習近平氏が、中国国家主席に就任したことは、中国と世界にとって良かっただろうか。2012年、胡錦濤前国家主席の後継者に選ばれる過程は、江沢民元国家主席が事実上の「キングメーカー」として、習近平氏を推薦したと伝えられている。
江氏は、胡錦濤時代10年間も院政を敷いていた。国家主席引退後も、最高指導部のオフィスがある中南海に事務所を持ち、中央政治局常務委員会の議事録もチェックしていたという人物だ。その江氏が、習近平氏を国家主席に推した理由は、「政治改革をしない人物」と見込んだ結果とされている。ソ連崩壊を招いたゴルバチョフは、民主主義に興味を持ったために政治改革を行い、それが国民の不満に火を付け、ソ連共産党崩壊の引き金を引いた。
江氏は、ポスト胡錦濤の条件として、「脱ゴルバチョフ」タイプを基準にしたので、習近平が浮上したとされている。胡錦濤氏は、共青団の後輩である李克強氏を推したが、ゴルバチョフ的であり、インテリ特有の弱さがあるとして、首相(国務総理)に横滑りした、とされている。李氏が国家主席であったならば、政治改革はともかく、経済改革に取り組み市場経済化路線を歩んだと思われる。習氏は、李氏から経済の司令塔役も奪った。これが後々、どのような結果をもたらすか、おぼろげながらも見え始めたようだ。
こういう人事の裏舞台を改めて覗いた理由は、強硬派の習近平路線によって、中国の将来に負の影響をもたらす懸念が深まっているからだ。具体的に挙げれば、次のような点だ。
第一は、習氏が自らの権力基盤を固めるべく、高目の経済成長率を求めたことだ。そのために固定資産投資へ極度に依存した経済運営を継続した。インフラ投資と不動産開発路線を継承・強化して中国経済をバブル経済色に染め上げた。
習氏に長期政権構想がなく、2期10年間で引退する常識的立場であれば、自らの任期中に固定資産投資へ依存の経済構造是正に取り組んだはずだ。実は、固定資産投資依存率を低下させ、個人消費依存度を高める過渡期には、経済成長率が必然的に低下するのだ。習氏は最初から、超長期の政権構想を抱いていた。だから、構造改革による不可避的な成長率ダウンを避けて従来路線を続け、不動産バブルを放置していたのであろう。
このことが、経済改革を決定的に遅らせてしまった。GDPに占める固定資産投資比率は、他国にも例がないほどの40%台という高率である。これが、中国の経済構造を歪めた。GDPに占める、固定資産投資比率が高まればそれを反映し、個人消費比率は低下する。中国の個人消費比率は40%に達していない異常な状態だ。個人消費は、比較的に安定した性格を持っている。これが経済のバッハー役になるのだ。
皮肉なことに、固定資産投資の一環として長期にわたり住宅投資へ力を入れてきた。だが、地方政府は、土地国有制を利用して地価を引上げ、土地売却益を地方政府の財源に繰り入れる破天荒なことを始めた。これが、いわゆる不動産バブルの始まりである。問題は、地価高騰=住宅価格高騰によって、家計負債が急速に増えてしまったことだ。これが、家計の可処分所得を圧迫し個人消費の鈍化につながっている。要するに、固定資産投資依存経済が、不動産バブルを生み、それが個人消費を圧迫するという悪循環過程にはまり込んでいる。これが、中国経済の現状なのだ。ここから、どうやって抜け出すのか、青写真はない。
最近の米中貿易戦争が、中国の経済波乱要因になっている。緊急経済対策として浮上しているのは、従来路線の固定資産投資依存経済である。この状態で、経済改革はさらに遠のいている。日暮れて道遠し。まさに、これが実感である。
第二は、国内の固定資産投資依存経済を「一帯一路」計画で、海外へ「輸出」し始めていることだ。国内の固定資産投資も採算性を二の次にしているが、「一帯一路」もその傾向が極めて強い。「一帯一路」では、中国が資金の貸付け・工事受注という一貫体制である。資金貸付けでは多くの問題を露呈している。
貸付資金の回収が困難になっていることだ。返済困難な相手国から、担保を取り立てているが、これがまた悪評を呼んでいる。「債務トラップ」という呼び名まで登場しているほど。私は「悪徳商法」と呼ぶ。中国は、日本のODA(政府開発援助)のような相手国本位の姿勢でなく、強硬手段を使ってでも債権を取り立てる「高利貸し」スタイルである。ただ、その担保も、売り払って資金化できない悩みがある。ここが、「一帯一路」の不採算制問題を引き起こす理由である。また、国際収支では経常収支赤字化への要因になる。
「一帯一路」にまつわる不評が、次第に既契約の見直しを迫る国の数を増やしている。こういう事態になると、「一帯一路」計画が先細りになろう。中国は自らの評判を落とし、かつ貸付資金の返済が滞るケースが増えれば、中国にプラスになることはゼロだ。国粋主義者の習近平氏は、それでも国威発揚の場と考えるかも知れないが、それは間違いである。国際社会での評価を貶め、「反中国」国家を増やすだけであろう。





