「ハラスメント」問題が、世界的な注目を浴びている。優越的な立場を利用した嫌がらせである。すでに、「ME TOO」はセクハラ告発で記号化した。こういう問題だけでなく、職場でも上司が部下に発する言葉や処分によって、相手の人権を著しく侵すとして訴訟まで発展するケースが増えている。ハラスメントのない「明るい職場」をつくるには、まず上下関係の壁を取り去ることが前提のようだ。
サッカーW杯の日本代表チームを率いた西野朗監督は、相手の話をじっと聞くタイプと言われる。選手との意思疎通をはかる「名手」と報じられた。だから、日本代表監督として「緊急登板」しても、見事に選手のハートをわしづかみにし「ベスト16」まで駒を進められた。テレビ画面を見て愕いたが、スタッフを交えた選手との合同写真の撮影前、遅れてきたスタッフが、わざと西野氏の膝に座って笑わせるシーンがあった。名監督になるには、肩書きを振りかざし「威張り」ちらしてはならない。そういう教科書がここにある。
企業内ハラスメント発生の背景には、二つの側面が考えられる。
第一は、企業内の命令伝達経路の変化だ。日本企業はピラミッド型である。トップの意向が、部長、課長、次長、社員という形の「上意下達」である。これは、社内で権限の大きい者が基点となって意思伝達が行なわれる。実は、この伝達経路は軍隊式であって、部下は上官に対して「絶対服従」を要求されるスタイルだ。自由な空気の下で育った人間には耐えられないことであろう。上役を職名で呼ぶのでなく、「さん」付けで十分。そうした職場環境に変えることだ。
このピラミッド型は、意思疎通が悪いという欠点がある。そこで、今後の意思疎通は「円環状」が適切なものとして推薦されている。かのドラッカー博士が著書に残しいているのだ。ドラッカー博士は、21世紀型の理想的な経営システムは、NPO型になると喝破している。NPOは、上下関係のない組織である。ボランティアが最も嫌うのは、上からの命令である。文字通り「ボランティア」(自主的な参加)である。このボランティアに対して、ピラミッド型の組織原理を持ち込むのは「NG」だ。
第二は、過去の就職難時代に「体育会系学生」が珍重された後遺症である。上司の命令に絶対服従することを「売り」にしてきたもの。今回の日本大学アメフト部の違法反則問題は、「体育会系文化」の抱える問題点をさらけ出している。「個」を抹殺した体育会系文化でなく、「個」を生かした体育会系文化が求められているようだ。
旧来の体育会系文化に悩まされている一流企業がある。
『ブルームバーグ』(7月3日付)は、「三菱モルガン社長がハラスメント根絶を決意、体育会的文化が温床」と題する記事を掲載した
「三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荒木三郎社長は、ブルームバーグの取材に応じ、同社がハラスメント問題に直面していることを明らかにし、その根絶に向けて取り組む決意を表明した。背景には、同社内の『体育会的文化』が温床となっているとの認識を示した。三菱UFJフィナンシャル・グループでは、東京とニューヨークで2件のハラスメント訴訟が起きている。同社は原告らの主張内容を否認している。三菱モルガンは6月までに大規模なハラスメント防止研修を実施し、7月から社長自身が全国を回り直接社員に撲滅を訴えていくという」
「三菱モルガンの人事部は5月下旬、『ハラスメント防止研修の実施』について部店長などに通達。副参事以上の社員に25分のDVDを視聴させ、ハラスメントを行っていないか、容認していないか、どうしたら職場からなくすことができるか、議論するよう指示した。ブルームバーグが入手した社内メモで明らかになった。同社は、部店長らにハラスメント研修と、その後のディスカッションの内容を6月中旬までに人事部に報告するよう指示していた。ただ、社外などに研修内容を漏らすことは厳禁だとしていた」
社名に、「三菱」と「モルガン・スタンレー」がついている。世界で超一流の金融機関の冠である。その企業で、期せずして2件のハラスメント疑惑で社員からの訴訟が発生した。名誉挽回で、体制一新に取り組むという話である。