勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    あじさいのたまご
       

    日韓シャトル外交が復活して、ひとまず正常化へのレールが敷かれた。日米韓に横たわる安全保障など、緊急を要する問題から協力すべきであろう。ものには順序がある。懸案をまず片付けて余裕があれば、次の課題に進むべきだ。

     

    韓国側には、「1丁目2番地」に歴史問題を取り上げたいようだが、韓国に歴史を実証主義で捉える習慣がないことが致命傷である。すぐに、「植民地論」に立って、「謝罪せよ・賠償せよ」では議論にならないのだ。その意味で、歴史問題を取り上げれば、再び日韓は争うことになろう。無益である。

     

    『中央日報』(62日付)は、「韓日シャトル外交復元、FTAなど経済協力につながるべき」と題するコラムを掲載した。筆者は、申ガク秀(シン・ガクス)元外交部次官である。

     

    各種問題で「失われた10年」を歩んだ韓日関係も、強制動員問題で韓国側が「第三者弁済」という一方的措置を通じた解決策を提示したのを契機にシャトル首脳外交も復元し、回復軌道に乗ることになった。

    1)「3月6日に発表された政府の強制動員解決策に対する国内の反応は、予想通り6対4の割合で反対意見が多かった。こうした世論の反発は、1年にわたる外交交渉にもかかわらず、日本政府が被害者の要求する日本被告企業の反省・謝罪と自発的な基金参加を受け入れない中で解決策を発表したからだろう。尹大統領の政治的決断は、交渉を続けて日本の譲歩を引き出す戦術的利益よりも、韓日関係の早期回復で複合転換期の不透明な戦略環境を乗り越えていく戦略的利益を優先したことによるものと解釈される」

     

    韓国は、国内の反対論を抑えて旧徴用工問題で「第三者弁済」方針によって解決した。これは、韓国側に早急に解決を迫る事情があったからだ。それは、大法院判決が国際法違反であったことである。それにしても、恥ずかしい判決を出したものだ。文政権の意向を忖度した結果であろう。政治的判決である。

     

    2)「韓日関係は、暗くて長いトンネルの出口を抜けて回復を加速する段階に入ったそのために次のように提言しようと思う。1つ目、強制動員問題の解決を急ぐことだ。3月6日の解決策は現金化を防ぐために民法上の第三者弁済を採択した。大法院の判決との衝突問題解決には、特別立法が最善だ。また鹿島建設(2000年)、西松建設(2009年)、三菱マテリアル(2016年)が中国の被害者に謝罪を表明したように、被告日本企業が謝罪表明と自発的寄与をするよう外交努力を傾けると同時に、国内被害者を説得して世論の支持を得られるよう努力しなければいけない」

     

    中国は、自ら対日賠償金を請求せず放棄した。だから、中国人徴用工問題を抱える企業は、謝罪を表明した。韓国に対しては過去に何度も政府謝罪をしている。中韓では、事情が異なる。

     

    3)「同時に歴史和解は、中長期な課題として着実に追求することが求められる。歴史認識問題は歴史家に任せるのが望ましいため、第3期韓日歴史共同委員会を復活させ、日本の若い世代が正しい歴史認識を抱くよう歴史教育、文化手段の活用を含む多様な案を講じなければならないだろう」

     

    「植民地論」で染め上げてきた韓国の事情からいえば、結論は最初から分っている。そうではなく、経済データに基づく朝鮮近代化に果たした日本の役割という視点で議論すべきだ。日本は、本当に朝鮮を収奪したのか。データに基づく議論こそ出発点になる。


    4)「2つ目、韓日協力の場が開かれただけに、協力の幅を広げて早期収穫が可能な協力を先に推進する必要がある。両国政府は両国企業が活発に交流・協力できる環境を作り、巨視的レベルの協力を深めていくべきだろう。高官級経済対話を活性化し、FTA締結、標準化・特許・情報協力、宇宙・サイバー協力、第4次産業革命分野の科学技術協力、第3国共同進出支援、サプライチェーン安全と相互融通、経済安保情報の共有などを模索するのがよい」

     

    韓国は、日本から技術支援を受けたいのが本音である。そうであれば、歴史問題で日本を負い目にさせて、経済的譲歩を得ようとする策略は逆効果だ。朝鮮は、植民地時代も日本の技術と資本で発展した。それが事実である。韓国は、これを認めないから感情的行き違いが起るのだ。

     

    5)「3つ目、失った信頼資産を満たすことだ。未知・誤解・偏見を解消して相互理解・信頼を高めるために、中長期レベルで青少年の交流を含む人的交流の大幅拡充と制度化が重要となる。1963年の独仏間のエリゼ条約と似た合意を考慮することを望む」

     

    いくら、日韓共同宣言を出しても「二番煎じ」で無意味である。強烈な反日左派政権が生まれれば、元の木阿弥になる。そうならない「理性」が、左派には存在しないからだ。

     

     

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    23年春闘は、確実に日本経済のターニングポイントを形成した。30年ぶりに3.7%と高い賃上げを実現したからだ。大企業と中小企業の内訳を見ると、大企業が3.91%、中小企業も3.35%と健闘した。これは、賃金格差を埋める動きであり、背景に人手不足という深刻な事態が控えている。 

    中小企業といえども、人手不足という事態に直面し大企業と遜色ない賃金でなければ経営を継続できない環境になってきた。これが、消費者物価へ反映されることは間違いなく、関門であった消費者物価上昇率2%は定着必至の情勢である。「ゼロ金利廃止」への里程が、浮かび上がって行くはずだ。 

    『ロイター』(6月1日付)は、「人手不足が日銀に圧力 物価上昇持続シナリオの現実味」と題するコラムを掲載した。筆者は、同社の田巻一彦氏だ。 

    人手不足が日本の経済と社会を大きく変えようとしている。30年ぶりに3%台の賃上げ率となった2023年に続き、24年も大幅な賃上げが実現する可能性があると筆者は指摘したい。背景にあるのは、人手不足の下で人材を確保して競争に勝とうという経営者の心理だ。

     

    (1)「帝国データバンクが、今年4月に全国の約2万7600社を対象にした調査によると、正社員が不足しているとの回答は51.4%に上った。業種別では旅館・ホテルが75.5%と最も多かった。こうした人手不足は、大幅な賃上げにつながったと筆者は考える。人手不足と賃上げのリンクは、別の調査ではっきりする。帝国データバンクが今年5月に1033社を対象に調べた結果では、人手が不足していない理由として51.7%が賃金や賞与の引き上げを理由として挙げた」 

    下線部のように、賃金や賞与を引き上げた企業では、人手不足に陥っていないことが分った。これは、適正な待遇を行うことが、人手確保の前提であることを示している。 

    (2)「このように見てくると、利益に見合った給与しか提示できない企業は人材獲得の面で劣勢となり、それがビジネス上におけるマイナス要素となって脱落していく可能性が高まっていると筆者は考える。長期間続いてきた超低金利政策で、非効率で生産性の低い企業が生き残ってきたと言われてきたが、足元で進行している人手不足が企業間の優勝劣敗を生み出すパワーとして作用し始めたのではないか。優秀な人材を確保できなければ、中長期的な増収・増益を図ることも難しくなる。手厚い内部留保を確保している企業は、短期的な下押しの圧力が見込まれても、人材確保を優先して23年並みの賃上げを実現しようとするのではないかと筆者は予想している 

    24年度も、23年度並みの賃上げを実現できなければ、人手確保が困難になる。労働力人口が減っているからだ。こうして、企業の優勝劣敗は賃上げ率によって決まる時代になった。

     

    (3)「この流れは、日本における2%を超える物価上昇の長期化として波及すると予想する。全国消費者物価指数(CPI)の先行指標的な性格を持つ5月の東京都区部CPIは、総合とコア(生鮮食品を除く)が前年比3.2%上昇、コアコア(生鮮食品とエネルギーを除く)は同3.9%上昇だった。政府が実施している電気やガス料金の支援策によって、総合とコアは約1%ポイント押し下げているが、この支援策は今年9月で終了する。また、6月から東京電力などで家庭用の電気料金が値上がりする。足元で原材料価格の下落による輸入物価の押し下げ効果がCPIに効いてくるとみられていたが、電気料金の値上げや政府の支援策がなくなれば、相殺するだけでなく物価を押し上げる可能性もある 

    円相場は、年内に1ドル=120円台になるという予測が出ている。これは、輸入物価を押下げるので消費者物価引下要因になろう。だが、人件費アップによるサービス価格の上昇によって、円高分による価格引き下げを相殺できるかが焦点になる。ただ、消費者物価上昇率2%は、絶対的条件ではなくなっている。総合的な判断に立てば、「ゼロ金利撤廃」議論が起るだろう。

     

    (4)「さらに足元では、これまでフリーズされてきたサービス価格の上昇が人手不足によって加速する兆しが出てきている。5月東京都区部CPIでは、サービスの上昇率が前年比1・7%上昇となった。そのうち宿泊が同11.5%上昇、外食が同8.1%上昇と目立った。外国人観光客の急増だけでなく、人手不足による人件費などコストの上昇も影響しているようだ。このようなサービス価格の上昇は、いったんスタートすると幅広い範囲に拡大し、まるで溶岩がゆっくりと進むように物価を押し上げる要因になる」 

    5月の東京都区部CPIは、サービス価格が前年比で1.7%上昇である。人手不足による賃上げが価格引上げに繋がったものだ。これまでのように、「コスト吸収で価格据え置き」はビジネスモデルでなくなった。それは、賃上げを不可能にして人手不足を招く要因になるからだ。自ら、企業衰退への道を歩む要因になる。価格据え置きによる「販売シェア確保」は時代遅れになった。賃上げして価格を上げる。これが定着すれば、日本経済は様相を一変する。 

    (5)「CPI上昇率が2%を超えて長期間にわたって推移しそうだとの判断になれば、自ずと日銀の政策スタンスも変化することになるだろう。その時に日本経済が、どの程度の成長率の軌道を走っているのか。日銀が金融政策について何らかの修正を図ろうとする際に「一時的」という物価上昇に対する認識を変えることになるとみられる」 

    サービス価格値上げが、消費者物価上昇率2%の壁を突き崩す可能性が出てきた。「ゼロ金利撤廃」という悲願へ一歩進めるであろう。

     

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    米投資銀行JPモルガン・チェースは、このほど上海で開いた会議には、約3000人が参加したという。会議は、メディアに公開されなかったのでどのようなことが話題になっていたのかは不明だ。『ブルームバーグ』(5月31日付)によれば、JPモルガンCEO(最高経営責任者)のダイモン氏は、現在の状況について「はるかに複雑」になっていると認めた。また、同行が「良い時も悪い時も中国にとどまる」と述べたことは、中国経済の実態が極めて悪化していることを示唆したと受け取られている。

     

    JPモルガン中国部門のマーク・レオンCEOは、インタビューで中国について「規模や、事業を行うための評判を少しずつ育てていくのには、われわれが望むよりも多くの時間が必要な見込みだ。しかし、われわれはそのための投資を行い、そこに向かって順調に進んでいる」と話した。婉曲に、中国経済が困難な時期に遭遇していることを認めたのだ。『ブルームバーグ』が伝えた。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(6月1日付)は、「JPモルガンCEOが警鐘、『米中対立で国際秩序崩れた』」と題する記事を掲載した。

     

    米国と中国の対立により国際秩序が崩れ、企業は冷戦時代よりも難しい対応を迫られている――。米銀最大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)はこう苦言を呈した。

     

    (1)「世界第2の経済大国である中国の経済回復が順調に進んでいないことが製造業のデータにより明らかになったこの日、ダイモン氏は中国政府の政策の「不確実性」が投資家の景況感を悪化させているとも主張した。同氏は中国・上海で開かれたJPモルガンの非公開会議で「中国による、米国とその同盟国への行為、各国との関係など、考え方の違いはいずれも解決可能だ」と訴えた。この会議の録音音声によると、「これほどの(複雑な)状況は第2次世界大戦以来だ。対立は冷戦すら上回る状況だ」とも述べた」

     

    JPモルガンは2019年、中国で証券事業の完全子会社化を認められた。外資系金融機関として初めての事例だ。現地企業向けに新規株式公開(IPO)の引受業務や、M&A(合併・買収)助言などを手がける。中国は、約60兆ドル(約8400兆円)規模の金融セクターを擁するとされるだけに、このメリットを捨てる訳にはいかない。ただ、現状の中国経済は、多大の不確実性を抱えている。ここは、じっと「我慢の子」に徹するほかないという判断だ。

     

    (2)「中国を4年ぶりに訪れたダイモン氏の発言の背景には、中国の生産活動の縮小により同国の成長見通しに疑念が生じ、米国との関係悪化により地域の株式市場が揺らいでいることがある。同氏は米ブルームバーグTVとのインタビューで、中国政府のゼロコロナ政策とコンサルタントやテック部門への取り締まりについて問われ「中国政府に起因する不確実性がさらに高まれば、外国からの直接投資だけでなく、中国市民やそのマインドにも影響を及ぼす」と答えた」

     

    下線部は、ダイモン氏の率直な意見だ。中国の不確実性が、海外からの直接投資を阻むだけでなく、中国市民の心理状態も悪化させると警告している。

     

    (3)「中国政府も、米コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーやキャプビジョン、米信用調査会社ミンツ・グループなど外国企業を家宅捜索し、テック企業や教育企業など国内の民間企業に対する統制を強めている。不動産投資や与信、産業各社の利益は減り、小売売上高などの指標はアナリスト予想を下回り、中国政府が掲げる23年の成長目標5%の達成に黄信号がともっている」

     

    中国当局が「反スパイ法」によって、海外企業を家宅捜査することや民間企業への統制強化を行っている。これは、確実に企業活動を萎縮させる。23年の「5%前後」という成長率目標は、すでに揺らいでいるのだ。

     

    (4)「中国商務省の主な指標の一つに基づいて測定される23年1〜4月期の対中海外直接投資(FDI)は前年同期比2.%増の5000億元近くに上った。もっとも、米ドルベースでは3.%減の735億ドル(約10.2兆円)だった。ダイモン氏はJPモルガンの会議で、米規制当局に不満を抱くこともあるが、米国のシステムには「良い面もある」と語った。「透明性や投資家保護、法の支配、大きな市場で事業を運営できる点、汚職を取り締まる適切な法がある点は、国のためになる。金融市場や資本にとってもプラスだ」と評価した」

     

    経済活動の根幹は、法の支配・投資家保護などである。現在の中国は、この根本が揺らいでいる。これでは、金融市場の発展はおぼつかない。ダイモン氏は、このように中国へ苦情を言っているのだ。

     

    テイカカズラ
       


    韓国経済は、どん底状態にある。4月の経済データは、生産・消費とも前月比マイナスに落ち込んでいる。輸出主力の半導体が回復の手がかりをつかめないからだ。だが、「反日論調」は相変わらずだ。日本の株価高騰に対して冷ややかな見方で、韓国の企業業績の方が「上だ」とうそぶいている。 

    シンハン(新韓)投資証券のキム・ソンファン研究員は、「日本市場が再評価されPERは20%上昇したが、安値圏である」とし、「日本企業の利益はまだ改善の兆しがなく、米国やヨーロッパ、韓国市場の利益展望の明るさとは異なる」と言い放っている。『wowkorea』(6月1日付)が伝えた。 

    韓国企業の見通しが明るいはずがない。輸出依存の経済が昨年5月以来、輸出が前年同月比でほぼマイナスに落ち込んでいるからだ。前記の研究員は、何をもって「韓国企業の業績が上」としているのか、そういう根拠は全くない。

     

    『東亜日報』(6月1日付)は、「4月の生産と消費が同時にマイナス転落 製造業の在庫率は『史上最大』」と題する記事を掲載した。 

    輸出減少と内需萎縮の影響で、4月の生産と消費が同時にマイナスに転じた。さらに、半導体景気の低迷などで製造業の在庫率が過去最高に高騰した。今年下半期(7~12月)の景気回復が不透明だという予測が出ており、政府の「上低下高(上半期は低迷、下半期は上昇)」の期待とは裏腹に、「上低下低」の流れが続く恐れがあるという懸念が出ている。
    (1)「統計庁が5月31日発表した「4月の産業活動動向」によると、産業全体の生産(季節調整・農林漁業を除く)指数は109.8(2020年=100)で、前月より1.4%減少した。これは昨年2月(マイナス1.5%)以来14ヵ月ぶりの最大の減少幅となる。このうち、半導体や化学製品などを含む鉱工業分野で生産減少が目立った」 

    4月の鉱工業生産は、半導体や化学製品などの落込みで14ヵ月ぶりに最大の減少幅となった。

     

    (2)「出荷の停滞に合わせて減産しているが、それでも在庫率(製品出荷比在庫比率)は130.4%で、前月より13.2ポイント高騰した。関連統計を取り始めた1985年以降、最も高い数値だ。在庫率の上昇は、製品がよく売れず、すでに生産された物が倉庫に積まれているという意味だ。特に半導体から出荷が20.3%減り、在庫は31.5%も増え、全体在庫率の上昇を主導した」 

    減産しても出荷の落込みが大きく在庫率が跳ね上がっている。4月は130.4%で、1985年以降においてワースト記録となった。 

    (3)「消費動向を示す小売販売額指数(季節調整)は、4月に105.2(2020年=100)で、前月比2.3%減少した。今年2月に5.1%増加し、堅調であった小売販売は3月に0.1%増加と鈍化したが、4月に入ってマイナスに転じた」 

    生産の落込みは、消費減退を招いている。4月の小売販売額指数(季節調整)は、前月比でマイナスになった。

     

    (4)「政府は、下半期の半導体景気の回復などを根拠に「上低下高」の観測を出しているが、景気回復の時点が予想より遅くなりかねないという予測が出ている。統計庁のキム・ボギョン経済動向審議官は、「政府は上低下高の景気の流れを予想したが、景気が上がる時点をめぐり色々と不確実な部分が多い」と話した。今後の景気を予告する先行指数は前月より0.2ポイント下がり、昨年11月から6ヵ月連続で下落した」 

    政府は、今年下半期の景気回復を予測したが、来年へずれ込む見通しが強くなっている。景気先行指数が下落しており、底入れしていない状況だ。この底入れを確認してから数ヶ月後に、景気は回復へ転じる。 

    (5)「何よりも、主要輸出品目である半導体の回復速度が、当初の予想を下回っている。産業研究院は、5月30日発表した「2023年下半期の経済・産業予測」の報告書で、今年下半期の半導体の輸出額は1年前より12.8%減ると予測した。今年全体では、半導体輸出が24.7%減少すると見ているが、これは今年1月に予測した年間減少幅(前年比マイナス9.9%)の約3倍に近い数値だ」 

    汎用半導体市況の底入れは、スマホやパソコンの需要が回復しない限り不可能である。これらの製品も、需要回復はまだ見通せない状況だ。

     

    (6)「産業研究院のキム・ヤンパン専門研究員は、「半導体景気は、今年下半期まで厳しい状況が続き、早くても来年上半期に持ち直すものと見られる」とし、「人工知能(AI)分野の成長にともなう期待があるが、(半導体市場は)まだパソコンまたはスマートフォンなど、個人的需要が主導しているため、AI分野の成長の影響が拡散するまでに時間がかかるだろう」と見通した。韓国開発研究院(KDI)のチョン・ギュチョル経済予測室長は、「世界的に金利高が続いているうえ、物価もやはり安定しておらず、景気減速はしばらく続くものと見られる。半導体業況と中国向け輸出が回復しても、上半期の低迷を緩和する水準に留まる可能性が高い」と話した」
    半導体景気の回復は、来年となろう。韓国半導体は目下、注目の的である「生成AI」とは無縁である。この恩恵には浴せないのだ。

     

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    中国が、ついに韓国へ「奥の手」を使ってきた。韓国が、日米などへより接近すれば「対北朝鮮主導権」を発揮しないという内容だ。中国は、これまでも北朝鮮のミサイル実験を抑制する行為を行わず放置してきた。それが今になって、韓国を「北朝鮮暴走容認論」として脅してきたのだ。

     

    秦の始皇帝も、こういう形で同盟を切り崩してきたのであろう。相手国を脅迫して同盟から切り離す戦法である。2000年以上も過去の外交戦法を使って、韓国へ圧力を掛けているもの。さすがの中国も、日本へこういう「非礼」極まりないことを言ってはこない。韓国を軽く見ている証拠であろう。

     

    『ハンギョレ新聞』(6月1日付)は、「中国、『習主席の訪韓』期待するな、4つの不可方針を韓国に通知」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府が尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権に対し、台湾などの中国の核心利益を侵害したり、米日の中国封じ込め戦略に韓国が積極的に参加した場合、北朝鮮問題など様々な方面で韓中協力を行うことは難しいという、いわゆる「4不可」の方針を伝えたことが分かった。尹錫悦大統領の米国密着外交に中国が直接不快感を示したことで、中国リスクが現実化している。

     

    (1)「韓中関係に詳しい複数の高官級の外交消息筋は5月30日、ハンギョレに「22日、中国外交部の劉勁松アジア司長(アジア担当局長)がソウルに来て、尹錫悦政権に韓中関係に関する中国政府の『4不可』方針を通知したと聞いている」と述べた。中国政府が尹錫悦政権に伝えた「4不可」は、次の通りだ。

    1)(台湾問題など)中国の「核心利益」を害した場合、韓中協力不可

    2)韓国が親米・親日一辺倒の外交政策に進む場合、協力不可

    3)現在のような韓中関係の緊張が続く場合、高官級交流(中国の習近平国家主席の訪韓)不可

    4)悪化した情勢のもとでの韓国の対北朝鮮主導権の行使不可」

     

    中国は、韓国を属国として扱い韓国の主権に制限を加えてきた。韓国は断固、拒否すべきである。文政権であれば震え上がったであろう。だが、世界一の軍事力を擁する米国と軍事同盟を結んでいる韓国である。中国の「一言」に怯える必要はない。ならば、「中国にある韓国の半導体工場の有り難みを知れ」というぐらいのやりとりができないでどうするのだ。互角に向かい会わなければ、中国の圧力に押されるであろう。

     

    (2)「その席上で劉局長は、韓国外交部のチェ・ヨンサム次官補とチェ・ヨンジュン東北アジア局長に、自身の訪韓の目的が「中韓関係改善」ではなく「中韓関係の『ダメージコントロール』(追加被害防止)」であることを明らかにしたという。尹錫悦政権の発足後、急速に疎遠になった状況において、当面は関係改善が困難と判断し、中国政府の核心の関心事と「禁止ライン」を明確に伝え、追加の対立と衝突を管理するという方針を伝えたわけだ」

     

    中国は、韓国へ「レッドライン」を示してきた。相当の脅迫である。韓国は、こういう中国の姿勢に抗議して、中国の要求を拒絶する回答をしなければならない。

     

    (3)「中国外交部は、劉局長の訪韓の件について「中国の核心の関心事について厳正な立場を表明した」と発表し、韓国外交部も「率直かつ虚心坦壊に協議した」と明らかにしたことで、雰囲気が容易に解決されるものではないことを暗示した。劉局長はキム・テヒョ国家安保室第1次長とも非公開で面会したことが分かった」

     

    韓国外交部は、「率直かつ虚心坦壊に協議した」と言うが、始皇帝の「同盟崩し」と同じ場面を想像する。現代でも、こういうやりとりがあることに中国の「古典外交」を見る思いがする。

     

    (4)「劉局長はさらに、尹錫悦政権の発足後、「THAAD(高高度ミサイル防御)基地の正常化」と「追加配置」の可否に敏感な反応を示し、「THAAD3不政策」を尊重し再確認するよう韓国政府に求めた。「THAAD3不政策」は、次のような内容だ。

    1)THAADの追加配備を検討せず

    2)米国のMD(ミサイル防御)システムに韓国は参加せず

    3)韓米日3国の安全保障協力を軍事同盟に発展させない

    尹錫悦政権は「THAADは自衛的な防御手段であり、安全保障の主権事項であるため、決して協議の対象にはならない」とし、「THAAD3不政策」に拘束されないとする態度を繰り返し明らかにしてきた。最近、韓米が核協議グループ(NCG)を新設し、これに日本も参加して韓米日による北朝鮮ミサイル情報共有システムの準備も議論されている状況に対し、中国政府が拒否感を示したのだ」

     

    「THAAD3不政策」は、韓国の主権に関わる問題である。なんら中国の「指示」に応える必要はない。ともかく、毅然とした対応が必要だ。「おどおど」することが、中国を利するのだ。腹を据えるべきでる。

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