中国経済をめぐる話題で明るいものはない。個人消費は停滞予想が強まっている。春節の小売りの伸び率は、前年比8.5%増と2011年以来の低い伸びに止まった。一方、今年の自動車需要の回復説が登場した。これは、まことに得がたい見解で、その根拠を見ることにする。
『サンケイビズ』(2月11日付)は、「今年の自動車市場は持ち直す」と題する記事を掲載した。筆者は、日本総合研究所の関辰一氏である。
(1)「18年の年初には、小型車減税措置の完全終了によって、販売台数が落ち込んだ。排気量1600cc以下の小型車の取得税率は通常10%だが、政府は景気てこ入れのために、15年10月から16年末まで税率を5.0%、17年中は7.5%と低めに定めて自動車需要を刺激。この結果、この2年間の販売動向は11年以降のトレンドから上振れたものの、減税措置が完全終了した18年には逆に下振れる動きが現れた。特に地場ブランドは減税措置による恩恵が大きかった分、反動減も大きかった。さらに年後半には、株安や米国車の買い控えによるマイナス影響も加わり、販売動向は急速に悪化した。だが、次の3点を受けて早晩、販売減少に歯止めがかかり、持ち直しに転じると見込まれる」
小型車(1600cc以下)の取得税(10%)減税は、これまで次のような過程で実行されてきた。
15年10月から16年末まで税率を5.0%
17年中は7.5%へ
18年は10%へ
自動車取得税の計算式は「新車価格(含む増値税)÷1.17(増値税率)×自動車取得税率」である。この算式によると、10%取得税は、次の例に見られるような金額になる。諸戸和晃氏の試算による。
税込新車価格9万元 1923元(約3万700円)
税込新車価11万元 2350元(約3万7000円)
新車価格13万元 2778元(約4万4000円)
新車価格20万元 4274元(約6万8000円)
以上のような取得税がどれだけ減税されるのか。まだ、詳細は不明だが、過去の例から最大限5%程度であろう。問題は、この取得税減税が直接に需要増へ結びつかないことに留意すべきだ。
① 自動車普及率が20%に接近しつつあること。日韓も、20%接近で自動車販売は鈍化している。中国は現在、18%近辺にあることに留意すべきである。
② 減税は、需要の先食いであること。減税を中止すれば、売上が落ちることにそれが現れている。過去の減税で需要の先食いがかなりの規模で進んでいる。
③ 中国の信用機構が破綻しつつあるので、銀行の新規融資が困難になっていること。自動車ローンは高級車にはつくが、低価格車にはシャドーバンキングが貸し手であり、融資が困難な状況。
以上の3点から、私は関氏の主張は実現が難しいと判断する
(2)「第1は、政府による自動車需要刺激策だ。1月29日に中国の中央政府は、「供給最適化による消費安定成長で強大な国内市場形成を促進する実施方案」を発表し、地方政府に対して自動車購入補助金の導入を容認すると表明した。同方案では、補助金の規模は明記されていないが、マクロ経済は厳しい局面にあることを踏まえれば、補助金の規模は一定以上となるだろう。このところは輸入総額急減など、リーマン・ショックが発生した08年、チャイナ・ショックがみられた15年と似た不気味な動きがみられる。このため、景気対策の中でも即効性の高い自動車需要刺激策が求められる局面だ」
地方政府は、財政的に逼迫している。インフラ投資の資金も調達しなければならない。自動車減税にどれだけ財源を回せるか。竜頭蛇尾の恐れが大きい。過去の成長率が高かった頃と状況は全く変っている。
(3)「第2は、米中対立の緩和である。貿易戦争が一段と激化すれば、減速感が強まる内需に加え、外需からも景気下押し圧力が強まりかねない。それを懸念する中国政府は、米国に譲歩するスタンスに転換しつつある。3月に追加の関税引き下げが回避されれば、株価が回復するだけでなく、米国車を買い控えする動きも弱まると見込まれる」
3月に追加関税が見送られても、米中貿易戦争が完全解決するはずがない。米中の覇権が絡む以上、米国は中国包囲網を執拗に展開するであろう。米国は、中国が白旗を掲げるまで、関税引き上げを武器に使って圧迫すると見る。
(4)「第3は、所得水準の上昇による長期的な市場拡大である。今年も、名目所得は年率5~10%程度の上昇ペースを保つとみられる。中国の自動車普及率はいまだ7人に1台と、日本の2人に1台に遠く及ばない。所得水準の上昇を受けて、普及率がさらに高まる可能性が高い。以上のことから、自動車販売落ち込みは短期間のうちに終息すると判断できる。下振れ要因が薄れるにつれ、再び自動車販売は回復トレンドに戻っていくだろう」
このパラグラフは、相当のバラ色に染められている。先ず、中国経済が不動産バブル
による過大債務を負っていること。その認識が100%欠如している。中国が、「中所得国のワナ」に陥るリスクを考える時、「名目所得は年率5~10%程度の上昇ペースで続く」という想定は不可能であろう。
また、「中国の自動車普及率はいまだ7人に1台と、日本の2人に1台に遠く及ばない」という前提も非現実的である。自動車は、「所有」から「利用」に焦点が移っている。シェラリング時代である。ましてや、自動車は個人単位で持つものでなく、家庭単位であろう。自動車の免許証の数ほど、自動車保有台数が増える訳でない。私の結論は、少なくも今年すぐに回復トレンドに乗るのは無理である。家電の補助金は3年間である。これだけの期間、需要は増えないという想定である。自動車も3年は必要であろう。





