勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    フィリピンのドゥテルテ大統領は、就任後に南シナ海における中国の横暴を事実上認めるきっかけをつくった人物である。常設仲裁裁判所から、中国の違法性を100%認められながら、腰砕けの姿勢をとったからだ。

     

    そのドゥテルテ大統領が、思い切った中国批判の発言をして注目されている。

     

    『ロイター』(8月15日付)は、「南シナ海での行動、中国は再考を、フィリピン大統領」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ドゥテルテ大統領は14日遅くに行った講演で『いつの日か引火点となりかねないため、中国は考え直さなくてはならない』と指摘。同大統領が中国を非難するのは異例。『島を造ることはできない。人工島の上の空域を自分のものだと言うことは間違いだ。なぜならそれらの海域をわれわれは公海とみなすからだ。そして無害通航権は保証されている』と述べた」

     

    最近、中国軍は米軍飛行機が南シナ海を飛行した際、「中国領空を飛行するな」という警告メッセージを出していた。ドゥテルテ大統領は多分、こういう中国の越権行為を非難したと思われる。それにしても、「遅すぎた発言」という誹りは免れまい。

     

    中国は、中比紛争で勝訴したフィリピンが、すっかり「中国寄り」になったことで勝利感に酔っていた。米海軍抜きで、中国海軍を中心とる軍事演習を南シナ海で実施する案まで作っていたほど。

     

    (2)「中国が東南アジア諸国連合(ASEAN)に対し、南シナ海で米軍抜きの共同軍事演習の実施を提案したことが分かった。中国とASEANはシンガポールで開いた8月2日の外相会議で、南シナ海の紛争回避に向けた行動規範の『たたき台』をまとめた。中身は各国の意見を列挙しただけの内容だが、複数の外交筋によると、中国が提出した部分にASEAN10カ国との共同演習を南シナ海で定期的に実施し、原則として域外国は参加させないとの提案が書き込まれた」(『日本経済新聞』8月4日付)

     

    中国は、南シナ海の「盗人」にも関わらず、主人役に収まるという異常な行動に出ていた。これに「義人」をもって任じるドゥテルテ大統領が、反撃を加えた形だ。これには、理由がある。

     

    フィリピンは、中国から総額240億ドル(2兆5000億円)に上る経済支援を受ける約束になっていた。しかし、2年経っても投資プロジェクトはほとんど実行されていない状況である。ドゥテルテ大統領が腹に据えかね、中国批判に転じたと見られる理由だ。

     


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    8月2日、米企業で初めて株式の時価総額が1兆ドルを上回ったアップルに、「難癖」つけようと狙う相手が現れた。米中貿易戦争で手詰まり感の強い中国である。正当な理由もなく、相手を罵倒するやり方は中国の得意技。共産主義につきまとう忌まわしい、「集団リンチ」というあの手法である。

     

    7月末ごろから中国官製メディアは、アップルに対する批判を相次いで行なっている。同社製品の不買運動を示唆するような記事も掲載された。アップルが貿易戦争の報復カードにされる可能性が取り沙汰されている、という報道が出てきた。

     

    『SankeiBiz』(8月15日付)は、「中国で強まるアップル批判、貿易摩擦の報復か、不買運動も示唆」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国共産党機関紙『人民日報』英語版サイトは8月7日、トランプ米政権の制裁措置が中国企業に打撃を与えた場合、『(アップルが)中国市場で成し遂げた人目を引く成功が、愛国主義者の感情を刺激するかもしれない』などと警告する記事を掲載した。アップル製品の不買運動などをにおわせた形だ。また、国営中央テレビ(CCTV)は7月末に、アップルのアプリ配信サービスが違法コンテンツを放置していると報道。国営新華社通信も同時期に、アップルの迷惑メールへの対応に問題があると批判する記事を報じるなど、アップルへの非難が続いている」

     

    中国の官製メディアは、ジャーナリズムの範疇には入らない。ただの宣伝機関であるが、その威力は桁外れに大きい。9000万人の共産党員の「必読紙」であるからだ。この官製メディアが、こぞって「アップル不買」を煽る記事を流したならどうなるか。

     

    米大統領のトランプ氏が、まず反撃の狼煙を上げるだろう。その後、「トランプ砲」が具体的な対抗策を出すかどうか。「口撃」だけでは、トランプ氏の本領発揮と言えないからだ。私の想像だが、中国企業への金融制裁をちらつかせるのでなかろうか。これが現実化したら、中国企業のビジネスは存続不可能になる。米国の持つ金融ネットワークは、基軸通貨国ゆえに世界経済を支配している。中国は、これを忘れると大変な事態を迎える。

     

    (2)「日本や韓国との関係が悪化した際にも、中国では相手国の企業を標的に不買運動などが行われた。米国との貿易摩擦でも、従来の関税引き上げだけでは反撃に限界があり、アップルなど米企業への圧迫を交渉材料にするとの見方が市場関係者の間で指摘されている。実際に不買運動が行われれば、アップルのダメージは小さくない。同社が7月末に発表した2018年4~6月期決算では、中国本土と香港、台湾での売上高は前年同期比19%増の約95億ドル(約1兆円)で、全地域の2割弱を占めている」

     

    中国が、アップル製品の不買運動を始めれば、米国民の「反中国熱」が一気に高まる気配も感じる。「集団リンチ」に等しい不買運動は、米国民の正義を重んじる国民性と相反するからだ。中国は、よく考えて見ることだ。

     

     

     


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    目先の利益のために自分の首を締める。それが、中国社会の一般的なパターンとされている。そう言えば、習近平氏も同じようなことをやっている。他国の技術窃取をやりながら、苦情が来れば腕力で対抗する。

     

    医薬品原料業界では、ニセ原料を堂々と輸出して相手国から抗議が来る。それでも、性懲りもなく続けている。日本では漢方薬の原料は、日本で生産している。これだと騙される心配がないからだ。訪日中国人旅行者は、日本のドラッグストアで漢方薬を「爆買い」している。理由は、「ニセ物がないから」。

     

    割安の医薬品として人気のジェネリックが、中国で生産されており問題を起こしているという。これは、日本の消費者も他人事ない。身近な問題である。薬局で、「中国製か」聞いて見るのも身のためかも知れない。

     

    『大紀元』(8月13日付)は、「中国産原薬の安全性、世界の医薬品サプライチェーンにも影響」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「医薬品原料の最大輸出国としての中国の製医薬品の安全性に関する懸念は強まっている。英『フィナンシャルタイムズ』(FT6日の報道によると、米国食品医薬品局(FDA)が中国製薬業者に発出した警告書(Warning Letter)は2014年の5通から、2017年の22通と大幅に増加した。警告書の発出は輸入禁止の前段階と見なされている」

     

    中国の製薬業者は、不正を働くことに罪の意識がないようだ。経済倫理もなければ、真の信仰の存在しない国家のなれの果て、という感じだ。この国家が、世界の覇権を握りたいと考えること自体、世界を冒涜していると思う。

     

    (2)「米『ブルームバーグ』によると、中国が世界に輸出した医薬品・健康補助食品は昨年、前年比3%増の60億ドル(約5兆7200億円)に達した。アメリカのジェネリック(後発医薬品)輸入の8割を中国、インドの製薬会社が占めている。だが、中国原薬製造企業(API )は薬用原薬、添加剤管理の監督管理の難しさ、不確定な素因が多く、製品検査データが『記録』として扱われないなどのGMP(適正製造基準)違反問題で、国内外の患者や医師、それに当局からの信頼を得るという点で課題を抱えている」

     

    人間の生命に関わる医薬品が、これほど倫理観のない国民が製造していること自体、大きな問題であろう。いくら警告を発しても改まらない。信仰心のなさが、こうした事態を招いている。

     

    (3)「欧州医薬品庁(EMA)、米国食品医薬品局(FDA)による中国原薬製造企業(API)への警告書発行の件数が増えている。2018年の統計によると、FDAが11通、EMAが6通の警告書を中国API業者に発出した。警告書は、主に中国API業者のデータインテグリティ(データの信頼性)の問題に関わっている。検知した重大な違反が発見される前に、不正の製薬製品は大量に輸出されたと指摘している。EMAのデータによると、毎年、欧州連合(EU)諸国の中国API業者に対して、20回から40回にかけて査察認定を行う。約10%が不合格と認定されている」

     

    このブログで、中国の不正ワクチンが輸出されている事実を取り上げた。これは特別のケースでなく、日常茶飯事に起こっている問題だ。こういう民族は、どうやれば悔い改めるようになるのか。一度、各国が輸入禁止措置をして、目を覚まさせるしかない。米中貿易戦争と原因は全く同じだ。


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    中国経済の発展を考えれば、習氏のような国粋主議者よりも経済改革派が必要である。現在の中国においても、毛沢東より鄧小平が必要だ。習近平氏の信じて止まない「中国モデル」は、中国を破滅させる危険なプロパガンダである。米国内には、米中が貿易戦争をしないで済む方法として、中国国内にいる経済改革派と提携せよという提案が出てきた。

     

    この提案は興味深い。現在の中国は、習近平氏を永久国家主席に就任させたいという政治勢力が多数を占めている。経済改革は少数派であろう。ここで、米国と妥協せよという勢力が現れたら、中国国内は騒然とするに違いない。中国経済がさらに悪化しなくては、話合い路線は無理と思われる。後学のために、「話合い提案」を聞いて見よう。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月14日付)は、「米中貿易戦争、双方が勝つ道」と題する寄稿を掲載した。筆者のウェイジャン・シャン氏は、香港のプライベートエクイティ投資会社PAGの会長兼最高経営責任者(CEO)である。

     

     

    (1)「米国と中国の貿易戦争はエスカレートしており、どちらの側にも後退の兆しは見えない。米国は中国からの輸入品500億ドル相当に25%の関税を課し、さらに2000億ドルを対象にする可能性がある。中国側では米国からの輸入品を罰する余地がなくなりつつある(米国の中国からの輸入額は、その逆の4倍だ)。そのため、米中貿易戦争がサービスなどの部門や米企業の多大な中国本土投資に飛び火しかねない。サービス部門では中国側の支出が米国側の4倍に上る」

     

    米中の貿易部門だけを比較すれば、中国の対米輸出は、米国の対中輸出の4倍もあると指摘している。米中が互いに関税引き上げ合戦をすれば、米国が有利で中国が不利である。だが、サービス収支で見ると、米中は逆転するので米国は不利な立場に立たされる。こうなると、「窮鼠猫を噛む」の喩え通りに、中国がサービス部門で米国へ逆襲する可能性が出てくる。ここまで泥沼化すると、米国には奥の手がある。中国企業を米銀との取引禁止にすることだ。これは米国の最終兵器である。「経済の核爆弾」に匹敵するから、中国企業は「即死」するだろう。ZTE(中興通訊)が干し上がったような事態だ。

     

    中国は、ここまで覚悟して米国と対抗するメリットはあるだろうか。中国に非がある以上、米国と妥協することが最善の道である。日本が米国との経済摩擦で妥協を迫られた事情とはワケが違う。中国には技術窃取という「罪」があるのだ。

     

    (2)「中国の指導部はこの紛争への対処で意見が分かれている。市場志向の改革派は、自らの政策により中国と貿易相手国との関係が恒久的に改善すると考えている。だが強硬派は共産党思想の根源を重んじている上、自らの既得権を守りたいため、経済自由化に抵抗している。彼らはドナルド・トランプ米大統領による貿易攻撃で、中国には大きな政府と強い国有企業が必要なことを示す証拠が増えたとみている。中国の改革派を支持することは西側の利益にかなう。しかし、これまでのところ貿易紛争は守旧派の手中にある。中国政府は戦う姿勢を示してきた。米国の圧力に屈したとみられることは政治的に許されないためだ」

     

    国家副主席の王岐山氏は、経済改革派である。王氏が副主席に主任した目的は、米国との関係調整にあるとされている。その王氏が表面に立たないのは、現在の中国が習氏を先頭に守旧派が支配している結果と見られている。習氏が、「中国モデル」とやらの脆弱性に気づくまでは、今の米中のにらみ合いで行くのか。この間に、中国経済はさらにバブルの傷を深くして致命傷になるのだろう。

     

    習氏は、生粋の「左翼=国粋主義者」である。マルクス・レーニン主義を信じ、秦の始皇帝の外交政策である「合従連衡」と「孫子の兵法」を金科玉条としている政治家とお見受けする。彼の政治師匠が、このタイプの人物であるからだ。そうであれば、第二の「毛沢東」と同様に妥協せず、とことん争うかも知れない。習氏が、中国経済を「中国モデル」と自画自賛している狭量さから判断すれば、楽観は禁物であろう。

     

    習氏が、国家主席に就任後の初訪米で、WSJの書面インタビューで、次のように答えている。「見えざる手(市場経済)よりも、見える手(計画経済)を重視する」と。彼は、最初から経済改革の意思がなかったと見るべきだ。

     


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    習近平氏は国家主席に就任後、4年間の政府活動報告で「市場経済重視」の姿勢を見せてきた。それが、今年の活動報告ではなぜか消えている。政府関係者は、書き忘れたと弁解したと言う。年一回の政府活動報告で、そのような事態は考えられない。明らかに意図的な行為である。

     

    中国政府は、市場機能について書き忘れたとすれば、これに対する認識が急速に低下してきたことを裏付けている。中国の現状が、市場機構によって解決できる段階を超えており、権力で強制的に整理しなければならない段階を意味するのだ。「モラトリアム」状況に立ち至っている証拠かも知れない。

     

    習近平氏は、他国に対して「中国モデル」なるものを喧伝している。これは計画経済と強権的政治システムを一体化したもののようだが、明らかに世界の普遍的な価値観への挑戦である。習氏は、そのことを認識しているはずだ。それ故、中国が軍事力を強化して防衛面でも保護を加えるという意味合いであろう。これが、中国モデルの神髄とすれば、世界の政治状況は極めて複雑な局面に立ち至る。中国モデルは、中国政治支配圏の確立を目指しているからだ。「一帯一路」は、この一環である。

     

    中国が、こうした夢を持っているとしても、現在の「中国モデル」は、国際競争力を持ちうるか。そういう検証をしなければならない。対GDP比での経常収支黒字は最近、急速な衰えを見せているからだ。最近のデータを示したい。

     

    暦年    対GDP比の経常収支黒字(括弧内は日本のデータ)

    2010年 3.92%(3.88%)

      11年 1.81%(2.11%)

      12年 2.515(0.96%)

      13年 1.54%(0.89%)

      14年 2.24%(0.76%)

      15年 2.71%(3.05%)

      16年 1.80%(3.80%)

      17年 1.37%(4.01%)

      18年 1.18%(3.76%):IMF予測

     

    この中国データでは、ここ3年間の対GDPの経常収支黒字比率が悪化している。今後の予測でもさらなる悪化が確実に見込まれている。改善見込みはゼロなのだ。その理由について、このブログで繰り返し指摘してきた。所得収支とサービス収支の改善が全く見込めないことだ。ここで、日本の値が2012~14年まで1を割り込んでいることについて説明しておきたい。これは、円相場の急騰で貿易収支が大幅に悪化した結果だ。その後は、完全に経常収支構造が変わり、為替相場と無縁に近い経常黒字構造ができあがっている。中国のような懸念事項はなくなっている。

     

    中国が、対GDP比で経常収支黒字低下に直面している背景は何か。習近平氏が、自慢して止まない「中国モデル」は、ポンコツ状況にある何よりの証明である。経常収支黒字比率の低下は、設備投資効率の低下(限界資本係数の上昇)という形で把握可能である。限界資本係数の意味は、経済成長1単位を生み出すのに必要な資本投入単位という意味だ。設備投資効率の高い経済では、少ない資本投入で高い経済成長が実現する。

     

    中国の場合、2009年~11年の限界資本係数は5.0である。極めて高いのだ。それが、2015年には6.8にも跳ね上がっている。つまり、投資効率が悪化している。これが、対GDPの経常収支黒字比率を悪化させている背景にあるはずだ。習氏が、こういう非効率経済を「中国モデル」と呼んで自慢しているとすれば、完全な「裸の王様」に祭り上げられている。

     

    祭り上げた張本人は、党内序列5位の中央政治局常務委の王滬寧(ワン・フーリン)氏であることは間違いない。習氏と王氏は、ともに経済を系統立てて学んだことがないはずだ。国粋主義の二人は、詳細な内容をチェックせずに「中国モデル」を自画自賛して舞い上がったのであろう。

     

    中国は、経済活動を政府がコントロール「社会主義市場経済」を標榜してきた。これは、国家資本主義と呼ばれているシステムである。これまで、中国の経済改革派は、この「国家資本主義」形態を市場経済に近い形に移行させるという「体制移行」を目標に掲げてきた。

     

    実は、習氏の「中国モデル」はこの体制移行を拒否する考え方である。習氏が国家主席に就任1期目は、「体制移行」を臭わせてきた。「市場機能の重視」はそれを意味していた。ところが、今年の政府活動報告でそれが消えたことは、「体制移行」を否定し国家資本主義どころか、社会主義への復帰を宣言したと受け取るべき事態になった。これを演出したのが、前出の王氏である。

     

     


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