勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    韓国で暮している中国人は、外国人でトップである。中国で住宅値上がりの御利益に与った夢を忘れないのか、中国人が韓国でも積極購入していることがわかった。最近の韓国不動産価格値上がりの一因は「中国人買い」にあるのかも知れない。

     

    韓国に住む外国人総数は、約246万人である。このうち、中国人は約104万8000人(42.%)でトップだ。朝鮮半島は、歴史的に中国大陸と密接な関係を持ってきたから当然であろう。ただ、一つ気になるのは、外国人に占める中国人比率に比べて、外国人住宅所有の中で中国人比率が56%と約14ポイントも高いことだ。しかも、この比率は徐々に上がっていることだ。他の外国人比べて目立っている。

     

    『ハンギョレ新聞』(11月29日付)は、「外国人所有の韓国の住宅、56%が中国人所有 約5万戸で『最多』」と題する記事を掲載した。

     

    外国人が、所有している韓国国内の住宅の56%が中国人の所有であることが分かった。中国人の割合は、昨年上半期に54%、昨年末に55%と徐々に高まっている。

     

    (1)「国土交通部は11月29日、今年6月末時点の外国人による住宅・土地所有統計を発表した。6月末現在、外国人が所有する国内の住宅は9万5058戸で、その6ヶ月前に比べて3605戸(3.9%)増加。外国人の所有する住宅は住宅総数の0.49%を占める」

     

    外国人が所有する国内の住宅は、9万5058戸で0.49%を占めている。これは、空き家も含めているから余り意味はない。それよりも、外国人の所有する住宅数の増え方に注目すべきだ。着実に増えている。

     

    (2)「住宅を所有している外国人は9万3414人。所有者の国籍を見ると、中国人が5万2798戸(55.5%)で最多。中国人の所有する住宅は6ヶ月前に比べて2470戸(4.9%)増。今年上半期の外国人所有住宅の増加分の69%が中国人によるものということになる。中国人に続いて、多い順に米国人2万1360戸(22.5%)、カナダ人6225戸(6.5%)、台湾人3307戸(3.5%)、オーストラリア人1894戸(2.0%)」である」

     

    中国人の所有する住宅は、6ヶ月前に比べて2470戸も増えている。これは、住宅市場にとっては、相当の需要圧力である。さらに検証しなければ結論は出ないが、中国人需要が不動産価格を押し上げているであろう。中国の不動産投機の波が、韓国へ移ってきたならば大変なことになる。外国人の住宅購入を止めることも検討すべきだろう。

     

    (3)「外国人が所有している住宅の72.8%は首都圏にある。京畿道所在の住宅が3万6755戸(38.7%)で最も多く、ソウル2万3085戸(24.3%)、仁川(インチョン)9407戸(9.9%)などが続く。市郡区別に見ると、多い順に京畿道富川(プチョン、4844戸)、安山(アンサン、4581戸)、水原(スウォン、3251戸)、始興(シフン、2924戸)、平沢(ピョンテク、2804戸)」

     

    韓国は人口が首都圏へ集中している。これが、不動産相場を押上げている。有力就職先が、首都圏にあることが拍車をかけている。朝鮮李朝時代、開明していた地域はソウル一帯で地方は「未開拓地域」であった。その名残が、現在まで続いている。

     

    (4)「外国人住宅所有者の93.4%は1戸のみの所有者で、2戸所有者は5.2%(4881人)だった。3戸所有者は586人、4戸204人、5戸以上は452人だった。外国人が所有している国内の土地の面積は、6月末時点で2億6565万4000平方メートル、昨年末に比べて0.4%増加した。外国人所有の土地の公示地価総額は33兆1981億ウォン(約3兆5600億円)で、6カ月間で0.5%上昇した」

     

    ここで注目すべきは、複数戸の住宅保有者が極めて多いことだ。2戸所有者が、4881人、3戸所有者は586人、4戸204人、5戸以上は452人となっているところをみると、やはり「中国人投機」という嗅覚が働く。本国の住宅投機を、韓国へ持ち込んでいるのだろう。

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    「お大尽様」感覚で対応

    逆回転する「土地本位制」

    地方の暮し危機へ揺らぐ

    掛け声だけの「台湾侵攻」

     

    中国は最近、日本へ「融和シグナル」を送っている。日本人が、中国へ渡航する際に必要な短期ビザ(査証)は、11月30日から免除された。従来は、期間15日間が30日間へ延長する「厚遇」だ。中国人は、日本へ入国に必要なビザを免除されていない。一方的に、対日「ビザなし」へ踏み切ったのだ。

     

    これだけでない。自衛隊と中国人民解放軍の中堅幹部らは、11月27~28日まで、北京などで交流事業を始めた。自衛隊は、1等海佐ら13人が参加し、中国の陸軍や空軍の施設を視察した。また、米国のトランプ次期政権発足後の防衛政策などについて意見交換までした。

     

    中国はこれまで、日本に対してことごとく対決姿勢を取ってきた。昨年夏の福島原発処理水放出では、世界中へ「汚染水放出」と非難して回ったほどだ。この中国が、「ニーハオ」と急変し拳に変えて握手を求めている。日本への「戦狼外交」が突然、「微笑外交」へ変わった理由はなにか。それは、中国が経済的な苦境にあるゆえ当面、「敵の数を減らす」べく、戦術を転換したのであろう。

     

    中国が、対日姿勢を融和にする局面は、必ず米中関係が悪化したときである。「二正面戦争はできない」という理由で、米中対立の緩衝材として日本へ接近するパターン外交を取っている。米国次期政権は、トランプ氏復帰である。すでに、60%超の関税引き上げを宣言している。これとは別途に、米議会は中国への貿易で認めている「最恵国待遇」廃止に向けて動き出している。これが実現すると、北朝鮮やキューバといった敵対国と同様に扱かわれることになり、関税が大幅に上がる。中国にとって、死活的な問題になる。

     

    中国には、こういう差し迫った問題が起こっている。日本との関係が悪化したままでは、経済的にもさらに不安定状態となる。そこで、本心は別としても「ニーハオ日本」と言わざるを得ない局面へ落込んでいる。

     

    「お大尽様」感覚で対応

    中国は、習近平氏が国家主席に就任以来、「国家主義」が全面化している。国家に絶対的な優位性を認め、覇権主義をギラギラさせるようになった。周辺国へ軍事的な圧力を加えることに、「愉悦」を感じるかのごとき意図的な振舞を行っているのだ。この背景には、不動産バブルによるGDP成長率「10%平均」の高速成長が突き上げていた。「お大尽様」になったと錯覚したのであろう

     

    このバブル経済がひっくり返って、事態は180度の大転換だ。中国経済の基盤が崩壊したのである。習近平氏は、この思わざる成長経済の脱線で苦汁をなめさせられている。「ニーハオ外交」の裏にあるものは、背に腹を変えられない経済苦境なのだ。いま、「驕れるもの久しからず」の中国版に見舞われている。

     

    中国経済の「蹉跌」は、地方財政の主要財源に土地売却益を組み入れたことが原因である。いはば、「土地本位制」(学術用語でない)によって、地方政府の財源の2~3割を賄ってきたという異常性が、取り返しのつかない事態を招いたのである。

     

    中国3000年の歴史で、土地問題は最大の経済問題になってきた。土地公有制と土地私有制が交互に繰返されてきたのだ。公有制は、田畑が荒れ果てる弊害を生んだ。私有制は、土地集中性を招いて不平等の原因になった。こういう経緯から、辛亥革命(1911年)を指導した孫文は、土地の私有制を基本とし、値上がり分は100%課税する折衷案を提案した。毛沢東は、ありきたりの「国有制」を踏襲して、今日の結果を招く原因を作った。始皇帝以来の農本主義による「土地執着」性をあらわにした結果だ。

     

    今回の不動産バブル崩壊は、長い中国史において失敗した「土地公有制」の一環と位置づけられる。「歴史的失敗」へさらなる1ページを加えたのだ。この視点に立つと、今後の中国経済が致命的な打撃を受けることは不可避で、再び「私有制」が議論されるだろう。

     

    土地が、地方財政の主要財源になったことは、余りにも前近代的財政制度の欠陥を示している。土地を切り売りするという安易な財源調達方法が破綻した以上、この影響が長期にわたることは不可避である。本来であれば、安定した財源として固定資産税(不動産税)や相続税が代替すべきものである。中国は、共産党の古参幹部の子弟(紅二代・三代ら)の反対で、実施できない政治的弱点を抱えている。

     

    銀行でも不動産担保貸出は、時価の6割見当が限度になっている。不動産価格が不安定であるからだ。こういう不動産特有の「不安定さ」を無視し、中国は不動産のバブル化を前提にしたような財源対策を行ってきた。必然的に増える財政需要を、地価上昇分でカバーするという「バブル思考」は、不健全そのものである。中国財政が、地価下落を想定していなかったとすれば、なんとも奇妙な政府であると言うほかない。それだけに、正常化するまでの打撃は大きいのだ。(つづく)

     

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    日産自動車は11月、米国や中国市場の販売不振で悪化した収益構造を改善するため、世界で生産能力20%、人員9000人を削減すると発表した。不振の日産が、再び輝きを取り戻す具体策はあるのか。ここで、浮上してきたのが、ホンダとの統合論である。すでに、『フィナンシャル・タイムズ』が報じて注目されている。

     

    『ロイター』(11月29日付)は、「日産とホンダ 苦境克服に統合の選択肢」と題する記事を報じた。

     

    トヨタ自動車の国内最大の競合2社は、力を合わせて現在抱える問題に打ち勝つ時が来たのかもしれない。日産自動車の苦境はより鮮明で、業績不振を受けて生産能力と人員を削減する緊急再編策打ち出した。ホンダの四輪車事業も精彩を欠いている。

    2社を統合すればコスト削減や収益立て直しのほか、電気自動車(EV)やその他の技術への効率的で効果的な投資が可能になる。

     

    (1)「日産の内田誠社長による事業再編計画は9000人の人員削減と生産能力の20%削減が伴う。ビジブル・アルファがまとめた市場予想によると、それでもなお、2026年3月期の自動車事業の営業利益率は0.4%にとどまる見込み。また、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は26日、日産がルノーの保有分に代わる株主として、銀行や保険会社などの長期投資家を模索していると報じ、関係者の話として、ホンダに一部株式を売却する可能性も排除していないと伝えた」

     

    日産の2026年3月期の自動車事業の営業利益率は0.4%に止まるという。9000人の人員削減と生産能力の20%を削減しても、この程度の営業利益率では「死に体」である。自動車産業の営業利益率は、最低で5%が必要である。このラインを割れば、新車開発は不可能とみられている。日産は、再編を決断すべき時期であろう。

     

    (2)「ホンダの四輪事業の営業利益率はわずか3.6%で、二輪事業の18%を大きく下回っており、26年3月期も1%ポイント程度しか改善しない可能性がある。ビジブル・アルファの予想によると、日産とホンダの同年度の合計販売台数は600万台近くになる見通し。主要市場が重なる両社が統合すれば管理、調達から工場・研究まで、あらゆる経費の削減が可能になる。ただ、営業利益率をトヨタの10%に匹敵させるのは並大抵のことではなく、必要となるコスト削減は約120億ドルと、両社の売上高合計の7.5%に相当するという」

     

    ホンダの四輪事業営業利益率はわずか3.6%である。日産と同様に新車開発能力は著しく制約される。日産・ホンダの統合論には、それなりの根拠がある。日産とホンダの合計販売台数は600万台近くになる。主要市場が重なる両社が統合すれば管理、調達から工場・研究まで、あらゆる経費の削減が可能になる。コスト削減は、約120億ドル(約1兆8000億円)という。これは、凄い統合効果である。

     

    (3)「(両社統合で)利益率7%を目指すことは、両社が経営統合してコスト削減なしに達成可能な3%と、トヨタの10%のちょうど中間値で、可能かもしれない。そのためには、売上高の約4%に相当する経費を削減する必要がある。これは、プジョーとフィアット・クライスラーが19年に、合併してステランティスを設立することで合意した際に目標に掲げた2.7%を上回る。一方でコスト削減率は、ルノーと日産、三菱自動車の3社連合が17年に打ち出した事業目標に基づくものに一致する。日産とホンダは金融子会社を統合することで、より多くのコストを削減できるだろう」

     

    両社統合で、営業利益率は7%になるという。これは、「死中に活を求める」話である。大同小異で統合を推進すべきであろう。

     

    (4)「日産とホンダの経営統合はこれまでも取り沙汰されている。FTは、19年に日本政府関係者が両社に経営統合を提案したと報じている。日産のカルロス・ゴーン元会長は過去に、電気自動車(EV)やソフトウエアでの提携について、ホンダによる「偽装買収」と表現している。両社はこれまで、統合する意向を全く示していない。ただ、業績不振や計算上の統合効果を踏まえると、検討する価値はありそうだ」

     

    日産は、メンツを捨ててホンダとの統合を真剣に模索する時期だ。ゴーン元会長は、EVなどの両社提携は、ホンダによる「偽装買収」として暗にホンダの技術力を評価している。

    テイカカズラ
       

    韓国銀行(中央銀行)は11月28日、据え置き予想に反して政策金利を0.25%引き下げ、3.00%とした。景気がさえず、トランプ次期米大統領の誕生による貿易リスクにも警戒する中、2会合連続で利下げを決めた。追加緩和も示唆しているほどの慌てぶりだ。2会合連続の利下げは、2009年以来15年ぶりだ。金融通貨委員会での表決は5対2だった。全員一致の利下げでなかった。ロイター調査によると、利下げを予想したエコノミストは38人中4人で、残りは据え置きを見込んでいたほどである。

     

    『東亜日報』(11月29日付)は、「景気刺激を狙った利下げ、専門家らはウォン安と家計負債の増加を懸念」と題する記事を掲載した。

     

    韓国銀行(韓銀)は11月28日、基準金利を引き下げた。景気刺激の必要性に重きを置いた決定と見られるが、市場の予想より早い引き下げ措置による副作用の懸念も出ている。ドナルド・トランプ米次期大統領の選挙勝利後に進んだドル高がさらに進んだり、最近やっと落ち着いた家計負債をめぐる不安が再び増えかねないという指摘も出ている。


    (1)「韓銀が市場の予想を破って、2回連続で利下げに踏み切ったのは、それだけ輸出の不確実性と内需低迷の懸念が高まり、早く利下げに踏み切って景気を刺激しようとする意志と見られる。しかし、不安定な外国為替市場と家計負債の負担は、依然として「伏兵」とされている。ウリィ銀行のパク・ヒョンジュン・エコノミストは、「内需が大変振るわないため、利下げはやむなき選択かもしれないが、今回の利下げでドル高や物価上昇、家計負債の増加などの副作用を引き起こす可能性が非常に高い」と話した」

     

    今回の利下げは、「綱渡り」である。罷り間違えば、「落下」するというリスクを抱えている。それでも踏み切らざるを得ないほど切迫しているのだ。

     

    (2)「トランプ次期大統領の関税引き上げが予想される中で急激にドル高が進み、今回の利下げが、ドル高をさらに刺激する恐れがあるという懸念が出ている。ドルに対するウォン相場は13日、取引中1ドル=1410ウォンを超え、2年ぶりの最高値を記録後、依然として1ドル=1390ウォン台の高い水準に止まっている。今後、さらにドル高が進めば、輸入物価を刺激し、消費者物価の上昇圧力としても働く可能性がある」

     

    ドル=ウォン相場は、1394ウォン(11月30日)である。韓国の利下げでウォン安が進めば、輸入物価の上昇が起こるだけに神経過敏になっている。日本と同じ事情である。

     

    (3)「専門家らは、家計向け融資の再過熱の可能性をより大きな問題として取り上げている。韓銀によると、9月末基準の家計信用残高は、第2四半期(4~6月)末比18兆ウォン増の1913兆8000億ウォンで、過去最高を記録した。特に、住宅ローンが前期比19兆4000億ウォン増え、全体家計負債の増加傾向を牽引した。ただ、当局が9月から2段階ストレス総負債元利金返済比率(DSR)を適用するなど規制に乗り出し、銀行も融資の敷居を高め、第4四半期(10~12月)に入ってからは家計負債の増加傾向が折れている」

     

    韓国の住宅ローン残高は、増加の一途である。家計債務残高が、対GDP比で100%をはるかに超えており、これが個人消費を抑圧している。それだけに、利下げが消費を刺激せず、逆に抑圧するという逆パターンが起こっている。世にも不思議な現象だ。

     

    (4)「このような状況で、韓国銀行が利下げに踏み切れば、再び家計負債の増加傾向に油を注ぐ可能性があるとの観測が出ている。現代(ヒョンデ)自動車証券のチェ・ジェミン研究員は、「来年1月、銀行の融資総量が初期化されれば、家計向け融資の増加傾向が高騰することもありうる」とし、「金利をあらかじめ下げている状態で、景気も良くないのに、不動産まで再び過熱すれば、その時になって対応余力は減るほかはない」と指摘した。その上、韓銀が来年に続き再来年の経済成長率まで下方修正したことも、やはり市場の利下げに対する期待を一層強化させ、不動産リスクをさらに高める要因になりうる。ただ、金融界の融資規制で購入傾向が萎縮しており、金利引き下げが不動産市場に直ちに及ぼす影響は限られるだろうという見方もある」


    今回の利下げは、企業救済である。企業が高金利で苦しんでいるので、これから年末に向けて、倒産件数を減らすという緊急目的が課されている。韓銀も苦しい選択である。金融通貨委員会での表決が、5対2であったことにそれが現れている。

     

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    AI(人工知能)を用いて疾患リスクを予測するサービスが続々と登場している。AI技術がコモディティー化し、手軽に試せるようになったことが背景にある。AI疾患予測が広がると、利用者はよりデータに基づいて健康管理をするようになり、健康増進や社会全体の医療費削減につながっていく可能性が指摘されている。 

    『日本経済新聞 電子版』(11月29日付)は、「がんや脳卒中リスクをAI予測 MDVや住友生命など」と題する記事を掲載した。 

    医療データ分析のメディカル・データ・ビジョン(MDV)は、がんや脳卒中を含む34の疾患について、3年以内の発症リスクを予測できるサービスを10月31日から開始した。 

    (1)「スマートフォンで同社が提供するアプリケーション「カルテコ」に健診結果を入力すると、発症リスクや同性同世代平均と比較したときの疾患倍率などが算出される。血圧などのバイタルサインや肝機能、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)などの血液検査値が改善すると、各リスクがどのくらい下がるかといったシミュレーションも可能だ。月額550円で提供する」 

    スマホへ健康診断データを入力すれば、発症リスクを算出する。医師に代わる分析をするのだ。背後には、膨大なデータベースがあるから、「誤診」は起こらないのだろう。

     

    (2)「MDVの強みは、質の高い健康・医療データを大量に持っていることだ。MDVが持つ約5000万人という国内最大級の診療データを活用し、それにひもづいた健診結果を持つ人のデータを基に健診時からその後病気になったかどうかを機械学習し、モデルを構築した。NECソリューションイノベータ(東京・江東)も2024年、健診結果から4年以内の11疾患の発症リスクを予測するAIを開発し、このAIを搭載した製品「NEC健診結果予測シミュレーション」の提供を始めた。匿名化した約45万人分のカルテと約10万人分の定期健診の情報を、AIの学習データとして使用している」 

    MDVは、約5000万人という国内最大級の診療データを活用している。これは、医師の能力をはるかに超えている。NECソリューションイノベータも、健診結果から4年以内の11疾患の発症リスクを予測するAIを開発した。 

    (3)「AIを用いた疾患予測サービスを提供するのは、IT(情報技術)系企業にとどまらない。住友生命保険は23年、保険業界初となる自社で保有するデータや日々の活動データを活用したAI疾患予測サービスの提供を開始した。同社の健康増進をサポートする保険「Vitality(バイタリティー)」で利用するアプリに搭載する。健診結果や日々の活動データから2年以内の5疾患の発症リスクを予測する。同社が保有する約100万件のVitality会員の健診結果などのデータを活用した。自社で自由に機能拡張できるメリットを鑑みて、AIは内製という。生命保険事業は、疾患予測から健康増進を働きかけ、万が一のときには経済的な補償を提供する一連の流れをつくることができるため、AI疾患予測サービスと親和性があるという」 

    住友生命保険は、TVのCMで「Vitality(バイタリティー)」を宣伝している。

     

    (4)「こうした健康・医療データを活用する動きが広がれば、将来的には今まで相関関係が見られなかった生活習慣や検査値と疾患の関連が新たに判明することにもつながりそうだ。人々はよりデータに基づいて健康管理をするようになり、セルフケアの発展は健康増進を促し、医療費の削減も期待できる。 

    検診データから、潜在的な疾病リスクを知ることができれば、日々の生活が安心できる。 

    (5)「AI疾患予測サービスを立ち上げるには、まずは健康・医療データの収集が欠かせない。前述した各社の他、業界横断でもデータ収集に動きを見せている。例えば、NTTドコモ・ベンチャーズと中部電力、YKKAP、大東建託の4社は10月4日、医療系新興企業であるトータルフューチャーヘルスケア(TFH、東京・港)に共同出資し、高齢者の認知症などの兆候を早期発見するプラットフォームを開発すると発表した。建物に設置するセンサーによる転倒検知に加えて、顔画像から血液検査の推定値を手軽に測定できるようにして健康・医療データを収集する」 

    NTTドコモ・ベンチャーズ、中部電力、YKKAP、大東建託4社も建物に設置するセンサーによる転倒検知に加えて、顔画像から血液検査の推定値を手軽に測定できるようにして健康・医療データを収集するという。一斉に「高齢者ビジネス」を開発している。 

    (6)「将来的には、データを蓄積し、NTTドコモが持つ利用者の健康状態や生活習慣などをAIで分析できる基盤を用いて、食事・運動などの予防の提案へ活用したい考えだ。家庭で計測できるような健康・医療データはウエアラブルデバイスなどを通じて収集できる。だがそれ以外のデータ収集は難易度が高い。経済産業省の調べによると、公的保険外のヘルスケア産業の市場規模は20年時点で18.5兆円のところ、50年には59.9兆円と約3倍に拡大する見込み」 

    公的保険外のヘルスケア産業の市場拡大は、疾病を減らす役割を果す。寝たきりになる前の予防策である。日本発の一大ビジネスへ成長するだろう。

     

     

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