勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    政府は、全国を10地域に分けて、地域ごとの技術資源を生かした産業計画を行う。これまでの総花的計画から脱して地域に根ざした産業育成を目指す。過去の日本にない大胆な試みで、地域を競わせて目標を達成する狙いであろう。高度成長経済をリードした「国民所得倍増計画」は、マクロ経済の視点から日本経済をリードした。今回の地域ごとの技術資源を生かした産業計画は、ミクロ経済の視点から日本経済の建直しを図る意味であり、全国を下から押し上げる方式となる。

     

    日本は、従来から地域を分けて競わせると極めて効率的な成果を上げることで知られている。江戸城でも各地の大名に工事範囲を決めて築城したという前例もあるように、全国10地域がそれぞれの技術を生かして成果を上げるというシステムを採用する。一種の産業オリンピックのような色彩も帯びており、日本人特有の「地域対抗」という意識も加わって多彩な産業計画が推進されるであろう。

     

    『日本経済新聞』(5月14日付)は、「地域別に重点産業指定 政府、全国10ブロックで計画 近畿は空飛ぶクルマ」と題する記事を掲載した。

     

    政府は地域ごとに成長分野の企業を集積するための計画を策定する。近畿を次世代移動手段である「空飛ぶクルマ」の実用化拠点に指定するなど全国を10ブロックに分ける。関連する企業や研究機関、自治体などを集めて投資を促し、地域経済の活性化を目指す。

     

    (1)「高市早苗政権は地方経済の活性化に向けた「地域未来戦略」を6月にも策定する。近隣の都道府県単位での産業集積計画が柱となる。黄川田仁志地方創生相が近く戦略策定に関する会合で首相に計画の素案を報告する。重点投資対象と位置づける人工知能(AI)や半導体など「戦略17分野」に含まれる製品や技術について地域ごとの担当を決める。インフラ整備支援や地域限定の規制改革などに取り組む。海外と比べて遅れている新興技術などへの投資を後押しする」

     

    各地域では、大学が技術センターの役割を果すであろう。将来、大学整理案が取り沙汰され始めているが、地域経済発展のニーズにそった新たな発展策が織り込まれるようになろう。これによって、これまでの東京一極集中は姿を変える。地域経済が新技術に裏付けられた発展コースを歩めば、新たな雇用も生まれて人材流出を抑えられるに違いない。

     

    (2)「地域別の指定分野は既存の産業構造や企業の投資状況を踏まえて決める。近畿の重点産業を空飛ぶクルマに代表される「空モビリティ」関連とするのは離着陸場などの整備が他地域よりも進んでいるためだ。2025年の大阪・関西万博で空飛ぶクルマの試験飛行を実施し、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)が離着陸場を設置した経緯がある。充電設備などのインフラ整備を進め、既存の空港・飛行場を活用するための規制緩和なども検討する。空飛ぶクルマは政府が成長戦略として重点的に支援する17分野61製品・技術の1つだ。空飛ぶクルマは、40年ごろに1500億円の市場獲得を目標としている。海外も開発段階で、日本が実用化で先行すれば世界市場での競争力確保につながるとの期待がある」

     

    近畿の重点産業の一つとして、「空飛ぶクルマ」が取り上げられている。総花的な産業支援に代わって、地域ごとの勝ち筋の明確化、国家主導のクラスター形成、目標必達型の産業戦略を明らかにすることになる。日本の産業地図が、地域の視点から再設計されるという意味で、戦後最大級の産業政策転換と言える。

     

    (3)「最先端半導体の量産を目指すラピダスが立地する北海道や、台湾積体電路製造(TSMC)が進出した九州などは半導体を基幹産業に指定した。半導体の部素材や製造装置のメーカーが多い北陸は富山・石川・福井の3県の広域連携を促す。関東は、千葉県の成田空港を中心とする航空産業の振興を掲げる。デジタルトランスフォーメーション(DX)支援により航空機の保守・修理・整備にかかわる企業を育成する。航空機の整備需要は国際的に増えており、成長性が高いとされる」

     

    リーディングインダストリーとして、半導体が挙げられている。北海道、九州、北陸などが適地とされている。関東は、成田空港を中心とする航空産業の振興である。

     

    (4)「中国や四国は造船業への重点支援を見込む。愛媛は国内最大手の今治造船を筆頭に既存の産業集積がある。35年に建造量を24年比で1800万総トンにほぼ倍増させる目標の達成をめざす。AIを活用した生産性の向上支援などの政策を詰める」

     

    中国や四国は、造船業への重点支援を行う。35年の建造量は、24年比で1800万総トンにほぼ倍増を目指す。

     

    (5)「高市政権は地域未来戦略を成長投資の中核に据える。首相は、25年末の地域未来戦略本部で「世界をリードする成長分野のクラスター、地域発のクラスターを全国各地に形成して、地方から日本を成長軌道に押し上げていく」と強調した。企業、大学、自治体などの人材や投資が集まることで産業が発展するとみる。地方創生と成長戦略を連動させ、地方の経済成長や雇用の創出効果を狙う。計画は(1)都道府県域をまたぐ「戦略産業」(2)都道府県単位の「地域産業」(3)市区町村を中心とした「地場産業」――3類型別につくる」

    フォームの始まり

    フォームの終わり

     

    大学単独の再建は困難である。人材育成や技術開発の基点として、大学を守り立てなければならない。これは、地域経済が再興しない限り不可能である。

     

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    トランプ米大統領は、2日間の首脳会談に臨むため訪中した。習近平中国国家主席との対面は7回目となる。両者は、ある種の「文通相手」とも言える関係を築き、互いに相手の心の動きを理解する「仲間」だと言う。習氏は、トランプ氏から本音を引き出して、米国が心変わりしないか確かめたいというのだ。中国は、明らかに守勢に立たされている。米軍によるベネズエラとイランへの急襲が、中国へ向けられないか恐れているようである。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月13日付)は、「米中首脳会談、トランプ・習両氏の思惑」と題する記事を掲載した。

     

    世界の二大大国の指導者は書簡を通じてやり取りをしてきたと、この慣行を知る関係者らは述べている。これは、米政府と中国政府の間の長年の緊張関係や、両者がまったく異なる政治体制を率いているにもかかわらず、個人的な信頼関係を築こうとしてきた多くの取り組みの一つだ。

     

    (1)「こうした関係は今週の首脳会談で試されることになる。会談では貿易、イラン、台湾といった難題について協議する見通しだ。習氏とトランプ氏は両国の相違点の表面化を避けるだろう。習氏はトランプ氏を盛大にもてなす予定で、世界遺産の天壇公園を案内し、人民大会堂で会談を行い、企業トップや閣僚で構成される米国代表団を招いた晩餐会を主催し、トランプ氏とともに茶会の席に着く」

     

    習氏は、トランプ氏を丁重にもてなして、台湾に関する思い通りの返事である「台湾独立を支持しない」を引出そうと懸命である。この一言を得れば、習氏の国家主席4選が有利になるのだろう。

     

    (2)「アナリストらは、米国が中国向けのイラン産原油の輸送を封鎖している状況下でも、会談が実現すること自体が異例だと指摘している。両首脳とも具体的な成果を求めている。イーロン・マスク氏を含む代表団を伴って訪中するトランプ氏は、中国がイラン戦争の終結に協力し、大豆やボーイング機を含む米国製品を大量に購入することを望んでいる。一方、国内で深刻化する景気低迷に直面する習氏は、台湾に対する米国の政治的・軍事的関与を弱めようと取り組む中で、対米関係をより予測可能なものにしたい考えだ」

     

    率直に言って、米国が習氏の4選に手を貸すことは、けっして中国のためにも世界のためにもならないであろう。トランプ氏は、習氏への個人的「友情」と自由世界の発展とを峻別しなければならない。

     

    (3)「トランプ氏は非公開の場では、他の首脳にはほとんど見せない敬意を習氏に示し、場を和ませるための冗談の代わりに称賛の言葉をかけていると、両者の会談を知る関係者らは語った。ホワイトハウスのオリビア・ウェールズ報道官補は「米中関係、そしてトランプ大統領と習主席の個人的な関係は非常に良好であり、両者ともにその関係を維持することがいかに重要かを認識している」と述べた。トランプ氏はその後も習氏を深く尊敬する友人と呼び続け、その思いは互いに共通していると側近や記者たちに伝えてきた。2017年11月には、習氏はトランプ氏を1949年の中華人民共和国建国以来、外国首脳としては初めて北京の故宮(紫禁城)での夕食に招き、敬意を示した」

     

    トランプ氏が、習氏に親近感を持つのは、「独裁者」同士という独得の雰囲気が合うのであろう。トランプ氏は、ロシアのプーチン氏に対しても同様の親近感を示している。

     

    (4)「米当局者やアナリストらは、トランプ氏と習氏がこれまで通りの友好的な雰囲気を演出するものの、二国間関係において政治的な突破口はほとんど開かれないと予想している。 「大規模な合意や関係の変化に対する希望的観測はない」と、ブルッキングス研究所の中国センター所長、ライアン・ハス氏は述べた。トランプ、習両氏ともに、国内では身動きが取りづらい状況下で今回の会談に臨むことになる」 

     

    個人の思惑で外交が進むとすれば、それは「野合」に過ぎない。歴史の審判に耐えられない、一時的な結果に止まる。トランプ氏が、米国大統領として後世にどう評価されるか、今回の米中会談は分岐点になろう。

     

    (5)「高まる経済的暗雲によって、習氏の権力基盤が脅かされているわけではない。しかし、トランプ氏との会談が成功すれば、中国企業が長期計画を立てる上での予測可能性が高まると、中国当局者らは述べている。習氏にとって、対処可能な景気減速を政治問題に変えかねない唯一の懸念は、米政府との突然の緊張激化だと、当局者らは指摘する」

     

    中国が、米国との突然の緊張激化を恐れること自体が、すでに「敗北」を自覚している証拠だろう。それにもかかわらず、周辺国へは傍若無人の振る舞いを続けている。「負けは負け」である。取繕うことなく行動を変えることだ。

     

    (6)「バイデン前政権は、台湾独立を「支持しない」との立場を示してきたが、中国は今、トランプ政権に対して台湾独立に「反対する」と表明するよう求めている。これが実現すれば、米政府が長年維持してきた「戦略的曖昧さ」の終焉を意味する。習氏は2023年にもバイデン氏に同様の要求をしたが、拒否された」

     

    中国が、米国に対して台湾独立を「支持しない」から、「反対する」へ一歩踏み込ませる狙いは何か。これは、台湾を揺さぶる目的である。台湾問題は、民主主義と独裁の対立であり、米国が中国の要求に歩み寄ることは、民主主義の原則を自ら損なう行為である。トランプ氏は、習氏へどんなに友情があるとしても独裁者へ手を貸してはならない。 

     

     

    テイカカズラ
       


    外貨準備は見かけ倒し

    一帯一路が大きな負担

    不良債権比率60%へ

    中国危機の本質はここ

     

    中国が、異常なまでにダンピング輸出している裏で、深刻な「ドル不足」事情を抱えている。貿易黒字の増加が、そのまま外貨準備高増加にならない「疾病」だ。人間に喩えれば、栄養豊富な食事を取っても太れないのは、何らかの疾患を抱えているものとみなされるであろう。

     

    中国の25年貿易黒字は、1兆1890億ドルと初めて1兆ドル台に乗った。前年比19.9%増と文字通りの急増である。だが、年末の外貨準備高は3兆3579億ドルで、前年比4.8%増に止まった。貿易黒字で稼いでも外貨準備高増として顕著に貯まらない裏には、前記のような疾患を抱えている結果とみられる。一帯一路関連の不良債権が、重圧になっている。万一の場合、最大限6000億ドルが外貨準備高を直撃する。

     

    このほか、台湾侵攻作戦へ踏み切れば、海外からの融資条件で自動的に金融遮断機が下りるシステムになっている。ドルの短期借入金が、返済を迫られて金融破綻へ落込む運命だ。中国の外貨準備高には、短期借入金1兆4000億ドルが含まれている。この8割は、米系金融機関の融資とみられている。無担保融資であるため返済期限は1年である。これまでは借換えの繰返しできた。だが、「戦争行為」という異常事態へ突入すると、中国は1年以内に1兆4000億ドルを返済しなればならず、外貨準備が枯渇する。

     

    3兆3500億ドル強の外貨準備と言っても、自由に使える金額は1兆ドル程度とみられている。この金額で1兆4000億ドルを返済できるはずがない。中国は、こうして「戦争禁治産者」になる。つまり、台湾侵攻へ踏み切れば、その段階から外貨繰りが窮迫する。外貨不足で輸入が減れば、国内経済はパニックになる。もはや、戦争どころの話でなくなり、国中が「戦争反対」一色になろう。

     

    日本の一般論で言えば、「禁治産者」(2000年の民法改正で成年後見制度)に陥ると、行為能力が制限される。これを国家に敷衍すれば、戦争によって行為能力が制限されるので、中国は欧米金融機関からの融資を受けられなくなるのだ。

     

    これまで、中国の台湾侵攻は多くが軍事論で議論されてきた。だが、上述のような国際金融の側面から言えば、「開戦即死論」という全く次元の異なる結論が導かれる。中国は皮肉にも、国際金融上の理由で戦争のできない国になっている。逆説的だが、台湾が独立論を打ちだした場合、中国はすぐに開戦へ踏み切るであろう。これは、国際金融上の契約によって短期融資打切りとなり、中国は返済せねばならず破綻するのだ。なんともあっけない結果に終わるであろう。

     

    外貨準備は見かけ倒し

    冒頭から、ショッキングな話題になった。中国の外貨準備高が、これほどまでに脆弱構造に陥った理由は、大国としての「見栄」を張りたいという欲望が出発点である。2007年、短期借入金を外貨準備高に組入れると決定したのは、中国特有の「大国病」に始まっている。外貨準備高を膨らませ、発展途上国を畏服させたいというものだった。その後に始まった不動産バブルは、中国の虚栄心をさらに満足させた。

     

    この延長において2013年、習近平氏が「一帯一路」(BRI)を発表した。国内の過剰生産物(鉄鋼・セメント・化学製品)の処分という目的もあった。折から始まった不動産バブルによる地方政府の土地売却収入が、この一帯一路を後押して発展途上国への融資を膨らませた。不動産バブルが、国内に膨大な不良債権を生み出したと同じ構図で、一帯一路も不良債権を山積みにした。当初から返済の見込めない国へも貸付けて、インフラ投資を行わせた。これが、「債務の罠」とよばれる悪評の原点である。

     

    中国が、貸付けて「債務の罠」とされている国は、スリランカ、ザンビアに続き、パキスタン、ケニア、ラオス、タジキスタンなどが再編候補とされている。いずれも、筆頭債権国は中国である。これら各国が、抱える債務総額と中国の貸出総額をみておきたい(省略)。

     

    なぜ、「中国が筆頭債権国」にみえるのか。これには、次のような事情も影響している。

    1)二国間債権(政府と政府との融資契約)としては中国が最大 であることだ。ただ、スリランカのように「市場債(ISB)」(発行後に市場で売買される債券)が最大のケースも多い。

     

    2)中国債務はインフラ案件に集中し、返済負担が重い こと、これは、 金利が高く、返済期間が短い。詳細は後述。

     

    3)透明性が低く、債務の実態が見えにくい こと。「中国債務は不透明」と指摘されている。特に、二国間債権では国会への報告すら禁じるという徹底的な秘密性を約束させる。

     

    ここで、中国が「債務の罠」として批判されている「二国間債権の特徴」について説明を加えておきたい。まず、政治的条件が付く(港湾権益・資源権益・外交姿勢など)ことである。これは、一帯一路が何を狙っているかをこれほど明確にしているものはない。港湾権益・資源権益などは、明らかに融資に当たり返済を期待せず、担保を抑えることを狙っている。スリランカでは事実、ハンバントタ港湾の権益確保で99年の租借契約を結ばせた。これがその後、中国の経済的な負担を重くしている。

     

    スリランカのハンバントタ港湾は、いわゆる「インドの首飾り」と言われるように、インドを取り囲む基点となっている。パキスタン(グワダル港)→ミャンマー(チャウピュー港)→バングラデシュ(チッタゴン港)だ。これがインドを包囲する形で並んでいる。国境問題で対決するインドを牽制する布陣である。だが、収益的には極めて悪条件下にあり、中国の不良債権を増やす予想外の結末を招いている。(つづく)

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    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

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    8年半ぶりとなるトランプ米大統領の訪中は、戦後国際秩序の中でどんな意味を持つのか。米国は経済問題が焦点であるが、中国は台湾問題で米国の譲歩を狙っている。少しでも言質を引出て、台湾を揺さぶり習氏自らの業績にしたいところだ。ルビオ米国務長官は、すでに「台湾問題は従来と変わらず」と言明している。中国は、会談中の小さな「脱線」も針小棒大に扱うだろう。神経戦の訪中になろう。

     

    『ロイター』(5月13日付)は、「首脳会談に向けた米中の思惑 『中国の狙いは台湾だけ』=CIGSの峯村氏」と題する記事を掲載した。

     

    米中首脳会談が迫る中、日本や台湾を含む東アジアの当事者の間に様々な期待や懸念が広がっている。キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)上席研究員兼中国研究センター長の峯村健司氏は12日まで、米国や台湾を訪れ政府高官らと意見交換を重ねた。トランプ米大統領の訪中は、戦後国際秩序の中でどんな意味を持つのか。習近平国家主席の思惑とは。日本が取るべき対応を含め、峯村氏の分析を聞いた。

     

    (1)「2017年、トランプ氏の初訪中では、中国企業による対米投資や米国製品の大量購入などが盛り込まれた総額約2500億ドル規模の商談がまとめられた。トランプ氏は当時とても喜んだが、中国はあまり合意を履行せず、米国内の対中強硬派の意見などもあり、結局貿易戦争が始まってしまったという経緯がある。今回は同じ轍を踏まないよう、米国は中国との間で貿易委員会を立ち上げ、例えば農作物やボーイングの飛行機などを中国が着実に購入するという仕組みを整えることになる。トランプ氏は今回、現在の対中貿易赤字をいかに減らすかということしか考えていない」

     

    米国は、対中貿易黒字の縮小を会談の最大目的にしている。中国は、一時的な約束をしても守らないので、貿易委員会を立ち上げてフォローさせる戦術だ。中国を縛り付けるのだ。

     

    (2)「非常に危ないことは、米中間の事前協議で台湾のことについて話し合っていないことだ。むしろ台湾についてはあまり持ち出さないようにしようというのが米側の思惑になっている。一方で、中国にとっては、米国から引き出したいもの、狙いは台湾だけと言っていい。習近平国家主席としては、事務方で事前にすり合わせをしていない中で、会談で直接トランプ氏から台湾について譲歩を引き出そうとしている。これは習氏も1期目から周到に準備してきたシナリオであり、成功させることに相当の自信を持っていると言っていい。要するに、台湾をカネで買うということだ。トランプ氏に対して、米国の農作物や製品をたくさん買うから、その代わりに台湾については譲歩しろと」

     

    米中は、台湾問題についての予備交渉をしていない。トランプ氏は、台湾への武器輸出については話し合うかも知れないとしている。ルビオ国務長官は、「従来と変わらず」と言明した。米国は、貿易と台湾は別問題という姿勢である。だから、事前の調整項目にならないのであろう。注目点は、中国が過去にルビオ氏の入国禁止令を出していたことだ。今回は、それを不問せざるを得ない「弱点」を露呈した。

     

    (3)「台湾側が最も恐れているのは、トランプ氏があまり考えずに台湾について何らかの発言をし、中国側がそれを使って「米国が譲歩した」というキャンペーンをやることだ。もう一つが、台湾議会で可決された米国からの武器輸入について、実際に武器が来ない状態になること。そうなると、台湾は完全に米国に梯子を外された格好になってしまう」

     

    中国は、「針小棒大」に宣伝することに長けている。トランプ氏が、台湾絡みの「失言」を誘い出す戦術を取るかもしれない。ここが、警戒点とされている。中国は、台湾に対してこの程度のことしか仕掛けられないとすれば、台湾の主導権は完全に米国側にある。

     

    (4)「中国にはもう一つの思惑がある。それは、今回はあまり結果を急がないということだ。今年は今回の会談を含めて最大4回(今回、習氏の訪米、アジア太平洋経済協力会議、主要20カ国・地域首脳会議)、習氏とトランプ氏が会談する機会がある。その4回でじっくりと妥協を引き出せばいいわけで、今回はとにかくトランプ氏を喜ばせるだけ喜ばせるというのが、中国側の策略でもある。だから、最上級のもてなしをするわけだ」

     

    今後、トランプ・習の会談は最大4回開かれる機会がある。中国は、この機会を狙って「失言」を誘い出す戦術かも知れない。ただ、「失言期待」とは中国も落ちぶれたという印象を与えよう。正攻法では、勝てないという状況認識であるからだ。

     

    (5)「1971年のキッシンジャー訪中以来、台湾は米中の密約の歴史をたどっている。今回もそれが繰り返される可能性があるし、米中双方が表向き発表していることを信用してはならない。仮に今回の会談で台湾について大きな合意がなかったという発表になったとしても、それを信用すると大変な痛い目に遭うということだ。こうした状況で日本がすべきことは、米国に対し「習氏に騙されず、しっかり日米同盟に回帰するべきだ」と強く伝えることだ。「経済的な利益もイランの説得も中国による一時的な目くらましであり、習氏の狙いは戦後の国際秩序をひっくり返すことにある」と。

     

    客観的に言えば、中国は経済的に絶望的状況に置かれている。この中で、「台湾奪取」など妄想というほかない。トランプ氏の「失言待ち」とは、なんとか一矢報いたいということであろう。中国が、追い詰められた状態を示している。

    あじさいのたまご
       

    出光興産は12日、国内の製油所閉鎖の撤回を正式に発表した。石油需要の減速が緩やかなうえ、イラン軍事衝突でエネルギー安全保障上の重要性が高まった結果だ。具体的には、ASEANが先の首脳会議で、日本の「POWER Asia」(100億ドル支援)による原油政策へ乗り出すことを決めたことを受けた結果とみられる。出光は、閉鎖予定の製油所を中止してASEAN向けを請負うのであろう。

     

    日本経済新聞』(5月13日付)は、「出光『国内精製守る』鮮明に 製油所閉鎖撤回を表明 操業維持へ投資3割増 エネ安保で現実路線に」と題する記事を掲載した。

     

    出光興産は、30年までの中期経営計画を発表した。過去最大の1兆8000億円を30年度までの5年間で投じる。そのうち5900億円は、製油所を中心とした事業にあてる。製油所の操業維持に関わる投資は前回の中期計画と比べて3割増やす。出光は、日本の全製油所19カ所のうち6カ所を持ち、全拠点を30年までは稼働させる。

     

    (1)「製油所は、輸入原油からガソリンや軽油、重油など燃料をつくる機能を持つ。加えて日常生活に不可欠な基礎化学品の原料「ナフサ」の供給源となってきた。日本では元売り各社が海外原油から石油製品を自前でつくる「消費地精製主義」を守る。輸入燃料に頼らずに、有事には石油から需要に応じて生産できる。一方、製油能力が不足するフィリピンやベトナム、インドネシアなどでは供給不足が生じた。オーストラリアも輸入比率が高いため燃料供給に混乱が生じた」

     

    出光の「国内精製維持」は、ASEAN支援の「裏側の条件」である。出光は、製油所閉鎖を撤回、国内精製能力を維持、投資を3割増、エネ安保を理由に現実路線へ転換した。これは単なる出光の企業判断ではない。日本が、ASEANに100億ドルの石油調達支援を約束した以上、 日本自身が「精製能力を維持していること」が前提条件になるからだ。

     

    なぜなら、ASEANは原油を買っても、精製能力が弱い。日本は、「精製+品質保証+物流」を担う立場である。日本が精製能力を落とすと、ASEAN支援の信頼性が崩れるのだ。つまり、出光の決断は、日本のASEAN石油安全保障の裏打ちである。

     

    (2)「日本エネルギー経済研究所の大森嘉彦理事は、「石油製品の安定供給のために適正規模の精油能力を維持すべきだ」と指摘する。日本は原油の95%を中東に頼る。出光は、南米や北米などからの代替調達を急ぐが、適した製油所は産地ごとに異なる。酒井則明社長は、「少しでも製油所の数がある方が、それぞれの地域の原油の性状に合わせた運転ができる」と説明した。ホルムズ封鎖が解かれても、各社が原油調達を多角化する流れは続く見通しだ」

     

    日本は、世界各地から原油を調達している。それぞれの特性に合わせた製油所が必要である。この意味で、数多い製油所を持つことのメリットが出てくる。

     

    (3)「出光は、30年までに原油処理能力を日本全体の1割にあたる日量30万バレル減らす計画を22年に打ち出した。12カ所の閉鎖を想定していた。政府が掲げた30年に温暖化ガスを46%減らす目標に沿う表明だった。想定より脱炭素への移行が遅れ、米国・イスラエルのイラン攻撃で状況は一変した。石油運搬の要衝であるホルムズ海峡が事実上封鎖され、安全保障上の化石資源の重要性が再認識された」

     

    日本の100億ドル支援は、「原油の確保」だけではない。POWER Asia(100億ドル支援)は、4つの柱で構成されている。①原油調達の金融支援、②中東との長期契約の仲介、③共同備蓄・緊急融通の制度設計、④精製・品質保証・物流の日本側サポートだ。この4番目が極めて重要で、 日本の精製能力が「ASEANの石油安全保障の後ろ盾」になる。だから出光は閉鎖を撤回したのだ。

     

    出光の決断は、「日本がアジアの石油中枢になる」ための布石である。日本は今、静かに 「アジアの石油・エネルギーの司令塔」になりつつある。その条件は3つある。①中東との強固なパイプ、②ASEANへの金融支援(100億ドル)、③国内の精製能力の維持(出光・ENEOS)である。この3つが揃うと、 ASEANの石油フローは日本を経由する構造になる。出光の決断は、この構造の最後のピースだ。

     

    (4)「資源に乏しい日本にとって、国内製造できる石油代替技術はエネルギー安全保障の観点から重要になる。出光は需要に合わせて生産できる体制を整える。同社は3月に中計を発表する予定だったが、中東情勢を受け延期した。安全保障の観点も踏まえつつ計画を点検。当初戦略の方向性は妥当と判断し、内容は大きく見直さずに公表した」

     

    日本は、資源に乏しい「資源大国」の立場になった。多くの製油所を持ち、世界各国から原油を調達する能力(商社・輸送・保険・金融)でずば抜けている。これが、資源に乏しい資源大国へ押し上げた。ASEANの石油製品まで「面倒」みることにより、日本の経済圏が広がることになった。大きなメリットになる。 

     

     

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