中国は、半導体で孤立状態に置かれている。米国が、先端半導体の輸出を禁止し、日米蘭の三カ国が半導体製造装置の輸出禁止で足並みを揃えたからだ。中国にとっての頼みの綱は、韓国を引きつけておくことである。
こういう焦りが、27日の中韓貿易相会談で韓国が中国へ協力するという発表に現れている。韓国は、大慌てで「その事実はない」と否定する騒ぎになった。韓国は、米国の手前もあり「協力する」などと返事をするはずもないからだ。
『朝鮮日報』(5月29日付)は、「中国に焦り、『韓国との半導体協力強化』を一方的に発表 その狙いとは」と題する記事を掲載した。
米国による強硬な半導体制裁に反撃を始めた中国が韓国を取り込もうとしている。中国政府は韓中による担当閣僚会談の結果を発表し、「半導体サプライチェーン協力の強化で合意した」という内容を一方的に公表した。韓国政府は直ちに「事実に反する」と反論した。世界の半導体市場で孤立している中国が状況の打開を模索したが、むしろ自国の焦りを国際社会に露見してしまったとの見方もある。
(1)「中国商務省は、韓国産業通商資源部の安徳根(アン・ドックン)通商交渉本部長と中国の王文濤商務相が26日、米デトロイトで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)通商閣僚会議で二国間会談を行った後、ソーシャルメディアで27日、「半導体産業ネットワークとサプライチェーン安定などについて議論した。双方は半導体産業ネットワークとサプライチェーンの分野で対話と協力を強化することに同意した」と発表した」
下線部が、中国のねつ造である。韓国は、話し合いを拒否しないが協力関係を強化するという回答をしていないのだ。
(2)「韓国が、中国と半導体分野で歩調を合わせるかような表現だ。これに対し、韓国産業通商資源部は直ちに「半導体サプライチェーンに関する具体的なやりとりはなかった」と反論した。同部関係者は「中国側の半導体分野での協力要求には『今後の実務レベルでの協議で議論が必要だ』という原則論的な回答を行った。それを一方的に歪曲(わいきょく)して発表した」と指摘した」
中国は、韓国の否定で恥をかく始末になった。中国の発表通りとすれば、韓国は、米国から「三行半」になる。
(3)「韓中両国はこれまで、外交・安全保障分野で対立が深刻化する中でも、経済・通商分野では実務レベルでの接触を続けてきた。産業通商資源部の幹部は、「経済・通商分野でも半導体については、安定的な通商関係のために双方が最大限言及を自制してきた。今回は中国側が会談で半導体に言及し、さらに発表文の末尾にファクト自体が誤っている内容まで盛り込んだ」と話した。通商専門家は「米中貿易紛争がエスカレートする中、韓国政府が受け入れ難い内容をこっそりと盛り込み、反応を見ようという狙いがあるのではないか」と分析した」
中国は、「偽情報」を発表して韓国の反応を探ったのでないか。韓国は、このように見ている。
(4)「中国が、韓中の「半導体協力強化」を一方的に発表した背景には、米中の半導体分野で対立する中、韓国の協力が必要なためとみられる。中国は21日、米メモリー半導体大手、マイクロンの製品にセキュリティ上のリスクが発見されたとして、購入を中断すると表明した。しかし、サムスン電子とSKハイニックスがDRAMを今後数年間供給しなければ、そうした反撃は成功しにくいことから、大規模な市場を武器に韓国に向かって手招きしているのだ」
サムスン電子(西安・蘇州)とSKハイニックス(無錫・大連・重慶)は、中国現地に半導体生産拠点を置いている。中国は、こういう状況から米国マイクロン社の半導体を輸入禁止にしても、韓国2社が肩代わりしてくれると「計算」している。この問題は、米国が「監視」しているので簡単にできない状況にある。
(5)「韓国の計算はさらに複雑だ。米国と一体で動く日本とは異なり、韓国が中国と手を組むような態度を見せれば、1980年代に米国主導で日本が半導体市場で没落したのと同じ轍(てつ)を踏む恐れがある。浦項工科大(ポステク)の鄭宇成(チョン・ウソン)教授は、「米国がファウンドリーではインテルを、メモリー分野ではマイクロンを前面に出し、中長期的に韓国に取って代わることは十分に可能なシナリオだ」と述べた」
下線部は、重要な指摘だ。韓国が中国側へすり寄ることになれば将来、韓国半導体が窮地に立つことは明らか。さらに、日本半導体が再起することは確実だ。日米半導体がスクラムを組むであろう。
(6)「中国も当面は韓国に手招きするだろうが、独自技術が確保できれば、いつでも韓国を切り捨てることができる。半導体業界関係者は「米中のどちら側に付くのか悩むのではなく、結局は技術の超格差を維持することだけが韓国半導体の活路だ」と話した」
中国の老獪な動きには警戒すべきである。甘言を弄して「同盟」を壊し、相手を乗っ取る。これが、中国外交の基本である「合従連衡」だ。