勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    メモリー半導体で世界トップのサムスンが、AI(人工知能)半導体への進出が遅れてピンチに立たされている。米エヌビディアのグラフィック処理装置(GPU)用HBMを納品できず、AI半導体ブームに乗れないからだ。 

    サムスンは、今年1~3月期の半導体部門の営業利益が、SKハイニックスを下回る結果となった。売上規模は、サムスンが2倍もあるにも関わらず、営業利益で下回るという事態は異常である。SKハイニックスは、好業績に沸くエヌビディアへGPUに使われるHBM(高帯域幅メモリー)を納品している。だが、サムスンは未だ「性能検査中」という屈辱をあじわされている。こうした背景から、サムスンは「半導体トップ」を突然交替した。人事交代の裏には、サムスンの苦悩が表れている。 

    『ハンギョレ新聞』(5月21日付)は、「半導体競争力『急場に立った』サムスン 『技術通オールドボーイ』が復帰」と題する記事を掲載した。 

    21日のサムスン電子の発表によれば、チョン・ヨンヒョン副会長(64)は、未来事業企画団長を務めて6ヶ月も経たずに半導体(DS)部門長に移ることになった。未来事業企画団は昨年11月末、サムスン電子が「既存事業の延長線上にない新事業を発掘する」として新しく作った組織だ。高帯域幅メモリー(HBM)をはじめとする半導体事業の状況が、知られている水準よりもっと悪いのではないかという噂が出ているのもそのためだ。この日の人事からは焦りが読み取れるという評価が出ている。

     

    (1)「これには、サムスン電子の半導体がそれだけ危急な状況だという判断が作用したと分析されている。昨年までは業況悪化で実績不振な側面が大きかったが、今年に入ってサムスン電子の半導体は、激化した人工知能(AI)ブームのなか「取り残されている」という評価を受けている。AIの必須材として浮上した高帯域幅メモリー競争で後れを取ったためだ。ライバル会社(注:SKハイニックス)は今年3月ごろにはNVIDIAに第5世代(HBM3E)製品の供給を開始したのに対し、サムスン電子はいまだにNVIDIAに第4世代(HBM3)と第5世代のサンプルの検証を受けている。今回の発表をめぐり、キョン・ゲヒョン社長に対する「問責人事」ではないかという裏話が出ている」 

    サムスンは、半導体で「格下」とみていたSKハイニックスに利益面で逆転された。大きな衝撃であろう。抜かれた原因が、AI半導体に使われるHBM(高帯域幅メモリー)である。元々サムスンが開発していたものだ。2019年の開発中止によって、サムスン担当者がSKハイニックスへ移籍して完成させた経緯がある。サムスンには二重の意味で屈辱であろう。 

    (2)「サムスン半導体事業全般においても暗雲が立ち込めている。今年第1四半期にも赤字が続いたファウンドリ事業は、シェアも下り坂を辿っている。台湾の市場調査機関「トレンドフォース」の集計によれば、サムスン電子のファウンドリ市場シェアは、2021年の15.5%から昨年は11.3%へていかした。このようなムードは、今年第1四半期の実績にもそのまま表れている。サムスン電子の半導体部門は、今年第1四半期の業況改善に支えられ黒字に転換したが、営業利益の規模はSKハイニックス(2兆8900億ウォン=約3300億円)より小さい1兆9100億ウォン(約2200億円)にとどまった。ハイニックスの2倍にのぼる売上規模を考慮すれば、収益性は大きく劣ることになる」 

    サムスンは、ファウンドリ事業(非メモリー半導体の受託生産)で、トップのTSMCに大きく水を開けられている。その上、メモリー半導体でも利益はSKハイニックスの軍門に降る事態である。八方塞がり状態に落込んでいる。

     

    (3)「サムスン電子の内外では、チョン副会長がバッテリー事業で展開した戦略を再び駆使するかに注目している。サムスン内部では、チョン副会長がサムスンSDIの代表取締役として在職した際に無理な「規模拡大」ではなく安定した成長を導いたという評価を受けて抜擢されたといわれている。積極的な受注と大規模な投資で顧客企業を確保した他の二次電池メーカーとは異なり、サムスンSDIはシェアの拡大をあきらめ、事業を再点検するなど、内実を固めることに注力した」 

    今回、半導体部門トップに座ったチョン副会長は、バッテリー事業で好成績を上げた。だが、その手法は半導体部門で通用するのか未知数である。 

    (4)「ただ、最近の急激なAI技術の発展や米中紛争で急変している半導体産業にも、このような戦略が通じるかは未知数だ。「オールドボーイ」を呼び戻したことに対する期待と懸念が共存している。チョン副会長は、サムスン電子の最高齢役員であり、会社が昨年末の人事の際「若いリーダー」と「世代交代加速化」を強調したのとは相反する人物だ。ある業界関係者は「人事はメッセージというが、今回の人事では明確なメッセージを見出しにくい状況」だとし、「危機的局面であるだけに、人事も保守的に行なったのではないか」と述べた」 

    鉄壁とみられてきたサムスンが、意外なところで弱点を表している。AI半導体に使われるHBM(高帯域幅メモリー)の開発を継続していたならば、こういう悲運に遭わなかったであろう。その点で、トヨタ自動車は全方位の研究開発を続けている。技術開発は突然、波が変わるだけにその備えが必要である。

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    日本政府は、今年6月をメドに「資産運用特区」を開設する。すでに、東京・大阪・福岡・札幌の各都市が名乗り上げている。岸田首相は昨年9月、米国で経済人を前にして、次のような講演を行った。

     

    海外の資産運用業者の参入を促進するため、資産運用特区を創設し、英語のみで行政対応が完結できるようにする規制改革。また、日本独自の商慣習や参入障壁を是正し、新規参入者が年金基金などのアセットオーナーから運用委託を受けやすくする支援プログラム(EMP)を整備する考えも示した。

     

    こうした環境整備によって、米モルガン・スタンレーは5月22日、東京で世界の投資家向けイベント「ジャパン・サミット」を今回初めて対面で開催した。世界から約1800人が来場するなど盛況であったという。

     

    イベントでは、岸田文雄首相が講演を行った。金融・資産運用サービスの集積を目指す「資産運用特区」の創設について「取り組みを加速する」とコメント。申請した自治体の知事や市長を官邸に招き構想を具体化した上で、「6月上旬に特区のパッケージを公表する」と語った。

     

    『ブルームバーグ』(5月22日付)は、「モルガンSのアジアCEO、円相場は140円台に近づく-金利差縮小」と題する記事を掲載した。

     

    米モルガン・スタンレーのアジア地域のゴクル・ラロイア最高経営責任者(CEO)は22日、為替相場について日米金利差の縮小から、「円はドルに対して強くなり始め、140円台に近づく」との見通しを示した。同社が開いた投資家向けイベントで、ブルームバーグの取材に応じた。

     

    1)「円相場は、下落基調が続き4月末に一時1ドル=160円台まで売られた後、5月初旬は円買い介入とみられる動きなどで急反転するなど、見通しづらくなっている。一方、為替相場に影響を及ぼす今後の日米の金利の動きにも注目が集まる。ラロイア氏は米国の金利について今年から来年にかけて下がる一方、日本銀行は「インフレの持続可能性について確信を深めている」などと指摘し、日本の金利は上昇するとの見通しを示した。長期金利が2013年5月以来の1%に到達したことについては、日本の経済の変化を反映していると述べた」

     

    最近の円安については、日銀植田総裁の「不用意発言」が話題になっている。円安をさも重大視しないごとき発言をして、不必要な円売りムードを高めたというのだ。政府は、これに苦り切っており、この反動もあり円高への執念を高めている。今春闘からみて、ベースアップ(基本給引上げ)3%継続に見通しがついたことから、利上げ時期は早まるとの予測が強まっている。米国の利下げと日本の利上げで、日米金利差「5%の壁」を崩せれば、円相場反転が可能という見立てである。米モルガン・スタンレーは、こういう状況変化を受けて、「1ドル140円台接近」という相場観を立てたのであろう。

     

    2)「政府が資産運用特区を掲げる中、今はインフレであり、金融資産が銀行預金から金融商品に移行することから「非常に大きな資産運用業が生まれる可能性がある」とラロイア氏は指摘した。その上で「日本が金融センターになるうえで、非常に強力な構造的なトレンドがある」と述べた。モルガン・スタンレーは投資家向けイベント「ジャパン・サミット」を今回初めて対面で開催し、世界から約1800人が来場した」

     

    モルガン・スタンレーは、東京で「ジャパン・サミット」を開き世界から約1800人が来場した。昨年11月、野村ホールディングスは「ノムラ・インベストメント・フォーラム」を開き内外から投資家1500人が参加した。こうして、日本の金融資産の運用に関心が高まっている。

     

    (3)「イベントでは、岸田文雄首相が講演を行った。金融・資産運用サービスの集積を目指す「資産運用特区」の創設について「取り組みを加速する」とコメント。申請した自治体の知事や市長を官邸に招き構想を具体化した上で、「6月上旬に特区のパッケージを公表する」と語った。政府が策定する方針の公的年金などのアセットオーナーに対する行動規範「アセットオーナー・プリンシプル」については、「6月上旬に案を示し、夏に最終化させる」とした。その上で「公的アセットオーナー9主体については、他のアセットオーナーの参考となるよう運用力強化に向けた取り組み方針をプリンシプル策定後速やかに公表する」と述べた」

     

    アセットオーナーとは、機関投資家である。企業年金や銀行、保険会社等の金融機関、財団等が含まれる。日本政府が、「資産運用特区」創設に当たり公的アセットオーナーを発表するのであろう。これが発表になると、アセットオーナーは日本の資産運用に積極的に取組む準備ができる。日本の金融資産運用の国際化が、本格的に始まる時期がきたようである。

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    侵略戦争は、いかなる理由があっても行ってならない。これは、人類永遠の願いである。国際刑事裁判所(ICC)は、パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスに対する戦争で、イスラエル・ネタニヤフ首相とガラント国防相のほかに、ハマス幹部のヤヒヤ・シンワル、ムハンマド・デイフ、イスマイル・ハニヤの3氏にも逮捕状を請求した。ウクライナ侵攻を行ったロシアのプーチン大統領に続いて、ICCが厳しい姿勢をみせている。 

    侵略戦争は犯罪という認識が世界的に高まれば、予想される中国の台湾侵攻も適用されるだろう。理由の如何を問わず、武力によって相手を屈服させることは、野蛮行為そのものである。国連の戦争拒否精神はそこにある。ただ、自衛権は国家固有の権利である。侵略への自衛権に伴う防衛戦争は、ICCから告発されることにはならないであろう。

     

    『フィナンシャル・タイムズ』(5月21日付)は、「イスラエル首相の逮捕状請求 その重大な意味」と題する記事を掲載した。 

    イスラエルは数週間前から、パレスチナ自治区ガザでのイスラム組織ハマスに対する戦争の遂行をめぐり、国際刑事裁判所(ICC)が同国政府高官の逮捕状発行に向けて動き始めていると警告していた。だが、それでもなお、ICCのカーン主任検察官が20日、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相、およびハマス幹部3人の逮捕状を請求すると発表したことは、大きな政治的衝撃をもたらした。 

    (1)「国際法・人権の専門家、シーラ・ペイラン氏は、「これは重大なことだ」と指摘する。「欧米に支援される国家の首脳に対して、ICCで逮捕状が請求されたのは初めてだ」ガザでの紛争による法的な影響が深刻化したことを示す動きである。パレスチナ側の発表で死者3万5000人、ガザを人道危機に陥れた7ヶ月にわたる攻撃をめぐり、イスラエルは国際社会から強い圧力を受けている。同時にイスラエルは、国連の最高司法機関である国際司法裁判所(ICJ)からジェノサイド(大量虐殺)の容疑もかけられている。イスラエル側は強く否定している」 

    パレスチナ側の発表では、死者3万5000人も出ている。狭い地域での作戦行動は、民間人の被害を増やす。米軍による沖縄上陸作戦が、多くの民間人を巻き添えにした事例と酷似している。中立条約でも結ばない限り、ガザでの平和は守られないであろう。そういう視点からの枠組みづくりが求められる。

     

    (2)「カーン検察官は20日、ネタニヤフ、ガラント両氏とハマス幹部のヤヒヤ・シンワル、ムハンマド・デイフ、イスマイル・ハニヤ各氏の逮捕状請求について、戦争犯罪と人道に対する罪の容疑に関して5氏に「刑事責任」があると「信じるに足る合理的な理由」があると説明した。ハマス幹部3人に関しては、2023年10月7日にイスラエルへの奇襲攻撃を仕掛け、イスラエル側の発表で戦闘員が1200人を殺害し、250人の人質を取って紛争を引き起こしたハマスによる集団殺りく、殺人、誘拐、レイプなどの性的暴力、拷問に対して責任があるとした」 

    ハマスも厳しく責任を問われる必要がある。突然、イスラエルを襲って残虐行為の限りを尽くした。イスラエルが厳しく反攻作戦を展開したのは自衛権の執行である。問題は、その範囲を超えたというのがICCの判断であろう。ハマスもイスラエルも、言いたいことは山ほどあるに違いない。ICCが、「戦争犯罪」という認識で取り上げていることは、冷静にその論拠を聞くべきであろう。 

    (3)「専門家は、ICCが逮捕状の発行を決めれば、イスラエルの指導者たちと同国の外交上の立場に広範な影響が及びうると指摘する。ネタニヤフ、ガラント両氏にとって逮捕状の発行の意味は大きい。英国や大半の欧州および中南米諸国、アフリカとアジアの多数の国を含む124のICC加盟国・地域を訪問すれば逮捕される可能性が生じるのだ。象徴的な意味合いだけでも影響は大きい。ネタニヤフ、ガラント両氏は、ロシアのプーチン大統領やスーダンのバシル元大統領、リビアの指導者だった故カダフィ大佐といった独裁者たちと同類とみなされることになる」 

    ICCの逮捕状発行は、現在の戦争を止めさせる大きなきっかけになるだろう。そうあって欲しいと念じるほかない。

     

    (4)「この問題が直接影響するのは、紛争発生から一貫してイスラエルへの最大の武器供与国となっている米国のバイデン政権だ。米国はICCに加盟していないが、ホワイトハウスはプーチン氏の逮捕状に熱い賛意を示した。一方、イスラエル高官の逮捕状には反対している。ICCにとっても事は重大だ。カーン氏の発表後、イスラエルと米国の政治家は「ICCの越権行為であり、ICCは政治化している」と非難した。だが、カーン氏は逮捕状請求の発表に際し、無為無策ではリスクが高まると主張した。ICCに対しては、かねてアフリカやロシア、セルビアの事案に偏っているとする批判の声が上がっている。「今日、一つの核心的な問題を明確にしておきたい。我々が法を平等に適用するという決意を示すことなく、選択的に法を適用しているとみなされれば、法の崩壊を招く状況を生み出すことになる」とカーン氏は述べた。国際人道法は「全ての個人に平等に適用される」と同氏は付け加えた」 

    国際人道法は、全ての個人に平等に適用されることを認識すべきだ。侵略戦争は悪である。自衛権執行も限度がある。ICCは、それを示そうとしているのであろう。

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    焼け石に水の6.5兆円融資

    過剰在庫の元凶「青田売り」

    高水準在庫が減らない背景

    不良債権で悲鳴上げる銀行

     

    中国の経済政策は、混迷の一語に尽きる。習近平政権3期目の経済政策を決める「3中全会」は、通常ならば昨秋に開催されなければならなかった。それが、遅れに遅れてこの7月に開かれる。3中全会が遅延した最大の理由は、党内で経済政策の大綱が決まらなかったとされている。

     

    習近平国家主席は、経済よりも国家の安全を重視する姿勢を鮮明にしている。その一環として「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)は、軍事面にも役立つとして企業へ補助金を支給してテコ入れしている。だが、国内経済不振の最大要因である不動産不況には、金融措置で乗り切れるという安易さである。「三種の神器」へ財政資金を投じるが、不動産不況対策は金融任せで財政資金を使わない差別をしているのだ。

     

    習氏が、製造業と不動産業で異なった対応をしているのは、財政赤字を増やさないという原則を立てているからだ。23年の財政赤字は、対GDP比で3.9%になったが、24年は3%へ引下げる。理由は、世界3大格付け会社のうち、2社が格付け引下を予告しているからだ。格付けを引き下げられれば、中国企業は海外での資金調達で金利が上がることや、メンツの問題に拘っているのであろう。

     

    すでに、格付け引下予告をしているフィッチ(もう1社ムーディーズ)は、不動産バブルに伴う過剰負債が中国の支払い能力に突然の変化をもたらすリスクをあげている。ここまで処方箋が明らかにされている以上、中国の取るべき政策は過剰債務の処理を優先させることだ。習氏は、これに逆らって「三種の神器」重視政策を推進している。住宅問題は、片手間なのだ。

     

    焼け石に水の6.5兆円融資

    中央銀行である中国人民銀行は、国有不動産企業対象に売れ残り住宅購入を支援するため、3000億元(約6兆5000億円)相当の低利資金を供給するプログラムを発表した。政策銀行、国有商業銀行、株式制銀行など21の機関に、低利資金が提供される。金利は1.75%だ。

     

    過剰住宅在庫買上げ責任は、国有不動産企業に押しつけられた。国有不動産企業は、住宅在庫を買付け割安価格で消費者へ売却して、借入金を人民銀行へ返済するシステムである。国有不動産企業にとっては、利益の出るビジネスでなく、むしろ、自社の潜在的な住宅需要を先食いする恐れが強いであろう。こうなると、最初から効果は疑わしいと言うほかない。政府は、あくまでも財政資金を使わないで、逃げ切ろうという戦術なのだ。

     

    過剰住宅在庫買上げ計画のきっかけは、浙江省杭州市とされている。同市は臨安区にあるマンション(最大10万平方フィート=約9300平方メートル=約103戸:1戸平均90平方メートルで換算)を市場価格で買い取り、手頃な価格で賃貸する計画を発表した。これが今回、中国人民銀行が発表したモデルになっているという。杭州市の買取り住宅を賃貸住宅に回す計画は、資金を完全回収するまでに相当の長期間になる。同時に、新規住宅需要がこれによって確実に減ることである。

     

    公式データによると、国内の売れ残り住宅の床面積は、昨年末時点で最大36億平方フィート(約3億3480平方メートル=約372万戸)である。天風証券のアナリストは、全住宅在庫を買い取るには7兆元(約1兆ドル)が必要だと推計している。全ての在庫買取りに、約155兆円も必要となれば、人民銀行融資の約6兆5000億円相当を低利で貸付けて買い取っても、在庫全体の4%程度に過ぎないのだ。焼け石に水である。これで、中国の過剰な住宅在庫が整理されるとはとうてい考えられない。

     

    もっとも経済には「呼び水」効果という言葉がある。これは、在庫が減っていくことで新たな需要を生み、先行きの住宅相場が回復するという期待である。だが、中国の不動産業界ではこの「呼び水」効果が成立しない特殊構造になっている。不動産開発企業が、マンション着工前に図面で売り出す「青田売り」を今も続けていることだ。青田売りは、開発企業にとっては大きなメリットがある。建築資金は、住宅購入契約者が支払うローン代金で賄えるからだ。十分な運転資金がなくても、開発企業はマンション建築が可能になる。

     

    だが、この青田売りは好況時のみに成立する特殊な販売方法である。現在のように長期不況下では、青田売りが開発企業の経営を圧迫する逆の現象を起こしている。マンション1棟の販売契約が、半分以下でも建築しなければならない。最初から、在庫になることが分っていても建築するのだ。こうした悪循環に陥る矛盾した販売方法を中止しなければ、中国不動産業界は「永遠」に在庫圧迫から逃れられないであろう。(つづく)

     

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    テイカカズラ
       

    ロシアのウクライナ侵攻は、中国を複雑な立場にしている。習近平国家主席は、ロシアのプーチン大統領が生涯の盟友だけに敗北させる訳にはいかないからだ。プーチン氏が政治的に健在であることが、習氏の「終身」国家主席を可能にさせる上で有利である。だが、国家経済としての中国という視点で判断すると、違う結果になろう。欧州が、中国を警戒して貿易関係で疎遠化する動きをみせている。当面、習・プーチンの関係で中ロは密接でも、複雑な面をみせるはずだ。 

    『フィナンシャルタイムズ』(5月20日付)は、「中ロ首脳の結束『ゆるがぬ構造』」と題する記事を掲載した。 

    (1)「ロシアを中国から引き離すという具体性に欠く議論は、どちらの国に接近するべきかについての意見の相違を見過ごしている。多くの欧州諸国は、ウクライナを巡ってプーチン氏に厳しい態度を取るよう習氏を説得したいと考えている。つまり彼らの狙いはロシアを孤立させることだ。一方、米政府では長期的な敵対国としては中国の方が危険だというのが一致した見解だ。米国の戦略家の中には、ロシアが中国に取り込まれれば世界の勢力バランスが中国にとって有利になると懸念する人もいる。キッシンジャー氏も長年にわたって中国を称賛はしていたが、個人的にはこうした見方をしていたようだ」 

    英国マッキンダーによる「地政学論」が登場した背景には、ロシアがドイツと結びつくことの軍事的危険性が指摘されていた。現代では、ロシアと中国の「接近」である。常識的に言えば一体化する条件はあるが、経済基盤が全く異なる。中国は、ロシアと一体化するメリットが少ないからだ。中国経済には、西側諸国との貿易抜きでは考えられない。

     

    (2)「理屈の上では、ロシアと中国が再び分断するよう画策することは、こうした不安の解決策となるだろう。だが残念ながら、そのような地政学的な動きが実際に実現する可能性は、少なくとも当面の間は極めて低い。5月16〜17日に北京を訪問したプーチン氏に対する温かい歓迎は、中ロ関係が永続的で強固であることを物語っている。習氏とプーチン氏の結束が今も強いのは、共通の世界観に基づいているからだ。両者ともに米国を主な脅威とみなす独裁的な国家主義者だ。プーチン氏の訪中時に発表された共同声明で両者は、米国がロシアと中国を標的とした「二重の封じ込め」政策を追求しており、「覇権主義的」な行動をしていると非難した」 

    習近平氏が、堂々と大国同士の首脳外交を展開できる相手はプーチン氏ぐらいだ。北京で厚くもてなしするのは当然であろう。中国は、「格下」とみた国には冷淡でも、相手をみて対応を変える國である。 

    (3)「ロシアと中国は、米国が敵対的な軍事同盟によって自国を包囲しようとしていると考えている。その軍事同盟とは、欧州における北大西洋条約機構(NATO)であり、インド太平洋では日本や韓国、フィリピン、オーストラリアと米国との2国間同盟だ。もちろん米国が欧州とアジアに多くの同盟国を持つ理由は、ロシアと中国がともに近隣諸国の多くに恐怖心を抱かせているからだ。プーチン氏と習氏はこの現実を認識したがらない。代わりに彼らは、拡張主義の米国から自国を守っていると主張する。おそらく彼らは本当にそう思っているのだろう」 

    中国は「戦狼外交」を行った結果、周辺国が米国との同盟を強化したという事実を認めず、一方的な「被害者意識」を強めている。これは、中国が「同盟」を本能的に嫌うという秦の始皇帝以来の外交感覚である。

     

    (4)「ロシアと中国は、それぞれの地域の米同盟国に疑念の目を向ける一方、互いを比較的信頼できる隣国とみなしている。中ロは長い国境を接しており、そのため中ロが友好関係を維持することは、米国と米国の同盟各国による「二重の封じ込め」を阻止するのに極めて重要だと考えられている。中国からみれば、ロシアの敗北は中国を危険なまでに孤立させるリスクがある。この相互依存は、中ロ関係の根底にどんな緊張があろうと両国が結束し続けることを意味する」 

    下線部分は重要である。中国は、ロシアの敗北が「中国危機」に向うとみている。それは、西側諸国が一段と中国へ圧力をかけると警戒しているからだ。ロシア勝利となれば逆に、西側諸国は「台湾侵攻」間近という想定で守りを固めるであろう。中国は、「台湾侵攻」という時限爆弾を抱えているだけに、中国にとってプラスになることはないのだ。 

    (5)「それでも両国の間に緊張が存在することに疑いの余地はない。世界観は似ていても、ロシアと中国は地政学的にはまったく異なる状況にある。プーチン氏は、ロシアを西側諸国からのけ者扱いされる国家にしてしまった。対照的に中国は、今も米国と欧州の最大の貿易相手国の一つであり続けている。この違いが、中国が無謀だとみなすようなリスクをロシアが進んで取る理由だ。最近、北京を訪れた筆者に対し、複数の中国人アナリストが、ロシアと北朝鮮の軍事関係がますます緊密になっていることに不安を感じていると語った。懸念の一つが、ロシアが北朝鮮から砲弾を受け取る引き換えに、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権と先端軍事技術を不用意に共有していることだという」 

    ロシア経済は、ウクライナ侵攻に伴う西側の制裁で発展途上国へ逆戻りする。中国は、このロシアと密接な関係を持てば、西側諸国は距離を置くことになる。中国経済にはデメリットだ。要するに、中国はロシアとの関係を深めて得をするのは習近平氏だけであり、経済としてみれば損害を被るであろう。

     

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