中国浙江省といえば、浙江という土地柄ビジネスマインドが旺盛で、昔から「中国のユダヤ人」とも言われているほどだ。先行きを読む能力が長けていると定評がある。
その浙江省出身では、中国経済界を代表する人物の一人に、馬雲(ジャック・マー)アリババグループ創業者がいる。この馬氏は、できるだけ政治から距離を置こうとしているとも伝えられる。自のビジネス感覚を政治によって染められないようにしているのかも知れない。この馬氏は後で取り上げるが、今回の米中貿易戦争に絡む「微妙」な発言をした。今や国際ビジネスマンになった、馬氏の発言だけに重みがあるのだ。
中国国内では、米中貿易摩擦が深刻化し始めて以来、上海株価が下落に転じた。投資家は、中国経済の抱える病根である過剰債務問題が、解決しない上さらに米中貿易摩擦が加われば、中国経済は容易ならざる局面に突入する。そういう危険性を察知したのだ。株価は正直である。リスクが見込まれると下落する。
日本でも、この傾向がハッキリと掴める。太平洋戦争勃発(1941年12月)後は、政府命令で株価テコ入れで上昇に転じた。開戦以前は、盧溝橋事件や国家総動員法、三国同盟など日本の運命に深く関わる事件が起きるたびに、株価は下落している。この伝で言えば中国の投資家も、米中貿易摩擦が中国経済に深刻な打撃を与えることを察知している。
『朝鮮日報』(7月8日付)は、「米中貿易戦争後を見据える中国企業」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の崔有植(チェ・ユシク)中国専門記者 である。
「浙江省のビジネス関係者約200人が6月初め、省都杭州市で総会を開いた。杭州出身の馬雲(ジャック・マー)アリババグループ創業者は演説で、『米中貿易戦争が続く30年間で世界経済の地図は再編される。改革開放当時と似た大きな変化が起き、ここにいる200社の企業のうち生き残れるのは20社ほどではないか』と述べた。政府の輸入拡大政策と中産階級の急成長などで、中国が米国に引けを取らない消費市場に変貌する一方、市場開放で外国企業が大挙して進出し、激しい生存競争を繰り広げるとみられる。情勢を素早く読み、利益に目ざといことから『中国のユダヤ人』と呼ばれる浙江商人は既に貿易戦争後を見つめ、変化に備えている。最近、韓国を訪れた林毅夫元世銀副総裁は、『貿易戦争で中国では0.5ポイント、米国では0.3ポイント成長率が鈍化する』と予想した」
この記事では、中国政府の怒りを買わないように用心深く発言していることが分る。要約すると、次のようになろう。
1. 米中貿易戦争が続く30年間で世界経済の地図は再編される。
2. 市場開放で外国企業が大挙して中国へ進出し、激しい生存競争を繰り広げる。
3. ここにいる200社の企業のうち生き残れるのは20社ほどではないか。
まず、米中貿易戦争は30年間という長期間続くと見ていることだ。米国は簡単に妥協せず、中国への抑制措置を続ける。この結果、何が起こるのかと言えば、中国は国内市場の完全開放を迫られる。その結果、国内企業と外国企業の厳しい競争が始まる。現在は、中国政府の保護政策で国内企業は惰眠を貪っていられるが、浙江省の企業200社は、30年後には20社ほどに整理されてしまう、というのだ。
以上の内容に整理してみると、習氏が宣言した2050年に中国は、米国経済の覇権に挑戦するほど華々しい発展するはず。馬氏は、全く異なる業界地図が描かれている。林毅夫(元北京大教授)氏がまた、「貿易戦争で中国では0.5ポイント、米国では0.3ポイント成長率が鈍化する」と発言している。林氏といえば、超強気の予測をする人物だ。その彼が、ここまで成長率を下げてきたのは初めて。それだけ、中国の受ける損害を自覚したに違いない。ただ彼の指摘する中で、「米国では0.3ポイント」の成長率低下を予想しているが、0.1ポイントの誤りであろう。中国が0.5ポイントの低下ならば、米国は0.1ポイントに留まるはずだ。