勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    今年5月、中国人民銀行(中央銀行)総裁が直接、日本銀行総裁を訪問し依頼した日中通貨スワップ協定が、日中財務相会談で正式に合意された。具体的な内容は、3兆円規模で、正式発表は安倍首相の10月訪中の際行なわれる見通しだ。

     

    日本は現在、米国、EU(欧州連合)、英国、カナダ、スイスの五ヶ国と通貨スワップ協定を結んでいる。中国は、この中に入れないだけに日本と通貨スワップ協定を結ぶ意義は極めて大きい。韓国も、秘かに日本との通貨スワップ協定を希望している。メンツゆえか、自らは言い出せないというジレンマを抱えている。

     

    『ロイター』(8月31日付)は、「日中が多国間貿易維持で合意、金融協力、速やかにと麻生財務相」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「日中両政府は31日の財務対話で、多国間貿易体制を維持することで合意した。日本円と人民元の通貨スワップを柱とする金融協力についても議論し、麻生太郎財務相は会合後、記者団に「(合意に向けた)作業を速やかに進める」と表明した。日中財務対話を開催したのは昨年5月以来1年3カ月ぶりである」

     

    人民元相場は、いつ売り込まれてもおかしくない状況にある。それだけに、日中通貨スワップ協定が結ばれれば、中国にとってこれ以上ない援軍となる。中国は、米国との通貨スワップ協定は不可能ゆえに、日本へ依頼せざるを得ない事情にある。この日本に対して、再び「悪口雑言」を言えない立場に追い込まれた。それでも、不条理な日本批判をすれば、通貨スワップ協定の期限延長を断るだけである。

     

    (2)「会談では、マクロ経済政策など幅広い分野で意見を交換。自由で開かれたルールに基づく多国間の貿易体制を維持、推進することで合意した。麻生財務相は会談後、『保護主義的な措置による内向きな政策は、どの国の利益にもならない』との認識をあらためて示した。麻生氏はまた『最近の日中関係の改善の流れの中で、きわめて良い雰囲気の中で対話が行われた』と述べた。スワップ協定では3兆円規模での再開で調整を続け、安倍晋三首相の訪中時にも最終合意にこぎ着けたい考え。麻生財務相は『スワップなどいろいろな話が出た。きちんと発表できるようなものにしていきたい」』と記者団に語った」

     

    麻生氏が、「最近の日中関係の改善の流れの中で、きわめて良い雰囲気の中で対話が行われた」と発言するように、中国は低姿勢であったのだろう。日本に通貨スワップ協定を依頼する立場だから当然のこと。頭の高い中国が、日本に対しては今後、傲慢な態度をとれなくなるはずだ。

     


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    日本政府が尖閣諸島を国有化した2012年、中国首相は国連総会で日本を「泥棒」と二度も呼んで侮辱した。日本人が尖閣諸島を所有していたこと自体、日本の所有を証明するもの。その中国が、長いこと日本を外交的に無視する態度を取り続けてきたが、今年に入ってから急旋回している。国営メディアは、一斉に日本批判を抑制して「別人」のような振る舞いだ。

     

    こうした中国による対日外交の変化は、米中関係の悪化が原因である。日米同盟を結んでいる日本との関係を復活させて、対米斡旋の一助になって欲しいという狙いもあるのだろう。この「困った時の日本頼み」という便宜的な姿勢は、実に不愉快な話である。自国の都合次第で外交姿勢を変える中国に対して、日本は一定の距離を置くことが必要だ。いつまた、裏切るか分らないのが、中国の本質と見られるからだ。

     

    ただ、後述のように中国が日本との通貨スワップ協定を依頼しており、その話合いが妥結した。中国は、日本に対して大変な「恩義」を感じなければならない立場になった。日本に向かって、「大言壮語」を慎まざるを得まい。

     

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(8月31日付)は、「トランプ関税がもたらす日中融和」と題する社説を掲載した。

     

    この社説は、極めて日本への理解を示した内容である。中国外交をさまざまに批判しているからだ。現在、中国は大慌てで日本の門を叩いている状況にある。これを冷ややかに眺める論調が展開されている。

     

    (1)「トランプ米大統領の保護貿易政策は、世界中で経済関係の再編につながっている。最たるものが世界2位と3位の経済大国、中国と日本の関係だ。8月31日に北京で行われる両国の財務対話は、積年の緊張関係の後の雪解けを示す最新の兆しだ。和解は歓迎される。だが、それは限界を伴わざるを得ない」

     

    日中財務相の会談結果については、後で取り上げたい。日中通貨スワップ協定がまとまった。中国が通貨スワップ協定を日本に持出している理由は、人民元が大きく売り込まれた際の準備である。円が、世界的に「避難通貨」とされるように、国際情勢に変化が起こると、円が必ず買われる「信頼通貨」になっている。中国も、その強い円と繋がっていたい、と言い出してきたのだ、

     

    (2)「両国間の2017年の貿易は3000億ドル(約33兆円)超、空の往来は毎週1000便を超える。だが、11年に最大の対中投資国だった日本は16年までに5位に転落した。無人島ながら領有権を争う尖閣諸島(中国名・釣魚島)の3つの島を日本政府が購入したことを受けて、中国は12年から対日関係を悪化させ、自業自得の結果に行き着いた。この問題は、戦後の中国と日本の関係に最も深刻な亀裂の一つをもたらした」

     

    ここで、社説は「自業自得」という言葉を使って中国を非難している。歴史的に日本領土である尖閣諸島を、周辺海域に原油が埋蔵されていることが分かって以来、中国領と言い出したその無節操さを批判したのであろう。日本領土を横取りしようと策略を練ったが失敗。日本と疎遠になったが、やはり日本との関係が重要で「ニーハオ」と言わざるを得なくなった。こう言って、中国をあてこすっているのだ。

     

    (3)「中国の李克強(リー・クォーチャン)首相は5月、13年の首相就任後初めて日本を訪問した。中国首相の訪日は10年以降、途絶えていた。両国の『ハイレベル経済対話』が10年ぶりに開かれた1カ月後のことだ。日本の北京駐在大使は7月、両国の『平和友好』条約締結40周年について人民日報に意見記事の寄稿を求められた。この10年間、前例のないことだった。8月31日の協議の議題は13年に失効した通貨スワップ協定の再開だが、実質よりも象徴的な価値のほうが大きい。まだ確定していない18年内の安倍首相訪中のお膳立てにつながるはずだ」

     

    日本のメディアは、安倍首相の政治姿勢を「右寄り」と批判している。習近平氏は、領土拡張主義であるので、国粋主義者の域に達している。この思想的に偏向した国家と外交関係を維持することは、日本として大きなリスクを伴う。深入りせずに中庸を保つ程度の浅い外交関係が必要であろう。濃密な関係樹立は、中国から技術窃取されるなど利用されるだけに終わる。

     

    (3)「日本は、中国とのどのような関係改善であれ最大限に生かすのが賢明だ。それはアジア全体の安全保障の向上につながりうる。また、これが都合次第で翻される中国の冷笑的な方向転換でないことも望まれる。中国、そしてさらに広くアジアにとって最善の道筋は、政治的な都合で方向を切り替えていくのではなく、一貫して日本と関わり合うことだ。中国の当局者がこの5年間、後者の道筋を取っていれば、今になって関係修復をこれほど急ぐことにはならなかったはずだ」

     

    ここでは、中国外交の基本が一貫して日本と関わり合うことだとしている。過去5年間、対日外交を疎かにしてきた空白を埋めようと必死である。対日外交軽視は、中国外務省に「日本課」をなくしたことに現れている。米中関係は、もはや従来のような関係に戻ることはない。中国が、米国覇権に挑戦すると啖呵を切った以上、米国は中国を「仮想敵」と位置づけている。このことから言えば、中国外交は日本との関係を抜きに存在し得ないほどの重要性を持ったことに気付くべきだろう。その中国は、日本が一定の距離を置かないと危険な相手に変わりない。

     

     

     


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    米中貿易戦争は、中国経済に大きな影響を与える。不振を続ける個人消費を刺激すべく、所得税減税をするという。税金と聞くと日本のサリーマンは源泉徴収だから、計算法を知っている人は少ない。会社の経理部の担当者ぐらいだろう。計算は至って簡単だ。

     

    中国が、所得税の基礎控除を引上げて、課税対象者を減らす措置に踏み切る。日本と比べてどの程度の減税になるのか。ちょっと電卓を叩いてみた。

     

    日本も中国も同じだが、毎月の給料が基礎控除以下であれば、無税である。中国は、これまで基礎控除額が月額3500元(約5万6000円)であった。それが、18年10月1日から12月31日までに月額5000元(約8万円)に引上げられる。つまり、月給5000元以下の人は無税になる。

     

    年収に直すと、6万元(約96万)の人は税金を払わなくて良い。日本では、年収65万999円以下の人は無税。中国と比べて基礎控除額が低い感じだが、実際の所得税額を調べて見ると、次のような結果になる。

     

    中国人が、日本で96万円の年収があれば、実際に払う所得税は次のような計算になる。結論を先に言えば、無税である。

     

    日本の税法では、年収96万円に対して先ず、65万円が差し引かれて残り31万円の5%が課税されるベースの所得金額になる。1万5500円が所得金額だが、これが全部、支払う税金とはならない。この所得から差し引かれる諸々の控除がある。一番大きい金額は、誰でも該当する基礎控除が38万円あるので、年収96万円でも無税だ。

     

    やや面倒な話をしてきた目的は、中国の基礎控除額が引上げられても、現実には大きな不満が残っていることを伝えたいからだ。

     

    『レコードチャイナ』(8月31日付)は、「中国の個人所得税法が改正、月収5000元から課税」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国のネットユーザーから『ネット上では明らかに70001万元(約112000円~16万円)とすべきとの声が多かったのに、5000元にしたんだな』『1万元にすべきだな』などの意見が多く寄せられた。また、『5000元では都市部で生活するのは難しい。それなのに税金をとるのか』『税収は先進国並みにし、福祉の話になると発展途上国になる』などのコメントもあり、多くのネットユーザーが不満のようである」

     

    基礎控除額は1万元にしなければ、生活できないと訴えている。

     

    (2)「他には、『別に上げなくてもいいよ。不動産価格を2分の1にしてくれれば、1000元(約16000円)から徴収しても文句はない』という意見や、『5000元に満たない月収の人には手当を出してくれるのだろうか』『税金を払いたいが私は払えないようだ。税金が払えるようになる日が来るのを期待したい』というユーザーもいて、低収入の人もまだまだ少なくないようである」

     

    所得に比べて不動産価格が高すぎる。今の半分の水準であれば、基礎控除額は1000元でも文句を言わない、と訴えている。不動バブルで、最も利益を得たのは中国政府であることは間違いない。これで、軍備の拡張をやってきたのだ。


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    韓国では、健康な男子は30歳前に21カ月間兵役を務めることが、法律で定められている。だが、国際舞台でトップの成績を収めた選手に対して、兵役義務の軽減を認めている。サッカー選手に関しては、オリンピックでの金銀銅いずれかのメダル、アジア大会での金メダルを獲得することが、兵役免除の条件という。

     

    韓国サッカーのスター選手である孫興民(ソン・フンミン)は、あす91日に行われるアジア大会での日本との決勝戦で、兵役免除がかかる「世紀の一戦」になる。そうでなくとも、韓国にとって日韓サッカー試合は格別の意味を持つ。仇敵・日本へ絶対に勝たねばならない宿命を負っている。日本に併合された恨みからだ。

     

    『ウォールストリートジャーナル』(8月31日付)は、「韓国サッカースター選手、兵役免除はアジア大会次第」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「もし韓国が敗れれば、イングランド・プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーのフォワードであるソン選手(26)は、スパイクシューズをしまって、銃の扱いに慣れなければならい。つまり、韓国軍でのほぼ2年間に及ぶ兵役義務を果たすことを求められるのだ。韓国が勝てば、ソン選手は金メダルと宿敵を打ち負かした満足感だけでなく、兵役義務の大半の免除をも手にして、アスリートとしての絶頂期を謳歌することができる。トッテナムの事情に詳しい関係者によれば、同チームは、兵役義務軽減の可能性を念頭に喜んでソン選手にアジア大会でプレーする機会を与えたという」

     

    日本では戦後、徴兵制がなくなったので、ソン選手のような切羽詰まった気持ちがわからないだろうが、韓国の軍隊生活は「虐め」の連続で大変だと聞いたことがある。戦前の日本軍の「しごき」の伝統がそっくりそのまま残っているからだ。「柱に掴まらせて、蝉の真似をして声を出すよう」命じられたこともあるという。文大統領流に言えば、「積弊一掃」の対象だ。

     

    (2)「韓国国内外のサッカーファンは、ソン選手の徴兵条件の行方を、固唾をのんで見守っている。韓国大統領府のホームページには、この件で国民から800件を超える請願が寄せられている。その大半は、兵役免除を求めるものであり、ソン選手の代わりに兵役義務を果たしたいとの申し出も何件かあった。『ソン・フンミン選手の代わりに、私が4年間兵役を務める』という請願もあった。ソン選手は、12年と14年にスポーツ選手として兵役免除の資格を得るチャンスを逃している。韓国代表に選出されなかったからだ」

     

    韓国大統領府への「請願」では、ソン選手について800件もの兵役免除が出ているという。過去2回、兵役免除に該当する試合があったものの、ソン選手には代表選手になるチャンスがなかった。それだけに、年齢的にも今回の日韓試合が最後の舞台になるという。日本としても、韓国の「家庭の事情」を忖度するわけにはいかない。正々堂々と戦って、「日本勝利」をもぎ取って貰いたい。

     


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    トランプ米大統領は中国からの輸入品2000億ドル(約222200億円)相当への関税を、来週に公聴会が終了し次第発動したい考えだと、『ブルームバーグ』(8月31日付)が伝えた。

     

    公聴会では、関税引き上げ反対が圧倒的であったが、不公正貿易慣行是正目的で予定通り実行するもの。米国の国内景気は絶好調であるから、マクロ的な影響はほとんどない見込みだ。逆に、中国経済の打撃が大きく、輸出産業では解雇問題が発生し、財政省は予算措置を講じると発表。株価や人民元への影響は避けられない。

     

    『ブルームバーグ』(8月31日付)は、「2000億ドルの対中関税、トランプ大統領が来週発動を支持」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「トランプ大統領は30日に大統領執務室でブルームバーグ・ニュースとのインタビューに応じ、関税発動計画を確認する質問に対し、「間違いとは言えない」と笑みを浮かべて答えた。半導体製品から自撮り棒まで幅広い品目を対象とした関税計画について、米政府は9月6日まで企業など公の意見を募っている。協議が非公開であるために匿名を条件に話した関係者によれば、大統領はこの期限が過ぎ次第、関税を発動する計画だ。報道を受けて米株式相場は下落し、S&P500種株価指数が節目の2900を試す展開となった。オフショア人民元はこの日の安値を付けた一方、質への逃避の動きが広がりドルと円は上昇した」

     

    8月30日、S&P500種は前日比0.4%下げて2901.13。ダウ工業株30種平均は137.65ドル0.5%)安の25986.92ドル、ナスダック総合指数は0.3%安の8088.36で終わった。上海総合指数は31日、前日比7.6235ポイント(0.27%)安の2730.1132で始まった。米国が中国への追加制裁関税の早期発動を検討していると伝わり、米中貿易摩擦の深刻化を警戒した売りが出ているという。

     

    (2)「関係者の中には、トランプ大統領はまだ最終決定を下しておらず、米政府としては段階的な関税発動を選択する可能性もあるとの見方もある。米国はこれまでのところ、500億ドル相当の中国産品に関税を賦課。中国も同様の報復に出ている。大統領が来週に関税を発表して後日発動する可能性もある。トランプ政権は6月半ばに中国製品340億ドル相当への関税賦課を発表してから実施までに約3週間待っており、その後さらに160億ドル相当に対する関税を8月に発動した」

     

    米国は、2000億ドル相当の関税引き上げを発表しても即日、実行するかどうかは不明である。時間を置いて実施の可能性もあるという。

     

    (3)「中国製品2000億ドル相当に対する関税発動の場合、これまでで最大級となり、米中両国の通商対立が大きくエスカレートすることになる。米中関係の緊張の高まりを懸念してきた金融市場を一段と動揺させる恐れがある。中国は米国製品600億ドル相当への関税賦課で報復する構えを示している。トランプ政権は対象とする中国製品と関税率のリストを取りまとめており、関税率は1025%のレンジとなる見込み」

     

    関税率は10~25%の範囲で決められる模様。


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