勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国には、「転んでもただでは起きない」計算高さがある。レアアース輸出では、輸出先に最終ユーザーの「生産、運営、工程フロー」に関する情報を頻繁に要求している。経営上の秘密事項を「丸裸」にする、ビジネスモラルに反する行為を行っているのだ。かつて、中国へ進出する企業に技術情報開示を要求し、それを盗用してきた経緯がある。それだけに、レアアースでも加工技術を盗用しようとしているのであろう。「三つ子の魂百まで」だ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月12日付)は、「中国、レアアース輸出先企業に機密情報要求 知財盗用懸念も」と題する記事を掲載した。

     

    西側各国の企業によると、中国がレアアース(希土類)や磁石の輸出にあたって機密性の高い事業情報を企業に要求している。これに対し企業の間ではデータの悪用や企業秘密の漏洩への懸念が高まっている。

     

    (1)「複数の企業や中国の公式ガイドラインによると、中国商務省は重要鉱物や磁石の輸出承認手続きの一環として、製品生産の詳細情報や機密の顧客リストの提出を求めている。中国はレアアースの加工とレアアースを使った磁石の製造を支配している。これらの磁石は、電子機器、電気自動車(EV)のモーター、風力発電タービンや、戦闘機などの防衛用途に広く使用されており、中国政府は貿易相手国に対して大きな影響力を持っている」

     

    中国商務省は、重要鉱物や磁石の輸出承認手続きの一環として、製品生産の詳細情報や機密の顧客リストの提出を求めている。こういう独占的な振舞は、いずれ終る。日本が、27年1月から南鳥島深海でレアアース試験採掘業を開始するからだ。

     

    (2)「ドイツの磁石メーカー、マグノスフィアのフランク・エッカート最高経営責任者(CEO)は、中国当局が輸出承認する上で、企業に対して製品や事業に関する「機密情報」の開示を求めていると述べた。「中国が(こうした)情報を得ようとしているのは問題だ。しかも彼らは情報を盗むよりむしろ正式に取得しようとしている」と同氏は述べた。中国当局は4月初旬、米国との報復合戦のような貿易戦争の一環として、7種類のレアアースおよび関連磁石材料に対する輸出規制を強化した。この動きを受け、世界中の企業が生産維持のため資源確保を急いだ」

     

    中国は、機密情報を「盗む」のでなく、「要求」している。独占の立場を悪用したものだ。

     

    (3)「現在のレアアース輸出許可制度では、中国は外国企業に対して、事業、従業員、最終用途、生産情報に関する包括的なデータの提出を義務付けている。商務省のデュアルユース(軍民両用)輸出に関するガイドラインによると、企業は製品や設備の画像、過去の取引関係の詳細も提出するよう求められる場合がある。イタリア・フィレンツェ近郊の工場でコンサート用スピーカーを製造するイタリア企業、B&Cスピーカーズのサプライチェーンディレクター、アンドレア・プラテージ氏は、「中国は本当に多くのことを要求する」と語る」

     

    中国は、入国申請でも不必要な情報まで一切合切集めている。狙いは、今後の「スパイ行為」で利用する意図であろう。レアアース輸出でも、同じことを始めている。

     

    (4)「プラテージ氏は、B&Cの生産ラインの写真と動画、市場に関する情報、顧客名、一部顧客の注文内容(名前をぼかしたもの)を提出したと述べた。「提出するしかなかった。そうしないと申請書類は全て脇に置かれ、中国は要求情報を待つだけだからだ」とプラテージ氏は述べた。B&Cは既に2件の注文承認を受けており、3件目を待っていると同氏は付け加えた。「隠すものは何もない。我々はラウドスピーカーを製造しているだけだ」と語る」

     

    生産ラインの写真と動画まで要求するのは、技術盗用が目的である。悪質な行為である。

     

    (5)「専門家らは、中国商務省の要求が、公表されているガイドラインを越える場合があることを指摘している。匿名を条件に取材に応じた中国の輸出管理担当弁護士は、同省が最終ユーザーの「生産、運営、工程フロー」に関する情報を頻繁に要求していると述べた。英国を本拠に、各種磁石製品を提供しているマグネット・アプリケーションズのプロダクトマネジャー、マシュー・スワロー氏は、同社は4月に「最終ユーザーに関する証拠不足」を理由に申請を数回拒否されたと述べた。「現在は、製造中の磁石の写真、最終用途の詳細、最終ユーザーの顧客情報やその他の詳細などを提出している」と同氏は述べ、これにより輸出承認を数回取得できたと説明した」

     

    中国は、最終ユーザーの「生産、運営、工程フロー」に関する情報を頻繁に要求している。技術盗用目的であるとは明らかだ。

     

    (6)スワロー氏は、顧客情報の開示について「確かに懸念がある」と語る。同氏は顧客に対し、申請書に貿易や知的財産に関する機密情報を記載しないよう助言していると述べた。こうした申請は通常、中国のサプライヤーが輸出先の顧客の代理として現地の商務局に提出している。このため貿易上の秘密やビジネスパートナー情報が盗み取られるのではないかとの懸念も浮上している。中国に進出する欧州連合(EU)域内企業で組織する中国欧盟商会(在中国EU商工会議所)のイェンス・エスケルンド代表は、センシティブな業界の企業にとって、詳細な要件が輸出許可証の申請や順守を困難にしていると指摘している。「一部の申請では、使用目的を詳細に明記する必要があり、これが知的財産に関する懸念を引き起こす」と同代表は述べた」

     

    中国が、使用目的を詳細に明記させることを要求するのは、知的財産侵害懸念をもたらしている。こういう事態を放置すれば、機密情報が簡単に中国の手へ渡るのだ。

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    ニューファッショが闊歩した中国は、今や見る影もないほどの凋落ぶりをみせている。どこを向いても過剰生産だらけ。値下げ競争が一般化している。元凶は、政府の補助金が過剰設備生み出し過剰生産へつながっていることだ。政府の補助金が、不況の原因を作り出すという矛盾の構図である。これが、「新しい中国式社会主義」であるというからビックリである。

     

    『ロイター』(6月14日付)は、「中国で値下げ競争激化、デフレ長期化懸念 ブランド品は中古が人気「と題する記事を掲載した。

     

    中国の国有エネルギー企業で働くマンディ・リーさん(28)は自分へのご褒美として、たまに高級ブランドのハンドバッグを買うのを楽しみにしていた。しかし、勤務先の賃金を10%減らされ、家族が所有する不動産の価値が半分になって以来、中古品しか購入していない。

     

    (1)「5月に開店した首都北京にある「転転集団」の中古高級ブランド品買い取り・販売店を見て回っていたリーさんは、「高額品への支出を削っている」と言及。「経済は間違いなく下向きになっている。私の家族の資産は(不動産危機で)大幅に目減りしてしまった」と語った。中国経済にデフレ圧力が高まる中で、消費者の行動は一段の物価押し下げにつながる恐れがある形に変化しつつある。これによってデフレ構造が定着することへの懸念が生じ、中国の政策担当者にとっては悩みが深まる一方だ」

     

    日本社会では自宅価値に無頓着だが、中国は敏感に反応する。自宅価値の値下がりが、消費不況へ直結している。

     

    (2)「9日に発表された5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で0.1%下落した。自動車から電子商取引(EC)、コーヒーチェーンまでさまざまな業界では、過剰供給と家計需要低迷を巡る不安を背景に値下げ競争が激化している。キャピタル・エコノミクスは調査ノートに「供給能力の根強い過剰状態が中国を今年と来年、デフレ基調にとどめ続けるとの考えに変わりはない」と記した」

     

    生産過剰が、生産者物価(PPI)を引下げ、CPI値下がりへ波及している。中国政府の補助金が過剰設備を生む元凶だ。

     

    (3)「新規事業者は、消費者の節約志向に商機を見いだそうとしている。飲食店では3元(0.40ドル、約60円)の朝食を提供するほか、スーパーマーケットは1日に4回も特売時間を設けている。エコノミストの間では、こうした値下げ競争はいずれ持続不能となり、敗者は廃業に追い込まれて失業者が発生し、デフレをさらに加速させかねないと心配する声が出ている。コンサルティング会社の智研咨詢によると、消費者が価格に敏感となったため、コロナ禍以降で中国の中古ブランド品取引市場は急速に拡大して、2023年の年間成長率は20%を超えた。」

     

    3元(60円)で朝食が食べられるという。凄い不況がきたものだ。これに合わせて、ブランド品の換金売りが続出。中古ブランド品取引市が急速に拡大している。

     

    (4)「ただ、そうした成長に伴って買い取りブランド品も激増し、かなりの安値で販売されるようになっている。転転を含めた一部の新しい店では値引き率が最大で原価の90%と、近年の業界の平均値引き率30-40%をはるかに上回る。大手中古品取引プラットフォームでは、70%以上の値引き率が当たり前になりつつある」

     

    中古ブランド品の値引率は、最大で原価の90%にも達している。70%以上の値引き率が当たり前の世界だ。

     

    (5)「市場調査会社Daxueコンサルティングのリサ・チャン氏は、「現在の経済環境において、より多くの既存の高級品消費者が中古市場に流れている様子を目にしている」と指摘。一方で、売り手は競争激化のために値引きをより積極化していると説明した。転転の店では、コーチの緑色のハンドバッグ「クリスティー・キャリーオール」は、持ち込んだ人の購入時の価格は3260元(454ドル)だったのに、219元(30ドル)で買うことができる。原価2200元のジバンシーのネックレス「Gキューブ」も、187元で買える」

     

    コーチの緑色のハンドバッグ、「クリスティー・キャリーオール」の購入時価格は454ドル。それが、たったの30ドルで買えるという。93%引きの計算だ。換金売りの「たたき売り」である。栄華を極めた中国社会から、崩れ落ちる音を聞くような情景だ。

     

    (6)「別の中古ブランド品取り扱い企業の創業者は、「売り手は前年比で20%ぐらい増えているが、買い手の数はほとんど変わっていない。中間層の給料は本当に下がっている。このような潮流になっている最大の理由は経済(環境)だ」と述べた。この創業者の話では、上海や北京などの大都市には新規市場参入を可能にするほどの買い手がいるが、そのほかの地域ではこれ以上新手が加わる余地はない。「最近開いた店の大半は閉鎖になるだろう」という」と指摘」

     

    ブランド品の売り手は20%も増えているが、買い手は増えず、である。こうして、値段は下がるばかりである。不況を図るバロメーターになった。

     

     

     

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    日鉄が、国内市場の縮小化から脱するには、発展性の大きい海外市場開拓が不可欠である。今回の米国USスチール合併は、発展する米国市場へ進出する上で大きな足がかりを得た。一方、人口爆発のインドでは欧州大手と合弁で高炉や製鉄所建設に着手する。

     

    こうして日鉄は、日米印の3極市場を固めて再飛躍へのチャンスを握った。日鉄は、USスチールの吸収合併で粗鋼生産量は世界3位へ接近する。米国での製鉄所建設で、年間の粗鋼生産量1億トンを目指す。実現すれば、世界2位と往年の地位へ復活する。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月14日付)は、「日本製鉄、世界展開へ舞台整う 日米印市場に鉄のトライアングル」と題する記事を掲載した

     

    日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収は、1年半にわたり求め続けた完全子会社化のスキームで決着することになった。鉄鋼業界は、中国発の市況悪化や国内需要の減少から、海外のほかに成長余地は乏しい。新興のインド市場に加え有望な米国市場で名門企業を傘下に収めることにより、日鉄の世界展開への最後のピースが埋まる

     

    日鉄が、強い信念のもと買収を求め続けた背景には、国内市場低迷への危機感があった。日鉄の森高弘副会長兼副社長は、「成長は海外でしか望めない」と断言する。

     

    (1)「日鉄が、持続的成長へ描くグローバル戦略は、母国・日本を軸に成長著しい新興国のインド、そして高級鋼が有望な米国の3市場で鉄のトライアングルを形成するものだ。日鉄は、まず経済が成長基調にあるインドで先手を打った。欧州大手アルセロール・ミタルと19年に現地鉄鋼メーカーのエッサール・スチールを5000億ルピー(当時の為替換算で約7700億円)で買収し、合弁会社AM/NSインディアを立ち上げた。インド西部の製鉄所で高炉の新設工事を進めるほか、南部でも新たな土地を取得し生産能力年700万トン規模の一貫製鉄所の建設を目指す」

     

    日鉄は、インドで欧州大手アルセロール・ミタルと合弁によりAM/NSインディアを立ち上げている。南部でも新たな土地を取得し、生産能力年700万トン規模の一貫製鉄所の建設を目指す。

     

    (2)「日本からの輸出に頼らず需要地に生産拠点となる一貫製鉄所を構築することで、関税などの影響を受けずに価格面でも優位に立ち、現地でのシェアを拡大するのが日鉄の戦略だ。これにUSスチールの生産拠点が加われば、橋本英二会長兼最高経営責任者(CEO)が強調する「新たな時代のグローバルネットワーク」が整うことになる」

     

    日鉄は、人口急増のインドで発展の足場を築いている。鉄鋼需要は、いくらでも増える環境だ。

     

    (3)「最後のピースとなる米国も、有望な市場といえる。性能の高い自動車などの最終製品向けに需要が旺盛な「世界最大の高級鋼市場」(日鉄)であり、日鉄の技術力を生かした鋼材の供給によって利幅を確保しやすい。米国生産には関税も追い風として吹く。トランプ政権は4日に米国内産業保護のため、鉄鋼・アルミニウムの輸入品にかける追加関税を25%から50%に引き上げた」

     

    米国は、世界最大の高級鋼市場である。付加価値の高い製品が、大量に売れる環境だ。しかも50%関税に守られている。日鉄にとっては、これ以上ないビジネス環境である。

     

    (4)「トランプ氏は5月30日に米東部ペンシルベニア州のUSスチール工場での演説で「米国の鉄鋼産業を確固たるものにする」と主張し、高関税で輸入材を締め出す姿勢を示した。既に米国内では関税影響で輸入鋼材の価格が高くなったのを受け、現地メーカーが値段を引き上げているという。日鉄はUSスチールを完全子会社化すれば「高級鋼の製造技術を全部出す」(森氏)としており、米国が大半を輸入に頼ってきた高級鋼などの需要を一気に取り込もうと狙う」

     

    日鉄が、培った高級鋼技術をUSスチールへ移植して、一気に収益化を図る戦略である。日鉄にとってはビッグ・チャンスの到来である。

     

    (5)「世界鉄鋼協会によると、日鉄の24年の粗鋼生産量は4364万トンで世界4位、USスチールは1418万トンで同29位だ。買収により単純合算で、同3位の中国・鞍鋼集団(5955万トン)に迫る規模(5782トン)となる。さらに米国での生産能力拡張に向け、日鉄は28年までに総額で約110億ドル(約1兆5800億円)をUSスチールに投資する計画だ」

     

    日鉄は、今回の合併で粗鋼生産量が5782トンになる。世界4位の規模だが、3位とはわずか173トンの差にすぎない。26年中には、日鉄が世界3位となる。

     

    (6)「日鉄は、年間の粗鋼生産量1億トン、同社が重視する指標である在庫評価差を除く実力ベース事業利益1兆円の目標を掲げる。USスチールを加え日米印市場への展開で早期に実現し、上位の中国勢に対抗できる世界トップ級のメーカーへの返り咲きを目指す。USスチールで現地市場を押さえる戦略には、買収成立前から証券アナリストの間で「関税で守られ、製造業回帰が見込まれる米国は魅力的」との見方が上がっていた」

     

    日鉄の目標は、粗鋼1億トンである。これは、かつて実現していたレベルである。ここまで戻して、「世界の日鉄」の名に恥じない企業への発展を目指す。

     

    (7)「課題もある。日鉄が買収金額以外に「巨額」と称した1兆6000億円に迫る追加投資を実施すると、財務負担は一気に重くなる。「短期的には『割高なディール』と資本市場から判断されると思われる」とする専門家もいる。経営の自由度を担保できるかも問われる。日鉄は米政府と国家安全保障協定を結んだほか、USスチールの「黄金株(拒否権付き種類株式)」も米政府に発行する。日鉄は安全保障協定の概要については「可能となった時点で速やかに公表する」とするが、安全保障上の懸念解消へどのような項目を盛り込んだかが注目される」

     

    日鉄は、短期的には合併負担がかかる。だが、米鉄鋼市場が「温室」であることを忘れてはならない。同じ粗鋼1トンでも米国では日本の2倍の利益が出るはず。長い目でみることだ。荒野をジープで疾走するようなものに違いない。

     

     

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    中国EV(電気自動車)覇者、BYDのアキレス腱が指摘された。サプライヤーへの支払手形が長期化していたことだ。BYDは、手形決済を遅らせることで金利負担を免れていたことが判明した。乱売合戦をリードしてきたBYDは、サプライヤー負担で急成長を楽しんでいたことになる。中国政府は、この事態を改善させるべく手形サイトの限度を60日に短縮させる。ブルームバーグの試算では、BYDの23年平均手形サイトは、275日に及んだ。まさに「お産手形」(10ヶ月)である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月14日付)は、「中国EV『ツケ払い』膨張 BYD株に売り圧力」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府が買掛金や手形を駆使する資金繰り策にメスを入れた。電気自動車(EV)産業を手始めに、供給業者への支払期間を60日以内にするよう指示した。仕入れ債務が5兆円にのぼる比亜迪(BYD)は最大年4000億円のコスト増になるとの試算があり、株価は直近1カ月で1割下落した。「ツケ払い」に頼った成長は転機を迎えつつある。

     

    (1)「BYDは11日未明、「国家と関係部門の求めに応じ、取引先への支払期限を60日以内にする」。SNSで短い声明を発表した。一部で200日を超えていた支払期間を大幅に短縮するという。支払期間の短縮は上海汽車集団など国有大手のほか、民間の浙江吉利控股集団や小鵬汽車(シャオペン)、小米(シャオミ)といったEVの主力プレーヤーが相次いで表明している」

     

    支払手形の長期化は、日本の高度経済成長期と重なる現象だ。200日を超えていた支払期間を60日以内へ縮めるには、大量の借入金をしなければ実現不可能だ。EV業界も転機を迎える。

     

    (2)「丸紅中国の鈴木貴元・経済研究総監は「中国の中小企業の資金繰りは厳しい状況が続いており、当局にとって課題」と話す。中国政府が最初にやり玉に挙げたのがEV産業という構図だ。ここ数日、工業情報化省、国家発展改革委員会などが複数の自動車メーカーの経営トップを呼び出したとの情報が流れていた。BYDは、量販車種の価格を2割引き下げるなど、シェア獲得に奔走する。無謀にみえる積極策を可能にしたのは年4割超のペースで伸びてきた販売台数だけではない。「ツケ払い」の急増も資金面の大きな支えとなってきた」

     

    支払手形の長期化をする一方で、メチャクチャな値下げ競争を行っていた。手形サイトの短縮は、値下げ競争を不可能にさせる。正常化への第一歩となろう。

     

    (3)「BYDは、2020年ごろに独自の電子手形による支払いシステムの運用を本格化し、Dチェーン(迪鏈)と名付けた。Dチェーンは実務上、手形として扱うが、決算書では買掛金に計上しているもようだ。同社の買掛金と手形の合計額は24年末で2440億元(約4兆9000億円)と、19年末の361億元から7倍近くに膨らんだ。25年3月末では2500億元を超えた。これら仕入れ債務の増加がなければ、同期間のフリーキャッシュフロー(純現金収支)はマイナスだった」

     

    Dチェーン(迪鏈)とやらは、自社の都合第一の醜い手法である。「共存共栄」という日本的な商慣行はないのだろう。

     

    (4)「利便性がDチェーンの普及を促した。供給業者はDチェーンで代金を受け取り、提携金融機関への譲渡もウェブ上で可能だ。「BYDからの支払いは100%Dチェーン」との声があった。習近平国家主席が掲げる「中国製造2025」の実行部隊として、EVや車載電池の開発を担うBYDの信用力は高い。同時に「実質8~9ヶ月ほど」(広東華庄科技)という支払期間の長さへの指摘も供給業者から聞かれた。BYDはDチェーンへの切り替えを進めるなかで、支払期間の延長を供給業者にのませてきたとみられる。中途換金は5~7%の手数料が必要になる。これら供給業者の不満が、支払期間の短縮を求める当局の指示につながった」

     

    BYDは、Dチェーンへの切り替えで支払期間の延長を供給業者にのませてきた。中途換金には5~7%の手数料が必要という。これでは、純益が吹飛ぶほどの高い手数料になる。中国産業の弱点が浮き彫りになっている。

     

    (5)「支払期間が、60日まで短くなれば、資金繰りへの影響は避けられない。国策企業のBYDにとって銀行融資など代替の資金調達は十分に可能だ。一方、中銀国際の楼佳アナリストは「Dチェーンを銀行融資に置き換える極端なシナリオでは、財務コストは年4000億円増加しうる」と試算する。過度な値下げや支払期間の長さに当局が神経をとがらせ始めた以上、これまでのような急成長にはブレーキがかかるとみるのが自然だ」

     

    ブルームバーグの試算では、BYDの23年平均手形サイトは、275日に及んだ。これが60日へ短縮されれば、これまでタダの金利が年4000億円も増える計算だ。大変な減益要因になる。

     

    (6)「車載電池の寧徳時代新能源科技(CATL)、スマートフォンの伝音控股(トランシオン)、鉄鋼の鞍鋼、太陽光パネルの隆基緑能科技(ロンジソーラー)には3つの共通項がある。世界シェアで13位の製品を持ち、過去5年で買掛金が2倍以上に増え、株価は伸び悩んでいる。ニッセイ基礎研究所の三浦祐介主任研究員は、「支払期間の短縮は他業種へも波及し、大企業の資金繰りへの圧力は強まる」という」

     

    世界シェアで13位の製品を持ち、過去5年で買掛金が2倍以上に増えた大企業は、いずれも手形の長期サイト化により資金繰りに利用してきた。設備投資優先が招いた結果である。

     

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    日本製鉄USスチールは6月14日、米国政府との間で国家安全保障協定を結んだと、声明で明らかにした。両社は、トランプ大統領が100%の買収計画を承認したため、今後速やかに買収が成立する予定だとした。

     

    『ロイター』(6月14日付)は、「日鉄、米政府と国家安全保障協定を締結 USスチール株100%取得へ」と題する記事を掲載した。

     

    日本製鉄と米鉄鋼大手USスチールは14日(日本時間)、トランプ米大統領がUSスチールとのパートナーシップを承認したことに関連し、米国政府との間で国家安全保障協定を締結したと発表した。

     

    (1)「同協定の下で、日鉄は2028年までに約110億ドル(約1兆6000億円)を投資し、米政府には「黄金株」を発行する。協定にはこのほか、国内生産や通商に関するコミットメントも含まれている。黄金株の詳細は明らかになっていない。日鉄は、パートナーシップの実行に必要な全ての規制当局からの承認を取得したとし「パートナーシップは速やかに成立する予定」としている。日鉄の広報担当者によると、同社はUSスチールの普通株を100%取得する」

     

    紆余曲折を経た日鉄・USスチールの100%合併が決定した。これは、日米双方にとって大きな力を発揮する。「鉄は産業のコメ」と言われた地位を半導体へ譲ったものの、製造業の根幹を支えていることに変わりない。安全保障とも深く関わっている。IT化する米国産業の欠陥は、製造業の弱体化にあった。日鉄が、USスチールを合併することで、米国鉄鋼業はもとより、米国産業の強力な支柱になる。

     

    日鉄が、USスチールを合併することで、日米経済の分業化がさらに進むであろう。米国は、IT化で高付加価値路線の追求に拍車をかけるが、一方で製造業の空洞化という苦悩に直面している。そのIT産業も、製造業の堅塁を維持してこそ発展可能である。米国は、このバランスを欠いたまま発展してきた。現在の貿易大赤字は、こういう産業間のミスマッチが招いたものだ。この空洞化は、日本製造業が埋めることになろう。

     

    ここまで進めば、米国はTPP(環太平洋経済連携協定)へ復帰することだ。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の予測によると、トランプ氏が現在の関税措置を維持するなら、米国がTPPにとどまっていた場合と比べて2030年までで世界経済の規模は1兆ドル(約144兆円)小さくなる。この3分の1強は、米国経済によるものだ。世界の貿易に占める米国の比率は、ずっと低くなる。一方で、中国はほぼ変わらない。結果的に、米国の雇用は69万人分少なくなる、としている。『ブルームバーグ』(6月14日付)が報じた。日米経済の分業化は、米国がTPPへ復帰する道でもある。

     

    (2)「トランプ大統領が、日鉄とUSスチールとのパートナーシップを承認する大統領令に署名したことを受け、日鉄は「歴史的なパートナーシップへの力強いご支援に感謝する」とコメント。「米国の製造業を再び偉大にすべく、コミットメントを実行に移していくことを楽しみにしている」とした」

     

    日鉄は、USスチール合併に向けて良く粘り通したものだ。「不退転の決意」とは、これを指すのであろう。米国大統領を訴えるという前代未聞のことまで行い、「正義」を貫いた勇気は、日本企業が長いこと忘れていた闘志でもあった。この裏には、日本経済復活という強い信念が見て取れる。日本経済再興という思いには、「鉄は国家なり」という強い自負心が感じられる。日本の高度経済成長をリードしたのは、「八幡・富士」(日鉄)の強い設備投資意欲であった。日鉄は、米国で「鉄は国家なり」を再現させる。

     

    (3)「日鉄は、2023年12月に141億ドル(約2兆円)でUSスチールを買収する計画を公表した。ただ、24年11月の米大統領選挙を控え政治問題化、トランプ大統領とバイデン前大統領ともに買収計画に反対姿勢を示し続け、バイデン前大統領は25年1月、国家安全保障を理由に反対の判断を示した。その後、大統領に就任したトランプ氏は、4月に対米外国投資委員会(CFIUS)に対し再審査を命じ、最終判断はトランプ大統領に委ねられていた」

     

    日鉄は、USスチールで新製鉄所を建設する。詳細は不明だが、酸素製鉄所とみられる。これまでの高炉による製鉄から一変して、酸素による「化学製鉄」に変わる。これは、世界の製鉄所風景を根本から変えるに違いない。日鉄は、酸素製鉄の研究で世界トップであるだけに、世界鉄鋼業をリードするに違いない。

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