日米経済の緊密化が強調されている中で、日鉄によるUSスチール買収問題は紛糾したが、解決へ向けて山を越えた。2月7日(米時間)の日米首脳会談で、石破首相は日鉄の「投資が目的」とする主旨をトランプ大統領が受入れたもの。来週、トランプ氏は日鉄代表と面会する予定となった。トランプ氏は、「協力する、仲介する」と解決へ向けて舵をきった。
ある日鉄幹部は、「現行の買収計画のスキームが変わるわけではない。(日鉄は)USスチールの社名や本社を変更しない方針を示しており、本質的にUSスチールを変える『買収』ではなく、同社を成長させるための『投資』だということで理解を得たのだろう」と話した(『日本経済新聞 電子版』)。商法上は、吸収合併でも実態は「投資」という意味であろう。石破提案は、事前に日鉄の合意を得ているはずだ。
『日本経済新聞 電子版』(2月8日付)は、「トランプ氏、USスチール問題『買収ではなく投資で合意』」と題する記事を掲載した。
トランプ米大統領は7日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画について「(日本側と)買収ではなく(USスチールに)多額の投資をすることで合意した」と述べた。同日午後に開かれた日米首脳会談後の共同記者会見で明らかにした。具体的な枠組みには触れず、来週に日鉄首脳と会う機会を持つと説明した。
(1)「トランプ氏は、日本からの投資を歓迎すると話した。そのなかで日鉄のUSスチール問題について触れた。「(日鉄は)米鉄鋼業に非常にエキサイティングなことを実施する予定だ」と切り出し「彼らは購入ではなく投資を検討している。USスチールを所有するのではなく、多額の投資を実施することで合意した」と述べた。日本側と認識を共有したと説明した。そのうえで、USスチールについては「我々(米国)にとっては非常に重要な会社だ」と述べ「(USスチールが米国から)去るのを見たくないし、実際に去ることはないだろう」と話した。所有権が米国外に移ることは「心証的に良くない」と強調した」
日鉄によるUSスチールへの提案は、USスチールの再建に欠かせないプランであった。資金と技術を提供するものである。社名も役員陣もそのままという、吸収合併ではあり得ない条件である。日鉄が、ここまで妥協しているのは、米国鉄鋼市場の魅力である。高級鉄鋼製品の市場として最高である。
(2)「トランプ氏は、日鉄の買収計画に一貫して反対してきた。1月、自身のSNSに「関税(引き上げ)によってより高収益で価値のある企業になるというのに、なぜUSスチールを今売ろうとするのか?」と投稿した。米国企業であるべきだと強調してきた。記者からの質疑応答では、「彼ら(日本製鉄)は投資をする。もう『購入』はなしだ、いいね?」としたうえで「私は購入を望んでいないが、投資は大好きだ」と答える場面があった。7日の日米首脳会談冒頭でも反対の考えは変えていないと示唆していた。石破茂首相との会談を受けても、USスチールが外資に買われることに対する所感は同じだと表明した格好だ。半面、「投資は受け入れる」と強調し、日本側への配慮をみせた。来週にも日鉄のトップと「会談する予定だ」と話し、日鉄側の計画の詳細を聞く姿勢を示した」
トランプ氏が、従来の反対論を撤回したのは、日鉄の示した投資計画が米鉄鋼業に不可欠という認識になったのだろう。ビジネス出身大統領らしくソロバンを弾いたのだ。
(3)「トランプ氏が「合意した」と述べた投資の枠組みは不明だ。「私も協力する。仲介をする」と述べたが、買収計画を巡る膠着を打開できる保証はない。トランプ氏は7日、バイデン前大統領が1月上旬に出した買収阻止の大統領令にも触れなかった。石破茂首相も「買収ではなく投資だ。日本の技術を提供して良い製品をつくり、日本、米国、世界に貢献するUSスチールの製品が生み出されていくことに日本も投資する」と強調したものの、日鉄が現在の計画を修正するかどうかなど具体策には言及しなかった」
石破氏が、日鉄の意向を聞かずにここまで踏み込んだ発言をするはずがない、越権行為になるからだ。岸田前首相は、「民間企業のこと」として一線を引いていた。石破氏は、「準国家事業」として捉えたのであろう。
(4)「日鉄の現行の計画では、USスチールの全株式を取得する。これは一般的には「買収」にあたる。買収ではなく投資と説明するためには、出資比率を引き下げたり、一部事業への出資に切り替えたりなどの変更が考えられる。計画を変更する場合、日鉄は現行のUSスチールとの契約を解除する必要がある。今回のトランプ氏の発言について、日鉄側は前向きにとらえているもようだ」
トランプ氏は、すでにUSスチールCEOと面会して意向を聞き出している。さらに、日鉄トップと面談すれば「仲介」方向を打ち出すのだろう。
(5)「日鉄のUSスチール買収を巡っては、バイデン氏が「安全保障上の懸念がある」として計画を中止し「永久に放棄」するよう日鉄側に命令した。その後、USスチールと日鉄が大統領らを「適正な手続きがなされなかった」として提訴しており、本格的な訴訟手続きが始まったばかりだ」
米国内の雰囲気では、USスチール問題解決が悲観的であったという。それが、トランプ氏の方向転換で「ゴー」へ向かいそうだ。「トランプ氏が、従来の米国エリート、エスタブリッシュメントと全く切れていることも、ある意味彼の強みであり、誰に気兼ねすることなく方向転換をできたのだ」(岩間陽子政策研究大学院大学教授)という指摘もあるのだ。