勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国は、去年から人口減になった。日本の人口減入りが2010年である。韓国はあらゆる経済データが、日本と約30年のタイムラグがある。このパターンから言えば、韓国は2040年に人口減入りしても不思議でなかった。それが、2021年の人口減だ。19年も前倒しである。ちなみに、中国は今年から人口減入りが確実である。

     

    中韓に見られる、大幅前倒しで人口減入りする原因は、「合計特殊出生率」の急低下にある。韓国は、人口横ばいに必要な合計特殊出生率「2.08」を大きく下回って、「0.84」と世界最低記録を更新中だ。

     

    この背景には、儒教特有の「男尊女卑」がある。韓国の若者社会では、男性と女性の意識が鋭く対立している。若い女性が、結婚・出産に乗り気でない理由の一つに、夫の育児協力のなさを上げている。女性は、職業と育児の両立は不可能としており、韓国の「男尊女卑社会」の悪弊が改まらない限り、出生率はさらに低下する運命のようだ。

     


    米ノースウェスタン大学経済学科のマティアス・ドゥプケ教授の研究チームが5月、全米経済研究所(NBER)を通じて公開した「出産の経済学:新しい時代」と題する報告書が注目されている。OECD(経済協力開発機構)加盟国を中心に約40カ国が調査対象だ。

     

    それによると、女性の経済活動が活発な国で出生率が高いこと。また、男性が育児と家事にあまり積極的ではない国で出生率が低い傾向が見られた。男性の家事や育児への貢献度の高いスウェーデン、アイスランド、ノルウェー、フィンランド、米国の上位5カ国は、いずれも合計特殊出生率が1.8人を超えた。寄与度の低い下位5カ国は1.5人未満だった。チェコ、日本、韓国、ポーランド、スロバキアがこれに属した。日本にとっても耳の痛いデータだ。

     

    『中央日報』(6月28日付)は、「『韓国』が絶滅する?」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙のキム・チャンギュ経済エディターである。

     

    テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は先月、韓国の人口減少に言及した。日本の人口が11年連続で減少していることについて「出生率が死亡率を超えるような変化がない限り、日本はいずれ存在しなくなるだろう」と警告した後だ。マスクCEOはツイッターで「韓国と香港は最も速いペースの人口崩壊に直面している」とし、世界銀行の2020年国別出生率の順位表も共有した。

     

    (1)「これによると韓国の出生率は0.84人で、200カ国のうち最も低い。世界で人口が最も急速に減少している国が韓国だ。香港は0.87人で199位、日本は186位(1.34人)だった。マスクCEOは「韓国の出生率が変わらなければ3世代のうちに韓国の人口は現在の6%以下に減少するだろう」とコメントした」

     

    欧州の出生率も、ゆっくりと下がっている。男女同権が地に着いているので、夫の育児協力は当たり前のことだ。それでも低下しているのは、女性の高学歴化と社会進出によるもの。韓国では、男性は女性より「偉い」という根拠なき優越感に浸って、夫「風」を吹かせているようだ。日本もその嫌いはあるが、韓国はより鮮明に出ている。儒教の悪しき弊害であろう。

     


    (2)「最近の韓国経済は風前の灯火のようだ。原油価格が上昇し、サプライチェーン問題で世界はインフレーションの恐怖に包まれている。今回の景気沈滞は、韓国にとって時期的に良くない。韓国は2020年(注:正しくは2021年)から人口の減少が始まった。初めて死亡者数(31万人)が出生数(27万人)より多い「デッドクロス」が発生した。人口の減少は成長潜在力を低下させる。統計庁の将来人口推計によると、総人口は2020年の5184万人から2030年に5120万人、2040年に5019万人、2050年に4736万人に減少する。30年間に釜山の人口(336万人)の1.3倍ほどの448万人(8.6%)が消える」

     

    景気が悪いことは、出生率低下に拍車をかける。雇用不安を抱えていたのでは、結婚・出産を諦めるからだ。韓国で、今年1月から4月までに全国産婦人科など医療機関で新生児を分べんした産婦は8万1454人。過去最低で、今年は年間で25万人程度と最悪予想が出ている。「韓国絶滅」は、冗談として聞き逃せなくなった。

     


    (4)「人口が減れば創業する人が減り、雇用も減少する。こうなると成長が鈍って所得が減る。収入が減れば若者が結婚を避け、子どもを持とうとしない。結局は「人口減少→成長率低下→所得減少→人口減少」の悪循環に入る。英国の人口学者ポール・ウォーレス氏は人口減少が大地震に劣らずマイナスの影響を与えるとし、これを「
    人口地震」と表現した。状況がこれほど深刻であるにもかかわらず、政府も民間も総体的な対応をしない。政策決定権者が主に暮らす大都市では人口減少を肌で感じることができないからだ」

     

    文政権は、出生率低下に対して冷淡であった。北朝鮮と統一すれば、全体の人口が増えると言った感覚であったのだろう。新政権では深刻に捉えている。

     


    (5)「2005年に低出産高齢社会委員会が発足してから15年間、220兆ウォン(約23兆円)以上の資金を少子化対策に投入した。それでも人口問題は悪化していった。最悪の状況になればその時には打つ手がない。いま韓国は、徐々に温まっていく水の中のカエルと同じだ。新政権も24日、人口危機対応TFを設置した。過去の前轍を踏まないためには国を救うという使命感を持って取り組む必要がある。韓国という国を存続させるために」

    韓国に巣食う儒教倫理の男尊女卑社会を改めなければならない。「社会改造」する気迫で取り組まなければ、韓国は消える運命だ。

     

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    中国が、3隻目の空母「福建」の進水式を行なった。実際に就役するのは数年後とみられている。空母は、「金食い虫」と言われるほど維持費に高い費用がかかる。そういう「高コスト」空母をさらに増やした理由はなにかだ。

     

    空母は、遠距離での戦闘に使われる。「移動する基地」と言われる理由のように、本国から遠く離れた場所での戦闘に不可欠である。だが、台湾は中国と「目と鼻」という至近距離である。空母を台湾侵攻作戦に使うとしても、相手国から潜水艦やミサイルで攻撃される危険性が極めて高くなる。そういうリスクを冒してまで、空母を建艦するのは別の目的とみられる。近隣国への威嚇用だ。潜水艦を持たない国には、中国の潜水艦は恐怖の的。中国は、そこへ付け入る計画であろう。

     

    『ニューズウィーク 日本語版』(6月27日付)は、「なぜ今どき空母?『ポスト米国』見据える中国の不可解な3隻目『福建』」と題する記事を掲載した。

     

    中国は6月17日、3隻目の航空母艦を進水させた(純国産としては2隻目)。真にグローバルな機動力を備えた軍事大国を目指す中国政府の決意を見せつけるものだが、そこにはアメリカの誇る世界最強の空母艦隊と対等に張り合いたいという願望も透けて見える。

     

    (1)「アメリカの軍事的優位を支えてきたのは海軍力であり、海軍力の要は空母艦隊だ。しかし今、中国は「うちのほうが巨大で高性能な空母を造れるぞ」と言いたいらしい。だが、まだ無理だ。「福建」と名付けられたこの空母(狭い海峡を隔てて台湾と向き合う省の名であるのが不気味だ)が、既存の2隻より高性能なのは確かだ。今までの2隻は小さく、艦載機の発進にはスキーのジャンプ台のように反り上がった甲板を使っていた。しかし福建には、アメリカの最新鋭空母ジェラルド・フォードと同様に電磁式カタパルトが採用されている」

     


    初めて電磁式カタパルト(艦載機押出し装置)を装備するが、大変に電力を消費する。そういう電力多消費のカタパルトが、通常動力の空母には不適当というのが軍事専門家の意見だ。台湾侵攻目的であれば、戦闘機は中国本土の基地から飛び立つ方が効率的である。中国の本当の狙いは何か、だ。

     

    (3)「福建は、原子力空母ではない。だから補給なしの航続距離は限られる。しかも進水したばかりで、実戦仕様にまで高めるには何年もかかる。一方でアメリカには福建級の空母がたくさんあり、どれも福建以上の戦闘能力を備えている。第2次大戦時のミッドウェー海戦のように、空母を中心とした艦隊の激突が21世紀に再現される可能性は低い。今や攻撃の主役は潜水艦や対艦ミサイルであり、空母はその標的になりやすい」

     

    中国空母が、台湾海峡で作戦行動するケースを考えると、その前に米国の原子力潜水艦攻撃で沈没させられているとみられる。中国海軍は、近代戦を戦った経験がゼロだ。米海軍は、世界の海軍で古い歴史と豊富な実戦経験がある。米中海戦で、中国海軍の劣勢は免れないとされる。米海軍の総合戦略は、中国の比でないのだ。

     


    (4)「そもそも冷戦終結後のアメリカが空母を実戦で使ったのは、海からの攻撃に無防備な国(イラクやリビア)に対してだけだ。中国の意図も同じだろう。中国は巨大空母を弱小国に対する威圧や懲罰に使いたいのであり、アメリカと戦うつもりではない。もちろん、現時点で中国が太平洋に空母艦隊を出そうとすれば、どこかでアメリカの安全保障ネットワークに引っ掛かる」

     

    中国は、ロシア軍の戦略を採用している。ロシア軍が、ウクライナ軍にてこずっていることから分るように、中国軍が米軍と戦えばその帰趨は明らか。日清戦争に次いで「二連敗」を喫しよう。

     


    (5)「アジア太平洋に張り巡らしたアメリカの安全保障ネットワークが、ほころんできたらどうか。現に中国は南シナ海で、ほとんど誰にも邪魔されずに人工島を造ってきた。
    つまり中国は、アジアにおけるアメリカの軍事的存在感が今よりも低下する時代を見据え、「アメリカ以後」のアジア太平洋で周辺国を威圧するために福建のような空母を必要としている。ただし、空母艦隊だけでアジアの海を支配するのは無理だ。太平洋は広い。いくら中国の軍事的リソースが豊富でもカバーし切れない」

     

    「ポスト・アメリカ」という想定は非現実的である。米中経済の比較では、中国が先に衰退過程へ入ることになる。人口動態から見て、中国の衰退は不可避なのだ。となると、中国が空母を建艦しても「お飾り」程度の役割しか果たさないであろう。周辺国への威嚇目的である。

     


    (6)「そもそも中国が力を入れてきたのは、自らが太平洋における覇を唱えるための戦力ではなく、アメリカの覇権を阻止し、後退させるための戦力だ。そのために対艦攻撃能力を向上させ、潜水艦をはじめ、超低空飛行ミサイルを搭載した航空機、小型の高速艇、航行中の船舶を標的にできる弾道ミサイルなどの配備を進めてきた。こうなると、米軍の艦艇も容易には中国の沿岸部に近づけない。中国が、軍事面でアジアの海洋大国になるのを全面的に阻止するのはコストもリスクも高すぎる。空母は中国のパワーの象徴ではあるが、だからといって、中国が必然的にアジア海域を支配するようになるとは限らないのだ

     

    中国海軍は、世界覇権を目指す戦略に基づくものでなく、米軍を中国沿岸部に近づけない目的としている。ならば、空母は不必要となろう。矛楯した戦術になるのだ。あわよくば、世界覇権を狙うという戦略の飛躍も隠されている。ここに、落し穴があるのだ。

     

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    中国の高利貸し手法による融資は、発展途上国の財政を悪化させている。こうした被害拡大を防ぐべく、G7(先進7ヶ国)が6000億ドルの融資で健全なインフラ投資を支援することになった。遅ればせながら、中国の野望を食止める防壁がまた一つ増える。

     

    『ハンギョレ新聞』(6月28日付)は、「G7、中国の一帯一路に対抗し 途上国などに6千億ドル投資」と題する記事を掲載した。

     

    米国をはじめとする主要7カ国(G7)が中国の一帯一路事業に対抗し、開発途上国のインフラに6000億ドルを投資すると発表した」

     


    (1)
    「ドイツ南部バイエルン州エルマウ城で開かれている主要7カ国首脳会議に出席した米国のジョー・バイデン大統領は26日(現地時間)、米国がアジアやアフリカなどの途上国と中進国のインフラ開発に5年間2000億ドルを投入する計画だと明らかにした。さらに、他のG7構成国と欧州諸国まで含めた投資目標額は6000億ドルだとし、このような内容の「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」の発足を宣言した」

     

    今後5年間で、米国が2000億ドル、他のG7やEU(欧州連合)まで含めれば、合計6000億ドルのインフラ投資を支援する。中国の高利で担保を必要とする「商業的融資」と区別した、受益国本位のインフラ投資支援だ。中国は、自国利益の視点から融資先を選んでおり、受益国の利益を無視した融資である。

     


    (2)「バイデン大統領は、「途上国はパンデミックのようなグローバルな衝撃を乗り越えていくのに必要な基盤がない場合が多い」として、「これは単に人道主義の面で懸念すべきことではなく、我々皆の経済と安全保障の面での懸念事項だ」と述べた。また「我々は世界各地の主なインフラ投資で、各国とその市民により良い選択肢を提供している」とし、「透明性やパートナーシップ、労働と環境保護」を追求すると明らかにした。「グローバル・インフラ投資パートナーシップ」は気候変化と清浄エネルギー▽安全で開放的なインターネットと情報システム▽性平等と公正性▽保健インフラの改善を4大軸としている」

     

    下線部で、融資の目的を明らかにしている。西側諸国にとっての安全保障に資するという視点が強調されている。これは同時に、中国が狙っている地域でもあり、先手を打って中国の進出を食止める狙いである。中国の「一帯一路」は、中国の国益確保が前面に出ている。

     


    (3)「ホワイトハウスは説明資料で、同事業の財源は政府資金と民間投資から作られると明らかにした。 ホワイトハウスは、米国機関が参加する初期事業として、アンゴラの太陽電池パネル事業やセネガルのワクチン製造施設、シンガポールから東アフリカを経てフランスにつながる通信網、インド農村投資ファンドなどを挙げた」

     

    具体的なプロジェクトも上げられている。中国が手がけられないようなプロジェクトが入っている。ワクチン製造施設や通信網、農村投資ファンドなど民間資金も導入した大掛かりなものが予想される。中国の一帯一路プロジェクトでは、橋・空港・トンネル・港湾・建物といった土木事業が主体である。これよりもはるかに高度な内容のプロジェクトが見込まれる。

     


    (4)「『グローバル・インフラ投資パートナーシップ』は、ユーラシア各地を鉄道や道路、港湾と5世代(5G)通信網で自国と連結する中国の一帯一路に対応する事業だ。米政府高官はブリーフィングで「(一帯一路事業として)支援を受け、いわゆる投資を受ける国々は数年後、借金がさらに増えたことに気づく」とし、「その投資というのはその国の人々に届かない」と主張した。また、米国などが参加した事業は負債を増やす方式にはならないとも述べた」

     

    中国の「債務漬け融資」は、実に巧妙な形で行なわれている。先ず政治家を賄賂で抱き込み、過剰な融資で返済不能にさせ、担保を取り上げる「悪徳商法」そのものだ。こういう悪例から見れば、今回の先進国のインフラ投資支援は、受益国本位の投資内容になっている。

     


    (5)「主要7カ国の首脳は同日、ウクライナへの支援やロシアへの圧迫強化策についても話し合った。参加国の首脳らは、ロシア産の金の輸入禁止も発表する予定だ。ロシアの最大輸入源である石油に価格上限制を適用することも議論されている。購買者がカルテルを形成し、ロシア産石油価格を制限しようという内容だ。ウクライナ戦争で悪化した食糧とエネルギー供給、インフレへの対処も主要テーマとなっている」

     

    G7首脳は27日、ロシアとの戦闘が続くウクライナへの支持を長期的に継続する姿勢を強調した。G7首脳は、将来の平和的解決はウクライナの決断次第との考えを示しつつ、ウクライナが緊急に必要とする軍装備品などの供給で協力を継続する方針を示したものだ。G7内では、ウクライナ支援について温度差のあることが伝えられていたが、最終的に「支援継続」「和平はウクライナの決めること」と決定した。ウクライナ側は、「この冬までに和平を考える」としている。

     

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    ウクライナは、年1回開催されるG7首脳会議と、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議に合わせて、自国への支援を求めて積極的な動きをしている。G7では、ロシアとの貿易から得る関税収入をウクライナ支援に充当する方針を盛り込んだ。また、NATOが2030年を目標とする文書の「戦略概念」では、欧州安保の基盤がウクライナにあることを明記するように働きかけている。これによって、NATO非加盟のウクライナの安全保障への間接的寄与を求めているものだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月27日付)は、「米欧、ウクライナ支援強化 ロシア関税収入を充当」と題する記事を掲載した。

     

    主要7カ国首脳会議(G7サミット)は26~27日にかけてウクライナ情勢を議論し、追加軍事支援や復興に向けた財政支援の強化で一致した。東部ルガンスク州の制圧が迫るなか、ウクライナ側に必要な支援を提供できるかどうかが戦況を左右する。

     


    (1)「G7は27日、ウクライナ支援に関する声明を発表し、ロシアとの貿易から得る関税収入をウクライナ支援に充当する方針を盛り込んだ。日米などは貿易上の優遇措置を保証する「最恵国待遇」の対象からロシアを外しており、これで引き上げた関税を有効活用する。軍事支援では米政府がサミット直前の23日、高機動ロケット砲システム「ハイマース」4基を含む4億5000万ドル(約600億円)相当の武器の追加供与を承認した。侵攻開始以来、米国のウクライナ向け武器支援は総額61億ドルにのぼる。英国とドイツも多連装ロケット発射システム(MLRS)の供与を決め、支援兵器は大型化している」

     

    G7各国は、対ロシア貿易の関税収入をウクライナ支援に充当することを決めた。これにより、一定の資金がウクライナ側で確保できる。米国は、支援兵器の大型化に乗出している。

     


    (2)「ウクライナ政府は兵器支援拡大を求めるが、足元で到着したのは要請の1割程度だと訴える。G7は29~30日にある北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の議論も踏まえ追加軍事支援を急ぐ。ゼレンスキー大統領は侵攻による打撃で毎月50億ドルの財政支援が必要だと訴える。破壊されたインフラの被害額は1000億ドルに達するとの試算もある。G7は通常の財政支出だけでなく、様々な手段でウクライナへの資金支援を検討する。対ロシア貿易の関税収入の活用はその一つだ」

     

    ウクライナが受けたインフラ被害は、すでに1000億ドルに達している。このほか、ウクライナは毎月50億ドルの財政支出が必要としている。この資金調達の一環として、ウクライナは人口流出と工場の操業ストップで電力供給が過剰になっているので、欧州へ販売する件も検討されている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月27日付)によれば、年間16億ドル程度の利益が得られるという。それでも、約10日分の財政支出を賄えるだけだ。

     

    (3)「米国や欧州連合(EU)では、制裁で凍結したロシア政府やオリガルヒ(新興財閥)の資産を、ウクライナ復興に充当する案が浮上する。ただ国際法に合致した枠組み作りのハードルは高い。今回のG7サミットでも「打開策は簡単には見つからない」(EU関係者)との見方が強い。英王立防衛安全保障研究所のマリア・ニツェーロ氏は、「私たちは法の支配の原則に沿って凍結資産の没収や支援への充当を考える必要がある。特に(各国中銀にある)ロシアの外貨準備を没収するのは難しい」と指摘する」

     

    ウクライナ復興でロシアの凍結資産を流用する問題は、法的にもかなり難しい面がある。とりわけ、ロシアの外貨準備を没収することは困難であるとしている。

     


    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(6月25日付)は、「NATO戦略概念で『ウクライナ評価を』同国高官」と題する記事を掲載した。

     

    ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に対し、同国が欧州の安全保障で中心的な役割を果たしていると29~30日にマドリードで開かれるNATO首脳会議で評価するよう求めている。取材に応じたウクライナ政府高官が明らかにした。NATOは首脳会議で、戦略概念の改定を議論する。

     

    (4)「ウクライナのジョウクヴァ大統領府副長官兼大統領顧問(外交担当)は、ウクライナが侵攻してきたロシアと戦っている事実を考慮し、NATOの戦略目標の文書「戦略概念」にウクライナが欧州安保の「基盤」だと明記すべきだという考えを示した。ジョウクヴァ氏は、ウクライナは戦略概念を改定する議論に直接参加するわけではないが、NATOに加盟する各国に同国の提案を伝えている」

     

    ウクライナは、自国の運命をNATOに託している以上、ウクライナの立場をNATOの「戦略概念」に明記してくれるように求めている。大国ロシアを前に、ウクライナが国家主権を守るべく必死である。

     


    (5)「ジョウクヴァ氏は、「NATO各国が欧州やウクライナの現状を明記しなければ、この文書の内容は実態からかけ離れてしまう」と主張した。現行の戦略概念は2010年に改定された。欧州の安保体制の整備に向けた多くの目標の一つとして、ウクライナとの協力態勢を強化していくと明記した。背景にあるのは08年にルーマニアの首都ブカレストで開いたNATO首脳会議がウクライナの加盟を歓迎すると判断した事実だ。ウクライナは近い将来のNATO加盟が現実的でないと認識しているが、NATOにウクライナとの協力姿勢を再確認するよう要求している」

     

    現行の「戦略概念」では、ウクライナとの協力態勢を強化すると明記していた。次の「戦略概念」でも、引き続きウクライナとの関係強化を訴えているもの。このウクライナの要請によって、国運の保護をNATOに要請せざるを得ない土壇場の苦衷が伝わる。

     

    (6)「ジョウクヴァ氏は、NATOが改定する戦略概念で、ロシアを「パートナー」と言及している部分をすべて削除するようにも求めている。現行の戦略概念で、NATOはロシアとの「真の戦略的パートナーシップ」を目指し、NATOとロシアの協調は戦略上重要だと指摘している。ジョウクヴァ氏は「(新たな)戦略概念では侵略者ロシアへの警告をもっと強めてほしい。加盟国はひるむことなく、ロシアに対抗する規定をまとめてほしい」と注文をつけた」

     

    このパラグラフから言えば、NATOはロシアを敵対視せずに話し相手として位置づけていたことが分る。NATOは、ロシアを刺激しない文言であったのだ。それにも関わらず、ロシアは敢えて曲解した形で、ウクライナ侵攻に走ったことが浮き彫りになっている。それだけに、裏切られた形のウクライナは、ロシアへ厳しい言葉で対抗するように求めているのだろう。

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    先進国では、領土拡大を意味する植民地主義が、19世紀の遺物として清算済である。ロシアは、未だにこれにしがみついており、世界の平和にとって大きな障害であることが浮き彫りになった。こういう「時代遅れ」の国に対して、どのように対応するのか。悩みは深い。

     

    ロシアの領土拡大の欲望は、止まるところを知らないようだ。6月初め、プーチン氏はウクライナについて、第一歩にすぎないと述べ、他の多くの領土も潜在的な標的とみていることが分かった。9日には初代ロシア皇帝のピョートル大帝の生誕350周年を記念する展覧会に出向き、ピョートル大帝がスウェーデンから獲得した領土について、「彼は私たちの領土を取り戻し、強化しただけだ」と笑みを浮かべて説明した。

     


    米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月27日付)は、「プーチン氏『帝国の野望』 どこまで目指すのか」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「初代ロシア皇帝のピョートル大帝の生誕350周年を記念する展覧会で、プーチン氏は次のように語った。「(土地を)取り戻して強化することがわれわれの運命のようだ」と述べ、ウクライナ戦争がピョートル大帝の戦争のように、20年以上続く可能性を示唆した。大統領補佐官のウラジーミル・メジンスキー氏はさらに露骨で、モスクワが地球の表面の6分の1を支配していたときより領土が大幅に縮小したと嘆き、不運な後退は「いつまでも続かない」と述べた」

     

    領土拡大を歴史の使命とするプーチン氏は、歴史を動かす原動力が「イノベーション」であることの認識がない。領土重視=資源重視=モノカルチャー経済という必然的な衰退コースを歩んでいる。この意味で、20年後のロシアは確実に弱小国へ転落するに違いない。科学革命の経験がない国家の悲劇である。

     


    (2)「領土の回復を訴えるこうした発言は1991年のソビエト連邦崩壊を巡る積年の憤りによるところが大きい。プーチン氏が20世紀最大の惨劇だとするソ連崩壊で、ロシアは歴代皇帝が積み上げた人口と領土のほぼ半分を失った。これをきっかけに世界の超大国は権威を失って、貧困や汚職、反乱に悩まされる破綻国家となった。ロシア政府はエストニアやリトアニア――両国ともNATOと欧州連合(EU)に加盟している――やモルドバ――ロシア軍高官が標的として最近引き合いに出した――などの隣国に新たに脅しをちらつかせている」

     

    ロシアは、1991年のソ連崩壊で領土も人口も失った。正確に言えば、これまでの支配が異常であり、正常化されたにすぎない。これを歴史の屈辱と捉えているが、大きな間違いだ。

     

    戦後の日本も同じ境遇に陥った。後に総理になる石橋湛山(当時:東洋経済新報社社長)は敗戦の年、『東洋経済新報(週刊東洋経済)』8月25日号社説)で、「更正日本の針路」と題し、日本は領土を失っても悲観することはない、技術でこれを補えると鼓舞した。その後の日本経済は、現実に復興を果たした。ロシアには、石橋湛山のような思想も人物もいないのだろう。ロシアが今後、発展できない理由はこれだ。

     


    (3)「ウクライナでのぶざまな後退こそが、プーチン氏を戦争の拡大に追いやる可能性があると警告するのは、ロシアの野党政治家でかつてはプーチン氏に助言したマラト・ゲルマン氏だ。「国内で大統領の支持率が脅威にさらされている。大統領は自分が拡大し、資金を注いできた偉大な軍隊がなぜウクライナの抵抗に対応できないかを説明できない」と同氏は言う。「従って大統領はウクライナとだけでなく、世界全体と戦う新たな次元に全てを移行させる必要がある。それゆえプーチン氏は別の犠牲者を選ぶ危険がある」。戦争が拡大すれば、民間人の軍への動員と、ロシアにまだ存在する数少ない市民的自由の排除が正当化される可能性がある、と同氏は指摘する」

     

    プーチン氏が、ウクライナ敗北で引き下がる男ではない。戦線を拡大して勝つまで戦うだろう。これは、見過ごしにできない重要な点である。

     


    (4)「ロシアが軍事的な問題を抱えているにもかかわらず、ウクライナ戦争の終結はほど遠い。ロシアは年単位の戦争に備えながら、ドンバス地方で前進を続けており、ウクライナ併合という当初の目標を変えていない。国家安全保障会議の副議長を務めるドミトリー・メドベージェフ前大統領は今月、「ウクライナが2年後に世界地図に残っていると誰が言ったか」と述べた。一部の欧州の指導者にとってこれらの発言が意味するところは、ウクライナの大部分がロシアに支配された状態で停戦が実現し、ロシアが消耗した軍を再編・再建して、新たな攻撃に向けて準備をすることができれば、最終的に他の欧州の国がプーチン氏の標的になる、ということだ

     

    ウクライナ戦争は、簡単に終わらないだろうという見方である。プーチン氏が、敗北を受入れない男であるからだ。

     

    (5)「エストニアを含むバルト3国は、建前上はNATO加盟によって保護されているが、NATOが現在、この地域を含めた東欧に配置している兵力は少なく、ロシアの全面侵攻を軍事的に撃退するには十分ではない。東欧最大の国ポーランドでさえ、軍隊はウクライナ軍ほど強くはなく、戦闘で鍛えられてもいない。一部の西側の軍事専門家によると、ロシア軍はエストニアの首都タリンをわずか1日で占領できるという。ポーランド国防省が2021年に実施した軍事演習では、同国軍は5日間でロシアに完敗するとの結論に達した」

     

    バルト3国は、ロシアの戦闘拡大に最も警戒している。エストニアの首都タリンは、わずか1日で占領されるという。米軍が、バルト3国へ常駐するので、ロシア軍も簡単に手を出せない状況だ。

     

    (6)「元駐NATO米大使でシンクタンク「シカゴ・グローバル評議会(CCGA)」会長のイボ・ダルダー氏によれば、ロシアがNATO加盟国に対して軍事侵攻した場合、現状では米国は間違いなく迅速に対応するという。ウクライナでの経験とは違って、ロシアの空軍は数日で破壊され、地上部隊はNATOの優れた空軍力に太刀打ちできないだろう。しかし、米国でより孤立主義的な政権が成立すれば、状況は変わるかもしれない」

     

    米軍とNATO軍がロシア軍と戦えば、帰趨ははっきりしている。ただ、米国でトランプ氏のような孤立主義者が政権につくと状況は変わる。欧州はその場合、悲劇再現となるリスクが高まる。

     

     

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