勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国李大統領は、これまで「台湾有事」に無関係論を唱えてきた。朝鮮半島有事と関わりがないという理由だが、国際情勢からみると大きな落し穴が指摘されている。中国が、北朝鮮をそそのかして韓国侵攻を企てるという見方を忘れているからだ。米国では、こういう韓国の姿勢を逆手にとって、在韓米軍の大幅削減による兵力移動論が登場した。李政権にとって、大きな代償を払わされる局面になりそうだ。

     

    『朝鮮日報』(7月12日付)は、「米民間シンクタンク『2万8500人の在韓米軍は1万人にすべき』『4年以内に実現できる』」と題する記事を掲載した。

     

    在韓米軍防衛費分担金を巡り、米国トランプ大統領による韓国政府への圧力が強まる中、米国国内でも在韓米軍削減を求める声が相次いでいる。中でも、中国による台湾侵攻シナリオと関連付け、具体的な期限を提示した上での撤収を求める声も出ている。

     

    (1)「ワシントンの民間シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」は9日に公表した報告書「米国の国益に合わせた海外駐留軍態勢」の中で「現在約2万8500人の在韓米軍のうち、地上軍兵力は大部分撤収させ、残すのは1万人ほどにすべきだ」と主張した。「東アジアにおいて米軍は中国をけん制し、米国の国益を守る方向へと再編しなければならない」として在韓米軍削減の必要性を強調している」

     

    米国にとって、在韓米軍は中国の台湾侵攻の際、在韓基地を自由に使って作戦行動できない制約がある。ならば、在韓米軍の大半を他の基地へ移動させるのが得策という視点が浮上している。

     

    (2)「この報告書は、ヘグセス米国防長官のシニアアドバイザーを務めたダン・コールドウェル氏と同シンクタンクでシニアフェローを務めるジェニファー・カバナ氏が共同で取りまとめた。報告書は「韓国における米軍基地防衛と関係のない全ての地上軍部隊、陸軍の通信・情報・本部部隊や支援部隊の一部を削減すべきだ」とした上で「韓半島に循環配置される戦闘旅団(BCT)と陸軍戦闘航空部隊を含む第2歩兵師団も大部分撤収しなければならない」「戦闘機飛行大隊やこれに関係する航空整備・支援の人材も減らし、残すのは1万人程度にすべきだ」などとも主張している。第2師団として知られる米陸軍第2歩兵師団は北朝鮮を抑止する在韓米軍の主要な戦力だ」

     

    米陸軍第2歩兵師団は、北朝鮮を抑止する在韓米軍の主要戦力である。その主要部隊を撤収させるというのだ。李大統領のこれまでの発言が、逆手に取られている。

     

    (3)「報告書は、上記のように在韓米軍の見直しが必要な理由について「インド太平洋地域で紛争が発生したときに、米国が韓国の基地を制限なしに使用できるアクセス権限がないため」と指摘した。中国が台湾を侵攻した場合、韓国に駐留する米軍戦力を必要なときに必要に応じて活用できない可能性がある点に言及したようだ。報告書は、「韓国は米国の他の同盟国に比べて防衛費の額は大きいが、主要な戦闘支援の一部は今なお米軍に依存している」と指摘した。さらに「韓国は在来戦力においては北朝鮮よりも優位であり、米国の支援がなくとも直ちに自分たちを効果的に防衛できる」とも主張した」

     

    インド太平洋地域で紛争が発生したときに、米国が韓国の基地を制限なしに使用できるアクセス権限がないのは痛手だ。在韓米軍には、北朝鮮侵攻阻止という任務だけに止まらない作戦範囲の拡大が迫っている。こうした変化に、韓国政権は柔軟に対応しないであろうという危惧である。

     

    (4)「共著者のカバナ氏は、本紙の電話取材に「在韓米軍削減はトランプ政権が掲げる単なる外交・安全保障政策の次元を超え、国外問題から少しずつ手を引こうとする米国国内の大きな流れを反映するものだ」、「在韓米軍削減は4年以内に現実となり得るシナリオだ」などと説明した。カバナ氏はさらに「北朝鮮の在来戦力に対する防衛は韓国の方が優れているかもしれない」「韓米間で現在協議中の戦時作戦統制権移管問題は長期的には米軍削減に向かう最初の段階になると思う」と述べた」

     

    米シンクタンクは、在韓米軍削減が4年以内に現実化するだろうとみている。米国では、シンクタンクの提言が、政策に取り入れられるケースが多い。

     

    (5)「カバノ氏は、「韓国は地理的、戦略的に非常に重要な位置にあるが、インド太平洋地域の有事に韓国から撤収・移動できる兵力の規模には限界があり、韓国国内の米軍基地活用についても保証がない」、「3万人の米軍兵力を必要に応じて使えないなら、米国としてはリスク要因だ。国防総省が体制を見直すに当たり、この部分は非常に重視するだろう」と予想した。台湾問題と関連してカバノ氏は、「国防総省は台湾海峡有事に韓国の基地を使って作戦を遂行したいだろうが、米国国内では韓国の同意が得られる可能性は低いとの見方が広がっている」「そのため韓国の米軍基地をメンテナンス、物流、情報などの支援機能に使えるよう、柔軟性を持たせることが現実的と考えている」との見方を示した」

     

    韓国左派政権は、中国との関係を重視している。在韓米軍基地が、台湾作戦に利用されることは、「戦争に巻き込まれる」という理由で反対するに決まっている。とすれば、事前に在韓米軍兵力の大半を他基地へ移動させることが賢明な策となるのだろう。

     

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    日米関税交渉は、7月20日の参院選後の10日間で精力的に行なう見通しが出てきた。米国が通告してきた自動車関税25%が、鉛のように重く日本経済へのし掛っている。こうした事態に、米国で余裕設備を持つ日産自動車が、ホンダ車の肩代わり生産する案が浮上している。日産とホンダにとって、双方がプラスの話である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(7月11日付)は、「日産、米国でホンダ車生産へ協議 工場の稼働率上げ関税影響を緩和」と題する記事を掲載した。

     

    日産自動車は、米国でホンダに自動車を供給する協議を始めた。稼働率が落ち込む日産の米国工場を活用し、ホンダ向けの大型車を生産する方向で検討している。自動車関税を巡っては日米の政府間交渉の溝が深い。日本車メーカーが連携して米国生産を増やし、関税影響を抑える。

     

    (1)「両社は、世界3位の自動車連合を目指して経営統合の協議に入ったが、条件で折り合いがつかず破談した。中国勢の台頭や自動車関税など経営環境の厳しさが増す。協業を進めて関係を再構築する。日産は、米国に2カ所ある完成車工場のうち、ミシシッピ州のキャントン工場でホンダ向けのピックアップトラックを生産する方向で協議している。同工場では、商用向けの中型ピックアップトラック「フロンティア」などを生産している。日産が、ピックアップトラックにホンダのブランドロゴを取り付けて生産し、ホンダが自社ブランドとして米国で販売する」

     

    日産が、ピックアップトラックにホンダのブランドロゴを取り付けて生産するもの。ホンダは、販売の穴を埋められる。

     

    (2)「ピックアップトラックは、運転席後方に開放型の荷台を備える小型貨物車。実用性の高さから米新車販売の2割を占める。ホンダは、米国で日常生活で使いやすいピックアップトラックしか手掛けていない。日産工場から車両を供給してもらうことで、本格的なトラック性能を求める消費者の需要を開拓できる」

     

    ホンダはこれまで、米国の日常生活で使いやすいピックアップトラックしか手掛けていなかった。今回の関税問題で急遽、この分野で販売の落込みをカバーする。

     

    (3)「米国での協業は、両社にメリットが大きい。米国の自動車関税を受けて、ホンダは2026年3月期に6500億円、日産も最大4500億円の営業利益の下押し要因になる。米国で販売する、日本車の米国輸入比率は高い。日産は米国販売車の47%、ホンダも32%を米国外から輸入している。4月から発動した25%の自動車関税の影響を回避するために現地生産が重要になっている」

     

    米国での協業は両社にメリットになる。日産は、操業度引上げ。ホンダは、新分野開拓である。こうし「相互支援」が、協業への足がかりになるかどうかだ。

     

    (4)「ホンダは、米国に5カ所の工場を持つが、新たな車種を現地生産するには時間がかかる。日産から車両を供与してもらうことにより、関税影響や開発費を抑えながら短期間で米国生産車を増やせる。一方、日産は販売不振を受けて世界で工場の稼働率が低迷している。調査会社のマークラインズによると、キャントン工場の24年の稼働率は57%にとどまり、一般的に80%前後とされる損益分岐点を大きく下回る。日産はホンダ向けを生産することにより、稼働率が高まり収益力の改善につながる」

     

    日産キャントン工場は、24年稼働率が57%程度だ。これを、ホンダ向けのピックアップトラック生産によって、稼働率を引上げられる。広大な米国市場では、両社の製品がバッティングすることもないのだろう。

     

    (5)「トランプ政権は、関税政策で強気の姿勢をみせている。日本などに対して、4月に公表した相互関税とほぼ同じ税率を81日から課すと表明した。自動車関税を巡っては日米両政府の溝は深い。自動車メーカーが連携して米国生産の増産を表明すれば、交渉材料の一つになりうる。日産とホンダは、24年末から経営統合の協議を進めてきた。ホンダは日産が大規模なリストラ案の策定に踏み込まないことに不満を抱き、日産に子会社案を突きつけた。日産からも「ホンダとは統合できない」と不信感が高まり、統合協議は破談した。話し合いは振り出しに戻り、協業は検討を継続することになった」

     

    米国で、両社が相互支援することにより理解が進むというメリットも期待できる。不信感を取り除くことは良いことだ。

     

    (6)「4月に日産が、経営陣を刷新したのを機に、両社は幹部による協議の場を定期的に開いてきた。両首脳ともすぐの経営統合協議の再開は否定している。まずは、メリットがある分野で協業し、関係を再構築していく」

     

    それにしても、いったんは協業を決意した両社が、感情のもつれで分かれてしまった。資本の論理の前に、感情が先行したもの。冷却期間をおいて、再び協業へのムードが出るか。

    テイカカズラ
       

    トランプ米大統領は10日、米NBCテレビのインタビューで「14日にロシアに関する重大な声明を発表するつもりだ」と述べた。詳細は明かさず「ロシアには失望しているが、数週間で何が起こるか見ていく」と語った。

     

    トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)を通じて、ウクライナへ新たな武器を供与する方針を示した。「米国はNATOに武器を送り、NATOがその費用を100%負担する。NATOが武器をウクライナに渡してNATOが費用を負担する」 と表明した。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月10日付)は、「プーチン氏『口先だけ』平和戦略、トランプ氏は忍耐切れ」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ氏は、ロシアによる空爆が続いていることを批判し、ウクライナへの兵器供与を再開する方針を示している。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は8日、トランプ氏がウクライナに地上配備型長距離防空システム「パトリオット」を追加で供与することを検討していると報じた

     

    (1)「ロシアのプーチン大統領は、厳しい選択を迫られている。戦場での優位を追求して米国から一段と大きな対応を招くリスクを取るか、それとも要求に関して一切妥協しないというこれまでの立場を後退させるのか。トランプ氏は8日、プーチン氏と関係が悪化していることを、これまでで最も明確に示した。閣僚会議でプーチン氏について「でたらめばかり並べ立てている」と述べ、「感じは良い」が、発言の多くは無意味なことが分かった、と続けた」

     

    プーチ氏は、口先で適当な発言をしている。本心では、戦争を止める意思がない。トランプ氏は、こう見抜いている。

     

    (2)「ここ数週間、ロシアはウクライナ東部での領土拡大に向けて攻撃を強め、同国の都市への空爆を激化させている。戦争を終結させると表明し、ウクライナとロシアに和平交渉開始を促してきたトランプ氏は、不快感を強めている。7日には、ロシアの攻撃に耐えられるようウクライナに兵器を供与すると述べた。ロシア政府は8日、米国との対話の余地を残したい意向を示した。米国がウクライナに供与する兵器について確認中だとし、トランプ氏の和平仲介への取り組みを評価していると強調した」

     

    ロシアは、なんとかしてトランプ氏を引きつけておきたいと必死だ。それだけに、14日のトランプ重大発表をどう受け取るか。

     

    (3)「ロシアのペスコフ大統領報道官は、米国と欧州を区別しようとした。「欧州もウクライナへの兵器供与に積極的に参加していることは明らかだ」とし、「こうした行動は、平和的解決を促そうとする試みとは、おそらく合致しないだろう」と述べた。一方で、ロシア政府内では米国のことは忘れて戦争への取り組みを強化すべきとの声も上がっていた。ロシアのタカ派で過去に大統領を務め、現在は安全保障会議副議長のメドベージェフ氏は、トランプ氏が大統領2期目に就任する前からプーチン氏が主張している立場を指摘した。それは、ロシア政府の要求を認める和平合意に至らなければ、同国は戦闘を続けるというものだ」

     

    ロシアの本心は、ロシアの要求を認めなければ、戦闘を続けるというものだ。トランプ氏は、こういうロシアへどう対応するのか。

     

    (4)「ロシアは、これまでのところ交渉で強硬姿勢を崩しておらず、戦争の解決には「根本的な原因」に対処する必要があると主張している。これはウクライナの非武装化と同国の政治に対する支配力を再び確立したいというロシアの意向を指している。アナリストらによると、プーチン氏は当初、外交を通じてこうした目標を達成できる相手としてトランプ氏を見ていた。こうした取り組みは、ロシアと関わろうとするトランプ氏の意欲と相まって、当初は成果を上げているように見えた」

     

    ロシアは、ウクライナの非武装化と、ウクライナへの政治的支配力の確立が狙いだ。ウクライナの属国化である。応じられるはずがない。これでは、決裂である。

     

    (5)「トランプ氏のロシアに対する姿勢は、ここ数週間で変化している。プーチン氏がイスラエルとイランの対立を巡って仲裁支援を申し出た際、トランプ氏はそれを退けた。「私は言った。『頼むから、自分自身のことを仲裁してくれ。まずはロシアのことを仲裁しよう』と」。先週の両首脳の電話会談で、トランプ氏は後に失望を表明した。「彼はその気がないと思う」とプーチン氏について語った。「彼が止めようとしているとは思えない。それは残念なことだ」。ここ数日間でプーチン氏に対するトランプ氏の口調は大きく変化したものの、トランプ氏はウクライナ支援にどこまで踏み込むつもりなのかは示していない」

     

    ロシアは、プーチン氏へ手を回してウクライナを支配する意図だ。これは、不可能であろう。トランプ氏が、応じるはずがない。

     

    (6)「米国との関係が明らかに後退しているにもかかわらず、ロシアは目標を諦めていない。それどころか、長期戦に向けて態勢を整えている可能性が高いとアナリストらは指摘する。カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのタチアナ・スタノバヤ上級研究員は、25年にわたって米国の大統領たちと交渉してきた経験を持つプーチン氏は、トランプ氏が見解を変える傾向があることを知っていると述べた。トランプ氏は現在、ウクライナの決意を称賛し、苦境に立つ同国への支援拡大を約束しているかもしれないが、すぐに再びプーチン氏の主張を支持する可能性がある」

     

    ロシアは、プーチン氏の心変わりを待っている。

     

     

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    これまでの中国は、習近平国家主席がデフレを認めなかったことから積極的経済政策はタブーであった。ところが、習氏辞任説が出るに及んで、中国人民銀行の政策委員までが、積極論を発言する「解禁ムード」になっている。習氏という「重石」が外れた影響であるかは不明。

     

    『ブルームバーグ』(7月11日付)は、「中国は30兆円超の追加刺激策必要、米関税への対応で-人民銀顧問ら」と題する記事を掲載した。

     

    中国は消費を喚起し、為替相場の柔軟性を維持するため最大1兆5000億元(約30兆7000億円)規模の新たな景気刺激策を講じ、米国の関税が景気に及ぼす影響に対処すべきだ。中国人民銀行(中央銀行)顧問らがこう提言している。

     

    (1)「人民銀の黄益平貨幣政策委員ら3人は、11日のリポートで、中国経済は持続的なデフレ傾向に加え、4月以降「新たな混乱」に直面していると指摘。「これら進行中の課題に対処するには、中国は安定した成長を維持するため、より強力な景気循環への対応策を採用するとともに、構造改革を積極的に推し進める必要がある」と論じた」

     

    トランプ関税が大きな圧力になっていることを窺わせている。とくに、労働集約製品が高関税の影響を最も強く受けている。ただ、これら輸出用の労働集約型製品は、国内販売転用に不向きなだけに救済方法が難しい。

     

    国務院の通知によると、一部地域の地方政府が失業保険の還付率を、中小企業に対しては最大90%とし、従来の60%から拡充。大企業では最大50%とし、30%から引き上げる。経営難の企業では、失業などの保険料納付の申請を延期できるようにする。

     

    16~24歳の失業者を雇用して保険料を負担する企業は、1人当たり最大1500元(209ドル)の補助金が支給される。地方政府に対しては、若年失業者と出稼ぎ労働者が職業訓練校に入学できるよう、年齢制限を緩和し職業教育を受けやすくすることも求めた。中国当局は、失業者対策に全力をあげている。事態の深刻さが伝わって来る。

     

    (2)「リポートは、20~30%の米関税による経済への打撃を和らげるため、今後1年で家計の消費押し上げに向け1兆~1兆5000億元規模の追加措置を検討すべきだとしている。中国政府は今年、超長期特別国債発行で借り入れた3000億元を使い消費支出を促す補助金に充てる計画だが、これを大きく上回る規模となる」

     

    家計の消費押し上げに向けは、1兆(約20兆円)~1兆5000億元(約30兆円)規模の追加措置を提案している。習氏は、これまで家計消費刺激策を忌避していた。家計の無駄遣いを奨励するようなもの、という認識であった。中国では、末端の家計が最も疲弊している。

     

    (3)「トランプ米大統領の関税措置や、中国による第三国を経由した輸出に対する米国の監視強化で輸出が低迷するリスクを踏まえ、中国が今後数カ月でさらなる景気下支え策を打ち出すとみるエコノミストは多い。中国本土では不動産市場の低迷が続き、企業が顧客つなぎ留めを狙った値引きを行い、デフレ圧力も強まっている」

     

    中国のデフレ圧力は、半端なものではない。不動産価格は、すでに4年も下落が続いている。中国社会は、住宅相場の下落が持ち家の評価を下げているので、これが消費抑制につながっている。ソロバン勘定に敏感である。

     

     

    あじさいのたまご
       

    習近平中国国家主席は、2年前に「物価が下がることは良いこと」と言い放った。この一言が、中国当局にデフレ経済であることの認識を遅らせるという専制主義国家特有の失態を招いた。最近、中国は過剰生産に基づくデフレに陥っているとの認識が表明され始めている。奇しくも、習氏辞任説と軌を一にする。事実上、「習氏の重石」が取れた結果であろうか。

     

    『ブルームバーグ』(7月11日付)は、「中国、デフレ巡る論調変化-過剰生産に本格対応なら世界経済に朗報」と題する記事を掲載した。

     

    中国共産党指導部は国内経済を長年悩ませてきたデフレ懸念と激しい価格競争に対し、ようやく本格的な対応に乗り出す兆しを示している。

     

    (1)「中国政府が発信する内容はここ数週間で明らかに変化しており、習近平党総書記(国家主席)が率いる指導部は、鉄鋼や太陽光パネル、電気自動車(EV)といった幅広い業種で価格や利益を圧迫している激しい競争について、これまでで最も率直な分析をしている。中国人民銀行(中央銀行)も同様の懸念を示しており、価格低迷の継続を経済の主要課題として数年ぶりに挙げた。5月には物価下落圧力に関する詳細な分析を公表し、投資と供給に偏った成長モデルの下では、金融緩和による景気刺激には限界があると強調した」

     

    中国人民銀行が、価格低迷の継続を経済の主要課題として数年ぶりに挙げた。過剰生産下では、金融緩和しても効果に限界のあることを認めた。財政出動が、本番という言外の主張だ。銀行は、利ざやがレッドラインを割り込むほど悪化している。

     

    (2)「この問題に解決の道筋が見えれば、世界経済には朗報だ。長年、貿易相手国との摩擦要因となってきた過剰生産能力の抑制に成功すれば、貿易摩擦の緩和と信頼回復につながる可能性がある。ただし、先行きは不透明だ。習指導部は外需が鈍化し、米国との恒久的な貿易協定が依然として見通せない中、成長を阻害したり雇用を脅かしたりすることなく、供給過剰を抑制するという難題に直面している」

     

    今になってデフレ認識を深めたのは、習近平氏の圧力が消えかかってきた結果であろう。

     

    (3)「JPモルガン・チェースの劉鳴鏑チーフストラテジスト(アジア・中国株担当)はブルームバーグテレビジョンとの9日のインタビューで、対策が「適切に実行されれば、中国の過剰生産能力や輸出過剰がもたらす国際的な緊張を和らげるという点で、世界貿易にとってプラスになる」と指摘。その上で「ただし短期的には、GDP(国内総生産)や雇用に優しい政策ではないため、バランスの取れた対応が求められる」とも語った」

     

    過剰生産を止めれば、雇用問題を悪化させる。これをどう救済すかだ。失業対策で、莫大なコストが発生する。

     

    (4)「明確な政策が正式に発表されたわけではないが、総合的な対応策への期待が高まりつつある。今月開かれた共産党中央の経済政策を担当する最高機関の会合では、効率よりも生産量を重視する税制や地方政府による投資促進といった問題を引き起こしている根本的な要因が認識された。ただし、デフレへの直接的な言及はない。デフレは政府にとって長らくタブーとされてきたテーマだ」

     

    25年の公的債務は、GDP比8%台にも達している。公的債務残高は、26年に対GDP比100%を超える。米国と並んで財政悪化が目立つのだ。強気の習近平氏の座が揺らぐ背景である。

     

    (5)「それでも、パンテオン・マクロエコノミクスの中国担当チーフエコノミスト、ダンカン・リグリー氏は党中央の認識について、「中国の政策当局が自動車などの業種での無秩序な競争と価格競争の是正に乗り出す意思を示すこれまでで最も強いシグナルだ」と指摘。自己規制による生産抑制がほぼ失敗に終わった業界団体について触れられなかったことについては、「より強いトップダウンの姿勢を意味する可能性がある」との見方を示している」

     

    無秩序な企業間競争は、補助金政策の結果である。「自己規制による生産抑制がほぼ失敗」したのは、補助金という「エサ」があったからだ。

     

    (6)「業界団体や政府系メディアもこうした論調の変化に呼応し、価格競争の終結に向けた取り組みを呼びかけている。建設用の主要鋼材である鉄筋の価格が17年以来の安値に下落し、ガラスも9年ぶりの安値水準付近となる中で、鉄鋼やガラス製造などさまざまな業種の企業が生産削減を計画していると伝えられている。中国工業情報省は太陽光関連企業と会合を開いたほか、建設関連の約30社以上が「内巻式」競争に反対するイニシアチブに署名した。内巻式とは、生産能力の過剰がもたらす競争激化を指す中国独特の用語だ。政府はまた、不公正な商慣行の是正に向けた取り組みの一環として支払い遅延に関する取引先の苦情を受け付ける窓口を設けた」

     

    純粋な市場経済国であれば、中国のような無益な値下げ競争など起らない。企業が倒産するからだ。中国には、そういう歯止めがない。政府が、企業活動へ補助金という形で介入している結果である。まさに、「無間地獄」である。

     

     

     

     

     

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