韓国政治に、従来に見られなかった「進歩派独裁」という巧妙な動きが強まっている。文氏は一見、民主主義の申し子のように振る舞うが、人事手続きでも国会の聴聞会に掛けず、独断で決めている。しかもその人事は、憲法裁判所裁判官である。文政権一派の裁判官で憲法裁判所を支配しようとの狙いは明らかである。
次期政権が保守政権に変った場合、今回の「独断人事」の背景と狙いは必ず究明される必要があろう。また、テレビ局経営者も前政権時から一変させて、労組ともども政権批判放送が消えている。文政権による「情報コントロール」が進んでいるのだ。
『朝鮮日報』(4月20日付け)は、「憲法ではなく文在寅政権を守る憲法裁判所」と題する社説を掲載した。
(1)「文在寅(ムン・ジェイン)大統領は19日『35億ウォン(約3億4000万円)株式投資疑惑』が指摘されている李美善(イ・ミソン)氏と、ウリ法研究会元会長の文炯培(ムン・ヒョンベ)氏の2人を憲法裁判所の裁判官に任命した。その結果、現政権で人事聴聞報告の採択なしに任命された憲法裁判官はこれで4人になった。これまで歴代政権で30回以上にわたり憲法裁判所長、憲法裁判官の人事聴聞会が行われたが、聴聞報告の採択なしに任命されたケースは過去に1回もなかった」
憲法裁判所の裁判官任命は、国会の聴聞会を経ることが当然の手続きである。過去の政権でもすべて、そういう手続きを経ている。文大統領は、自らに冠せられた「社会派弁護士」という評判を悪用し独裁的な動きをしている。はなはだ危険というほかない。文氏は、韓国社会を自らの思い通りに動かすと独裁的な方向を強めている。こうした、憲法精神を踏みにじる「クーデター」的政治は、糾弾されてしかるべきである。
文氏の頭には、北朝鮮問題しかないようだ。北朝鮮を救済して南北交流を実現する。これだけが政治目的と化している。そのためには、日韓関係が破綻しても致し方ないとまで、思い込んでいる節が見られる。ならば、日本も腹を固めて対応するほかない。
(2)「現政権発足後は、裁判官が指名されるたびに様々な問題が指摘され、今や裁判官のほぼ半数が聴聞報告の採択なしに任命された。裁判官の人選が政権のコード(政治的理念や傾向)に合致する自分たちの仲間中心に行われたためだ。そのようにして任命された憲法裁判官は9人中4人になったが、これでは憲法裁判所そのものが深刻な道徳的問題を抱えるのはもちろん、民主的な正当性まで失われてしまうだろう。『憲法裁判所は大統領府の出先機関』との指摘ももはや決して大げさではない」
憲法裁判所という、一国の制度や価値観に関わる根幹的な裁判を司る裁判官が、権力の意向次第で恣意的に決定されることはきわめて不幸である。国会の聴聞会は、そういう権力の恣意性を排除するための不可欠な手続きである。それを飛び越えた超法規的な任命は、文政権が永久に負わなければならない責任である。
(3)「李美善氏と文炯培氏の2人が憲法裁判官に任命された結果、大法院(最高裁判所に相当)長が会長を務めるウリ法・人権法研究会出身者は4人となった。文大統領が大統領府民政主席だった時に秘書官だった民弁(民主社会のための弁護士会)の元会長も憲法裁判官だ。これによって法曹界の新たな主流とされる政権コード集団出身者が憲法裁判所を事実上掌握し、その結果、韓国社会の核心的な利害や価値に対する憲法的な判断が彼らの手に渡ってしまった」
野党各党からは、「気に入らない法律や積弊とされた法律を次々と違憲にするだろう」「左派独裁の最後の鍵が完成した」などの指摘が相次ぎ、また法曹界からは「死刑制度」や「国家保安法」などが廃止されるとの声も出始めているという。これは見過ごすことのできない事態というべきだ。
文氏は、北朝鮮との統合(一国二制度)準備を始めているに違いない。そのためには、憲法裁判所裁判官を進歩派で固めることが必須条件と見ている。だが、日本との関係悪化を放置したままに,北朝鮮との統合は不可能であることに気付いていないのだ。ここら当たりが、文氏の政治家としての限界を示している。日米関係緊密化の中で、安全保障的な観点を無視した南北統合など「戯言」に過ぎないのだ。文氏は余りにも幼稚である。