勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国は、労働者不足が深刻になっている。国内で若者が就職失業を余儀なくされている一方で、こういう労働のミスマッチが起こっている。これをカバーすべく、海外へ労働力を求めているが、韓国政府は来年度の外国人労働者支援センターの予算を全額削減した。財政赤字削減策の一環である。アジア8カ国から反発を受けているのだ。 

    『ハンギョレ新聞』(12月1日付)は、「アジア8カ国、韓国政府に『懸念』を公式書簡で伝える」と題する記事を掲載した。 

    韓国政府が来年度の外国人労働者支援センターの予算を全額削減したことを受け、韓国と雇用許可制協定を結んでいるアジア諸国が、韓国政府にセンター閉鎖に対する懸念を伝える公式文書を送ったことが確認された。

     

    (1)「11月29日のハンギョレの取材を総合すると、雇用労働部は9月末、韓国と非専門就業ビザ協定を締結したアジア諸国から、外国人労働者支援センターの予算削減に関する書簡を受け取った。韓国政府が国会に予算の全額削減案を提出してから2週間ほどが経過した頃だ。雇用労働部の関係者は「アジア8カ国の大使館が、支援センターの予算削減の話を聞き、書簡を送ってきた」としたうえで、「懸念の表明というよりは、『説明を聞きたい』という内容だった」と述べた」 

    韓国政府は、拙い立場になった。アジア各国から労働者を派遣してもらっているにもかわわらず、関連予算を削除したことは、外国人労働者への保護意思がないことを示すようなものであるからだ。 

    (2)「その文書には、支援センター閉鎖の理由、他の代案はあるのかに対する質問などが含まれていたという。しかし、書簡を送ったあるアジアの国の大使館関係者は、「懸念を示したものだというのが正しい」と述べた。支援センター閉鎖についての話を聞き、韓国と非専門就業ビザ協定を結んだアジア16カ国の大使館の労務官が集まって議論した結果、「問題がある」という結論を出したということだ。韓国と非専門就業ビザ協定を結んだ国は、ネパール、東ティモール、ラオス、モンゴル、ミャンマー、バングラデシュ、ベトナム、スリランカ、ウズベキスタン、インドネシア、中国、カンボジア、キルギスタン、タイ、パキスタン、フィリピンだ。このうち、韓国政府に直接公文書を送ることにまで同意した国家は8カ国だった」 

    韓国と非専門就業ビザ協定を結んだアジア16カ国の中に、中国が含まれていることに注目すべきだ。米国の覇権を狙うと大言壮語してきた中國が、韓国へ労働者を派遣しなければならないほど国内に雇用が不足しているのだ。

     

    (3)「外国の大使館が、駐在国の政府の予算案に対して集団で意見を示すことは異例なことだ。国の名前が出てくることを望まない韓国駐在のあるアジアの国の大使館関係者は、私たちが公式に韓国政府の政策について文書を送ることは非常にまれなこと」だとしたうえで、「それほど、支援センターがなくなる可能性があるという問題に対する心配が強かった」と述べた。「単純な質問」だったとする雇用労働部の立場に対しては「理解できない。私たちははっきりと反対意見を入れた」とした」 

    日本でも、外国人労働者が派遣された先によっては酷い扱いを受けている。最近、山梨県で起こったのは、日本語を話せないという理由で解雇され、宿舎からも追い出され「無宿者」になった痛ましい例がある。幸い、ボランティアによって救済された。韓国でも、こういう事例が起きないように予算措置を講じておくべきだ。 

    (4)「外国人労働者の規模は増やすのに支援をなくす韓国政府の移住民政策に対する不安も強かった。これに先立ち、韓国政府は11月27日、来年の雇用許可制の外国人材導入の規模を、今年より4万5000人増の16万5000人に確定した。非専門就業ビザの発行対象も外食産業にまで拡大した。また、別の韓国駐在のあるアジアの国の大使館関係者は、「韓国に来る労働者の数は増え続けるはずなのに、相談の需要をどのようして負担しようとしているのか分からない。韓国政府は予算がないと言うが、たんに支援する気がないのではないかと疑っている」と述べた。韓国政府が削減した全国40カ所あまりの外国人労働者支援センターの予算は、2023年時点で71億800万ウォン(約8億1000万円)だった

     

    韓国政府は、文政権時代の赤字垂れ流しの後始末を迫られている。IMFがまとめた「財政点検報告書」によると、23年54.3%が予想される韓国GDP比の一般政府債務比率は、5年後の2028年には57.9%になると予測した。この比率は、非SDR通貨国11カ国のうち、2番目に高い水準へ上昇する。つまり、ワースト2位である。韓国政府は、こうした苦境下で、8億円といえども「全額カット」したのだろう。 

    (5)「移住労働者を「安く使う労働力」程度にしかみない韓国政府の態度に、国内外のアジア人の世論が悪化しているという指摘も出ている。タイのバンコクで公務員として働くノイさん(44)はハンギョレに、「タイ人のほとんどは合法的に働きに行き、韓国の劣悪な労働環境のために不法になる。最近、ユーチューブで韓国の警察がタイ人を暴力的に扱う様子が取り上げられ、国民感情はあまりよくない」と語った。ベトナムのハノイの韓国系企業で働いていたホン・ニュンさん(28)は「最近のベトナムの人たちは、韓国で働くのを好まない。仕事をする環境がはるかにいい日本になんとかして行こうとする」と述べた」 

    下線のように、韓国で働くよりも条件の良い日本を選択しているという。韓国も苦しい予算の中で、長い目で見た予算編成が求められている。

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    中国国家主席の習氏は、経済政策の的を間違えている。インフラ投資重視によって、国民の生活上の信頼感を得られるとみているのだ。インフラ投資は、景気刺激効果が落ちている。債務を増やすだけである。14億人の国民が、生活への自信を取戻すには、インフラ投資にだけ頼る訳にいかないのだ。中国経済を復活させる手がかりは唯一、国民に生活上での安心感を与えることにある。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(12月1日付)は、「中国経済の悪循環 断つすべはあるのか」と題する記事を掲載した。

     

    中国は恐らく、労働市場と消費者心理の改善なくして崩壊した住宅市場を立て直すことはできないだろう。だが、消費者の活力や労働市場の好調もまた、住宅部門の健全さに依存している。政府がこの悪循環を断ち切る方法を見つけるまでは、中国のさえない景気回復は続くとみたほうがよさそうだ。

     

    (1)「2023年の中国の成長は今なお一定しない。中国国家統計局が11月30日に発表した同月の購買担当者指数(PMI)はそれを痛感させるものだった。 建設業PMIがわずかに上昇した一方で、製造業とサービス業のPMIはさらに低下した。サービス業PMIは活動の拡大・縮小の分かれ目である50を今年初めて割り込んだ。経済成長は夏の終わり頃に一時改善したが、すでに息切れしているようだ。製造業の問題の一部は海外にある。サブインデックス(副指数)の新規輸出受注指数は0.5ポイント低下して46.3となり、今年最低だった7月の水準に逆戻りした

     

    下線部の新規輸出受注指数が、11月は0.5ポイント低下である。広州の貿易交易会での商談が不発に終わったことを示している。

     

    (2)「特にサービス業では、新型コロナウイルス流行中の消費者信頼感、借り入れ、雇用見通しの著しい悪化がいまだ回復への大きな障害となっている。家計は2021年末の住宅市場崩壊と「ゼロコロナ」政策に基づく22年のロックダウン(都市封鎖)という残酷なワンツーパンチを食らい、まだ立ち上がれていない。これらの要因が雇用市場と、家計にとって重要な富の源泉である住宅市場の致命傷になったも同然だ。

     

    ゼロコロナ期間の家計圧迫が現在も続いている。先進国は、家計へ現金を給付して購買力の直接支援をした。中国は、インフラ投資だけである。この差が、中国家計において信頼感低下として現れている。中国家計は、疲弊仕切っているのだ。国有企業が、インフラ投資で潤っただけである。

     

    (3)「振り返ってみると、21年末から22年初めの時期がいかに重要だったかが明白になる。サービス業の雇用は20年初めからすでに比較的低調だったが、21年初めは建設業の雇用、家計の借り入れ、信頼感はいずれも高水準にあった。21年終盤にはこの3つ全てが下降トレンドに転じ、上海などの主要都市のコロナ流行を受けて政府が経済の大部分を停止させた後の22年初めには、救いがたいほどの水準に落ち込んだ」

     

    現在の家計借り入れや信頼感は、大きく落ち込んでいる。この背景には、雇用状態の悪化がある。中国では、失業率が景気のバロメーターにはならず、製造業やサービス業のPMIの雇用状況を見るほかない。

     

    (4)「その後遺症は長引いた。2021年9月以降のサービス業と建設業の雇用に関するサブインデックスの平均は、それ以前の5年間の平均をそれぞれ1.4ポイント、4.3ポイント下回っている。コンサルティング会社ガベカル・ドラゴノミクスによると、23年の名目家計所得の伸びは約6%にとどまる。2017、18、19年と21年はおよそ9%だった。消費者信頼感と借り入れは、コロナ前のすう勢をはるかに下回る水準で推移している

     

    名目家計所得の伸び率は、従来の9%が23年に6%へ鈍化している。コロナ前の趨勢を下回っている。これでは、消費者信頼感が高くなるはずがない。景気停滞の元凶はここにある。

     

    (5)「理由はいくつかあるが、重要な点は以下に集約される労働市場の深刻な状況が続く限り、家計は借金したり住宅を購入したりする気になれず、不動産開発業者の財務に対する信頼も低い。だが、住宅部門が回復しない限り、労働市場の足場も安定しないだろう。なぜなら住宅部門は建設労働者だけでなく、不動産仲介や家具販売にかかわる人々、トラック運転手、技術者、その他多くの人々に対し、直接的または間接的に多数の雇用を提供しているからだ」

     

    住宅部門の回復がない限り、労働市場の安定はない。これが、消費者信頼感を引下げており、消費も回復しないのだ。となると、住宅部門の未完成工事をどうやって完成させるかが、景気対策の基本になる。中国指導部は、この肝心な部分を行わないで、道路や橋の建設ばかりに夢中になっている。的外れである。 

     

    (6)「政府が、何らかの形で不動産開発業者の大がかりな救済に乗り出さない限り、経済がこのわなから効果的に逃れられるとは考えがたいしかし、ここ数年は住宅市場での投機や不動産業者の放漫経営を律することが政府のスローガンのようになっており、救済は政治的に至難の業だ。大規模な金融危機が起きない限り、最も抵抗に遭いにくいのは、遅々とした足取りで前進し続けることなのかもしれない」

     

    政府は、住宅の未完成工事を優先して完成させなければ、民心が安定しないだろう。この微妙な点が、習氏は理解できずに堂々巡りをしている。

    テイカカズラ
       


    日韓通貨当局が12月1日、100億ドル(約1兆4800億円)規模の通貨スワップ協定を締結した。ウォンと円をやりとりする方式ではなく、全額ドル交換ベースで行われるという。日韓通貨スワップ協定が復元されたのは8年ぶりである。

     

    日韓通貨スワップの実質は、日本による韓国への信用補強である。日本には、米ドル資金調達において日米通貨スワップ協定が存在する。この協定は、期限・金額が無制限で実施されるので、日本が韓国に対して米ドル資金調達で要請を行う必要は全くないのだ。こういう意味で、日本が韓国との通貨スワップ協定を結ぶメリットは無い。日韓間の貿易の大半は、「円建て」で行われている。韓国ウォン相場の不安定化が起こっても、日本企業に与える直接的な影響は限定的である。


    日韓通貨スワップ協定は、2001年から14年まで継続されたが延長されなかった。理由は、韓国による竹島不法占拠やウィーン条約違反である日本大使館、領事館前の慰安婦像撤去を約束した合意を履行しないことが政治的摩擦を引き起こしたもの。そういう経緯がありながら、今回の復活は日本が過去のいきさつを水に流す大乗的見地による。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月12月1日付)は、「日韓が通貨スワップ協定再開、8年ぶり融通枠100億ドル」と題する記事を掲載した。

     

    日本と韓国の両政府は1日、金融危機の際に通貨を融通し合う通貨交換(スワップ)協定を締結した。協定は2015年に失効しており、8年ぶりの再開となる。融通枠は100億ドル(およそ1兆4800億円)で、期間は3年に設定した。6月に都内で開いた経済・金融問題を協議する閣僚級の「日韓財務対話」での合意に基づき結んだ。

     

    (1)「協定は、金融危機などの際にどちらかの国で足りなくなった外貨をもう一方が支援する。主にドルを対象とする。供給を受けて自国の通貨を買い支えて過度な下落を防ぐ対応がとれる。1990年代後半のアジア通貨危機をきっかけに、当初は韓国を支援する枠組みとして2001年に運用を始めた。日韓の関係悪化で15年に失効した。3月に韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が来日し、首脳が相互に訪問し合う「シャトル外交」の再開で一致した。協定再開への機運が高まっていた」

     

    日韓両政府が政治面での関係改善に続き、経済面でも蜜月を演出している。8年ぶりに再開する通貨スワップ協定は金融危機時の備えだが、現状での必要性はそれほど高くない。日韓の結びつきは、半導体の確保や観光客の往来などで強まっており、政府主導の関係改善で経済を後押しする狙いがある。

     

    ただ、将来の問題を考えると、韓国の金融構造が脆弱であることから「通貨危機」に遭遇する危機は絶無とは言いがたいのが現実である。韓国ウォン相場は、米韓金利差から米国金利に左右される通貨である。米国経済は、現在の高金利が引下げられるとしても、従来の金利に戻ることはない。となれば、韓国の人口高齢化と企業の海外脱出からみて、傾向的に金利を引下げねばならない立場だ。韓国ウォンは、慢性的に「売られやすい」通貨になるリスクを抱えるだろう。

     

    こうなると、日本がウォンの支え役という立場になることになりかねない。ただ、韓国が反日的言動を始めたら、いつでも通貨スワップ協定を切り上げる必要がある。今回の協定では3年間である。ユン大統領の任期に合わせた形だ。次期政権が右派であれば継続するが、左派になればいつでも打ち切る姿勢をみせておくべきだ。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-11-30

    メルマガ520号 韓国「空洞化経済」、貴族労組の高賃金攻勢が生んだ「金融脆弱構造」

     

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    G20の一員であるアルゼンチンのモンディノ次期外相は11月30日、新興5カ国(BRICS)に加盟しないとX(旧ツイッター)で表明した。BRICSは8月の首脳会議で、アルゼンチンを含む6カ国の新規加盟を決定していた。『ロイター』(12月1日付)が報じた。

     

    これは、中国にとって衝撃である。中国は、BRICSを基盤にして西側諸国へ対抗する遠大な計画を立てていた。BRICS加盟国を増やす計画は、中国の発案であっただけに、アルゼンチンの離脱が中国へ打撃である。

     

    『ロイター』(11月21日付)は、「中国、アルゼンチンが関係断絶すれば『重大な過ち』と指摘」と題する記事を掲載した。

     

    中国外務省は21日、同国やブラジルのような主要国との関係を断ち切ることはアルゼンチン外交の「重大な過ち」になると表明した。

     

    (1)「毛寧報道官は定例記者会見で、中国はアルゼンチンにとって重要な貿易相手国であり、アルゼンチン次期政権は中国との関係を非常に重視していると指摘。「中国は2国間関係の安定と長期的な発展を促進するためにアルゼンチンと協力し続けることに前向きだ」と述べた。リバタリアン(自由至上主義者)で右派のミレイ次期アルゼンチン大統領は中国とブラジルを批判、「共産主義者」とは取引しないとし、米国との関係強化の意向を示している。また、ロシアの通信社RIAノーボスチによると、ミレイ政権下で外相に就任する見込みのエコノミスト、ディアナ・モンディーノ氏は新興5カ国(BRICS)の枠組みに参加しない方針を示した」

     

    中国は、アルゼンチンのBRICS加盟取り止めは痛手だ。BRICS加盟決定国が、脱落することはメンツにも関わる問題である。それゆえ、中国外交部は「重大な過ち」と牽制するほかない。

     

    アルゼンチンのミレイ次期大統領は選挙運動中、自国通貨アルゼンチン・ペソを廃して、米ドルを通貨にすると過激な発言をしてきた。経済は危機的状況にあり、インフレ率は143%に達している。ドル化の魅力は明らかだ。アルゼンチンでは製造業が主要な輸入品を購入するのに十分なドルを持たず、生産を削減し、貿易金融を強化する必要があった。アルゼンチン政府は外国債権者に670億ドル(約10兆円)、国際通貨基金(IMF)に360億ドルの債務を負っている。外貨準備を使い果たして、返済のために中国から人民元を借りなければならなくなっていた。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(11月23日付)が報じた。

     

    中国は、中国圏に入るとみていたアルゼンチンが、土壇場で新政権登場によって米国を頼りにする「大逆転」が起こったのだ。

     

    『ロイター』(11月29日付)は、「アルゼンチン次期大統領、米大統領補佐官と会談」と題する記事を掲載した。

     

    アルゼンチンのミレイ次期大統領は28日、米首都ワシントンでサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)などと会談した。また同氏の経済担当者らが国際通貨基金(IMF)当局者と会談した。

     

    (2)「ミレイ氏は会談後、ホワイトハウスで記者団に「素晴らしい会談だった」とし、アルゼンチンの経済や社会状況について協議したと述べた。ミレイ氏は国内経済の立て直しに向け通貨ペソの廃止や痛みを伴う緊縮財政など抜本的な改革を訴えて今月の選挙で勝利した。国内のインフレ率は足元150%近くに達し、外貨準備もマイナスを記録、景気後退(リセッション)懸念が高まっている。外交政策では、米国との関係を重視する姿勢を示しており、主要貿易相手国である中国やブラジルには批判的だ。アルゼンチンはIMFとの間で債務問題を抱えている。ミレイ氏の経済アドバイザーは、IMF当局者と会談した」

     

    ミレイ氏は、サリバン米大統領補佐官との会談で「素晴らしい会談だった」と満足の意を示した。アルゼンチンは、G20参加国である。人口46235万人(2022年)の中堅国だ。一人当たり平均GDPは、1万3620ドル(22年)である。典型的な、「中所得国の罠」に落ち込んでいる。主要産業は、農牧業と製造業である。この経済をどのように立て直すかだ。

     

    アルゼンチンは、BRICS加盟を取り止めてまで米国との関係強化を目指している。自国通貨を米ドルに切り替えるというほどの熱の入れ方だ。インフレを治すには、為替相場を安定させる必要がある。ドル化が効果的なのは明白だ。ドルを法定通貨とするエクアドル、エルサルバドル、パナマのインフレは管理可能な水準にある。アルゼンチンが、米ドル化を目指す理由でもある。

     

    しかし、誤った為替レートを選択することは致命傷となり得る。ペソの非公式レートに基づくと、全てのペソを交換するのに必要なドルは90億ドルを超える可能性がある。アルゼンチンは、すでに債務の意返済が滞っているのに、新たに90億ドルもの資金を借りるのは不可能に思えると、前記のWSJは指摘するのだ。

     

    あじさいのたまご
       

    韓国統計局が11月30日、10月の鉱工業生産指数を発表した。季節調整済みで前月比3.5%低下した。半導体の減産を背景に、昨年12月以来最大の落ち込みとなった。このように韓国の鉱工業生産は、半導体の動向によって大きく影響を受けている。これは、半導体生産の減少をカバーできる産業がないことを意味している。これを受けて、消費・投資も前月比マイナスへ落ち込んだ

     

    『中央日報』(12月1日付)は、「韓国、生産・消費・投資3カ月ぶりに再び『トリプル減少』」と題する記事を掲載した。

     

    9月に一斉に増えた生産・消費・投資の3大指標が10月に入って再び同時に減少した。

    (1)「今年、韓国統計庁が発表した10回の「産業活動動向」でトリプル変動(増加・減少)が起きたのは今回ですでに6回目だ。昨年トリプル変動が一度だけだったのと比べると異例の状況で、それだけ景気変動幅が大きくなったものという分析が出ている。30日、統計庁が発表した「10月の産業活動動向」によると、前月比生産(全産業生産)は1.6%、消費(小売販売)は0.8%、投資(設備投資)は3.3%減少した。産業活動を示す3大指標が全て減少したのは7月以来で3カ月ぶりのことだ」

     

    韓国は、生産・消費・投資がトリプル変動している。生産の増減が、消費や投資の変動へ影響するという「底の浅い」経済ぶりを露呈している。10月は、3指標がすべて前月比マイナスに陥った。

     

    (2)「生産動向を示す全産業生産については2020年4月(-1.8%)以来3年6カ月ぶりの最大幅減少となった。8~9月連続でプラスを示し好調を継続していたが、減少に転じた。特に製造業を含めた鉱工業(-3.5%)で生産が大幅に下落し、全体生産指数を下げた。政府は半導体部門の生産減少の影響が大きいと見ている。半導体生産は8月(13.5%)と9月(12.8%)連続で二桁の増加を見せたが、10月には前月比11.4%減少した。半導体の出荷も29%減少した。統計庁のキム・ボギョン経済動向統計審議官は「半導体生産と出荷が四半期末に集中し、四半期初めには反対効果で減少する様相を見せている」と述べた」

     

    半導体の生産・出荷が、四半期末に集中している。この反動で、翌四半期初めには減少するというジグザグ模様をみせている。これは、半導体需要が弱いので、期末にまとめて生産・出荷している証拠だ。需要が旺盛ならば、期末に集中することなく期中にまんべんなく生産・出荷しているはず。いつ、こういう状態に戻るかである。

     

    (3)「政府は今回、主要構成指標が下落したのは基底効果による一時的な動向に過ぎず、景気回復の流れは続いていると線を引いた。企画財政部のイ・スンハン総合政策課長は「全産業生産が2カ月連続で1%以上増加した事例は2000年統計調査の開始以来、計12回だけだったが、このうち2回を除いて3カ月目にはいずれもマイナスを示した」とし、今回も同じ流れだと説明した。すなわち、8月(1.9%)と9月(1%)に全産業の生産が大幅に増えた分、今回もその基底効果で自然に減少せざるを得なかったという意味だ」

     

    生産は、8月と9月に増えて10月に減少している。ジグザグ模様だ。在庫調整を余儀なくされていることを意味している。韓国政府は、一時的動きとし景気回復の流れは続いているとみている。この見方は、正しいだろうか。

     

    韓国銀行(中央銀行)は11月30日発表の経済見通しで、2024年の国内総生産(GDP)の実質成長率を8月時点の2.%から2.%へ下方修正した。24年成長率の下方修正は3回連続。高金利下の景気低迷で民間消費と建設投資が振るわず、韓国経済の先行きに暗雲が垂れこめている結果だ。政府見通しは、楽観的であろう。

     

    (4)「専門家は、産業指標の変動性が大きくなった部分は憂慮すべき点だと指摘した。今年発表された産業活動動向で1・7・10月は「トリプル減少」が、2・5・9月は「トリプル増加」が続いた。統計庁の説明のように半導体の生産・出荷サイクル通りに変動幅が続いている形だ。漢陽(ハニャン)大学経済学科のハ・ジュンギョン教授は「以前はこのような流れが見られなかったのに出ているということは、他の指標が半導体の変動幅を相殺できていないということ」と指摘した」

     

    生産・消費・投資は、今年に入って1・7・10月は「トリプル減少」、2・5・9月は「トリプル増加」という判で押したような動きである。増産しても在庫増で減産するという連続で、消費や投資もこれを反映している。これは、輸出動向が大きな影響を与えている結果である。

     

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