勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    きょう、記事で伝えた中国複合大手の海航集団(HNAグループ)のニューヨーク市にあるビル売却問題は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月11日付)の報道によれば、米国政府から2ヶ月前に売却命令が出ていた。

     

    問題の背景については、すでに報じた通りである。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月11日付)は、「中国企業にNYビル売却命令 トランプタワー近隣」と題して次のように伝えた。

     

    (1)「米政府は中国の複合企業、海航集団(HNAグループ)に対し、トランプタワーの警備を担当するニューヨーク市警17分署などが入居する高層ビルの売却を命じた。複数の関係者が明らかにした。対米外国投資委員会(CFIUS)は2カ月前、3番街にある同ビルの売却を海航集団に指示した。理由は説明していないという」

     

    米国政府は、詳細な理由の開示なく、中国の海航集団(HNAグループ)に対して、ビルの売却を命じたという。「米国の安全保障上」という理由以外の説明がなかったのだろう。

     

    (2)「海航集団は、CFIUSUの指示に従って白紙委任信託を設定し、ビルの所有権をこの信託に移管した。信託には独自の取締役会があり、海航集団ではなく信託に対して受託者義務を負う。海航集団はCFIUSの命令を順守するためビルの売却を図っている。期限は設定されていない。公式記録によると、海航集団は2016年、米大統領選の前に21階建ての同ビルの権益90%を取得した。その際、ビルの価値は46300万ドル(現在のレートで約510億円)と評価された。マンハッタン5番街のトランプタワーから数ブロックの距離にある」

     

    海航集団は、CFIUSUの指示に従って白紙委任信託を設定して、ビルの所有権をこの信託に移管したという。つまり、白紙委任であるから価格さえ折り合えば売却ということなのだろう。

     

    (3)「海航集団の広報担当者は、CFIUSと協議を続けているとした上で、特価処分を余儀なくされているわけではないと説明。『3番街850番の差し押さえや強制処分が進んでいるわけでも、差し迫っているわけでもない』と語った」

     

    米国側は、二束三文という特価処分を迫っているわけでない。そんなことをすれば、米国政府が所有権侵害で訴えられる立場だ。そこは、米国も慎重に対応しているのだろう。CFIUSは、中国人所有の他の物件でも「強制売却」を命じる法的な根拠を持っている。今回の例が前例になって、中国人所有物件は売却を迫られる。習氏の「米国覇権挑戦論」がここまで飛び火してきた。大言壮語は慎むべきことなのだ。

     

    日米開戦前、米国在住の日本人はFBIから厳しい尾行が付けられていたという。今回のビル売却命令は、それに近い雰囲気を感じる。中国は、明らかに米国の「敵」と位置づけられた。これに伴う中国の不利益は莫大なものになる。中国は、米国を追い落とす、と宣言した。その「報復」が始まったと覚悟すべきであろう。


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    韓国政府は、封建時代の悪代官そっくりである。最低賃金を2年間で30%も引上げる。信じがたい政策を行なうからだ。暴挙といって差し支えない。間違った経済学を信奉している結果である。だから、当局に罪の意識はない。民の暮らしが分らず、年貢を大幅に引上げる。まさに現代の悪代官が、韓国政府である。

     

    文大統領の支持率が、つるべ落としになって目が覚めたらしい。今年と来年の最賃引き上げ幅は変えないと強情を張っている一方、最賃の引き上げ法の改善を認める兆しが見えるという。過ちをすぐに糺すは政治の基本のはず。悪代官だから、メンツにこだわっているのだ。

     

    『中央日報』(8月10日付)は、「『私たちだけ国民としての扱いを受けてない』と小商工人が呼び掛け」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「急激な最低賃金引き上げは、大統領支持率下落に繋がった。2カ月前には80%を越えていた支持率は昨日、58%に急落した。就任後最低水準だ。沈んだ景気と、イマイチな電気料金割引なども原因だが、支持率下落の主な原因は最低賃金だった」

    現金なものだ。自らの支持率が下がれば保身の術で改善に動き出す。普段、言っているきれいごとが、全て噓に見えるから不思議である。

     

    (2)「この中で幸いにも、青瓦台(チョンワデ、大統領府)と政界に変化が見え始めている。新任の印兌淵(イン・テヨン)青瓦台自営業秘書官は一昨日、ラジオで業種別の差別適用の可能性を示唆した。イン秘書官は、『今、自営業者が危機に陥っているのに、最低賃金はこれから2年にかけて30%近くまで引き上がる。これは首まで水に浸かった状況で口と鼻を防ぐようなことだ』と述べた」

     

    大統領府が急遽、新設した「自営業秘書官」(小商工業者出身)が、最賃決定をこれまでの1年1回を2年に1回にしたい。業種別の最賃制にしたいなどとラジオで発言した。大統領府の了解を得た上での発言だろうか。日本の最賃は、小幅引上げで都道府県ごとに異なる。この例が参考にされている。

     

    (3)「野党自由韓国党の金学容(キム・ハギョン)国会環境労働委院長も、最低賃金を2年に一度調整するようにする法改正案を準備中だ。最賃委員会の全委員を国会が推薦し、労働者・使用者委員に零細自営業者とアルバイト生代表などが多数参加させ、業種別に異なる最低賃金を適用するのが柱だ」

    最低賃金委員会の委員も選出方法を変えるという。政府のお手盛りを廃して国会が推薦する制度に変えたいという。零細自営業者とアルバイト生代表も参加した、現場での生の声を反映させる、としている。悪代官が一方的に決めるのでなく、「農民代表」も最賃委員会の委員にする案だ。


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    米国は、中国に対して一段と強硬姿勢を見せている。米政府の外国投資委員会(CIFUS)はこのほど、中国複合大手の海航集団(HNAグループ)のニューヨーク市にあるビル所有権を調査した。

     

    米政府機関が唐突に、NY市のトランプタワーの周辺にある中国の民間企業所有ビルの所有権調査を始めた意図は、中国政府のスパイ行為を警戒し始めたことが原因であろう。憶測の域を出ないが、中国人所有ビルがトランプタワーの周辺にあれば、いかなるスパイ行為でも自由に行えるはずだ。

     

    『大紀元』(8月11日付)は、「米当局、トランプタワー近くの中国HNA所有ビルを調査」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「HNAが所有する21階の同ビルは、同市マンハッタン3番街850号に位置する。HNAが発表した声明によると、CIFUSはビル所在地の「特別な事情」で調査を始めた。報道によると、トランプ米大統領の自宅を構えるトランプタワーの周辺1マイル以内にある2つの警察署のうちの1つは、HNAのビル内に入居している。HNA2016年同ビルを購入した際、トランプ大統領はまだ就任していなかった」

     

    HNA所有ビルには、警察署が入居しているという。これは、中国が機密情報を得るには絶好の場所である。付近には、トランプ大統領の自宅がある。この立地条件を考えれば、米政府が神経を使うのは致し方あるまい。

     

    (2)「米紙『ニューヨークポスト』は8日、トランプ政権はCIFUSを通じて、HNAのビル所有権を取り上げようとする意図があるとの見方を示した。しかし、HNA側は、米政府から強制売却の指示は受けていないと否定した。米の財務長官をトップに据えるCIFUS16の政府機関が参与している。CIFUSは大統領に対して、米国家安全保障を脅かす可能性のある外国投資を批准しないようアドバイスを行う。米『ボイス・オフ・アメリカ』(VOA)は、トランプ米政権が審査中の中国企業による投資だけではなく、すでに実現した中国投資に対しても、今後見直す可能性が高まったと分析した」

     

    米政府の外国投資委員会(CIFUS)は、米国家安全保障を脅かす可能性のある外国投資を承認しないようアドバイスする権限がある。このCIFUSが調査に当っていることは、米国の安全保障を損ねる行為への警戒だ。CIFUSはまた、すでに所有権を取得している中国人の物件についても見直す可能性があると報じられている。中国資本の総点検が始まれば事実上、中国資本の米国進出は困難になろう。中国にとっては痛手である。

     

    (3)「米政府は今年4月、HNAによる米ヘッジファンド『スカイブリッジ・キャピタル』の買収案を却下した。HNA傘下企業の北京喜樂航科技有限公司による米同業のグローバル・イーグル・エンターテインメントの買収案も承認しなかった。グローバル・イーグル・エンターテインメントは航空機内の音楽・ビデオなどコンテンツを提供する会社である」

     

    米政府の中国資本に対する警戒は、すでにHNAによる米ヘッジファンドの買収案を却下(今年4月)で明確になっている。航空機内の音楽・ビデオなどコンテンツを提供する会社の買収案も拒否した。米中貿易戦争の本質が、中国による「米国覇権挑戦」が原因であることは明確だ。中国の「米国打倒戦略」は、緒戦から躓いた形である。


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    中国の7月の乗用車販売に急ブレーキがかかった。前年比4%減である。1~6月までの累計では同4.64%増であった。7月は、この増加分を帳消しにする落ち込みである。この中で、日系車はホンダを除けば健闘している。データは、中国汽車工業協会調べ。

     

    トヨタ 前年比10.2%増

    日産      9.5%増

    ホンダ     6.7%減

    マツダ     5.0%増

     

    7月の乗用車販売不振の理由について、次のような見方がある。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(8月10日付)は、「中国の自動車販売失速、投資家は注意を」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「通商政策を巡る米中の応酬が激しさを増しているが、販売低迷の原因はおそらく国内に起因するだろう。中国当局が進めるシャドーバンキング(影の銀行)に対する締め付けだ。中国消費者は車購入でローンの依存を強めており、金融環境の引き締まりは自動車メーカーにとっては販売の足かせとなる。価格帯が低・中程度の市場をターゲットとする現地メーカーへの打撃がとりわけ大きいようだ。高めの車には手が出ない層は、一般的な借り入れ手段以外から購入資金を手当てする傾向が強いためだ」

     

    影の銀行から融資を受けて乗用車を購入していた購買層は、最近の金融逼迫の影響を受けているという。これは、価格帯が低・中程度の市場をターゲットとする現地メーカーへの打撃がとりわけ大きく出ている。正規の金融機関は、高所得層を対象に貸出すので、上級クラスの車種販売に影響が少ないと、次のパラグラフで指摘している。

     

    (2)「ネットを介して個人の資金を融通す『ピア・ツー・ピア(P2P)金融』の破綻が相次いでいることも、地方都市で自動車販売を押し下げているようだ。一方で、BMWやメルセデスなど高級車の販売状況は相対的に良好だ。富裕層はメーカー系列の金融会社や銀行から融資を得ることができる」

     

    日系車の販売が概ね良好だったのは、金融面での対応が上手くいっている証拠であろう。ただ、そうなるとホンダのみが不振であった理由が気になる。ホンダは、中古車価格が最も高いことで有名である。


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    中国の「一帯一路」戦略は、共産党序列5位の王滬寧(ワン・フーリン)中央政治局常務委員の発案である。この王氏は、「米国覇権挑戦論」を習近平氏に勧めた人物である。この王氏の発想から判断して、「一帯一路」が米国覇権への挑戦として始められた「大事業」であることが分るはずだ。

     

    昨年5月、「一帯一路」シンポジュームが北京で開催された際、欧州各国から代表が参加した。その折、共同宣言をめぐり中国が妥協せず、欧州各国は署名せず帰国した一件がある。中国が妥協を拒んだのは、「一帯一路」が中国の「米国覇権挑戦」と深く結びついていたからにほかならない。

     

    このような視点で「一帯一路」を見ると、経済的な合理性は二の次であり、中国の政治勢力拡大が最大目的であったことが分る。実は、中国の対外負債は昨年、約5550億円も増えている。この外部調達で得た資金を、あたかも自己資金のように装って「一帯一路」でばらまいていたのだ。中国は昨年、日本に対して火のついたような慌てぶりで、「一帯一路」参加を求めて接近してきた。この裏には、日本を利用して資金の肩代わりを狙っていたのであろう。日本側は、こうした裏事情を察知したのか、「一帯一路に参加はするが日本のペースで」と釘を刺して、直接的な関わりを回避した。正解であった。中国の目論見では、日本を「財布」代わりに利用したかったはずである。危ないところだった。

     

    中国の無軌道な融資は、相手国を過剰債務に陥れるリスクが高い。このことから、IMF(国際通貨基金)や世界銀行が積極的に融資して、中国の「毒牙」から守る動きを見せている。こうなると、中国の対外的な評価はガタ落ちだ。ここまであくどい貸付けを行って、自らの権益拡大を狙っていたとは、なんともおぞましいという一語である。

     

    中国は、相手国の関心を引くために大型融資話を持ちかけるが、実際には実現にいたらない「空手形」が多いのだ。相手国は、融資してくれるものと期待を膨らますが、満額融資は口約束に終わる。前述の通り、中国は昨年5550億ドルの対外債務を増やしている。この資金を、あたかも自己資金のように装い貸付けて利ざやを稼いでいる。まさに、「国際高利貸し」の面目躍如たるものがある。

     

    『フィナンシャルタイムズ』(8月9日付)は、「中国、南太平洋で援助拡大 債務危機招く恐れ」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「中国は、南太平洋地域で第2位の援助供与国として地位を確立、この7年間で60億ドルのプロジェクト資金の提供を約束している。だが新たなデータは、南太平洋諸国が中国から約束された資金援助の2割弱しか受けていないことを示している。資金は主として道路や工業施設の整備に充てられている。シンクタンクの豪ローウィー研究所の調査報告書によると、そうしたインフラ事業は往々にして中国の影響力拡大と貿易の促進を目的に立案される。実施までに時間がかかり、市場レートより低利での融資の形を取ることが多いという」

     

    中国は、この7年間に南太平洋地域で60億ドルのプロジェクト資金の提供を約束している。だが、南太平洋諸国は中国から約束された資金援助の2割弱しか受けていないという。最初は、大風呂敷を広げて相手国を煙に巻く。台湾と断交させ、中国と国交を結ばせる狙いが込められていたのだ。いざ、中国と国交を結ぶと、約束の融資は実行しない。いかにも「中国流」の話だ。

     

    (2)「南太平洋地域での最大の援助供与国は依然オーストラリアで、2011~18年に67億2000万ドルの資金援助を約束し、65億8000万ドルを支出している。『中国は多くを約束しているが、そのすべてが支出されるかはまだわからない』と同研究所のアナリスト、ジョナサン・プライク氏は言う。太平洋の島国に対する援助総額145億1000万ドルのうち、中国は8%しか投資していないと同氏は指摘する」

     

    中国の「大言壮語」は、磨き抜かれたウソが大半である。太平洋の島国に対する援助総額145億1000万ドルのうち、中国は8%しか投資していないのだ。中国は、外部から調達した資金の投資だから、いざ融資の段階になると二の足を踏むのだろう。だが、相手国にめぼしい担保があれば別である。その担保を狙って過剰貸付けをして返済不能と見れば担保を差し押さえる。世にも薄情な高利貸しに変貌する。南太平洋地域には、中国の狙う価値のある担保物件が少ないのだろう。だが、バヌアツ、サモア、トンガ、フィジー諸国が、中国の毒牙にかかって苦しんでいる。中国は、血も涙もない国である。

     

     


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