中国国家統計局は5月31日、2023年5月の製造業購買担当者景気指数(PMI)を発表した。4月より0.4ポイント低い48.8で、2ヶ月連続で好調・不調の境目である50を下回った。国内外の需要を映す新規受注が増えず、生産も伸び悩んだ。景気の回復力の弱さが目立ってきている。
5月の内訳をみると、次のような特色がある。『日本経済新聞 電子版』(5月31日付)が報じた。
1)生産は、49.6で0.6ポイントの低下。1月以来の50割れとなった。
2)新規受注は、48.3で0.5ポイントの低下。2ヶ月連続で50に届かなかった。
3)雇用動向を反映する従業員数の指数も悪化した。
4)需要不足と答えた企業が6割近くに達した。
新規受注が不振であることは、需要不足という意味だ。これが、全体の6割も占めている。3年間のゼロコロナによる経済基盤劣化と不動産バブル崩壊の後遺症が重なったものであろう。中国経済は「重症」に陥っている。こういう状況を察知する国民は、金購入へ走っている。
『日本経済新聞 電子版』(5月31日付)は、「中国、金を『爆買い』 個人が1~3月16%増」と題する記事を掲載した。
中国の個人や中央銀行が金(ゴールド)の購入を増やしている。中国による宝飾品と地金・金貨の1~3月の需要は前年同期に比べ16%増え、個人の強い購入意欲を映した。中国人民銀行(中銀)も4月まで6カ月連続で保有量を増やした。個人は人民元建て資産を不安視し、人民銀行には米ドル離れの狙いがある。それぞれ目的は異なるものの最高値に近い金価格を支えている。
(1)「国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、中国による1~3月の宝飾品の需要は197.7トンと前年同期に比べ11%増えた。四半期ベースでは2015年1~3月以来、約8年ぶりの高水準だった。中国はインドと並ぶ世界最大の金の需要国で、宝飾品や婚礼などの贈呈用として金を好む。新型コロナウイルスの封じ込めを狙った「ゼロコロナ政策」が終了したことで婚礼向けなどの消費が回復している。1~3月の需要は世界全体の4割を占めた。主に個人が投資目的として保有する地金・金貨の需要も65.9トンと、前年同期比で34%増えた。金は株式や社債、国債と異なり政府などの発行体が破綻する信用リスクとは無縁の「安全資産」とされる。金投資を増やす底流には、人民元への不安があるとされる」
中国個人の「金購入」は、個人消費として計上されている。これが、「消費回復」という誤解をばら撒いた背景である。消費回復どころか、貯蓄増強へ走っているのだ。
(2)「楽天証券経済研究所の吉田哲コモディティアナリストは、「中国経済の成長鈍化や習近平(シー・ジンピン)氏が党内一強の独裁体制を強めるなど国家体制への不信感から、人民元ではない通貨として金に資金を分散しているとみられる」と指摘する。中国では第2次世界大戦後にはハイパーインフレで人民元が紙くず同然となった経験もあり「紙幣である人民元の信頼度が希薄」(マーケットアナリストの豊島逸夫氏)との指摘もある。近年、中国では先行き不安から貯蓄志向が高まっている。人民銀行によると、3月末の預金残高は貸出残高を上回った。貯蓄の一部として、希少性が高く実物価値を持つ金を購入する動きもみられる」
人民元への信頼感も揺らいでいる。それが、「金への逃避」をもたらしているのだ。米銀JPモルガン・チェースは、中国事業拡大に想定以上の時間を要しているとしたほか、成長ポテンシャルを生かせる場として日本とオーストラリア市場に目を向けていると明らかにしている。中国経済が、苦難期にあることを認めている。
(3)「金買いは個人にとどまらない。人民銀行は5月上旬、4月時点の金の総保有量が約2076トンに達したと発表した。公表を再開した22年11月から、6ヶ月連続で増加している。ロシアはウクライナ侵攻に対する経済制裁を受け、米ドルの決済網の利用を制限された。中国では「米ドルなどの『西側』の資産は保有リスクが高いとの認識が高まり、外貨準備の分散として発行体がない『無国籍通貨』である金の買いが加速した」(マーケットエッジの小菅努代表)。金の購入とは対照的に米国債は減らしている。米財務省によると中国の米国債保有額は3月時点で約8700億ドルと、ウクライナ侵攻直後の22年3月の1兆ドル超から約1400億ドル(14%)減った」
中国人民銀行自体が、金購入に走っている。米中対立を背景にしたものだ。こういう状況で、中国経済が成長性を取り戻せることなどあり得ない。