習近平氏が、世界地図を塗り替えるほどの勢いで始めた「一帯一路」計画は、その杜撰さと「中国第一主義」が見透かされ失速状態に陥っている。当初は、アジア各国のインフラ投資不足を解消してくれる「救世主」と期待がかかった。だが、過剰融資と不確かな採算見通しによって、「債務漬」にされる実例が頻発している。中国は、弁明に大童だが時すでに遅しだ。
アジア各国は、「一帯一路」計画を新植民地主義と警戒し始めている。これは、中国にとって大きな誤算である。中国は、「一帯一路」計画で相手国へ恩を売り、かつ中国経済圏へ取り込み、地政学的な利益まで丸ごと手に入れるはずだった。それが、大逆転を食らった感じである。アジア各国を甘く見た結果、しっぺ返しを受けている。
『ブルームバーグ』(2月8日付)は、「一帯一路かじ取り多難、『新植民地主義』と反発、アジアで凍結や縮小」と題する記事を掲載した。
(1)「マレーシアのマハティール政権は先月26日、政府系投資会社ワン・マレーシア開発公社(1MDB)をめぐる汚職疑惑で退陣したナジブ前首相が進めた「東海岸鉄道(ECRL)」計画を凍結すると発表した。810億リンギット(約2兆1764億円)に上る事業費が『財政能力を上回る』ことを理由に挙げた。シンガポールのシンクタンク「シンガポール国際問題研究所(SIIA)」の上級研究員、胡逸山氏は『中国はインフラ開発で経済成長を推進するという自国モデルを輸出するのが難しいことを学びつつある』と指摘した」
(2)「パキスタンも620億ドル(約6兆8000億円)規模の一帯一路関連プロジェクト「中国パキスタン経済回廊(CPEC)」で中国からの融資削減を決定した。資金負担が理由という。ミャンマーは、中国のCITICグループがチャオピュー経済特区で75億ドルをかけて建設予定の深水港建設計画の規模を縮小する方針を発表。政府投資委員会(MIC)のタウン・トゥン委員長は「返済できないほどの資金は借りない」と述べ、差し迫った必要がないインフラの工事は行わないと表明した」
「一帯一路」の綻びは、マレーシアから始った。マハティール政権が、「一帯一路」計画について見直しの狼煙を上げ、中国がそれを受入れるや一斉に他国へ波及した。ドミノ現象だ。
中国は、「インフラ開発で経済成長を推進する中国モデルの輸出が難しいことを学びつつある」と指摘している。中国が行なった初期インフラ投資は、日本のODA(政府開発援助)資金で行なった。「低利・長期返済」という有利な条件であったから財政負担にならず、中国が外資を呼び込む上で大きな力になった。
中国の「一帯一路」は、「高利・短期返済」によるインフラ投資である。日本のODAは相手国の利益第一主義を貫いた。中国は、自国利益第一主義である。破綻して当然である。
(3)「シンガポールの政府系シンクタンク『東南アジア研究所(ISEAS)』の調査によると、『一帯一路は東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国を中国の領土に一段と近づける』との回答がほぼ半数を占めた。同研究所は、『中国が(自ら有利な秩序の構築を目指す)歴史修正主義大国になるとの各国の懸念を考えると、調査結果は同地域にとり深い意味を持つ』と話す。また、シティグループのまとめによれば、昨年、ASEANの6大国で新規大型投資や建設計画が金額ベースで半減し、192億ドルと4年ぶりの低い水準にとどまった。シティのアナリストらは『決定権を握って地政学に基づいた戦略を押しつけるような中国の態度は、かえって東南アジア諸国の神経を逆なでし、反発を招く』と説明する」
アジア諸国は、「一帯一路」が遅れたインフラ投資にカンフル剤となるという期待を掛けた。それ故、南シナ海での中国の国際法無視の行動に目を瞑っていた。だが、「一帯一路」がまやかしの「高利貸し商法」であることに気付いたのだ。中国は、アジアで信用を失った以上、それを取り戻すことは難事であろう。「中国が歴史修正主義大国」という認識が深まったのだ。毛沢東時代に得た中国への信用は、習近平氏の振る舞いではげ落ちたと言える。中国を取り巻く状況は急変しつつあると見るべきだ。





