半導体は、「21世紀の石油」という呼び名の通り、産業と地政学を左右する存在である。人工知能(AI)の急速な発展で、半導体の重要性は一段と高まっている。この新たな展開のもと、トランプ米大統領は中国に対抗すべく動き出している。この米国は、日本という「同伴者」なしには世界覇権を維持できない事態になっている。
『日本経済新聞 電子版』(11月16日付)は、「半導体・AI戦争、対中攻防は日米で連携を 経済史家クリス・ミラー氏」と題する記事を掲載した。クリス・ミラー氏は、タフツ大教授。2022年の著書『半導体戦争』が世界中で話題となり、多くの企業にも助言を求められている。日経コメンテーター 西村博之氏がミラー氏へインタビューした記事である。
ここ数年で顕著になったAIの発展は、半導体の進化が最大のけん引役だ。だからこそ世界のテック大手も最先端の半導体を満載したデータセンターに巨費を投じている。これが経済の生産性を大きく向上させ、情報収集や軍事面の能力も高める。結果として半導体とAIの主要企業とインフラを握る国が、強い政治力をもつことになる。
(1)「(質問)米政府は経済への関与を積極化している。補助金を使って市場シェアを広げる中国に対抗するには、競争条件を一致させる必要があるとの判断だ。(答え)バイデン政権時から、半導体生産の国内移転を促しつつ、中国への技術流出を防ぐ米国の方針は一貫している。トランプ政権が異なるのはその手段で、関税を使おうとしているほか、企業トップと取引する姿勢も強めている」
米国は、中国の補助金による産業育成へ対抗して、同じ競争条件維持で産業育成政策に取り組んでいる。
(2)「(質問)中国の生産能力の現状と行方をどう見ますか。(答え)中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)は今、回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を少量生産する。TSMCが2018〜19年に製造を開始し20年には大量生産していた製品だ。つまりSMICはTSMCより5〜6年は遅れている。過去15年間、変わらないギャップだ。直近は米制裁で東京エレクトロンやオランダのASML製の最先端の製造装置が入手できず、差がさらに広がった可能性もある。米政権内には、中国が早々に追いつくとみる人々もいるが、私は中国がなお苦戦していると思う。SMICの最大顧客である中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が、AI向けに制裁を迂回して密輸入したTSMCの半導体を使っているのは象徴的だ」
中国は台湾のTSMCから5~6年は遅れている。ファーウェイが、TSMCの半導体を密輸して使っているほどだ。技術の差は,歴然としている。
(3)「(質問)旧世代の「レガシー半導体」分野で、中国が存在感を高めています。(答え)中国は、補助金で旧世代半導体を大量生産して日米などの企業の投資意欲をそぎ、各国の産業基盤を中国製半導体に依存させようとしている。これは極めて危険な動きだ。例えば自動車に使われる千もの半導体の98%はレガシー半導体で、いずれ大半が中国製になる。これに頼れば、中国が望むままに生産は止まる。レアアース(希土類)をめぐる摩擦の、より激しい形態だ」
中国は、旧世代半導体の支配権を狙っている。現在は、世界の30%程度のシェアを握っている。
(4)「(質問)日本は半導体産業の再生に向けラピダスを設立、TSMCを誘致し、約10兆円の資金を投じます。(答え)各国が半導体分野に巨額の資金を投じるなか、日本が主要な地位を保つには必要な対応だ。折しも半導体産業は大きな変革期にある。AIの進化で求められる半導体のタイプは様変わりした。同時にAIの活用で半導体の生産工程も激変し、より効率的な設計・生産が可能になった。日本は汎用の半導体でなく、これら特定分野向けの半導体に注力するべきだろう。日本は、最先端半導体とAIの大胆な活用で主要産業の競争力を保とうと自己改革に挑んでいる。AIなしのビジネスはもはや成功しない。生き残りには研究開発や製造・設計工程にAIを組み込むしかない」
ラピダスは、PCへアクセラレーターを接続するAI半導体を目指して試作中だ。27年から量産化へとり掛る。業種ごとのAI半導体製造を目指すもので、日本の精密機械が一段と付加価値を高める。
(5)「(質問)日米は、どう連携すべきだと考えますか。(答え)現在、中国はソフト分野で米国に次ぐ世界第2位、精密製造分野でも日本に次ぐ第2位だ。AIの活用で中国のロボット技術が発展すれば、ソフトとハードを融合させたエコシステムが進化し日米双方をしのぐと懸念している。われわれが中国と渡り合う唯一の方法は、日本のロボット技術や精密製造の能力を米国のソフトウエア技術と統合することだ。両国企業の連携でシリコンバレーのデジタル分野の力と日本企業が物理面でできることを掛け合わせ、次世代のサプライチェーン(供給網)を構築するのだ」
西側諸国が中国へ勝利するには、米国のソフト力と日本の精密機械製造能力の結合が必要である。日米製造業の「戦略的統合」こそが、世界の民主主義体制を守る上で不可欠だ。次の記事もご参考に。



