世界の大手プライベートエクイティ(PE)ファンド、10社による中国での新規株式投資は、今年1~7月ゼロであった。これは単なる投資減少でなく、「中国はリスクが高すぎて、投資の土俵に乗らない」という意味である。PEファンドは、「信用リスク」に最も敏感な存在である。彼らが新規投資をゼロにしたことは、「中国の信用が死んだ」という意味であろう。これは、外貨準備高から差引いて実際に使える「実質外貨」が、対名目GDPで5%ラインを切っているという危機的現実が裏にある。中国は今、深刻な「信用危機」が始まっている。PEファンドは、これに気付いているのだ。
『フィナンシャル・タイムズ』(8月18日付)は「『割に合わぬ』中国投資 世界PEファンド、1〜7月は新規案件ゼロ」と題する記事を掲載した。
世界の大手投資ファンドが2026年、中国本土での新規投資を見送っている。中国政府が人工知能(AI)など機微技術への外国投資の審査を強めるなか、投資案件の低迷が深刻化している。
(1)「『フィナンシャル・タイムズ(FT)』が、米調査会社のディールロジックとピッチブックのデータを分析したところ、米KKRや米ウォーバーグ・ピンカス、米ブラックストーンなど世界の大手プライベートエクイティ(PE)ファンド10社による中国での新規株式投資は1〜7月に1件もなかった。10社による中国での投資件数は25年もわずか3件、24年は2件だった。海外PEマネーは、中国の高成長企業への投資機会の確保に苦戦していることがわかる。両調査会社のデータによると、10社は21年にはアーリーステージ(初期)企業への出資を含め、中国で10件余りの投資をしていた」
世界の大手プライベートエクイティ(PE)ファンド10社は、中国での1〜7月新規株式投資が1件もなかった。眼力に耐えられる企業がないということだ。25年は、わずか3件、24年は2件だった。中国は、人型ロボットで盛り上がっているが、PEファンドからみれば「落第」なのだろう。
(2)「米中関係は改善している。それでも中国関連企業が関わる最近の取引に中国政府が介入したことで、PEファンドに出資するリミテッドパートナー(LP=有限責任)が警戒感を強めている可能性があるとファンド各社はみる。中国政府は4月、中国発でシンガポールを拠点とするAI新興企業Manus(マナス)について、米メタによる20億ドル(約3200億円)での買収を覆した。香港の長江和記実業(CKハチソンホールディングス)がパナマ運河の港湾を含む世界の港湾運営事業を米ブラックロック率いる投資家連合に売却する計画も、中国当局の批判を受けて遅れている」
中国は政府介入が多いので、ファンドは警戒している。これでは、ファンドがせっかく投資して成長させても「果実」得る段階で介入されたら「虻蜂取らず」になるのだ。
(3)「世界のPEファンド各社はエグジット(投資回収)に苦労している。投資家へのリターンを生み出すため、保有資産を売買する「セカンダリー取引」など工夫を凝らした手法を活用している。中国では25年、経済成長の鈍化や米金利上昇への懸念が重荷となり、米KKRなどPEファンド10社が中国本土の投資先企業から完全に資金を回収したケースは公表ベースで1件もなかった」
中国は、投資回収に苦労している。回収した資金も送金できないとなれば、何のために投資したのか無駄になる。資本自由化を認めていない中国では本来、PEファンド投資は向かないのであろう。
(4)「業界団体AIMA(代替投資協会)のアジア太平洋地域共同代表、リー・カーシェン氏は「地政学が引き続き参入障壁になっている」と指摘する。「米国のLPは『手間がかかり過ぎる。割に合わない』と言うだろう」。同氏は中国での税務執行のあり方が変わったことで、一部の投資家は「自国に近い投資先で、リスクを抑えながら同程度のリターンを得られる」と考えるようになったとも話した」
米国のLPは、「手間がかかり過ぎる。割に合わない」と言うだろうとしている。これは、金融の世界で最も重い言葉である。LPが、「割に合わない」と言った瞬間、ファンドはその国を永遠に見限るという意味だ。中国は、このラインを越えてしまった。
(5)「英法律事務所クリフォードチャンスの香港オフィスでPEを担当するパートナー、ブライアン・クー氏は「最近、(米欧の)PEファンドが大規模なアジアファンドを立ち上げる際、日本やインド、オーストラリアを重視し、中国への配分は全体の1割程度にするという。ファンド各社は構造的な逆風をよく認識している」と話す。同氏によると、取引の流れは逆方向に向かいつつあり、中国国外での案件を求める中国企業への助言が増えている。米ベインキャピタルの大中華圏会長、ジョナサン・ジュー氏は6月、中国・遼寧省大連で開かれた世界経済フォーラム(WEF)の夏季ダボス会議の期間中、米ブルームバーグテレビに対し「我々は経済データやビジネス動向を分析するのが仕事だが、以前は政治や地政学的な問題はそれほど重視していなかった。しかし今では最優先事項になっている」と語った」
PEファンドは、日本やインド、オーストラリアを重視し、中国への配分は全体の1割程度にするとしている。これは、単なる投資配分の変更ではなく、PE界の資本が中国から日本へ「構造的に移動」している証拠であろう。




