勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    日本政府は、日米が一体化するという時代環境の変化を生かして、かつて失敗した国産旅客機開発に再び取組むことになった。航空機は、部品点数が約300万点で、自動車の100倍とされている。裾野の広い有望産業である。しかも、脱炭素化時代の要請を生かせば、日本製旅客機開発は決して夢ではない。新素材や水素エネルギーなど、日本の新たな技術が生かせるのだ。

     

    三菱重工業が昨年2月、撤退した「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」は、多くの予約を取りながらも、米国での形式証明が取れず23年2月、ついに断念に追込まれた。今回は、形式証明取得を目標に開発計画を練り直せば済むこと。だが、「羮に懲りて膾を吹く」類いの議論もあるのだ。

     

    『毎日新聞』(4月9日付)は、「再び国策旅客機構想、失敗検証せず進む危うさ」と題する社説を掲載した。

     

    また国民に負担を押しつけるだけの大風呂敷に終わらないか。失敗の教訓を十分に学ばないまま、官製プロジェクトを推し進めようとする姿勢に疑念が拭えない。

     

    (1)「経済産業省が国産旅客機開発の新戦略を発表した。今後10年間に官民で5兆円を投じ、脱炭素に対応した次世代機の開発・量産を目指す。日本企業はこれまで、欧米航空機メーカーに部品を供給する下請けに甘んじてきた。経産省は「完成機も造れる基幹産業に育てたい」と説明する。だが、同じ発想で進められた三菱重工業のジェット旅客機「スペースジェット(旧MRJ)」開発は1年余り前に中止となった」

     

    毎日新聞は、半導体国策企業「ラピダス」でも疑念を表明している。日本の半導体が、先行組から大きく引離されており、技術的に追いつくのは無理という主張だ。だが、米国のIBMから最先端技術の供与を受けることや、日本が1980年代に世界半導体の5割強のシェアを持っていたこと。現在は、半導体製造装置や素材で大きなシェアを占めているという事実を完全に無視した議論をしているのだ。

     

    国産旅客機は、最終的に断念したのは1年前である。今ならば、失敗の原因も突き止められる。それは、米国の旅客機証明を得られなかった一点を調べ上げれば修正可能であろう。一度失敗したから、二度目を挑戦しないという主張は生産的でないのだ。毎日新聞は、「ラピダス」反対論と今度の国産旅客機反対論も軌を一にしている。

     

    (2)「双発プロペラ機YS11以来40年ぶりの「日の丸旅客機」として2008年に始まったが、商用飛行に必須の「型式証明」を取得できなかった。1500億円とされた事業費は約1兆円に膨らみ、国が出資した500億円も失われた。経産省は、型式証明の知見不足や市場環境の変化を失敗の理由に挙げる。その上で「民間1社では困難。国が前面に出て支援する枠組みが必要だ」と強調する」

     

    ホンダジェットは、米国の「型式証明」を取得できたが、三菱重工は取得できなかった。この分かれ道は、ホンダが米国で組み立てており、米国企業の支援を受けたことと無縁でない。三菱は、戦前の「零戦」を製作した誇りが単独の製造となり米国と疎遠であったことは事実だ。米国の形式証明では、一度に修正箇所を指摘せずその都度、指摘するという非生産的やり方であった。こういう反省点に立てば、ホンダジェットのやり方を参考にするのもいいだろう。

     

    (3)「今回は航空関連企業に加え、水素エンジンを開発する自動車メーカーにも参加を呼びかけ、日本の技術力を結集するという。脱炭素化を目的に発行する国債「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」を財源に、国も思い切った支援を行う方針だ。しかし、旧MRJの失敗を徹底検証したとは思えない。型式証明取得のノウハウは官民ともなお乏しい。次世代エンジン開発では欧米勢が大きく先行する。経産省は車向けの技術を生かせば追いつけると期待するが、識者は「転用は容易ではない」と疑問視する

     

    下線部は、毎日新聞が「ラピダス」反対論を主張するときも同じ論理を使っている。この「識者」は、今回の議論には関係していない人物であろう。三菱重工関係者は、前回の失敗を乗り越える可能性を次のように指摘している。

     

    「三菱重工幹部は、『(三菱)1社で背負うのはあまりにリスクが大きすぎた』と、MSJ開発を振り返る。3900時間を超える試験飛行では大きな問題は生じず、『技術的な自負はある』と成果を口にする」(『日本経済新聞』(3月27日付)

     

    三菱重工一社でなく、複数の企業が参加する形式になれば、成功への道は開かれるであろう。

     

    (4)「航空機は部品点数が約300万点と車の100倍で、裾野の広い有望産業だ。ただ、主役である民間企業は三菱重工の巨額損失を目の当たりにして腰が引けている。過去には、税金を投じて国が仕掛けた半導体産業の再生策が民間の十分な協力を得られず、頓挫した例もある。民間企業の新事業への挑戦を後押しするため、税制などの環境を整備する。それこそが国に求められる役割だ」

     

    経済産業省は、三菱重工の失敗を教訓にするとしている。過去に失敗したから、次も失敗すると決めつけては、ビジネスチャンスを逃すのだ。

    テイカカズラ
       

    米財務長官イエレン氏は、昨秋に次いで二度目の訪中によって、中国の過剰輸出問題の是正を申入れた。中国側は、近く米中で協議することで合意したが、見通しは暗いとする指摘が出ている。中国がこれを受入れれば、中国経済は文字通り「失速」するからだ。

     

    中国国家統計局は11日、3月の生産者物価指数(PPI)を発表した。PPIは、前年比2.8%下落と、前月の2.7%から下落幅が拡大した。企業が、売上を維持しようと価格を引き下げ、コモディテイー(商品)価格も下落する中、PPIは1年半にわたり下落が続いている。前月比では0.1%の下落であった。こういう中で、企業は過剰輸出へ向わざるを得ない事態に陥っている。

     

    『ロイター』(4月11日付)は、「中国の過剰生産能力、解消の見込みなし イエレン氏の警告無駄に」と題する記事を掲載した。

     

    イエレン米財務長官のような海外当局者が何を言おうとも、中国の工場はまい進し続けるだろう。イエレン氏は8日、安価な輸出品で市場を氾濫させて欧米企業の足を引っ張らないよう、中国政府に警告を発した。とはいえ、中国の過剰な工業生産能力は今後も続く可能性が高い。

     

    (1)「中国での4日間に及ぶ公式会合を終えたイエレン氏は、「これは以前にもあった話だ」と強調。2000年代初頭に中国の政策によって「中国産の安価な鉄鋼が世界市場に氾濫し、世界と米国の産業を壊滅させた」ことに言及した。現在、欧米その他の国々の政策当局者は、電気自動車(EV)、ソーラーパネル、リチウムイオン電池、その他の産業における中国の過剰投資について、内需を上回る水準に生産を押し上げているのではないかと懸念している」

     

    過去の中国過剰輸出問題は、自由貿易論によって仕方なく受入れられてきた。だが現在は、自国のサプライチェーンを優先するという経済安全保障意識が高まっている。この動機をつくったのは、中国発の新型コロナによるパンデミックである。こういう環境変化の中で、中国が再び輸出攻勢をかけることは受入れられなくなっている。

     

    (2)「中国は、過剰生産能力の抑制を約束する一方、欧米の不満は見当違いとしている。ただ、こうした懸念は一部の分野では正当化されそうだ。例えば、国際エネルギー機関(IEA)の21年の調査によると、中国のソーラーパネルメーカーは市場の80%超を支配するが、世界需要に占める(国内)比率は36%に過ぎない。同様に、業界データを引用したサウスチャイナ・モーニング・ポストの報道によると、CATL(寧徳時代新能源科技)を筆頭とする中国の有力バッテリーメーカーは昨年、747ギガワット時の電力を生産したが、これは実際に中国本土で購入された製品に搭載された387ギガワット時のほぼ倍だ」

     

    中国は、太陽光発電パネルで国内需要の2倍以上の生産を行っている。バッテリーでも2倍以上の生産である。各国が、経済安全保障のために最低限のサプライチェーンを確保したくても、中国からの洪水のような輸出でなぎ倒されているのだ。中国は自由貿易論を建前にしているが、国内では保護貿易である。こういう「使い分け」は、他国を納得させないであろう。

     

    (3)「過剰生産能力が、さらに広がる兆候もある。ロジウム・グループのアナリストによれば、稼働率は昨年初頭に16年以来の75%を下回った。稼働率低下は不動産関連セクターだけでなく、食品、繊維、化学、医薬品を含む産業全般で起きている。また、在庫水準も上昇している。これは、消費低迷と長引く不動産危機の中で経済成長を支えようとする中国の産業振興策によるところが大きい」

     

    中国では、主要産業の平均稼働率が75%を下回っている。過剰設備の存在を示唆している。

     

    (4)「4大国有銀行の製造業向け融資は、昨年は25%増の1兆2000億ドルに達し、ハイテクやクリーンエネルギーなど戦略セクターをターゲットにしている。こうした支援策は効果が上がっているようだ。調査グループのカーボン・ブリーフによると、クリーンエネルギーセクターは、23年に過去最高の11兆4000億元(1兆6000億ドル)を経済にもたらして国内総生産(GDP)拡大の40%に寄与し、中国経済にとって最大の成長原動力となった。中国は、5%の成長目標を達成すべく今年もこの成功を再現しようとするだろう。中国の産業エンジンはフル回転していると言えそうだ」

     

    中国政府は、過剰債務に悩む不動産開発産業を放置して、製造業への融資を集中させている。4大国有銀行の製造業向け融資は、昨年は25%増と急増した。こうした集中的な融資によって、クリーンエネルギーセクター(EV・電池・太陽光パネル)は、GDP成長率の40%も寄与している。中国が、過剰生産能力の再編に取組むとはとうてい期待できない、としている。

     

     

     

     

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    日米両政府は10日(日本時間11日)の首脳会談で、半導体など重要物資の安定的なサプライチェーン(供給網)の整備で合意した。中国をにらみ、経済安全保障での連携を強めるのが狙いだ。米国がリードし、世界で急速に利用が拡大する人工知能(AI)分野でも協力を深める。 

    安全保障や経済安保、宇宙など幅広い分野での連携も確認した。「日米同盟は前例のない高みに到達した」と位置づけている。日米共通の危機意識は、インド太平洋地域における中国の軍事的な威圧強化にある。日米は、この危機を中国との対話と抑止力強化によって解決しようとするもの。日米は、これまでにない戦略一体化に踏み切るのだ。 

    『毎日新聞』(4月11日付)は、「日米、戦略一体化さらに 中国にらみ経済安保連携」と題する記事を掲載した。 

    経済安保の連携強化もAI協力も、念頭にあるのは中国への対抗だ。日米の共同声明は「経済的威圧を抑止し、対処するための協力」を明記。輸出入規制をちらつかせ貿易相手国を威圧する中国への依存を減らし、日米を軸に相互に信頼できる「同志国」間での供給網整備を進めていく。

     

    (1)「特に重視するのが、軍事、民生の両面で重要性を増す半導体。民生では自動車や電化製品に加え、急速に市場が拡大する生成AI開発にも不可欠だ。米国は先端半導体の設計や開発で世界トップクラスだが、製造の多くは海外に委託しており、有事に入手できなくなるリスクがある。バイデン政権は巨額の助成を通じ、「2030年までに世界の先端半導体の20%を国内で生産する」(レモンド商務長官)とのシナリオを掲げ国内回帰を進める。日本も4月に先端半導体の量産化を目指す国策ベンチャー「ラピダス」への支援を増額し、総額1兆円規模とするなど国内生産を強化。日米で量産体制を整えることで安定的な供給網の構築に向け動いている」 

    日米で先端半導体の量産体制を整える。日本は、国策半導体企業ラピダスが米IBMから先端技術を導入して、27年以降に「2ナノ」(10億分の1メートル)の量産開始の予定だ。 

    (2)「共同声明は、「半導体の研究開発、設計、人材育成などでの協力」も表明。日米は軍事転用の恐れがある先端半導体の対中輸出を規制している。連携強化を通じ、この分野で後れをとる中国を突き放したい考えだ。一方、電気自動車や太陽光発電などクリーンエネルギー産業に不可欠なレアアース(希土類)では中国が圧倒的なシェアを握る。日米は新興・途上国と連携し、これらの物資の供給体制も整えていく方針だ」 

    クリーンエネルギー産業には、レアアース(希土類)が不可欠である。日米が協力してこれら物資の供給体制を整える。日本商社の出番である。

     

    (3)「日米経済安保の強化は、バイデン政権が対中国を念頭に推進する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」とも密接に絡む。重要物資の調達が困難になった際に多国間で融通し合う協定が含まれているからだ。日米とインド、シンガポール、フィジーの5カ国は2月にこの協定を発効。日本政府関係者は、「日米がサプライチェーンを強化すれば、新興国にとってIPEFの魅力が高まる」と話す」 

    IPEFは、重要物資の調達が困難になった際に多国間で融通し合う協定が含まれている。日米政府は、インド、シンガポール、フィジーへ潤滑な供給ができるように協力する。これは、日米がインドを取り込む目的である。 

    (4)「AI分野の研究開発でも協力する。首脳会談に合わせ、マイクロソフト(MS)が29億ドル(約4400億円)を日本に投資し、AI開発などに使うデータセンターの能力増強を発表した。MSやアマゾンを含む日米企業連合は、日米の大学によるAI研究プロジェクトに総額1億1000万ドルを支援する。生成AIは虚偽情報の発信などへの安全対策が世界的な課題だ。AI規制を巡る議論は欧州で先行しているが、日米の連携で世界的なルール作りでも存在感の発揮を目指す」 

    中国は現在、AIの開発競争で米国よりも2~3年の遅れになっている。この差は大きい。中国のAI半導体入手が、米国の輸出規制で著しく困難になっている結果だ。MSやアマゾンを含む日米企業連合は、日米の大学によるAI研究プロジェクトに総額1億1000万ドルを支援する。日米連携で、世界的なAIルール作りをリードする狙いだ。日本が、AI開発でトップへ進出できる環境になってきた。

     

    (5)「首脳会談で日米が特に強調するのは、安保協力の一段の深化だ。共同声明は、「日米の指揮統制の枠組みを向上させる」と明記。自衛隊が陸海空の部隊運用を一元的に担う統合司令部を24年度末までに創設するのに合わせて、米軍の組織体系を見直す協議を加速させる。在日米軍は約5万4000人規模だが、指揮権はハワイにあるインド太平洋軍司令部が握る。在日米軍司令部は日本側との事務的な折衝、日米地位協定に関する調整を担うだけだ。組織体系の見直しでは、次のような案が出されえいる。米軍と自衛隊の運用面の調整を普段から緊密にする狙いがある。

    1)米軍の調整組織を日本に新設する。

    2)在日米軍司令官に一定の指揮権を委ねる

    3)複数の軍種を集めた統合任務部隊を新設し、自衛隊のカウンターパートにする」 

    日米は、軍事組織の一体的な運用が課題になってきた。有事の際、日米が齟齬なく出動するには指揮組織の統一が不可欠になる。日米の一体化が、ここまで進んできたという象徴的事例であろう。

     

     

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    中国は、国内不況をEV(電気自動車)輸出で跳ね飛ばそうと猛烈なダッシュをかけている。米国は高関税でガードしているので、狙い目は欧州である。中国製EVは、「猫も杓子も」欧州へ殺到している。陸揚げされたものの、肝心の輸送の手配が遅れていることと販売難が重なって、港湾では大量のEVが滞留する事態に陥っている。いかに、無計画な輸出であるかを窺わせている。 

    『フィナンシャル・タイム』(4月10日付)は、「中国からの輸入車、欧州の港に滞留 輸送・販売が難航」と題する記事を掲載した。 

    欧州の港湾が輸入車の滞留で「駐車場」と化している。自動車メーカーや販売業者が、販売不振やトラック運転手の不足を含む物流の停滞に悩まされていることが背景にある。港湾業界や自動車業界の幹部は、集積する中国製の電気自動車(EV)が問題の主因の一つだと指摘している。陸揚げ後の輸送手段を確保せずに船積み予約を入れる企業もあるという。また、ドライバーや車両を移動させる設備が不足していることから、自動車メーカー全体がトラックの手配に苦労している面もある。

     

    (1)「欧州最大の自動車荷揚げ港として知られるベルギーのゼーブルージュ港を運営するアントワープ・ブルージュ港湾公社は、「自動車販売業者が港の駐車場をデポ(輸送拠点)として利用するケースが増えている。車両は販売代理店に保管されず、自動車ターミナルに集積されている」と述べた。また「主要な自動車港湾は軒並み」混雑に悩まされているとしたが、車両の輸出元については明言を避けた。一部の自動車業界幹部は、中国の自動車メーカーが欧州で思うように販売を伸ばせていないことが、欧州各地の港湾で車が滞留している大きな要因だと指摘している。ある自動車サプライチェーン(供給網)の管理者は「中国のEVメーカーは港を駐車場のように利用している」と語った」 

    欧州最大の自動車荷揚げ港であるベルギーのゼーブルージュ港は、中国製EVの「駐車場」代わりになっている。車両は本来、販売代理店に保管されるべきである。そこまで、達しない段階で「目詰まり」を起こしているのだ。販売不振を意味している。 

    (2)「業界幹部によると、一部の中国製EVは欧州の港に最長18カ月もとどまっているが、一部の港は輸入業者に陸揚げ後の輸送が確保できている証拠の提示を求めていた。ある自動車物流の専門家は、陸揚げされた車両の多くが販売業者や消費者に販売されるまでひたすら港にとどまっていると話す。事情に詳しい別の人物は、この状況を「カオス(混沌)」と表現した」 

    中国製EVの一部は、欧州の港に最長18カ月も止まっているという。売れる見込みもなく、輸出してきたことを意味する。中国の輸出統計では、EV輸出としてカウントされるのだ。実態は、全く異なっている。

     

    (3)「乗用車業界団体、乗用車市場信息聯席会の崔東樹・秘書長は「(中国のEVブランドにとって)欧州市場での内陸輸送は難しい」と述べた。中国ブランドは、「販売後」のサービスを改善する必要があると同氏は強調し、こう続けた。「ゲリラ戦のような自動車輸出を変えるべきだ。自分たちの首を絞めることになる」と指摘する」 

    中国乗用車業界では、「ゲリラ戦のような自動車輸出を変えるべきだ。自分たちの首を絞めることになる」と自戒している。 

    (4)「欧州で2番目に自動車の取り扱いが多い、ドイツのブレーマーハーフェン港で自動車ターミナルを運営する独物流大手BLGロジスティクスは、独政府が2023年12月にEVの購入補助金を打ち切った後、同社施設に車両が滞留する時間が長くなったという。比亜迪(BYD)や長城汽車、奇瑞汽車、上海汽車集団(SAIC)といった中国自動車メーカーの多くは、中国国内の工場稼働率を維持するとともに、欧州のEV需要を取り込むため、欧州への輸出を増やそうとしている。自動車ターミナルで目詰まりが起きている背景にはこうした事情がある」 

    欧州で2番目に自動車の取り扱いの多い、ドイツのブレーマーハーフェン港でも、中国製EVは滞留時間が長くなっている。中国国内では、工場稼働率を維持する目的もあり、欧州へ怒濤のごとき輸出を仕掛けている。

     

    (5)「23年の中国の自動車輸出は前年比58%増となり、自動車市場の大幅再編を促した。24年1〜2月は中国のEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、水素自動車の輸出先上位にベルギー、英国、ドイツ、オランダが並んでいる。中国の王文濤商務相は7日、中国自動車メーカー幹部が出席したパリでの会議で、同国がEVの過剰な生産能力を抱えているとの批判について「根拠がない」と主張した」 

    中国の自動車輸出は23年、前年比58%増である。この数字こそ、無秩序輸出の証であろう。EU(欧州連合)が、ダンピング輸出として調査するのは致し方ない。 

    (6)「自動車業界幹部によると、中国勢の多くは欧州でゼロからチームをつくり、物流問題に取り組んでいる。欧州市場に参入したばかりの各社は、優先的に対応してくれる運送会社の確保に手を焼いている。「トラック不足」は「非常によくある問題」だと事情に詳しいある人物は述べ、多くの輸送用車両を「(米EV大手)テスラが予約している」と付け加えた。「どの新参ブランドもこの問題に直面するだろう。事業規模が小さく、定期的に輸送しないなら(トラック運送会社の)最大顧客にはなれない」と業界幹部らは指摘する」 

    中国EVは、ゲリラ的輸出であるので、欧州の物流業界が「様子見」している状態だ。「良い荷主」になれるかどうか、見極めている面もある。まだ、信頼されていないのだろう。

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    クリーン水素製造に道

    鉄鋼・自動車等で活用

    NTTは光半導体開発

    2技術は国際標準化へ

     

    社会が発展する動因は、技術開発の進歩発展にある。この発展は、直線的に進むものでない。必ず、「休止期」が訪れて階段状に発展する。これが、過去の人類が歩んで来た道である。18世紀後半から19世紀前半にかけた約100年間、英国で始まった産業革命によって、人類は長足の経済発展が実現した。石炭による蒸気機関がもたらした成果だ。エネルギー革命が、経済発展のカギの一つを握ることを証明している。

     

    技術発展は、一国経済発展の基盤である。第二次世界大戦後の米ソの冷戦で、ソ連敗北の理由は技術発展が軍事に偏り、民間経済の発展を阻害したことにある。皮肉にも、ロシアの経済学者コンドラチェフは、資本主義経済に50年周期の循環があると指摘した。これ以降は、「コンドラチェフ循環」として世界的に知られるようになった。コンドラチェフは、資本主義経済に「死滅」がないとの仮定に立つので、ソ連首脳部から睨まれ「行方不明」という悲運に襲われた人物である。

     

    資本主義経済の「50年循環説」は後に、技術革新がその主たる理由と解釈されている。画期的技術は、連続して起こるものではない。発明の必要性が認識される時代背景によって、新技術が登場するものだ。第二次世界大戦が終わって、すでに80年近い歳月が経つ。新しいエネルギー革命が、起っても不思議はない時代環境を迎えている。

     

    今回のメルマガは、日本の技術開発力にスポットライトを当てた。技術は地味だが、その効果は世界を突き動かす巨大なものになる。日本には現在、そうした貴重な技術が二つも実用化に向けて動き出している。これを、読者とともに認識したい。

     

    クリーン水素製造に道

    上述の通り、エネルギー技術の革新が、人類を次なる経済発展段階へ押し上げてきた。第二次世界大戦後は、原子力発電がエネルギー革命の担い手として登場したが、主役は化石燃料の石油や石炭で大きなシェアを占めている。これが現在、大量の二酸化炭素を排出させて、環境破壊をもたらしている。

     

    これを反面教師にし、無公害(二酸化炭素ゼロ)エネルギーとして水素が登場した。原料は無限に存在する水だ。この水素を製造するには、太陽光など自然エネルギーで水を分解し酸素を取り出すことがベストの選択である。このほか次善の策では、石炭や天然ガスから水素を製造する方法もあるが、二酸化炭素の排出を伴う難点がある。そこで、究極の無公害エネルギーの水素製造法として、高温ガス炉(原子力発電の一種)が脚光を浴びている。高温ガス炉は、発電するだけでなく水素も製造する。一人二役である。

     

    高温ガス炉では、温度850度で水を分解して水素を製造する。日本は3月28日、これに成功した。OECD(経済協力開発機構)と共同で、次世代原子炉と期待される高温ガス炉(HTTR、茨城県大洗町)の安全確認試験を行った。商用化に向けた関門の一つをクリアした形である。日本原子力機構は、24年にも水素製造施設を高温ガス炉に接続する審査を原子力規制委員会へ申請する。順調に審査が進めば、28年には水素製造試験を始める計画とされる。日本が今、水素社会へ門を開いたのだ。

     

    日本政府は、2040年の水素供給量を、現在の6倍になる年間約1200万トン目標にしている。研究炉である日本原子力機構のHTTRは、熱出力30メガワット(1メガワットは1000キロワット)である。250メガワットに高めれば、FCV(燃料電池車)で年間20万台分の脱炭素水素を製造できると試算する。政府は、出力が小型なので数基設置することを想定している。政府は、今後10年間で高温ガス炉などの建設に1兆円を充てる計画である。

     

    経済産業省はすでに、高温ガス炉について、実証炉の開発で中核となる企業に、三菱重工業を選定した。実証炉の基本設計や将来的な製造、建設を担う。また、高温ガス炉の実証炉の建設では昨年9月、英国政府との協力の覚え書きを結んでいる。日英は、知見を共有して実用化を目指し、脱炭素社会の実現につなげる目的だ。

     

    日本が、英国と協力の覚え書きを結んだ裏には、この分野でまだ明確な国際基準がないので、先行して基準を示して水素製造の国際標準を主導する思惑があるとみられる。今回の安全確認試験では、OECDが立ち会っている。日本には、英国と協力しOECDも加わって、水素の国際標準づくりをリードしたい執念を感じるのだ。これまでも、一貫して「水素の日本」という旗印を立ててきた。それへのこだわりである。

     

    鉄鋼・自動車等で活用

    日本の水素社会は今後、どのような構想で進むのか。

    日本政府は2月、水素社会促進法案とCCS(CO2回収・貯留)事業法案を閣議決定し、現在開会中の国会へ提出した。両法案は、鉄鋼・化学などの産業、モビリティ、発電といった脱炭素の難易度が高い分野で、水素などの供給・利用の促進、CCSに関する事業環境を整備するものである。こうして、日本は水素社会へ向けて動き出している。その技術的裏付けは、今回の高温ガス炉による安全確認試験の成功である。日本にとっては、大きな一歩である。

     

    水素社会を実現する上で、二酸化炭素排出量の多い産業が技術革新対象になる。鉄鋼・化学などの産業、モビリティ、発電が主要対象だ。(つづく)

     

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