勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    中国の崔天凱・駐米大使は27日、ロイターとのインタビューで、米国内の強硬派が両国経済の分断を試みれば、悲惨な結果を招くと警告。中国は現在の難局を交渉で解決することを望み、模索してきたと説明した。

     

    崔天凱氏といえば、「一言居士」の大使である。およそ外交官に似つかわしくない発言をしてきた。米中貿易戦争の当初は、勇ましく「徹底抗戦」を打ち上げ、「米国債売却」も口にしてきた人物である。それがどうであろう、ここまで大人しくなって、交渉妥結を熱望する発言をするにいたった。中国経済の苦悩ぶりを浮き彫りにしている。

     

    『ロイター』(11月28日付)は、「米強硬派が米中経済の分断試みれば悲惨な結果にー中国大使」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「大使は、『双方の懸念に対し均衡の取れた姿勢で臨むことが、交渉による貿易問題解決の鍵だと確信している。率直に言って、これまでのところ米側はわれわれの懸念に対する十分な反応を示していない』と指摘。『一方が複数の要求を示し、他方がすべてを満たすだけという状況は受け入れられない』。一方、米国との貿易摩擦において、中国政府が保有する米国債を武器として使うことを真剣に検討しているとは思わない、と語った」

     

    ここでの大使発言は、米中貿易戦争の「本質」を棚上げして単なる「交渉」に歪曲している。本質は、不正貿易慣行の是正である。その意思が中国にあるのかないのか。それが問われている。過去のケースでは、「本質」を解決せず「交渉」レベルにして、米国が中国に騙された経緯がある。米国が二度も騙されるはずがない。中国は、「本質」について真面目に対応することだ。

     

    (2)「中国は米中貿易摩擦が悪化した場合、保有する米国債の売却や購入削減を検討するかとの質問に対して大使は『われわれは世界の市場で金融不安定を引き起こしたくない。これは非常に危険で、火遊びのようなものだ』と説明した。『中国政府でこれを真剣に検討している人はいないと思う。そんなことは逆効果になる可能性がある』。大使は、中国の米国債保有状況は両国の経済的な相互依存を示しており、その関係を解くことはほぼ不可能で危険だと指摘した」

     

    中国の対抗手段として、米国債の売却が話題に上がってきた。崔天凱大使が、その先頭を切って発言したもの。彼は、かなり直情径行的な性格のようにお見受けする。経済問題に疎いから、あのような不用意な発言をしたのだろう。私は、この発言の非現実性をすぐに論じてきた。9月末時点の中国の米国債保有は、1兆1500億ドル相当で減少している。人民元安を食い止めるべく、介入資金を得るために米国債を売却せざるを得なかったはずだ。外貨準備高の貴重な柱が米国債である。「宝物」を感情にまかせて売れるはずがない。



    中国外務省は、今週の20カ国・地域(G20)首脳会合に際して計画されているトランプ米大統領と習近平中国国家主席との会談で、前向きな結果を出せるよう取り組むことを米国に呼び掛けた。

     

    ドナルド・トランプ米大統領は、2000億ドル相当の中国輸入品に対する関税率を予定通り25%に引き上げるとの考えを示した。今週末に中国の習近平国家主席との首脳会談を控えているが、税率引き上げの凍結を求める中国側の要求に応じる可能性は「極めて低い」と見ている結果だ。

     

    中国が追いすがり、米国がこれを振り払う構図になっている。米国は、中国の不公正貿易慣行の是正が第一であると迫っている。だが、中国はこれにまともに答えず「時間稼ぎ」をしようという意図がはっきり。

     

    1992年にも、現在と同じような米中貿易摩擦が起っていた。当時の事情は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月27日付)が、次のように報じている。

     

    「米国は、関税の引上げの対抗措置を取ろうとした。だが、中国の泣きつく姿に免じて、関税引上げを見送った。92年の合意当時の楽観論は、すぐに失望に変わった。米会計検査院(GAO)の報告によれば、その後3年も経ずに米産業界は『深刻かつ、とどまる所を知らない』中国からの知的財産の侵害に直面した。会計検査院は、『米産業界、特に著作権業界の代表らは、作品の著作権に関する広範な侵害が起きており、それに対処する手段は不十分だと訴えている』と報告した」。つまり、米国は中国に一杯食わされたのだ。

     

    こういう、中国のだまし討ちにあっている米国が、再び中国の口車に乗る可能性は低いようだ。

     

    『ブルームバーグ』(11月27日付)は、「中国、米に首脳会議で結果出すよう呼び掛けー電話会談の合意に立脚し」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国外務省は、今週の20カ国・地域(G20)首脳会合に際して計画されているトランプ米大統領と習近平中国国家主席との会談で前向きな結果を出せるよう取り組むことを米国に呼び掛けた。米中のチームは、両首脳が「相互に受け入れられる案」に達することで一致した11月1日の電話会談に立脚し成果を積み上げるよう作業していると、中国外務省の耿爽報道官が記者会見で述べた。耿報道官は詳細には触れなかった。耿報道官は「首脳会談は目前に迫っている」とし、「米国が両首脳の電話会談内容の精神を順守かつ実践し、首脳会談が前向きな結果を確実に生み出すよう取り組んでくれることを望む」と述べた」

     

    米国は、この中国の呼びかけをどのような気持ちで聞いただろうか。「信ずるにたる証拠を出せ」ということだろうか。



    日産自動車会長だったカルロス・ゴーン氏の逮捕劇は、フランスと日本の感触において随分と異なるようだ。日本では、重大な犯罪行為と見るのに対して、フランスは微罪という印象だという。むしろ、日本側がゴーン氏を追放するべく、日産と司法がグルになっているというのだ。

     

    フランス側が、ゴーン氏を擁護しようという背景には次のような点が見られる。

     

    第一は、捜査資料が開示されていないことや、被疑者に対する捜査手法の日仏の違いである。日本は、弁護士の同席を認めずに取り調べるが、フランスでは弁護士同席で取り調べる。勾留期間は日本が20日間、フランスが4日間など大きな違いがある。どちらが正しく、どちらが悪いという問題でなく、日仏には相違点があることを知らせる必要がある。

     

    第二は、ゴーン氏が日産の経費で自分の支出すべき費用を賄った、特別背任問題である。フランス側は、これを微罪と見ている裏に、倫理感=コーポレートガバナンスの欠如を感じる。この問題を遡ると、カソリックと武士道という倫理感に辿り着く。中世カソリックには、免罪符という形が存在した。罪を金銭で贖(あがな)うことだ。これがプロテスタントから重大視され、宗教改革が起ったことはよく知られている。

     

    日本は武士道である。武士は田畑の所有を禁じられていたように、「清廉潔白」が求められている。その点では、プロテスタントに似通った面がある。武士道では、質素、清廉、神仏への帰依などが奨励された。このように、現代の日本人にもカソリックとは異なる倫理感が脈々と息づいていると言えそうだ。日本人が、ゴーン氏の振る舞いに眉をひそめる裏には、この倫理感の違いがあろう。

     

    第三は、産業政策の違いである。ルノー株の15%はフランス政府の出資である。日本では、政府の企業出資は官営企業の民営化以外に、存在しなくなった。このように、日仏の産業政策には隔たりがある。フランス政府は、ルノーに日産を吸収合併させ、日産をフランス企業に衣替えさせる「野望」を持っている。日本の資産(技術と資本)が、フランスに持ち去れるような話だ。これは、日産という枠を超えて、日本経済の損失問題になる。

     

    日産の経営が立派に立ち直り、ルノーグループの中核になっている。この状態で、ルノーが出資比率45%を盾にして、乗っ取るようなことは阻止しなければならない。



    香港は、世界で最も高価格な不動産市場である。中国本土と直結しているが、ついに弱気相場に向かい始めた。中国の弱気不動産相場を反映している。香港の最も高級な地域では、駐車スペースよりも少し広いアパートに、100万ドルの値が付くこともあるという。その超高級マンション価格が下落に転じている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月27日付)は、「香港の不動産価格、下落を開始か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「上昇する一方かと思われたその市場が最近、下落し始めた。香港不動産仲介大手の中原地産(センタライン・プロパティー・エージェンシー)がまとめた中古住宅の価格指数は8月のピークから5%下落している。しかし、その集計値は市場の暗いセンチメントを正確には反映していないだろう。一部の住宅不動産の価格はこの1カ月間だけで10%以上も下げてきた。最近の取引高の急減からは、買い手がさらなる値下がりを待っていることがうかがえる」

     

    調査会社デモグラフィアは、世界で最も住宅に手が届かない都市の第1位に8年連続で香港を選んできた。その香港不動産市場が下落に転じたことは、それだけでも「大ニュース」であろう。私が注目するのは、香港不動産市場の裏に控えている「チャイナマネー」の存在だ。中国資金が手を引き始めている点に、中国経済の斜陽を実感できる

     

    (2)「香港の不動産市場にとって重要なのは香港と中国本土における経済見通しと金融環境だが、その両方が悪化してきている。香港の主要株式指数は1月半ば以来で20%前後も下げている。ドイツ銀行のリサーチによると、1990年代終わりからのいくつかの景気サイクルでは、香港の不動産の弱気相場は通常、株式のそれに続いて起きてきたという」

     

    香港不動産市場にとって重要なのは、香港と中国本土における経済見通しと金融環境である。中国経済とその金融環境は、明らかに米中貿易戦争が加わって悪化している。それが、香港不動産市場にはね返っている。ということは、中国本土の不動産市場がこれから崩れることを推測させるのだ。

     

    (3)「センタラインによると、昨年には香港の高級アパート購入の4分の1前後を占めたという中国本土の買い手も、中国経済の減速を受けて財布のひもを締めているのかもしれない。中国の富裕層が消費を手控えているということは、ギャンブルの中心地マカオでのカジノ収入やスイスの高級ブランド大手リシュモングループの売上高が減少しているという事例からもよく分かる。人民元の下落もマイナス要因となっている。人民元は3月以来、米ドルと連動(ペッグ)している対香港ドルで10%前後も下げてきた。中国の住宅購入者に人気のある他の不動産市場も最近、下落してきた。不動産情報会社コアロジックによると、例えばシドニーの住宅価格は1年前と比べて7%下落しているという」

     

    昨年、香港の高級アパートの4分の1前後は、中国本土の買い手であった。その中国経済は、米中貿易戦争のほかに過剰債務の重圧で「貸し渋り」が起っている。資金調達に難儀を来すような金融環境では、富豪といえども簡単に資金を動かせなくなってきた。中国発の「資金不足」は、香港だけでなく豪州のシドニー住宅価格まで引下げている。この点に、中国経済の急減速が窺えるはずだ。

     

    (4)「香港の不動産価格はどこまで下がるのだろうか。人民元の突然の切り下げと中国株の大暴落によって引き起こされた前回の弱気相場(2015〜16年)では13%前後の下落となった。ところが今回の弱気相場では、特に米国の金利が上昇していることもあり、さらに大幅な下落となる可能性がある」

     

    香港の不動産価格が、2015〜16年の中国経済混乱時を上回る下落(13%以上)を予想している。米国の金利上昇が続いているからだ。来年の中国経済が、一段の苦境に立たされると見られる要因には、この米国の利上げがある。中国経済は追い込まれる。



    中国共産党機関紙の人民日報は26日、中国経済の近代化に貢献したとする表彰者の一覧を掲載。その中で、電子商取引大手アリババ集団の創業者、馬雲(ジャック・マー)氏を共産党員と紹介した。マー氏が共産党員であるとのニュースは、同氏やアリババに関する書籍の執筆者を含め、多くの人に驚きを持って受け止められている。『ウォール・ストリート・ジャーナル 電子版』(11月27日付)は、「中国で最も有名な資本主義者は共産党員だった」という書き出しで、こう伝えた。

     

    馬氏は、これまで政治的な発言をせず、共産党から最も離れた場所にいるように行動してきた。その馬氏が共産党員であったとは、信じがたい話である。多くの人々が一様に驚きの声を上げている。

     

    中国共産党には、場氏を入党させなければならない切実な事情があった。馬氏の起業した金融事業の「アントン」系列の「アリペイ」が、肥大化して中国金融システムに重大な影響を与えるまでになっていたことだ。馬氏は9月10日、1年後にアリババ会長を引退すると発表した。共産党の圧力を裏付ける点である。

     

    実は、その日にアリペイは、中国人民銀行系列の銀聯へ吸収合併されたのだ。かねがね、馬氏はアリペイを国家に差し出すと発言してきた。その裏には、アリペイが重大な違反問題を引き起こしていたのか。中国当局は、それを見逃す代わりに、アリペイを「国家へ差し出せ」と条件を付けたのかもしれない。中国共産党がやりそうなことなのだ。

     

    こういう一連の流れを見ると、中国共産党は馬氏が「共産党員」であると衝撃的な発表によって、「銀聯によるアリペイ吸収合併」の黒い霧を隠したかったと見られる。「馬氏は忠実な共産党員として国家に貢献した」という後付け理由になるからだ。その疑いが極めて濃いように思われる。

     

    こういう突飛な形で、馬氏の名声を利用せざるを得ないほど、中国の政治や経済が行き詰まりつつある点を認識すべきであろう。中国共産党といえば、「宣伝の名手」である。あらゆるものを利用すること術に長けているのだ。

     

    前記の『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、「アリババ馬氏は共産党員、衝撃的な公表なぜ?」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ビジネスコンサルタントで、マー氏のアリババ創業に関する著作もあるダンカン・クラーク氏は『これまでにもそういった臆測はあったが、何も公にされていなかった』と話す。『マー氏が共産党員であることに触れたことはなかった。彼の野心や海外向けの顔といった面を踏まえると、それを曖昧にしておくことが最善だという感触があった』。実際、マー氏は当局としばしば距離を置いてきた。2015年のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)の合間に行ったインタビューで、中国政府との対応に関して、社員にこうアドバイスしている。『愛せよ、だが結婚はするな』と。」

     

    馬氏は、共産党と一定の距離を置いてきた人物である。熱烈な愛国主義者ではない。その馬氏が、「私は党員でした」というのは信じがたい。

     

    (2)「アナリストの間では、共産党の信頼を高めることを狙った宣伝活動の一環として、マー氏が党員だと明らかにされたとの見方も出ている。中国当局はアリババのような民間企業よりも、国有企業を優遇するとかねてから考えられているためだ。マーブリッジ・コンサルティング(北京)のマネジングディレクター、マーク・ナトキン氏は、共産党は影響力拡大を狙った取り組みを強化しており、マー氏が共産党員とのニュースも、こうしたタイミングに重なると指摘する。ナトキン氏は『共産党は経済界のあらゆるところで、支配と影響力を強めようとしている』とし、『市場での円滑な事業運営を継続するのと引き替えに、政府から共産党バッジを身につけるよう圧力が強まるだろう』と述べる」

     

    中国共産党は、民間経営者に対して「市場での円滑な事業運営を継続するのと引き替えに、政府から共産党バッジを身につけるよう圧力が強まるだろう」と推測している。共産党の人気挽回策として、民間企業経営者を党員に取り込む戦術と見える。いずれにしても、中国共産党凋落の一現象であることは間違いなさそうだ。


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