勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    日米経済の緊密化が強調されている中で、日鉄によるUSスチール買収問題は紛糾したが、解決へ向けて山を越えた。2月7日(米時間)の日米首脳会談で、石破首相は日鉄の「投資が目的」とする主旨をトランプ大統領が受入れたもの。来週、トランプ氏は日鉄代表と面会する予定となった。トランプ氏は、「協力する、仲介する」と解決へ向けて舵をきった。

    ある日鉄幹部は、「現行の買収計画のスキームが変わるわけではない。(日鉄は)USスチールの社名や本社を変更しない方針を示しており、本質的にUSスチールを変える『買収』ではなく、同社を成長させるための『投資』だということで理解を得たのだろう」と話した(『日本経済新聞 電子版』)。商法上は、吸収合併でも実態は「投資」という意味であろう。石破提案は、事前に日鉄の合意を得ているはずだ。

    『日本経済新聞 電子版』(2月8日付)は、「トランプ氏、USスチール問題『買収ではなく投資で合意』」と題する記事を掲載した。

    トランプ米大統領は7日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画について「(日本側と)買収ではなく(USスチールに)多額の投資をすることで合意した」と述べた。同日午後に開かれた日米首脳会談後の共同記者会見で明らかにした。具体的な枠組みには触れず、来週に日鉄首脳と会う機会を持つと説明した。


    (1)「トランプ氏は、日本からの投資を歓迎すると話した。そのなかで日鉄のUSスチール問題について触れた。「(日鉄は)米鉄鋼業に非常にエキサイティングなことを実施する予定だ」と切り出し「彼らは購入ではなく投資を検討している。USスチールを所有するのではなく、多額の投資を実施することで合意した」と述べた。日本側と認識を共有したと説明した。そのうえで、USスチールについては「我々(米国)にとっては非常に重要な会社だ」と述べ「(USスチールが米国から)去るのを見たくないし、実際に去ることはないだろう」と話した。所有権が米国外に移ることは「心証的に良くない」と強調した」

    日鉄によるUSスチールへの提案は、USスチールの再建に欠かせないプランであった。資金と技術を提供するものである。社名も役員陣もそのままという、吸収合併ではあり得ない条件である。日鉄が、ここまで妥協しているのは、米国鉄鋼市場の魅力である。高級鉄鋼製品の市場として最高である。

    (2)「トランプ氏は、日鉄の買収計画に一貫して反対してきた。1月、自身のSNSに「関税(引き上げ)によってより高収益で価値のある企業になるというのに、なぜUSスチールを今売ろうとするのか?」と投稿した。米国企業であるべきだと強調してきた。記者からの質疑応答では、「彼ら(日本製鉄)は投資をする。もう『購入』はなしだ、いいね?」としたうえで「私は購入を望んでいないが、投資は大好きだ」と答える場面があった。7日の日米首脳会談冒頭でも反対の考えは変えていないと示唆していた。石破茂首相との会談を受けても、USスチールが外資に買われることに対する所感は同じだと表明した格好だ。半面、「投資は受け入れる」と強調し、日本側への配慮をみせた。来週にも日鉄のトップと「会談する予定だ」と話し、日鉄側の計画の詳細を聞く姿勢を示した」

    トランプ氏が、従来の反対論を撤回したのは、日鉄の示した投資計画が米鉄鋼業に不可欠という認識になったのだろう。ビジネス出身大統領らしくソロバンを弾いたのだ。


    (3)「トランプ氏が「合意した」と述べた投資の枠組みは不明だ。「私も協力する。仲介をする」と述べたが、買収計画を巡る膠着を打開できる保証はない。トランプ氏は7日、バイデン前大統領が1月上旬に出した買収阻止の大統領令にも触れなかった。石破茂首相も「買収ではなく投資だ。日本の技術を提供して良い製品をつくり、日本、米国、世界に貢献するUSスチールの製品が生み出されていくことに日本も投資する」と強調したものの、日鉄が現在の計画を修正するかどうかなど具体策には言及しなかった」

    石破氏が、日鉄の意向を聞かずにここまで踏み込んだ発言をするはずがない、越権行為になるからだ。岸田前首相は、「民間企業のこと」として一線を引いていた。石破氏は、「準国家事業」として捉えたのであろう。

    (4)「日鉄の現行の計画では、USスチールの全株式を取得する。これは一般的には「買収」にあたる。買収ではなく投資と説明するためには、出資比率を引き下げたり、一部事業への出資に切り替えたりなどの変更が考えられる。計画を変更する場合、日鉄は現行のUSスチールとの契約を解除する必要がある。今回のトランプ氏の発言について、日鉄側は前向きにとらえているもようだ」

    トランプ氏は、すでにUSスチールCEOと面会して意向を聞き出している。さらに、日鉄トップと面談すれば「仲介」方向を打ち出すのだろう。


    (5)「日鉄のUSスチール買収を巡っては、バイデン氏が「安全保障上の懸念がある」として計画を中止し「永久に放棄」するよう日鉄側に命令した。その後、USスチールと日鉄が大統領らを「適正な手続きがなされなかった」として提訴しており、本格的な訴訟手続きが始まったばかりだ」

    米国内の雰囲気では、USスチール問題解決が悲観的であったという。それが、トランプ氏の方向転換で「ゴー」へ向かいそうだ。「トランプ氏が、従来の米国エリート、エスタブリッシュメントと全く切れていることも、ある意味彼の強みであり、誰に気兼ねすることなく方向転換をできたのだ」(岩間陽子政策研究大学院大学教授)という指摘もあるのだ。





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    習近平中国国家主席は、ロシアのウクライナ侵攻(22年2月)が始まって1週間ほど、外部に姿をみせなかった。その直前、北京冬期五輪開会式へ出席したプーチン・ロシア大統領が、習氏へ開戦を臭わせなかったのだ。それだけに、大きなショックを受けたとされる。1週間、習氏は幹部会議で対応策を練っていたとされる。間もなく、あれから満3年を迎える。習氏は、中国が台湾侵攻した場合に西側からどのような経済制裁を受けるか。じっとロシアの「耐乏生活」をみながら、「学習」しているとされる。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月7日付)は、「瀬戸際のロシア経済を注視する中国」と題する寄稿を掲載した。筆者は、米ハドソン研究所のシニアフェロー、トーマス・J・デュスターベルク氏である。

    中国の習近平国家主席は、約3年間続いているロシアによるウクライナ侵攻を注視してきた。習氏は「親愛なる友人」であるウラジーミル・プーチン氏に先端技術を提供し、ロシア経済の下支えを手助けしている。また習氏は西側諸国の制裁に対するロシアの耐久力を見極めようとしている。習氏は中国が台湾の独立を押しつぶした場合に、西側諸国が中国をどのように罰しようとするかについて、手掛かりを探っている。


    (1)「プーチン氏は、ロシア経済が順調だと述べているが、実際はそうではない。徴兵や軍事物資の増産、労働年齢の男性の大量流出による影響が重なって、人手不足が生じ、賃金が上昇し、国防産業の力が弱まっている。政府が公表しているインフレ率は10%だが、大半のエコノミストはもっと高いと考えている。大都市の家賃は中間層の住民の大半にとって、手が届かないほど高くなっている。民間のローン金利は21%で、さらに上がると見込まれており、ロシア企業の財務の健全性を損なっている。銀行は、軍事関連企業には市場金利を下回る金利で、ほぼ無制限の信用を供与するようロシア政府から求められており、そのことによって苦しんでいる。政府は社会保障費を削って戦争関連のニーズを満たしている。通貨ルーブルは極めて不安定だ」

    ロシアでは、民間のローン金利が21%で、さらに上がりそうだという。これほどの高金利を払える層は限られる。経済は、窒息状況に陥っている。金利が、何よりのバロメーターなのだ。

    (2)「米国が先導している制裁措置は、西側諸国から資金を調達する能力をロシアから奪っている。2023年と2024年にはルーブル債の入札が何度か失敗に終わった。このことは、ロシアの銀行とオリガルヒ(新興財閥)が、苦しい状況のロシア政府が発行する債券の購入にますます消極的になっていることを示している。10年物国債の利回りは急騰している。戦争開始以降、国債の発行残高は35%減少している。中国も自国の銀行への制裁を恐れ、次第にロシアの戦時国債の購入に慎重になってきている。中国はドル建て金融システムへのアクセスを失うことを望んでいない」

    ロシアは、戦時国債で資金を調達している。借金で戦争しているのだ。不健全の極みである。ウクライナ戦争開始以降、国債の発行残高は35%減少している。買い手がいないのだ。中国もロシア戦時国債から手を引き始めた。西側の経済制裁を恐れている。


    (3)「ロシアに残された唯一の資金源は、国民福祉基金(NWF)と石油・ガス輸出収入だ。NWFは、現在必要な経費を支払うために保有資産の取り崩しを余儀なくされている。戦争が始まる前、NWFには海外で保有する約3000億ドル(約45兆4800億円)分の外貨準備があったが、現在は凍結されている。また、戦争前は国内の保有資産が約3000億ドル相当あったが、その3分の2は引き出されている。このペースで行くと、いつでも使えるこの準備金は2025年のどこかの時点で底を突くだろう」

    ロシアは、石油・ガス輸出収入を国民福祉基金(NWF)として積み立ててきた。このNWFは戦争以降に取り崩されており、25年中には底をつくという。こうなると、戦争継続の資金が途切れる。

    (4)「戦争が始まって以降、ロシアは石油輸出の90%を中国とインドに振り向けているが、両国の港湾は、銀行や他の企業への制裁を恐れて、荷受けを拒否し始めている。北欧諸国も手を引きつつある。最後までロシアから欧州にガスを輸送していたパイプラインは、2024年末に閉鎖された。新たにアクセスできる資金源がない中、プーチン氏は予算面の苦境に対応するための適切な選択肢がほとんどない。彼は紙幣を増刷することもできるが、それはハイパーインフレにつながる可能性がある。増税に踏み切ることも可能だが、社会不安を招きかねない。すでにストレスを感じているロシア国民は、これら二つの選択肢の両方に反対する姿勢を示唆している」

    プーチン氏は、予算面からみて最大のピンチに立たされている。すでに、適切な資金調達の手段がほとんどなくなってきたからだ。


    (5)「中国は、電気自動車(EV)などの消費者向け製品の対ロ輸出を拡大するなど、ロシア経済を支える上で可能な策を講じてきた。しかし、中国の複数の銀行は、ロシアの軍事物資調達に便宜を図ったとして制裁対象になっている。中国の経済も不振に陥っている。こうした制裁が強化されれば、西側諸国との対立をいとわない中国当局の姿勢が、試練にさらされるかもしれない」

    中国の複数銀行は、すでにロシアの軍事物資調達に便宜を図ったとして制裁対象になっている。これ以上に制裁銀行を出すわけにはいかないのだ。中国の経済事態も、不振に陥っている。中国は、ロシアへ肩入れする余裕を失っている。

    (6)「ドナルド・トランプ米大統領は最近、プーチン氏がウクライナで早期の和平合意に応じなければ、対ロ追加制裁を科すと警告した。プーチン氏は、この脅しを真剣に受け止める必要がある。苦境にあえぐロシア経済が、崩壊の瀬戸際にあるからだ。もう一段の厳しい制裁が適用されれば、ロシア経済は本当の危機に陥るかもしれない。そうなれば、習氏が教訓のメッセージを受け取ることは間違いない。彼は、中国が台湾に対して武力行使に踏み切った場合の代償の大きさについて、考えざるを得なくなるだろう」

    ロシア経済は開戦3年で、崩壊の瀬戸際にある。習氏は、この状況を目の当たりにして、個人の名誉欲にかられた開戦が、どんな結末をもたらすか身にしみているに違いない。




    テイカカズラ
       

    トランプ米大統領が、中国の貿易慣行への批判を続けている。通商専門家は、米国の中国に対する恒久的正常貿易関係(最恵国待遇=PNTR)の適用が撤廃される可能性が高まったとの見方を示している。実現した場合、中国の輸入品に対する関税が平均61%に上昇する可能性がある。中国経済に、大きなダメージになる。米議会は、2000年に中国とのPNTRを承認し2001年、中国の世界貿易機関(WTO)加盟に道を開いた。

    『ロイター』(2月7日付)は、「中国への最恵国待遇、米議会による撤回に現実味か トランプ氏意向受け」と題する記事を掲載した。

    トランプ氏が、就任初日の1月20日に出した大統領令は、中国とのPNTRを念頭に見直しの法整備を行うよう商務長官と通商代表に指示していた。PNTRは、一般的には米国が貿易相手国に関税を課すことを抑える役割を果たす。

    (1)「2000年にPNTRが中国に適用され、中国から米国への輸出に大きく門戸を開いた。中国へのPNTRを廃止した場合には、米国に輸入される中国製品への関税が自動的に跳ね上がり、トランプ氏が中国に課してきた税率をはるかに上回る可能性がある。
    トランプ氏は「最初の一撃」と称して中国からの輸入品に10%の追加関税を課し、中国は米国への報復関税導入を発表した。トランプ氏は中国からの輸入品に最大60%の関税を課すと脅している」

    中国経済が大きく発展できたチャンスは、米国がPNTR(最恵国待遇)を与えたことにある。米国の対中PNTR承認は、米国が中国をいかに厚遇したかを示している。中国は、これを逆手にとって米国覇権を狙うことに利用した。この怒りが、米国中に広がっている。


    (2)「ジョン・ムーレナー下院議員(共和党)とトム・スオジ下院議員(民主党)は1月、中国に対する最恵国待遇を定めたPNTRを撤回する「公正な貿易復活」法案を超党派で提出した。この法案は、中国からの輸入品の一部に対する関税を5年間で35~100%に引き上げる内容だ。上院にも同内容の法案が出されている。第1次トランプ政権以降、中国との貿易関係が不公正だと反発する声が高まる中で、中国に対するPNTR指定の撤廃を求める複数の法案が議会に提出されたが、これまでは議会での可決に十分な票を集めることができなかった」

    米下院では、中国に対する最恵国待遇を定めたPNTRを撤回する「公正な貿易復活」法案を超党派で提出したところだ。

    (3)「通商専門家7人によると、民主党と共和党の両党議員の間で法案への支持が広がっており、PNTR撤廃法案が可決される可能性が高まっている。戦略国際問題研究所のジム・ルイス上級副所長は、中国が世界の貿易ルールに従わないため「(PNTRを適用する)意味がなくなっており、廃止に年々近づいている」と指摘。「トランプ氏は、中国とどのような取引ができるかを見極めようとしており、全てが選択肢になるだろう」との見方を示した。下院歳入委員会のジェイソン・スミス委員長(共和党)も、中国のような国が米国人を「だます」ことを許してきた米国の「悪い」貿易政策を見直すように呼びかけている」

    PNTR撤廃法案は、可決される可能性が高まっている。


    (4)「1人のビジネスコンサルタントと2人の弁護士によると、彼らの顧客企業は中国へのPNTRが取り消されるリスクへの備えを始めている。これに対応するため、顧客企業はサプライチェーン(供給網)を中国から移し、外国人従業員を本国へ戻し、中国への新規投資を控え、関税引き上げに伴うコストを他の当事者に転嫁できるように供給網の契約を再交渉していると明らかにした」

    米国企業は、中国へのPNTR撤廃に備えた動きを始めている。

    (5)「中国へのPNTRが、撤廃された場合の影響は大きい。オックスフォード・エコノミクスのエコノミストらが貿易団体の米中経済協議会(USCBC)のために作成した報告書によると、燃料を除く中国から米国への輸出品はいずれも、たとえ米系企業が中国で製造した場合であっても関税が現在の19%から平均61%へ跳ね上がる。23年11月に発表された報告書は、中国へのPNTR撤廃は米国の国内総生産(GDP)を5年間で最大1兆9000億ドル押し下げ、米国で80万1000人の雇用を減らす可能性があると警告した」

    中国へのPNTR撤廃になれば、中国のGDPは1~2%ポイントの低下が見込まれている。米国GDPも最大1兆9000億ドル押下げるという。23年の実質GDPは、27兆3600億ドルだから、年率6.9%の落込みである。米国も無傷ではない。トランプ氏は、「肉を切らせて骨を断つ」戦略なのか。


    (6)「USCBCは4日、中国が世界貿易機関(WTO)の義務や20年に米国と結んだ「第1段階の通商合意」で米国からの輸入を2000億ドル増やす取り決めを中国が果たしていないにしても、「PNTRを撤廃しようとする動きを支持しない」とコメントした。その上でPNTR撤廃は「目の前の課題に取り組むのに適した手段ではない」とし、「米国には中国の行動を変える他の手段がある」と訴えた。トランプ氏は既に、PNTRを撤廃せずに中国に関税を課す他の手段があることを示している」

    米中経済協議会(USCBC)は、PNTRを撤廃せずに中国に関税を課す他の手段があると指摘する。PNTRという骨格を残して、関税率だけ引上げるといもの。PNTRは米中をつなぐ最後の象徴的な存在として残すべきというのであろう。



    あじさいのたまご
       

    日本政府は、中国の生成型AIディープシークを使用に際して、個人情報流出の可能性を懸念し、国民へ注意を呼びかけた。NHKは2月4日、林官房長官が定例記者会見で「個人情報を含むデータは中国サーバーに保存され、中国の法令が適用される」と述べた。興味半分でディープシークを利用すると、自分の個人情報も北京へ筒抜けになるという。いかにも中国らしい抜け穴を仕込んでいる。海外では、韓国・チェコ共和国・スウェーデン・豪州・イタリアが、ディープシーク使用を禁じている。要注意だ。

    『ブルームバーグ』(2月7日付)は、「DeepSeekは好奇心満たす『おもちゃ』、ノーベル賞受賞者は冷めた目」と題する記事を掲載した。

    24年ノーベル経済学賞受賞者で、人工知能(AI)の未来に関する議論でも注目を集めているマサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授は、中国の新興企業DeepSeek(ディープシーク)の登場が生んだ熱狂と警戒心の両方を冷めた目で見ている。


    (1)「ディープシークが発表したAIモデルの「R1」について同氏は、オープンAIのような米企業が開発したAIより安価かつ効率的な代替モデルを提供する目覚ましい成果だと評価。ただ、R1のダウンロードに殺到している人の多くは、オープンAIの「ChatGPT(チャットGPT)」の有料版を使っている人と同様、好奇心を満たすための「おもちゃとして使っている」に過ぎないと語った」

    アセモグル教授は、もともとAIの将来性について厳しい目を向けている。人間の頭脳を上回るようなことにならないという視点だ。一方では、人間の頭脳を超えると予測する人々、例えばソフトバンクGの孫正義氏もいる。このように、見方は分かれる。アセモグル氏の目には、ディープシークのAIがチャットGPTよりもはるかに低いレベルとみているのだ。

    (2)「アセモグル氏は、新しいテクノロジーがもたらす破壊的な経済効果に関する研究で、経済界では以前から知られている。「ディープシークがビジネスに採用され、企業にとって革命的となるような明確な道筋はまだ見えない」とインタビューで語った。チャットGPTが登場して以降、同氏はAIがどのように発展するかの研究を続けている。AIに奪われる職、あるいは少なくともAIに大いに依存する職は向こう10年でわずか5%に過ぎないというのが、同氏の計算だ」

    アセモグル氏は、「ディープシークがビジネスに採用され、企業にとって革命的となるような明確な道筋はまだ見えない」と手厳しい。オープンAIも余裕を持って対応している。「盗作」だと言い立てないところをみると、「相手にせず」というところなのだろう。仮に、実力が接近していれば。こんな余裕ある態度をみせないであろう。


    (3)「こうしたアセモグル氏の見解は、労働者に朗報である。だが、生産性の急上昇を見込んでAIに巨額を投じている企業には悪い知らせとなる。「自分が間違っていることを望む。生産性が向上することを願っている。それは本当にクールなことだと思うが、まだ目にしてはない」と同氏は語った」

    アセモグル氏のAIに対する見解は、次のようなものだ。

    『ブルームバーグ』(24年10月3日付)は、「AIに奪われる職はわずか5%、MITの著名経済学者が現実チェック」と題する記事を掲載した。

    「私は人工知能(AI)悲観論者ではない」と、ダロン・アセモグル氏はインタビュー開始早々に宣言した。AIの可能性は認めているという。

    (4)「マサチューセッツ工科大学(MIT)の著名な経済学者、アセモグル教授は迫り来る経済・金融の危機を警告する悲観論者的な声を上げるのは、AIへの熱狂やそれがあおる投資ブームと驚異的なハイテク株急騰が、とどまらないところを知らないからだ。「AIがどれほど有望であろうと、その過剰な期待に応えられる可能性は非常に低いとアセモグル氏は語る。AIに奪われる職、あるいは少なくともAIに大いに依存する職は向こう10年でわずか5%に過ぎないというのが、同氏の計算だ。労働者には確かに朗報だが、生産性の急上昇を見込んでAIに巨額を投じている企業にはとても悪いニュースだ」

    アセモグル教授は、AIへの過剰期待へ警告を発している。AIに大いに依存する職は向こう10年でわずか5%に過ぎないと限定している。


    (5)「アセモグル氏は、「多額の資金が無駄になるだろう」と話す。「5%では経済の革命は起きない」と述べた。ウォール街や全米の企業経営者の間で過熱するAIへの熱狂に警告する声は高まっており、アセモグル氏の発言は中でも特に注目されている。同氏は、MIT教授陣の中で最高称号であるインスティテュートプロフェッサーである。そのアセモグル氏が、AIへ懐疑的な意見を述べている。マイクロソフトやアマゾンといった企業では、AI投資のコストが急増しそれに見合った収入増がみられないことが一因だ。しかし、投資家のほとんどは高いプレミアムを払ってでも、AIの波に乗りたい姿勢を崩していない」

    AIへの過剰期待が、AI株を熱狂的に押上げている。だが、マイクロソフトやアマゾンは、すでに投資で自然体に変わった。「半身の構え」なのだ。こうした姿勢の変化は、参考にすべきかも知れない。




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    6日の東京市場では、対ドルの円相場は一時1ドル=151円台にまで上昇した。3日間の円上昇幅は3円強に達する。円高が、1日1円のペースで進んでいることに「異変」を感じないとすれば、嗅覚が鈍ってきたと言われかねない状況である。

    「三題噺」に喩えると、次のような事態に目を配らなければならない。
    1)2024年の米国貿易赤字は、モノの取引で1兆2117億ドル(約180兆円)と過去最大を更新した。
    2)米財務省は5日、ベッセント米財務長官と日銀の植田和男総裁が電話協議したと発表した。ベッセント氏は「植田総裁とマクロ経済や金融の優先課題を共有し、緊密かつ生産的に協力していくことを期待している」と公表文に記した。
    3)トランプ米大統領は6日、米鉄鋼大手USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)と面会した。会談内容は明らかになっていない。バイデン前大統領が中止を命じた日鉄による買収計画について、話し合った可能性もある。


    これらの3つの「現象」は、バラバラに動いているようにみえるが、その「底」を流れているものは、米国が日本へ協力を求め始めているという「動機」である。そこで、前記3点をみて行きたい。

    1)トランプ政権は、米国の貿易赤字を減らすことを経済政策で最大の目標に上げている。だが、24年の貿易赤字はトランプ氏が大統領選中に、自らを「関税男」と称して同盟国へも一律の関税を課すと言い続けていた。これが、米国へ繰上げ輸出させたもの。トランプ氏にも責任があるのだ。いずれにしても、異常なドル高が招いた現象であることは間違いない。

    米国は、ドル高を調整しなければならない。それには、米国が利下げしてドル高を調整すれば良いが、国内の消費者物価上昇率が未だ高いことからから、それも叶わない状況である。米国のこうした「行き詰まり状況」を解決するには、日本が利上げして行くことだ。日米金利差を縮小させれば、一方的なドル高を是正できる。


    2)米財務省は5日、ベッセント米財務長官と日銀の植田和男総裁が電話協議したと発表した。ベッセント氏は、植田氏と面識がある関係とされている。だが、米財務長官の公式相手は、日本の加藤財務大臣である。ベッセント氏は、加藤氏へ電話せずに植田総裁へ電話し、わざわざ公式発表までしている。これは、政策意図を持っている証拠だ。つまり、日銀へ利上げしてくれるように暗に促し、ドル高円安基調を和らげようという狙いとみるべきだろう。

    これまでの植田総裁は、「学者出身」らしく学会発表スタイルの記者会見をしてきた。それが、どれだけ円安を促進したか分らないのだ。ところが、最近は、すっかり「行政マン」として振る舞っている。国会でも、「現在の物価はインフレ的」とまで言い切った。これによって、市場は次回利上げが早いと警戒し始めている。ここが重要なのだ。市場の意識を日銀へ引きつけておき、円高を進める条件にすることである。


    3)2月7日(現地時間)、日米首脳会談が開催される。テーマは安全保障と経済である。安全保障は、日米が協力してインド太平洋の安全保障を確実なものにすることだ。経済は、日米協力を確実にする。すでに、AIと半導体の協力では、事前合意がされており、共同発表に盛り込まれる。もう一つの課題が、日鉄のUSスチール合併問題である。

    バイデン前政権が、労組の支持を得るために合併を拒否した。トランプ政権は、「米国第一主義」である。米国内の投資を増やしてくれる企業は、外国企業でも大歓迎する姿勢をみせている。こういう視点で日鉄・USスチールの合併問題を見直すと、日鉄が大規模投資する可能性が注目点になってきた。

    トランプ氏は6日、米鉄鋼大手USスチールのデビッド・ブリット最高経営責任者(CEO)と面会した。これは、重要なポイントである。USスチールの投資計画を確認して、7日の石破首相との会談に臨む意思なのだ。バイデン前政権が、合併阻止に動いたのは労組支持を得るだけでなく、日鉄が過去に中国で高炉立上げに協力したことを問題視していた。そこで、トランプ氏は石破氏にこの点の確認を求めるのではないか。


    米国は、これから通貨政策で日本へ協力を求めなければならない立場になっている。日本もこれを真っ正面から受けて異常円安是正に取り組まなければならない。円安による輸入物価上昇を防ぎ、国民生活を豊かにしなければならない局面だ。石破政権にとっても、日米通貨協力は「願ったり叶ったり」であろう。

    黒田東彦前日本銀行総裁は6日、都内での講演で日本経済が「完全に復活した」との認識を示した。日銀が、現在進めている金融政策の正常化については「極めて当然のこと」と述べたのである。黒田氏は日銀の政策について、一部のエコノミストから拙速な金利引き上げに伴う悪影響について懸念が出ていることに触れた上で、「そういうことはないのではないか」と否定的な見方を示したほどだ。

    日本経済が「健康体」になった以上、円高に耐えられる体質になっている。今回の日米首脳会談は、そうしたエポックになる可能性を秘めている。


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