水準を更新した。25年営業利益率は、4.1%であった。現状は、17年の7.8%からみると6割強の落ち込みとなった。中国自動車業界は、まさに「SOS」状況にある。

     

    こうした、危機的状況に陥っている理由は何か。中国EVを支えてきた補助金が、削減方向にあることが大きな理由である。

     

    1)中央政府の「直接補助金」は終了(2022年末で打ち切り)したが、税優遇(購入税50%免除)でソフトな支援に移行している。これは、低価格EVをふるい落とす方向への政策転換とみられる。

     

    2)地方政府は、地元メーカーを守るため、独自の補助金を継続している。地方財政が苦しいにもかかわらず、EV支援を止められない理由は、雇用確保と「増値税」(消費税)確保が目的である。

     

    3)EVメーカーは、補助金縮小に伴って価格競争が激化している。今年1~2月の営業利益率が2%台へ低下した背景でもあり、過当な価格競争である「内巻(ネイジュアン)」がさらに深刻化する気配をみせている。

     

    4)消費者の大半は、すでに2025年末に駆け込みによって購入を済ませている。それだけに、26年の補助金縮小による販売急減が危惧されている。

     

    以上を要約すると、補助金で育てられてきた中国EVが、需要を先取りしてしまったという限界点に突き当たっている。補助金政策の最大の問題は、新規需要を掘り起こすよりも、需要先取りであることだ。補助金が終われば、「元の木阿弥」になる。

     

    皮肉なことに、補助金縮小が中国EVを淘汰させる事態を引き起すことだ。その結果、低価格EVメーカーから連鎖倒産が始まるであろう。購入税免除が、2026〜27年にこれまでの100%が50%へと縮小される。下取り補助は継続するが、金額は上限2万元(約2.8万円)に固定する。つまり、補助金は、「縮小しつつ延命」という先細り状態が必至となっている。

     

    これは、低価格EVにとっては致命的となる。低価格EV(10〜15万元帯:約230万~345万円)が最も打撃を受ける場面だ。価格の12〜15%が補助金で支えられていたため、補助金縮小によって利益が消える計算である。以上の説明を通して、中国EVが巧妙な補助金網によって支えられていることが分かる。政府補助金が守って来たEVだけに、補助金縮小は即赤字化をもたらす脆弱構造である。こうして、営業利益率はさらに悪化の方向にある。

     

    補助金縮小の裏には、地方政府の財政悪化がある。原因は言わずと知れた不動産バブル崩壊後遺症による地価下落である。北京や上海ですら、21年にピーク時から25年で3割の下落である。地方は5割以上も下落している。これに伴う土地売却益の減少状況は次の通りだ。土地売却益のピークは、21年1~2月である。これが、不動産バブルの頂点であった。今年1~2月期の土地売却益は、このピークから7割減である。地方政府の財政麻痺は当然だ。EV補助金カットは、不可避の情勢である。

     

    地価下落は、地方銀行の不良債権を増やしている。これが、低利益率に苦しむEVメーカーへの融資を絞る結果、倒産を増やす悪循環が始まるであろう。補助金縮小と銀行の貸し渋りによって、量的な「栄華を極めた」EVもついに終幕を迎えるほかなくなっている。

     

    同型タイプで過激競争

    中国自動車業界が、1~2月の営業利益率で3%割れという危機状態へ落込んだ。自動車業界の営業利益率は、5%以上が必須とされる。理由は、新車開発費用が賄えないからだ。この状態では、中国EVで画期的製品の登場は不可能であろう。

     

    中国EVは今後、ますます中国企業の抱える「宿命」を体現化していくことになる。中国では、「同じものを作る」という文化が存在し、産業全体を同質化させていることだ。これは、始皇帝の「農本主義」に源流がある。農業は、同じ品種で大量生産することで効率を高める。工業製品にもこれを適用しているのだ。毛沢東時代、新しい技術は全て公開されて、同一種類の製品の大量生産を目指してきた。この流れが、今も続いている。(つづく)

     

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    https://www.mag2.com/m/0001684526



    テイカカズラ
       

    中国が、台湾国民党へ「アメ」を与えた。台湾頼政権へは厳しい非難をする一方で、野党国民党へは手厚い配慮をしている。習政権は、台湾最大野党・国民党の鄭麗文主席(党首)の訪中終了に合わせて、観光規制の緩和、「健全な」テレビドラマの放映容認、食品販売の促進など、台湾に対する新たな10項目の措置を発表した。中国は、露骨に台湾政治へ介入している。

     

    国営新華社通信が公表した10項目の措置には、国民党と中国共産党の定期的な意思疎通の仕組みの確立、双方間の航空便の全面再開、上海市と福建省の住民による台湾への個人旅行の許可を「模索する」内容が盛り込まれた。食品・水産物の検査基準緩和の仕組みも設ける。ただし、「台湾独立に反対する」という政治的基盤が前提条件となる。

     

    台湾頼政権は、これらの10項目について政府間の話合いでない以上、「架空」の話という扱いだ。実効性ゼロである。これほど中国のメンツ丸潰れの話もないがやむを得ないことである。政府間という公的ルートでないから「それだけのこと」だ。

     

    今回の措置は、台湾国民党党首・鄭麗文氏の訪中に合わせて発されたもので、公的な取り決めではない。政治的成果を狙ったアドバルーンである。これによって、国民党に「成果」を与える目的であることはあきらかだ。台湾国内で「国民党なら中国と話せる」という印象を作って、民進党政権を相対的に弱める政治的意図が露骨に出ている。

     

    効果は、極めて限定的であろう。中国は過去にパイナップル輸入停止など恣意的な経済制裁を繰り返してきた国だ。台湾の一般市民の反応は冷ややかである。「どうせまた気に入らなければ止める」、「政治的条件付きのは信用できない」、「中国の観光客依存は危険」といった認識が、台湾社会に広く浸透しているのだ。

     

    台湾の若者は、特に反発している。台湾の若い世代は、民主主義、自由、台湾アイデンティティを重視しており、 中国の「懐柔策」は逆効果になる。

     

    中国は現在、経済減速、外資流出、国際的孤立の進行、米国の対中包囲網強化 という四重苦に直面している。その中で、台湾問題だけは「柔らかいカード」を使う余地があると判断したのであろう。つまり、軍事圧力だけでは台湾を動かせない以上、経済・文化の「懐柔」に切替えたものだ。しかし、台湾はもう懐柔される時代ではない。台湾社会は、香港の変貌やかつてのパイナップル禁輸問題。それに、日常化している軍事圧力を見ており、 中国の「飴と鞭」戦略を完全に見抜いている。そのため、今回の措置は「政治的演出」以上の効果は出ないというのが現実だ。中国の措置は「新国共合作」的な政治演出である。

     

    中国の対台湾政策が、なぜ効果を失ったのか。

     

    1)中国の政策には、常に「飴と鞭」が用意されている。鞭がバレたら経済優遇(飴)不満が出たら制裁(パイナップル・魚介類・観光客停止)というパターンの繰り返しである。この結果、「中国に依存すると、いつでも締め上げられる」という学習が台湾社会に定着している。

     

    2)香港の「崩壊」が決定打になったことだ。「一国二制度」の約束が香港で反故にされたことで、台湾人は「香港ですらああなるなら、台湾はもっとひどい」と確信した。以後、「平和統一」や「経済融合」の言葉は完全に説得力を失った。

     

    3)軍事威嚇と懐柔策を同時にやる矛盾である。ミサイル演習・軍機の越境・サイバー攻撃。一方では、観光緩和・ドラマ解禁・経済優遇を同時にやろうとしている。これは、「殴りながら、笑顔で握手を求めてくる」状態で、信頼を完全に破壊した。

     

    4)台湾の世論が中国をどう見ているか(世代別)。若い層ほど「中国=リスク」、年長ほど「中国=複雑」という反応をみせている。

     

    高齢層(〜60代後半)は、中国を「同じ民族」「商売相手」と見る感覚がまだ残っている。ただし香港・ウクライナ問題以降は、「統一歓迎」が急減した。国民党支持層でも「統一は現実的でない」が主流である。

     

    中年層(30〜50代)は、経済的には中国と付き合ってきた世代である。しかし、子どもの世代の将来を考えると「民主主義は手放せない」という意識が強い。「中国とビジネスはするが、政治的には距離を取る」が基本姿勢である。

     

    若年層(10〜30代)は、物心ついたときから「台湾=民主主義」「中国=威圧」の構図に染まっている。香港の映像・ネット世論・ポップカルチャーを通じて、中国を「別世界」と見ているのだ。「中国に行きたい」より「日本・欧米・東南アジアに行きたい」が主流である。中国の懐柔策は、若者ほど逆効果になりやすのが現状だ。

     

    中国は、香港で「一国二制度」を破棄するという背信行為を行ったことで、台湾の信頼は地に墜ちている。この状態で「国共合作」を行ったところで、波及効果はゼロだ。自ら蒔いた種に苦しむであろう。

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    米国とイランは11日、パキスタンで長時間の協議を行ったが、戦争終結に向けた合意に至らなかった。バンス米副大統領は12日朝、イランが核兵器を追求しないとの確約を示さなかったため、交渉団は合意を得ずに帰国すると記者団に語った。イラン外務省の報道官は、1回の交渉で相違が解消されないのは普通だとし、追加協議の余地を残す姿勢を示唆した。米国は「物別れ」を強調し、イランは「継続」を主張している。仲介役のパキスタンも「継続」である。米国の物別れ発言は、交渉術の一環とみておくべきだ。

     

    イランにとっては、バンス副大統領が出席していることは「願ってもない」チャンスである。これまで、米国との交渉パイプのなかったイランにとって、絶対に手放せない貴重なルートである。イランが、この機会を外したならば二度とめぐり来ないだけに、辛抱強く交渉を続けるであろう。数千人の死者を出し、世界的なエネルギー供給を混乱させている6週間の戦争が、何らの解決策も見いだせないとなれば、米国とイランの双方に「深い傷」を残すだけとなる。

     

    『ブルームバーグ』(4月12日付)は、「米国とイラン、戦争終結に向けた合意に至らず-戦争の行方に不透明性」と題する記事を掲載した。

     

    ホルムズ海峡は依然として主要な争点の一つだ。2月末に米国とイスラエルが戦争を仕掛けて以来、イランは世界の石油および液化天然ガス(LNG)供給の2割が通過していたホルムズ海峡の往来を事実上停止させ、いまやその支配を主張している。

     

    (1)「バンス氏はイスラマバード出発に際し、「合意の不成立は米国にとってよりも、イランにとってはるかに悪い知らせだ」と主張。「われわれは極めてシンプルな提案を置いていく。これが米国の最終的かつ最善の提案だ。イランがこれを受け入れるかどうか、様子を見ることになる」と、バンス氏は続けた。イラン外務省のバガエイ報道官は、双方が様々な問題について理解に達したものの、「23の重要な点」でなお見解の相違が残っていると述べた。「当然、最初から1回の会合で合意に達すると期待すべきでなかった」と同報道官は会談後に国営テレビで語り、「外交に終わりはなく」、イランは「いかなる状況下でも国益を追求し続ける」と付け加えた。

     

    米国は、11月の中間選挙を控えている。いつまでも戦争を長引かせられない事情がある。となれば、今回の「物別れ発言」は、駆け引きと読むべきであろう。「米国は決裂を宣言し、イランは継続を強調する」という非対称メッセージは、交渉が完全に終わったことを意味せず、次の局面への布石とみられる

     

    1)米国の「決裂」宣言は、圧力カードの再提示である。これは、核問題での「明確なコミットメント」を引き出すための圧力強化であろう。イランが、「譲歩しなければイランが損をする」という構図を国内外に示すことだ。トランプ政権は、「すでに勝利した」と主張し、交渉の主導権を維持する。つまり、米国の「決裂」は交渉を終わらせるためでなく、交渉を有利に進めるための戦術的メッセージであろう

     

    2)イランの「継続」宣言は、時間稼ぎと体面維持である。イラン外務省は、「進展はあったが、23の重要事項で隔たりがあった」、「外交は終わらない」と述べている。イランの本音は、即時決裂が国内的に「敗北」となるため避けたい。交渉継続を示すことで、制裁緩和や軍事圧力の低減を期待する。2週間の停戦期間を最大限利用し、軍事・外交の再調整を行うのであろう。イランは「継続」を掲げることで、体面を保ちながら次のラウンドに備える構えと読める。

     

    3)次の局面では「再交渉」に向けた水面下調整が予測される。パキスタンは、引き続き仲介に意欲的である。双方とも「完全決裂は望まない」こと。2週間の停戦期間中に、非公開チャネルで妥協点を探るであろう。

     

    4)イランが「部分的譲歩」を提示すれば、米国が受け入れる可能性もある。核問題での「曖昧な保証」、ホルムズ海峡の管理を「協調的」と表現する妥協案、米国は「勝利宣言」を維持しつつ、実質的な合意に進むことだ。

     

    イランにとっては、仮に不満足な結果になったとしても、米国との直接交渉の機会を生かして今後の成果に結び付ける機会にするであろう。ロシアや中国を相手にした「反米グループ」に止まっても将来の展望が開けないことを熟知しているからだ。言葉は悪いが、イランは米国へ「食らいついて離さない」ほどの執念を持っているとみられる。米国を敵にした結果、イランは経済的にどれだけ辛酸をなめさせられてきたか。経済的に疲弊の極にある現在、今回の戦争を機会に脱出の方向を探っているであろう。

     

    (2)「今回の協議を仲介したパキスタンは、「建設的」な話し合いだったとし、双方に停戦維持を呼びかけた上で、今後数日間も仲介を続けると表明した。イスラエルの安全保障内閣のメンバー、ゼエブ・エルキン議員は12日、停戦期間はまだ終了していないとし、「さらなる協議を生み出す試みが行われる可能性がある」と述べた」

     

    パキスタンが、引き続き仲介の意欲をみせている。これは、交渉に出席した結果、「合意可能性」を察知したのだろう。

     

    (3)「バンス氏は「核兵器を追求せず、迅速な開発を可能にする手段も求めないという明確な確約が必要だ。それが米大統領の中核目標であり、われわれは交渉を通じてその達成を目指してきた」と説明した。米シンクタンク、大西洋評議会で南アジアを専門とする上級フェロー、マイケル・クーゲルマン氏は、交渉への政権幹部の参加は和平合意を見いだそうとする米国の真剣さの表れだと指摘、解決に向け措置が講じられる可能性が高いとの見解を示した。「米国は国内政治的な理由から、戦争から撤退できるような合意を望んでいる」とクーゲルマン氏はXに投稿。「バンス氏はあのように発言したが、これで終わりではないだろう。さらなる交渉はあり得る」としつつ、それがパキスタンなのか他の場所になるのかは不明だと記した」

     

    ここで、新しいニュースが入ってきた。米国が、ホルムズ海峡の封鎖宣言をしたこだ。米国が、交渉主導権を握る目的である。これによって、「交渉の主導権は米国にある」、「イランは米国の条件を無視できない」というメッセージを世界に示すためだ。交渉の力関係は、一気に米国側へ傾ける狙いであろう。米国は、交渉を妥結させる強い意志を示した。

     

     

    中国は、これまで景気下支えの「即効薬」としてインフラ投資を多用してきたが、これもついに過剰投資となった。都市鉄道経営が赤字に陥っている。日本で言えば、「廃線候補」路線が増えているのだ。後先を考えずに、その年のGDP成長率を下支えすれば良いという目的で続けてきた都市鉄道建設が、ついに赤字状態へ落込んだのである。

     

    『東洋経済オンライン』(4月12日付)は、「中国の都市鉄道『城軌』の建設投資が5年連続縮小の深層/大部分の路線が赤字で経営の持続困難という"異常事態"」と題する記事を掲載した。この記事は中国『財新』の転載である。

     

    中国では各地の大都市が競うように城軌を建設したが、それら多くが深刻な赤字に陥っている。中国で「城軌(チョングイ)」と呼ばれる都市部の鉄道や地下鉄の建設投資が縮小し続けている。

     

    (1)「業界団体の中国城市軌道交通協会(城軌協会)が3月31日に公表した年次レポートによれば、2025年の投資総額は前年比13.4%減の4114億1600万元(約9兆5400億円)と、5年連続の前年割れを記録した。また、フィージビリティースタディ(事業化調査)の段階にある新線の建設プロジェクトのうち、25年末時点で(所管当局の)認可を取得済みの投資計画の総額は約3兆4000億元と、24年末時点より14.3%減少した。(訳注:「城軌」は都市部の通勤・通学などに利用される「城市軌道交通」および近隣都市間を結ぶ「城際軌道交通」の略称)」

     

    中国都市鉄道の投資総額は、5年連続で前年割れを記録した。不動産バブル崩壊と軌を一にしている。需要が減っているからだ。

     

    (2)「その背景には、各地の城軌が抱える財務上のサスティナビリティー(持続可能性)の問題がある。上述のレポートによれば、中国全土の城軌における25年の営業収入は車両走行1キロメートル当たり平均18.07元(約420円)と、前年より1.69元増加した。しかし、同年の営業コストは同35.28元(約820円)と同2.07元増加。コストの総額も増加幅も収入を大きく上回った」

     

    中国全土の都市鉄道は25年、営業収入は車両走行1キロメートル当たり平均約420円に対して、営業コストは約820円とほぼ2倍の赤字である。これでは、いずれは廃線である。都市交通という日常の通勤通学の足がこういう状態では、地方の交通機関はさらに赤字であろう。不動産バブルで得た土地売却益が萎んだ現在、もはや従来のような路線建設は不可能になった。

     

    (3)「旅客1人当たりの収支で見ても、25年の営業収入が1キロメートル当たり平均0.92元(約21円)だったのに対し、営業コストは同1.63元(約38円)に上り、大幅な赤字に陥っている。城軌協会の説明によれば、関連業界には長年にわたって複数の矛盾が蓄積し、日に日に深刻化している。それらは城軌建設の公益性と市場原理(に基づく採算性確保)の矛盾、先行投資の大きさと資金回収(期間の長さ)の矛盾、さまざまなステークホルダーの便益とコスト負担の矛盾などであり、新たな城軌は「建設できるが維持できない」のが実態だという」

     

    25年の旅客1人当たりの収支では、1キロメートル当たりの営業収入が平均約21円。営業コストは同約38円である。中国の公共交通機関の運賃は割安に設定されている。土地が、国有で建設総費用が低いという事情はあるにしても、収支が大幅な不均衡である。これからは原油高騰の悪影響も加わる。最終的には、運賃値上げでしか路線は維持できない状況である。

     

    (4)「中国政府は、新線建設の甘い需要見積もりや過剰スペックを問題視し、許認可のハードルを引き上げている。にもかかわらず、各地の城軌の営業距離は伸び続けている。城軌協会のデータによれば、中国全土の城軌の総営業距離は25年末時点で約1万3000キロメートルと、1年前より約900キロメートル増加した。それに対し、25年の平均輸送密度(1日・1キロメートル当たりの旅客輸送人員)は5800人と、前年比5.6%低下。このことは、新規開通および開通から日が浅い城軌の利用者数が想定を下回っていることを示唆する」

     

    1日・1キロメートル当たりの旅客輸送人員は25年に、前年比5.6%の低下となった。人口減が、影響している。こうなると、運賃値上げではカバーできないことになる。究極的には、都市鉄道が過剰建設された結果だ。中国は、どこを向いても「過剰」の二字が充満している。


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    3月の卸売物価指数(PPI)は、前年同月と比べて0.%上昇した。2022年9月以来、3年6ヶ月(42ヶ月)ぶりにプラスに転じた。イラン情勢の悪化により、原油や原材料価格の高騰が影響した。中国は、世界最大の原油輸入国である。その影響が、大きく出たものだ。

     

    英誌『エコノミスト』(4月4日号)は、今回のイラン戦争の勝利者は中国であり、敗者は米国と位置づけている。だが、最大の原油輸入国の中国と最大の原油輸出国の米国を比較して、余りにも単純な比較をしており、結果は逆になることを窺わせている。中国は、不況下の物価高(スタッグフレーション)の危険性に直面しているのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(4月11日付)は、「中国の卸売物価、30.5%上昇 原油高で36カ月ぶりプラス」と題する記事を掲載した。

     

    中国国家統計局が、10日発表した3月の卸売物価指数(PPI)は、前年同月と比べて0.%上昇した。2022年9月以来、36カ月ぶりにプラスに転じた。イラン情勢の悪化により原油や原材料価格の高騰が響いた。

     

    (1)「業種別にみると石油・天然ガスは5.%上昇した。前年同月を上回るのは24年7月以来となる。非鉄金属の上昇率も2月から拡大して全体のプラスに寄与した。産業構造の川上と川中にあたる製品をまとめた生産財は1.%上がり、マイナスに落ち込んだ2月から上昇した。国家統計局は、「国際的な要因が国内関連産業の価格上昇に影響した」と説明した」

     

    中国の生産者物価指数の急上昇は、「中国が最も恐れるスタッグフレーション・リスク」の現実化が始まった可能性を示唆している。中には、理由はともかく物価が上がってよかったと暢気なことを言っている向きもいるが、そういう状況ではない。需要が増えた結果の物価上昇であれが「吉兆」と言えるが、高い失業率と長期の不動産不況による地価下落の中での物価上昇である。暢気に構えている訳には行かないのだ。

     

    (2)「同時に発表した3月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月を1.%上回った。ガソリンなど交通燃料の価格が3.%上がり、家計も資源高に直面する。中国人の食卓に欠かせない豚肉は1割超下落するなど、CPI全体の伸びは2月から鈍化した。主要国の中央銀行が物価の趨勢を判断する際に重視する「食品とエネルギーを除くコア指数」の伸びは1.%と、2月の1.%から縮小した。ロイター通信によると中国人民銀行(中央銀行)の金融政策委員会のメンバーを務める黄益平氏は「最も懸念しているのは原油高が企業収益を圧迫することだ」と指摘した。企業の経営悪化が経済減速を招き、物価上昇と合わせて対応が求められるとの見方を示した」

     

    今回の物価上昇は、景気後退局面置いて起こっていることである。今回のような生産者物価指数急騰(コスト上昇)が重なると、次の連鎖が起こることに注意しなければならない。

    1)企業コスト上昇は、利益を圧迫するので雇用削減へ波及する。これが、設備投資を縮小させるのだ。

    2)価格転嫁ができない結果、コストアップになる。消費が弱いため、企業は値上げできず、利益がさらに悪化する。これが、設備投資を抑制する。

    3)生活コスト上昇を招く。CPIが上昇へ転じ、家計がさらに消費を抑制するようになる。

    4)景気後退+物価上昇。こうして、典型的なスタッグフレーションが起こる。これは、中国政府が最も恐れるシナリオである。弱り目に祟り目の中国経済が、さらに引きずり下ろさせることになろう。

     

    今回のPPI上昇は「一時的」現象ではないと危惧されている。それは、原油高だけでは説明できないと指摘されている。『ブルームバーグ』によれば、次の通りの上昇上である。

    石油加工    +.%

    化学原料    +.%

    化学繊維    +.%

    非鉄金属採掘  +.%

    これは供給制約+原油高+中下流の価格転嫁が同時に起きている証拠である。さらに、原油現物価格が高止まりすれば、PPIは45月に2%近くまで上昇する可能性が予測されている。そうなると、中国GDPはハッキリと下降線を強めるであろう。

     

    中国が、最も恐れているのは、次の点である。

    中国は、「不況下の物価上昇=政権基盤の動揺」という事態が懸念されることだ。これは社会不安・雇用不安を増幅するので、さらに人民元の下落圧力が強まり、資本流出が加速するという「負の連鎖」が起こりかねない。中国が、今回のイラン戦争で米国より有利などと高をくくっていると、大逆転を喰うことになろう。

     

     

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