勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    米中の貿易戦争解決に向けて、中国商務省が米国へ代表団を送ると発表した。中国の7月の景気指標には、貿易戦争の影響が強く出ているからだ。「徹底抗戦」と騒いでいた勢いが噓のように消えている。米国の存在感の大きさを改めて知らされたに違いない。無駄な抵抗を止めて、公正な貿易慣行に従うべきだろう。

     

    『ロイター』(8月16日付)は、「中国商務次官、通商協議のため8月末に訪米ー中国商務省」と題する記事を掲載した。

     

    「商務省によると、代表団の訪米は米国の招待によるもので、マルパス米財務次官(国際問題担当)との会談が行われる。商務省は声明で、中国はいかなる一方的な通商措置も認めないとした上で、対話は歓迎すると表明した」

     

    記事は、以上の極めて短いもの。第一報という感じだ。このニュースを受けて、原油先物相場が早速、好感し反応した。

     

    「日本時間午前11時09分)現在、米WTI原油先物CLc1は前日終値比0.10ドル(0.15%)高の1バレル=65.11ドル。北海ブレント先物LCOc1は0.41ドル(0.6%)高の71.17ドル」(ロイター)

     

    原油先物相場が反応したように、中国が米国へ代表団を送らざる得ない理由は、すでに指摘した通りだ。中国経済は、貿易戦争の影響を軽く見ていた結果、5~7月の非金融部門(影の銀行と債券発行)の貸出残高を急減(前月比)させるという大失態を演じた。習近平氏の対米強気が招いた誤算である。この結果、中国の中小企業を含む広範な分野で失速状態を招いている。この緊急事態解決には、米国との話合いが不可欠になったのだ。

     

    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』は、習氏の対米強気論が招いた国内経済の混乱が、政治状況を変える可能性もあると見ているほど。この点は、今日のブログで報じた通りだ。


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    現在の中国は、社債デフォルトの嵐である。国有企業までデフォルトを起こしている。異常な金融状態だ。非金融部門(影の銀行と債券発行)の貸出残高は、この5月以降急速に減っていることが分った。米国との貿易戦争が中国経済に与える影響が懸念されていた中で、どうしてこういう事態が起こったのか。理解不能である。

     

    この裏には、政治闘争が絡んでいたのでないか。そういう疑問が湧く。習近平氏とそれに反対する一派が、米中貿易戦争の影響力の予想をめぐって争ったのでないか。仮説だが、習氏は中国経済に実力があるので、米国に十分に対抗できる。よって、デレバレッジ(債務削減)を予定通り行なっても問題はない。そういう判断を貫いたのであろう。習氏は国粋主義者である。熱烈な「中国教」信者であり、絶対不敗の信念に燃えているのだろう。

     

    7月の経済指標の悪化に見られるように、固定資産投資は落ち込み、個人消費が停滞するという思わぬ方向に展開した。そこで、7月31日、国務院会議で緊急の金融財政政策を決定した。これで8月4日から始まる河北省の北戴河(ほくたいが)の非公式会議を乗り切ろうという思惑が働いたのであろう。

     

    中国政府が、米中貿易戦争の影響を甘く見ていた証拠は、インフラ投資を抑制していたことに現れている。鉄道建設投資は14年から8000億元台を回復していたが、18年は地方財政の健全化などを進めるために7000億元台に圧縮していた。ところが、今回の経済対策のテコ入れで、再び8000億元台を維持する方向へと変わった。これを、見ただけでも米中貿易戦争を楽観し、徹底抗戦などという台詞が飛び出したのだ。

     

    この鉄道建設投資は、極めて採算性が悪いことに注意する必要がある。建設期にはGDPを押上げる効果がある。だが、リターンはほとんど期待できない「死の投資」である。その非採算ぶりは、次の記事で明らかだ。

     

    鉄道事業を運営する中国鉄路総公司の経営実態は厳しい。17年の総収入は1兆元を超え、税引き後利益も18億元で過去最高を更新したが、負債総額は約5兆元で、支払った利息は760億元にのぼる。18年は当初、投資減で財務改善をめざしていたが、政府の要請に応えて後回しになった格好だ」(『日本経済新聞』8月15日付)

     

    1兆元の総収入で最終利益が18億元。利益率は1.8%に過ぎない。これほど無駄な投資を飽きもせずに行なっている理由は将来、起こるかも知れない国内の反乱に備えたものだという。兵士を迅速に移動させるには高速鉄道が欠かせないという判断である。こうなると、高速鉄道の建設費は国防費の分類になるのか。そんな余計なことまで考えさせられるほど、非効率投資である。

     

    以上の、中国国内の動きから判断すれば、習近平氏が米中貿易戦争へ極めて強気で接していたことは十分に予測できる。この辺りに、習氏の国粋主義者としての横顔を覗かせている。太平洋戦争を開戦に導いた東条英機も国粋主義者だが、この二人は経済の実情把握が不得手であることを示している。

     

    習氏が、米中貿易戦争の影響を軽微と判断した根拠は、非金融部門の貸出残高(対前月比)の増減高に表れている。資料は、WSJ(8月15日付)による。

     

    2018年4月 +2989億元

         5月 -4625億元

         6月 -6281億元

         7月 -4177億元

     

    上記の貸出残高の増減を見ると、米中貿易戦争の影響など全く考えていなかったことを窺わせている。習氏の「鶴の一声」で強気を貫いていたにちがいない。

     

    ここで、過去に遡って大きく前月比で減少した時期とその減少額を見ておきたい。

     

    2009年1月 -1809億元

    2011年9月 -2056億元

    2016年5月 -3077億元

    2017年5月 -2016億元

     

    前記の減少額に比べて、今年5月以降の減少額が異常に大きくなっていることが分る。習氏は米中貿易戦争で強気を示すべく、金融を引締めさせていたことは間違いなさそうだ。

     

     


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    盤石の政治基盤を擁するはずの習近平氏が、6月以降の急激な金融引締めによって、政治的に傷を負っているのでないかと指摘され始めている。

     

    習氏は、序列5位の政治局常務委の王滬寧(ワン・フーリン)氏から強い影響を受けたのでないか。今、そう取り沙汰されている。王氏は、イデオロギーとプロパガンダ(宣伝)の担当だ。「習思想」なるものを発案し、習氏の神格化を促進していた人物として知られる。そのキーマンが、ここ1ヶ月の動静が報じられていない。王氏の失脚説が流れている背景には、米中貿易戦争によって、中国経済が大きな影響を受けていることが上げられる。王氏が、習氏に「米国覇権挑戦論」を吹き込んだのでないか。そういう話にまで発展するのだ

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月15日付)は、「中国債務問題、習氏の政治的な傷になるか? 」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「8月14日発表された7月の同国経済指標が映し出したのは、中国の景気鈍化が深まっている状況だ。特に投資の伸び率は2000年以降で最低にとどまった。経済の窮状が健在化する兆しとして、中国の政治支配層の間に不満が見え隠れするようになった。経済成長と債務をいかに管理すべきかを巡り、財政省と中国人民銀行(中央銀行)のいさかいも明るみに出た」

     

    7月の景気指標は、固定資産投資の鈍化と小売り売上高の停滞を告げるものである。特に投資の伸び率は、2000年以降で最低にとどまった。この原因はどこにあるか。習氏の「米国なにするものぞ」という空元気がもたらした、強い金融引締めによる負の影響と見るのが順当だ。この裏に、米国衰退説を主張している王氏がいる。習氏と王氏は、肝胆相照らす「国粋主義者」である。

     

    (2)「こうした意見の対立は通例、秘密裏に処理されるものだ。国務院(内閣に相当)はこれまで経済政策をほぼ習氏に委ねていたが、いつになく積極的に力強い成長を呼びかけている。そして中国の短期借入金利は、ここに来て2016年中盤の水準まで低下した。これは金融緩和にシフトする明確な兆候だ」

     

    国務院が、積極的に成長政策を呼びかけているという。この裏には李克強首相がようやく、経済政策の権限を取り戻した結果かも知れない。もともと、経済政策は首相の専管事項とされていた。習氏が、それを横取りして経済運営の実権をかすめた。それが、元の状態に戻ったのか。これが事実とすれば、「大変革」である。

     

    (3)「中国が借り入れを減らし、より効率的に投資すべきであるのは誰もが認めるところだ。だとしても、銀行からの融資が難しい小規模な民間企業への影響を考えると、債券市場とシャドーバンキング(影の銀行)を同時に締め付けるのは常に危険と隣り合わせだ。今年、損失が表面化するのを注視していた地方官僚は、恐らくおじけづくあまり、率直に声を上げられなかったのだろう。その結果、民間企業への貸し渋りが急増。前例のない数の社債デフォルト(債務不履行)が発生している」

     

    非金融部門貸出は、4月の増加額を絞った上に、5月以降に急減させた。これが、中国経済に混乱をもたらしている。次のパラグラフにあるように4月以降で1.5兆元も減っている。

     

    (4)「非金融部門貸出残高(社債、シャドーバンキングを含む)は4月以降だけで1.5兆元(約24兆円)余り減少し、過去10年間で最も急激な落ち込みとなった。政策担当者は今や、金融・財政政策を緩和することで、この2年間の債務圧縮の動きを巻き戻すよりほかに道がないだろう」

     

    (5)「習氏が、米国の貿易問題への決意を見誤ったこと――そして同時に国内の債務への締め付けが厳しすぎること――が政治的に傷つけたと思われる。まだ明確でないのはその傷がどのくらい深いかだ。いずれにせよ、政治的な駆け引きの季節が始まりそうな気配だ。習氏の敵対勢力が再び自己主張し始めたからだ。それが間近に迫る景気悪化に対処する政策担当者の能力を奪う可能性がある。緩和の兆しが明確になり始めたのを背景に、一部のアナリストは中国株に強気になっている。だが目先の政治の不透明さを考えると、予想以上の波乱に見舞われてもおかしくない」

     

    このパラグラフでは、慎重な言葉のなかに中国の政治情勢が不透明になっていることを示唆している。習氏の敵対勢力が、再び自己主張し始めたからだ。この勢力が、経済重視派であることは事実。中国経済の落ち込みが激しくなれば、政治闘争が始まる可能性を示唆している。中国は、一枚岩でなかった。

     


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    米朝交渉は、押したり押されたりしているが、次第に双方の決着点が見えてきたようだ。相変わらず、北の米批判は続いているが、トランプ大統領には敬意を表した発言である。北はまた「トランプ砲」が炸裂して、「米朝会談止めた」と言われたら一大事。腫れ物にさわるような気遣いが見られる。

     

    『朝鮮日報』(8月15日付)は、「核リスト提出の見返りに終戦宣言、米朝が歩み寄りか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米国のポンペオ国務長官が今月末に北朝鮮を訪問するのを前に、米朝は北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の解体と国外搬出・廃棄、さらに核兵器リストの提出問題について協議を行っていることが14日までにわかった。北朝鮮はそれらに対する見返りとして体制保証のための終戦宣言を米国に要求しているという。米朝は先週、板門店で実務者協議を行い、これらの問題でかなりの歩み寄りがあったようだ。複数の外交筋が伝えた」

     

    米朝間で、親書の交換が続いている。交渉が進展している証拠かも知れない。米国はこれまで、核リストの提出がなければ終戦宣言はしない。北朝鮮は、終戦宣言が先であり、体制保証なければ、核リストは出さないと譲らなかった。「ニワトリが先か卵が先か」の話に似ている。米朝が妥協して、「同時交換」となるのだろうか。

     

    (2)「米朝関係に詳しいある外交筋は14日、『米国で11月に行われる中間選挙を前に、米国内の世論を味方につけたいトランプ大統領と、北朝鮮の政権樹立70周年記念日(99日)を控えた金正恩朝鮮労働党委員長の間で利害が一致し、最近になって交渉が大きく動いている』と明らかにした。トランプ大統領は先日、金正恩氏に親書を送り、その中でポンペオ氏の訪朝を提案すると同時に『非核化に向け北朝鮮は速度を上げねばならない』と求めたようだ。双方の水面下での交渉が進展すれば、ポンペオ氏が今月下旬にでも訪朝し、最終合意に乗り出す可能性もあるという」

     

    米国の11月の中間選挙と、北の9月に迎える政権樹立70周年記念日というタイミングに合わせて、米朝が合意に達しそうだという。ポンペオ米国務長官が、8月下旬にでも訪朝して最後の詰めを行なうという。

     

    (3)「現在、膠着状態にある米朝による非核化に向けた交渉が再び動き出したことで、中国の習近平・国家主席も99節直前の9月はじめに訪朝する方向で中朝間の調整も行われているようだ。習主席は4月の南北首脳会談を前にした326日、そして6月の米朝首脳会談をわずか1カ月後に控えた57日、金正恩氏と電撃的に首脳会談を行った。南北首脳会談と米朝首脳会談の直前になると、習主席は必ず金正恩氏と直接会い、いわば存在感を誇示してきたと言えるだろう。上記の外交筋は、『米朝間で非核化交渉が急激に進展すれば、習主席が訪朝する可能性も高まるだろう』との見方を示した」

     

    習氏の訪朝計画がまとまれば、米朝合意のシグナルになるという。

     

    (4)「韓国と北朝鮮は17日ごろに実務者協議を行い、平壌での首脳会談の日程を910日以降とすることで一致する見通しだ。8月下旬のポンペオ氏訪朝を皮切りに、習主席の訪朝、文大統領の平壌訪問と続くことで、韓半島(朝鮮半島)非核化に向けた動きが大きな転換点を迎えるのは間違いなさそうだ」

     

    8月下旬のポンペオ氏訪朝を皮切りに、習主席の訪朝、文大統領の平壌訪問と続く。これら一連の外交日程が固まれば、「米朝合意」の最終決定と言えそうだ。朝鮮半島で第二次世界大戦後の未処理問題が解決に向けて進展すれば、日本の拉致問題も解決への展望が開ける。拉致家族の喜ぶ顔が目に浮かぶ。

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    韓国ではときおり、目を剥くような大英才が現れる。凡人には真似もできない話だが、この青年は、「IQ187」という神がかり的な存在だ。

     

    IQについて調べたところ、次のようなことが分かった。分布はほぼ正規分布になり85~115の間に約68%の人が収まり、70~130の間に約95%の人が収まる」という。となると、IQ187は、ほとんど「神の領域」かも知れない。

     

    この韓国青年が、8歳で大学へ入学して宇宙物理学を学んだが、8年間の博士課程在学中に博士号を取得できず、規定により退学するというニュースである。日本でも国立千葉大学が、高校2年生で入学させる「飛び級」制度を採用している。ここに飛び級入学した青年が、その後の人生で今は、長距離トラック運転手という記事があった。「人生山あり谷あり」を実感する。

     

    『中央日報』(8月13日付)は、「科学英才を1人も生み出せない韓国教育システム」と国を批判的に報じている。

     

    8歳で大学に入学したIQ187の『天才少年』ソン・ユグンさん(21)が結局、博士課程を終えられず学校を離れることになった。科学技術連合大学院大学校(UST)によると、ソンさんは6月、卒業のための博士学位論文最終審査で不合格になったことが分かった。ソンさんは2009年、修士・博士統合課程でUST韓国天文研究院キャンパスに入学したが、卒業年限の8年以内に博士学位を取得できず、結局、2018年前期学位が終わる今月末で卒業でなく『修了』となった。ソンさんは12月に現役兵として軍に入隊する予定という。今後、博士学位を取得する場合、軍服務を終えた後に別の大学の学位課程に入学しなければならない」

     

    「ソンさんは6歳でアインシュタインの相対性理論を理解し、大学レベルの微分・積分問題を解いて話題になった。その後、検定試験で中学・高校課程を終え、8歳で仁荷大自然科学系列に入学した。しかし幼い年齢で入った大学での生活に適応できず中退し、独学で電子計算学学士学位を取得した。その後、2009年にUST天文宇宙科学専攻修士・博士統合課程に進学した。2015年には英国の天体物理学ジャーナルに発表したブラックホール関連の論文に盗用疑惑が浮上し、翌年11月に論文が公式撤回される危機を迎えた。当時ソンさんは『特に残念とは思わない。1カ月後に新しい論文を発表するので卒業自体にいかなる問題もない』と語った。ソンさんはその後、指導教授なくUST博士課程の学生として日本・台湾の天体物理学者らのサポートを受け、台湾の関連研究所で研究を続けた。ソンさんの家族側は『ユグンは依然として日本から共同研究の要請が入ってくるほど外国では可能性が認められている』とし、『博士の学位に執着せず、天体物理学者として研究を続けていく予定』と伝えた」

    この記事を読んでの感想は、二つある。

     

    一つは、対人関係がスムースにいかなかったことだ。誰か、サポート役がついていれば良かったと思う。かなり神経過敏症的な点はなかったか。

     

    二つは、発表した論文に盗用疑惑を持たれた点だ。これも、話相手になれる指導者が側にいれば防げた点であろう。学術研究では、引用文献がしっかりしていれば、「よく研究してフォローしている」という評価につながるもの。その点で、やや背伸びした点はなかったか。韓国の大学が、博士号を出さなかったのは「盗用疑惑」が災いした点もあるように思う。博士号を出した後で、「盗用」であったとなれば、大学の権威が揺らぐからだ。その意味でも、最初の「盗用疑惑」が響いているように思える。

     

    どうかめげずに、苦難を乗り越えて大成して貰いたい。


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