勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国は、高学歴化社会である。4年制大学進学率は、64、69%(2020年)で、世界2位である。とりわけ、医師志望が顕著である点で世界でも異色だ。医師希望の理由が、高収入で定年と無関係と極めて「俗っぽい」点にあるように、「医は仁術」という崇高な意識でないのが気懸かりな点である。これは、韓国の就職事情と深く関わっている。ホワイトカラーが就職難である一方、ブルーカラーが人手不足というミスマッチを引き起している。労働力配分の「平準化」が起こらないという不思議な構造になっている。雇用の二重構造が起こっている。これが、韓国最大の弱点である。

     

    高学歴者の就職難は深刻である。大学を卒業して就職できるまでの期間が、平均で14ヶ月もかかるのだ。終身雇用制によって、転職市場が未発達であるのも大きな要因であろう。第一志望でなくても、とりあえず第二志望の企業へ就職し、機会をみて転職する選択もある。韓国では、こういう選択をしないのだ。大企業・公企業・公務員が最大の就職希望先である。大卒は、他を「雑魚」扱いで見向きもしないのである。

     

    こういう労働のミスマッチが起こっている中で、AI(人工知能)は、労働力不足を補うとの認識だけが一人歩きしている。

     

    『中央日報』(9月16日付)は、「製造業人員不足の韓国』AIを活用すべき、『100年企業』CEOの助言」と題する記事を掲載した。米国ハネウェルのヴィマル・カプール最高経営責任者(CEO)の発言だ。

     

    AIは産業界で確実にチャンスだ。我々はAIソリューションを通じて企業がさらに効率的に意思決定ができるようサポートしている。

     

    (1)「企業の生産性はAIで高まる。もちろんソーシャルメディアや個人に及ぼすマイナスの要素は懸念すべき点だが、ビジネスの観点でAIの利点は確実だ。我々はAIソリューションをビジネス全般に拡大するために生成AI委員会を設置した。特に韓国では製造業の人材不足現象が深刻化している。AIが、労働力不足問題の解決に一定レベルで役立つと考える

     

    韓国では、製造業の人材不足が深刻化していると指摘している。一方では、大学卒が就職できるまでに平均して14ヶ月もかかっている。このギャップは、韓国経済全体にとっても大きな損失である。韓国は、国を挙げてこの問題を解決しなければならないにも関わらず、そのような動きは皆無だ。他国のことながら、なんとかならないのかと心配するほどである。ハネウェルのヴィマル・カプールCEOは、こういう韓国特有の事情をご存じないから、「AIが、労働力不足問題の解決に役立つ」という原則論を掲げているのだ。

     

    『中央日報』(9月15日付)は、「ある自営業者の男湯乱入 韓国の自営業者の実状短く強く残す」と題するコラムを掲載した。

     

    かつては百貨店に勤務して自営業者が、なぜ大企業を辞めて自営業になったかを語っている。日本では、あり得ないケースであろう。

     

    キム・ドンヒさんは現在、クレジットカード配送業者です。彼の1日の稼ぎは、携帯電話にかかっています。彼は自営業者です。昔は会社員でした。クレジットカード配送料は、「1件当たり1000ウォン(約106円)なので時間がお金」としながら忙しく働いている。

     

    百貨店で昇進できず名誉退職(注:自主退職)を選んで、衣類の自営業に飛び込んだ。突然、営業資金の出し手が資金を引き揚げて倒産した。5年前のことだ。それからが茨の道だ。クレジットカード配送業者に転じた。

     

    韓国では、名誉退職が50代に起こっている。解雇ではなく、「このたび一身上の都合で」という退職願を出した退職である。他企業への転職でなく自営業へ転身する。日本では、ちょっと考えにくいケースだ。大企業から自営業へという変化が、韓国の雇用構造の歪みを示している。中間項がないのだ。韓国では、製造業にAIを導入する以前に、雇用のミスマッチを解決しなければならないのだ。

     

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    グローバル企業の多くが、投資先として中国の優先順位を引き下げ、事業を整理統合している。主な理由は景気減速と利益率の低下である。先週発表された在中国欧州連合(EU)商工会議所と在上海米国商工会議所による二つの報告書は、こうした先行き不安な投資動向を浮き彫りにした。中国は、もはや「世界の工場」の地位を失い始めた。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月16日付)は、「外資の中国離れ鮮明、投資意欲が後退」と題する記事を掲載した。

     

    在上海米国商工会議所の鄭芸(エリック・ジャン)会頭は、「中国でビジネスを行うリスクはここ数年で高まり、それと同時に市場が減速している」と、こう述べた。同会議所のアンケート調査によると、本社の最重要投資先が中国だと答えた企業の割合は、25年前に年次調査が始まってから最も低い水準に落ち込んだ。

     

    (1)中国も既に気づいている。上海市政府は8月、最も切迫した経済課題の一つは「フルーツチェーン」(果物のサプライチェーン)の空洞化だと述べた。これは米アップルが、一部の電子機器の生産拠点をインドやベトナムなどに分散する動きを指す。こうした決断を後押しするのは、長引く経済の低迷に加え、国内競争の激化、地政学的緊張、アジアの代替生産地が台頭していることだ。欧米の商工会議所によると、もはや中国市場の利益率が他市場を上回るわけではないという」

     

    中国撤退の象徴的な事例は、アップルが、一部の電子機器の生産拠点をインドやベトナムなどに分散していることだ。アップルが、生産拠点の分散を始めたことは、地政学的リスクの重視である。

     

    (2)「米小売り大手ウォルマートは先月、8年前から保有していた中国電子商取引大手、京東商城(JDドットコム)の株式を36億ドル(約5100億円)で売却した。米IBMは中国にある研究開発拠点を閉鎖することを決め、1000人余りの雇用に影響する見通しだ。自動車メーカー各社は中国事業の縮小を進めている。今や乗用車市場の6割近くを中国車が占めるからだ。中国で販売される新車は、今夏の時点で大半が電気自動車(EV)かプラグインハイブリッド車(PHV)となっており、外国自動車メーカーが長く優位を保ってきた純粋なガソリン車ではない」

     

    米ウォルマートは、京東商城(JDドットコム)の株式を売却した。株価の上昇が見込めなくなったからだ。

     

    (3)「日本のホンダは最近、中国3工場を一時稼働停止にしたほか、希望退職を通じた人員削減も進めている。ホンダの中国での4~6月期新車販売台数は、前年同期比32%減の20万9000台にとどまった。2023年の中国に対する外国直接投資(FDI)は人民元ベースで前年比8%減少した。国連のデータによると、中国よりはるかに人口が少ないインドネシアは「グリーンフィールド投資」を呼び込んだ額で上回っている。グリーンフィールド投資とは、新しい施設を一から作り上げることを指す」

     

    中国自動車市場は、政府補助金を得た地元企業が、大乱売合戦を続けている。外資系企業もこれに巻き込まるほどだ。中国よりも人口の少ないインドネシアは、外資系企業が投資を盛んに行っている。地政学リスクのないことが投資を促進させている。

     

    (4)「もちろん、大半の企業は中国から完全に撤退するわけではない。大多数は既存事業を継続させようとしており、中には、中国の技術を常に把握していれば自らの競争優位を磨くことに役立つと話す企業もある。ウォルマートは、会員制倉庫型店舗「サムズクラブ」の中国での出店数を増やしている。EU商工会議所が5月に実施した年次調査では、15%の企業が中国を最重要投資先だと答えた。そう答える企業は長年にわたり20%前後だった。米国商工会議所が実施した別の調査では、回答した企業306社のうち約20%が今年は中国への投資を減らすと答えた。景気減速への懸念や、インドやベトナムなどに投資を振り向ける動きを理由に挙げた」

     

    ウォルマートは、会員制倉庫型店舗「サムズクラブ」の中国での出店数を増やしている。低販売合戦で勝てる見込みがあるのだろう。

     

    (5)「多国籍企業は10~20年前に、豊富な安い労働力と人口14億人が秘める購買力に引かれ、中国に大挙して押し寄せた。内需が回復すれば、中国は多国籍企業の投資先の優先順位でトップに返り咲くだろう、と在上海米国商工会議所のアラン・ガボール会長は言う。「それは経済の問題だ。需要サイドの要因がより大きい。企業は中国のために中国にいる」と指摘する」

     

    中国は内需が回復すれば、多国籍企業の投資先として復活するだろう。問題は、その可能性があるかだ。習氏の経済政策が、転換しない限り不可能である。

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    16日午後22時過ぎ、ドル円相場は一時140円を突破して「円買い」勢力が強くなっている。この結果、市場では年内に135円や137円といった声が聞かれるほどだ。目先の関門は、17~18日にFRB(連邦準備制度理事会)が利下げ幅を0.25%か0.50%にするかによって、円相場の動きは異なる。今回の利上げが、米国の中立金利を早く4%以下にする政策意図があれば、0.5%利下げもありうるという。微妙なところである。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月13日付)は、「FRBの利下げジレンマ『大きく始めるか小さく始めるか』」と題する記事を掲載した。 

    米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、FRBが17~18日の利下げに備える中、難しい判断を迫られている。それは小さく始めるか、大きく始めるかということだ。 

    (1)「FRBは、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で2020年以来となる利下げに踏み切ることが確実な情勢だ。FRB当局者らは、今後数カ月間に複数回の利下げを実施できるとの自信が高まっていることを示唆しているため、利下げ幅を伝統的な0.25ポイントにするか、さらに幅広い0.5ポイントにするかという問題に直面している」 

    .25%か、0.5%の利下げか。市場は固唾を飲んで見守っている。

     

    (2)「来週のFOMCで公表される四半期に一度の経済見通しが、問題をさらに複雑にする可能性がある。この見通しは、当局者が年内に何回の利下げを予想しているかを示す。FRBは年内にあと3回の会合を残している。来週と11月と12月に1回ずつだ。市場はFRBが年内に1ポイントを超える利下げをすると見込んでいるため、それよりも小幅な見通しが示されれば、市場の期待が後退して金融環境が引き締まり、FRBがまさに利下げしようとしている時に借り入れコストが上昇しかねない」 

    市場は、年内1%の利下げを見込んでいる。この想定が崩れると金利が跳ね上がるリスクが生まれる。市場との対話を重視するFRBが、市場の期待を裏切れないであろう。 

    (3)「FRBは通常、0.25ポイントの幅で動くことを好む。小幅の調整であれば、政策変更の影響について調べる時間を多くとれるからだ。一部の当局者は、景気が一層減速しているように見えるようになってからペースを上げる方が良いとの見方を示している。一方で、11月と12月に0.5ポイントの利下げが実施される公算が大きいと考えているのなら、金利が最終的な目標からより遠い今こそ動くべきだ、と当局者が結論付ける可能性もある。現・元当局者によると、より小幅で始めることを支持する意見は、経済が基本的に好調だとみなしている。彼らは、0.5ポイントで利下げを始めると、経済についてより大きな警告を発することになり、市場がより速いペースの利下げを見込むようになる可能性があると指摘する。それは市場が上昇するきっかけとなり、インフレとの戦いを終えるのをより困難にする恐れがある」 

    利下げが、0.25%から始まれば社会は安心する。だが、0.5%から入ると、景気が危ないのかと警戒観を持つようになるので、さらなる大幅利下げを求められると危惧する。

     

    (2)「FRBが、広範なコンセンサスの形成を好むことや、大統領選直前に通常より大幅な利下げを行う理由の説明が難しいことを考えれば、0.25ポイントの利下げから緩和を始めるのが最も抵抗感の小さい手法になる。2011~2023年にカンザスシティー地区連銀総裁を務めたエスター・ジョージ氏は「0.25ポイントが最初の利下げとしてはやりやすい」と指摘。「『しばらくは金利を高めに維持するとか、経済がさらに弱まるように見えればもっと積極的な利下げができるとか』言うことができる」と語った」 

    11月の大統領選を控えて、0.25%利下げが穏当としている。 

    (3)「通常より大幅な利下げで緩和をスタートさせるのを正当化する主な理由は、これまでの利上げで成長がさらに鈍化するリスクに対して保険をかけるというものだ。現在ジョンズ・ホプキンズ大学金融経済学センターの研究員を務めているファウスト氏は「今われわれは、予防的な0.5ポイントの利下げを声高に求めるような状況にないと思う。しかし、私個人としては0.5ポイントの利下げから始める方がやや好ましいと思う。私は依然、FOMCでもそうした決定が下される可能性は十分あると思っている」と語った。ファウスト氏は、FRBが大幅利下げに踏み切る場合、「それを怖く見せないために、多くの文言を」費やすことで、投資家をおびえさせかねないという懸念を抑制できると思うと述べ、「それが不安な状況の兆しになってはならない」と付言した」 

    .5%利下げが、先行き経済を悲観しているのでないことを十分に説明して行うべきである、としている。

     

    (4)「ファウスト氏はまた、年内に計1.00ポイントの利下げがあるとの見通しを何人かのFRB当局者が示すと思うと語った。その場合、0.25ポイントの利下げからスタートすると、その後今年末までにより大幅な利下げを予想しているのに、なぜ初回にそれをしなかったのかという、変な疑問を生じさせるリスクが出てくるという。 

    年内に1%ポイントの利下げ論が有力である。この場合、初めに0.5%引下げ後2回で、0.25%づつ引下げれば理屈にあうとしている。 

    (5)「2009年から2018年までニューヨーク地区連銀総裁を務めたウィリアム・ダドリー氏は、FRB当局者がそうだと考えていると述べている通りに、本当にインフレ率上昇と労働市場軟化の間でリスクが均衡しているなら、FRBは金利を中立的な水準により大きく近づけたいはずだとの見方を示した。すべてのFRB当局者が中立金利は4%を下回るとみていることをふまえると、0.25ポイント刻みの利下げは理にかなっていない。同氏は「論理的には、より速いペースで引き下げる必要がある」と述べた」 

    FRBが、中立金利(好不況に関係ない金利水準)を4%以下にする計画ならば今回、0.5%利下げしてその意思を見せるべきとしている。

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    中国のダンピング輸出が、韓国の重厚長大産業を揺さぶっている。中国経済は、不動産バブル崩壊による内需不振によって、過剰生産問題に陥っている結果だ。韓国も、この影響を大きく受けている。韓国は、これまで対中貿易が「ドル箱」であったが逆転した。 

    『ハンギョレ新聞』(9月13日付)は、「中国の供給過剰に『韓国経済の中枢』製造業が傾く」と題する記事を掲載した。 

    韓国経済の中枢を支える「重厚長大」産業が一斉に危機に直面しているという警告音が大きくなっている。中国企業の生産過剰および輸出拡大で、韓国の相当数の製造業種にネガティブな影響が及んでいるというのが骨子だ。このような中国の供給過剰は外部の構造的な問題であるため、その衝撃も長期化しうるという懸念も大きい。

    (1)「LG化学は、今年上半期の石油化学事業で上げた営業利益は、約12億ウォン(約1億2700万円)。上半期の会社の利益全体の0.2%に過ぎない。2022年には同事業利益は1兆ウォン(約1060億円)に迫る規模だったが、業況が180度変わった。サムスンSDIは10日、偏光フィルム事業を中国メーカーに1兆1210億ウォン(約190億円)で売却することにした。中国企業の攻撃的な低価格競争で収益性が悪化し、事業売却を決めたのだ。ポスコの子会社であるポスコフューチャーMも先日、OCIと合弁で設立した二次電池の素材企業であるP&Oケミカルの持分をすべてOCI側に売却することにした。中国の供給過剰などによって本業である鉄鋼と二次電池の業況に影が差し、経営を引き締めることにした」 

    韓国の主要産業である化学工業が、中国のダンピング攻勢で大揺れである。中国との合弁事業の出資持分を中国側へ売却して撤退を余儀なくされている。

     

    (2)「韓国の信用評価会社「ナイス信用評価」は11日、「深まる中国の供給過剰と信用危機」と題するセミナーを開き、「中国の供給過剰が続き、韓国の主要事業の環境も厳しくなるものと見通される」と指摘した。具体的に、鉄鋼・石油化学・太陽光・ディスプレイ・電気自動車(EV)・二次電池など6つの主要業種の需要と供給条件が韓国企業に不利だと予想された。中国製を含めた製品の過剰供給が需要を大幅に上回り、価格下落など企業の実績に悪影響を及ぼすだろうという話だ。特定の要因が国内の製造業全般に衝撃を与えるという懸念が提起されるのは異例のことだ」 

    中国のダンピング攻勢で、韓国は鉄鋼・石油化学・太陽光・ディスプレイ・電気自動車(EV)・二次電池など6つの主要業種が不利な状況へ追込まれそうである。韓国製造業を支える主要分野だけに看過できない問題である。韓国政府は、関税引き上げを具体的に検討すべきであろう。

     

    (3)「ハナ金融経営研究所も6月、報告書を通じて「中国が2024年に入り半導体、自動車、造船、太陽光など主要品目の価格をさらに引き下げたことで、当該品目の輸出量が前年同期に比べ40~60%急増した。多くが韓国の輸出品目と重複しており、韓国が最も大きな打撃を受けるものと予想される」と述べた。中国の事情に詳しいある証券会社の研究員は「最近は中国の内需が崩壊しているが、中国政府は内需浮揚の代わりに製造業育成に政策焦点を合わせ、過剰供給がますます激しくなっている」とし、「すでに中国製品の品質がかなり高くなっているため、相当数の品目で韓国製との競争が避けられない状況」だと指摘した」 

    中国は、24年にはいって半導体、自動車、造船、太陽光などの輸出価格を40~60%も引下げている。もはや常識を超えた状態だ。これは当然、韓国の関税率引上げを正当化する理由になる。

     

    (4)「実際、LG化学やロッテケミカルなど石油化学企業の実績悪化を招いたのは、中国が「自給率の向上」を掲げて自国製品の生産を大きく増やし、韓国製品の輸入が減ったことが大きく影響した。この5年間、中国の石油化学の基礎原料であるエチレンの増設規模は約2600万トンで、韓国の生産能力の2倍に達する。中国政府の補助金のおかげで高速成長した太陽光とディスプレイ、内需の消費規模の2倍余りにのぼるEVバッテリーの余剰生産量などもグローバルな価格下落を招き、ハンファソリューション、LGディスプレイなど韓国企業の業績悪化につながっている」 

    中国は、石油化学の基礎原料であるエチレンの増設によって、韓国の生産能力の2倍に達している。こうしてコストを切下げる一方で、ダンピング輸出で攻勢をかけられたら、韓国企業は対抗困難である。 

    (5)「先日、構造調整に着手したドイツのフォルクスワーゲングループとは異なり、実績好調を見せている現代自動車・起亜など韓国の自動車部門も「安全地帯」ではない。ナイス信用評価のホン・セジン研究員は「内燃機関自動車の電動化が加速し、中国車のグローバルシェアが高くなれば、新興国を中心にEV部門の競争が激しくなるだろう」とし、「長期的に原価競争力を備えた中国製のEVがグローバル競争を深める危険要因として作用しうる」と指摘した」 

    中国製EVが、低価格を実現しているのは電池の生産コストが低いことだ。原料にリチウムを使わないでコスト切下げを実現した。この製法は、他国も採用し始めている。トヨタ自動車は、中国製EVへ真っ向から対抗する。26年から新方式の電池(全固体電池ではない)を採用した高性能電池(航続距離1000キロ)を登載した新型EVが登場する。世界のEV地図が、塗り変わるであろう。

     

     

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    困った隣国が現れたものだ。中国は、アジアの軍事覇権を確立すべく、日本の防衛能力に探りを入れている。最近は、意図的に領空侵犯を行い日本の反応をみたのだ。中国にとって日本は「目の上のたんこぶ」である。日清戦争で大敗したことがトラウマになっており、日本への雪辱に燃えている。中国が、尖閣列島で執拗なまでの領海侵犯を続けている背景は、国内向けのジェスチャーである。「強い中国」を演出しているが、危ない振る舞いだ。いつ、「実戦」へ移行するか分らない不気味さを抱えている。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月11日付)は、「太平洋での米国の重要な第1防衛線」と題する寄稿を掲載した。筆者のジョン・ボルトン氏は、2018~19年に米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、2005~06年に米国連大使を務めた。 

    中国が最近行った日本の領空・領海への侵入は、インド太平洋地域の国々を威嚇して支配しようとする中国政府の取り組みを著しくエスカレートさせている。これに対して日本政府は、こうした侵犯行為に対する検知能力を強化するため、数千億円規模の衛星網整備計画を発表した。中国の「漁船」は過去に、日本・台湾・中国が領有権を主張している尖閣諸島周辺を定期的に航行した。その後、中国の海警局船や軍用艦船が現れるようになり、中国政府の強硬姿勢が強まった。

     

    (1)「中国の海洋進出はエスカレートしているが、同国はそれ以前から台湾の領空・領海に侵入し、南シナ海の大半の領有権を主張していた。係争中の島や浅瀬、岩礁を巡る中国海軍とフィリピンとの衝突は大きく報じられた。ベトナムなどの国も頻繁に中国の挑発を受けている。これらはいずれも偶然の出来事ではない。中国政府は間違いなく第1列島線の支配権を勝ち取ろうとしている。このさまざまに表現されてきた地勢図は、カムチャッカ半島から千島列島、日本、尖閣諸島を経て台湾、フィリピン、そしてボルネオ島とマレー半島にまで至る。米国の次の大統領は、中国のこうした好戦姿勢から導かれる戦略的な結果に向き合わざるを得なくなるだろう」 

    中国は、カムチャッカ半島・千島列島・日本・尖閣諸島を経て台湾・フィリピン、そしてボルネオ島とマレー半島を「国防圏」としている。戦時中の日本が、「絶対国防圏」していた模倣である。中国は、前記の地域を支配下に収めようとしている。思い上がった振る舞いだ。その経済力が消えつつあるにもかかわらず、野望だけが残っている。 

    (2)「中国が第1列島線に沿った全域で圧力をかけている中で、その影響を受けている日本や台湾などの国・地域と米国との現行の2者間協力は、明らかに不十分になっている。標的となっている国・地域でそうした取り組みが行われなければ、中国にとって第1列島線のどこかに情報網や防衛網の継ぎ目を見つけることは、はるかに簡単になる。中国が第1列島線を1カ所でも突破すれば、この線上や太平洋にある他の国々がより大きな危険にさらされることになる。各国・地域の領空・領海の保全には多国間協力、特に日本、韓国、台湾、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドの空・海軍と情報機関の協力が必要であることを米政府は認識すべきだ。利害関係の大きさを考えれば、他のアジア・太平洋諸国や、英国など欧州の重要な同盟国を巻き込むことが極めて重要かもしれない」 

    中国は、日本がなぜ太平洋戦争で敗れたかという教訓生かしていない。やたらと広い地域へ圧力をかければ、これら国々が結束して対抗することを忘れている。清が、周辺地域を併合した時代背景と現代とでは異なるのだ。

     

    (3)「そうした協力に、北大西洋条約機構(NATO)の東アジア版の創設や、中国を封じ込める決断の受け入れは必要ない。少なくとも今の段階では、だ。それでもなお、第1列島線に沿って、早急に複数の国と地域で、より断固たる対応を取ることが必要だ。幾つかの分野では既に多国間協力が行われているが、もっとなされなければ、中国が他の国・地域を互いに対立させ、周辺で好戦的な活動の調整をし、自国の利益を推し進めようとするだろう」 

    日本がリードしたインド太平洋戦略は、中国の野望を食止める上では重要な防波堤になる。これを砦にして、米国・日本・豪州・フィリピン・台湾が共同歩調を取ることだ。 

    (4)「誰も触れたがらないが、極めて重要な場所は台湾だ。台湾を失えば、中国に脅かされている他の国・地域が、平和を乱す中国の行動を効果的に排除できる可能性はほとんどなくなる。現在の状況下で米国の支援を求めているのは台湾ではなく、台湾と同じくらい支援を必要としているこの地域の国々だ。ダグラス・マッカーサーが「沈むことのない空母」と評した台湾の実質的支配権を中国に渡してしまえば、第1列島線が決定的に突き破られることになる。ましてや、中国が台湾を併合すれば、こうした状況は一層深刻になる。台湾を巡るジレンマについて、中国をいら立たせる対応はいろいろある。しかし、中国が政治的危機を起こす決意を固めない限り(その場合はそれ自体が敵対的意図の表明となるが)、こちらからあえて危機を誘発する必要はない」 

    台湾は、民主主義の防衛の要である。ここを失えば、中国は太平洋を支配下に収めるべく、米国の権益を奪うにちがいない。米国にとっても死活的な問題になろう。米国の世界覇権は、著しく低下する運命だ。

     

    (5)「中国は、アジア太平洋諸国に対する影響力を強化し、情報収集の取り組みを拡大するとともに、領空・領海への侵入を増やすだろう。侵入のペースと範囲を決めるのは同国政府であり、そのことは中国の標的となっている国々が協力を強化する必要性を明確にする。それだけでも抑止力を高める効果を持つが、われわれには時間を無駄にする余裕はない」 

    現状は、中国が米国覇権へ挑戦する準備期である。日に日に衰える、自国経済力の低下に焦りながら「一か八か」の大勝負に出るか。自重するか。アジアの諸国が結束することで、中国への抑止力を高めるほかない。

     

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