勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    a0960_006621_m
       


    文在寅大統領は、日本・米国・北朝鮮から同時に「三下り半」を突付けられた恰好である。理由は、もはや説明するまでもない。不誠実な外交姿勢が相手国を怒らせたのだ。

     

    日本は慰安婦問題と徴用工問題である。日韓政府間で結んだ条約や協定を骨抜きにしても平然としている。外交特使を送って丁寧に説明することもなく、高飛車に出ているのだ。「日本政府は誠実になれ」と説教を垂れるほど傲慢である。

     

    米国は、対北朝鮮政策をめぐり米国と協調せず、南北融和で突出行動に出ている。これが、北朝鮮に誤解を与えた。北朝鮮に「粘ればなんとかなる」そういう淡い期待を持たせたのだ。

     

    北朝鮮は、韓国が米朝首脳会談前に米国の厳しい姿勢を伝えてくれなかったこと。北が、米国の真意の一端でも知っていれば、あのように無様な会談決裂に至らなかったと、悔いているのかもしれない。北に責任の過半はあるが、文氏の「仲人口」に乗ったことは事実だろう。

     



    こうして、文在寅氏に対し日米朝は、「三者三葉」の怒り方をしている。文氏にとっては深刻に受け止めるべきであろう。

     

    日本では、韓国に対する報復措置が公然と語られるようになっている。文政権が、ここまで日本を侮辱した以上、日本が何らかの対応を取ることは不可避であろう。その時、「こんな積もりでなかった」などと泣きごとを言わぬこと。日本が、措置を取る前に善処すべきなのだ。

     

    韓国と、米朝の問題については、つぎの社説を取り上げた。

     

    『朝鮮日報』(3月23日付け)は、「韓国船を疑う米国、文在寅政権を見限る北朝鮮」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「北朝鮮は22日、開城の南北共同連絡事務所から一方的に撤収した。北朝鮮側は、特に説明もなく『上部の指示によるもの』としか言わなかったという、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の決定というわけだ。北朝鮮の一方的な連絡事務所撤収は、ハノイ会談決裂直後から韓国大統領府が『『仲裁者』『促進者』としての韓国の役割が大きくなった』と言っていたのがどれほど現実から遊離した認識であったか-を示している。青瓦台は、北朝鮮制裁をさらに引き締めようとする米国の方針にもかかわらず、『開城工業団地、金剛山観光再開案を整備したい』と北朝鮮へ露骨にラブコールを送ったが、北朝鮮は公に『文大統領は仲裁者ではない』とした。このとき既に、利用価値は消えたと宣言したも同然だった」

     

    今回、韓国が米朝から突付けられた不信感は、文氏の「コミュニケーション能力不足」と思い込みがもたらした大失敗である。文氏は、政治家としての素質を著しく欠いていることを証明した。周辺から外交専門家を排除して、素人を集めた結果がこの失敗である。外交だけでない。経済問題でも最賃引き上げで大変な失敗を犯している。韓国マスコミは、この文氏を「理論派」と呼ぶがとんでもない。思い込みという感情過多症に過ぎない。

     


    (2)
    「今や米国をはじめとする国際社会は、北朝鮮が核放棄を決心するよう追い立てていく方法は制裁圧迫だけ、というコンセンサスで一つになっている。米国は北朝鮮の海上違法積み替えを取り締まるため、沿岸警備隊(USCG)所属のカッターまで韓国に送る予定だ。だが文政権は、北朝鮮の核廃棄などどうでもいいかのように『金正恩ショー』を続け、政権を延長する考えしかないようだ。だから『先に制裁を緩和してやれば、北が核を放棄するだろう』という荒唐無稽な発想に固執している」

     

    国家を私物化する「金ファミリー」に対して、甘い期待を寄せていたら大変な裏切りに合う。それを改めて実証したのが、今回の文氏による一連の不手際である。文氏と彼を取り巻く「86世代」は、北朝鮮の「チュチェ思想」の信奉者である。韓国の現政権にとっては、北と交流できるきっかけは千載一遇の機会であろう。それゆえ、喜びの余り盲目状態に陥っている。国家を売り渡すような話である。

     

    (3)「制裁がなくなったら、どうして北が核を放棄するのか。こうした事情をよく理解している北朝鮮は22日、開城から撤収しつつも『南側は残っていてもいい』と言った。米国にもう一度すがってみろ、というわけだ。文大統領が『金正恩の非核化の意思』なる実体なきバブルを作り、育てていたときから、下手をすると最大の被害者は韓国になりかねないという懸念はあった。その懸念が最悪の形で現実になっている」

     

    南北問題は、米韓が密接な関係を維持できてこそ、スムースに進むものである。米国に安全保障を依存している事実を忘れ、同盟関係にヒビを入らせるような状態にして、南北交流はあり得ない話である。文氏が、理性派であれば同盟関係を忘れて、南北問題にのめり込むことはないだろう。ただの感情過多症であろう。

     

    メルマガ37号 「文在寅の大誤算、日本企業『資産差し押え』は韓国衰退の引き金」が、下記の『マネー・ボイス』で紹介されました。ご覧下さい。

    https://www.mag2.com/p/money/652352

     

     


    a0960_005453_m
       

    トランプ氏は過激な発言で売っている大統領だ。就任当時は、保護貿易論者であると世界的な批判を浴びた。これに対して、中国の国家主席習近平氏は、市場を開放すると宣言して、にわかに「自由貿易論者」と評価された時期がある。

     

    不思議なもので、このトランプvs習の評価は一人歩きしてメディアでもそういう記事が散見された。だが本来、資本主義経済のメッカの米国が保護主義で、計画経済の中国が自由貿易擁護などあり得ないこと。世の中というものは、こういう間違いがあたかも真実のように思い込まれるところが怖い点だ。

     

    もう一つ誤解を上げれば、2020年代後半に中国のGDPが米国を抜くとの説が有力だった。私は絶対、あり得ない「謬見」だと言い続けてきた。なにせIMF(国際通貨基金)までが、そういうデマを流していたのだ。その根拠は、過去の成長率の趨勢線をそのまま延ばしたらそうなった、という類いの話である。

     

    私は、過去の中国の経済成長率はバブルであり、それを将来に引き延ばすのは「非合理的」と力説した。現に、日本のバブル経済華やかりしころ、日本のGDPが米国を抜くという特集を組んだ経済雑誌があった(名前は秘す)。こういう間違いを例に引き出して、「中国経済世界一論」を否定する記事を、せっせと書いてきたのだ。こういう「謬見」を最も信じたのが習近平氏であろう。習氏は一昨年秋、とうとう世界覇権奪回論を口にしてしまい、今や決まり悪い思いをしているに違いない。

     

    トランプ氏の保護貿易論は、中国の非正規貿易慣行を糺すために、あえて関税を引き上げるという手段に利用したものだ。習氏は、そういうトランプ氏の意図を読み間違えて、大いに自由貿易論を唱えた結
    果、現在の米中通商協議は米国に押しまくられている。口は禍の元と言うが、文字通り、禍となった。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月18日付け)は、「トランプ氏が切り開いた大きな貿易機会」と題する寄稿を掲載した。筆者は、筆者のロバート・ポーター氏は2017年から2018年にトランプ政権で政策調整担当の大統領補佐官・ホワイトハウス秘書官として貿易政策の運営を補佐した。

     

    (1)「トランプ氏は、その保護主義的姿勢と関税依存に見える政策にもかかわらず、国際貿易の重要性を繰り返し強調してきた。彼は、2017年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で「公正さと互恵に基づく力強い通商関係」を提唱した。彼は昨年スイスのダボスで、世界のリーダーらに対し「繁栄を広く共有し、ルールに従って行動する国々に報いるための国際貿易システムの改革」を支援するよう求めた。

     

    トランプ氏の発言は、直截的な言い方で誤解を受ける。世界中が「保護貿易論者」と見たのは彼の説明不足であった。米国が現在、中国に求めている市場開放と構造改革要求は、自由貿易論そのもの。習氏は賛成論を打っていた手前、反対はできないはずだ。

     

    (2)「トランプ氏は、改革のお膳立てをすることで、さまざまな貿易面の悪習との対決に狙いを絞ってきた。その対象は、政府補助金、知的財産の窃盗行為、差別的貿易障壁、為替操作、略奪的産業政策などだ。彼の主目的は、米国の生産者と労働者を守ることだ。市場原理や相対的な有利さからではなく、不公正な貿易慣行から守る。彼の型破りな行動に賛同しない人々でさえ、ルール違反に対する制裁や、不正を行う者と対決することの必要性を認めている

     

    トランプ支持率が底堅いのは、七不思議とされている。あれだけスキャンダラスな話題をまき散らしながら、支持者は微動もしないのだ。支持率は不変である。それは、対中国の経済政策への支持とされている。

     

    (3)「米国の関税は主として、中国の違法な経済的侵略行為に対応したものだった。交渉担当者の優先事項が、差別的な産業政策を抑制させ、知的財産を保護し、市場アクセスの条件として技術移転を強要するのを禁じることなのは正しい。中国は海外のライバル企業を不利に扱ったり、米国の技術を盗んだりして、野望を追求することを許されるべきでない。国際的経済システムに参加するなら、そのルールに従うことが条件だ」

     

    (4)「最大の課題は、中国に経済を開放させ、もっと責任ある行動を取らせるために約束を守らせる点にある。中国の当局者には空手形を出し続けてきた長い歴史がある。米国が関税措置を復活させると脅すことは、責任を負わせるために不可欠だ。だが、米国の経済的圧力だけで、持続的な構造改革と自由市場がもたらされる公算は小さい。中国の間違った行動が続いた場合には、地球規模で責任を負わせるようにしなければならない」

     

    米国は、善玉vs悪玉の議論を好む。中国は、経済政策面で悪玉に分類されている。中国向けの関税引き上げに苦情が少ない背景は、「悪玉征伐」という面がある。

     

    メルマガ37号 「文在寅の大誤算、日本企業『資産差し押え』は韓国衰退の引き金」が、下記の『マネー・ボイス』で紹介されました。ご覧下さい。

    https://www.mag2.com/p/money/652352

     


    a0960_008527_m
       

    住宅部門が、長期にわたって経済のリーディング・インダストリーとは驚く。これまでの住宅事情がいかに劣悪であったかを証明する。ならば、持家政策よりも賃貸住宅を大量に建設すべきであるが、そういう政策は後回しにされてきた。あくまでも、持家政策中心でバブル状態に押上げ、GDP上昇に寄与させる資本主義経済顔負けの政策を行なってきた。

     

    しかも、不動産税(固定資産税)は存在しない社会だ。当局は、今年の全人代でも「不動産税を検討中」と申し訳なさそうに言うだけ。いつ、実現するかにも言及しない無責任体制だ。持家政策を中心にするならば、固定資産税をしっかりと払わせるのが筋のはず。そういう「書生論」は通じない社会である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月15日付け)は、「中国住宅市場に深まる亀裂」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国の過去2年の経済成長をけん引してきた長い住宅ブームにガタが来はじめている。それは、今年約10%上昇しているバブル状態の銅相場が短期的に経験するトラブルを意味するかもしれないし、年内の金融政策緩和につながる可能性もある。15日に発表される不動産指標では、住宅価格がなお上昇していることが確認されそうだ。だが、見通しは悪化しており、土地価格は既にかなり軟調だ。12月の住宅関連データはほぼ全ての項目がトラブルを示唆したが、不動産投資の伸びは加速した。ガラス、電力、非鉄金属、セメント生産量の伸びは急減速した。住宅や土地の売却は前年から減少。後者は34%減となった。

     

    このパラグラフでは、住宅需要がすべて「実需」によって裏付けられているという前提である。現実は、「仮需」(投機の転売狙い)が全土に5000万戸はあると言われている。中国の個人資産の8割が不動産と言われる中で、仮需が相当の比率を占めているのは当然だ。この仮需のオーナーが共産党員と言われる。全人代の審議に付されるはずがない。共産党員が、自分の利殖手段の住宅に固定資産税を掛ける。そういう法案に賛成するとは思えないのだ。

     


    住宅の仮需で利益を狙えるとしても、実需では高額の住宅ローンを組んでいるから返済が大変である。住宅がGDPを押し上げれば押し上げるほど住宅は高値となって、実需者の家計を圧迫する。それが、消費支出を圧迫する。トータルで見れば、中国の住宅依存は、中国経済をますます「袋小路」へ入り込ませる手引きになっている。この矛楯に、「仮需」の投機層は気付かずにいるのだろう。繰り返せば、住宅依存経済はタコが自分の足を食っている行為と同じである。

     

    (2)「最も重要なのは、公式統計によれば住宅在庫が2年ぶりに増加していることだ。2016年以降の新規建設着工に大きく貢献してきた在庫減少が恐らく終わりにあることを示している。投資増加率(11.6%)と販売増加率(3.2%)の差は、1カ月を除いて2015年初期以降のどの月よりも大きかった。力強い投資と軟調な販売の組み合わせは在庫の再増加を示唆しており、持続不可能とみられる」

     

    投資増加率(11.6%)と販売増加率(3.2%)の差は、在庫増である。中国経済は現在、在庫循環と設備投資循環の二つの循環が同時にボトム状態にある以上、住宅の在庫増は顕著なものになろう。

     


    (3)「14年の大幅な過剰在庫は翌年の住宅市場低迷の前触れとなったが、現在の在庫水準は依然として当時より低い。これは、見込まれる低迷も比較的浅くなることを示している。ただしそれは、政策担当者が次の建築ラッシュを生む刺激策の水門を開き、痛みを先送りしようとしなければの話だ」

     

    14年の住宅の大幅な過剰在庫は、在庫循環のボトムに起った現象である。この上に、今回は設備投資循環のボトムが加わる。住宅在庫増は予想外のスピードで増えるであろう。その時、気付いても「後の祭り」になる。

     

     メルマガ37号 「文在寅の大誤算、日本企業『資産差し押え』は韓国衰退の引き金」が、下記の『マネー・ボイス』で紹介されました。ご覧下さい。

    https://www.mag2.com/p/money/652352

     

     


    a0001_000269_m

       

    習近平氏は目下、ヨーロッパを訪問中である。イタリアと一帯一路で覚書を交わす予定だ。例によって「大風呂敷」を広げて、イタリア側を感激させる手法が想像される。だが、その何分の一が実現できるか。フィリピンでも同じ手を使い、すっかり信用を落として「反中国ムード」を生む結果になった。

     

    中国は、対外投資の元金である経常黒字が、今年から恒常的に赤字予想である。人民元売りと外貨準備高の取り崩しが予想される中で、他国へ出かけて投資する余裕は急速に失われるはず。AIIB(アジアインフラ投資銀行)の例を考えても分るはずだ。開業前は、日本主導のADB(アジア開発銀行)を上回るような話をしていた。蓋を開けて見たら、AIIBの独自融資はわずか。ADBの相乗り融資だ。

     

    中国は、イタリアを一帯一路へ引入れるが、EU(欧州連合)からは警戒の目で見られる逆効果を招いている。習近平氏のやることは、すべて短慮で反発を招くことばかりである。側近の民族主義者に煽られている結果だ。最大の失態は、米中貿易戦争を受けて立ったことである。体力もない中国が、粋がって「受けて立つ。相手から殴られたら殴り返す」と意気揚々だった。それが、間違いの元であることがすぐに判明する。米国から厳しい条件を付けられ、ご存じの通りの結果を招いている。

     


    『ロイター』(3月23日付け)は、「EU首脳、『中国への生ぬるい対応は禁物』、具体策は見送り」と題する記事を掲載した。

     

    欧州連合(EU)首脳らは22日、市場が十分に開放されていない中国はEUの競争相手と見なされ、生ぬるい対応は禁物との見解を示し、警戒感をあらわにした。ただ具体策の取りまとめには至らなかった。

     

    (1)「中国を巡っては不当な補助金や国有企業の優遇など、国の経済への関与が問題となっている。EU首脳らは来月4月9日に開かれるEU・中国サミットの席でこうした問題に触れる意向だ。マクロン仏大統領は記者会見で、『欧州が中国に脳天気でいられる時は終わった。EUと中国の関係は貿易ではなく、まず戦略的、地政学的な要因に基づかねばならない』と指摘した。メルケル独首相もユンケル欧州委員長などと同様、中国はパートナーであり競争相手でもあると強調した」

     

    マクロン氏は、中国に対して厳しい言葉を使って警戒姿勢を強めた。「欧州が中国に脳天気でいられる時は終わった。EUと中国の関係は貿易ではなく、まず戦略的、地政学的な要因に基づかねばならない」。EUは、貿易という問題を超え、地政学的という安全保障を持出して、中国を警戒する姿勢を見せていることだ。中国は、地政学的目的を貿易問題で隠しているが、EUは「衣の下から鎧がちらつく」姿に気付いている。

     

    往年の覇者であるヨーロッパが、中国に対し「この成り上がり者めが」と警戒するのは当然であろう。中国がいくら4000年の歴史を鼻に掛けても、ヨーロッパは近代文明の担い手である。そのプライドに掛けても、中国の好き勝手にはさせない。その気迫が、「能天気」という発言に現れているのだろう。

     


    マクロン氏は26日にパリで、メルケル独首相、ユンケル氏と3人で欧州歴訪中の中国の習近平氏と会談する。欧州のトップ3人がそろって臨むのは異例とされる。「欧州がいかにうまくやっているかを示す」ねらいがあるという。4月上旬には中国とEUの首脳会談が予定されており、両国・地域関係の転機にしたい考えだ。

     

    日本にとっては、中国けん制上でも大変に良いことである。すでに、世界が中国を見る目が変ったのだ。中国の経済成長力がピークを過ぎたという共通認識である。米国トランプ氏の対中強硬策は、EUで歓迎されている節が見られる。米国による中国への「鉄拳」が、中国を反省させると見ている。EUも米国と歩調を合わせ、中国の身勝手さを是正させる意向なのだ。

     

    メルマガ37号 「文在寅の大誤算、日本企業『資産差し押え』は韓国衰退の引き金」が、下記の『マネー・ボイス』で紹介されました。ご覧下さい。

    https://www.mag2.com/p/money/652352

     

     

     


    10
       

    大言壮語は慎むべし、という見本が中国である。昨年3月の全人代(国会)では、米国を追い落とすと胸を張っていた。その足下が、早くも崩れる気配である。今年の経常収支が、1993年以来の赤字予想になるからだ。この問題は、本欄では繰り返し取り上げてきたが、いよいよ、現実問題として登場する。

     

    米国は万年、経常赤字国である。だが、ドルは世界の基軸通貨であるから、すぐに大きな問題にならない。だが、中国は今年から経常赤字を消す努力を迫られる。人民元相場安にはね返ってくる。外貨準備高の減少問題を引き起こす。「一帯一路」プロジェクトの推進力も低下するに違いない。中国を取り巻く景色は変るであろう。

     

    中国経済を見て気付くのは、「一寸先は闇」という実感がきわめて強い点だ。住宅価格が暴落すれば、それで中国の政治も経済も大混乱に陥る。今年の経常赤字は、世界の中国を見る目を一変させ、中国国内の不安心理を増幅させるきっかけになりかねない。とりわけ、経常赤字対策で、海外旅行に制限が加える事態になれば、国内で先行き不安を煽るにちがいない。それが、住宅の投げ売りに発展すれば、住宅価格は暴落に転じる。

     

    中国の場合、大幅な貿易黒字が経常黒字を維持する構造になってきた。その貿易黒字が昨年は、ピークの2015年に比べ41%も減少した。大変な減り方である。最近の推移を見ておきたい。

     

    中国の貿易黒字の推移

    2015年 5939億ドル

      16年 5097億ドル

      17年 4195億ドル

      18年 3518億ドル

     

    上記の貿易黒字の減り方を見ると、構造的な印象を否定できないであろう。生産コスト上昇が、競争力を奪っていることが容易に想像できる。最低賃金の大幅引上げが、生産性上昇を上回った。それが大きな影響を与えたことは否めない。

     


    英誌『エコノミスト』(3月16日号)は、「
    中国の経常黒字消失、変化へ好機」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「つい2007年までは、中国の経常黒字は国内総生産(GDP)比10%で、一般的に経済学者が健全とする水準を大きく上回っていた。それは過去の話だ。中国の昨年の経常黒字はGDP比0.%。米金融大手モルガン・スタンレーのアナリストの予想によると、中国は今年、1993年以降で初めて経常赤字に転落し、それが今後何年も続くという。国際通貨基金(IMF)などは、わずかながら黒字を維持すると予測している。いずれにしても10年前よりグローバル経済のバランスが改善してきたことを示す。このことは、中国が自国の金融システムを近代化するきっかけにもなるかもしれない」

     

    中国経済の構造が「国進民退」である以上、自由な民間の発想が押し潰される環境になっている。これを改めるには、鄧小平以来の「民進国退」に戻さなければならない。だが、習近平氏が壁になっており、その実現を阻んでいる。中国が、習氏という障害を取り除くには、政治的な「動乱」を伴う難事であろう。結局、このままズルズルと時間を浪費するにちがいない。

     


    (2)「新興国では、巨額の経常赤字は金融不安化の前兆となる場合がある。分不相応に支出を拡大し、その資金を調達するために移り気な外国人投資家に頼るケースだ。だが、中国はそうした危機には陥っていない。今後、赤字になっても、GDPのほんの一部にとどまると予想される。しかも、政府は3兆ドルに上る外貨準備高という潤沢なバッファーも抱えている。これで時間は稼げるはずだ」

     

    昨年の経常黒字幅が、300億ドル程度とすれば、今年の経常赤字は500億ドル程度になるのでないか。貿易黒字が年々、900億ドル程度減っている点が一つのメルクマールになる。昨年の貿易黒字は700億ドル減に止まったが、米中貿易戦争で繰り上げ輸出効果が効いたはずである。今年は、輸出減・輸入増が見込まれる。経常黒字がわずかの幅で止まる公算は小さいと見る。

     

    (3)「重要なのは、中国がその時間をどう使うかだ。定義上、経常収支が赤字の国は、外国からの収入でそれを穴埋めする必要がある。海外から資本を自由に受け入れられ、為替が変動相場制の場合、中央銀行が特に介入しなくても収入と支出は均衡する。だが中国は、資本の流れも為替相場も政府が厳しく管理している。中国が経常赤字に転落する可能性に直面している以上、海外からの収入を増やすには管理の手を緩めるほかない

     

    下線を引いた対策は、資本規制を外し、為替相場を自由変動制にシフトする意味であろう。だが、市場機構に臆病な習近平氏には、きわめて難しい課題である。結局、抜本改革ができず、時間の空費になると見るべきだ。その間、中国国内では左右対立が激化するだろう。

     

    メルマガ37号 「文在寅の大誤算、日本企業『資産差し押え』は韓国衰退の引き金」が、下記の『マネー・ボイス』で紹介されました。ご覧下さい。

     

    https://www.mag2.com/p/money/652352

     


    このページのトップヘ