勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国経済が、ドロ沼状況へ足を踏み入れている。低価格帯商品が、人気を集めるという典型的な状態へ落込んでいるからだ。EV(電気自動車)やスマホも、メーカーは低価格製品を競って売出している。中国が、健全な経済状態にない証拠だ。

    かつての日本も、同じ道を歩まされた。長年、値上げしない製品が「物価の優等生」として持てはやされた。裏返せば、デフレの苦汁を飲まされていたことに気付かないという錯覚に陥っていた。中国は、日本以上の苦境に立たされている。地方政府自体が、歳入欠陥に落込んでいるからだ。

    『日本経済新聞 電子版』(3月24日付)は、「中国、新エネ車やスマホにもデフレの足音 節約志向濃く」と題する記事を掲載した。

    中国で電気自動車(EV)など新エネルギー車やスマートフォンなどの売れ筋が低価格帯にシフトしている。景気減速で消費者の節約志向が強まり、メーカー間の価格競争も激しい。内需不足は鮮明になっており、店頭からはデフレの足音が聞こえてくる。


    (1)「3月中旬、広東省広州市の郊外にあるEV新興、小鵬汽車(シャオペン)の店舗で店員は「店の販売台数の半分が最安値の車種に集中している」と明かした。店の売れ筋は2024年8月発売の「MONA M03」だ。12万〜16万元(250万〜330万円)と手ごろな価格とスタイリッシュな外観が人気だ。最も高いモデルは高度な運転支援機能も備える。以前は18万〜20万元の「G6」が主力だったが、車情報のアプリ「懂車帝」によると中国全体で直近半年のMONA M03の販売台数はG6の3倍に上る」

    小鵬汽車(シャオペン)EVは、12万〜16万元(250万〜330万円)が売れ筋である。耐用年数は4~5年であろう。高い買い物だが、消費者はそのことに気付かず、「安物買いの銭失い」に陥っている。

    (2)「プラグインハイブリッド車(PHV)に強みを持ち上質な印象がある理想汽車でも同じ傾向がある。広州のシャオペン近くの店では、入り口正面に24年4月発売の多目的スポーツ車(SUV)「L6」があった。店員によると同車種は店の販売台数の4割を占める。L6は25万〜28万元するものの理想では最も安い。従来の主力だった「L7」(30万〜36万元)より大幅に安く、懂車帝によるとL6の直近半年間の販売台数はL7の2倍に上る。新エネ車のプライスリーダーは比亜迪(BYD)で7万〜9万元の「海鴎(シーガル)」は中国で最量販車の1つだ。シャオペンや理想は運転支援機能や上質感でBYDと差異化してきたが、価格の押し下げ圧力は全体的に増している。中国国家統計局によると2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.7%下落した。2024年1月以来のマイナスで、自動車などの耐久財の値下がりなどが影響した」


    理想汽車のプラグインハイブリッド車(PHV)の最新型は、25万〜28万元(520万~582万円)で、これまでの30万〜36万元より大幅に安くなっている。2割近い値下げである。安い部品を使ってコストダウンを図っているのであろう。こうして、2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.7%下落した。

    (3)「スマホなどの電子製品も節約志向が現れ、高級路線の米アップルがあおりを受けている。米調査会社IDCによると、アップルは24年の中国スマホ出荷台数が5%減り、米制裁の影響から復活してきた中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に抜かれシェア3位に後退した。シェア首位だったのは中国vivo(ビボ)で、コストパフォーマンスの高さが支持され出荷は10%増えた」

    スマホも、値下げ競争へ突入している。高価格帯のアップル製品が、その余波を受けている。

    (4)「iPhoneは、6000元以上が中心なのに対し、vivoの主力は4000〜6000元だ。広州中心部のショッピングセンターにあるvivo販売店の店員は、「ドイツの光学機器メーカーと提携しており撮影機能は抜群。同レベルで他のメーカーなら数千元は高い」と話していた。安価な「Yシリーズ」なら、2000元台で屋外で仕事する人向けに自動で画面の明るさやスピーカーの音声を調整する機能も備えている。店員は「iPhoneは高い」という。アップルは24年、スマートウオッチやワイヤレスイヤホン、タブレット端末など、軒並み中国でシェアを落とした。低価格品もそろえる地場メーカーに顧客を奪われている」

    アップルのiPhoneは、6000元以上が中心だ。vivoの主力は、4000〜6000元でワンランク下である。消費者は、懐と相談してvivoを選ぶのであろう。


    (5)「中国政府はデフレにつながる内向きの過当競争の「内巻」に歯止めをかけたい考えだ。だが供給過剰は構造問題で企業は生き残りのために価格競争から逃げ出せない。販売競争激化で理想は24年12月期の純利益が前期比3割減と苦戦した。国家統計局によると工場などからの出荷価格を示す2月の卸売物価指数(PPI)も前年同月比で2.2%下がり、2年5ヶ月連続で低下した。直近では、米テスラも中国で主力車「モデルY」の廉価版の開発を始めたと報じられた。中国政府は、消費喚起へ消費財の買い替えを促す補助金支給で消費てこ入れを目指すが、デフレは現実味を帯びている」

    中国の物価状況は、明らかにデフレ状況にある。当面、ここか抜け出す道はなさそうだ。「八方塞がり」とは、まさにこの状況を指している。不動産バブル崩壊後遺症とは、こういう事態を指すのだ。


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    人事停滞が示唆する守り
    経済より政権安泰を重視
    中国の日韓へ接近裏事情
    中ロ関係が希薄化すると

    米国トランプ大統領は、同盟国も巻き込んだ関税戦争を仕掛けている。こうした混乱を横にみて、中国の習国家主席はロシアやイランと連携を深め、着々と勢力拡大に乗り出しているとする見方さえ出てきた。

    例えば、『ウォール・ストリート・ジャーナル』のコラムでは、中国が今、鄧小平の時代なら国際危機につながるような大胆な外交措置を取ることが可能な状況と指摘している。西側諸国は現在、そうした中国の動きにほとんど気付かないと悲観的になっている。習氏は果たして、西側諸国の混乱に付け入って、大胆な措置に打って出られるであろうか。これは、中国経済の混乱ぶりを知らない外交評論と言うべきだろう。


    中国は現在、経済状況が深刻な事態にあり、西側の虚を突く余力がゼロである。習氏は、香港企業が米企業主導の企業連合に、パナマ運河両端(大西洋と太平洋)にある港湾の管理権益の売却計画に激怒したと伝えられている。逆に、トランプ戦略で先手を打たれているのだ。「トランプ礼賛」をする訳でないが、米国は中国封じ込みへ全力を挙げている。習氏は、ハッキリと守勢に立たされている。その理由は何か。

    外交戦略とは、国内問題で懸念がないときこそ、本領を発揮できるものである。国内経済がガタガタの状態では満足な手を打てないものである。「外交は内政の延長」と言われるごとく、国内基盤が盤石であって初めて外交戦略が実を結ぶ。中国は、不動産バブル崩壊後の混乱が未だ終息せず、地方政府の行政能力は経済面から極端に制約されている。これが、庶民生活を混乱に落とし入れている。今の中国には、外交で西側をきりきり舞いさせる実力がないのだ。

    中国は不動産バブルによって、誰でも不動産さえ買えれば豊かになれる「チャイニーズ・ドリーム」が存在した。それが現在、完全に崩れ去った。中国にとっては、歴史の「ボーナスタイム」であったのだ。これからは、「ゴミ時間」が始まるとSNSで自虐的に語られている。ゴミ時間とは、「歴史において、個人が状況を逆転することは難しく、失敗が運命づけられているゴミのような期間」とされる。中国にとっては、「暗闇」という意味に理解されている。


    人事停滞が示唆する守り
    中国共産党内部は、見えにくいカーテンに覆われている。外部からほとんどその動きを伺い知ることができないのだ。その中で唯一の手掛かりが、人事動向とされている。今年の全人代では、目立った人事異動がなかった。これは、習政権の世代交代で若返りが当面、進まないことを示している。「人事停滞」は、なぜ起っているのか。

    習氏が、絶対的権力を握っているならば、人事は自由に行えるものだ。内部で多少の不平不満があっても、任命権者習氏の「威光」に逆らえないからだ。その威光が、末端まで届かなくなっているから、人事停滞は起こるのであろう。もう一つの理由は、習氏自身の人事である国家主席4期目を実現させるには、人事で波風立てずにおくことが誰からも不満を起こさない「最善の策」との解釈もできる。だが、人事停滞は行政の停滞を招くという大きな代償を伴うのだ。

    習氏は、3月の「全人代」(国会:年1回開催)直前の集団学習会(2月)で取り上げたテーマが、「国家政権の安全維持」であった。集団学習会とは、月に1回ほど計24人いる党政治局メンバーが大集合する会議と共に開く公式の勉強の場とされる。全人代開幕前の最後となる会合テーマが、経済問題でなく国家政権の安全・安定だった。これは、極めて意味深長であると指摘されている。習氏が、経済問題よりも政権の安全維持を重視していると受け取られているからだ。


    中国は、25年経済成長率目標を「5%前後」として据え置いた。国債などの公的債務が、25年名目GDPに対して8.6%と推計される事態だ。25年も、昨年同様に名目GDP成長率4.2%と仮定すれば、前記のように公的債務の対GDP比は8%台に乗る計算である。ここで改めて気付くことは、8.6%の公的債務によって4.2%の名目成長率しか達成できない経済の疲弊ぶりである。債務という資金供給が、名目GDP成長率よりも2倍も多く投入される事態は、中国経済が「ザル状態」で水漏れしている状況にあることを示している。

    「8.6%-4.2%=4.6%」の4.6%は、途中で消えてしまった計算だが、どこへ消えたか。それは、金利として消えたのであろう。この推測が正しいとすれば、中国経済は完全な「ゾンビ状態」へ落込んでいる証拠である。冒頭に掲げた、「習氏がロシアやイランと連携を深め、勢力拡大に乗り出す」状況には全くないのだ。

    習氏は、こういう中国経済の実態を認識させられているはずだ。だから、米国が中国の要求する「4つのレッドライン」を踏みにじっても、立ち向かう姿勢をみせないで静観を余儀なくさせられている。過去の例から言えば、米国へ「烈火」のごとく怒り猛反撃したはずである。それが、全くの「音なし」であるから驚くのだ。

    経済より政権安泰を重視
    習氏が、国内経済の疲弊ぶりを認識した結果の反応はどうであったのか。それが、「国家政権の安全維持」へ向っていることに現れている。話題が、経済保全から国家安全へ切替ることで、習氏が責任を回避し同時に、国家安全確保による「習氏の権力安泰」へ移しているのだ。(つづく)

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    https://www.mag2.com/m/0001684526



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    韓国経済は、昨年12月3日のユン大統領による戒厳令発動から大きな混乱状態へ落込んでいる。この結果、海外から見る韓国の今年の経済見通しは、ますます暗くなっている。米トランプ政権の関税引き上げ政策も、韓国の経済成長率をさらに引き下げる要因となっている。こうして、25年の経済成長率は、最新予測のたびに下方修正される悲観的な状況に陥っている。

    東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(韓中日)のマクロ経済調査機関であるAMROは3月21日、韓国成長率が今年1.6%と予想した。昨年12月は、1.9%で、一挙に0.3ポイントも引き下げられた。3月19日には、国際格付け会社フィッチ・レーティングスが今年の韓国GDP見通しを1.3%に下げた。昨年12月に2.0%と提示したほど。韓国経済の下方修正ラッシュによって、韓国国内では「韓国製造業の実存的危機」(自己全否定)という超悲観的な見通しまで出てきた。



    『中央日報』(3月23日付)は、「韓国製造業の実存的危機」と題する記事を掲載した。

    これまで韓国は、米国中心の世界秩序で経済発展してきた。しかし、ドナルド・トランプ大統領の登場後、このような環境がもう持続できないということを目撃している。中国の浮上はさらに脅威的だ。ドイツ1位の自動車メーカー・フォルクスワーゲンも、中国の電気自動車攻勢に揺れるほどだ。電気自動車への転換が遅すぎたし、BYDのような中国の電気自動車メーカーが成長し続け、中国市場でのシェアが落ちたために生じたことだ。昨年3月、ドイツのシュピーゲルが記事を出したが、見出しが「ドイツ自動車産業の実存的危機」だ。

    (1)「韓国は、主力産業の相当数が中国と競争関係にある。ドイツより深刻だ。製造業全体が実存的危機を迎えたと見ることができる。BYDは5分の充電で400キロメートル走ることができる技術を披露した。半導体などを除けば、中国市場で売られている韓国製品は、いまや指折り数えることができるほどだ。米国の牽制の中でも、ディープシークという人工知能(AI)まで開発した中国との競争は、本当に容易ではないだろう。核心製造業は良い働き口とも直結する。韓国は一体どんな戦略で今の製造業基盤を守るのか」


    中国は、EV(電気自動車)で疾走している。韓国は、サムスンの半導体技術停滞で、非メモリー半導体への進出で大きな問題を抱えるにいたった。このまま、メモリー半導体だけの生産国に止まる悲観的な状態に陥る懸念が出てきた。日本は、ラピダスによって非メモリー半導体生産国として発展できる可能性が大きくなっている。これと対照的に、韓国半導体の停滞化が現実化している。

    (2)「サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長は最近、役員セミナーで「サムスンは生き残るかどうかという生存の問題に直面した。経営陣から徹底的に反省し、「死即生(死ぬ気になって生き残る)」の覚悟で果敢に行動する時」というメッセージを伝えた。韓国1位の企業がこのような状況なら、他の企業も例外ではない」

    韓国トップ企業のサムスンは、「死即生」の覚悟で経営に臨むとして、覚悟を新たにする事態となっている。


    (3)「一部労組の現実認識は大きく異なるようだ。現代(ヒョンデ)製鉄は営業利益が急減したが、労組が現代自動車水準の成果給を要求し、労使の摩擦が続いている。35万台の生産まで物価上昇率水準の賃金引き上げだけに合意して始めた光州(クァンジュ)型雇用事業もストライキが始まり、存廃の岐路に立たされた。労組の無理な要求は共倒れを招きかねない」

    労組は、相変わらず夢うつつの状態にある。現代製鉄は、同じ企業グループの現代自動車が高収益で高い成果給を得ているので、これと同じ成果給を要求するという「トンチンカン」ぶりをみせて失笑を買っている。業種が違えば、給与も異なることに気付かない「嘘のような本当の話」が聞かれるのだ。

    (4)「政府と政界はどうか。文在寅(ムン・ジェイン)政権時代は無謀な脱原発を敢行し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は研究・開発(R&D)予算をむやみに削減して大きな混乱を与えた。共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は20日に李在鎔会長に会い、「企業がうまくいってこそ国がうまくいき、サムスンがうまくいってこそ投資家も豊かになる」と述べた。しかし、半導体分野の週52時間例外問題は議論されなかったという。激励の言葉だけでは問題は解決しない」

    韓国政界は、労組と同じように現実認識力に欠けている。理念先行で現実を無視している。とくに左派政党は、現実に対して「色眼鏡」(思想先行)で接しる時代錯誤が著しいのだ。韓国経済は、政界の混迷のままに救われないのだ。


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    株価は、経済を映す鏡である。経済の森羅万象が株価に映し出されるからだ。米国経済もこの本質に変わりない。ここ2ヶ月で、米国株式市場は大きな動きをみせた。問題は、大幅下落の後に反発力が鈍い点に注目すべきである。株価下落が一過性と判断するのは、余りにも早計と言えそうだ。

    ここ2ヶ月のダウ工業株平均は高値から17%下落し、現在は11.6%の値戻しである。米国経済との絡みから言えば、ダウ運輸株平均が個人消費関連を網羅しているだけにこの動きが先行性を持っている。ダウ運輸株平均は、高値から23%下落し、現在はわずか2.9%%の戻りにすぎない。これは、米国株市場が明らかに変調を来している証拠であろう。ダウ運輸株平均こそ、米国景気の先行指標として注目する存在である。4月に入れば、トランプ政権が大型の関税引上げを発表する。その時が、山場を迎えよう。


    『フィナンシャル・タイムズ』(3月19日付)は、「『株式自警団』の警告、トランプ政権に効かず」と題する記事を掲載した。

    株式自警団は、事態が行き詰まって米株価が下落した場合、トランプ大統領が注目して、自身の挑発的な政策の一部を撤回させるのではないかという考え方に基づいている。こうした役目は一般的に債券市場の投資家が果たしてきたが、トランプ氏は1期目に好調な株価という偶然の栄光に酔いしれることができた。それなら逆の展開にも敏感に反応するに違いないと、投資家もアナリストも思っていたはずだ。

    (1)「トランプ政権2期目で、この考えは2月に初の試練に見舞われた。友好的な隣国であるはずのカナダとメキシコに対し、トランプ氏が重い関税を課す意向を示した時だ。残念ながら、株式自警団の効果は不十分だった。株価は急落したものの、ホワイトハウスに警鐘を鳴らすほどではなかった。するとトランプ政権は引き下がらず、むしろつけ上がった。より強力な自警団が必要とされているような印象だった」

    これまで、市場動向がトランプ氏の政策の歯止め役になると期待されてきた。それが、不発であったという「思い」が強いという。だが、4月以降に大型の関税引上げ案件が控えている。油断はできないのだ。


    (2)「1ヶ月後、市場の混迷はさらに深まり、米株式市場が直近の高値から10%下げるという「調整局面」に一時陥った。まだ下げ進むかどうかについては、当然ながら意見が分かれる。2人のアナリストに聞けば、少なくとも3通りの答えが返ってくるだろう。いずれにしても、米国に対する運用担当者の見方は、今の段階からすでに大きく変わってしまっている」

    米国株式市場では、ダウ運輸株平均がマクロ経済の先行性を持っている。冒頭に指摘したように、2ヶ月間で23%下落し2.9%の値戻しに止まっている。米国の個人消費関連は、深く傷ついているのだ。見落としてはいけない指標である。

    (3)「米銀大手バンク・オブ・アメリカが18日、世界のファンド運用担当者を対象とした月次調査結果を発表したところ、米国株への投資比率を表す指標が統計史上最大の落ち込みを記録した。米国株を「アンダーウエート」(基準を下回る構成比率)とする割合が「オーバーウエート」(基準を上回る構成比率)とする割合を25%近く上回り、投資配分の指標としては前回から40ポイント低下した。これまで大いにもてはやされてきた「米国は例外」という概念はもうピークを過ぎたという回答が7割近くに上った」

    米国株がピークを過ぎたとみる回答が7割近い。これは、無視できない動きだ。


    (4)「地合いは悪い。バンカメの最新調査では、世界経済が軟化するという悲観的な観測も1994年の統計開始以来で2番目の大幅増となった。ちなみに、悲観度が統計史上最も大きく高まったのは5年前、新型コロナウイルス禍で世界がロックダウン(都市封鎖)に直面した時だった。いよいよ自警団らしくなってきた。これまで、ほぼすべての運用担当者が、米株式市場が世界の市場を率いてきたと信じていた。そうしたなか、二転三転する関税政策に加え、「地政学的な再調整」と遠回しに表現される外交方針の目まぐるしい転換は、米国市場の汚点だ。そうしたメッセージが、ウォール街からトランプ氏にはっきりと突きつけられた」

    世界経済が、軟化するという悲観的な観測は、1994年の統計開始以来で2番目の大幅増になっている。現状は、「嵐の前の静けさ」である。

    (5)「トランプ氏が、心変わりして政策を巻き戻すという「プット」(注:オプション取引で売る権利のこと)の発動を待つ人々は現在、見通しを誤ったという恐ろしい自覚に近づきつつある。英銀大手HSBCのマルチアセット運用部門は「プットはどこに行った」と問いかけた。同部門によると、「トランプ・プット」の可能性が戻ってくるには、国債または株式市場の持続的な流動性低下、金融システムの根幹に関わるストレスの発生、リスク資産の世界的な暴落のいずれかが実際に起きる必要がある。現状はどれにも当てはまらない。例えば、米国の株安は欧州にまで完全に波及しているわけではなく、相場の動きは不快ではあれども秩序を保っている」

    現状が、明るい方向へ向っていると言える証拠はゼロだ。むしろ、4月からの大型関税引上げが始まる。その影響が、これから株式市場を揺り動かすであろう。現状は、「小休止」状態である。



    テイカカズラ
       

    中国は、米国の高関税政策に苦悩している。国内経済が沈滞しているだけに、対米輸出は重要な支柱である。そこで浮上しているのが、1980年代の日本が行った対米輸出の自主規制である。ただ、日本は自主規制しながら米国内での工場建設を行った。だが、トランプ政権は中国企業の投資受入れに対してどう対応するのか不透明である。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月22日付)は、「中国政府、対米輸出の自主規制も検討 トランプ氏を懐柔する狙い」と題する記事を掲載した。

    中国政府はトランプ1次政権時に、1980年代の日本のように米国の貿易圧力には屈しないことを決意していた。だが中国国内の景気が低迷し、2期目のトランプ政権からさらに大きな経済的攻撃に直面する中、同国が当時の日本の戦略を一部踏襲する可能性も生じている。


    (1)「中国政府のアドバイザーらによれば、中国は数十年前の日本と同様に、米国への特定商品の輸出量を自主的に制限することで、米国のさらなる関税引き上げやその他の貿易障壁を回避しようと検討。日本は1980年代に輸出自主規制(VER)に基づき、対米自動車輸出を制限することで、米国の高関税賦課を回避した」

    中国は、口先では米国の圧迫には徹底的戦うと勇ましい言動をしているが、懐事情から言えば「ヒヤヒヤ」している。

    (2)「米国は電気自動車(EV)やバッテリーなどといった分野で中国政府に懸念を示しており、中国がこれらの輸出を自主規制すれば、「経済的不均衡」に対する米国などからの批判を和らげることができる。米国を含む各国は、政府の手厚い補助金を受けた中国企業が薄利多売で世界市場を席巻し、他国のメーカーに打撃を与えていることで経済的不均衡が生じていると指摘している。トランプ氏はすでに中国に対し、1期目に課した関税に加えて累計20%の新たな関税を課している。またこれらの関税は、バイデン前政権によってもほぼ維持されてきた」

    中国製品には、すべて政府の補助金が使われている。これによって、輸出を促進して外貨を稼ぐという手法である。中国経済は、3兆ドル余の外貨準備高を守らなければ、資金流出リスクに直面する綱渡り経済である。


    (3)「米中間の交渉はまだ行われていないが、スコット・ベッセント財務長官は先月末、習近平国家主席の側近で対米貿易交渉の責任者となる見通しの何立峰副首相との初めての電話会談で、市場をねじ曲げる中国政府の慣行への懸念を表明していた。中国政府のアドバイザーらによると、経済当局者らがこの問題に関する日本のアプローチの一部を踏襲しようとしている背景には、米国からの潜在的な圧力などがある。習氏が率いる政府指導部も、さらなる貿易攻撃を回避するためにトランプ政権と取引をする意向を示している」

    中国は、米国との対立を緩和させるべく、トランプ政権と取引をする意向を示している。

    (4)「日本は1981年に初めて自動車輸出の制限に同意。その結果、輸出は前年比約8%減少した。ダートマス大学の経済学教授のダグ・アーウィン氏は、この規制が特に1980年代半ばには徹底されたと言及。だが、1990年代初頭までには、日本企業が米国市場向けの自動車を現地の工場で生産するようになったこともあり、VERは不要となった。アーウィン氏は、日本が輸出制限に前向きだった理由の一つとして、販売台数が減っても1台あたりの価格を引き上げられることができたからだと指摘。日本車の平均価格は約1000ドル(現在の価値で約3500ドル、約52万円)上昇し、規制の結果として日本はより大型で高品質な車を輸出し始めたという」

    日本は、1980年代に対米貿易摩擦を緩和させるために輸出自主規制を行った。輸出対象を小型車から高級車へと引上げて、「台数摩擦」を回避した。


    (5)「中国政府のアドバイザーらは当時の日本と同様に、EVやバッテリーの輸出規制を交渉する代わりに、これらの分野での対米投資機会を求めることを検討するかもしれないとした。一部のアドバイザーらは、これがトランプ氏にとっても魅力的な提案だと言及。トランプ政権内では反発もあるものの、トランプ氏は中国からの対米投資拡大に前向きな姿勢を示している」

    中国は、米国内でEVやバッテリーを生産するとの案にトランプ政権内で反発している。トランプ氏は歓迎姿勢だが、実現するかどうか不透明である。もっとも、中国政府はバッテリー技術の海外流出を恐れて規制している。このことから言えば、EVの米国生産実現は困難であろう。



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