勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国出身の英国ケンブリッジ大学教授ハジュン・チャン(張夏準)氏が、7月10日韓国での講演で母国を鋭く批判した。

     

    韓国の経済政策は確かに間違っている。「反企業主議」が、あたかも社会正義のように振舞っているからだ。一方、韓国財閥も好き勝手なことをしている。最近は、大韓航空の経営者一族が世間の耳目を集めている。会長夫人が出入りの業者を殴った。次女が、広告会社社員にコップの水をかけたなどで、検察から逮捕状請求が出され地裁で却下される騒ぎになっている。日本では、考えられない話だ。

     

    韓国財閥の抱える問題は複雑だ。財閥家族が、経営を支配するという時代遅れの存在が国内対立を生んでいる。これを改めるには、企業統治(コーポレート)を取り入れて、財閥家族が役員として行なう横暴な振る舞いを阻止すること。具体的には、株主、労働組合、消費者、地域という利害関係者間の調整をすること。韓国には、全くそれが機能していないのだ。正確には、そういう発想法が存在せず、大株主の財閥家族は自由気ままな行動が許されると錯覚している。

     

    こういう浮き世離れして韓国経済が、スランプに落込むのは当然であろう。前記のハジュン・チャン教授は、次のような講演をした。

     

    『朝鮮日報』(7月11日付)は、「ケンブリッジ大教授が文政権を批判、今の韓国経済は正常ではない」と題する記事を掲載した。

     

    「『出生率は最低、自殺率は最悪といった韓国の各種指標は恥ずかしくて顔を上げられないほどだ』と、現政権下の産業・経済に苦言を呈した。また、『造船・鉄鋼などの主力産業は中国に奪われ、製薬・機械・部品・素材などの有望産業は先進国の壁を崩せずにいる。半導体生産は1位だが、半導体を作る機械は日本・ドイツから輸入している』『かつての高度成長期に韓国は1人当たりの国民所得基準経済成長率が6%を上回ったが、韓国通貨危機(2008~09年)以降は2~3%台に落ちた』『成長率が低下するのは自然なことだが、これほどの急激な低下は正常ではない』と現政権の政策を強く批判した」

     

    この発言が、現在の韓国の置かれている状況である。産業は、中国に追いつかれている。「中国製造2025」稼働すれが、韓国の対中優位性はほとんど消失する。その危機感だけは叫ばれているが、具体的な対応策はゼロ。「反企業」でまとまるが、企業の活用策は生まれないのだ。


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    中国経済はふらついている。過剰債務の削減(デレバレッジ)を始めたばかりで体力が墜ちているからだ。肥満体の人間が減量を始めたのと同じことであろう。そこへ、降って湧いたように米中貿易戦争が始まった。中国経済にとっては「泣きっ面に蜂」である。この危機を受けて、上海総合株価指数は1月末の高値以降、約20%の下落を記録した。

     

    ここまで下落したので自律反発の形で、7月10日の終値は2827ポイント。12ポイントほどの上昇だ。だが、これを以て、上海総合株価指数底入れ、反発に転じるとは誰も見ていない。ただ、トランプ砲が鳴らないだけの話で、誰かが「小遣い稼ぎでもやったか」という程度の受け取り方のようだ。

     

    今回の下落局面は、機関投資家がリードしているという。彼らは、投資のプロ集団ゆえに理詰めの投資戦略である。機関投資家は、中国株に対してどのようなイメージを持っているのか。知っておくことが必要であろう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月10日付は、「中国金融市場の動揺、今年は2015年より悪化か」と題して次のような記事を掲載した。

     

    (1)「3年前、上海総合指数は6月からの2カ月間でほぼ半分に下落。ようやく16年に入って底入れしたが、15年半ばにつけた高値水準をいまだに回復していない。人民銀が15年8月に突如2%の元切り下げを実施したことも市場に衝撃を与えた。今年さらに心配なのは、債務増大への中国政府の対策と米国との貿易戦争などだ。投資家は中国経済に潜む根本的な問題を指し示す兆候に理性的に反応しているようだ」

     

    中国株のリード役は交代した。15年が、個人株主の熱狂的な動きに煽られた。今回は、機関投資家が主役だ。それだけに、自らの投資尺度で動いている。投資家は、中国経済の抱える欠陥が過剰債務にあることを知り抜いており、一時的なムードに流されることはなさそう。冷静に分析している。中国当局の「口先介入」に乗せられないことが肝要だ。

     

    (2)「上海の資産運用会社CYAMLANインベストメントの張蘭丁最高経営責任者(CEO)は『15年の相場崩落は突然熱にとりつかれて、素早く引いたかのようだった。今回は下げ相場が長引きそうだ』と指摘した。今年と15年との大きな違いの一つは、一般的には市場を長期的観点でとらえる機関投資家が株安を主導しているように見える点だ」

     

    今年の株価下落は機関投資家主導である。それだけに、合理的な根拠が確認できなければ株価が大きく跳ねる見込みはなく、むしろ低迷相場は永続きしそうである。

     

    (3)「投資家の種類ごとに分類した取引のデータはないが、投資のプロが相場をけん引している様子を2つの要素が示している。第1に、今年の上海株の下落は中信証券や宝山鋼鉄など、主要な中国国有企業の株安が原因だ。これら優良銘柄は通常、大手機関投資家に好まれる傾向にある。第2は、中国に9000万人いる個人投資家が今年の相場低迷にそれほど影響を及ぼしていないという合図だ。借入資金での株式投資に利用される証拠金融資の急減である。7月5日時点の証拠金融資残高は、9089億元(約151000億円)と、15年夏の相場崩落直前に記録した過去最高の21000億元の半分弱だ」

     

    機関投資家主役説の根拠は2つある。第1の証拠は、優良銘柄の値下がりの大きい点で、いずれも機関投資家好みの銘柄が売られていること。第2の証拠は、借入資金での株式投資に利用される証拠金融資残高が、15年夏の半分程度であること。これら2つの点から、個人投資家よりも機関投資家が相場の主力である。このことは、中国経済の弱点を正確に把握して行動するに違いない。

     

     

     


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    中国政府が笛や太鼓で騒いできた「一帯一路」計画が、あちこちで「不都合な真実」が暴露されている。当初は、第二次世界大戦後、欧州経済復興援助で実績を上げた「マーシャルプラン・アジア版」という触れ込みであった。マーシャルプランとは、当時の米国務長官の名前をとり、米国が欧州の経済的な復興を支援した事業である。

     

    最近、中国政府は自国のメディアに対して「マーシャルプラン」なる言葉の使用を禁じる通達を出した。マーシャルプランは米国の援助であったが、「一帯一路」は援助でなく高利の貸付である。高利の債務を返済できない国では、担保を差し押さえられるという事態にまで発展し、中国がにわかに批判される側になっている。そこで、「マーシャルプラン」なる言葉を禁じたもの。

     

    マレーシアは、今年5月にマハティール氏が首相に返り咲いたことから、「一帯一路」計画の一環として契約済みの高速鉄道、「東海岸鉄道」(ECRL)計画を7月5日に中止決定された。中止期間は定められていない。同事業の第1期分契約額は、460億リンギット(約1兆2500億円)である。マハティール氏は、これだけの巨額投資が財政的に負担であることや、それに見合った効果が期待できないと指摘した。

     

    『サーチナー』(7月9日付)は、「マレーシアで『一帯一路』構想が躓き」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「マレーシア政府が同プロジェクトを中止した理由は、総工費が当初予算を上回る見込みとなり、財政悪化を防ぐためとしている。マハティール氏は今年5月の選挙戦でも中国との間で進んでいるプロジェクトは『国益にそぐわない』という見方を示していた。ECRLの総工費は当初550億リンギット(約1兆5050億円)と見積もられていたが、マハティール政権の最新試算によれば、中国への金利支払などを含むと810億リンギット(約2兆2100億円)に膨らむ見通しになったという」

    「東海岸鉄道」(ECRL)計画は、総工費が約1兆5050億円と見積もられていたが、金利分を含めると約2兆2100億円に膨らむ見込みだという。実に、当初金額に比べて46%増である。何か、「悪徳商法」の典型例という感じである。安い見積もりを出して契約を取り、その後に契約金額の上乗せをする。多分、こういうやり口で、スリランカなどを食い物にしてきたのだろう。

     

     

    (2)「マレーシアでは、同プロジェクトの他、中国との間で『一帯一路』関連で複数の大型プロジェクトの計画がある。これら計画に絡んで、ナジブ・ラザク前首相が背任、収賄罪容疑で逮捕されている。今回のECRLの中止に合わせて、中国企業との間で交わされたマレー半島とボルネオ島をつなぐパイプライン建設計画についても事業中止の判断が下されている。マレーシアにおける相次ぐプロジェクトの中止発表は、その他の地域での『一帯一路』プロジェクトの進行にも影響を与える懸念がある」

    マレーシアでは、前政権が「一帯一路」関連でいくつかのプロジェクトを中国政府との間で進めていた。ナジブ前首相が逮捕されたので、中国との間でいかなる契約があったかが、裁判過程で明らかにされるはずだ。そうなると、中国のメンツは丸つぶれだ。「一帯一路」計画は、中国の資金的行き詰まり感を反映して、すでに縮小方向に向かっている。マレーシアでの「取りこぼし」は、中国の野望を阻止するきっかけになり

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    7月6日からの対米関税引き上げをめぐって、中国国内では通関に遅れたために、特別関税を掛けられる「不運」が起こっている。同じ荷主で9個のコンテナで3個は「フリーパス」、残りの6個には引上げ関税が掛けられたという妙なニュースが報じられた。

     

    『ブルームバーグ』(7月9日付)によると、カリフォルニアから上海税関を通じて食肉を輸入しようとしていた中国の大手食肉輸入業者、蘇州華東食品は極めて高コストの米国産ステーキを何とかしてさばかなければならなくなった。新たな関税導入前に税関を通過できたのは冷凍の牛プライムリブや豚ロースなどを積んだ3個のコンテナだけ。残り6個には、1個当たり最大50万元(約830万円)の関税が課された。いかにも中国で起こりそうな嫌がらせである。輸入業者には何の落ち度もないのだ。

     

    コンテナ1個分の食肉の関税が830万円とは驚く。食肉輸入業者は「米牧場からの食肉購入を大幅に減らすことは確実だ」と語ったという。この嫌がらせには裏があって、商務省は米国以外からの輸入を促進させる手段に利用している節が窺える。

     

    今回の米中貿易戦争は、「中国の敗色」濃厚である。中国は、メンツのため負け戦を覚悟で臨んでいる。その対策が始まっているのだ。引上げられた関税収入を、米国での関税引き上げで採算困難になった企業の救済に当てるというもの。中国商務省が7月9日に発表した。

     

    中国は、米国への報復で大豆に25%の関税を掛けると発表している。輸入季節の関係で、米国産大豆に依存せざるを得ない事情がある。そこで編み出された手が、「国家備蓄用の大豆には引き上関税分を還付する」という方針である。中国特有の「上に政策あれば下に対策あり」という抜け穴が準備されているように思える。

     

    『ブルームバーグ』(7月9日付)は、「米国産大豆の輸入関税、国家備蓄分は業者に払い戻しへ」と題する記事を掲載した。

     

    「中国は米国からの大豆輸入について、国家備蓄用の購入を対象に25%の関税負担分を輸入業者に払い戻す方針だ。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。関係者らによると、現時点で海上輸送中の米国産大豆のうち、少なくとも貨物1隻が国家備蓄用に購入されたものという」

     

    先の食肉業者の例から言えば、同じ輸入貨物でも7月5日の時間ぎりぎりで通関したものと、暦の上で6日になって通関したのは荷主の責任でない。通関業務を担当している側の責任である。この場合は、関税引き上げ前の税率を適用すべきもの。一方、国家備蓄用の大豆については、海上輸送中で通関どころの話でない。明らかに7月6日を過ぎている。それにも関わらず、関税を還付するという特別待遇を行なうのは不公平な扱いである。

     

    先の食肉業者が法的に訴えることが可能であれば、中国政府のこの矛楯した対応の是非が明らかになろう。と言っても、中国では政府が絶対権力の保持者である。食肉業者が訴えてももみ消されるか、後から酷い報復されるに決まっている。中国は、法があっても無きに等しい国である。泣き寝入りするほかないのだろう。

     

     


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    中国経済が昨年、予想外にも6.9%成長が可能になった背景に、輸出増加が寄与した。その輸出は今、米中貿易戦争で先行きが怪しくなっている。6月のPMI(製造業購買者担当指数)の輸出受注では、好不況の分岐点である50を割っている。「警戒警報」だ。

     

    こうなると、中国の奥の手は人民元相場の下落容認である。手綱をしっかりと握りしめながら、人民元相場の軟化を認めて輸出の支えにしたいのは明白である。下落の限界はどこか。ここ10年間の人民元相場を見ると、1ドル=6.9元は安値の限界線であることが分る。相撲で言えば、ここが徳俵という感じがする。

     

    中国は、米中貿易戦争の長期化に備え、輸出競争力を維持するために、1ドル=6.9元台へと大幅な元安水準にすると報じられている。中国政府は、ここまで「後退」しながら経済の態勢立て直しを図る意思表示のように思える。こうなると、6.9元は徳俵であり、かつて、独仏国境に敷かれたマジノ線という位置づけだ。

     

    『大紀元』(7月9日付)は、「中国当局、米中貿易摩擦、1ドル6.9元台付近の元安を容認か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「人民銀行の公表では、61日の対ドルの人民元基準レートは1ドル=6.4078元だったのに対して、6月29日は1ドル=6.6166元となった。元は1カ月で対ドルにおいて約3.25%と大幅に下落した。ロイターが市場関係者を対象に行った調査では、米国は通商問題で中国への圧力を強化しているため、元相場が対ドルで一段と下落する可能性が高いとの見方が多かった。一部の関係者は、3.25%の下げ幅を回復するのに1年かかると推測する」

     

    中国のように管理型変動相場制では、人民元相場は政府管理である。大きな変動はあり得ない。ここが、自由に変動すべき為替相場の性格から見て、極めて問題含みの点である。世界のGDP2位になりながら、政府という「親がかり相場」では、企業に自立性が育つはずもない。中国政府は、こういう矛楯に気づかない振りをしている。この状態で、世界覇権に挑戦するなど夢のまた夢、である。6月の人民元相場の変動幅が3.25%で、これが回復するには1年かかるとは驚きだ。

     

    (2)「ロイター通信は7月5日、中国当局高官の話を引用して、国内景気減速と米中貿易摩擦の激化を背景に、中国当局が元安を歓迎する姿勢を示し始めたと報道した。報道によると、情報筋は『当局はある程度の元安を認めている。しかし、元相場は1ドル=6.90元台を割り込むことを望んでいない』と話した。今後中国当局が元相場の急落の阻止と投資家の信頼回復を目的にする時のみ、為替介入を実施するという。英調査会社キャピタル・エコノミクスの最新調査によると、中国当局は人民元の動きをコントロールする姿勢を鮮明にした」

     

    人民元は2015年に、大荒れ相場になった。あれ以来、厳重な相場管理を行い、資本移動にまで網を張っている。行き場を失った国内の過剰貯蓄は、不動産バブルに火を付けて回っている。人民元相場の変動を抑えて、バブル経済を結果的に奨励する形になった。最終的には、中国経済の足腰を弱めており、米中貿易戦争ではその弱点を狙い撃ちされている。こういう総合的な視点を欠いたまま、目先の利益を求め動き回る。海の向こうでは、トランプ氏が高笑いしている姿に気づかないのだろうか。


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