勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    IMF(国際通貨基金)は、韓国政府との「年次協議結果」を発表した。今年は、まだ2ヶ月余しか経過していない段階で、早くも財政支出拡大と金利引き下げを提案した。文政権による経済の舵取りが、「下手」という判定である。「素人衆」の経済運営であると見抜かれたのだ。

     

    確かに、「ド素人」が大統領府に陣取っている。「86世代」というかつての学生運動家上がりの集団である。学生運動で火炎瓶を投げさせたら超一流でも、経済政策論は学ばなかったのであろう。「所得主導成長論」という聞いたこともない経済政策まがいのものを持出して、強引に実施している。その弊害が、多方面に及んだ。中堅の人たちが失業の憂き目にあい、田舎へ帰って農業を始めた層がこの1月以来、急増している。

     

    帰農者は、実質的に失業者である。経済的に言えば、「偽装失業」「不完全就業」に分類される。だが、雇用統計では「就業者」に数えられているのだ。IMFは、こういう雇用実態をつぶさに見て、財政支出拡大と金利引き下げを提案した。

     

    『中央日報』(3月19日付け)は、「賢いIMF、笑う文在寅政権」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のイ・サンリョル経済エディターである。

     

    (1)「最近、韓国を訪れたIMF年次協議団は経済問題で支持率下落に直面した現政権が喜ぶ処方せんを提示した。まずは大規模な補正予算の編成だ。韓国との年次協議結果発表文で「韓国の経済成長が中短期的に逆風を受けていて政策措置が必要だ」としたIMF協議団は記者会見で関連質問が出ると、『国内総生産(GDP)の0.5%を超過する水準』と明示した。韓国政府の成長目標(2.6~2.7%)を達成するには約9兆ウォン(約9000億円)台の補正予算が必要ということだった。IMFは毎年、韓国政府にいくつかの政策助言をしてきたが、このように規模まで提示して補正予算を注文したのは異例だ。救済金融をしたという理由で財政支出にいちいち干渉した20年前の通貨危機当時を思い出させる」

    IMFは、1~3月期のGDP統計が出ない段階で、GDPの0.5%を超過する水準の財政支出を勧告した。これは、異例のことだという。IMFから見た今年の韓国経済は、相当の落込みを予想したのだろう。私がごとき者まで、韓国の今年のGDP成長率は2%スレスレまでの低下を見込むほどだから、IMFは相当の危機感を持っているに違いない。

     

    こういう韓国経済の危機は、すべて最低賃金の大幅引上げに原因がある。IMFは本来、この最賃大幅引上げが原因と伝えるべきだが遠慮した。国家主権への干渉と取られることを懸念したのだろう。しかし、文政権の間違った政策で多くの人々が職を失い、帰農者として田舎へ帰らざるを得なかった、その苦悩へ思いを致すべきだ。そういう政策アドバイスをしないIMF「年次協議結果」は、一片の価値もないと思えるのだ。

     

    (2)「補正予算は成長率の数値を高めるのに最も良い手段だ。補正予算の正確な効果をめぐっては意見が分かれるが、政府が支出を増やせば当面の成長率は上がる。政府は内心悩んでいたはずだ。470兆ウォン(約47兆円)という歴代最大予算で新年を迎えたが、経済はうまくいかなかった。輸出は大幅に減少し、30~40代と製造業の雇用は急減した。ところが補正予算ほど効果が大きい浮揚カードはないと知りながらも3月に補正予算の話はできなかった」

     

    3月の時点で、GDPの0.5%超の補正予算を組むとは前代未聞である。秋になって台風被害が出た、という特殊事情があればともかく、「最低賃金の大幅引上げが原因」で補正予算を組みますとは、口が裂けても言えない話だ。

     


    韓国政府は、「他人のせいに」にするのが得意である。ここで、大型補正予算を組むとなれば、誰の悪口を言うのか。米中交渉が上手くいかず、南北交流事業が不首尾に終わったと言うに違いない。そうなると、米国、日本がヤリ玉に挙げられるのか。無論、これは冗談である。いくら文政権が非常識でもここまで他国を理由にはできない。だが、本心は日米悪者説にこだわっているに違いない。

     

    IMFは、金利引き下げも提案している。家計債務増加による金利負担によって個人消費減退を警戒したのであろう。だが、これから世界経済が波乱含みで、ウォン相場に激変が起らないとも限らない。そういうリスクを含む現在、利下げは余りにも冒険過ぎる提案である。IMFは、そこまで韓国経済について危機感を持っていると読めば、「なるほど」と思わざるを得ない。

     

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    米中貿易戦争の理由の一つは、大幅な貿易不均衡問題である。米国が一方的な赤字になっているからだ。米国は、この貿易不均衡の是正を求めている。米国から大量の製品を輸入せよという要求である。

     

    国際貿易は本来、多角的なものである。二国間で輸出入を均衡させるべきではない。だが、米中間では米国が多年にわたり圧倒的な赤字を背負い込んでいる。これが問題になっている。中国はこれを逆手にとって、米国から大量の半導体輸入計画を持ち出した。これを見た米国半導体業界は、逆に警戒して「ノー」と拒否。大量の注文に対して、米国が拒否する理由とは?

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月19日付け)は、「米中通商協議、米半導体業界は中国の大量購入案を拒否」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米半導体業界はトランプ米政権に対し、中国との通商交渉で米半導体の輸入拡大を合意案に盛り込まないよう伝えた。米当局者は米国からおよそ1兆ドル(110兆円)相当を輸入するよう中国に要求しているが、半導体業界は自主的にその枠組みに入ることを拒否した。米国の生産コストは極めて高いため、中国に対し強制的な購入枠を設ければ、米半導体メーカーは事実上、中国での新規工場建設を余儀なくされ、中国に生産をコントロールされる事態に陥りかねないという」

     

    米国政府は、中国に対して1兆ドルの輸入増加を要求している。中国は、これに応える形で大量の半導体輸入計画を提出した。これが、「クセ球」なのだ。中国が米国の半導体輸入枠を設定すれば、米国半導体企業はそれに縛られる。生産コストの高い米国半導体輸出で採算を取るには、否応なく中国での生産を迫られる。これが、技術漏洩につながる危険性を伴うのだ。中国の持出す話は眉唾、というわけで米国半導体業界は拒否している。

     



    (2)「米半導体メーカーはまた、中国の競合勢を利することにもなり、米企業の中国依存度を高めてしまうと主張している。米半導体工業会(SIA)のジョン・ニューファー会長は『数字が何であれ、中国による米国産半導体の購入は、市場原理に基づく環境に中国国家の影響を高めるというリスクから目を背けさせるためのものだ』と指摘。『商業上の成功は政府の命令ではなく、市場によって決まるべきだ』と述べた」

     

    米国半導体業界の説明は見事だ。「商業上の成功は政府の命令ではなく、市場によって決まるべきだ」という当たり、資本主義経済の本質を言い当てている。さすがは、資本主義経済の母国である。中国のワナには引っかからない。そういう賢明さを見せている。

     

    (3)「業界関係者によると、中国は向こう6年に300億ドル相当の米国産半導体を購入することを提案した。これは米国の対中半導体輸出を事実上、倍増させる規模だ。中国は当初、向こう6年で2000億ドルとしていたが、これを引き下げた。米半導体業界は中国への工場移転なしで実現はあり得ないとして2000億ドルの案を拒否していた」

     

    中国は、当初、向こう6年で2000億ドルの米国産半導体を購入することを提案。米国が拒否すると今度は、同期間で300億ドルへ引下げてきた。2000億ドルと聞けば、普通なら舞い上がる金額である。米国半導体業界は、非現実的な案として拒否。さらに、300億ドルと7分の1に下げ、誘い水にした。これも拒否されたのだ。

     


    (4)「先月、米商務省と中国国家発展改革委員会(NDRC)が、中国による巨額購入案の取りまとめを再び目指す中で、米半導体の購入拡大案が再び浮上。中国は向こう6年で300億ドルまで水準を引き下げた経緯がある。3月初旬、米半導体業界は新たな提案も拒否した。中国は輸入拡大を確実にするには、割当枠のような制度をまとめる必要があり、米業界関係者の間では、後に中国企業への発注に枠組みが利用
    されかねないとの指摘が出ていた。あるトランプ政権関係者は、交渉責任者を務めるロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は『業界が望まないものは支持しない』と述べた」。

     

    中国の巧妙さは、下線を引いた部分にある。「輸入拡大を確実にするには、割当枠のような制度をまとめる必要がある」と、さも中国の誠意を示すかのような振りをして、米国半導体業界を中国市場に縛り付け、懸案の「中国製造2025」を米国の手で実現させるという魂胆であった。中国は、米国に負けた振りをして米国に勝とう、としたのだろう。その手に乗らぬ米国半導体業界は、見事な眼力というべきだ。


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    中国経済は、すでに本格的な不況に入り込んでいる。企業は、過剰債務がもたらす金利負担の重圧で、収益力が著しく低下しているからだ。この状態に落込んでいる以上、景気が短期に回復する期待は持ちにくくなっている。

     

    中国は、自由社会と異なり情報統制しているので経済統計が隠蔽されている。それ故、外部からは経済の実態がなかなか把握できないないもどかしさがある。だが、断片的に漏れ伝わってくる情報を繋ぎ合わせると、中国経済は容易ならざる事態にはまり込んでいることを示している。

     

    いささか、理屈っぽい話で恐縮だが、次の点をまず頭に入れていただきたい。

     

    私は、中国経済が短期循環(4年周期の在庫循環)と中期循環(10年周期の設備投資循環)のボトムで重なり合っていると判断する。短期循環は、製造業PMI(購買担当者景気指数)がほぼ4年周期で波動を描いているので見当がつく。現在、そのPMIは好不況の分かれ目の50を割っている。中期循環は「9」の付く年に起っている。これまで、中国では「9」の付く年に大きな社会変動が起る年として注目されてきた。それは、中期循環のボトムで景気が急激に悪化することの反映である。

     

    要するに、今年の中国経済は身動きできない状態になるだろう。だが、もう一つ厄介な問題は、冒頭に掲げた過剰債務による金利負担で、企業の資金需要が極端に低下していることだ。この状態を象徴的に報じた記事が出てきたので取り上げたい。

     


    『日本経済新聞』(3月19日付け)は、「逆風下の習政権(2)金融政策、効果ありますか」という記事を掲載した。

     

    (1)「1月、中国人民銀行(中央銀行)の研修施設。講師の話が終わると若手職員が質問した。「我々がやっている政策に効果があると思いますか」。人民銀は追加金融緩和を決めたばかりだった。行内の迷いを映すかのような質問に場内はざわついた。「社会の信用収縮を招いた」。310日、人民銀総裁の易綱(61)は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)に合わせた年に1度の記者会見の場で、金融行政の失敗を認めた」

     

    中央銀行の行員が、「我々がやっている政策に効果があると思いますか」と質問したのは深い意味がある。それは、金利を下げても資金需要が起らないことに無力感を覚えていることの証明だ。つまり、中国経済はすでに「金利のワナ」という事態にはまっていることを表している。金利を下げても実物投資に結びつかず、資産価格(不動産や株式)の上昇に流れているのだ。中国人民銀行の行員が、「我々がやっている政策に効果があると思いますか」と疑問を抱かざるを得ない事態に遭遇している。

     

    具体的な例は、次の点に表れている。マネーサプライ(M2)が、この2月に前年同月比8.0%増と過去最低に並んだ。名目GDPの伸び率が9.7%程度の経済で、M2の増加率がここへ届かないのは、「金利のワナ」に入っている証拠であろう。M2が伸びないのは、銀行が貸出リスクを警戒している結果である。「信用創造能力」の低下が起っているのだ。ここまで事態が悪化すると、打つ手は財政出動になる。こちらも、地方政府が不動産バブルで過剰債務を抱えて身動きできない。

     

    (2)「『何かお手伝いできることはありませんか』。天津市では地元銀行の職員が民間企業を一軒一軒訪ねる。市職員は『天津の成長率は全国最低。資金需要なんてないよ』とあきらめ顔だが、金融当局は目標達成へ必死だ。広東省の一部では民間企業を何軒訪問したかまで銀行に報告させているという」

     

    地元銀行の行員が、民間企業を訪ねて新規資金需要(設備投資向け)の掘り起こしを懸命にやっている。それでも資金需要を掘り出せないのは、民間企業が中期循環と過剰債務の重圧で動けないからだ。

     

    こうして、「金利のワナ」に落込んだ中国経済をどのように軌道に乗せるのか。李首相が力説するように財政依存である。減税を行う以外に道はない。ここで、表面には現れない「重税」が存在することに注意すべきである。地方政府が、中央政府の決める税目以外に財源不足を補う目的で、民営企業から税金を取り立てているのが実態だ。これを嫌って、民営企業家が海外へ移住しているほど。利益の3分の2は、こうして「闇の税金」に消えている。

     

    中国経済は、外部からは窺い知れない「闇」を抱えている。市場経済ですべてがオープンであれば、このような闇は存在しない。だが、専制主義で計画経済の中国では、どこに落し穴が隠されているか分らない不気味さがある。

     

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    昨年9月、南北首脳による平壌共同宣言が発表されてから6か月が過ぎた。具体的な合意事項13項目のうち、これまでに履行されたのはわずか1項目という。その1項目とは、「年内に鉄道・道路連結の着工式を行うこと」だけだ。対北朝鮮制裁の影響で「着工のない着工式」となった。

     

    韓国が、北朝鮮から小馬鹿にされながらも、じっと我慢している理由はなにか。北朝鮮を怒らせないで、ご機嫌伺いしている結果だ。資金や物資の出し手である韓国が、北朝鮮に神経を使っているのは、南北交流事業を始めて国内経済に活気を取り戻したいという副次効果を狙っている。北朝鮮は、こういう韓国の隠れた意図を見抜いているので、平壌共同宣言の履行に熱意を見せずにいるのだろう。

     

    『朝鮮日報』(3月18日付け)は、「平壌共同宣言から半年、合意13項目のうち履行わずか1項目」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「平壌共同宣言の中で具体的な実践事項は13項目。そのうち実践されたのは「年内に鉄道・道路連結の着工式を行うこと」の1項目だけだ。それさえも対北朝鮮制裁の影響で「着工のない着工式」となった。下記の7項目は現時点で全く履行されていない。

     

        南北軍事共同委員会の稼働

        条件付きで開城工業団地と金剛山観光の正常化

        金剛山に離散家族の常設面会所を開所

        離散家族の映像による面会とビデオレター交換問題の解決

        平壌芸術団のソウル公演実施

        東倉里のエンジン試験場とミサイル発射台の永久廃棄

        金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長のソウル訪問

     



    上記7項目は、手つかずの項目である。北朝鮮が誠意ある対応をするつもりがあれば、③、④、⑤、⑦はいつでも実施可能なはずだ。それが見送られている理由は、韓国を甘く見ている証拠だろう。いつもの調子で、威嚇すればその場を取り繕えると見ているのだろうか。

     

    (2)「北朝鮮は、先月ハノイで行われた米朝首脳会談が決裂したころから、南北の協力事業に対する積極的な意志を示していない。平壌共同宣言のうち軍事共同委員会の稼働、平壌芸術団の公演、東倉里の施設の廃棄に関しては、北朝鮮さえその気になれば実現可能な合意事項だが、北朝鮮は沈黙を貫いている。韓国軍の関係者は『北朝鮮側から回答が来れば、いつでも軍事共同委員会を構成できるが、何ら反応を示してこない』と話した。韓国の国策研究所の関係者は、『韓国与党の主張に従って国会の批准手続きまで済ませていれば、韓国だけが自分の首を絞めることになっただろう』として『北朝鮮は初めから平壌宣言をただの宣言以上には考えていないようだ』と話した」

     

    平壌共同宣言は、北の金正恩氏の強い希望もあって、韓国国会での批准を求められた。これには野党が反対したので批准が見送られた。今になって見れば、批准しないで良かった、と胸をなでおろしているという。専制国家とは、協定など簡単に結べないのだ。そういう韓国も、北朝鮮を笑う資格はない。日本との条約である日韓基本協定を骨抜きにした。また、日韓慰安婦協定も実質破棄である。

     

    朝鮮民族は、契約精神がゼロである。契約精神は、ヨーロッパの市民社会に生まれたルールである。日本に市民社会の経験はないが、契約を遵守する国である。この背景には、江戸中期の石田梅岩の「石門心学」によって、約束を守ることが「神仏との約束」という精神が涵養されたもの。子どものころ、「嘘つきは泥棒の始り」と教えられた。約束を守る重要性を強調した教えである。

     


    (3)「北朝鮮が望んでいた南北軍事合意については、平壌共同宣言とは異なりスピーディーに進んでいる。軍事境界線(MDL)一帯への飛行禁止区域の設定、非武装地帯(DMZ)内の監視所(GP)の試験撤去、共同警備区域(JSA)の非武装化、漢江河口への共同利用水域の設定および調査、西海(黄海)の軍事境界線に当たる北方限界線(NLL)一帯への平和水域の設定など、ほとんどが実現した。こうした中、北朝鮮は一方的に合意に背く振る舞いを見せたり、韓国への宣伝戦を仕掛けたりしており、その回数は増加傾向にある」

     

    南北の軍事合意は、スピーディーに行なわれた。この問題が今後、韓国の安全保障を脅かすことにならないか。韓国メディアは、頻りにこの点について異議を呈した。文政権のお人好しが、韓国の安全保障に重大な危機を及ぼさないよう、北を監視するしかない。早まったという批判も出ている。


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    中国の地方経済にとっては、不動産バブルなしに経済成長が不可能という事態が起っている。もはや、経済成長の種は不動産しかないという究極の危機だ。

     

    中国の王蒙徽・住宅都市農村建設相は12日、政府が不動産市場の大幅な変動を避けるとともに、住宅は「投機のためでなく、居住するためのもの」という原則を維持する方針を示した。同相は、不動産市場の構造的不均衡に対応するため、政府は年内に賃貸住宅市場の発展を推進するとも語った。

     

    李克強首相が3月5日に行った政府活動報告で、「住宅は投機のためでなく、居住するためのもの」との文言が含まれていなかった。このため、より多くの都市が住宅購入者に対する抑制策を緩和する可能性があるとの臆測が広がっていた。王氏の発言は、こうした懸念を和らげる目的があるとみられる。

     

    王住宅相の発言を笑うように、革命の「聖地」延安では地元政府の手で大規模な不動産バブルが進行中である。その実態を『ロイター』がルポした。中国経済の抱える、底なしの不動産バブル依存経済が浮き彫りにされている。

     

    『ロイター』(3月13日付け)は、「中国革命の『聖地』で不動産ブーム、地方リスクを露呈」と題する記事を掲載した。

     

    北京や上海といった大都市では、住宅価格に沈静化の兆候が見受けられるが、延安など多くの中小都市では価格高騰が今も続いている。Jia Luyuさん(30歳)夫妻のような購入希望者は、今買わなければ手が出なくなってしまうというプレッシャーにさらされている。思い悩んだ末、この夫婦は、虎の子の貯金をはたいて3寝室あるマンションを110万元(約1830万円)で購入することを決意した。場所は、延安を取り巻く黄土の丘陵に新たに造成された地区だ。

     



    (1)「ここ10年で最長となった不動産ブームを抑制しようと、中国政府は大都市における不動産価格の沈静化に努めているものの、延安のように経済基盤の弱い都市については放置したままだ。国内経済の減速が、対米貿易紛争によってさらに深刻化する影響を懸念する中国政府は、延安など数百もの中小都市における不動産価格については、急騰するままに任せている。金融緩和政策と不動産市場への公的介入によって、価格急騰がさらにあおられている。

     

    (2)「これにより、地方政府がある種の住宅バブルを生み出す一方で、中央政府の抑制方針にもかかわらず、地方の債務負担を膨らませているのではないかとの懸念が広がっている。小規模な地方都市を中心とした336都市を調査対象とする中国の不動産協会によれば、そのうち200を超える都市で昨年、不動産価格が2桁の上昇を記録。延安も12月、前年同月比で15%を越える上昇を記録した」

     

    中国政府は、中央の一線・二線の大都市の不動産バブルを抑制しているが、地方の四線・五線の都市では放置したまま。不動産開発しか産業がないためだ。生きるために、不動産バブルが「エサ」になっている。このまま推移すれば、地方都市は確実に財政的に行き詰まる。

     

    (3)「繁栄する中国沿海部の地域から800キロ以上も離れた同市は、価格下落に苦しむ原油生産に大きく依存したままであり、成長の鍵は不動産セクターだと、地元当局は考えている。延安市当局は、住宅市場に介入。融資の解禁や、老朽化住宅の取り壊しによる在庫削減で、新築住宅の販売を促進しようとしている。また市当局は、延安の新地区開発にも巨額の投資を行っている」

     


    (4)「このブームを市場が維持できるかどうかは、政府が財政難に陥るかどうかにかかっている」と地元デベロッパーのZhang氏。『少し調べれば、この新地区建築に市政府がどれだけ債務を重ねたかは想像できるだろう』。『急速に市況が冷え込む兆候が見えたら、彼らは確実に不動産市場の安定を維持しようとするだろう』と彼は言葉を加えた」

     

    延安市政府は、政府庁舎を新地区に移転して市全体に開発ムードを引き起こし、住民をバブルに巻き込む舞台装置を用意している。これに伴う債務は膨大である。地方政府の官僚は、自分の任期中に問題が起らなければ、「それでよし」とする無責任体制である。最後は、地方政府も個人も不動産バブルにまみれて「野垂れ死」という最悪事態を予想するだけだ。


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