中国には、「転んでもただでは起きない」計算高さがある。レアアース輸出では、輸出先に最終ユーザーの「生産、運営、工程フロー」に関する情報を頻繁に要求している。経営上の秘密事項を「丸裸」にする、ビジネスモラルに反する行為を行っているのだ。かつて、中国へ進出する企業に技術情報開示を要求し、それを盗用してきた経緯がある。それだけに、レアアースでも加工技術を盗用しようとしているのであろう。「三つ子の魂百まで」だ。
『フィナンシャル・タイムズ』(6月12日付)は、「中国、レアアース輸出先企業に機密情報要求 知財盗用懸念も」と題する記事を掲載した。
西側各国の企業によると、中国がレアアース(希土類)や磁石の輸出にあたって機密性の高い事業情報を企業に要求している。これに対し企業の間ではデータの悪用や企業秘密の漏洩への懸念が高まっている。
(1)「複数の企業や中国の公式ガイドラインによると、中国商務省は重要鉱物や磁石の輸出承認手続きの一環として、製品生産の詳細情報や機密の顧客リストの提出を求めている。中国はレアアースの加工とレアアースを使った磁石の製造を支配している。これらの磁石は、電子機器、電気自動車(EV)のモーター、風力発電タービンや、戦闘機などの防衛用途に広く使用されており、中国政府は貿易相手国に対して大きな影響力を持っている」
中国商務省は、重要鉱物や磁石の輸出承認手続きの一環として、製品生産の詳細情報や機密の顧客リストの提出を求めている。こういう独占的な振舞は、いずれ終る。日本が、27年1月から南鳥島深海でレアアース試験採掘業を開始するからだ。
(2)「ドイツの磁石メーカー、マグノスフィアのフランク・エッカート最高経営責任者(CEO)は、中国当局が輸出承認する上で、企業に対して製品や事業に関する「機密情報」の開示を求めていると述べた。「中国が(こうした)情報を得ようとしているのは問題だ。しかも彼らは情報を盗むよりむしろ正式に取得しようとしている」と同氏は述べた。中国当局は4月初旬、米国との報復合戦のような貿易戦争の一環として、7種類のレアアースおよび関連磁石材料に対する輸出規制を強化した。この動きを受け、世界中の企業が生産維持のため資源確保を急いだ」
中国は、機密情報を「盗む」のでなく、「要求」している。独占の立場を悪用したものだ。
(3)「現在のレアアース輸出許可制度では、中国は外国企業に対して、事業、従業員、最終用途、生産情報に関する包括的なデータの提出を義務付けている。商務省のデュアルユース(軍民両用)輸出に関するガイドラインによると、企業は製品や設備の画像、過去の取引関係の詳細も提出するよう求められる場合がある。イタリア・フィレンツェ近郊の工場でコンサート用スピーカーを製造するイタリア企業、B&Cスピーカーズのサプライチェーンディレクター、アンドレア・プラテージ氏は、「中国は本当に多くのことを要求する」と語る」
中国は、入国申請でも不必要な情報まで一切合切集めている。狙いは、今後の「スパイ行為」で利用する意図であろう。レアアース輸出でも、同じことを始めている。
(4)「プラテージ氏は、B&Cの生産ラインの写真と動画、市場に関する情報、顧客名、一部顧客の注文内容(名前をぼかしたもの)を提出したと述べた。「提出するしかなかった。そうしないと申請書類は全て脇に置かれ、中国は要求情報を待つだけだからだ」とプラテージ氏は述べた。B&Cは既に2件の注文承認を受けており、3件目を待っていると同氏は付け加えた。「隠すものは何もない。我々はラウドスピーカーを製造しているだけだ」と語る」
生産ラインの写真と動画まで要求するのは、技術盗用が目的である。悪質な行為である。
(5)「専門家らは、中国商務省の要求が、公表されているガイドラインを越える場合があることを指摘している。匿名を条件に取材に応じた中国の輸出管理担当弁護士は、同省が最終ユーザーの「生産、運営、工程フロー」に関する情報を頻繁に要求していると述べた。英国を本拠に、各種磁石製品を提供しているマグネット・アプリケーションズのプロダクトマネジャー、マシュー・スワロー氏は、同社は4月に「最終ユーザーに関する証拠不足」を理由に申請を数回拒否されたと述べた。「現在は、製造中の磁石の写真、最終用途の詳細、最終ユーザーの顧客情報やその他の詳細などを提出している」と同氏は述べ、これにより輸出承認を数回取得できたと説明した」
中国は、最終ユーザーの「生産、運営、工程フロー」に関する情報を頻繁に要求している。技術盗用目的であるとは明らかだ。
(6)「スワロー氏は、顧客情報の開示について「確かに懸念がある」と語る。同氏は顧客に対し、申請書に貿易や知的財産に関する機密情報を記載しないよう助言していると述べた。こうした申請は通常、中国のサプライヤーが輸出先の顧客の代理として現地の商務局に提出している。このため貿易上の秘密やビジネスパートナー情報が盗み取られるのではないかとの懸念も浮上している。中国に進出する欧州連合(EU)域内企業で組織する中国欧盟商会(在中国EU商工会議所)のイェンス・エスケルンド代表は、センシティブな業界の企業にとって、詳細な要件が輸出許可証の申請や順守を困難にしていると指摘している。「一部の申請では、使用目的を詳細に明記する必要があり、これが知的財産に関する懸念を引き起こす」と同代表は述べた」
中国が、使用目的を詳細に明記させることを要求するのは、知的財産侵害懸念をもたらしている。こういう事態を放置すれば、機密情報が簡単に中国の手へ渡るのだ。