かつてベネズエラは、中南米はもちろん、世界でも有数の豊かな国だった。しかし今、未曽有の経済危機で医療や教育などのサービスが崩壊の危機にある。300万人以上が国を離れたと言われるほどの混乱である。
総人口は、3197万人(2017年)だから、ざっと10%が難民となっている計算だ。インフレ率は1000万%という未曽有の数字に達するという。国連の予測では、今年中に避難民の数は500万人を超え、コロンビアだけで約200万人が流入する深刻な事態だ。
この事態を見かねて、米国は国会議長を首班とする野党の暫定政権を認めた。EU(欧州連合)も、2月4日以降に、米国に同調して暫定政権を認める方針である。
『ロイター』(2月1日付)は、「ベネズエラ、暫定大統領、EU各国が承認へ動くー外交筋」と題する記事を掲載した。
(1)「欧州連合(EU)加盟各国が来週以降、ベネズエラの「暫定大統領」就任を宣言した野党指導者、フアン・グアイド国会議長の承認に動く見通しとなった。EU外交筋2人が1日、明らかにした。ただ、他地域の野党指導者が前例として踏襲する可能性を警戒し、EU外相らは今週、新たな選挙が行われるまでの間に限って、グアイド氏を支持することで一致している。ロイターは、EU外交当局者ら向けの準備文書2種類を入手。それによると、暫定大統領としてグアイド氏『支持を認める』方針だ」
EUは大統領選実施を目指して、10~12カ国の連絡調整(コンタクト)グループを主導することで合意。外交筋によれば、2月モンテビデオで初会合を開く見通しという。EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表によると、英国、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ボリビア、エクアドルなどが参加し、90日以内に成果を出すことを目指す、という。EUがベネズエラの混乱に介入する姿勢を打ち出せば、政情も落ち着くであろう。
さて、米国が暫定政権の後ろ盾になる決意を固めたのは、ベネズエラと密接な関係を持つキューバを「一網打尽」にする狙いがありそうだ。米国にとってキューバの存在は、喉に刺さった骨でもある。その背後に控えている中ロ勢力を、中南米から一掃するという狙いも隠されている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月2日付)は、「ベネズエラ政権転覆狙う米国、次の矛先はキューバ」と題する記事を掲載した。
(2)「トランプ米政権によるベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領に対する失脚工作は、中南米への米国の影響力拡大に向けた新戦略の幕開けを意味する。米政権当局者が明らかにした。その視線の先にいるのはマドゥロ氏だけではない。50年以上も米国が中南米で最も敵視しているキューバのほか、最近同地域に接近しているロシアや中国、イランもだ。米政府はウゴ・チャベス前大統領時代を含め長年ベネズエラを非難してきたが、トランプ政権にはキューバの方が国家安全保障にとってより深刻な脅威だと長年みなしてきた当局者がそろっている。彼らはその理由にキューバが米国で情報活動を展開していることや中南米諸国に反米感情を広めようとしていることを挙げる」
米国は、中国の台頭をきっかけとする安全保障の危機に対して、全方位の警戒姿勢を強めている。米国の足下にあるベネズエラが、米国と50年来の紛争相手であるキューバと深い関係にあることにも神経を逆立てている。これら二国の背後では、ロシア・中国・イランが後押ししている。このように、ベネズエラの「駒」を一つ動かすと、前記の4ヶ国が芋狡式につながっているのだ。
(3)「米政権が狙いとするのは、ベネズエラとキューバの結束を断ち、両体制を転覆させることだ。こうした米政権の強硬化の根底には、オバマ前政権が行った制裁緩和や投資解禁によるキューバとの部分的国交回復を覆したいとの思惑がある。キューバの情報機関はベネズエラ軍やマドゥロ政権の安全保障機構と密接に連携している。ベネズエラはその見返りに、多い時には日量10万バレルにも達した同国の原油を実質無償でキューバに提供している。いずれも国際社会で孤立を深めるなか、ロシアやイラン、中国との関係を強化している」
キューバは、米国を宿敵としている。一応、米国と外交関係を復活したが、それは表面的なこと。あくまでも米国に一矢報いる姿勢を貫いている。トランプ政権は、このキューバとの再断交を狙っているのだ。このキューバと密接なのがベネズエラである。米国が暫定政権を承認したのは当然の動きと言えよう。
(4)「米国の戦略は大きなリスクもはらんでいる。米政権はベネズエラ野党指導者のフアン・グアイド国会議長を支援することでマドゥロ氏を失脚させようとしているが、これが失敗に終わった場合、あるいはベネズエラとキューバの関係を弱体化させられなかった場合、ベネズエラの絶望的な状況がさらに悪化し、米国はこの危機に一段と縛られることになりかねない。ベネズエラでは推定300万人の国民が国外に避難している。また戦略が失敗に終われば、大国に打ち勝った両国に大きな外交的勝利をもたらし、中国やロシア、イランの同地域の影響力も強まる可能性がある」
EUが、ベネズエラの暫定政権承認に動き出せば、米国にとっては有力な援軍が現れる。ベネズエラは、推定300万人の国民が国外に避難している事情から言えば、これを帰国させる名目で、暫定政権承認は理屈立てられる。ただ、失敗すると米国の権威は地に墜ちる。そういうリスクも抱えているのだ。





