勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    日本立地センター(東京・中央)によると、23年時点で製造業の23%が国内で新規事業所の立地計画を持っている。1990年代以来の高水準だが、産業用地の分譲可能面積は23年度に約9800ヘクタールと1万ヘクタールを割っている。地方自治体は、企業の立地計画を満たす工夫が必要になってきた。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月11日付)は、「工場進出、16道府県で増加 半導体誘致や国内回帰」と題する記事を掲載した。

     

    国内での工場新設が低迷するなか、16道府県が新規進出を増やしている。茨城県は充実した高速道路網と積極的な用地開発をテコに、2023年の進出数を10年の2倍に伸ばした。生産の国内回帰などで企業の投資意欲は高まっており、自治体によるインフラ開発や誘致活動が一段と活発になりそうだ。

     

    (1)「経済産業省の工場立地動向調査でも、23年の新規立地は745件と比較できる1974年以降で最少だった。同調査では企業が工場などの建設を目的に1000平方メートル以上の用地を取得した数を立地件数として集計している。同省は「企業の希望の場所に用地がない供給制約の影響が大きい。バブル崩壊後に工業団地が売れ残った経験から新規造成を控えてきた自治体が多く、職員のノウハウも失われている」と分析する」

     

    23年の新規立地は、1974年以降で最少であった。企業の進出意欲があっても。用地の供給制約が壁になっている。工場用地を積極的に提供できる地域は、工場進出が盛んである。地方自治体が意識を変える時代になってきた。

     

    (2)「2023年の立地件数を過去最少だった10年と比べると、16道府県で増えたが、27府県で減少し、4都県が横ばいだった。最も伸びた茨城は36件増の75件で、岐阜、愛知が15件増で続いた。茨城県は1999年から凍結していた工業団地の新規造成を2021年に解禁。つくばみらい市で「圏央道インターパークつくばみらい」を整備した。東京都心から40キロメートル圏で、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)などのインターチェンジに近く、23年には約60ヘクタールを完売した」

     

    首都圏では、茨城県が圏央道開通でインターチェンジに近いという立地条件によって、23年には約60ヘクタールを完売したほど。

     

    (3)「ダイキン工業は関東初のエアコン製造拠点を設ける計画だ。製造拠点が関西に偏っており、首都圏への長距離輸送などが課題だった。「輸送費高騰や運転手不足への対応に加え、タイムリーな製品供給にもつながる」と期待する。大井川和彦知事は「競争力のある分譲価格など企業ニーズに素早く対応している」と話す。22年には同じく圏央道沿線で「フロンティアパーク坂東」(坂東市)の造成に着手。高速道路に直結しており港湾にも近い「常陸那珂工業団地」(ひたちなか市)の拡張も進める」

     

    茨城県は、圏央道沿線の「フロンティアパーク坂東」や港湾に近い常陸那珂工業団地」拡張工事も進めるなど企業受入れに万全を期している。

     

    (4)「大井川知事は、「工場立地の適地はまだある。立地の良さと企業の進出意欲を考えると過剰になるリスクは感じていない」と今後の開発にも前向きだ。熊本県での第2工場建設が計画されている半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)についても「つくば市にある同社の研究所と常に接点を持ってニーズ把握に努めている。ぜひとも第3工場を誘致したい」と意気込む」

     

    茨城県は、熊本県へ進出したTSMCにも触手を動かしている。筑波市にTSMCの研究所があるので、その縁で第3工場を誘致したいと夢が膨らんでいる。九州もうかうかしているとTSMCの工場を「横取り」されるリスクを抱えている。

     

    (5)「増加数11位の青森県では近年の道路整備の進展により、南北間などのアクセスが向上。八戸市は既存の工業団地がほぼ完売していることもあり、新たに「八戸北インター第2工業団地」を造成した。「すでに引き合いがあるなど手応えは良い」(同市)。大型投資が相次ぐ半導体関連が立地を押し上げるケースも目立つ。TSMCの進出に代表される熊本県は立地件数が14件で増加数が全国10位。最先端半導体の量産を目指すラピダスの工場建設が進む北海道も増加数が4位だった」

     

    青森県の八戸市が、「八戸北インター第2工業団地」を造成した。引き合いがあるなど手応えは十分という。労働力供給に着目しているのだろう。

     

    (6)「産業立地に詳しい東京大学の鎌倉夏来准教授は、「製造業の国内回帰の流れに自治体が追いついていない。供給過剰リスクが無くなったわけではないが、このままでは地域の経済格差を広げかねない」と指摘。「深刻な人手不足問題も含めた地域の産業構造や、立地動向などを見極めながら投資していく必要がある」と話す」

     

    これから、高度経済成長時代に次ぐ工場進出ブームが来る気配だ。地方自治体は、何時までも消極姿勢で臨んでいると、他府県へ良い案件を取られる時代になってきた。

     

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    世界2位のドイツVW(フォルクスワーゲン)は、中国の南京工場閉鎖を検討している。23年の販売台数はピーク時の6割まで低下している。中国は、EV(電気自動車)が主流であり、ガソリン車はすでに傍流へ転落した。VWにとっては、EVが不振であるだけに、南京工場が閉鎖になれば中国での足場の一つを失う。

     

    『東洋経済オンライン』(10月11日付)は、「中国市場で苦戦の独VW、『南京工場』の閉鎖を検討」と題する記事を掲載した。この記事は、中国『財新』記事を転載したものである。

     

    ドイツ自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)と中国の国有自動車大手、上海汽車集団(上汽集団)の合弁会社である上汽VWが、江蘇省南京市の工場の閉鎖を検討していることがわかった。上汽VWは、財新記者の取材に対してその事実を認めた。

     

    (1)「南京工場は、VWブランドの上級セダン「パサート」の主力生産拠点だ。上汽VWはニューモデル「パサート・プロ」を9月10日に発売したばかりで、現時点の南京工場はフル操業に近い。その一方、上汽VWの工場は建設から年数を経たものが多く、クルマの電動化やスマート化に対応するために生産体制の見直しを迫られている」

     

    中国は、EVが主流になってきたので、ここから外れる車種は生産の見直しにはいる。

     

    (2)「17年前の2007年末、上汽集団は国有自動車メーカーの南京汽車集団を吸収合併するとともに、現在の南京工場の運営を引き継いだ。上汽VWの説明によれば、南京工場は建設時期が古く、都市開発による南京市の市街地拡大とともに、自動車工場の立地としては最適でなくなりつつあった。また、同社は江蘇省儀征市にも工場を持ち、南京工場とは約80キロメートルしか離れていない。そのため経済合理性の観点から、江蘇省内の製造拠点の再配置を検討しているという。南京工場の閉鎖はまだ確定しておらず、(地元政府や取引先などの)関係者とのさらなる調整が必要だ。仮に閉鎖が決まった場合、上汽VWはパサートの生産を別の工場に移管しなければならない」

     

    南京工場は建設時期が古く、都市開発による南京市の市街地拡大とともに、自動車工場の立地としては最適でなくなりつつあるという。生産再編の一環という意味もある。

     

    (3)「上汽VWは、江蘇省の2工場のほか、上海市に3つ、浙江省寧波市、湖南省長沙市、新疆ウイグル自治区ウルムチ市にそれぞれ1つの合計8工場を運営している。このうち上海市の工場では、EVやPHV(プラグインハイブリッド車)の生産に対応した建て替えや設備改修を進めている」

     

    上汽VWは、中国に8工場を運営している。南京工場が閉鎖になっても生産体制に響くことはない。ただ、イメージダウンは避けられない。

     

    (4)「中国市場における乗用車のメーカー別の販売台数ランキングで、上汽VWは長年にわたってトップスリーの一角に君臨。2016年から2019年にかけての全盛期には、年間販売台数が4年連続で200万台を超えていた。ところが、2020年代に入って中国市場のEVシフトが本格化すると、上汽VWの販売は苦戦を強いられるようになった。2023年の販売台数は121万5000台とピークの約6割にとどまり、2024年に入ってからも販売減少に歯止めがかかっていない。さらに電動化とスマート化への対応も急がれる中、業界関係者の間では上汽VWが(エンジン車の工場閉鎖による)生産能力削減に踏み切るのは時間の問題と見られていた

     

    上汽VWの販売は、すでにピークを過ぎている。エンジン車の工場閉鎖によって生産能力削減に好都合という面もありそうだ。

     

    世界最大級の自動車市場である中国で、VWが過剰生産能力の制御に苦戦している状況がうかがえる。

     

    VWは、上海汽車集団(SAIC)とともに南京工場での「パサット」の生産を江蘇省内の別の工場に徐々に移行する方針とされる。生産を移行する具体的な時期は決まっておらず、工場を完全に閉鎖するのか、それとも売却するのかといったことも未定だと付け加えた。南京工場の一部労働者は、VWとSAICの儀徴市の工場への異動を提示された。同工場では現在、セダン「ラヴィダ」が生産されている。VWとSAICはまた、「シュコダ」の販売を再開する計画も検討している。シュコダは2018年には合弁事業全体の販売で17%を占めていたが、現在のシェアは1%にとどまっている。『ロイター』(9月19日付)が報じた。

     

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    米国テスラは10日、完全自動運転を想定した電気自動車(EV)の無人タクシーの試作車を公開した。2026年の生産開始をめざす。将来は人や荷物の移動サービスを無人で実現し、稼ぎの主体をハードからソフトにする。中国も自動運転車の開発に力を注いでいる。車の付加価値を巡る競争の軸が、EVから自動運転に移ってきた。ただ、完全自動運転は未だ夢の話だ。 

    (1)「約20台のサイバーキャブを公開した。車両のドアは2つで自動走行を想定し、人による運転制御で使うステアリングホイールやペダルはついていない。認識や制御はカメラと人工知能(AI)だけで行う。センサーで制御する既存の自動運転車に比べて安価にすることを目指す。価格は3万ドル(約440万円)以下とした。サイバーキャブの生産に先駆けて、25年にまず南部テキサス州とカリフォルニア州で、運転手が介在しない形の自動運転を想定したシステムを既存EVの「モデル3」と「モデルY」で実用化する」 

    テスラは、未だ公道試験を一度も行っていない。その意味では、当局から許可が出るのか不明である。自動運転タクシー用のEV価格は3万ドル(約440万円)以下とした。世間の関心を惹く戦術ともみえる。

     

    (2)「搭載するシステムは、同社の高度運転支援システム「フルセルフドライビング(FSD)」の進化版とみられ、特定の条件下で運転手が不要な「レベル4」の実現を目指す。テスラは既に米国などで実用化しているFSDの機能を進化させ、人の介入を必要としない自動運転の走行距離を増やすとみられる。現在のFSDは運転手が介入する形の「レベル3」にとどまるが、進化型は運転手が介在しない形の「レベル4」に近づく。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は同日、「運転に費やしていた時間を自分の好きなことに使えるようになる」と話した」 

    下線部のように、特定条件下での「レベル4」を目指している。どこでも自由に運転手不要で走れる訳でない。ここが、マスク氏の巧妙な説明の仕方だ。 

    (3)「テスラは同日、人や貨物の大量輸送が可能な自動運転の「ロボバン」も披露した。バンは一度に20人までの輸送ができる。サイバーキャブやロボバンが実用化されれば、労働力の代替などで自動運転市場の拡大につながる可能性があるが、AIに頼った自動運転は事故が起きた際の責任について明確な規制がなく安全面の課題は多い。テスラは同日、これらの車両を使ったサービスの開始時期は明確に示さなかった」 

    自動運転タクシーのサービスの開始時期は明示されていない。当局の認可を必要とするからだ。

     

    (4)「(自動運転の)レベル4は、既に米国で米アルファベット傘下で自動運転技術を開発する米ウェイモが、中国では百度(バイドゥ)が実用化している。テスラがサービスに本格的に参入すれば市場が広がる可能性がある。米テスラが10日に米西部カリフォルニア州で開催したイベントでのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)の主な発言は次の通り」 

    マスク氏は、「大構想」を語っている。夢物語として聞いていても愉快である。

    (5)「監視付きの完全自動運転から完全自動運転へと移行し、目的地に到着した時には眠ってしまっていても大丈夫なようにする。自動車(の運転)に費やしていた時間を、携帯電話や映画鑑賞など自分の好きなことに使えるようになる」。「保険や車両代、保管のための費用を考えると、自動車を持つのは高すぎる。平均的な自動車の使用時間は週のうち10時間程度で、大半の自動車は動いていない。自動運転ができるようになれば、今よりもおそらく5〜10倍使われるようになり、1台が生み出す価値は5〜10倍になるかもしれない」 

    監視付きの完全自動運転から完全自動運転へと移行させるので、車内で眠っていても安全という。これが現実化すれば、パーフェクトだ。自動車免許証は要らなくなるのか。タクシーに使えるから1台が生み出す価値は5〜10倍になるとも。これ1台あれば、立派な副業になるのかも。自動車生産台数は、急減することになろう。


    (6)「まずはモデル3やモデルYで(完全に自律型の自動運転を)体験することになるだろう。完全に自律型のFSDは25年にも南部テキサス州とカリフォルニア州で始める。自律走行用に高度に最適化されたサイバーキャブの生産は、時期について少し楽観的になりがちだが27年より前には量産する」「人間より10〜30倍は安全に走行できるようになるだろう。自動運転が人間より優れているのは何百万台もの自動車で運転の訓練をしているからだ。人は何百万人分の人生を生きることもできければ、同時に多方面を見ることもできない」「(高度なセンサーなど)高価な設備を使わず、AIとカメラだけで製造しているため、車両の製造コストを低く抑えられる。モデル3やモデルSなど(既に販売している車両)でも完全自動運転はできる」 

    自動運転車は、AIとカメラだけで製造する。車両の製造コストは低く抑えられる。テスラが、すでに販売したEVでも完全自動運転が可能になるという。これまでのテスラEV購入者は、完全自動運転の夢を買っている。

    あじさいのたまご
       


    韓国の自営業者比率は、工業国で最大である。23.18%(2023年)である。就業者の2割強が自営業であるが、雇用構造の遅れを示している。なぜ、被雇用者にならず、自営業であるのか。多くが、企業を中途退社しても企業へ転職できず「一人社長」に収まっている結果だ。韓国で、転職市場が未発達であるのは、年功序列・終身雇用制によって労働市場が硬直化しているためである。 

    韓国の対GDPの個人消費比率は、48.08%(2022年)である。個人消費が落込めば、自動的に自営業者は苦境に立つ宿命を負っている。韓国の個人消費は、家計の債務残高が対GDP比で100%を上回る最悪状態にある。この比率が、80%を上回れば個人消費が停滞するので、韓国の自営業者はずっと「浮かばれない」状況下に追込まれる。現在は、序の口と言うべきだろう。韓国政府に、その認識はなさそうだ。

     

    『東亜日報』(10月11日付)は、「悪化する自営業者の指標、『小遣い』だけを握らせる政府」と題するコラムを掲載した。 

    自営業者が大変だというのはよく聞く話だ。少し道を歩けば、「貸店舗」と貼られた空き店舗を簡単に目にする。にもかかわらず、自営業者が苦しんでいるという「ニュース」と言えないニュースが繰り返されるのは、数字が悪化しているからだ。昨年、廃業申告をした事業者数98万人は、関連統計作成以来最大だ。今年上半期(1~6月)に失業者となった自営業者の増加幅23%も、全体の失業者増加率の3倍以上だ。知っている話だと割り切ることができない数値だ。 

    (1)「自営業の涙を示す数字は、日々積み重なり続けている。SGIソウル保証が滞納した飲食店経営者などに代わって返済した金額は、今年に入って6ヵ月ですでに昨年の1年分の2倍を超えた。新型コロナウイルス感染が拡大した2020、21年よりもすでに多い。今年6月末現在、自営業者の10人中7人は金融会社3社以上から融資を受けており、彼らの延滞率は3年前より3倍以上跳ね上がった。コロナ禍で蓄積された負債に加え、内需低迷まで続き、限界状況に置かれた自営業者が増えているのだ」 

    自営業の飲食店経営者が債務返済できず、保証機関が債務弁済した件数が、今年に入って6ヵ月ですでに昨年の1年分の2倍を超えている。異常事態だ。消費が低迷している結果である。

     

    (2)「同じ数字を見ている政府は、対策を出すのに汲々としている。先週は消費活性化対策を発表し、自営業者に合わせた支援策も発表した。今月中にまた自営業者対策を出すという話も聞こえてくる。まだ国会で可決されていないが、来年の予算にも自営業者支援が含まれている。政府は来年、自営業者に配達・宅配費を1年に最大30万ウォン(約3万円)支援する計画だ」 

    政府は、自営業者救済として1年最大、約3万円を支援するという。これでは、雀の涙である。効果はない。 

    (3)「詳しく見てみると、首をかしげるような点が目につく。最近、政府は自営業者の費用負担の緩和だけでなく、就職、再創業支援の強化で再起を支援すると強調した。しかし、2日に発表された支援策で、再就職をはじめとする「再起支援」に投入される追加資金は3千億ウォン(約300億円)で、全体の3%にも満たない。2022年7月から2年間に支援された全体の政策金融は47兆ウォン(約4兆7000億円)を超えたが、再起支援資金は1兆ウォン(約1000億円)にとどまった。借金から脱し、新たな出発の基盤を築くには不十分と思われる額だ」 

    政府は、就職や再創業支援の強化で再起を支援するという。だが、これで効果を上げられるか疑問だ。根本問題の雇用流動化が、未解決であるからだ。

    (4)「政府の支援予算も同様だ。自営業者約68万人に配達・宅配費を支援するために確保した来年度の予算は2037億ウォンだ。全体の自営業者支援予算が2733億ウォン(約273億円)増えたが、そのうちの75%だ。現金性支援より自営業者の競争力を高めることに重点を置くとしながらも、1日1千ウォン(約100円)にも満たない現金性支援は続くことになる。政府は今年も自営業者に電気代を支援している。2520億ウォン(約252億円)をかけて1人当たり1年に最大20万ウォン(約2万円)支給する」 

    政府は、今年も自営業者に電気代を支援しているが約2万円である。こういう支援は、「言い訳」程度であって、根本策でない。 

    (5)「多くの自営業者は以前から韓国経済の問題点として指摘されてきた。この際、呼吸器をつけるだけの現金支援から脱却し、転職、再教育などにもっと多くの金と時間を使わなければならない。今のままでは彼らの涙を拭くことはできない」 

    韓国では、自営業問題が労働市場の硬直性にあると気付かずにいる。気付いても、終身雇用制・年功序列制を変える勇気がなければ、どうにもならないであろう。日本の自営業者比率は9.46%、ドイツは8.44%、米国が6.60%だ。いずれも、2023年OECD調査である。

     

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    日本の政府開発援助(ODA)は、10月に70年の節目を迎える。日本のODAで経済成長を支えてきた東南アジア主要国が、今度は日本と協力して途上国向けの開発協力を拡大する側に回ることになった。日本が蒔いてきたODA支援の種が、東南アジアで立派に実って、新たな時代を迎える。 

    日本型の開発協力は、技術協力や人材育成を柱とする。中国の「一帯一路」は、相手国へ融資して中国企業によってインフラ工事する「搾取型」である。債務漬けにして担保を取り上げる「高利貸し型」でもある。日本ODAは、こういうスタンスの中国と「大違い」だ。日本ODAは、相手国の立場を尊重する「奉仕型」であり、多くの発展途上国から共感されている。 

    『日本経済新聞 電子版』(10月10日付)は、「アフリカ向けODA、転機にーアフリカ連合開発庁長官 ナルドス・ベケレトーマス氏と題する記事を掲載した。ナルドス・ベケレトーマス氏は、南アフリカの国連常駐調整官や国連事務総長室上級局長などを経て、22年から現職。

     

    アフリカ連合(AU)は独自の通貨基金の設立に動いている。国際通貨基金(IMF)への依存を減らし、開発に関わる政治的な影響を遮断し、自らの財源から優先度が高いプログラムを実行するためだ。アフリカは世界各国と対等な立場で新たなパートナーシップを構築したいと考えている。全ての国をひとまとめに語るのには無理がある。アフリカの変革プロセスに真剣に協力してくれる国もあるし、自国の政治や利益に左右される国もある。結果として、アフリカは政府開発援助(ODA)が必ずしも十分に機能していないことに気づき始めている。 

    (1)「日本のODAがアジア各国を変革し、非常に生産的な成果を生んだことには注目している。インドネシアやシンガポールなどの巨大な経済国を誕生させた。われわれの研究では日本が途上国を見下すような姿勢を示さず、中立的なスタンスを取り、相互に協力し合った効果が大きい。国際協力機構(JICA)の対等なパートナーシップは、アフリカでも広く受け入れられており、アフリカの文化とも幅広く融合している」

     

    日本企業が、アジアで成功したのは生産拠点を移管し、技術を移転させて人材を育て、現地の経済成長を実現させたからだろう。「メード・イン・ジャパン」から「メード・ウィズ・ジャパン」への戦略の切り替えが奏功したといえる。アフリカでの中国の覇権は、揺らいでいる。日本のように、対等なパートナーシップで利益を分け合うスタンスで臨めば、「愛されるODA」になる。 

    中国は、アフリカの地下資源開発を狙っている。その手順は、先ず漁業権を得て足場を築き、ここから漁港改修や陸地での資源開発へ手を伸して中国経済圏へ組み込んでいく。アフリカ諸国は、気付いたら「チャイナ・エコノミー」に占領されていたというほど巧妙である。だが、アフリカはかつて欧州の支配下での苦い経験から、中国を「第二の欧州」とみて警戒し始めている。日本には、こういう「邪念」のないことをアジアのODA実績で知っているのだ。 

    (2)「アフリカ向けのODAは、このような結果を生まなかった。欧州の国々はアフリカが産出する原材料に依存しながら、アフリカのバリューチェーン構築には協力してこなかった。アフリカ各国に主権があり、それぞれの国の責任ではあるが、中国のインフラ開発で、過剰債務を抱えて苦しんでいる国があるのも現実だ。欧州や中国などはアフリカで活動する権利を持っているが、アフリカにもノーと言う権利と選択肢があるべきだ」 

    中国は、植民地支配反対と口にするが、実態は欧州の「植民地経営」と同じような振る舞いをしている。中国の製品をアフリカ諸国へ売りつけ、アフリカ産農産物輸入には高い障壁を設けているのだ。アフリカの中で、中国の債務漬けにされている国の裏には、こういう中国手法が使われている。

     

    (3)「アフリカが、ノーと言える自信を持つためには、経済統合を加速する必要がある。アフリカ連合開発庁―アフリカ開発のための新パートナーシップ(AUDA-NEPAD)はインフラや包括的な農業、気候変動対策などのプログラムを持ち、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の実現を支援している。ほとんどの国がすでに批准しており、関税の撤廃と貿易自由化は確実に進む。開発の欠如が地域の不安定さや紛争、貧困を生み出しているのは確かだ。インフラが大小の国々を結び、巨大なマーケットが誕生すればアフリカは変わる。まずは、アフリカが公平な利益を得られるような国際協力と支援が強く求められている」 

    アフリカは、余りにも「ナイーブ」でありすぎた。中国は、欧州と違うだろうと期待したが、現実は「搾取型」で変わりなかった。アフリカが、その経済的地位を向上させるには、「ノー」と言える自信を持つべきとしている。それには、日本のODAが「途上国を見下すような姿勢を示さず、中立的なスタンスを取り、相互に協力し合った効果が大きい」という評価を、アフリカにも広げることだろう。

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