不注意だった日本側対応
米国は日本の実力高評価
4年半の円狂想曲終末へ
政策の基軸は交易条件に
政府と日銀が7月30日、円買い・ドル売りの為替介入に踏み切った。米財務省も31日、介入して円を直接買い入れることで下支えした。こうして、日米両国が協調して異例の為替介入へ踏み切った。週明けの8月3日、東京為替市場は、156円台へ跳ね上がったが「様子見」という状況である。「介入」であるから、一時的な円安是正という見方が支配的である。
大和証券グループの吉田光太郎・最高財務責任者(CFO)は3日の決算会見で、日米の協調為替介入について次のように語った。「当局は円安阻止という明確な姿勢を示したとする一方で、介入を行っても構造的な円安圧力は急には解消されない。円安の継続は日銀の政策判断にも影響を与え、追加利上げのタイミングが早まる可能性もあると、した。『ロイター』(8月3日付)が報じた。
吉田氏の見解は、為替市場の共通した見方であろう。一方、「構造的な円安圧力は急には解消されない」とはどういう意味か。この構造的円安こそ、市場を覆ってきた投機圧力を意味している。為替相場は、理論(ファンダメンタルズ)と投機によって説明可能である。理論では、日米実質金利差が大きな影響力を持っている。現実は、この金利差が全く効かず、ただ投機の波に押し流されている状況だ。
8月現在の日米実質金利差は、すでに1.4〜1.6%まで縮小した。歴史的ピークであった2024年の3.3%に対して、半分程度まで縮小している。それにもかかわらず、逆に円安が進行している。これは、日米実質金利差では説明不能な局面になっている。これこれ、投機による円安であることを裏付ける。日米両政府が協調介入した理由は、ドル円相場を理論値へ接近させるべく、投機退治に動き始めたことを意味しているのだ。
為替市場は、4年半にわたる「異常円安」にすっかり馴れてしまった。「円キャリートレード」(円を借りて他通貨投資や国債投資などを行う)によって、投機集団は莫大な利益を上げている。これまでの「旨味」に酔い、簡単に撤退することはなかろう。となれば、日米両政府が断固とした投機封じ対応をしないかぎり、撤退させることは困難である。喩えは良くないが、熊が人里に現れて食べ物をあさっているように、投機筋も円キャリートレードで「甘い汁」を吸いすぎたのであろう。
不注意だった日本側対応
異常円安を招いた背景に、日本側の不注意さも指摘しなければならない。日銀と政府の不用意発言が投機筋をはびこらせた要因である。日銀の植田総裁は、経済学者出身である。行政官の経験がないので、記者会見で不慣れな側面が多々みられた。円相場に対す姿勢について、第三者のように対応して失望を買ってきた。理由は、日銀の政策が物価安定であり、為替安定の役割を課されていないということにあった。だが、円安は物価上昇を生む以上、物価安定=為替安定のはずである。この見え透いた関係を無視してきたのだ。
高市首相は、「円安にも良い面がある」と衆院選の選挙演説で発言した。さらに、「責任ある財政政策」を掲げて、拡張的財政政策を行った。中味は、産業政策支援であって無意味な拡張政策でないことは分かっている。だが、財政のプライマリーバランスを放棄した。財政で新味を出そうとしたが本来、財政とは保守的なものである。高市氏は、こういう「財政の鉄則」を軽視したので、投機筋は格好の「円売り」材料に利用した。高市政権が、無意識のうちに「オーバーラン」したことは間違いない。
日銀と政府は、異常円安に直面して進退に窮する状況に追い込まれた。米国の力を借りて、共同で投機集団封じ込めへ立ち向かうほかなくなっている。為替市場は、この日米協調介入という「神器」について、正確に認識していると言い難い言動を繰り返している。未だに円安容認論へ傾いている。現実の日米実質金利差が、すでに縮小しているという「絶対条件」の変化に気づかずに、火口でダンスを楽しんでいる風情である。
先ず、日銀は政策の「展望レポート」で、日銀の政策目標に為替安定を掲げた。これまでと違って、異常円安に対して金利を引上げることを明白にしたのである。さしずめ、9月の政策決定会合で利上げを議論することになろう。これによって、日米実質金利差のさらなる縮小を図ることで異常円安の是正へ動くはずだ。
政府は、米財務省から米連邦準備制度(FRB)の「外国・国際通貨当局向けレポ・ファシリティ」制度の利用を引出した。これは、日本の保有する米国債を担保に7日間のドル貸出制度だ。日本は、円で借りたドルを元手に「ドル売り・円買い」を始める。これは、単発の介入ではない。日本の外貨準備高に何らの影響も与えず繰返し介入して、投機集団を追詰める「武器」になる。為替市場は、この効果を全く認識していないのだ。だから、悠長に円安路線で構えているのであろう。
米国は日本の実力高評価
米国は、なぜここまで日本へ協力するのか。それは、日本の産業政策が新たなイノベーションを生み出して、米国を初め同盟国の利益になることを十分に認識している結果だ。トランプ米大統領が、日米両財務省からの発表前に、「日本は同盟国であるから異常円安脱却を支援する」と異例の声明を出したのは、日米が結束して投機集団を封じ込める決意を示したものである。これは、同時に米国債相場への飛び火を警戒したものだ。
米国には、もう一つの狙いがある。それは、円安状態が続くと資金が日本を回避して中国へ流れることである。香港金融市場が現在、息を吹き返したのはその証拠であろう。これは、中国経済を潤す結果となって、中国が他国支援をする経済的なゆとりを生むことになる。そこで、資金を日本へ呼び戻すには「円安是正」が不可欠という道筋だ。米中対立時代においては、「異常円安」是正が日米にとって極めて重要なテーマになってきた。(つづく)
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