共産主義下の中国は、当局が苦し紛れに銀行貸し出しまで介入することを示した。銀行は、政府の命令で赤字に苦しむ不動産開発企業へ融資するというのだ。不動産バブル崩壊という歴史的な混乱のなかで、財政資金を投入せずに銀行融資という便法を用いるのである。これによって、財政赤字が増えないことを習氏の政治的な業績にしたいのであろう。
『ブルームバーグ』(11月28日付)は、「中国の銀行、融資焦げ付きや人員削減の恐れー当局の不動産支援強化で」と題する記事を掲載した。
中国当局は国内不動産企業が財務面で苦境に陥っていることを受け、本土銀行大手を通じた資金繰り支援を強化しているが、銀行業界にとってはさらなる難題を抱える形となっている。
(1)「すでに不良債権の急増や過去最低水準の預貸利ざやに苦しむ中国工商銀行など金融機関は、不動産開発企業への無担保融資の提供を初めて求められる可能性がある。こうした企業はそもそも債務不履行の状況だったり、破綻の瀬戸際に追い込まれたりしているところも多い。銀行がライフラインの提供を余儀なくされた場合、すでに厳しい見通しがさらに悪くなる恐れもある。ブルームバーグ・インテリジェンスによると、工商銀など主要11銀行は2024年に不動産の不良債権でさらに引当金890億ドル(約13兆2000億円)、来年見込まれる引き当て前利益で21%相当を積まなければならなくなる可能性がある」
中国主要11行は、強制的な不動産開発企業への融資で不良債権発生を覚悟している。24年に見込まれる引き当て前利益の21%相当は、貸倒引当金に積み増すという厳戒姿勢である。
(2)「銀行側は、選択肢として業績目標の引き下げや人員削減を検討していると、少なくとも十数人のバンカーが明かした。行内の問題だとして匿名を条件に話した。北京を拠点とする投資銀行、香頌資本でディレクターを務める沈萌氏は、「中国政府は銀行が抱える問題への解決策を示さずに、支援するよう金融機関にひたすら求めることはできない」と指摘。「銀行の利益はまだ表向き良さそうに見えるが、資産や不良債権をより深く掘り下げてみれば、良好に見える状況が長く続くということはない」と語る」
銀行利益は順調のようにみえるが、精査しなければならない。不良債権発生を覚悟して、人員削減を検討し始めた銀行も出てきた。
(3)「中国の銀行は、不動産セクターや財政難の地方政府への支援を通じた「国家サービス」の提供と、健全な経営義務遵守という二つの相反する要求の板挟み状態にある。一部の銀行にとっては利益の拡大はほぼ不可能となっている」
このパラグラフは、中国の銀行が抱える悩みを吐露している。不動産開発企業の救済と地方政府への支援という二大難題を抱えているからだ。いずれも、銀行経営の健全性に大きく離反している。具体的には、預金者への義務遵守に違反するからだ。明らかに邪道である。
(4)「中国当局は先週、低迷する住宅市場をてこ入れするため金融機関への圧力をさらに強化。銀行支援の対象となる不動産企業のリスト策定に取り組む一方、開発業者に対する初の銀行無担保融資計画も検討している。一連の要求は銀行の財務や業務を圧迫する。データによると、預貸利ざやの純金利マージンは9月時点で過去最低の1.73%。合理的な収益性を維持するのに必要と見なされる1.8%の水準を割り込んでいる。また、不良債権が過去最大を更新しているほか、一部の大手国有銀で17年以降続いてきた増収は今年途切れる可能性がある」
銀行利ざやの最低ラインは1.8%とされるが、9月時点で1.73%へ落ち込んでいる。この上、強制的な不動産開発企業への融資が始まれば、利ざやはさらに悪化する。中国の金融不安を呼び込む兼ねない綱渡りである。
(5)「工商銀を含む4大国有銀の香港上場株の株価純資産倍率(PBR)は0.3倍と、過去最低近くにとどまっており、世界金融危機時に米銀株が取引されていた水準とほぼ同じだ。ある地方商業銀行は、次年度の目標を低めに設定していると幹部は話す。優良な貸出先を巡る競争が激しくなる中、融資の規模や収入を伸ばすのは困難だという。関係者によると、一部の小規模金融機関は人員削減に動いており、融資担当部署に在籍する400人を今年半減させることを計画しているところもある」
4大国有銀の香港上場株の株価純資産倍率(PBR)が、0.3倍と倒産並みの水準まで売り込まれている。一国の信用維持にとっては由々しい事態である。
(6)「債務不履行リスクが高いにもかかわらず、地方政府の資金調達事業体「地方融資平台」(LGFV)への貸し出しを実行し、当局への協力姿勢を示そうとする銀行もある。当局者によれば、ある大手銀の四川省の地方支店では今年の企業向け新規融資の約80%がLGFVだった。ゴールドマン・サックス・グループは、中国当局が銀行に不動産開発企業の資金繰り支援の強化を求める新たな指導によって、同セクターの不良債権比率は0.21%押し上げられる恐れがあると指摘。また、JPモルガン・チェースは無担保融資の取り組みについて「リスクを伴う動き」だと警告した」
中国の綱渡りは、ちょっとしたつまずきで「大火」になるリスクへ発展する。この状態が、これから長期にわたって続くのだ。中国経済は、これだけでもL字型成長は100%確実であろう。
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2023-11-27 |