勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国人民銀行は、流動性を供給し債券のデフォルト抑制に全力を挙げている。だが、肝心の債券発行の企業体経営は、極端に脆弱化している点を見逃せない。債券格付け機関は、その企業実体を評価する能力がない事実が明らかになった。この一事でも、中国経済の構造的な脆弱性を浮き彫りにしており、立て直しにはかなりの時間がかかるだろう。

     

    中国社会は、見える形のものをつくる能力は、先進国を見て修得した。だが、目には見えないシステムをつくり、それに従って経済を運営する能力は不得手である。情実が絡むからだ。近代官僚制という合理的システムが定着しない理由は、ルールを守ることで損を被る時、それに従わない身勝手さにある。話は飛ぶが、米中貿易戦争の本質は、中国がWTOルールを守らないところから始まった。中国は、ルールを守ると損をする。そう考えて、技術窃取やダンピング行為を繰り返している。この脱法行為は、内外あらゆるところで日常的に起こっている。

     

    中国の格付け機関が無用の長物になったのは、中国政府が債券デフォルトを未然に防いでくれる。そういう前提に立っていたことだ。国家が、最終的に面倒を見てくれるという甘えの構造である。この国家依存症は、国有企業から民間企業まで幅広く行き渡っている。「人縁」によってコネを使えば生き延びられる。どうにもならない甘えが、中国経済の隅々まで染み通っている。現在の債券デフォルトは中国社会の縮図である。

     

    『ブルームバーグ』(8月9日付)は、「中国社債は『ねずみ講』のよう、世界3位に急拡大した債券市場」と題する記事を掲載した。

     

    この記事を読むと、肌寒い思いがするほど、当局・社債発行体・格付け企業の三者が、債券発行の重要性を理解していない事実が明らかにされている。こういう状況で社債発行が急膨張して、デフォルト多発の事態を迎えた。この中国経済が生き残れるだろうか。そういう思いも強いのだ。

     

    (1)「中国本土で今年最悪の社債デフォルト(債務不履行)があった。炭鉱会社の永泰能源である。与信ブームに乗り借金を重ねたが、当局の政策がレバレッジ解消に転じたことが響いてデフォルトを重ねている。7月に入り永泰能源は人民元建て債に関連する支払いができず、総計114億元(約186億円)が不履行となった。7月5日までにまず15億元規模の社債で不履行を起こし、それをきっかけに別の社債13本、計99億元相当がデフォルト状態に陥った。5年足らずの間に有利子負債が4倍の722億元に膨らんでいた同社は、2018年最大の本土社債不履行という汚名を着ることになった」

     

    当局は、企業に対してデレバレッジ(債務削減)の一環として社債発行を勧めた。これで、銀行貸付けが減ったので、表面的には貸倒引当金の計上が減り銀行収益が増えるという操作を可能にさせた。その代わり、銀行債務は社債に置き換えられて、市民が購入して「ババ抜きゲーム」に加えられるという新たな被害者を生み出した。

     

    炭鉱会社の永泰能源の場合、「債券発行のハシゴ」をして歩いている。当局が、これを認可したことは、この企業へ最初に融資した国有銀行を救済する目的で、社債に切り替えさせたことぶよるもの。当局は、国有銀行と「グル」になっており、デフォルトの被害を債券保有者に押しつける「あくどい取引」を行なった。「ネズミ講」と変わらないのだ。

     

    (2)「永泰能源の情報開示担当者が匿名を条件に述べたところによると、中国の資金調達環境の変化が同社に大きな影響を与えたという。経済の国有銀行依存を軽減しようとした政府が、企業に社債発行を促し、中国本土の債券市場は約12兆ドル(約1340兆円)と世界3位の規模に急拡大。しかし、社債の買い手側は信用調査の経験に乏しく、中国の格付け各社も借り手の差別化といった意識に欠け、中国が14年にデフォルトを容認し始めるまで、デューデリジェンス(資産査定)はほとんど行われなかった」

     

    政府は、債券発行を急増させて短期間にその規模を世界3位にまで押上げた。だが、債券発行体を格付けする企業の能力・意識が低く、発行体の資産査定も行なわなかったという。市場参加者全員が、専門知識もないままに集まってきた形だ。それが、中国の社債市場である。

     

     


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    韓国大統領府は、自らの景気判断の間違いを認めず強情を張り続けている。景気は「気」からと言われる。政府が、景気は良いと言っていれば、国民がそれを信じて消費を増やすと信じているようだ。

     

    韓国政府の「原始的」景気観は、OECD(経済協力開発機構)の示す景気先行指数の悪化が否定する。OECDの示す韓国景気先行指数は、6月まで15カ月連続で下落している。これだけの材料が出てきても、依然として「景気は良い」とオウム返しの回答である。

     

    問題は、OECDの発表する各国の景気先行指数の中で、韓国よりも悪化している8ヶ国のうち、なんと7ヶ国が通貨急落に遭遇していることだ。となると、次はウォン相場が急落か、という悪い予感がする。韓国政府は、こんな危険なシグナルが出てきても馬耳東風だ。

     

    『中央日報』(8月13日付)は、「さらに大きくなるOECDの経済危機警告音、韓国通貨危機直後と同様」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「OECDが月別で景気先行指数を公開する38カ国のうち韓国より先行指数が低いのはメキシコ、チェコ、スロベニア、エストニア、ギリシャ、アイルランド、インドネシア、トルコの8カ国にとどまった。アイルランドを除く大部分が最近になり自国通貨の急落のために金融不安が加重されている新興国だ」

     

    OECD景気先行指数は、実際の景気が動く約6~9ヶ月前の状況を示唆するデータだ。6月の韓国の景気先行指数は前月より0.3ポイント下落の99.22となった。100を割っていることは、景気悪化が迫っている信号だ。韓国政府はこれを認めず、自説に固執している。

     

    気になるのは、韓国より先行指数が低いメキシコ、チェコ、スロベニア、エストニア、ギリシャ、インドネシア、トルコの7カ国が、いずれも通貨の急落に直面している。そうなると、ウォン相場も波乱の前兆と見ざるを得ない。

     

    (2)「これ以外の国の景気先行指数はそれなりに良好な方だ。15カ月間に韓国が1.76ポイント落ちる間に日本は0.27ポイント、中国は0.49ポイントの下落にとどまり、米国はむしろ0.32ポイント上昇した」

    韓国政府は、OECD景気先行指数を無視しているが、荒唐無稽なデータではない。各国

    の景気動向をマッチしているからだ。米国の景気先行指数の上昇は、現状の動きから見てもうなずける。「左派政府」の欠陥は、現状を無視し固定観念に固執すること。このパターンが、見事に当てはまるケースであろう。


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    米国のEV(電気自動車)専門メーカーのテスラが、念願叶って100%出資で上海に新工場建設する。テスラといえば、CEOのイーロン・マスク氏が超有名人だ。歯に衣着せぬ発言で、誰とでも衝突する血の気の多い人物である。だが、着想力と実行力は群を抜いている。それだけ、自信がおありなのだろう。

     

    上海進出では、すでに準備が始まっている。

     

    『チャイナレコード』(8月7日付)は、「米テスラの上海EV新工場、3倍の給与で人材争奪」と題して、次のように伝えた。

     

    (1)「中国メディア『21世紀経済報道』(8月7日付)は、米電気自動車(EV)メーカーのテスラが、中国・上海に建設するEV工場について『「テスラはすでに3倍の給与を提示して人材争奪を始めている」と報じた。記事によると、テスラは5日、ウィーチャット(微信)上の公式アカウントで、EPCエンジニアリングディレクターや政府問題プロジェクトマネジャー、建設プロジェクトマネジャー、土木エンジニア、法務・経理・人事スタッフなどの募集を開始した』

     

    工場建設に伴うスタッフの募集が始まったという。テスラという企業イメージは極めて高いので、現地では簡単に募集できるだろう。

     

    (2)「消息筋は、『テスラは3倍の給与を提示し、(中国自動車最大手の)上海汽車集団からも多くの技術者が離れる』としている。テスラは、上海のEV新工場について『当局の認可が下り次第、着工する予定だ。2年ほどで生産が始まる見通しで、年産約50万台の生産能力に達するのはそれから23年先になる見込みだ』としている」

     

    テスラは、3倍の給与を提示しているという。7月の中国自動車販売は前年比4%の落ち込みで、基調的には下降局面に入っている。それだけに、多くの人材が厚遇も手伝い殺到するであろう。

     

    問題は、建設資金調達である。テスラは、米国での上場を止めて、非公開会社にする、というマスク氏の爆弾発言があったばかりである。これまで、赤字でも高い株価で資金を集めてきた。それが、非公開企業になると「高株価経営」が不可能になる。だが、「秘策」があるらしいとの報道が出てきた。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月9日付)は、「テスラ非公開化、その利点と代償」と題する記事を掲載した。

     

    (3)「エバコアISIのアナリスト、ジョージ・ギャリエーズ氏は、テスラが戦略投資家を味方につけ、非公開化だけでなく、海外進出に必要な資金も確保すると予想する。そうなれば、テスラの事業スピードは速まり、従来メーカーはガソリン車からEVへの移行で変革を迫られるという」

     

    マスク氏は、戦略投資家を味方につけているのでないか、という憶測である。上海工場建設では初期投資にどの程度か。中国メディアは、早ければ2019年初めにも着工するとしている。巨大電池工場「ギガファクトリー」のほか、モーターなどの主要部品から車両の組み立てまでを担う拠点になるとみられる。となると、建設資金は相当の規模になるはず。テスラ100%出資であるから、中国が出資するはずはない。さて、注目の戦略投資家は誰か。ソフトバンクの孫氏ということはないのか。

     


     


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    米国企業の人材採用で、応募者のネットへ投稿履歴を調査する動きが広がっている。人種差別など問題発言がなかったかを調べるためだが、ソーシャル・メディアへの投稿が採用の「地雷」となる事態も起こっているという。

     

    日本でも新人材を求めてヘッドハンティングが活発である。「年収××××万円以上」という広告が目につく時代だ。ここで一つ落し穴が出てきたという。過去のツイッターなどに問題発言がなかったか。米国では事前チェックが始まったと伝えられている。いずれ、日本でもそういう時代が来るか。あるいは、すでにこっそり始まっているかも。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月12日付)は、人材採用に新リスク、過去のSNS投稿に『地雷』」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「求人サイト、キャリアビルダーが採用責任者や人材幹部2300人を対象に実施した2017年の調査では、70%が応募者のソーシャル・メディアでの投稿履歴を調べたと回答した。これは前年比60%の大幅増だ。また差別的な発言を見つけ、採用を見送ったと回答も3分の1に上った。ただ、人材採用におけるソーシャル・メディア投稿履歴の調査プロセスは、依然として不透明だ。雇用法や人材の専門家によると、調査が不十分、または調査が行きすぎても、法的なリスクを伴い、会社の評判を落とすことになりかねない。企業の多くは、犯罪履歴の調査や薬物検査について明確な指針を持っているが、オンラインの投稿履歴について一貫した指針を持つ企業は少ないという」

     

    求人サイト、キャリアビルダーがアンケートした結果では、70%が応募者のソーシャル・メディアでの投稿履歴を調べたと回答した。人種差別的な発言が、関心事になっている。米国ならではの事態だ。ただ、日本でも海外に工場やオフィスを展開しているので、「米国の話」と聞き捨てにはできない。最近では、日本企業で韓国の若者が就職するケースも増えている。

     

    (2)「雇用専門の弁護士、ケート・ビショフ氏は、顧客企業に対し、採用決定に関与していない人材部スタッフにソーシャル・メディア投稿の調査を担当させるよう助言している。こうすれば、偏見につながりかねない情報に採用責任者が直接、触れるのを防ぐことができるためだ。不適切な発言を見つけた場合には、人材部社員が通常、応募者に説明を求める。ビショフ氏は『ソーシャル・メディア上での不適切発言を見落とすことで、問題になる事態をより懸念する』と指摘。過去の人種差別的な発言を無視して採用した人物が差別行為をした場合、州によっては、雇用主側が法的なリスクにさらされかねないと述べる」

     

    ツイッターは、本音で語る部分が多い。それだけに、その時は何でもなかったようなことが、後で問題になる。証拠が残る以上、やはり慎重に対応した方がいいかも。ツイッター投稿で折角の転職チャンスを潰すことはもったいない話だ。「それなら、お前は大丈夫か」と言われれば、もう転職という年齢を超えているから、ハイ、書かせ

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    中国経済は今、天王山である。7月31日に財政金融政策を打ち出したが、主体は流動性の供給という金融政策に置かれている。債券のデフォルトは、これまでにないハイペースで起こっており、流動性供給という「カンフル剤」を打たなければ、死屍累々と危機に直面する。中国経済最大の危機と言える。

     

    中国は、財政面で景気テコ入れといってもインフラ投資しかない。住宅投資は限界を超えた。家計債務が可処分所得を大きく上回っており、住宅ローンが個人消費を圧迫する状態になっている。こうなると、打てる手は流動性供給を増やしてデフォルトを防ぐしかない。金融システム崩壊を防ぐのが精一杯である。

     

    中国人民銀行は、7月下旬から流動性供給に全力を挙げていた。その頃の金融情勢は、次のようなものだった。

     

    『ロイター』(7月19日付)は、「中国人民銀が流動性増強、貿易戦争でさらなる金融緩和も」と題する記事を掲載した。

     

    経済の参謀本部に当る中国人民銀行は、負債圧縮目的で借り入れコストの増加を図ってきた。だが、その歪みが出始めたところへ米中貿易戦争が加わった結果、金融は一段とひっ迫化現象を見せていた。こういう緊迫感のある状況が記述されている。この状況を踏まえて7月31日の総合経済対策が発表された。

     

    (1)「中国人民銀行(中央銀行)が金融システムへの流動性供給を増やし、中小企業への信用供与を強化している。負債圧縮の取り組みによる借り入れコスト上昇で製造業生産や設備投資が鈍化し、元から景気の勢いが失われつつあったところに米国との貿易紛争が追い打ちを掛けたためだ。人民銀は今後も一段と金融緩和を進める見通しだ。事情に詳しい関係者が18日明らかにしたところによると、人民銀は市中銀行向けの流動性促進策を導入する方針。銀行に融資拡大を促し、地方政府傘下の資金調達会社である融資平台(LGFV)や企業などの発行する債券への投資を増やすのが狙い」

     

    人民銀はこの段階で、一段の金融緩和を行なう方針を固めていた。借り入れコストを引下げて設備投資のテコ入れを図る。また、債券市場の流通利回り引き下げを目指していることが窺える。債券デフォルトが多発しており、これを鎮めない限り不安心理の高まりを防げないからだ。当局は、企業に債券発行を促してきた手前、デフォルト多発化を防がねばならない義務感に迫られていた。

     

    中国には債券発行に不可欠な格付け企業が未発達という根本的な欠陥を抱えている。正しい格付けができないという、あってはならない能力不足を露呈しているのだ。GDP世界2位の国家ではあり得ない「珍事」が多発している。要するに、経済発展の基盤がないままに無軌道に発展した経済に過ぎない。こうなると、経済危機の深化は瞬く間に進むに違いない。

     

    『ブルームバーグ』(8月8日付)は、「中国金融市場の資金調達コスト、数年ぶり低さー人民銀は流動性支援」と題する記事を掲載した。

     

    (2)「景気減速や貿易戦争絡みのリスクを踏まえ、中国人民銀行は流動性を支援している。上海銀行間取引金利(SHIBOR)翌日物は1.58%と、2015年8月以来の低水準を付けた。中小規模の銀行にとって命綱である譲渡性預金(CD)金利は過去最低水準にある。為替フォワードや銀行間の借り入れコスト、国債利回り、金利スワップも似た状況となっている」

     

    中国人民銀行は、必死の流動性供給をしている。これにより、銀行間取引金利は15年8月以来という3年ぶりの低水準に落ち着いた。ほぼ全ての金融指標は、中国金融市場の資金調達コストが目立って低くなっていることを示す結果になった。この慌てふためきぶりのなかに、中国経済の直面する現実がある。「世界覇権論」を唱える中国経済の強さは、どこを探しても見当たらないのだ。

     

    金融テコ入れは、カンフル剤に過ぎない。これで、中国経済が立ち直るわけでない。困難な呼吸状態が、少し改善するということだ。根本にある過剰債務状況の改善も、売上高が増えることでもない。単なる時間稼ぎである。延命だ。

     


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