かつては、「環境車」としてもてはやされたEVテスラが危機に立たされている。同社CEOのマスク氏が、トランプ米大統領と行動を共にしており、米国官庁で大量な人員整理の先頭に立っていることへの強い批判を浴びている。株価は、昨年11月の最高値時から半値まで激落した。マスク氏は、テスラ社員へ「株を売らないよう」と懇願する事態にまでなっている。テスラは生き延びられるか。世論を敵にしては、いかなるビジネスも成り立たないという単純なケースである。
『ブルームバーグ』(3月22日付)は、「破壊や放火、激化するテスラへの抗議ーマスク氏への反発止まらず」と題する記事を掲載した。
ショールームへの火炎瓶、サイバートラックへの落書き、充電ステーションの破壊行為--。イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)に対する反発は、テスラ車やディーラーに対する物理的な攻撃という形を取っており、抗議者の数が増加するにつれ、勢いづいている。一方、トランプ政権は暴力行為には法的措置を取ると言明している。電気自動車(EV)は政治的なシンボルとして見られるようになり、同社の何百万人もの顧客が争いに巻き込まれている。
(1)「トランプ政権内でのマスク氏の巨大な役割に対する国民の怒りに対し、大統領側近の対応も厳しさを増している。今週、ボンディ司法長官は、テスラの施設に対する攻撃は「国内テロに他ならない」と述べた。ラトニック商務長官はFOXニュースでテスラ株は買い得だと述べ、視聴者に購入を促した。トランプ大統領自身も先週、ホワイトハウスの外でテスラ車を購入してみせた」
人々のトランプ氏への怒りは、テスラへの「敵意」となって向けられている。この点を認識することが重要だ。トランプ政権の閣僚がテスラを庇えば庇うほど、「テスラ排撃」の火は燃えさかりそうだ。
(2)「マスク氏は、所有するX(旧ツイッター)上で「暴力」を繰り返し非難し、20日には、ショールームの全車両のセキュリティー機能をオンにしたと述べた。同日夜遅く、マスク氏は突然全社員ミーティングをオンラインで開き、同社の車が燃やされている様子は「アルマゲドン」のようだが、会社としては「全体的に良い」状況だと述べた。ニューヨーク市ブルックリンからテキサス州オースティン、サンフランシスコ・ベイエリアまで、週末にショールームで計画的に行われる抗議活動には、毎週参加者が増えている。 「テスラ・テークダウン」と呼ばれる分散型のグループは19日、有名人や政治家、学者も巻き込んで参加を呼びかけ、これまでの活動で最大規模となる世界500カ所で、29日に抗議活動を行おうとしている」
反テスラ活動は、世界500カ所で繰り広げられる勢いである。
(3)「PR会社「レピュテーション・ドクター」のマイク・ポールCEOは、反発の声は米国企業では前例のないレベルに達していると述べた。不買運動のような典型的な消費者からの抗議とは異なり、テスラのショールーム、車両、充電ステーションはブランドを想起させるもので、潜在的な抗議の対象でもある。ポール氏は「今後、テスラ車が燃やされることは増え、世界中のショールームでさらに多くの抗議活動が見られるようになるだろう。路上に駐車しているテスラ車を所有している人は、誰でも危険にさらされることになると思う」と述べ、騒ぎがすぐには収まらないとの見方を示した」
テスラは典型的な不買運動から離れ、テスラのショールーム、車両、充電ステーションの破壊活動へ向っている。路上に駐車しているテスラ車所有者は、誰でも危険にさらされるという物騒な雰囲気になっている。
(4)「一部のテスラ所有者は、売却する代わりに、自分の車にマスク氏への抗議のステッカーを貼っている。中古のテスラの価格は暴落しており、車を処分したい場合、大きな損失を覚悟しなければならない可能性がある。自動車関連の調査会社エドマンズによると、ディーラーで新車または中古車を購入する際に下取りに出されたテスラの割合が、今月は過去最高を記録した。先月、エドマンズでテスラの新車購入を検討している人の割合は1.8%まで落ち込み、2022年10月以来最低となった」
テスラ所有者の一部では、自分の車にマスク氏への抗議のステッカーを貼って「自衛手段」に出ている。
(5)「テスラの株価は12月に最高値をつけてから、50%余り下落している。20日に行われた全社会議で、マスク氏は従業員に対し、「困難な時期」にあるものの保有株を手放さないよう呼びかけた。同氏はテスラの今後について、5年以内にテスラの自動運転車が世界的に普及するなど、野心的な予測も披露した」
マスク氏は、「5年以内にテスラの自動運転車が世界的に普及する」と当てもないことを言う羽目に追込まれている。ステージ5の自動運転車は、簡単に登場できるほど甘いものではない。人的損害は、メーカーが保証する建前である。
(6)「非暴力の抗議活動を訴える「テスラ・テークダウン」は、さらに運動を拡大しようとしている。同グループが19日に行った会議には、民主党のクロケット下院議員や俳優のアレックス・ウィンター氏、ジョン・キューザック氏がスピーカーとして参加した。ウィンター氏は「この会社を転落させた責任は、マスク氏自身にあるだけだ。陰謀などない。テスラを窮地に追い込んだのはマスク氏ただ1人であり、その一方で抗議活動は拡大し続けるだろう」と述べた。主催者の1人であるソフィー・シェパード氏は、「私たちは、彼とビジネスをする人々を望んでいない。彼が連邦政府で持つ権力を保持し続けないでほしい」と訴えた」
テスラ危機は、マスク氏がトランプ政権から離れる以外に解決方法はなさそうだ。彼は、それを決断できるか。それともテスラを枕に「討ち死」にするかという切羽詰まった段階へ来ている。世論を敵にしては、いかなるビジネスも成り立たないのだ。