中国社会は長く「家族・血縁・地縁」を中心に回ってきた。 儒教文化圏では「個」より「前後と相互の関係性」が重視される。 しかし、現代の中国の若者はむしろ「孤独を楽しむ」方向に変化している。一人火鍋、一人カラオケ、一人旅行
など「孤独経済」という言葉が数年前から流行している。孤独を楽しむ層が、確実に増えているのだ。一方では、付き添い経済の利用者が増えている。
これは、「孤独を楽しむ」結果、「知らない人と関係を築くのが面倒」 、「断られるリスクを避けたい」 という心理が強くなり、付き添いサービスを求めることになっている。人間は、一人では生きられないということになろう。
『ロイター』(6月7日付)は、「中国で広がる『付き添い経済』、登山から外食まで有料で相手サービス」と題する記事を掲載した。
中国で最も有名な山の一つとされる泰山の石段では、登山客が「登山パートナー(陪爬)」を予約して数百元を支払えば、一緒に歩いてもらったり、荷物を持ってもらったり、写真を撮ってもらったりすることができる。
(1)「人気が高まっているこのサービスは、中国で台頭しつつある幅広い「陪伴(付き添い)経済」の一部だ。ほかにもランニングや観光、さらには伝統的に友人と囲む食事である火鍋などを外食時に同席する有料パートナーなどが挙げられる。サービス提供者の多くは学生や若いギグワーカー(単発の仕事を請け負う労働者)で、ソーシャルメディア上で「情緒価値(エモーショナル・バリュー)」や会話、実用的なだポートを約束して宣伝している。かつての友人同士の経験や厚意が、今や予約可能で有料のサービスへと姿を変えている形だ」
中国の若者は、人間関係をドライなものにしたいとして捉えている。中国は、宗族社会で他者への介入が度を過ぎている。特に、結婚問題では善意も手伝い「鬱陶しい」ほどの干渉がある。若者は、そういう「ベタベタ」した人間関係から離れたいのだ。そうなると、後腐れのない「金銭でサービスを買う」という選択になる。金銭関係抜きの友情関係は不要のようである。
(2)「陪伴経済の規模に関する公的なデータはない。ただ、国営メディアが引用した推計によると、2025年には約500億元(74億ドル)に達したとみられている。背景には、中国の都市部における生活スタイルとサービス経済の広範な変化がある。研究者や国営メディアは、若者が家族ネットワークから離れて暮らし、労働時間が長くなり、昔ながらの社会的な絆を維持することが困難になる中で、「情緒的消費」への需要が高まっていると説明する」
陪伴経済の規模は、2025年で約500億元(74億ドル=1兆1800億円)という推計もある。数年前、帰省の際に「恋人役」サービスを提供したニュースがあった。女性が、帰省に当たり両親の結婚話を撃退すべく、恋人役を雇ったという話だ。
(3)「中国で長期化する若者の失業問題は、若者の間でギグワークや柔軟な働き方への依存が高まっていることと重なり、またそのような働き方が増える一因にもなっている。安定した仕事がない中で、大学卒業生や求職者はデリバリー、配車、その他のオンラインプラットフォームを通じた仕事に目を向けており、公的データによると中国には2億人を超える規模のいわゆるフレキシブルワーカーが存在する」
中国には、2億人を超える規模のいわゆる「フレキシブルワーカー」(日雇い)がいる。重労働よりも、陪伴経済でサービス提供する方がメリットはあろう。
(4)「調査会社3ドリップス・サイコロジーのマネジングディレクターを務める心理療法士のサミ・ウォン氏は、有料パートナーの魅力について、多大な労力を要しリスクが高いと感じられがちな社会環境においてある種の「確実性とコントロール」を得られる点にあると分析する。人と会うには感情的な労力と投資が必要で「その結果は非常に不確実」なため、それが不安を生む、とウォン氏は指摘。顧客が拒絶される痛みを避けられる有料の付き添いサービスは「お金を払えばいつでも『イエス』が得られる」と強調した」
興味深いのは、付き添いサービスの利用者の多くが 「人間関係に縛られたくない」という理由で有料サービスを選んでいる。「お金を払えばいつでも『イエス』が得られる」
という「コントロール可能な関係」を求めている。つまり、人間関係で気を遣いたくないという若い人たちが増えている。
中国は、無償の助けが 「恩を受けた」 とみなされ、将来の返報義務が発生する。だから若者は避ける傾向がある。その点、金銭介在によるサービス提供を受けるのは、むしろ関係を軽くするための手段になりやすい。極論すれば、断りやすい、期待されない、面倒がない、トラブルが少ないということなのだろう。つまり、
金銭は「人間関係の重い関係性を薄める」道具 になっている。日本の江戸時代にみられた「長屋精神」(相互扶助)とは、別世界の話だ。
中国は、宗族社会の名残をとどめている。苗字が、宗族を示している。それは、長老を頂点とした秩序が形成される年功序列社会である。一方では、年間1200万人もの大卒が生まれている。彼らには、「近代意識」による「個」が生まれ始めている。宗族社会とは相容れないものだ。こうしたことから、これまでの宗族から離れようとする葛藤が始まっている。孤独を生きがいとする意識を高めているのだ。
一方では、「人恋しさ」もある。その満たされない部分が、陪伴経済でサービスによって補われている。この延長には、非婚化がある。中国にとっては極めて重大な問題になる。出生率低下による人口減だ。中国共産党には、これを解く用意はない。いや、忠誠心を要求していることからも分かるように、宗族主義に立ち戻っている。中国共産党は、現代の若者の価値観とは乖離していく運命だ。その先に何があるのか。おぼろげながらも「答え」は見えている。



