勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    習近平国家主席は夜、独りになったとき何を考えているだろうか。頻繁に人事権を発動しているからだ。市場は、予測不可能という事態を最も嫌う。この習性から言えば、中国は投資対象ではない。

     

    『ブルームバーグ』(9月21日付)は、「中国の不安定化巡り懸念強まる、相次ぐ高官更迭ー習氏が自ら抜てきも」と題する記事を掲載した。

     

    中国の習近平国家主席が昨年の共産党大会で最高指導部に側近を登用した後、習氏の新たなチームによって同国の大きな課題への取り組みがより円滑に進むと、一部の中国ウオッチャーは期待していた。

     

    (1)「習政権は混乱の様相を呈している。習氏は7月に秦剛氏を外相から突然解任し、その約2カ月後には李尚福国防相の更迭が報じられた。さらに習氏は、核兵器を管理する人民解放軍ロケット軍の指導部も何の説明もなく刷新。外部から見て中国は不安定化しつつあるようにも思える。ほとんどのアナリストは、毛沢東初代国家主席以来、最も強力な指導者となった習氏への脅威はないと考えているが、同氏の政権運営スタイルについて疑念が浮上している」

     

    習氏が、頻繁に人事を発動しているのは不安の表れであろう。自らつくった政敵が、いつ対抗してくるか。そういう懸念もあるのだろう。だから、少しでも気になれば解任にするに違いない。

     

    (2)「ローウィー研究所(シドニー)の上級研究員で、「中国共産党 支配者たちの秘密の世界」を執筆したリチャード・マクレガー氏は、中国で高官の更迭がこれほど多いのは1980年代の改革期以来で、習近平体制の「不透明さと残忍さ」を露呈していると指摘。「失脚したのは習氏自身が抜てきした人物だ」と説明した。こうした混乱は投資家や各国政府を驚かせ、ハイテクや教育などの部門に対する何年もの厳しい締め付けを経て、中国への投資は安全だと説得を図る政府の取り組みを台無しにしている」

     

    1980年代の改革期以来で、中国で高官の更迭がこれほど多いのは初めてという。中国は肝心の経済が不調である。これが、あちこちに波及して不満と不安を広げているのだ。外国人投資家としては、最も警戒すべきシグナルになる。

     

    (3)「ロンドンに本拠を置く中国専門の調査会社エノド・エコノミクスのチーフエコノミスト、ダイアナ・チョイレバ氏は、「『宮廷政治』が中国の差し迫った経済問題への取り組みから習氏を遠ざけているのではないかと投資家は懸念している」と述べた。在上海米国商工会議所の最近の調査によると、中国に進出している米欧企業は同国でのビジネスについて、過去数十年で最も悲観的な見通しを示しており、その主な理由は地政学的リスクだ。欧米諸国との対立長期化に中国経済の減速が重なり、中国株式・債券市場では2021年12月のピークから今年6月末までに1880億ドル(約27兆9000億円)もの資金が流出。グローバルポートフォリオにおける中国市場の影響力は低下している」

     

    「宮廷政治」とは、皇帝一人が決める政治である。習氏の気の向くままに、頻繁な人事交代に現れているとすれば、腰を据えた経済対策など打てる余裕があるはずでない。習氏に献策できる人物がもはや存在しない以上、習氏には迷いが生まれるのであろう。

     

    (4)「プライベートエクイティー(未公開株、PE)投資会社、開源資本のブロック・シルバーズ最高投資責任者(CIO)は「投資家の信頼にはシステムの安定が必要だ。説明なしの突然の人事交代や政策変更は市場の不安を増大させるだけだ」と指摘した。秦氏の外相在任期間はわずか7カ月で、中国の外相としては歴代で最も短命だった」

     

    投資家の信頼には、システムの安定が必要という。システムの安定とは、ルールの確立である。これによって「不確実性」が消えるのだ。中国には、この「システム安定」が消えている以上、中国は投資対象でなくなっている。

     

    (5)「習氏は、政府高官に対する不信感を強め、内政運営を細かく管理しようとし、体制はまひする兆しを見せている。北京在勤のある外国人エグゼクティブは、誰もが習氏を恐れ、互いに孤立していると匿名で語った。米当局者は、李国防相が既に解任されたとの情報を得ている。中国は李氏の立場について公式にコメントしていないものの、7月に同氏がかつて率いていた軍備調達部門を巡り過去にさかのぼっての調査を発表した」

     

    中国において突然の高官罷免は、暗黒ムードをかき立てている。政治の陰湿化は、経済の不安定化を招く。中国は今、最悪の状況下に置かれている。

     

    (6)「アジア・ソサエティー政策研究所の中国分析センターで中国政治を研究するニール・トーマス氏はブルームバーグテレビジョンで、「審査プロセスの欠陥を示している」としながらも、「習氏の権力基盤は選挙で支持を獲得することではなく、指導部の主要人事をコントロールすることにある」と分析した」

     

    習氏は、周辺に恐怖感を与えて統治しようとしている。それには、人事権を振るうことが最大の武器となる。となれば、習氏は意図して行っていることになろう。

     

     

    サンシュコ
       


    中国経済は、進退に窮している。習近平国家主席が、頑なに消費刺激策を「福祉主義」として拒否しているのだ。社会主義経済が、福祉主義を否定するというのも不思議な話である。社会主義は本来、資本主義よりも国民を幸せにする制度でないのか。 

    7月に人民銀総裁を退任した易氏は、中国が5%程度としている今年の経済成長目標を達成するために、政策支援を「適切に」強化する必要があるとの見解を示した。国政助言機関である中国人民政治協商会議(政協)の公報紙『人民政協報』が今週、同氏の発言を報じた。易氏は、内需拡大を支援するためにマクロ経済政策を「適切に強化」するとともに、住宅部門の支援には構造的な金融政策を「十分に活用」することを提言したのである。『ブルームバーグ』(9月21日付)が報じた。こういう声は、習氏に届かないのだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月21日付)は、「中国経済を妨げる『制度のワナ』」と題する記事を掲載した。筆者は、日本総合研究所上席理事の呉軍華氏である。 

    中国経済の「日本化」を指摘する声が聞かれる。不動産市況や物価など、バブル崩壊後の日本と似通う問題に直面しているためだが、一党支配で発展段階も異なる中国経済が、「日本化」する可能性はほぼないだろう。それより注目すべきは、「ソ連化」が進むか否かだ。 

    (1)「フルシチョフ時代のソ連は高い経済成長を遂げたが、その後は長期にわたり停滞した。体制維持を最優先とすることで、中国はその轍(てつ)を踏む可能性がある。旧社会主義国陣営では、中国のみが改革開放下で高い成長を遂げた。このため改革開放は中国独自のものと思われがちだが、そうではない。中国の改革開放は、レーニンが1921年に始めた新経済政策「ネップ」がルーツといえる。レーニンは内戦による経済危機から脱するため、便宜的に資本主義的手法を取り入れた改革を進めた。一方で、政治や文化などの面では民主国家の影響を遮断し、あくまでも共産党政権の維持を最重要課題に据えた」

     

    「ネップ」とは、ロシア内戦直後にソ連で導入された新経済政策である。戦時共産主義による国民の疲弊を救うために1921年に施行された。食料税の導入と税納付後の残余農産物を市場で自由に売買してよいというように、市場原理の部分的導入が特徴である。レーニンは、「国家資本主義」と呼んだ。 

    ネップはその後、社会主義と矛盾しているとして批判された。レーニン死後の1928年、スターリンが否定的評価を下して幕を閉じた。その後は長らく顧みられることはなかったが、ソ連崩壊前のペレストロイカ時代に入ると再評価された。 

    (2)「ネップはレーニンの死後、しばらくして終了したが、その間にモスクワに滞在した若き鄧小平には、深い印象が残ったようだ。鄧小平は何度もネップを高く評価した。中国の改革開放が「中国版ネップ」と言われたほどだ。もちろん中国の改革開放にはネップにない要素もある。両者の主な違いは、民間企業の活用と対外開放にある。以前、本欄でも指摘したが、中国共産党は政権獲得後、すべての権利を中央に集中するソ連型の全体主義的体制を移植したが、やがて「郡県制」の伝統を受け継いだ地方分権的全体主義に改めた。この体制の下、民間企業の誘致合戦が地域間で活発になった。また、中国は先進国の資本・技術を容易に取り入れる経済のグローバル化にも恵まれた。だからこそ、中国はソ連などとは異なる成長パフォーマンスを実現できた」

     

    鄧小平は、当時のソ連でネップを経験したこともあり、改革開放政策(1979年)では、このネップを参考にしている。先進国の資本・技術を容易に取り入れたので、ついにGDP世界2位(2010年)を実現する原動力になった。 

    (3)「経済成長とそれに伴う中間層の拡大は、民主化につながるとされる。西側の対中接触政策を支えた理論的根拠だ。しかし、中国共産党にとっては、平和的手段で体制崩壊を狙う「和平演変」にほかなく、絶対阻止すべきことだ。習近平体制発足以来、社会統制の強化や民間企業の締め出し、米国など西側諸国との関係悪化が顕著に進んだ。その原因を習氏個人に求める声も聞かれるが、そうではなく制度的なものと言わざるを得ない」 

    中国は、改革開放政策は成功しすぎた結果、国内でマルクス主義否定論が登場するまでになった。毛沢東左派とされる習近平氏にとっては、座視できない事態と受け取り、大きく「左旋回」することになった。

     

    (4)「共産党の支配や公有制を基本とする社会主義制度の維持などは、改革当初からの基本原則だ。反「和平演変」は江沢民・胡錦濤時代でも最重要課題だった。習体制となってこうした動きが劇的に強まったのは、国力の増強により、便宜的な改革で成長を促す必要性が低下したためだ。そして、社会の多元化に向けた圧力が増大し、「和平演変」のリスクが高まったと、指導部が判断したからだろう。中国経済の苦境を「中所得国の罠(わな)」で説明する向きもある。しかし、成長を妨げる罠は所得水準ではない。それは基本原則に裏打ちされた制度だといえよう」 

    習氏は、国民生活を犠牲にしてまでも共産主義を守ろうとしている。下線部の指摘は、習氏のイデオロギー固執という「制度の罠」が、中国経済を停滞させると危惧している。ちなみに、筆者の呉氏は中国出身である。氏が、ここまで明確に言い切ったのは初めてだ。相当な危機感を持っているのだろう。 

    次の記事もご参考に。

    2023-09-21

    メルマガ500号 中国経済「欠陥構造」、過小消費で危機招く イデオロギー崇拝が拍車

     

     

     

     

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    韓国国会は21日、最大野党「共に民主党」代表の李在明氏の逮捕状請求に同意した。票決では、賛成が反対を規定でわずか1票上回る(票数では3票差)というきわどいものであった。「共に民主党」は、国会では最大の議席で過半数を占めている。だが、党内から大量の造反者が出て、逮捕状請求に同意という事態になった。検察は、この結果をもって裁判所へ正式に逮捕状を請求する。裁判所は、過去の例でみると逮捕状請求の2割を棄却している。今回の逮捕状請求が受け入れられるかは、結果を待たなければならない。 

    『聯合ニュース』(9月21日付)は、「韓国国会、最大野党代表の逮捕同意案を僅差で可決ー党内から『造反』」と題する記事を掲載した。 

    韓国国会は21日、革新系最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表に対する逮捕同意案を賛成多数で可決した。現職の国会議員である李氏は、会期中に国会の同意なしに逮捕・拘束されない不逮捕特権を持つが、同意案の可決により逮捕状発付の是非を判断する裁判所の令状審査が実施されることになる。

     

    (1)「この日の国会本会議で採決が行われた李氏の逮捕同意案は、賛成149人、反対136人、棄権6人、無効4人で可決された。採決には在籍議員(298人)のうち295人が参加した。逮捕同意案が可決されるためには、出席議員の過半数(148人)の賛成が必要だが、今回の採決では賛成票が必要数をわずかに1票上回った。与党「国民の力」所属議員110人に同意案に賛成する意向を示していた野党「正義党」の6人、「時代転換」の1人、「韓国の希望」の1人、与党系の無所属議員2人が賛成したと仮定する場合、民主党で29人が賛成したと推定される」 

    下線のように、民主党から29人が逮捕に賛成票を投じた。棄権6人と無効4人の計10人が、間接的な逮捕賛成に回っている。合計で39人が党の方針と異なる造反者となった。前回2月の逮捕状請求では、賛成が16人、棄権と無効は計20人であった。結局、36人の造反者が出た計算になる。今回と前回を比較すれば、造反者が3人増えた計算になる。 

    造反者は、来年4月の総選挙で党から「公認」されないリスクを感じながらも、李氏の余りに破天荒な振舞に拒絶感を示したものである。李氏は、異なる罪名で2回も国会へ逮捕状請求の承認を求められた異例の存在だ。どう弁護しても、公党の代表に相応しくないことは明白である。日本では、考えられない韓国の政治風土と言うほかない。

     

    (2)「同意案の可決を受け、国民の力の首席報道官は「民主党は国民に贖罪(しょくざい)すべきだ」とする論評を出した。共に民主党は論評を出さなかったが、同党の院内報道官は記者団に「執行部が議員たちに対し複数にわたって否決を訴えたが、違う結果が出て残念だ」と述べた」 

    「共に民主党」は、自党に不利な事態であるので沈黙している。あれだけ、騒ぎ回っていたのがウソのような状態だ。今後の党運営を考えると言葉も出ないのであろう。 

    (3)「李氏を巡っては、ソウル近郊の城南市長だった時期の都市開発事業を巡る背任容疑や、京畿道知事時代に下着メーカー大手・サンバンウルグループを通じ巨額資金を北朝鮮側に不正に渡した疑惑に絡む容疑で検察が逮捕状を請求していた。検察は、今年2月にも別の疑惑を巡り李氏の逮捕状を請求したが、この時は僅差で逮捕同意案が否決された。検察は3月下旬に李氏を在宅起訴した」 

    李氏は、先の大統領選挙運動中に微妙な演説をした。落選すれば逮捕されて刑務所へ送られると涙ながらに語ったのだ。是が非でも、逮捕を免れたいという一心であったことは間違いない。そのために、用意周到に準備してきた。ハンストも、国会へ逮捕状請求が出る日まで計算していたと報じられている。

     

    李在明氏は20日、自身に対する逮捕同意案の国会採決を巡り、フェイスブックに「明らかに違法で不当な今回の逮捕同意案の可決は、(政権の意向に沿った)政治検察の工作捜査に翼を与えるもの。検察独裁の暴走機関車を国会の前で止めてほしい」と書き込んだ。逮捕同意案の国会本会議での採決を21日に控え、党内に否決を呼び掛けたものと受け止められる。 

    李氏は6月19日、自ら国会議員の「不逮捕特権」を放棄すると宣言を出した。この事実と重ね合わせると、20日のフェイスブックでの発言は大きく後退している。検察の手が身近に迫ってきて、「SOS」を発したのであろう。 

    韓国政治は、これから激動期を迎えるであろう。左派が、どのように対抗するかである。だが、李氏の北朝鮮への送金事件は「重罪」である。金大中・元大統領も、現代財閥に資金を提供させて北朝鮮代表の金正日と会談した例がある。李氏は、この前例に倣って下着メーカーに資金を送らせたとみられている。だが、当時の李氏は知事にすぎない。韓国を代表するポストではなかった。大統領選挙を有利に運ぶための戦術に使おうとしたのだろう。 

    韓国左派にとって、「李在明逮捕」が現実化すれば致命的である。左派勢力が大きく後退する契機になるだろう。李氏は、紛れもなく「86世代」の一員である。貧しい家庭から身を起こして権力の頂点を目指してきたが、危ない橋ばかりを歩いてきた。その咎めが出たのだろうか。

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    中国の住宅不況は、日に日に深刻の度を加えているが、商業用オフィスの空室率も高まっている。中国主要18都市の6月の高層オフィスビル空室率は約24%になった。主因は、オフィス供給が増えすぎていることと、テック企業不振で撤退している結果だ。今後はさらに高層ビルが竣工するのでオフィスの供給が増える見込みである。

     

    米国は、6月のオフィス空室率が18.2%と30年ぶりの高水準となった。理由は、在宅勤務の増加である。米国では、オフィスを住居にする動きも起きている。ニューヨーク市は8月、マンハッタンなど市内の中心地区で使われていないオフィスを住宅に転用するための新たな計画を発表した。

     

    日本のオフィス空室率は、東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)で8月に6.%だった。大阪は4.%、名古屋は5.%と、他地域もコロナ禍前水準を超えて推移するが、在宅ワークの増加が背景にある。中国とは、事情が全く異なる。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月21日付)は、「中国のオフィス市場、厳しさは米国以上」と題する記事を掲載した。

     

    ここ数年で最悪の景気減速に見舞われている中国では、深センや武漢などかつて活況を呈した都市で多くのオフィスが空室のままで、賃料も下落している。不動産サービス会社CBREによると、中国主要18都市の6月の高層オフィスビル空室率は約24%だった。米国の6月のオフィス空室率は、18.2%と30年ぶりの高水準となった。ただ、中国のオフィス市場は米国とは異なり、ハイブリッド型勤務へのシフトが打撃になっているわけではない。欧米では出社と在宅を組み合わせたハイブリッド型の普及で、企業のオフィス需要が減っている。

     

    (1)「中国が直面しているのは、より根本的な不動産問題だ。つまり建設業者が単に物件供給を増やしすぎ、経済は今、それを吸収するには弱すぎるということだ。中国は4~6月期の経済成長率が前期比ほぼ横ばいで、若者の失業率は7月に過去最高を記録した。国内インターネット大手アリババグループやテンセントホールディングスなどの民間部門に対する締め付けや、企業投資の弱さが、新規の賃貸需要の足かせとなっている。今年は高層オフィスビルの供給が相次ぐため、市場の不振は強まりそうだ。CBREのアジア太平洋調査責任者ヘンリー・チン氏は「底に近づいてはいるが、まだ底は見えていない」と述べた」

     

    高層ビルの竣工増加で、オフィス供給が増えている。だが、需要は少ないから空室率が高まる。空室率の高まりの理由は簡単である。数年前、中国の超高層ビル着工数が世界一であることから、「中国大不況」が囁かれていた。過去のケースから割り出された話であった。どうやら、この見方が的中しそうな状況になっている。

     

    (2)「大半のアナリストは、中国オフィス市場の影響をそれほど懸念していない。オフィス市場は住宅不動産市場より規模が小さい。ただ両者を併せると、近年は中国国内総生産(GDP)の20%余りを占めている。オフィス物件の多くは、国内の不動産開発会社や保険会社、テンセントのようなテック大手などが所有している。アナリストによると、国内勢の多くは、オフィス資産の損失をある程度吸収できる資金力がある。それでも、オフィス空室率の高さは経済の低調ぶりを示しており、一部の投資家にとって重石となっている」

     

    アナリストは、空室率の高まりを懸念していないという。理由は不明だ。新たな需要増加が見込める訳でなく、単なる惰性にもとづく話であろう。中国のGDP推移と深く関わるので、楽観できない。

     

    (3)「商業用不動産開発大手SOHO中国は、1~6月期の純利益が93%減の約190万ドル(約2億8000万円)となった。今後3年間でより多くの物件が市場に出るため、賃料と入居率が「持続的な圧力」にさらされるとの見通しを示した。多くの中小企業は、新型コロナウイルス流行で長期化した行動制限の余波でオフィスを手放した」

     

    商業用不動産開発大手SOHO中国は、今後の見通しについて悲観的である。IT関連企業が経営不振であることは、オフィス空室率を高める理由の一つになろう。

     

    (4)「不動産サービス会社サビルズのデータによると、武漢ではA等級のオフィススペース6万3000平方メートルが新たに稼働し、市中心部でテック企業が集まるオプティクスバレー地区の空室率は6月に30%超と、記録的な高水準に達した。同じくテック企業の集積地で、テンセントや通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)などが拠点を置く深センでは、6月のオフィス空室率が25%を上回り、コロナ流行初期の20年に付けた高水準に近づいた。北京でもテック企業の撤退により、4~6月期のオフィス空室率が18%に上昇し、18年の約3倍の高さとなった(サビルズ調べ)。CBREのデータによると、6月の中国の平均賃料は19年比で7%近く下落した」

     

    テック企業の集中する都市では、テック企業の不振を反映して空室率が高まっている。習政権の意図でテック企業抑圧が続く以上、空室率の高止まりは不可避であろう。

     

     

     

     

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    欧米は、中国のEV(電気自動車)に神経を使っている。これまで、自動車は欧米が独占的な強みを発揮してきたが、EV登場でこの構図が狂い始めている。中国が、政府補助金をテコに輸出攻勢を掛けているからだ。

     

    欧州の雇用先は、約6%が自動車産業である。それだけに、中国EVが欧州へ輸出ドライブを掛ければ雇用喪失問題が起ることは確実だ。これによって、社会不安を生んで極右の政治勢力台頭というリスクをはらんでいる。単なる経済問題を超えて政治問題へ発展する危険性が指摘されている。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(9月18日付)は、「中国EV台頭が米欧の保護主義招く」と題する記事を掲載した。

     

    「中国と自由に貿易をしよう。時間は私たちの味方だ」――。中国が2001年に世界貿易機関(WTO)への加盟を果たす前、当時の米大統領だったブッシュ氏(第43代)は自信を持ってこう発言していた。ところが、それから20年以上が経過した今、時間は中国の味方だったというのが西側の一般的な結論となっている。中国は習近平国家主席の下、むしろ閉鎖性と独裁主義を強めていった。米国に対しても強硬姿勢を鮮明にし、急速な経済成長を糧に軍事力の強化も進めた。

     

    (1)「米政策当局者の中には、中国のWTO加盟を認めたのは間違いだったとする向きもある。彼らは、中国はWTO加盟によって輸出を急拡大させることができたわけで、そのことが米国の産業空洞化に拍車をかけたとみている。そしてそれに伴い米国で格差が拡大したことがトランプ前大統領を登場させる一因につながった、と。この流れを踏まえると、厄介な疑問が浮上してくる。「グローバル化は、中国の民主主義を推進するどころか、米国の民主主義の弱体化をもたらしたのではないか」との見方だ。現状を踏まえれば、笑うに笑えない皮肉と言える」

     

    中国のWTO加盟を認めたのは失敗とする意見が、トランプ政権(当時)から強く出ていた。WTOには罰則規定がないので、中国はこの抜け穴探しを行ってきたという非難だ。

     

    (2)「欧州連合(EU)では、米国が先に保護主義へ傾き、自国の産業に多額の補助金を提供するようになったことに失望する声が多く上がっていた。しかしEUは9月13日、中国製の安価な電気自動車(EV)のEUへの流入を問題視し、中国政府によるEV産業への補助金提供が競争を阻害していないか調査すると表明した。このニュースは、EUも米国と同様の道を歩み始めたことを示している。米国の中国製自動車に対する関税は27.%だが、現時点のEUの同関税は10%と低い。しかし、もしEUが中国は自動車メーカー各社に不当な補助金を支給していると判断すれば、関税は大幅に引き上げられる可能性がある」

     

    中国が、WTO規則を無視する以上、保護貿易で対抗するほかない。これは、トランプ政権の見方であり、バイデン政権も引き継ぎ強化している。米国の中国製自動車に対する関税は27.%である。これによって中国EV輸入を防いでいるのだ。EUも、これに従うであろう。

     

    (3)「EUが、米国の後を追って実際に保護主義に傾くのであれば、それは米国と同じ理由による。つまり、中国のやり方は欧州の産業基盤、ひいてはその社会および政治の安定性をも脅かしつつあるという懸念だ。中でも自動車産業はEU、特にドイツにとって最も重要な産業で、EU経済の中核を成す。しかも自動車は欧州が世界をリードする数少ない産業分野の一つだ。売上高でみた世界4大自動車メーカーのうち、フォルクスワーゲン(VW)、ステランティス、メルセデス・ベンツ・グループの3社は欧州企業だ」

     

    自由貿易は理想型である。中国は、この抜け穴を利用して急成長したという認識が欧米に強いのだ。これは、ロシアのウクライナ侵攻への中国支援によって強くなっている。

     

    (4)「欧州委員会によれば、自動車産業はEUの全雇用者数の6%強を占める。その給与水準は往々にして比較的高く、ドイツなどにとっては自国のアイデンティティーにもなっている。それだけにこうした雇用が中国に奪われることになれば、それは政治的にも社会的にも大きな反発を招くことになる。ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」への支持がすでに拡大しており、世論調査では2位の人気政党となっている。独自動車大手のBMWに代わって中国の自動車大手BYDの車がアウトバーンを走るようになり、国内の自動車業界が不振に陥れば、AfDへの支持がどうなるかは容易に想像できるだろう」

     

    ドイツでは、極右政党が支持率を高めている。ドイツ自動車業界が不振に陥れば、極右政党が跋扈するのは不可避であろう。民主主義を守るためにも、中国EV進出を阻止しなければならない。こういう論調が強くなっているのだ。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-09-18

    メルマガ499号 中国、EUとEV「紛争予兆」 23%の高関税掛けられれば「経済は混乱」

     

     

     

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