勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国国慶節大型連休では、国民の休日の過ごし方がハッキリ分かれたようである。経済的に余裕のある層は日本旅行を楽しみ、百貨店で豪華な買い物をしていると報じられている。この人たちは、福島処理水放出問題について一定の知識を持っており、国内旅行組と違った反応をしている。富裕層は、政府のプロパガンダを信じていないのだ。

     

    『レコードチャイナ』(10月2日付)は、「中国人観光客が日本で『爆買い』との報道 中国ネット民の反応は」と題する記事を掲載した。

    中国の国慶節(建国記念日)に日本を訪れた中国人観光客が爆買いしているとの日本メディアの報道に、中国のネットユーザーが反応を示している。

     

    (1)「中国のSNS・微博(ウェイボー)で230万のフォロワーを持つブロガーは、日本の報道番組の内容を紹介。同番組は、国慶節に日本を訪れる中国人富裕層が増えているとし、銀座で爆買いしていた中国人観光客が「靴やバッグを買った。だいたい6万元(約120万円)くらい。予算に上限はなく、気に入ったら買う」と語ったことを伝えた。また、日本の店がそうした中国人客を取り込もうとさまざまな手を打っていると説明。アリペイ(支付宝)やWeChatペイ(微信支付)などのキャッシュレス決済への対応が進んだり、飲食店では、主に外国人富裕層を狙ってこれまでよりも高額なコース料理の提供を開始したりしているとした」

     

    「爆買い」は、団体客がバスで百貨店へ乗り付け、ごそっと買い物をするイメージである。富裕層の爆買いは、高価な商品を予算と関係なく買い物をするようだ。買い物が、「量」から「質」へと変わっているのだろう。

     

    (2)「こうした報道に、中国のネットユーザーからは「精日(精神日本人)が多いこと」といった批判的な声も出ているが、「嫉妬にかられた人たちもいるようだ」「自分が(海外に)行けないからって他人が行くことにあれこれ言うとは、本当に笑える」「富裕層は国慶節に人がごった返すところ(中国国内の観光地)には行かないのさ」といった声が多く上がった。また、「金持ちは日本旅行、貧乏人はSNSで日本たたき」「民族主義に染まりやすい層と、海外旅行の主力の層は別なんだよね」「毎日、日本をののしっている人の99%が、日本に行く金もない。金持ちは、みんな海外で遊んでるんだ」との声も」

     

    富裕層は、情報のネットワークも豊富なのだろう。政府のプロパガンダを、そのまま受け取っている人たちでないことは明らかだ。経済的に豊かでない人たちは、政府の言い分をそのまま信じている。「日本をののしっている人の99%が、日本に行く金もない。金持ちは、みんな海外で遊んでいるんだ」という指摘は、痛々しい限りである。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月2日付)は、「アジア旅行需要、中国人客の消費低調」と題する記事を掲載した。

     

    アジアで海外旅行の需要が回復している。旅行予約サイトを運営する香港のユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)、Klook(クルック)を2014年に創業した林照圍(イーサン・リン)・最高経営責任者(CEO)に、中国人観光客などの動向などを聞いた。

     

    (3)「中国景気の影響なのかわからないが、中秋節・国慶節(建国記念日)の大型連休の予約状況をみると、中国人客の渡航先は国内に大きく偏っている。節約志向が強いからだろう。人民元安で海外旅行のコストが膨らんだ影響もある。平均消費額も減っている。一方で国慶節の日本旅行の予約の伸びは際立っている。(東京電力)福島第1原子力発電所の処理水の放出問題で8月以降に日本に行きにくかった反動が出ているようだ」

     

    中国人客の渡航先は、大型連休の予約状況をみると国内に大きく偏っている。経済的な要因である。リピーターが多いので、政府のプロパガンダなど聞く耳持たぬ様子である。

     

    (4)「日本は、円安もあって世界的に人気で当面、成長が続く。25年の万国博覧会(大阪・関西万博)も追い風になるだろう。ただ、日本の地方に向かう海外旅行者が急激に増え、受け入れ体制が整わずにオーバーツーリズム(観光公害)が多発している。オンラインで観光業者や行政を支援するなど、問題解決に貢献したい」

     

    中国の「日本通」になるほど、東京・大阪といった大都市よりも地方都市へ足を運んでいる様子がわかる。それだけ、日本の観光資源が豊富という意味であろう。

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    韓国野党は、福島処理水放出反対運動を行っているが、日本製ビールの人気復活が著しい。1~8月の輸入量では、中国製を抑えてトップへ踊り出た。蓋を開けると生ビールのような泡が出る、「アサヒ生ジョッキ缶」の人気が高く、スーパーでは開店前に並ぶほどという。

     

    『中央日報』(10月2日付)は、「日本ビール、韓国で輸入前年比238%増 1位奪還」と題する記事を掲載した。

     

    韓国で日本ビールの輸入が急増している。韓国関税庁の貿易統計によると、今年1-8月の日本ビールの輸入量は3万6573トンと、ビール輸入量全体の21.9%でシェア1位になった。

     

    (1)「輸入国は、日本に次いで中国(3万2153トン)、オランダ(2万9243トン)、ポーランド(1万1291トン)、ドイツ(9911トン)、米国(9876トン)、チェコ(8850トン)、アイルランド(8705トン)などの順だった。昨年は日本ビールの輸入量が1万8940トンで全体輸入量の8.8%にすぎず、中国(4万6504トン)、オランダ(4万5125トン)に次いで3番目だった。今年は1-8月基準で日本からのビール輸入量が中国(3万2153トン)とオランダ(2万9243トン)を上回った。日本ビールの輸入量が前年同期比で238.4%も増えた」

     

    韓国人の味覚は、日本製品に馴染んでいる。植民地時代の習慣が、そのまま引き継がれているからだ。ビールも日本製である。だが、「ノージャパン」となると、一切の日本製品を排撃する。ビールも、そのとばっちりを受けてきた。

     

    (2)「日本が2019年7月に韓国に対する輸出規制をする前は、日本が韓国のビール輸入国1位だった。2018年の日本ビール輸入量は8万6676トンと、全体の24.2%のシェアで1位だった。しかし、2019年には4万7331トンに急減してベルギー(5万9072トン)、中国(5万8233トン)に次ぐ3位となり、2020年には10位まで落ちた。その後、2021年に9位、昨年は3位まで回復し、今年(1-8月)は1位を奪還した」

     

    日本製ビールが排撃されてきた時は、中国製やオランダ製が、その穴を埋めていた。その時期も終わって、日本製ビールの完全復活でシェアを回復している。

     

    『中央日報』(9月21日付)は、「『生ジョッキ缶買うため開店前から行列』…水産物はノージャパン、ビールはイエスジャパン」と題する記事を掲載した。

     

    「午後に来たら見ることもできません。まだアサヒビールが入荷する日は朝から列ができます」。世宗市(セジョンシ)のある大型マートに勤める酒類コーナーのスタッフは「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」の人気をこのように説明した。

     

    (3)「ふたを開けると生ビールのような泡が出てくるビールとして人気を呼んだアサヒ生ジョッキ缶はこの数カ月間、開店前から並んででも買おうとする人たちが全国のお店で列を作っている。このマートでは1週間に1回ずつ大量入庫するが、朝からお客が行列して買っていくという。この日売り場にあったアサヒの他のビール製品もほとんど売り切れた状態だった」

     

    この数カ月間、朝の開店前から「アサヒ生ジョッキ缶」を買うために行列ができるほどの人気という。日本製品が、こうして人気を得ているのはうれしいことだ。

     

    (4)「日本に対する需要はビールにとどまらない。先月の日本酒は13.9%増の254トン、レクサスを筆頭とする日本車は47.3%増の2322台が韓国に輸入された。特に乗用車は輸入額では3934万ドルで82%の急増となった。このほかコーヒー・茶類が52.2%、電子機器が9.0%、ビデオゲーム機が9.6%など日本の他の消費財も昨年より輸入量が増えた」

     

    ビールだけでない。他の日本製品も人気が復活している。自動車、コーヒー・茶類まで広がっているのだ。韓国大統領が、「親日発言」をすることもプラス材料であろう。

     

    (5)「コロナ禍が明けてから日本への旅行も急増している。日本政府観光局(JNTO)によると1~7月に日本を訪問した外国人観光客は1303万人で、このうち韓国人が376万人に上った。全観光客の28.9%水準で、国別では1位だった。会社員のイさんは「秋夕(チュソク、中秋節)連休に東京に行く計画。済州島(チェジュド)など韓国国内旅行と比較すると飛行機代を除けば価格面で大差ないようだ」と話した」

     

    韓国人の訪日旅行も復活した。1~7月に日本を訪問した外国人観光の30%弱が韓国人という。地理的に最も近い日本であるから、日韓関係さえ波風立たなければ、普通の交流が実現するのだろう。

     

     

     

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    中国国家統計局が9月30日発表した9月の中国の製造業購買担当者指数(PMI)は50.2と、8月の49.7から上昇した。活動拡大・縮小の境目となる50をかろうじて上回った形である。一方、10月1日に発表された民間である財新の9月製造業購買担当者指数は、8月の51.0から50.6へ低下した。

     

    国家統計局のPMIは、大企業中心である。これに対して、財新のPMIは中小零細企業が中心という特色がある。この両者のPMIを総合すると、中国製造業にまだ力強さが感じられず不安定な状態であることを示している。

     

    『日本経済新聞 電子版』(9月30日付)は、「中国製造業、9月景況感改善も雇用拡大に慎重」と題する記事を掲載した。

     

    中国製造業の景況感が持ち直しの兆しを見せている。9月の購買担当者景気指数(PMI)は6カ月ぶりに好調・不調の境目である50を上回った。ただ雇用拡大には慎重で、民間企業の利益見通しは厳しい。景気回復の持続性にはなお不安を残す。

     

    1)「中国国家統計局が9月30日発表した。3200社を対象に調べた製造業PMIは50.2で、8月から0.5ポイント上がった。50を上回れば経済が前月より拡大、下回れば縮小を示す。9月の50超えは、春以降の景気減速が和らいでいることを示唆した。PMIを構成する項目をみると、在庫調整の進展などで生産指数が大きく伸びた。業種別では、自動車や電気機械などの生産や新規受注が堅調だった」

     

    中国国家統計局の9月製造業PMIは、50.2とかろうじて好不況ラインの50を上回るという脆弱性を抱えている。6ヶ月ぶりの「50」越えとなったが、先行きを楽観できるというものでなかった。

     

    2)「気がかりなのは、根強い先行き不安だ。「需要が不足している」と答えた企業の割合は6割近くで高止まりしている。PMIのうち、雇用動向を反映する従業員数の指数は3月以降、節目の50を割り込んだままだ。大企業の景況感に明るさが見える一方、民間企業が多くを占める中小零細企業は6カ月連続で50を下回った。調査対象に民間企業が多い9月の長江商学院の景況調査をみると、利益見通しを示す指数は8月から悪化した。資金調達環境も依然として「厳しい」と答える企業が多い」

     

    雇用動向を反映する従業員数の指数は3月以降、節目の50を割り込んだままである。従業員を増やすというほどの景況感好転でなかった。雇用は、遅行指標である。この雇用が改善をみなかったのは、実体景気は「水面下」にあることを示している。

     

    3)「ニッセイ基礎研究所の三浦祐介主任研究員は、「景気回復の持続性はまだ確認できない」と指摘する。経済成長のけん引役だった不動産市場はなお低迷が続く。不動産大手、中国恒大集団の経営混乱なども経済を下押しする火種となりかねない。持続的な景気回復には時間がかかる可能性がある

     

    下線部の指摘は、その通りであろう。中国経済の先行きを占う最大の材料は、不動産業の底入れであるが、その時期は不透明である。

     

    『ブルームバーグ』(10月1日付)は、「中国の製造業活動、9月は拡大ペース鈍化ー民間指標」と題する記事を掲載した。

     

    中国の製造業活動を測る民間指標は9月に拡大ペースが鈍化した。

     

    4)「10月1日に発表された9月の財新製造業購買担当者指数(PMI)は50.6に低下し、活動拡大・縮小の境目の50に接近した。エコノミスト予想を下回った。9月の財新サービス業指数は50.2と、拡大の勢いを失いつつあることを示唆した。中国政府が景気刺激策を打ち出しているにもかかわらず、やや不安定な回復を示している」

     

    民間の財新による製造PMIは、8月の51.0から9月は50.6へと微減である。財新による製造PMIは、中小企業の調査ウエイトが高いので、経済の末端では「冷却」状態が続いていることを示している。

     

     

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    国際機関は、中国経済の減速が世界経済へ大きな影響力を与えるとして警告を発している。中国が、世界の経済成長の3分の1を担っているので、世界不況になりかねないという理屈である。だが、はたしてそうだろうかという疑問を打ち出す向きも出てきた。日本が、1990年からのバブル崩壊で経済停滞した。当時は、GDP世界2位である。その日本経済の停滞で、世界経済に悪影響が及んだ事実はなかったのだ。 

    英『BBC』(10月1日付)は、「中国が抱える経済問題、世界に与える影響は」と題する解説記事を掲載した。 

    世界第2位の経済大国であり、14億人の人口を抱える中国は現在、さまざまな問題を抱えている。経済成長の鈍化、若者の失業率上昇、そして不動産市場の崩壊だ。中国政府を悩ませるこうした問題は、世界にとってどれほどの重大事なのだろうか。アナリストらは、世界的な大災害が差し迫っているという懸念は誇張されたものだとしている。 

    (1)「シンガポールのアジア貿易センターのデボラ・エルムズ所長は、「例えば、中国人がランチの外食を控えるようになったとして、それが世界経済に影響を与えるだろうか?」と問いかける。「答えは、あなたの考えるほどではないが、中国の国内消費に直接依存している企業に打撃があることは確かだ」。米アップルや独自動車大手フォルクスワーゲン、英ファッションブランド「バーバリー」といったグローバル大企業は、中国の巨大な消費者市場から多くの収益を得ているため、家計消費が落ち込めば影響を受けるだろう。その影響がさらに、こうした企業に依存する世界中の数千ものサプライヤーや労働者に波及する」 

    中国経済の減速は、国内消費に直接依存している企業に打撃があることは確か。だが、そうでなければ他の企業への影響は間接的になる。 

    (2)「米格付け会社フィッチは8月、中国経済成長の失速は「世界的な成長見通しに影を落としている」とし、2024年の世界全体の見通しを下方修正した。一方で、中国が世界の繁栄の内燃機関になっているという考えは過大評価だと指摘するエコノミストもいる。英オックスフォード大学中国センターのエコノミスト、ジョージ・マグナス氏は、「数学的には確かに、中国は世界の経済成長の約40%を占めている」と話す。「しかしその成長の恩恵を受けているのは誰か? 中国は莫大な貿易黒字をあげている。輸入よりも輸出の方がはるかに大きいので、中国がどれだけ成長するか、あるいは成長しないかは、世界の他の国々についてというよりも、むしろ中国についての事柄だ」と指摘する」 

    中国は、世界の経済成長の約40%を占めている。その成長の恩恵は、中国の莫大な貿易黒字となって、中国自体が最大の受益国である。中国の経済減速の被害は、中国自身に及ぶものだ。

     

    (3)「中国での需要減退は、価格の停滞を意味する。西側の消費者からすると、金利のさらなる引き上げを伴わない物価上昇抑制策としては歓迎すべきことだろう。豪シドニーのロウイー研究所インド太平洋開発センターのローランド・ラジャ所長は、「高インフレへの対処に悩んでいる人々や企業にとっては良いニュース」だと話した。つまり短期的には、一般の消費者は中国の成長鈍化の恩恵を受けるかもしれない」 

    中国の需要減退による国際商品の価格低下は、世界的なインフレ抑制に寄与するメリットもある。 

    (4)「途上国の人々にとっては、長期的な疑問が浮かんでくる。過去10年にわたり、中国は一帯一路構想に基づいて1兆ドル以上を大規模インフラ事業に投資してきたとみられている。150カ国以上が中国から資金や技術を受け取り、道路や空港、海港、橋などを建造した。中国国内の経済問題が長引けば、こうしたプロジェクトに対する中国の貢献度が低下する可能性がある。(前出の)ラジャ氏は、「中国の企業も銀行も、海外にばら撒くような大盤振る舞いはできなくなるだろう」と指摘する」 

    中国経済の減速は、一帯一路へのバラマキにブレーキを掛けるので、西側とのトラブルの種が減るメリットもある。

     

    (5)「2008年の余波から、一部のアナリストは「金融の伝染」と呼ばれる現象を懸念している。これには、中国の不動産危機が中国経済の本格的な崩壊につながり、世界中の金融メルトダウンを引き起こすという悪夢のシナリオも含まれる。米金融街ウォールストリートの投資大手リーマン・ブラザーズの破綻と、世界的な景気後退を招いたサブプライム・ローン問題との類似性は、確かに指摘したくなる」 

    中国で大規模な金融破綻が起れば、「金融の伝染」発生懸念はある。だが、次のパラグラフで説くように、その懸念は小さい。 

    (6)「オックスフォード大中国センターのマグナス氏は、これは必ずしも正確ではないと話す。「これはリーマンショックのようなものにはならないだろう」。「中国は大手銀行を破綻させることはないだろうし、アメリカで破綻した何千もの地方銀行や地域銀行よりも、バランスシートはしっかりしている」。(前出の)エルムズ氏もこの意見に賛成だ。「中国の不動産市場は、アメリカのサブプライム・ローンのように金融インフラと連動しているわけではない。さらに中国の金融システムは、2008年のアメリカのような直接的な世界的影響を与えるほど支配的なものではない」と指摘する」 

    中国経済は、リーマンショックを起こした米国と、世界経済における質的地位が異なる。米国は、基軸通貨国であり世界金融の総元締めである。この米国と、ローカル・カレンシーの人民元では重みが違うのだ。

     

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    中国減速の影響は様々

    IMF提言無視の報い

    日本輸出品は特許防衛

    脚光浴びる日本の強み

     

    中国経済の減速が、今や明白になってきた。この影響を最も強く受けているのは、ドイツと韓国である。輸出に影響を受けているからだ。日本は、対中輸出が減っているものの経済成長全体にとって「無傷」の状態である。日本・ドイツ・韓国の三カ国を総合的に比較すれば、日本の優位性が浮かび上がるのだ。日本が、これまで全く意識しなかった強みである。 

    日本が、「中国経済大減速」の影響でドイツや韓国と異なるのは、次のような構造による結果と言える。

    1)輸出の対GDP依存度が低い。

    2)対中輸出品目がドイツ・韓国と異なる。

    3)民間消費の対GDP比がドイツ・韓国よりも高い。

    これら3点の具体論については、後で取り上げたい。

     

    中国減速の影響は様々

    こういう構造的な日本の強さが、中国経済の逆風を跳ね返しているものと言えよう。中国は、日本経済のしなやかな強さに対して、「福島処理水放出反対」で騒ぎ立て一矢報いたいと考えたのかも知れない。中国の「戦狼外交」とは、こういう理不尽さを秘めているからだ。 

    冒頭から、私の楽観的な見方を示したが、慎重論もあるのでそれを取り上げたい。 

    日本が、主要国の中で中国経済減速の影響を最も受けやすいものとしている。中国向け輸出が、全体の2割を占めるなど中国経済への依存度が高いこと挙げている。日本の内閣府の試算によると、「中国の成長率が1ポイント下振れると、日本の成長率は0.65ポイント下振れるとしいている。実際には、この先数年を展望すれば、中国の成長率の下振れは1ポイントでは済まないだろう」(『ニューズウイーク 日本語版』9月28日付) 

    内閣府の試算では、中国経済がくしゃみをすれば、日本経済も風邪を引くという構図になっている。これは、日本からの輸出品目の変化に注目せず、対中輸出額だけでみている結果であろう。現実に起っている問題は、中国経済の大減速にもかかわらず、日本経済はいたって静かであることだ。それどころか、日本産業界はすでにこれまで中国に「対応」してきたことを窺わせている。その点が、ドイツや韓国の産業界と大きく異なるのだ。

     

    戦前の日本は、南満州鉄道(満鉄)の中国進出を契機に、東大を中心とする社会学の研究調査チームを送って、徹底的に中国社会の実態調査を行った経緯がある。その膨大な調査データによって、中国社会を立体的に研究した蓄積を持っている。中国が、一帯一路計画を立てたり、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立しても、日本は中国側の懇請にも関わらず参加しなかった。それは、中国の本質(経済的合理性欠如)を見抜いていた結果だろう。 

    中国は、世界中へ共産主義浸透の手段として「孔子学院」を設立し広く利用している。日本は、私立大学に認めたが、国公立大学へ設立させなかった。今にしてみれば、「正解」となった。孔子学院が現在、欧米で排斥されているのは露骨な政治的動きをしているからだ。 

    日本には、「遣唐使派遣」(630~907年)の時代から中国の動きに極めて敏感に対応してきた歴史がある。その点で、ドイツや韓国とはひと味もふた味も違う有利な立場にある。さらに身近な問題で言えば、中国経済のバブル崩壊である。日本は、約30年前にこれによって瀕死の重傷を負った國である。それだけに、中国経済の危うさをいち早く察知できたメリットが大きい。日本企業はバブル崩壊で30年間、守りの経営を強いられてきた。それだけに、中国リスクをいち早く感知したのは当然であろう。

     

    IMF提言無視の報い

    IMF(国際通貨基金)は、中国経済に対して冷静な見方を取っている。今年の4月時点で行った中国経済長期予測によると、実質経済成長率が2026年から一貫して4%割れになるという厳しい見方だ。 

    その根拠は、生産年齢人口の減少とそれをカバーする経済改革へ踏み切らないであろうという前提だ。IMFのゲオルギエワ専務理事は9月、ロイターとの単独インタビューで、次の点を強調した。「債務を原動力にしたインフラ投資と不動産をテコとする経済成長モデルを転換し、国内消費を重視する必要がある」というのだ。 

    ゲオルギエワ氏は、「構造改革がなければ、中国の中期的な経済成長率は4%を割り込む可能性がある」と述べている。不動産部門については、経営難の不動産開発会社を救済するより、購入者がすでに代金を支払ったマンションの建設完了に資金を振り向け、消費者の不動産部門に対する信頼を回復することが重要と主張した。IMFが、中国に対してここまで手取り足取りの政策を提案しても、習近平国家主席は乗り気でない。あくまでも、従来路線を踏襲し台湾侵攻が「我が定め」という風情をみせているのだ。 

    中国経済が、遠からず4%割れの成長率に落ち込めば、対中輸出依存度の高い日本、ドイツ、韓国の経済成長率にも当然、影響が出るであろう。ただ、その濃淡は各国の輸出品目によっても異なる。(つづく)

     

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