勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    ソフトな物腰。社会的弱者に寄り添う姿。どう見ても一国大統領という「厳めしさ」とは無縁な政治家である。弁護士時代に、盧武鉉・元大統領と共同法律事務所を構えた縁で、盧氏に請われて大統領府に入ったのが公人としてのスタートだ。大統領府の水が肌に合わないからと言って、1年余で大統領府を離れている。自由な身を望むなど、根っからの政治家ではない。

     

    こういう前歴が、「国民目線の大統領」として高い支持率を得てきた理由であろう。それもついに賞味期限を迎えた。最低賃金の大幅引き上げがもたらした失業者増加。消費景気の失速が、20代の若者と自営業者の支持を失わせた。「文氏はどこへ行く?」

     

    『朝鮮日報』(7月28日付)は、「文大統領支持率6週続落62%、就任以来最低」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「文在寅大統領の支持率が6週連続で下落した。韓国ギャラップが27日に発表した文大統領の支持率は先週よりも5ポイント低い62%だった。これはギャラップが調査した文大統領の支持率としてはこれまでで最も低い。先月第2週の調査では79%を記録したが、その後6週間で17ポイント下落したことになる」

     

    文氏の支持率が6週間で17ポイントもの下落である。過去最低になった。それでもまだ62%もの支持率を集めている。驚異的である。これまで、北朝鮮問題で高い支持率を得てきたが、この問題は「熱しやすく冷めやすい」ものだ。いずれ、日々の暮らしである国民生活が焦点になるはずだ。私は、「勝又壽良の経済時評」(アメブロ)でこういう診断を下していた。それが、現実になってきた。ただ、それだけである。

     

    (2)「支持しない理由は

    経済政策、庶民生活での問題(37%)

    最低賃金引上げ(12%)、

    北朝鮮との関係、親北的な政策(11%)

    今回支持率が最も下がったのは年齢別では20代でマイナス17ポイント、職業別では自営業者でマイナス12ポイントだった」

     

    支持率低下で目立つのは、20代でマイナス17ポイント、職業別では自営業者でマイナス12ポイントである。20代は就職難が、自営業者は最賃の大幅引き上げによる経営難である。これだけハッキリした理由も珍しい。

     

    (3)「支持する理由は

    外交・安全保障政策(13%

    外交政策がすぐれている(12%)

    北朝鮮との対話再開(12%)」

     

    支持者は、文氏の「親衛隊」と呼べるファンである。熱狂的な層である。文氏が立ち寄った喫茶店では同じ銘柄のコーヒーを頼むという人たちだ。この岩盤支持層が、支持率の下落をある水準で食い止めるだろう。だが、そこからの回復は、経済問題を解決できない限り不可能だ。


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    韓国政府は、今回のラオスのダム決壊事故に対して手早い対応をとっている。建設会社は民間であるが、建設費に政府資金を投入していることから、何らかの責任を免れないからだ。政府は緊急救援隊を現地に派遣したほか、100万ドル規模の救援物資・救援金を支援する。韓国軍も輸送機を利用し、医療チームで構成された「大韓民国緊急救援隊」(KDRT)を派遣する。救援隊は医療スタッフ15人、支援人員5人で構成された。

    韓国政府が先頭に立って救援活動を始めているのは今後、韓国とラオスの外交問題に発展することを想定したものと見られる。

     

    韓国『時事ジャーナルe』(7月27日付)は、「国家的問題に発展する可能性が高い」と伝えた。『レコードチャイナ』(7月27日付)が転載したもの。

     

    (1)「今回の惨事について、記事は『単純にSK建設だけの問題でなく、韓国とラオスの国同士の問題にまで広がる見込み』と伝えている。韓国の文在寅大統領は事故発生後、『救護チームの派遣など、政府レベルの強力な救護対策を立てよ』と指示した。事故の経緯に関係なく、迅速に救護決定したことは『適切だった』との評価を受けているという」

     

    事故発生と同時に、韓国政府が手早く対応をとったことが評価されている。

     

    (2)「また、『今回の問題は韓国政府が外交力を十分に発揮しなければならない事案』と分析する声も出ている。明知大学政治外交学科のシン・ユル教授は、『ダム関連事業にはタイやラオスなど利害関係者が複数いるが、SK建設以外の関係者が同じ立場をとる可能性が高い』とし、『SK建設の手に負えない状況にもなり得る。だでさえ苦しい経済状況を考えると、原因の究明だけでなく、政府の外交的な交渉力が非常に重要な状況』と主張した」

     

    今回のような事故が発生すると、多くの関係国が存在するだけに複雑な問題に発展する危険性も高い。そうなると、当事者のSK建設では手に負えなくなる。法的な問題になることを前提に、外務省が前面に出て解決する姿勢を見せることも欠かせないだろう。

     

    (3)「業界では、『今回の事故でSK建設が100%責任を免れることは難しい』との見方が強いという。また、業界では『もしSK建設の過失が明らかになった場合は、天文学的な賠償をしなければならない』と予想されている」

     

    数千人とされる罹災者への生活補償や住宅建設、決壊したダムの再建費用、周辺国への補償金が発生すれば、もはやSK建設一社の財力では手に負えまい。こうなると、政府の支援が不可欠だ。また、SK財閥の一員ということから、同グループの金銭負担が問題になれば、SKグループ自体の経営に響く事態となろう。


     今回の事故が、複雑な問題をはらんでいる理由は、ラオスの電力が周辺各国へ輸出されているという事情もある。すなわち、「ラオスの電力輸出量の9割前後はタイ向けだ。ミャンマー、カンボジア、ベトナムにも供給している。マレーシアに輸出する計画もある。ラオスから輸入する電力が国内消費に占める割合はタイが1割弱、ベトナムは数%とみられる。タイやベトナムなどには日本メーカーの工場も多い。ラオスからの電力供給が滞れば各国の経済成長の足かせにもなりかねない」(『日本経済新聞』7月28日付)。

     

     

     

     

     

     




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    米国は、4~6月期GDPが年率4.1%増と絶好調である。トランプ大統領は、ますます自らの政策を自画自賛している。確かに、大型減税が設備投資に火をつけており、先行き堅調を予想させる。経済政策の司令塔である国家経済会議(NEC)のクドロー委員長は、「大型減税で潜在成長率が高まるため、インフレは発生しない」と主張するほど。

     

    もう一つ注目すべき動きは、家計貯蓄率が再び上昇していることだ。最新統計では、6.8%と過去の平均まで回復している。貯蓄を取りくず形での消費でなく、消費を増やしながら貯蓄を殖やす理想型になった。

     

    4~6月期のGDPを要約しておく(実質値:年率換算)。

    GDP      4.1%

    個人消費支出   4.0%

    民間設備投資   7.3%

    民間住宅投資  -1.1%

     

    設備投資や個人消費という経済を支える基本要因がしっかりした足取りである。こういう順風を受けて、対中国貿易戦争に立ち向かう気力・体力はともに充実、「いざ、闘わん」というムードだ。対中貿易戦争の指揮官であるライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は7月26日、次のような発言をした。

     

    「ライトハイザー氏は上院歳出委員会で、『われわれが中国との間に慢性的問題を抱えていることは明らかだ』と証言。中国との貿易問題の解決には数年を要すると指摘した。また、中国は『国家資本主義』を用いて開放的な米経済を利用し、米国内の雇用や富を損ねているため、トランプ政権は中国に反撃すべきだと考えていると語った。中国の張向晨・世界貿易機関(WTO)大使は同日、ジュネーブで米通商政策について、『ゆすりや歪曲、悪者扱いは問題解決に役立たない』と語った」(『ブルームバーグ』7月28日付)。

     

    中国の張向晨WTO大使が、米国の強硬姿勢に対して、「ゆすりや歪曲、悪者扱いは問題解決に役立たない」と言って胸の溜飲を下げている。この辺りに、中国の劣勢が明らかに透けて見えるのだ。これまで、中国の他国への交渉姿勢は、まさに「ゆすりや歪曲」の類いであった。久しぶりに攻守所を変えた立場に追込まれたのだろう。

     

    前述のように、ライトハイザーUSTR代表は、「中国との貿易問題の解決には数年を要する」と指摘している。米国が、安易な妥協をしないという決意表明だ。また、ライトハイザー氏が「中国は『国家資本主義』を用いて開放的な米経済を利用し、米国内の雇用や富を損ねているため、トランプ政権は中国に反撃すべきだ」と強調している点にも注目すべきである。中国は「国家資本主義」であり、「市場資本主義」(正式にはこういう言葉はない。資本主義経済は市場メカニズムに基づき営まれる)を食い物にしている悪徳システムである。それ故、断固として中国経済を追い詰める、という認識を表明したと見られる。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(7月28日付)は、「GDPに潜む成長余地、底堅い経済の行方」と題する記事を掲載した。

     

    「米国で4~6月期国内総生産(GDP)の年率4.1%という 高い伸び率である。基調的な傾向を見極めるため、最も変動しやすい3つの項目、すなわち純輸出、在庫投資、政府支出を取り除く。こうして割り出される国内民間消費は年率4.3%増となる。個人と企業の支出拡大が追い風となり、GDPの4.1%増も上回っている。その一部は、人々が減税で増えた所得を消費に回したための一時的な増加かもしれない。それでもこうした(国内民間)消費支出項目は過去12カ月で平均3.3%増と、やはりGDP(2.9%増)を上回る」

     

    GDP統計では、①純輸出(輸出-輸入)、②在庫投資、③政府支出の3つが変動しやすので、ここではGDPから除外して計算する試みをしている。前記の3項目を除外した「国内民間消費」は年率4.3%増となる。個人と企業の支出拡大が追い風となり、GDPの4.1%増も上回っていることが分る。このコラムの筆者は、表題に掲げたように、「GDPに潜む成長余地」が大きいと判断した根拠はここに求めたと見られる。

     

    過去12ヶ月の「国内民間消費」は、平均で3.3%増である。この間の平均GDPの伸び率2.9%を上回っている。米国経済は、民間の自力で動ける態勢である。中国経済のようにバブルまみれの状況とは、180度の違いがある。中国は、この米国と「貿易戦争」をやって勝てると思うはずがない。

     

     

     


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    先ほどのブログで、韓国メディアによる「日本羨望論」を取り上げた。引用コラムは『中央日報』(7月27日付)の「隣国の日本は慶事を迎えているが」である。筆者は、同紙のナム・ユンホ東京総局長だ。

     

    前記のコラムは、前半で日本を取り上げ、後半で韓国に言及している。今回は、この後半にスポットを当てたい。

     

    韓国政治を観察していて気づくことは、妥協のない政治である。現在のように少数与党であっても、「与党は与党」という強気を貫いて、野党を徹底的に追い詰める姿勢をとっているのだ。フランスの文明批評家であるギ・ソルマン氏が、「韓国は大統領が強大な権限を持っている。このため選出された独裁ということができる」と韓国で発言している『中央日報』7月13日付)。

     

    この記事によれば、ソルマン氏は「選出された独裁が大統領の性格や政治傾向のために発生することもあるが、韓国の制度そのものが権限乱用を誘導する下地がある」とし、「権力のけん制とバランスは心理的なものでなく制度的な装置として作らなければならない」と述べた。職権濫用と言えば、強引な最低賃金の大幅引き上げが、韓国経済を破綻に追込むリスクを抱えている。それでも、自説を主張して譲らないのだ。

     

    OECDは、6月に最賃大幅引き上げがもたらす危険性を指摘している。「OECD加盟国でどこも実験したことのない政策である」と。最賃引上は不可欠である。問題は、一度に16.4%(今年)、10.9%(来年)という無謀さだ。日本は3%に留まっており、必ず実行できる前提での引き上げだ。

    『中央日報』(7月27日付)は、隣国の日本は慶事を迎えているが」で、次のように指摘している。

     

    (1)「(文政権は政策を)なぜ変えず、なぜ変わらないのか。単純に無能だと見るには症状がやや重い。まず考えられる仮説は集団思考だ。似た考えを持つ人たちが青瓦台(チョンワデ、大統領府)に集まり、『我々が正しい』という幻想に浸っているのかもしれない。『無誤謬の幻想』は有能であるために陥りやすい罠だ」

     

    我々が正しいと言い張り、「無誤謬の幻想」が許されるのは、フランスの文明批評家であるギ・ソルマン氏の指摘通り、「民主的な独裁を許す大統領制」に帰着するようだ。

     

    (2)「2つ目、硬直した原理主義だ。自分の考えが合理的に受け入れられにくい時もこれを政治的な信念で守ろうとする頑固一徹の姿勢だ。高い支持率の中でも『押されれば負ける』という戦闘心理まで感知される。経済問題を解決する時には柔軟な実用主義が有利だが、本当に残念だ」

     

    これも、「民主的な独裁を許す大統領制」に問題がある。

     

    (3)「3つ目、権力の磁場のためかもしれない。普段は健全な人でも権力側に入れば変わる。羅針盤が極点近くで誤作動するように、だ。教授出身の前経済首席秘書官がそうだった。便宜的な統計で『プラス効果90%』を言って論議を呼んだ。教授だったらそのようなレポートを出した学生に『F』を与えたはずだが、あえて間違っていないという」

     

     権力の持つ魔術性が、ここに現れている。「民主的な独裁を許す大統領制」が原因である。


    (4)「4つ目、この政府が熱烈なサポーターに振り回されているのかもしれない。偉大な名前の団体が一言いえばよく反応する。時には権力がハイジャックされたのではと感じるほどだ。自信がないからか、同じ仲間だからか、何か借りがあるのか。これでもなくあれでもないのなら、これらすべてのことが入り混じった風土病なのかもしれない。これは左派政権に限られた慢性病ではない。権力の力量とビジョンによって避けることも、かかることもある。不幸にも今はひどくかかっているようだ」

     

    文政権の2大サポーターは、労組と市民団体である。保守政権に対しては「反権力」を絶唱するが、自らが権力内部に入り込むと、絶対的な権力を振るう。カメレオン集団である。政権から距離を置くという慎ましさがない。これも、「民主的な独裁を許す大統領制」に原因がある。


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    韓国主要メディアは連日、経済の逼迫化を取り上げている。例の最低賃金の大幅引上げが、零細企業の人件費を押上げ経営を圧迫している問題だ。これが、アルバイトなど非正規雇用者の解雇を引き起こしている。良かれと思って行なった最低賃金大幅引き上げが、アルバイトの解雇をもたらすという「意図せざる結果」を招いたのだ。

     

    韓国文政権が、経済全体の仕組みを理解せず引き起こした問題だが、日本はどうだったのか。アベノミクスが、米欧の行なった異次元金融緩和政策を導入して、経済は急速に好転した。失業率は2%台まで低下し、大学3年生まで「青田刈り」が始まるご時世だ。韓国の大学生が大挙して日本企業へ就職する時代になった。韓国メディアが、「反日論調」を捨てて、日本羨望論を書くまでになった理由である。

     

    『中央日報』(7月27日付)は、「隣国の日本は慶事を迎えているが」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のナム・ユンホ東京総局長である。今年、東京へ再赴任したベテラン記者だ。

     

    (1)「アベノミクス景気は続いている。期間は1965年10月~1970年7月の『いざなぎ景気』、2002年1月~2008年2月の『いざなみ景気』を超えた。もちろん経済が大きく成長したというわけではない。先進国で高度成長は望めない。経済が長期間の結氷状態から抜け出し、一定の体温を維持して定速走行をしていることが重要だ。安倍晋三首相は経済学に精通しているわけではない。デフレ脱却という方向を確実に定めただけだ。その方向性が国民の支持を基礎に実務陣の政策と結合し、国家の意志として貫徹されたのだ」

     

    日本では、安倍政権支持率が「モリ・カケ」問題で大きく下がった。だが、一定の線で留まり底割れを防いだ。これは、若者たちの支持が高かった理由とされている。この世代は、新聞よりもスマホから得た情報を重視する。だから、新聞・テレビの既成メディアがいくら安倍批判をしても、安倍退陣にならなかったと説明されている。

     

    現象面では、この通りである。ただ、就職率は良く転職も自由という現在の日本経済は、大袈裟に言えば「有史以来」である。今の年配者が就職試験を受けるとき、これほどの「売り手市場」の到来を想像しただろうか。若者がアベノミクスを率直に評価するのは、「勉強不足だ」「新聞を読まないからだ」と批判するのは正しいだろうか。若者は、働く場所を自由に選べる時代に生きている。確かに「慶事」であろう。

     

    (2)「韓国政府の経済政策も方向性は確固たるものだった。誤った方向で、だ。このため実務陣(注:官僚)は収拾することが多い。韓国の官僚は本当に忙しい。後遺症・副作用の解決策を考えるのに余念がない。ちょっとした処方はすぐに作り出す。経済という船の船長を引き受けた人も航海戦略について悩むより、水が漏れるところをふさぐのに忙しい。問題の根本原因には背を向けている」

    韓国経済の失策は、アベノミクスと逆のことを行なったからだ。「所得主導成長」と称して、最低賃金を引上げれば、個人消費を刺激して経済は上手く循環すると見ていた。これは、

    正しい政策に思えるがそうではない。賃金にはそれに見合った、あるいはそれ以上の利益(生産性)が上がらなければ、賃金を払えない仕組みである。

     

    利益を上げるには、企業が活発な設備投資をして生産性を引上げることが前提になる。設備投資は、韓国経済の未来が明るい展望を描けて初めて踏み切れる。現在の韓国政府は、「反企業主議」である。これでは、絶望しか待っていない。事実、この4~6月の設備投資はGDP統計によると、前期比-6.6%、9四半期ぶりの大きな落ち込みである。これでは、大幅な最賃引上げは困難であろう。韓国の若者は、文政権を支持していない。就職率悪化が原因であろう。


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