勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    あじさいのたまご
       

    韓国の若者の多くは、就職難で大学卒業と同時に失業者になっている。卒業後、平均して約14ヶ月の職探しを余儀なくされている。この間の生活費などを賄う借入が、返済できず「不良信用者」になっている。これから、社会へ出ようという若者が、出っぱなで躓く不運は何とも気の毒な話だ。

     

    日本では、大学3年生の9月から就活が認められている。4年生の春には、多くの学生が企業から就職内定を取り付けている。一人で何社も内定を貰う「剛の者」が出るほど。韓国のように、就活で借金をつくる環境とは180度の違いだ。日韓の就職戦線は、「天国と地獄」の違いがある。なぜか。この差こそ、社会組織の柔軟性を象徴している。

     

    『東亜日報』(9月11日付)は、「雇用減少と長期間の就活で借金の多い若者たち」と題する記事を掲載した。

     

    金融会社から借りた金を返済できず、「信用留意者(旧信用不良者)」に転落した若者の数が、この2年7ヵ月で25%も増えたことが分かった。仕事を探すために就活を行っている間に借りた借金が積もって、信用不良の状態に陥る若者が多いという意味だ。

     

    (1)「7月末、韓国信用情報院に信用留意者として登録された20代は6万6000人で、2021年末の5万2600人より大幅に増加した。融資期間が終わった後、3ヶ月が過ぎても借金を返さなかったり、延滞期間が6ヶ月を超えたりした場合だ。同期間、全体の信用留意者は8%増えたが、20代はそれより3倍以上急増した」

     

    20代の信用留意者(債務延滞者)は、韓国全体の増加率の3倍以上も増えている。

     

    (2)「問題は、多くない借金のために社会に第一歩を踏み出す前に信用不良になる若者が多いことだ。格付け会社に短期間延滞情報が掲載されている20代の若者10人に9人は、延滞金額が1000万ウォン(約100万円)未満だ。信用留意者として登録されれば、借金の金額とは関係なく、クレジットカードの使用停止、格付け下落などの不利益を被ることになる。就職して固定収入ができれば、1、2年以内に完済できる借金なのに、就職できず、信用不良の泥沼から抜け出せずにいる」

     

     

    延滞金額は、1000万ウォン(約100万円)未満という。この比較的少額で、信用留意者の枠へ落込むのは、長い一生を考えると何とも気の毒に思える。人生の最初から足かせをはめられたようなものである。ただ、無計画に借りた側にも責任はある。アルバイトをしながら就活をするなど方法はいくらでもあったはずだ。それをしないで、信用留意者の列に加わったのは、工夫が足りない面もあろう。

     

    (3)「このような問題を根本的に解消するためには、就職事情が改善されなければならないが、就職にかかる期間が日増しに長くなるなど、採用市場は逆方向に進んでいる。今年5月基準で就職若しくは、就職経験のある20~34歳の若者たちが、初めての就職までかかった期間は過去最長の平均14ヶ月で、昨年より1.7ヶ月伸びた。学校卒業後、初就職まで1年以上かかった若者は32%、2年以上かかった若者も20%にもなる

     

    韓国で、大学を卒業して就職するまでの期間が、平均で14ヶ月もかかるのはなぜなのか。終身雇用制によって、転職市場が未発達であるのも大きな要因であろう。第一志望でなくても、とりあえず第二志望の企業へ就職し、機会をみて転職する選択もあるだろう。韓国は、硬直した社会組織になっているのだ。

     

    (4)「若者の雇用件数も減っている。統計庁の雇用動向によると、今年第1四半期の20代以下の若者層の雇用は昨年同期比10万2000件減少した。今年下半期に採用計画を確定した大企業は35%に過ぎず、「良質の雇用」の供給は非常に不足している。余裕のある親から支援を受けられない若者たちの大半は、就職の敷居を越える前に借金の泥沼に陥らざるを得ないのが現状だ。人生の決定的な時期に、数十、数百万ウォンの借金に押されて危機に直面した若者たちのために、政府と金融界は信用回復支援プログラムを大幅に強化しなければならない。もちろんさらに重要なことは、若者たちの目線に合う良質の雇用をより多く作ることだ」

     

    親元から就活に出かけるという選択はないのか。高速鉄道でソウルまで通うという方法はないのか。第三者が、あれこれと経費節減の方法を考えるほどだ。政府が、地方出身者に就活用の安い宿を提供する方法もあるだろう。この問題の解決には、多面的に取組むほかない。

     

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    (5)「月城原発1号機の経済性に関するデータ改ざん事件も、青瓦台が直接介入していた事実が明らかになった。「いつ稼働中断を決めるのか」という大統領の一言で何の問題もない原発のシャットダウンが決定され、それを後押しするためにデータを改ざんするという前代未聞の犯罪が行われた。青瓦台の秘書官・行政官らが露骨に産業通商資源部に改ざんを指示した。大統領の意中を知った産業通商資源部長官が指示に従わない部下に「お前は死にたいのか」と脅す事態まで起きた。彼らが自身の判断でそんな無茶をしたはずがない」

     

    月城原発1号機の閉鎖は、何の問題も起こっていないにも原発が、文大統領の「反原発主義」の生け贄にされた事件である。これを隠すために、データの改ざんが行われたのだ。

     

    (6)「経済性データ改ざんに関する情報提供を行った韓国水力原子力(韓水原)の元労組委員長らは、退任翌日の文前大統領を検察に告発した。委員長らは文前大統領が法的な手続きを経ずに月城原発1号機の閉鎖を指示することで「エネルギー安全保障を崩壊させた利敵行為」を働いたと主張した。しかし、検察は一度も捜査をせず、告発から3年が経った今ももみ消しを続けている」

     

    月城原発1号機閉鎖にまつわる不正で、元労組委員長が文前大統領を告発した。この件も検察は一度も捜査をせず、告発から3年が経った今ももみ消しを続けている。この一件も、尹大統領自らが検察トップとして関わっただけに、あえて無視しているとみられる。

     

    (7)「法曹界からは、尹政権の捜査の矛先が文前大統領に向けば矛が折れてしまう奇妙な現象に疑問を呈している。尹大統領が自分を育ててくれた文前大統領に「恩義」を感じていると解釈する人もいる。そんなはずはないだろうが、万一私的な縁に縛られ、国家的な重犯罪を覆い隠すことになれば、歴史に対する罪を犯すことになる。選挙制度を揺るがし、エネルギー政策の大計を破壊し、国民の生命を犠牲にした容疑は特例採用よりも数千倍、数万倍重い」

     

    文前大統領を巡る事件は、検察トップであった尹氏にも関わる事件である。尹氏も苦しい立場になっている。

     

    あじさいのたまご
       

    韓国検察は、文在寅前大統領を収賄容疑で捜査する対象に上げている。事件は、娘の夫(現在は離婚)の就職で便宜を図った人物を公職に就けたというものだ。この件は、5年前で当時、文大統領との関係が取り沙汰され大きく報道されていた。

     

    当時の検察は捜査へ動かなかった。それが今、事件化されている。検察の怠慢とされても致し方ないが、当時の検察トップは現大統領の尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏である。こうなると、韓国検察が、政治動向に敏感に反応していること窺わせている。文氏は、大統領在任中に多くの疑惑が指摘されていた。事件はいずれも、文氏にまでたどり着かない時点で捜査が終わっている。検察が、手心を加えて捜査を止めたのでないかとみられる。韓国司法の「闇」でもあるのだ。尹錫悦大統領への批判にも繋がる問題である。

     

    『朝鮮日報』(9月14日付)は、「文在寅前大統領の『真の容疑』には触れることさえできなかった」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の朴正薫(パク・チョンフン)論説室長である。

     

    韓国検察が文在寅(ムン・ジェイン)前大統領を娘婿の特例採用疑惑における収賄側の被疑者として捜査対象に含めたことに対し、民主党と文前大統領側は「ほこりたたき」「政治報復」「おかしな詭弁」だと強く反発し、「天を恐れることを知れ」と非難を浴びせた。しかし、文政権時代の内幕を知っている人々は、真逆の意味で検察に不満だ。文前大統領が関与した犯罪疑惑は一つや二つではないのに、検察が今まで何をやってきたのか。今になって、それも数多くの疑惑の中で重大な事案は放置し、最も軽い事件にだけ手を付けたのかということだ。

     

    (1)「文前大統領の娘婿が格安航空会社(LCC)イースター航空のタイ子会社に特例採用された疑惑が野党によって指摘されたのは2019年のことだ。イースター航空の創業者である李相稷(イ・サンジク)元国会議員とムン前大統領の不透明な関係を裏づけるマスコミ報道が相次ぎ、内部関係者の暴露もあったが、検察はまともに捜査しなかった。文在寅検察ならばさもありなんだが、政権交代後、尹錫悦(ユン・ソンニョル)検察までもが手をこまぬいてきたことは理解に苦しむ。この事件は今年初め、全州地検が元娘婿と当時の青瓦台関係者に出頭を求めて取り調べを行い、ようやく本格的な捜査が始まった。疑惑が指摘されてからほぼ5年が過ぎていた」

     

    尹錫悦氏は、文大統領によって引き立てられ検察トップにまでなったが、最後は捜査方針を巡って対立し辞職した経緯がある。そこには、一種の「愛憎劇」も生まれたが、尹氏は大統領に就任しても、文前大統領を法廷へ引出すようなことを避けてきた。それは、尹氏が文捜査を中途で止めさせた人物でもあるからだ。

     

    (2)「その上、この事件は文前大統領を巡るその他疑惑に比べれば、文字通り「雀の涙」のような事件だ。例えば、文政権の青瓦台が犯した蔚山市長選介入事件は、民主主義の根幹を揺るがし、憲法に反する重犯罪だった。大統領の30年来の友人を当選させるため、青瓦台が総動員で公約を定め、党内のライバルを懐柔し、他のポストを提示して出馬を断念させた。青瓦台の下命を受けた警察は、虚偽の情報でライバル候補を捜査し、投票日直前に家宅捜索を行い、不正のイメージを植え付けた。民主主義国家ではありえない稀代の政治工作だった」

     

    今回の文氏の娘の夫を巡る疑惑は、文氏が関わったとみられる不正とは規模と質が異なっている。文氏の責任を問うべき事件は、他にいくつもあるからだ。蔚山市長選介入事件は、大統領府の全てを巻き込む選挙違反であった。それにもかかわらず、捜査は尻つぼみに終わったのだ。

     

    (3)「選挙介入は青瓦台秘書室の8部署が役割を分担し、軍事作戦のように進められた。政務首席秘書官室が公認問題を担当し、国政状況室、民政首席秘書官室、反腐敗秘書官室が警察による下命捜査を指揮。社会首席秘書官室と均衡発展秘書官室が公約の作成を支援した。上層部の指示がなければ不可能なことは誰の目にも明らかだった。しかし、尹錫悦検察総長が指揮していた当時の検察は秘書官・行政官クラスを中心に起訴し、任鍾晳(イム・ジョンソク)秘書室長、曺国(チョ・グク)民政首席秘書官には免罪符を与えた。2人を起訴すれば、大統領に飛び火することを懸念して、その下で線引きをしたという分析が広まった」

     

    蔚山市長選介入事件は、尹錫悦検察総長が指揮していた検察が、意識的に捜査範囲を縮めて逮捕者を絞ってしまった。尹氏の意図が疑われる理由だ。

     

    (4)「政権交代で新証言が出てくると、検察は任鍾晳、曺国の両氏を嫌疑なしとした当初の判断を覆し再捜査を行うことを決めた。しかし、文前大統領は依然として捜査対象から除外された。蔚山市長選介入事件の一審判決に文前大統領の名前が14回も出てくるなど、裁判所も関連性を認めたが、検察は特に捜査姿勢を見せていない。その結果、犯罪の実行役が続々と有罪判決を受けても、それを指示した「本丸」は存在しないという不思議な状況となってしまった」

     

    蔚山市長選介入事件は、尹錫悦氏が大統領に就任後再捜査が行われたが、中途半端な捜査に終わり、文氏への責任追求はなかった。(つづく)

     

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    韓国の主力産業全般に、暗雲が立ち込めている。これに対応して、企業側も流動性の確保に躍起になっている。サムスン・SK・現代自動車・LGの4大グループのうち、半分のSKとLGの現金事情が悪化している。グループごとの温度差が激しくなっている。

     

    (1)「韓国企業評価など韓国の3大信用評価会社の資料によると、4大グループ(金融系列会社を除く)の今年第1四半期(13月)末時点での余剰キャッシュフローの合算額はマイナス1兆5000億ウォン(約1600億円)である。フリー・キャッシュフローは、企業が営業で稼いだ現金から設備投資額を引いて金額である」

     

    フリー・キャッシュフローは、営業キャッシュフロから投資キャッシュフロを差し引いたもの。企業経営者の判断で自由に使える余剰資金を指す。フリー・キャッシュフローは、会社が自由に使える資金のため、事業拡大・借入金返済・株主配当など様々な使い道が考えられる。このフリー・キャッシュフローが、4大財閥の半分で減少したのだ。経営の自由度が減って窮屈になったことを意味する。

     

    (1)「足元に火がついているのはSKだ。SKグループの第1四半期末時点での純借入額は85兆9000億ウォン(約9兆1000億円)で、昨年同期比で4兆ウォン(約4000億円)ほど増えた。2021年末と比較すると50%以上急増した。純借入額は、財務安定性を判断する重要な指標だ。昨年、ハイニックス(半導体)の大規模な損失とともに、低金利期間中に大々的に実施したバッテリーなどの新事業への投資が足を引っ張った」

     

    SKグループは、純借入額が増えている。長年続いた半導体不況の余波が残っている。

     

    (2)「SKグループの2020~2023年の外部への資本投資額は15兆ウォン(約1兆6000億円)に達する。しかし、成果は思わしくない。1兆ウォン(約1100億円)を超える含み損が発生した米国水素企業「プラグ・パワー」への投資が代表的だ。事業着手から昨年までに投資金を累積で約23兆ウォン(約2兆4000億円)投入しても、損益分岐点を越えることができなかったバッテリー・素材事業は、流動性悪化の中心的な材料だ」

     

    SKグループの2020~2023年の外部資本投資額は、15兆ウォン(約1兆6000億円)にも達する。だが、いずれも成果が乏しく経営の足を引っ張った。バッテリー・素材事業が不振の代表部門である。

     

    (3)「かつては、毎年1兆ウォンを超える利益を出した「孝行事業」である石油化学事業も不振に陥っている。半導体の景気回復やグローバル企業のAI投資拡大などによって昨年末から黒字に戻ったハイニックスに大きく頼っている状況だ。バッテリー事業の黒字転換の時点と半導体の実績改善幅が、グループの財務安定性を左右する最大のカギになる見通しだ。ナイス信用評価は「半導体とバッテリー部門の投資負担の高さを考えると、グループの有意味な借入額の縮小は、短期間のうちには難しいだろう」とした」

     

    SKグループでは、石油化学事業も不振である。現状は、半導体の景気回復やグローバル企業のAI投資拡大に依存している。バッテリー事業の黒字転換が何時になるか。これらが、財務安定のカギを握っている。

     

    (4)「LGグループの事情も厳しい。今年3月末時点での純借入額は、42兆8000億ウォン(約4兆5000億円)で、前年同期に比べ大幅増となった。過去5年間では最大規模だ。LGグループの悩みは、グループ全体の売上の3分の1ほどを占める化学事業だ。石油化学部門が需要不振と中国の供給過剰の直撃弾を受け、バッテリーも実績鈍化が予想されるからだ。今年の第1四半期にグループが営業を通じて稼いだ現金から設備投資額を引いた余剰金(フリー・キャッシュフロー)はマイナス5兆8000億ウォン(約6200億円)に達する」

     

    LGグループは、グループ全体の売上の3分の1ほどを占める化学事業の不振だ。中国からのダンピング輸出によって苦戦を強いられている。バッテリーもEV(電気自動車)の低迷で停滞を余儀なくされている。フリー・キャッシュフローはマイナス6200億円に達した。これでは、「半身不随」状態だ。

     

    (5)「資産総額基準で財界1位のサムスングループの今年第1四半期末時点での純借入額は、マイナス80兆4000億ウォン(約8兆5000億円)となった。外部から借りた額より保有現金が80兆ウォン多いという意味だ。SKやLGとは事情が明確に違う。ただし、純現金(現金性資産-借入額)の規模は、昨年第1四半期末の99兆7000億ウォン(約10兆6000億円)からわずか1年で約20兆ウォン(約2兆1000億円)減少した。サムスン特有の「無借金経営」は維持されたが、保有現金が減少している」

     

    サムスンは、過去の半導体景気の蓄積によって純借入額は、マイナス80兆4000億ウォン(約8兆5000億円)である。借入れ以上の現預金を保有する「殿様経営」である。これが、技術開発の矛先を鈍らせるという「油断」を招いた。非メモリー半導体の技術開発で遅れを取るという大失策に陥ったのだ。資金的に楽であることは、決して良いことばかりでないことを示している。

     

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    カナダの小売り大手、アリマンタシォン・クシュタール(ACT)は、セブン&アイ・ホールディングスへ買収提案したが、米国当局が両社の法務担当者に対して関係する文書を保存しておくよう通知した。ACTが、ガソリンスタンドとコンビニにまたがる店舗網を統合する合併構想について、異議を唱える可能性があることを示していると関係者はみている。

     

    一方、日本の財務省は9月13日、外資が日本企業へ投資する際に「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の事前届出が必要かなどを判断するために作成しているリストの改訂版を公表した。これによると、セブン&アイ・ホールディングスは、「コア業種」に指定された。コア業種とされた事業の中でも、安全保障上リスクがあるかどうかの判断は、具体的な審査の中で行われていく。『ロイター』(9月13日付)が報じた。

     

    『フィナンシャルタイムズ』(9月11日付)は、「米当局、セブン買収提案に懸念か 関連文書保持を指示」と題する記事を掲載した。

     

    カナダの小売り大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)によるセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案について、米国の競争当局が両社の法務担当者に対して関係する文書を保存しておくよう通知した。ガソリンスタンドとコンビニにまたがる店舗網を統合する合併構想について、異議を唱える可能性があることを示していると関係者はみている。

     

    (1)「経緯を直接知る関係者によると、両社はまだ統合で合意しておらず、米連邦取引委員会(FTC)による正式な調査の通告はされていない。また、文書が破棄されている形跡はないという。セブンイレブンを所有するセブン&アイの取締役会は先週、サークルKを運営するACTからの現金による買収提案を拒否した。セブン側は企業価値を「著しく過小評価」しており、統合に伴う規制上のリスクについて説明していないと指摘している」

     

    米連邦取引委員会(FTC)は、早くも独禁法に抵触しないか事前調査に入る早手回しである。

     

    (2)「この事案について説明を受けた関係者らによると、FTCは予防措置として両社に連絡を入れた。背景として、独占禁止法の調査対象となった企業が訴訟に発展した際に詳しく調べられることを避けようとして、内部文書を破棄する事例が増えていることがあるという。ACTは今週、セブン&アイ取締役会の回答に対し、事業の切り離しで規制上の問題は解消できると説明した。さらに、2つのコンビニチェーンは「米国で様々な実店舗やオンラインの食品・商品販売業者と競争しながら活動している」と強調した」

     

    ACT側の独禁法に対する認識は甘い。難なく乗り越えられるというのは「超甘い」と言うべきだ

     

    (3)「正式な動きではないものの、FTCの出方は買収合意が交わされた場合にACTが困難な闘いに直面することを物語る。また、セブン&アイ側にさらなる拒否の材料を与えることにもなる。フィナンシャル・タイムズ(FT)は以前、消費者にとって商品価格の上昇につながる恐れがあり、両社が現在競合している地域では労働市場にも悪影響が及びかねないため、米当局はこの事案を精査するはずだと報じた」

     

    FTは、かねてから、米国での合併が独禁法に触れるリスクを指摘している。ACTは、暢気なものだ。

     

    (4)「サークルKを運営するACTと世界最大のコンビニチェーンを所有するセブン&アイが統合すれば、米国で最大級の小売りチェーンが生まれることになる。調査会社の石油価格情報サービス(OPIS)によると、両社合計で米国内の店舗は1万4000カ所を超え、その多くがガソリンを販売している。ACTの年次報告書によると、同社の2024年4月期の米国における陸運用燃料の粗利益は1ガロン(約4リットル)当たり45セント(約64円)だった。米エネルギー情報局(EIA)によると、同期間の米国の平均ガソリン小売価格は1ガロン3ドル60セントほどだった」

     

    ACTは、ガソリンスタンドで1ガロン当り12.5%もの利益率を上げている。FTCが、合併でさらに利益率上げるのか警戒している。

     

    (5)「OPISでエネルギー分析のグローバル責任者を務めるトム・クローザ氏は「この統合は神頼みの夢物語で、絵空事だ。バイデン政権とFTCが寛大な視線を向けることはないのだから」と指摘した。「ホワイトハウスの最上層部からして、(高騰させてはならないという)ガソリン価格に対する強迫観念がある」と同氏は語った」

     

    専門家は、今回の合併が「神頼みの夢物語」とみている。実現の可能性は、セブン&アイが日本の外為法で「コア業種」に指定されたこともあり、実現は一段と困難になってきた。


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