勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

     

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    韓国社会は驚くことばかりだ。自己主張だけして相手の立場に配慮しない。賃金交渉はその適例である。労働組合が高い賃上げを要求するのは当然としても、来年の最低賃金引き上げ要求は、何と今年の43%増であった。

     

    最終的には、来年度の最低賃金が1時間あたり8350ウォン(約835円)に決定した。今年(7530ウォン)より10.9%引き上げである。それでも、1割という引き上げは常識を超えている。賃金引き上げは、生産性上昇分でカバーするもの。韓国の経済成長率は3%前後である。これが生産性向上分だ。この経済が最低賃金10.9%を支払えるはずがない。無茶苦茶なことを決めている。政治主導だ。

     

    韓国労働界が要求した「43%賃上げ」という目玉の飛び出るような賃上げ原資は、どこから捻出するのか。そういう配慮は最初からゼロである。誰かが払うのだろう。そういう無責任な要求である。子どもが、地団駄踏んで騒いでいる情景とどこが違うだろうか。

     

    韓国労組は、世界一の戦闘的存在である。経営側がいくら説得しても聞く耳持たぬという

    頑迷さは筋金入りである。ただ、労組だけ責めるのも酷である。大企業が財閥企業であることが大きな影響を与えている。財閥は家族経営である。息子や娘であれば、30代から経営陣入りする。栄耀栄華の生活を送る財閥家族を見れば、一泡吹かしてやりたい。高額の賃上げ要求を吹きかけて困らせてやれ。こういう怨念が働いていると見るのだ。こうなると遺恨試合のようになって来るか。これが、私の韓国労組論である。

     

    最低賃金引き上げは、国家の統一的な最低賃金引き上げである。財閥憎しで仕掛ける企業内賃金引き上げと違い、零細企業での最低賃金引き上げだ。街の小規模企業が支払える賃金であるかが問われるのだ。身近な零細企業の支払い能力からみて、43%もの最低賃金引き上げが可能かどうか。常識で分る話だ。そこへの配慮がないから、ドーンと43%もの非常識な賃上げ要求案が飛び出すのだろう。

     

    零細企業経営者の血の叫びを聞いておこう。

     

    『中央日報』(7月13日付)は、「『私を逮捕しろ』という308万人の韓国小商工人の絶叫」と題する社説を掲載した。

     

    (1)「全国308万人の小商工人が立ち上がった。また最低賃金を大幅に引き上げようとする流れに反発しながらだ。この人たちは来年の最低賃金基準に従わないという『モラトリアム(支払い猶予)』を宣言した。小商工人連合会は昨日午後、ソウル汝矣島(ヨイド)中小企業中央会で記者会見を開き、『今後、小商工人モラトリアム運動を進める』と述べた。また「来年も最低賃金に拘束されず小商工人事業場の使用者と勤労者の間で(最低賃金額を)自律合意する」と明らかにした。最低賃金委員会の決定に従わないという『不服宣言』だ」

     

    国が勝手に決める最低賃金には従わない、という不服宣言を発した。去年の16.4%の引上げでも支払い能力を超えるものとして反対論を繰り広げた。庶民目線を売りにする文政権が、人気取り政治で庶民を苦しめている。

     

    悪法も法なりという。韓国政府は、末端の経営状況を無視した労働界寄りの決定をしている。外面では、最賃引上に理解のある「文政権」を売り込みたいのだろうが、国民を苦しめる「天下の悪法」である。朝鮮李朝と同じようなことをしている。そう思わざるを得ない。


     

     

     



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    中国は、米国から徹底的に嫌われた存在になっている。米中貿易摩擦による対立と、世界26ヶ国の海軍が合同演習(リムパック)する機会から排除された。こうして中国は、世界の孤児という実感がひしひしと伝わってくるのだ。

     

    米海軍が2年に一度、主宰する「環太平洋合同演習」(リムパック)は、6月下旬から8月までハワイ沖で行なわれている。中国海軍も一度は招待されたが取り消された。南シナ海での島嶼窃取による軍事基地化が、米海軍の神経を逆なでしたもの。

     

    今年の軍事演習には26カ国から25000人の兵力、戦艦や潜水艦など52隻、航空機200機ほどが参加している。参加国(〇は初参加国)は、〇ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、〇イスラエル、日本、マレーシア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ペルー、韓国、フィリピン、シンガポール、〇スリランカ、タイ、トンガ、英国、米国、〇ベトナム。

     

    初参加国は、ブラジル、イスラエル、スリランカ、ベトナムの4ヶ国である。ベトナムが参加して中国を排除したのは、南シナ海での中国海軍の島嶼占領と軍事基地化に関わりのあることを示唆する。南シナ海では、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの7ヶ国が参加している。米海軍が南シナ海を見据えていることは明白である。中国包囲網づくりだ。

     

    『大紀元』(7月14日付)は、「環太平洋合同演習に中国スパイ艦、ハワイ沖公海で」と題する記事を掲載した。

     

    中国海軍は、2016年にリパックへ招待された際も、米海軍艦艇同士の連絡用周波数を窃取すべく、訓練計画にない行動をとって顰蹙(ひんしゅく)を買っていた。最初から米海軍のスパイ目的での参加であったのだ。今回は演習から除外されたので、離れた地点からのスパイ行為をしている。中国は、あらゆるところでスパイ活動をする国だ。お里が知れた振る舞いだが、それだけ民度が低いということか。この程度の知的レベルで、世界覇権を狙うのはおこがましい限りである。

     

    (1)「中国は、招待されていない米軍主導の環太平洋合同演習(RIMPAC、リムパック)に情報収集艦を送り、スパイ活動を行っているという。海軍関係者が明らかにした。米太平洋軍報道官チャーリー・ブラウン大佐は13日の記者会見で、11日から、ハワイ周辺の米排他的経済水域(EEZ)周辺の公海で、中国の情報収集艦が活動していると述べた。ブラウン大佐によると、米海軍はこの中国のスパイ艦を監視しているという。『この(中国の)船は米国領海の外にいる』『重要な情報を保護するために必要なすべての予防措置はとっている。船はリムパック実施に影響を与えていない』と大佐は述べた」

     

    「お行儀の悪さ」(南シナ海の窃取)を嫌われた中国海軍が、ハワイ沖へ出張ってきて米海軍の通信用周波数を盗む行為をやっている。軍事にはスパイがつきものとはいえ、ここまで露骨にやるのでは、ますます「嫌われの身」に成り下がるはず。恥も外聞もない行為だ。

     

    (2)「チリ海軍パブロ・ニーマン士官は、『参加するはずのない船の存在が、演習を混乱させる要因になった。とても失望している』『協調の精神に基づく合同演習のなかで、全員が集中して行動することを期待している』と12日、ハワイ紙スター・アドバイザーに語った。オーストラリアのメディアは、中国の情報収集艦が、リムパックに向かうオーストラリア海軍艦艇を追跡していたと報じた」

     

    中国海軍の礼儀を弁えない行動は、潜在的な敵意を相手に抱かせる点で、賢明な行為とは言いがたい。リムパック参加国26ヶ国から軽蔑の念を持たれていることを知らない、哀れさを気の毒に思うだけだ。


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    米中貿易戦争で、中国深圳市のホテルが米国人宿泊客に「25%上乗せ」料金を請求した件は本当だった。当該ホテルは、問題が大きく取り上げられたことから、「否定」したものの従業員はこの事実を認めた。

     

    この件は、中国社会に貯まる「反米感情」を表わしているが、中国では日本に対しても同じような嫌がらせをやっている。尖閣諸島の日本国有化の際、「日本人と犬は入店するな」という看板を出した飲食店があった。さすが、中国社会でも「やり過ぎだ」と批判が高まった。

     

    今回のホテルで「25%の上乗せ料金」を請求したのは、場所が深圳だけにIT企業の集積地ということの影響もあろう。中国のIT製品が、米国から25%関税をかけられることへの不満に触発されていることは疑いない。IT企業は、高収益だけに地元のホテルがいろいろと潤っているのであろう。その上得意のIT企業が、もし米国への輸出で不利になれば、ホテルの経営にも響く。そこで、ホテルが「連帯意識」を表明して、「今後も宜しく」というPRに違いない。それにしても、中国社会らしい「家族主義」の一面が浮かび上がっており興味深い。

     

    『ロイター』(7月13日付)は、「中国深圳市のホテル、米国人に25%の追加料金請求、報道を否定」と題する記事を掲載した。

     

    「中国と米国の貿易戦争が激しさを増す中、米国人宿泊客に対し25%の追加料金を請求すると報じられた中国南部・深圳市のホテルは13日、『われわれは全ての宿泊客を平等にもてなす』として、報道内容を否定した。ただ、3人のスタッフは匿名を条件にロイターに対し、7月12日時点で差別的な料金ポリシーがホテルに掲示されていたが、その後撤去されたと証言した。中国共産党機関紙・人民日報系列の国際版タブロイド紙『環球時報』は12日、『モダン・クラシック・ホテル・グループ』が米国人に追加料金を請求するとの通知を自社ホテルに掲示した、と報じた。同紙がホテルの広報担当者ヤン氏の話として伝えたところによると、掲示されたのは6日だという」

     

    この記事を読むと、米国人に「25%上乗せ料金」を請求していたことは事実である。日本的な謝罪方法では、こういう形の「否定」は最悪・最低である。ウソで固めた話でなく、事実を認めて、その経緯を説明し再発予防策を発表すべきだろう。「25%上乗せ料金」を支払った宿泊客には謝罪の気持ちとして、次回は宿泊費を無料にするぐらいの度量の大きさを見せるべきだ。そうすれば、マイナスがプラスに転換する。このくらいのことは、サービス業としてお分かりと思うが。


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    「雇用大統領」を看板に掲げて大統領に当選した文在寅氏は、就任後に失業者の増加という皮肉な結果となった。最低賃金を一挙に16.4%も引き上げたことが仇になったもの。これだけの最賃引上が可能な企業はわずかで、大半の零細企業はやむなく従業員を解雇する始末だ。最賃の引上げが失業者を増やすというアベコベ政策に、韓国経済界は頭を痛めている。

     

    この文政権は、革新政権だがいたって権力的な振る舞いをしている。経済界から不平不満が出ると、「積弊一掃」という名の下に難癖を付けて威嚇する「トンデモ政権」である。表面的に柔和な文氏だが、取り巻き連中がかつての学生運動の闘士だ。敵陣営をつるし上げる術に長けている。「ああ言えば、こう言う」という連中である。こうして経済政策の失敗を認めようとせず、間違った自説を主張している。

     

    だが、毎月の雇用者増はふるわない結果になっている。10万人台の増加に留まっており、世間の批判が沸騰し出している。これが、ここ4週連続の文大統領支持率低下に現れている。

     

    『聯合ニュース』(7月13日付)は、「文大統領支持率69% 4週連続で下落」と題する記事を掲載した。

     

    査会社の韓国ギャラップが13日に発表した世論調査結果によると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率は前週に比べ2ポイント下落した69%となった。支持率の下落は4週連続。不支持率は3ポイント上昇の21%だった。不支持の理由は『経済・民生問題の解決不足』(45%)が圧倒的に多く、次いで『対北関係・親北傾向』(9%)、『最低賃金の引き上げ』(6%)などが続いた」


    文氏の支持率は、下がったと言ってもまだ69%もある。政権維持にはゆとり充分だが、これまでの「不敗記録」が途切れてきたことは気になるところ。経済問題は、そもそも発想法を間違えている以上、解決の見込みはない。このまま屁理屈を言いつづけ、前政権と経済界を悪者に仕立てて、逃げ切り作戦を立てるのだろうか。浮かばれないのは庶民である。大統領選で、文氏に一票投じた人たちがバカをみるのは気の毒だ。


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    中国は、口では勇ましい対米発言を繰り返しているが、米国との高官協議を始めたい意向を漏らしている。米中の経済力において圧倒的な格差のある現在、粋がって「玉砕覚悟」の徹底抗戦がもたらす被害を考えるようになった。それは、つぎの記事で確認できる。

     

    「中国商務省の王受文次官は7月11日、ジュネーブでブルームバーグのインタビューに応じ、『米中両国が貿易問題を抱えているときは、それについて話し合うべきだ。腰を据えて、現在の貿易問題の解決策を見いだそうとする必要がある』と語り、米国に対し、新たな2国間交渉を通じた対立解消を呼び掛けた。この呼び掛けに対し、米政府関係者は『ハイレベル協議を再開させたいトランプ政権の思惑と一致する』と明かした(『ブルームバーグ』7月13日)

     

    6月上旬の3回目の米中通商協議では合意の見通しが薄れ、その後、両国政府の高官レベルの意思疎通は途切れている。米国の7月10日の追加関税リストは一般からの意見公募や公聴会が終わる8月30日以降に発効する見通しで、米中両国はそれまでに合意を目指すか本格的な貿易戦争を準備するかの判断を迫られていた。

     

    中国が、米中高官協議の再開を模索せざるを得ない事情には、今年上半期の対米貿易黒字の増加がある。中国税関総署が13日発表した貿易統計によると、今年上半期の対米貿易黒字は1337億ドル(約15兆円)となり、前年同期比で13.8%も増加した。対米黒字の増加傾向が続いており、貿易不均衡の是正を求めるトランプ米政権は中国への通商圧力を一層強める状況が生まれている。

     

    中国商務省の最新動向は、『人民網』(7月14日付)で確認できる。

     

    「中国は理性と冷静さを保っており、今後の対抗措置はターゲットをしぼることに重点 。中国の公式データによると、2017年における中国の対米輸出は約4300億ドルで、米国からの輸入は約1500億ドル。商務部の報道官は最近、『米国が新たな対象品目リストを公表すれば、中国は、量的・質的措置を講じ、対抗する』との姿勢を示した。中国商務部研究院の梅新育(メイ・シンユー)研究員は、『米中貿易関係は不均衡であるため、今後はそれぞれ異なる商品を対象にした対抗措置となるだろう』との見方を示す」

    この記事で注目されるのは、米中貿易の不均衡の実態について、数字を用いて説明していることだ。中国の対米輸出は約4300億ドル。対米輸入は約1500億ドルと明示して、暗黙裏に米中間に貿易不均衡があると認めている。これは、国民に向けて米中が話し合いの必要性を示唆しているように思える。


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