勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    国際格付け企業のS&Pは、日韓貿易戦争が拡大されれば、韓国が不利というレポートを発表した。日韓の貿易戦争激化は、中国を含むテクノロジーのサプライチェーンを混乱させる可能性があり、市場が織り込んでいる以上の大きな波及効果を及ぼすという内容だ。

     

    日本政府は、民生品について従来通りの輸出を許可するという態度を明確にしている。それだけに、実際の輸出許可が出ないというケースは想定しにくい。ただ、S&Pがこういう予測をしていることを知るのも参考になろう。

     

    『ブルームバーグ』(9月27日付)は、「日韓貿易戦争、市場の想定上回る大きな問題ーS&Pが警告」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「S&Pのアジア太平洋チーフエコノミスト、ショーン・ローチェ氏は東京都内でのインタビューで、影響を受けない勝ち組も株式市場に見られるかもしれないが、進行中の対立はグローバルに波及すると分析。日本が輸出許可を付与しないケースがあれば、韓国は生産を縮小するか重要な原材料確保で「相当高い」支払いを迫られるだろう指摘。最終的に中国にも影響すると付け加えた」

     

    下線を引いた部分は、日本が輸出許可を出さない場合、韓国だけでなく中国にも大きな影響が出るだろうというものだ。日本の半導体素材が韓国で半導体製品になり、それが中国へ輸出されるという連鎖が成立している。常識的に言えば、ここまで騒ぎが大きくなることを予見できる日本が、黙って輸出不許可にするケースは、よほどのことが起こっていると見るべきだろう。 

     

    (2)「同氏は、「日韓の2国間貿易の妨げになるものがあれば、中国のテクノロジーサプライチェーンが混乱に陥る。上流での小さな混乱であっても、下流に行けば極めて大きなインパクトが生じ得る」との認識を示した。最善のシナリオは今回の日韓対立が完全になくなることだが、たとえ対立が解消されても長期的に信頼の問題は残る可能性があるとも分析。ローチェ氏は「両国間の信頼とグローバルな取引システムへの信頼に持続的なダメージを与えことになるだろう。すでにわれわれはそれを目にし始めている」とし、「信頼感が低下し、企業のリスクと戦略についての考え方に恒久的な影響を及ぼす」と警告した」

     

    韓国側は、日本からの輸出困難に備えて代替品の試験使用を始めていると報じられている。同じ成分でも、生産過程で使用してみれば、いろいろと不都合な点が出てくるという。人間と同じように微妙な点で異なり、製品歩留まりに影響が出るという。サムスンでは、日本製品への強い拘りをアッピールしている。その影響かどうか分らぬが、これまでの輸出許可ではサムスンが優先されている。

     

    (3)「S&Pは、韓国の方が日本よりも厳しい状況に見舞われる可能性があるとみる。同社は韓国の経済成長率を今年が2%、2020年は2.6%と見積もっているが、現在の「膠着」が続けば、直接的な混乱が最小にとどまっても、同成長率見通しに緩やかな下振れリスクが生じるだろうとしている。日本への影響については、10月の消費増税後に見込まれる景気減速を悪化させる可能性はあるものの、韓国よりも「マイルド」とみる。S&Pによる日本の成長率予想は19年が0.8%、20年が0.1%」

     

    日本では、半導体3素材の対韓向け輸出が全体の「0.001%」という。韓国の半導体輸出の全体に占める比率は「25%」とされている。これが、中国へ輸出されれば、さらに大きな比率を占めるはずだ。このように、素材ベースの影響が製品組立の最終段階になれば、はるかに大きな影響を及ぼすことは自明。韓国側も戦略物資の管理には責任を伴う。

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    中国は、きょう10月1日で共産党指導の「建国70年」を迎える。大規模な軍事パレードによって、内外にその威容を示すということだ。だが、軍事力しか誇れるものがないとすれば、それはそれで哀しいことであるに違いない。国民の言論を厳しく制約し、香港では死に物狂いで「自由」への闘争が行われている。アンバランスな建国70年と言わざるを得ない。

     

    習近平氏の国家主席就任以来、国民弾圧路線が鮮明になっている。中国経済に綻びを生じている結果である。胡錦濤時代まで見られた、部分的な「自由化路線」はすでにその影も見られない。米国が、期待していた「民主化」路線は取り払われている。米中対立の火種は、この「民主化」期待が完全に消え去ったことへの失望である。

     

    中国にとって最大の不幸は、中国経済が最盛期を過ぎた段階で、米国と対決する舞台を選んだことだ。ここで言う最盛期(人口ボーナス期)とは、総人口に占める生産年齢人口比が2010年であったという事実である。2010年まで、中国経済は破竹の勢いで成長を続けてきた。2011年以降は、その生産年齢人口比率が下降局面(人口オーナス期)に入っており、経済の最盛期は過ぎたのである。

     

    日本の例で言えば、人口ボーナス期の最終局面は1990年である。日本は、それまでに社会保障の基盤づくりを終えていた。国際収支面では、資本自由化も変動相場制への移行も済んでいた。中国では、これら諸点が未だ終わっていないことだ。中国の経済成長率が急落していく中で、前記の問題をどのようにクリアするのか。軍事パレードをしている精神的ゆとりはないはずだ。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(9月30日付)は、「中国、偉大なる復興への『長い道のり』」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「中国は101日に建国70周年を祝うが、過去の業績と現在の試練がこれ以上ないほどの対比をみせている。根深い構造問題がますます重荷となり、中国経済は減速している。米国との関係は貿易戦争が一因で疑いようもなく敵対的になっている。香港は中国の独裁的支配にあらがう民主化デモにのみ込まれ、台湾は来年の総統選で独立派の候補を選出しそうな状況だ」

     

    下線部分は、中国の抱える根本的な問題である。雪だるま式に増える過剰な債務を返済する道がない。最近、IT企業へ地方政府官僚を大量に送り込んでいる。その理由は、私営企業を公有化して資産を吸い上げる準備作業とも観測されている。中国経済は、ここまで追い込まれているのだ。

     

    (2)「中国の習近平国家主席が、今月行った演説の公表テキストで、「闘争」という言葉を60回近く使ったことは驚くにはあたらない。それでも、中国政府は直面する試練にひるむ様子は見せず、立ち向かう決意を示す。「我々は闘争で勝たねばならない」と習氏は語っている。習氏の目標は長期的だ。中国は2049年までに「中華民族の偉大なる復興」を果たすと、習氏は公約している。経済と領土の両方の意味を込めた言葉だ。経済面では中国が「完全に開発された」国となり、米国を抜いて世界最大の経済大国になることを意味する。領土面では、1949年の革命後に本土から分裂した台湾の再統一を意味する」

     

    習近平氏は、市場機構に信頼を置いていない。市場機構による自然調節機能が、理解できないのだ。これは、経済運営コストを著しく引き上げる点で最悪の手法である。中国が、2049年までに偉大な復興を遂げるには、市場機構を利用するしかない。その肝心の手法を信じていないとすれば、世界覇権論は空中分解する。

     

    (3)「本質的に、中国は数々の「闘争」において旧来の独裁主義的な反応を強めることで対処しようとしている。先週公表された政府の政策文書が、この点を端的に示している。「中国の広大な領土と複雑な国状により、中国の統治には固有の困難がある」と文書に記されている。「中央に一元化された堅固な指導力がなければ、中国は分裂と崩壊に向かうであろう」。柔軟性を高めたほうが国益に資する可能性がある場合にも、厳しい硬直的な政策が採られることが増えている。中国の過去40年間の輝かしい経済的成功は主として経済改革と外資への開放、柔軟で実利的な外交政策から生まれたにもかかわらず、である」

     

    中国は、「闘争」によって内外の問題を解決できる訳でない。まさに、市場機構という「自然調節」機能に委ねるしかないのだ。こうした柔軟な発想法を持てない限り、内外の諸課題の解決は不可能である。中国は、2049年の建国100年を盛大に迎えることができるか。現状では困難と見るほかない。

     

     

     

     

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    韓国大統領府の秘書官の6割は、「86世代」とされている。元学生運動家上がりで、「親中朝・反日米」派とされている。民族主義グループであり、秘かに在韓米軍撤退を画策していると見られている。現に、大統領安全保障特別補佐官の文氏は、公然と在韓米軍撤退論を口にしているほどだ。

     

    将来の在韓米軍撤退について、国民世論は86世代と異なる見解であることが分った。こうなると、在韓米軍撤退論を軽々に口にすることが憚れるであろう。

     

    韓国は従来、北朝鮮軍に対して「主敵」という位置づけであった。文政権になってから「主敵」なる言葉を削除しており、北朝鮮への警戒論を薄める努力をしている。これに代わって、こともあろうに自衛隊を「仮想敵」に仕立てる動きすらあるという偏向ぶりである。

     

    『中央日報』(9月30日付)は、「韓国人78%、在韓米軍『韓国安保に重要』70%『韓米演習は必要』」と題する記事を掲載した。

     

    南北および米朝首脳間対話を見守りながら、韓国国民の半分以上が北朝鮮の完全な核廃棄が不可能、あるいは10年以上かかると考えているというアンケート調査結果が出た。国防部傘下国防大学は昨年8~9月にわたって現代リサーチ研究所に依頼して成人男女1200人と安保専門家60人を対象に安保意識世論調査を進めた。

     

    (1)「国会国防委員会の自由韓国党幹事であるペク・スンジュ議員室を通じて入手した「2018汎国民安保意識調査および政策代案研究」(信頼水準95%、標本誤差±2.83%)の結果によれば、調査に応じた一般国民1200人の中で51.8%が北朝鮮の完全な核廃棄時点を「10年以降(26%)」「10年以降も不可能(25.8%)」と見通した」

     

    韓国国民は、北朝鮮の核廃棄に絶望的見方である。「10年以降も不可能」という見方が25.8%もある。文大統領の楽観論と対照的である。

     

    (2)「年齢別では50代(52.5%)と20代(52.1%)で、地域別では釜山(プサン)・蔚山(ウルサン)・慶南(キョンナム、75.5%)とソウル(58.6%)で北核廃棄が10年以上かかる、あるいは不可能だという見通しが多かった。韓半島(朝鮮半島)の平和体制への転換も「10年以降」と答えた国民の割合(32.1%)が最も多く、「10年後にも不可能」だろうと答えた割合がその次(24.8%)だった」

     

    北の核放棄に悲観的な見方は、20代と50代が多い。これは、文大統領を支持しない層でもあり、地域的な傾向もそれを反映している。

     

    (3)「在韓米軍に関連しては、国民の77.8%が「韓国の安保に重要だ」と答えた。南北関係が冷え込んでいた前年(76.4%)と大きな差はなかった。専門家の中で95%が在韓米軍は韓国の安保に重要だと考えた。「在韓米軍の縮小時、北朝鮮に対する戦争抑制能力が減少するだろう」と答えたが、一般国民の54.3%、専門家の65%が共感し「在韓米軍撤収の際、北東アジアの情勢が不安になるだろう」という回答もそれぞれ53.2%(国民)、85%(専門家)に出てきた。地域別では「情勢の変化がないだろう(57%)」という回答が最も多かった湖南(ホナム)を抜いて全地域で「不安定になるだろう」という回答率が最も高かった」

     

    在韓米軍の駐留に関しては、国民の77.8%が「韓国の安保に重要だ」としている。「86世代」の見方と対象的である。朝鮮戦争で米軍の支援で国が残った事態を考えれば、当然のことであろう。むしろ、「86世代」の方が思想的に米軍を敵視しており、不自然であることを示している。

     

    (4)「在韓米軍駐留に対しては国民10人の中で4人(40.3%)が「統一の前まで駐留しなければならない」と答えたのに比べて専門家の半分(48.3%)が「統一以降にもできるだけ駐屯し続けるべきだ」と答えた。また、一般国民の70.3%と専門家71.7%が「韓米合同演習が必要だ」と考えた。戦時作戦統制権の転換後、韓米同盟が「強化するだろう」という回答は24.4%で最も多く、専門家の中では「弱まるだろう」(36.7%)という見方が多かった」

    南北統一後も、米軍に駐留して貰いたいという意見が40%強もあることが印象的である。それだけ、北朝鮮は信用ならないということの裏付けである。この場合の統一は、「一国二制度」を想定している。

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    米中貿易戦争で、米国が最も警戒した産業高度化プロジェクト「中国製造2025」は、米国とサムスンの技術支援拒否により、実現は大幅に遅れる見通しとなった。中国は、「中国製造2025」に多額の研究補助金を与え、半導体などの先端部門の強化を図る目的であった。だが、米国企業が支援を断ったのに続き、サムスンも技術提携申入れを拒否した結果、独力での開発のやむなきに至った。

     

    「中国製造2025」が米国を刺激した結果、中国政府はできるだけ目立たないようにしている。技術開発で提携相手を探す上で、米国の横槍を警戒したものであろう。最後に白羽の矢を立てたサムスンからも断られ、独自路線を決断せざるを得なかった。

     

    『中央日報』(9月30日付)は、「サムスン、中国の半導体素材・装備同盟拒否」と題する記事を掲載した。

     

     中国政府がサムスン電子に半導体素材・装備の共同開発を提案していたことが分かった。サムスン電子はいくつかの理由を挙げて中国政府の要求を断ったという。中国は、韓国および米国企業との協業計画を変更し、独自で半導体素材を開発してメモリー半導体を生産する方向に転換した。

    半導体業界によると、中国政府は7月中旬、サムスン電子に半導体素材・装備を共同開発し、関連産業を共に育成しようと提案した。日本政府が半導体生産に必須の3大核心素材(高純度フッ化水素、フォトレジスト、フッ化ポリイミド)に対する輸出規制措置を発表した直後だ。

    (1)「中国政府が世界半導体市場を掌握する、いわゆる「半導体崛起」を実現させるためには、世界1位メモリー半導体企業のサムスン電子の支援が必要だと判断したというのが業界の見方だ。日本の半導体輸出規制で韓国も中国と協業する必要性が高まったというもサムスン電子にラブコールを送った要因の一つに挙げられる。韓国の半導体素材および装備の国産化に中国が少なくない役割をするという意図だ」

     

    サムスン李副会長は、頻繁に日本を訪問している。先のラグビー・ワールド・カップ初戦での日本・ロシア戦にも顔を出すほど、日本に神経を使っている。あくまでも日本との関係強化の姿勢を示すためだ。今回、中国の提携申し入れが、いかなる国際的な波紋をもたらすかを計算した上で、断ったと見られる。日本側の意向も反映しているのであろう。

    (2)「サムスン電子が中国政府の提案を受け入れなかったのは、短期的には半導体素材・装備国産化にプラスになっても中長期的に韓国半導体産業を脅かすと判断したからだ。中国国有半導体会社はサムスン電子とSKハイニックスが二分しているDRAM、NAND型フラッシュメモリーなどメモリー半導体生産を推進中だ」

     

    「中国製造2025」における目玉は、半導体の自給率を上げることだ。現時点の自給率目標は20%だが、実際はこの半分にも達していないという。それだけに、サムスンとの提携は喉から手が出るほど必要なものであったはずだ。

    (3) 「サムスン電子が拒否の意を伝えると、中国は独自開発に方向を定めた。中国国有半導体企業の紫光集団は16日、韓国や米国との協力を通じて半導体競争力を強化するという従来の計画をあきらめると宣言した。その代わり独自の研究開発(R&D)でメモリー半導体を生産すると発表した。中国重慶産業基金の支援を受けて今後10年間に8000億元(約15兆円)をDRAM量産に投資する計画という。紫光集団は2015年、DRAM市場3位の米マイクロン買収を進めたが、米国政府が承認しなかった。今年2月には米中貿易紛争の影響でインテルとの第5世代(5G)移動通信モデムチップ協力を中断することにした」

     

    下線の部分は、きわめて重要だ。米国の強い圧力の下で、独自開発を余儀なくされた訳で、「中国製造2025」の遅延は必至である。これが、米中貿易戦争の集結を早めるのかどうか微妙である。


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    けさ、下記の目次で発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    儒教は経済発展にマイナス

    落込んだ中国の潜在成長率

    文政権顕著な国民生活圧迫

     

    韓国は、中国の儒教文化圏に属している。朝鮮李朝(1392~1910年)は、国教を朱子学(儒教)と定めたので、韓国思想は中国とほぼ重なり合っている。現代韓国が、中国に対して外交面で一歩も二歩も下がっている姿勢は、宗主国・中国への気配りの現れだ。

     

    儒教では、地理的に中国から遠くなるに従い、儒教文化の恩恵が及ばないので「化外(けがい)の地」として蔑まされてきた。韓国にとっての日本は、「化外の地」そのものである。こうした伝統的な思考方式に慣らされてきた韓国が、日本に対して「道徳的に一段高い」という潜在意識で臨んでいることは明らか。文在寅大統領が時折、「道徳的に高い韓国」と発言するのは、儒教文化による影響とみるべきだろう。

     

    儒教は経済発展にマイナス

    中国と韓国を彩る儒教は、社会の進歩に対してアクセル役か、ブレーキ役であるか。この違いを明確に知ることが重要である。中国は、「共産主義」を標榜している。社会発展の過程から見れば、資本主義社会の次に来るのが共産主義社会である。マルクスはこう規定していた。資本主義が高度の発展を遂げた後に、共産主義社会が到来すると見ていたのである。

     

    この点で言えば、中国は資本主義を経験していない社会だ。専制主義から「封建主義と資本主義」を経験せず、共産主義へと暴力革命で一挙に権力を奪った政権である。未だに、国民へ選挙の機会も与えず、「一党独裁」を強要している。なぜ、国民に選挙権を与えないか。それは、選挙制度を恐れているからなのだ。

     

    「選挙」という新しい文明に出遭った中国が、魔物でも扱うような姿勢で、中国伝統の専制主義に逃げ込んでいるのは、これまでの人類文化に先例がある。20世紀の英国歴史学者アーノルド・トインビーによれば、新文明に遭遇した時、その未知なる文明に挑戦せず、伝統文化に逃げ込むのは「狂信派」(ゼロット派)と呼ばれている。儒教文化圏とアラブ文化圏がこれに該当するのだ。こうして中韓は、今なお「ゼロット派」に属しており、新しい文化への取り組みに尻込みする文化パターンである。

     

    新文明に遭遇した時に逃げ帰らずに戦い、それを通して新しい知恵を学ぶ一派が存在する。トインビーは、これを「ヘロデ派」と名付けた。現在の先進国は日本を含めて、すべて「ヘロデ派」である。こう見ると、日本が韓国と文化摩擦を起こすのは当然と言える。価値基準が異なるゆえに、日韓は潜在的に衝突する可能性が大きい関係性にある。

     

    韓国は選挙制度もあり、先進国と同じ価値観である。だが、韓国は「ゼロット派」という肌着を身につけていることを忘れてはならない。外見とは異なって、最後は「本性」を見せてくるのだ。韓国国内で制度改革を拒否して、合理化が進まない裏に、こういう改革へのブレーキが作動している。

     

    一例を挙げれば、労働市場の改革は御法度である。終身雇用制と年功序列賃金に固執するので、労働市場の流動化が進まず転職の可能性は小さい。よって、失業率が高止まりするなど弊害が顕著だ。また、転職できずに中途退職して自営業へ走り、それが一層雇用を不安定にさせるなど、多くの社会問題を引き起こしている。

     

    中国と韓国の経済は、「ゼロット派」ゆえに制度改革に消極的であり、生産性向上が不活発という共通要因を抱えている。この中韓両国は、貿易関係において相互依存性が高い。韓国の場合、対中国輸出は25.1%(2017年)で首位である。中国経済の好不況に影響を受けやすい輸出構造だ。中国のGDPが1%ポイント下落すれば、韓国のGDP成長率が0.5%ポイントの下落を招くという試算があるほど。韓国が、中国経済へもたれかかっているのだ。

     

    このことから分るように、韓国経済は中国の好不況に強い影響を受ける。それだけに、中国が制度改革に消極的という文化的要因を考えると、韓国も同じ消極性を秘めているゆえに、今後の韓国経済について一段の警戒観を持つべきだろう。(つづく)

     

     

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