中国が、狂犬のように周辺国と紛争を起こしている一方で、「本丸」米国には融和姿勢を見せている。なぜか。米国と本格的な紛争に入ったならば、中国経済の息の根を止められる危険性に気づき始めたのでないか。いくら、国際情勢が読めない中国民族派といえども、遅ればせながら中国の金融的脆弱性に感づいたと見られる。
ポンペオ米国務長官は6月17日、ハワイで中国共産党の楊潔篪政治局員と会談した。その際、中国側が第1段階合意の下で交わした米国からの穀物輸入について、約束を全て守る考えをあらためて示した。これまで、米中対立を利用して、米中貿易「第一段階合意」を反古にして対抗するとの予測もされていた。
それが、「約束実行」と発言したのは、米中対立激化を恐れ始めたと見られる。その代わり、国内対策で周辺国との紛争を煽っていると見られる。中印衝突は、中国軍の事前準備に基づくものだけに、国民の関心をインドに向けさせたのであろう。
『ブルームバーグ』(6月19日付)は、「中国、米農産物購入を加速させる計画ーハワイでの協議後」と題する記事を掲載した。
中国は今週のハワイでの米国側との協議を受け、第1段階の貿易合意の履行のため米国産農産物の購入を加速させる計画だ。
(1)「新型コロナウイルス流行の影響などで購入が進んでいなかったが、大豆やトウモロコシ、エタノールなどの購入を今後増やす方針だと、非公開情報だとして事情に詳しい関係者2人が匿名を条件に述べた。別の関係者によると、中国政府は第1段階の貿易合意の内容を満たすように国有の農産物輸入会社に求めた」
中国は、これまで米国に約束した穀物輸入計画をサボタージュしてきた。連日の米中による応酬から見て、輸入計画を破棄するのでは、とすら見られてきたのである。だが、約束通りに米国穀物を輸入するという。米国の存在を恐れたに違いない。それは、中国が自らの金融的弱点を認識したからであろう。
(2)「新型コロナの発生源や香港の国家安全法制を巡り米中の対立が強まる中で、貿易問題についても懸念していた市場にとって安心材料となる。ポンペオ米国務長官は17日にハワイで中国共産党の楊潔篪政治局員と会談。中国側が第1段階合意の下で交わした約束を全て守る考えをあらためて示したと18日にツイートしていた。ポンペオ長官はツイート以上の詳細は明らかにしていない。会談が行われた経緯やどちらが会談を呼び掛けたかは分かっていない」
ポンペオ長官が、18日にツイートして中国の穀物輸入計画に変更のないことを明らかにした。
(3)「中国は第1段階合意で、米国産農産物365億ドル(約3兆9000億円)相当を購入すると約束。貿易戦争前の2017年の240億ドルから増やすことになっていた。しかし米農務省のデータによると、今年1~4月の購入額は46億5000万ドルと目標の13%にとどまり、17年同時期の水準を約40%下回っていた」
下線部のように、今年1~4月の輸入額は目標の13%、17年同時期に比べても40%下回っていた。明らかに、サボタージュした結果であり、米国の出方を見ていたのだ。だが、米国がこれにお構いなく繰り出す対中強硬策に音を上げてきたにちがいない。
中国の最大のウイークポイントは金融である。不動産バブル経済の渦中にある中国は、すでに金融面で行き詰まっている。米国が、ここを突いてきたらひとたまりもない。鈍感な中国も、はたと気付いたのであろう。
中国の個人投資家は、かつてない状況に見舞われている。国有銀行が扱う25兆元(約377兆円)に上る高利回りの「理財商品」(投資運用商品)の一部で損失が出ているためだ。「理財商品」は、すでに元本保証が消えている。一部の「理財商品」が元本割れとなったことが、危機感を高めた。現在、中国人民銀行(中央銀行)からの追加刺激策への期待が後退している。その中で、国債利回りは今月上昇(注:価格は下落)する事態だ。金融環境の激変が窺える局面となっている。
国債の値下がり(利回り上昇)は、高利回りの理財商品には痛手である。元本保証がなくなった現在、中国の個人投資家はその不安を鎮める場所がないのだ。こういう中で、米国が香港を巡る金融措置を発動したならどうなるか。中国資本市場は大揺れであろう。米国へ事前に、「お手柔らかに」と陳情したとして不思議はない。現在の中国は、ここまで弱っている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月15日付)は、「『王様』ドル、米中の闘いで人民元に対する死角は」と題する記事を掲載した。
(4)「米中の反目は、一部の側面では米国に高くつくだろうが、金融面では中国の方が失うものが大きいのは明らかだ。ドルは依然、国際金融システムの鼓動する心臓であり、ドルの調達システムのコントロールは敵を罰する恐ろしいツールである。米国にとって本当の「バズーカ砲」は中国の銀行に対する制裁だろう。昨年、名称非公開の中国の銀行3行が、北朝鮮に対する制裁の捜査を巡り法廷侮辱罪とされたため、米国から罰を受ける可能性が出てきた。上院に提出されている法案も、香港の自由をないがしろにする銀行への罰則をちらつかせている」
米ドルは、国際金融システムの心臓である。この強力な武器を持つ米国に対して、新興国の中国が立ち向かって勝てると思うのは、正気の人間でない。狂人であろう。私が、繰り返し主張している点はこれだ。金融に無関心な人ほど、中国を過剰評価している。国際的な信頼のない中国が、戦える相手ではない。
(5)「中国の銀行がドルで事業をする能力を限定することは、かく乱要因であることは間違いない。中国の銀行が国外に保有すると主張する2兆2150億ドル(約237兆7000億円)のうち、63%はドル建てだ。今後2年間に、中国と香港で発行された米ドル建ての債券約3210億ドル相当が償還を迎え、借り換えが必要になる可能性がある。一方、米国の資金調達は、人民元に対するこれといったエクスポージャー(注:価格変動リスクの金融資産割合)は依然ほとんどない」
中国企業は、ドル建て債券を発行して資金調達している。そのドル調達に失敗すれば、中国企業の外貨資金繰りがつかなくなる。米ドルは命綱なのだ。逆に、米国にとって人民元は「ワン・ノブ・ゼム」である。月(米ドル)と星(人民元)の関係だ。これだけ説明すれば、十分であろう。