勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    米海軍は、駆逐艦2隻が6日、中国が南シナ海で領有権を主張する島付近を航行したと明らかにした。米海軍第7艦隊のドス報道官によると、巡航ミサイル駆逐艦の「プレブル」と「チャンフーン」が南沙諸島のガベン礁とジョンソン南礁から12カイリ以内の海域を航行した。ドス報道官は、駆逐艦の航行は「無害通航」で、「行き過ぎた海洋領有権の主張に対抗し、国際法で定める海域へのアクセスを守るため」と述べた。 『ロイター』(5月6日付け)が伝えた。

     

    米海軍を初め、フランス海軍や英国海軍もこの自由航行作戦に参加している。中国による南シナ海領海説を否定する目的であるが、真の狙いは別にある。中国海軍潜水艦部隊の動静を探るためだ。南シナ海は水深が深く潜水艦が隠密行動をするには最適な場所とされている。不幸にも第三次世界大戦があるとすれば、この南シナ海が主戦場になるとの指摘もあるほどだ。

     

    『ロイター』(5月2日付け)は、「中国が高める核報復力、南シナ海に潜む戦略原潜」と題する記事を掲載した。

     

    南シナ海に浮かぶ中国の海南島。トロピカルリゾートが広がる同島南岸に世界の軍事情報機関の関心が集まっている。風光明媚な三亜地区にある人民解放軍の海軍基地で、米国をにらんだ核抑止力の整備が着々と進んでいるからだ。衛星画像を見ると、同基地には弾道ミサイルを搭載できる原子力潜水艦(戦略原潜)が常駐し、潜水艦を護衛する水上艦艇や戦闘機が沖合に見える。基地内には、弾道ミサイルを保管、積み込む場所とみられる施設もある。

     

    (1)「中国は海中から核攻撃ができるミサイル潜水艦部隊を保有し、米国などに対する核抑止のための哨戒活動を行なっている、と軍事関係者らは指摘する。中国は、核を装備した潜水艦部隊の展開によって、敵の先制核攻撃に核で報復する「第2撃能力」を着々と強化している。そして米国は、かつて冷戦時代に世界の海を潜航するソ連原潜を追いかけ回したように、いま中国の戦略原潜の動向に神経をとがらせつつある」

     

    中国が、途方もないことを承知で南シナ海は、中国領海という「ウソ主張」を繰り広げている。その理由は、米国との覇権戦争に備えているからだ。戦前の日本陸軍が、日本の国力とは関係なく南方(東南アジア)進出をはかったと同じような動機に基づく作戦行動である。

     

    中国海軍は、大真面目になって南シナ海で核装備した潜水艦部隊を動かしている。これに対抗して、米海軍を筆頭にした西側海軍が毎日夜、海中でこれを探索する構図が展開されているのだ。中国潜水艦の真下に自衛隊潜水艦が潜っており、じっと動静を窺っていることもあるという。日本潜水艦の潜航能力は高く静謐であることが、こういう戯画的な構図を出現させているという。

     


    (2)「海南島南岸は、核兵力の増強と展開にとって重要な戦略拠点だ。中国を取り巻く水域の中で、黄海は浅すぎるため、大型の弾道ミサイル搭載型の潜水艦を隠すには適さない。東シナ海は十分な深さがあるものの、朝鮮半島、日本列島、台湾に囲まれている上、米国と日本が最新鋭の対潜水艦兵器を配備して警戒を続けている。一方、南シナ海は広さも深さも潜水艦の隠密行動には適している、と専門家は指摘する。フィリピン東方の太平洋に核装備の潜水艦を展開すれば、米国をミサイルの射程に捉えることができる。それを狙う中国にとって、海南島南部は軍事的な要衝であり、それゆえに、南シナ海の制海権は何としても手放すことはできない

     

    これまでの常識では、中国が尖閣諸島の奪取を狙って上陸作戦を敢行するというものだった。だが、朝鮮半島、日本列島、台湾に囲まれている上、米国と日本が最新鋭の対潜水艦兵器を配備して警戒を続けている。そこで中国は、海域の広い南シナ海に戦略原潜を忍ばせ、米本土への報復攻撃を展開するという想定になっている。

     

    こうなると米海軍は、広大な南シナ海を監視する上で、単独では覚束なくなる。「アジア太平洋戦略」によって多数の同盟国が、この作戦に参加する必要が出てきた。日米豪印という4ヶ国の海軍が、中国の戦略原潜を監視するというもの。

     

    ここまで来ると、米国は中国に対して経済面で妥協する必要性はゼロとなる。中国の経済的な利益は、軍拡費用に回される。それは、米国にとって防衛コストを引き上げるだけである。となると、中国を経済的に封じ込める戦略が、「戦わずして勝つ」という孫子の兵法に適ったものになろう。中国が、専制政治を放棄して世界覇権を狙わなくなるまで、米国は中国の経済的な封じ込め戦略が不可欠になる。

     


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    勝又壽良

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    中国外務省の耿爽副報道局長は6日の記者会見で、米中両政府が8日からワシントンで予定する閣僚級の貿易協議について、「中国の交渉団は米国を訪れて閣僚級協議をする準備をしている」と語った。『日本経済新聞 電子版』(5月6日付け)が伝えた。株価急落が、協議続行方針を決めたものと見られる。

     

    この問題は、すでにブログで報じたが、経緯を要約すると、次の通りである。

     

    米国トランプ大統領による「10日から2000億ドルの関税25%引上」発言が、上海株価を急襲。6日の上海総合指数は大幅に反落した。終値は前営業日の4月30日に比べて171ポイント安の2906と、あっさり関門の3000ポイントを割り込んだ。2月22日以来の安値を付けた。

     

    中国は、これまで米国に脅される形でいかなる協議にも応じないと発言し、米国をけん制してきた。中国共産党機関紙『人民日報』傘下の有力国際情報紙『環球時報』の編集主幹はツイッター上で、『劉副首相が今週訪米する可能性は非常に低い」』との見方を示した(『ロイター』5月6日付け)。米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)は関係筋の話として5日、トランプ大統領のコメントを受けて中国が今週の協議を取りやめることを検討していると報じた。

     


    このように、中国政府はメンツにかけても「協議中止」に出るものと予想された。だが、株価急落という実損を被っていることから、メンツを捨てて実利である「協議続行」の道を選んだもの。その背景は、「2000億ドルの商品関税率25%引上」が、中国経済に致命的打撃を与えることを恐れた。習近平氏の権威はボロボロに打ち砕かれている。もはや、中国経済の帰趨は、トランプの掌中に握られた形だ。


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    5月4日、北朝鮮がミサイルを発射した。南北合意に違反することは明らかだ。文在寅氏は、南北合意を守り偵察行動も演習も中止してきた。その結果が、北朝鮮の合意違反である。改めて、文在寅なる大統領の「坊ちゃん」ぶりが鮮明になっている。

     

    『朝鮮日報』(5月6日付け)は、「北朝鮮のミサイルをミサイルと呼べない韓国政府」なる社説を掲載した。

     

    北朝鮮は4日に短距離弾道ミサイル2発と300ミリ新型放射砲などを発射した。北朝鮮による今回のミサイル発射は18カ月ぶりで、北朝鮮に対して「弾道ミサイル技術を利用した全ての発射」を禁じた国連安保理決議にも当然違反している。

     

    (1)「北朝鮮はしばらく軍事挑発を自制していたが、今回これを再開した意図は誰がみても明らかだ。「非核化の意志」を宣伝し制裁解除を手にしようとした計画が、ベトナムで行われた2回目の米朝首脳会談で思い通りにならないことがわかると、再び軍事的緊張を高めて米国に圧力を加えようとしているのだ。米国のトランプ大統領はツイッターで「金正恩(キム・ジョンウン)委員長は私との約束を破りたいとは思っていないだろう」と書き込んだが、その前に報告を受けた際には「金正恩は約束を破った」として激怒したとも伝えられている」

     

    北のミサイル発射は、明らかに各種の合意に違反している。専制主義とは、こういうものだという見本がここにある。約束は、破るためにある。中国と同じ行動様式である。

     

    (2)「今回のミサイル発射は「地上・海上・空中など全ての空間で相手に対する一切の敵対行為を中止する」と定められた南北軍事合意にも反している。韓国軍はこの合意を守るためとして軍事境界線周辺での空からの偵察をやめ、西海(黄海)の5つの島を守るのに必要な砲撃訓練も中断している。ところが北朝鮮は今回、ソウルなど首都圏を直接攻撃できる射程距離70240キロのミサイルと放射砲を発射した。韓国軍は防衛訓練を中断したにもかかわらず、相手は堂々と攻撃訓練を行ったのだ」

     

    北に欺かれて一番哀れなのは、文在寅大統領である。ひたすら北の善意を信じて、過去の誤りを糾弾することなく揉み手外交をしてきた。対日外交とは真逆である。過去を責め立て批判する。文氏の「倒錯外交」が破綻したに過ぎない。外交は、個人の趣味やロマンでやるものでない。国民の命運がかかっているのだ。

     


    (3)「
    それでも韓国政府は、『北朝鮮が発射したのはミサイルではない』として相変わらず北朝鮮を擁護している。合同参謀本部は当初『短距離ミサイル』と発表したが、それから40分後には『発射体』へと言葉を変えた。大統領府で行われた緊急会議の後、国家情報院は国会に「高度や距離などから考えるとミサイルではない」と説明したという。与党・共に民主党の報道官は「韓米の軍事当局は今回の発射体を弾道ミサイルではなく放射砲あるいは戦術ロケットと推定している。その場合、安保理決議違反にはならない」と主張した」

     

    「馬」を「鹿」と呼ばせた類いの話であろう。馬は馬、鹿は鹿。そういう合理的に判別できる冷静さを持つべきだ。

     

    (4)「北朝鮮が5日に火を噴いて飛ぶミサイルの映像をこれみよがしに公表した後も、韓国軍は「北朝鮮の発射体は新型の戦術誘導武器」として最後までミサイルという言葉を使わなかった。北朝鮮自ら「我々はミサイルを発射した」と主張しているにもかかわらず、韓国政府は「詳しい分析を行っている」としかコメントしない。文在寅(ムン・ジェイン)大統領の対北朝鮮政策が破綻した現実を受け入れたくないからだろう。北朝鮮のミサイル発射を否定したいが故に、頭を砂の中に埋めて目の前で起こっている様子を見ようとしないのだ。

     

    北の行動は恫喝である。だが、恫喝でなかった場合、韓国の被害は想像を絶する。年配者の文氏が、年若の正恩氏に手玉に取られたという屈辱的な話だ。儒教社会では許されないことだが、文氏は正恩氏の本質=どう猛性を見抜けなかった。やっぱり文氏は、学校の教師が最適。性善説に立っているからだ。

     

    (5)「韓国軍の防衛体制を自ら崩壊させ、訓練を中断することで平和を手にするという構想は、あまりにも危険な錯覚であることが今回改めて確認された。今こそ文大統領は韓国軍に「武装体制を再整備せよ」と命令を下すべきだが、実際は挑発に乗りだした金正恩氏の方が現場で「強力な力によってのみ平和と安全が保障されることを忘れるな」と指示した。これほどの主客転倒が他にあるだろうか」

     

    韓国は海上自衛隊哨戒機に対して、接近したら警告手段を取ると威嚇した。北朝鮮には、「武装解除」も同然の行動を取っていた。何から何まで、文氏の判断は狂っているのだ。


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    けさ、下記の目次で発行しました。よろしくお願い申し上げます。

     

    偽装だった「一帯一路」

    経常赤字国転落への悲哀

    国内市場の開放で活性化

    日本を見本にし構造転換

     

    北京で4月25日、3日間の日程で開催された「一帯一路」第2回国際フォーラムは、2年前の第1回の同フォーラムに比べて暗い雰囲気でした。米国政府は代表団を送らず、日本は政府でなく自民党二階幹事長が党代表で参加しました。米国では26日に、日米首脳が親密な会談を繰り広げ、中国とは一線を引く明確な姿勢を見せたのです。

     

    前記の第2回国際フォーラムでは、G7の中ではイタリア首相が唯一の出席者となりました。イタリア首相は、フォーラム参加者全員が付けた大きなバッジも付けず、G7の他国に恭順の意を示すような慎ましやかな態度を取りました。この裏には、次のような事情がありました。

     

    ドイツのペーター・アルトマイヤー経済相が「一帯一路」について、次のように発言していたのです。「欧州では一帯一路について懐疑的な見方が多く、多くの人々が中国への依存を懸念している」と指摘。また、マース外相が「EUの一部の国が中国人と賢い商売をすることができると信じるならば、その結果は驚くべきものとなり、そして最終的に中国に依存していることに気づくことになるだろう」と述べるなど、「イタリアを鋭く批判した」と報じていました(『レコードチャイナ』4月22日付け)。

     

    イタリアは、独仏ほどの経済力はありませんがEUの有力国。しかも、G7の一員です。その国が「一帯一路」に参加したのは、中国からの投資期待と輸出の増加でした。だが、すでに中国の経済力に陰りが出ていること。今年から経常赤字国へ転落必至と見られる中国が、対外投資の余力はありません。経常収支では、ドイツが世界最大の黒字国です。2位は日本です。こういう民主主義国の経済的な実力を忘れて、「日没する中国」へすり寄るとは何ごとか。ドイツ政府の怒りは当然でしょう。

     

    偽装だった「一帯一路」

    以上の記述において、中国の「一帯一路」への風当たりが大きく変わったことを理解していただけると思います。私は、最初からこの「一帯一路」に疑いの目を向けてきました。日本のメディアでは産経新聞を除いたすべての社が、社説で一帯一路参加論を打ち上げていました。

     

    私の反対理由は、中国の国益増進が主眼であることでした。過剰在庫の鉄鋼・セメントなどの建設資材の販売先確保が目的である。同時に、地政学的利益の拡張です。平和的な手段で中国共産党の権益拡大を狙ったものでした。それは、世界の安全保障体制をひっくり返す目的でもあったのです。

     

    EUは2年前の「一帯一路」国際フォーラムで、英国を筆頭に雪崩を打ったように多くの国が代表団を送りました。その時、中国の「素顔」を知ったのです。自国主義が鮮明でEU各国と協調しないことが判明。共同発表文に署名もせず帰国しました。物別れに終わったのです。日米は賢明でした。最初から、中国の野望を知り尽くしていたのです。2年経って、中国の野望は主要国の警戒対象になりました。

     

    「謀は密なるを以てよしとなす」という原則からすれば、中国が従来の姿勢を正すのは当然でしょう。中国の謀の中身が露見したからです。習近平氏は4月26日、「一帯一路」フォーラムで次のような演説をしました。

     

    1)輸入拡大

    2)余剰生産能力の削減

    3)知的財産保護

    4)人民元の安定化

    5)外資参入を認める産業分野の拡大

    6)産業補助金など市場をゆがめる「正当でない」政策を廃止

     

    「一帯一路」国際フォーラムとは直接、関わりのなさそうな演説をしたのは、このフォーラムに参加していない米国に向けて、「白旗」を掲げたにも等しいことでした。習氏は、「一層開放された中国は完全に世界に溶け込む」とも話したのです。この主旨は、一帯一路計画は世界に弓を引くものでなく、世界の一員として進めますという「恭順宣言」でしょう。

     

    今年から経常赤字国になる中国が、本来ならば世界銀行やアジア開発銀行の主導すべき開発プロジェクトの「一帯一路」を主宰する。当然、このことの是非が問われるべきなのです。世界銀行は、今回の「一帯一路」国際フォーラムに出席しませんでした。中国の意図が、地政学的利益拡大にあると見抜いている結果でしょう。世銀が、参加拒否した「一帯一路」国際フォーラムの意義は、大幅に低下しました。(つづく)

     

     


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