勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    テイカカズラ
       

    共産主義下の中国は、当局が苦し紛れに銀行貸し出しまで介入することを示した。銀行は、政府の命令で赤字に苦しむ不動産開発企業へ融資するというのだ。不動産バブル崩壊という歴史的な混乱のなかで、財政資金を投入せずに銀行融資という便法を用いるのである。これによって、財政赤字が増えないことを習氏の政治的な業績にしたいのであろう。

     

    『ブルームバーグ』(11月28日付)は、「中国の銀行、融資焦げ付きや人員削減の恐れー当局の不動産支援強化で」と題する記事を掲載した。

     

    中国当局は国内不動産企業が財務面で苦境に陥っていることを受け、本土銀行大手を通じた資金繰り支援を強化しているが、銀行業界にとってはさらなる難題を抱える形となっている。

     

    (1)「すでに不良債権の急増や過去最低水準の預貸利ざやに苦しむ中国工商銀行など金融機関は、不動産開発企業への無担保融資の提供を初めて求められる可能性がある。こうした企業はそもそも債務不履行の状況だったり、破綻の瀬戸際に追い込まれたりしているところも多い。銀行がライフラインの提供を余儀なくされた場合、すでに厳しい見通しがさらに悪くなる恐れもある。ブルームバーグ・インテリジェンスによると、工商銀など主要11銀行は2024年に不動産の不良債権でさらに引当金890億ドル(約13兆2000億円)、来年見込まれる引き当て前利益で21%相当を積まなければならなくなる可能性がある」

     

    中国主要11行は、強制的な不動産開発企業への融資で不良債権発生を覚悟している。24年に見込まれる引き当て前利益の21%相当は、貸倒引当金に積み増すという厳戒姿勢である。

     

    (2)「銀行側は、選択肢として業績目標の引き下げや人員削減を検討していると、少なくとも十数人のバンカーが明かした。行内の問題だとして匿名を条件に話した。北京を拠点とする投資銀行、香頌資本でディレクターを務める沈萌氏は、「中国政府は銀行が抱える問題への解決策を示さずに、支援するよう金融機関にひたすら求めることはできない」と指摘。「銀行の利益はまだ表向き良さそうに見えるが、資産や不良債権をより深く掘り下げてみれば、良好に見える状況が長く続くということはない」と語る」

     

    銀行利益は順調のようにみえるが、精査しなければならない。不良債権発生を覚悟して、人員削減を検討し始めた銀行も出てきた。

     

    (3)「中国の銀行は、不動産セクターや財政難の地方政府への支援を通じた「国家サービス」の提供と、健全な経営義務遵守という二つの相反する要求の板挟み状態にある。一部の銀行にとっては利益の拡大はほぼ不可能となっている」

     

    このパラグラフは、中国の銀行が抱える悩みを吐露している。不動産開発企業の救済と地方政府への支援という二大難題を抱えているからだ。いずれも、銀行経営の健全性に大きく離反している。具体的には、預金者への義務遵守に違反するからだ。明らかに邪道である。

     

    (4)「中国当局は先週、低迷する住宅市場をてこ入れするため金融機関への圧力をさらに強化。銀行支援の対象となる不動産企業のリスト策定に取り組む一方、開発業者に対する初の銀行無担保融資計画も検討している。一連の要求は銀行の財務や業務を圧迫する。データによると、預貸利ざやの純金利マージンは9月時点で過去最低の1.73%。合理的な収益性を維持するのに必要と見なされる1.8%の水準を割り込んでいる。また、不良債権が過去最大を更新しているほか、一部の大手国有銀で17年以降続いてきた増収は今年途切れる可能性がある」

     

    銀行利ざやの最低ラインは1.8%とされるが、9月時点で1.73%へ落ち込んでいる。この上、強制的な不動産開発企業への融資が始まれば、利ざやはさらに悪化する。中国の金融不安を呼び込む兼ねない綱渡りである。

     

    (5)「工商銀を含む4大国有銀の香港上場株の株価純資産倍率(PBR)は0.3倍と、過去最低近くにとどまっており、世界金融危機時に米銀株が取引されていた水準とほぼ同じだ。ある地方商業銀行は、次年度の目標を低めに設定していると幹部は話す。優良な貸出先を巡る競争が激しくなる中、融資の規模や収入を伸ばすのは困難だという。関係者によると、一部の小規模金融機関は人員削減に動いており、融資担当部署に在籍する400人を今年半減させることを計画しているところもある」

     

    4大国有銀の香港上場株の株価純資産倍率(PBR)が、0.3倍と倒産並みの水準まで売り込まれている。一国の信用維持にとっては由々しい事態である。

     

    (6)「債務不履行リスクが高いにもかかわらず、地方政府の資金調達事業体「地方融資平台」(LGFV)への貸し出しを実行し、当局への協力姿勢を示そうとする銀行もある。当局者によれば、ある大手銀の四川省の地方支店では今年の企業向け新規融資の約80%がLGFVだった。ゴールドマン・サックス・グループは、中国当局が銀行に不動産開発企業の資金繰り支援の強化を求める新たな指導によって、同セクターの不良債権比率は0.21%押し上げられる恐れがあると指摘。また、JPモルガン・チェースは無担保融資の取り組みについて「リスクを伴う動き」だと警告した」

     

    中国の綱渡りは、ちょっとしたつまずきで「大火」になるリスクへ発展する。この状態が、これから長期にわたって続くのだ。中国経済は、これだけでもL字型成長は100%確実であろう。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-11-27

    メルマガ519号 中国、迫り来る「金融大乱」 赤字の不動産業へ無担保融資強要する「

     

     

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    習近平国家主席は、古い世代の感覚で少子化対策を考えていることが分った。子育てのためには、「女性の家庭復帰が必要」と主張しているからだ。これでは、少ない労働力がさらに減ってしまい、中国経済の成長率は下がるほかない。 

    中国の少子化対策は、儒教社会特有の「男尊女卑」思考を変えることだ。育児は、女性の仕事と割り切っている概念が最大の障害になっている。中国の若い女性は、高等教育を受けており、自らのキャリアを犠牲にする育児に反対である。こういう時代の変化を読めず、儒教理念への復帰は、ますます少子化を促進するにちがいない。合計特殊出生率は、「1.0」割れが目前に来ているのだ。

     

    『朝鮮日報』(11月28日付)は、「『女性は家で家族の世話をしろ』、中国の驚くべき少子化対策」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の北京特派員のイ・ユンジョン記者だ。 

    最近、中国の習近平国家主席の「女性観」を垣間見ることができる席があった。10月30日の中華全国婦女連合会指導部との会談でのことだ。習主席は女性が質の高い発展や農村振興を促進する上で長所を発揮し、積極的な役割を果たせるようにすべきだとした上で、「家庭が円満で、家庭教育が良好で、家風がきちんとしていてこそ、子どもが健全に成長でき、社会が健全に発展できる」と述べた。つまり、女性が社会に貢献する道は家庭にあるということだ。 

    (1)「習主席はそれにとどまらず、女性の役割は家庭内に限られるという点を改めて強調した。「女性が中華民族の伝統的な美徳を発揚し、良好な家風を打ち立てる上で独特の役割を果たせるよう導くべきだ」とし、「『女性の仕事』をしっかりすることは、女性自身の発展だけでなく、円満な家庭、社会の調和、国家発展、民族の進歩にも関わってくる」とも述べた」 

    かつて日本でも、福田赳夫首相(在任期間1976~78年)が、女性に家庭で高齢者の面倒をみることを勧めて物議を醸した。習氏の発言は、これよりも約半世紀遅れて出てきたことだ。福田の真意は、大蔵官僚出身らしく社会福祉予算を節約できるという思いがあった。習氏も同じだ。中国では、高齢者対策がほとんどゼロ。家庭に任せっぱなしである。予算を軍事費に向けているのだ。

     

    (2)「習主席が、そうした女性観を強調したのは、少子化打開のためだ。『ニューヨークタイムズ』は、「人口統計学的危機、経済低迷などに直面した共産党が女性を家に再び押し込み、子供を養育し、高齢者の世話をすることを求めた」と伝えた。習主席本人の発言がそうした解釈を裏付けた。女性を家庭に戻そうとする理由として、「若者の結婚恋愛観、子育て観、家族観に対する指導を強化し、人口高齢化に積極的に対処しなければならない」と発言したのだ」 

    習氏は、自分の政策が少子高齢化に拍車を掛けているという認識がゼロである。若者が好むIT関連産業を抑圧した結果、就職難が起こっている。これが、結婚・出産の障害になっているのだ。若者に沿った政策を行い、社会が育児に協力するシステムを作らなければじり貧となる。

     

    (3)「実際に、中国の少子化は深刻な状況だ。中国の新生児数は2016年の1880万人から昨年は956万人へと半減した。1000万人以下に落ち込んだのは、1949年の新中国建国以来初めてだ。このため、中国の人口は22年末現在で14億1175万人となり、前年に比べ85万人減少した。こうした傾向によって、中国の労働人口の割合は約10年前の70%から昨年は62%にまで低下した。「人口大国」の看板も宿敵インドに明け渡さなければならなかった」 

    今年の新生児数は、700万~850万人程度と推計されている。昨年が956万人であるから、100万人以上の単位で減少することになろう。

     

    (4)「状況の緊急性は分かるが、少子化対策として「女性の家庭復帰」を掲げたのは時代錯誤だ。子育ての責任を女性にだけ負わせるという点、そして女性の社会進出を制限するという点で過度に家父長的だ。米国の非営利団体フリーダムハウスの王亜秋・中華圏調査責任者は「中国の女性たちは既に数年前から権威主義の政府と家父長的な社会という抑圧に対抗するために団結してきた」と話した」 

    社会進出している女性は、自らのキャリアを捨てるほどならば、結婚・出産を諦めるという選択をしている。「一人っ子政策」による子どもの数が激減したことで、結婚すれば祖父母を含めて両家で4人の高齢者を妻が一人で世話をしなければならない。これでは、女性が結婚・出産をためらって当然であろう。社会が、この役割を担うべきだ。

     

    (5)「実現可能性も低い。経済的に非合理的な選択だからだ。片働きが一般的だった時代、夫婦共に仕事場に向かったのは、他人より豊かに暮らすための彼らの選択だった。しかし、今は共働きが基本の時代だ。そこで女性が所得をあきらめて家に帰るなら、他人より貧しくならざるを得ない。女性の社会参加を法律で禁止できるのでなければ、家庭復帰を選択する女性がどれほどいるのか疑問だ。これには男性も反対するだろう」 

    中国は、一人っ子政策が「生産年齢人口」を急増させ、高度経済成長を実現した。今度は、一人っ子政策による「合計特殊出生率」低下が、「生産年齢人口」を減らすという逆回転を始めた。中国は、この歯車に巻き込まれる逆境に遭遇しているのだ。逃げ場はないのだ。

     

     

     

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    中国では、いつも賑わっていた企業の住宅展示場が今では閑散としている。高い失業率に怯えて、住宅どころの話でなくなっているのだ。不動産開発企業は、資金繰りを付けるために住宅を値引きしたいが、地方政府の「待った」で阻止されている。既購入者の反発と地価の値下がりを恐れている結果だ。こうして、企業は値下げしたくてもできないジレンマを抱えている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月27日付)は、中国不動産『今は誰も買わない』、値上がり神話崩れる」と題する記事を掲載した。

     

    中国不動産企業の信用不安は深刻度を増している。恒大に続き、最大手の碧桂園控股(カントリー・ガーデン・ホールディングス)も債務不履行(デフォルト)に陥った。

     

    (1)「不動産バブルのきっかけは1998年の住宅制度改革だ。政府は住宅を商品として売買できるようにし、購入や開発の促進策も出した。その後は開発企業が相次いで生まれ、産業の裾野も拡大。経済の高成長も重なり、必ず価格が上がるという「神話」を信じた中国人による自宅購入や投機がブームを押し上げた。米ハーバード大学教授のケネス・ロゴフらの分析によると、今や不動産関連の国内総生産(GDP)に占める比率は90年代末の1割未満から3割に拡大した」

     

    中国の不動産開発企業の歴史は、1998年に始まっている。わずか20年余の歴史しかないのだ。これでは、調子に乗って拡大戦略一本で来たのも当然。バブルに落ち込むのは自然の成り行きであった。それだけに、復活の道は容易でない。

     

    (2)「それから約20年。習近平指導部が過熱抑制にカジを切った。2020年以降、過剰投資による金融不安の芽を摘むため、不動産企業の資金調達を厳しくし住宅ローンの供与を絞り込んだ。不動産企業の資金繰りは一気に悪化し、建設途中で工事が止まる事態が続出した。中国不動産シンクタンクの試算では、その規模は22年6月時点で231平方キロメートル。東京都の1割超に相当する。「ゼロコロナ」政策などで家計が将来不安を強めたことも、マンション市場をさらに冷え込ませた。販売減を受け、主要70都市平均の新築価格は22年4月から前年同月比でマイナスが続く。下落期間は19カ月連続と過去最長を更新する。「値上がり神話は完全に崩れ去った。今の値段では誰も買わない」。広東省広州市で不動産コンサルタントを営む黄麗(仮名)は断言する

     

    不動産開発企業が戦略を間違えただけでない。政府もエコノミストも全員が、住宅ブームが超長期に続くものと見誤った。日本のエコノミストまでこういう強気論に加担し、「中国不動産開発企業は、必ず再起する」と力説していたほど。このブログでも取り上げ、「チクリ」と批判しておいた。このエコノミスト氏は、その後に自説を訂正し「政府資金を投入せよ」と主張している。事態の深刻さを認識したのだ。

     

    (3)「大幅な値下げで在庫物件をさばけば、目先の資金繰りの足しになる。ただ、一部の地方政府はそれすら自由にさせない。IT(情報技術)企業が集積する広東省深圳市のベッドタウンとして知られる恵州市。11月初旬、売り出し中の新築マンションに見学者が訪れると、女性販売員がささやいた。「25%引きの1平方メートルあたり1.2万元で売ってますが、内緒で1.1万元に下げますよ」。

     

    住宅在庫を早く捌くには、値下げして現金を回収することに尽きる。地方政府が、値下げを拒否している。これでは、不動産開発企業の「衰弱」が当然進む。デフォルトを余儀なくされるのだ。

     

    (4)「このマンションは夏に、当初販売価格より4割近く安い同1万元超に下げた。待ったをかけたのが地方政府だ。関係者によると、値下げ前に契約した家主が「不公平だ」と反発。抗議活動の広がりを恐れた当局が販売会社に値下げ幅を縮めるよう指導した。地方政府が大幅値下げを嫌がる理由は他にもある。土地が国有制の中国では、地方政府が土地使用権を不動産企業に売り、貴重な歳入源としてきた。値崩れは財政の悪化に直結しかねない」

     

    中国不動産開発企業は、民営であっても土地国有制に縛られて、地方政府の干渉を受けるシステムになっている。ここが、西側諸国の不動産開発企業と決定的に異なる点である。販売価格の自由な設定ができないのだ。

     

    (5)「買い手もなく、値下げも制限すれば、販売はいっそう落ち込む。1〜10月の新築在庫は前年同期比2割増と積み上がり、市場をゆがめたツケはたまる一方だ。中国共産党も「需給関係に重大な変化が生じた」と局面の変化を認める。それでも不動産市場のひずみを解消し、バブル崩壊を防ぐ解は示せずにいる」

     

    下線のように、地方政府が首を突っ込んでいるので、企業はがんじがらめに遭っている。不動産不況が、長期化する背景の一つはここにある。

     

    ムシトリナデシコ
       


    中国では最近、スマホが回復したと楽観的な見方が強まっているが、最大の半導体受託製造大手SMIC(中芯国際集成電路製造)は悲観的である。スマホの回復は一時的とみている。このことから、半導体不況が後2年は続くと慎重だ。中国経済が、L字型の底這い状態にあることを示している。

     

    『東洋経済オンライン』(11月27日付)は、「中国半導体SMIC、『業績悪化』が長引く背景事情」と題する記事を掲載した。この記事は、『財新』の転載である。

     

    (1)「中国の半導体業界の低迷が長引いている。半導体受託製造(ファウンドリー)で中国最大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)は、2023年7~9月期の決算を発表。売上高は前年同期比15%減の16億2100万ドル(約2449億円)、純利益は同80%減の9400万ドル(約142億円)にとどまった。直前の46月期と比較すると、売上高は3.9%の微増だった一方、純利益は76.7%の大幅減益だった。現在の半導体市場が、利益を犠牲にしても受注が増えない状況にあることを示唆している」

     

    半導体受託製造で世界最大手である台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の2023年7~9月期決算は、46月期比では13.%の増収、16.%の増益となり、業績には底打ち感が出ている。一方、中国のSMICは同業ながら業績に顕著な違いが出ている。TSMCは対米輸出が堅調であることなど輸出が回復している結果だ。SMICは、主として中国国内市場に限定されているので、中国経済の停滞の影響を全面的に受けている。

     

    (2)「SMICの共同CEO(最高経営責任者)を務める趙海軍氏は、次のように語った。「半導体業界が期待していた『U字型』や『V字型』の回復が起きる兆しは見えない。現実の市場は(景気が一時的に上向いても、また低迷に逆戻りする)『ダブルU字型』の様相を呈している。目下の半導体不況は1年では終わらず、2年は続きそうだ」と、半導体市況の先行きについて悲観的な見解を示した」

     

    中国の半導体市場では、急速回復は望み薄としている。U字型やV字型の回復が、起きる兆しが見えないと悲観的だ。現在の半導体不況は、1年では終わらずに2年は続きそうだとしている。中国経済の停滞状況がみて取れる。

     

    (3)「趙氏の言う「ダブルU字型」とは、具体的には中国のスマートフォン市場の一時的な回復を指す。7~9月期には(ファーウェイの「Mate 60シリーズ」やアップルの「iPhone 15シリーズ」など注目度の高い)新製品が集中的に発表され、新型コロナウイルスの流行期にスマホを買い換えられなかった多数のユーザーが一斉に飛びついた。「スマホの販売には季節性があり、業界内の小さな動きは必ずしも市場全体の大きな変化につながらない。2024年のスマホ販売は、全体的には2023年と同水準にとどまるだろう」。趙氏はそう述べ、需要回復は一過性に終わると予想する」

     

    中国のスマホ市場は、「ダブルU字型」としている。これは、「W字型」と呼んだ方が適切であろう。一旦は回復しても、再び落込んでから回復するという意味である。ファーウェイの「Mate 60シリーズ」は好人気と報じられているが、SMICは人気の持続性に疑問を呈している。

     

    この機種では、「7ナノ」半導体が使用されているとして関心を呼んだ。だが、7ナノチップは、古い露光設備を使っても製造可能である。この場合、「マルチパターニング技術」という面倒な過程が導入される。従来1回である露光を複数のパターンに分割し、あとでそのパターンを重ね合わせるものだ。手間暇かかって、ズレを生じ安いという難点があるという。「マルチパターニング技術」は、まさに「手造り」同様の製作過程となる。名人芸のようなもので、とても量産化は不可能とされている。SMICが、「Mate 60シリーズ」について、さして期待も賭けていないことが不思議である。

     

    (4)「SMICの製品分野別の売上比率を見ると、79月期はスマートフォン向けが全体の25.9%、コンシューマー用電子機器が24.1%、(あらゆるモノをネットにつなぐ)IoTが11.5%をそれぞれ占めた。地域別の売上比率は、中国国内が84%を占め、直前の46月期より4.4ポイント上昇。一方、アメリカ向けは12.9%と、同4.7ポイント低下した」

     

    SMICは、米国へも輸出している。本来ならば、禁じられているはずだ。米国防総省が、SMICは中国人民解放軍のサプライヤーに認定されているほか、米商務省のブラックリストにも掲載され、米財務省は米国民による同社株の取引を禁じている。こうしたSMIC半導体が、米国へ輸出されていることで問題になっている。

     

    (5)「SMICは、10~12月期の売上高が7~9月期比1~3%増、粗利益率は16~18%との見通しを示した。同社の7~9月期の粗利益率は19.8%だったが、過去数年の増産投資に伴う減価償却費が増加するため、利益率が圧迫されると説明している」

     

    SMICの10~12月期売上高が前期比1~3%増、粗利益率は16~18%との見通しを示した。前期の粗利益率は19.8%であったから落ち込むが、減価償却費の負担増によるという。

     

     

     

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    中国外交は、お世辞にも上手と言えない拙速主義である。相手国が意に沿わぬとみれば、威嚇する戦狼外交を行ってきた。これによって、中国はどれだけ「敵」をつくってきたか。アジアでは、日本・韓国・台湾・フィリピンが戦狼外交の被害国である。だが、威嚇されたからと言って黙って引き下がる訳でない。互いに連携して対中国への壁をつくって「防戦」するのだ。こういう簡単な理屈が分らないほど、中国は近視眼外交になっている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月26日付)は、「中国、日韓との枠組み重視 米国主導の対中結束にくさび」と題する記事を掲載した。

     

    日米韓と中国、ロシア、北朝鮮の溝が深まる状況下で、4年ぶりの日中韓の外相会合が実現した。中国にとって安全保障、経済の両面で進む米国主導の対中抑止にくさびを打ち込む機会となる。日韓との結びつきを強め、減速する中国景気の下支えにつなげる狙いもある。

     

    (1)「中国の王毅共産党政治局員兼外相は11月26日の日中韓外相会合で、3カ国協力の重要性を強調した。「世界の経済は複雑な難題に直面している。中日韓が地域と世界の発展のために、より積極的な役割を果たすべきだ」と述べた。中国の日韓重視の姿勢は安保協力を深める日米韓への警戒心の裏返しだ。日米韓首脳は8月、自衛隊と米韓両軍による共同演習の毎年実施などで合意した。日韓と海を挟んで向き合う中国にとって日米韓の結束は脅威になりかねない」

     

    中国は、余りにも感情的に振舞い過ぎる。それが、自国の権威を高めると誤解しているのだろう。国内的には国威発揚でも、相手国にとっては「許しがたい行為」になる。日米韓が、結束して中ロ朝へ対抗せざるを得ないのは、政治体制の異なることへの「不気味さ」も手伝っている。透明性に欠けるからだ。

     

    (2)「日中韓の枠組みが中断した4年間で日米韓と中ロ朝の対立は鮮明になった。中国の海洋進出の動きやロシアによるウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル開発が重なった。それでも中国が日韓との対話に応じた背景には不動産不況などによる中国経済の低迷もある。習近平国家主席は11月中旬に訪れた米国で岸田文雄首相やバイデン米大統領とそれぞれ会い、対話の重要性を確認した。関係を正常化し、海外からの投資拡大をめざす。米国は経済安保の観点から先端半導体の対中輸出・投資規制を打ち出し、日本も同調した。米主導で重要物資の中国に依存しない供給網づくりが進む」

     

    中国の中ロ朝一体化は、経済的な連関性に欠ける点でなんのメリットもない。それにも関わらず、共産主義という価値観だけで繋がっているのだ。中国の発展には、西側諸国との関係が不可欠という根本的な欠陥を持っている。この矛盾した事実が最近、中国に「ニーハオ」と言わせている。日中韓の協力という言葉さえ、持ち出しているのだ。

     

    (3)「中国国内の技術開発や産業政策に影響が出始めている。気候変動や保健、人的交流といった共通課題で日中韓の協調を深めることが、経済的な分断への歯止めになると中国側は期待する。中国は友好関係にあるロシア、北朝鮮との軍事的な協力からは距離を置く。ロシアのショイグ国防相が7月、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記に提案したとされる中ロ朝による海上合同軍事演習は実現していない。北京の外交筋によると、中国が日韓などの反発を考慮し応じなかったという」

     

    中国は、ジレンマに立たされている。ロシアや北朝鮮と軍事的に結合した場合、西側のリアクションがきわめて大きくなり、経済関係をさらに希薄化させるリスクを抱えるからだ。中国はこれ以上、西側との対立を激化させないために、足下の日韓との関係改善を模索しているのであろう。

     

    (4)「ロシアが、技術支援したとされる北朝鮮の21日の軍事偵察衛星の発射についても中国は静観の姿勢をとる。外務省の毛寧副報道局長は24日の記者会見で「ロシアと北朝鮮の間の問題だ」と話し、中国は関与していないと示唆した。中国は北朝鮮が9月に建国75周年の祝賀行事を催した際、劉国中・共産党政治局員兼副首相を派遣した。建国70周年だった2018年には最高指導部の栗戦書・全国人民代表大会委員長(当時)を参加させており、意図的に格を下げたとの見方がある」

     

    中国は、北朝鮮の軍事偵察衛星の発射について中立的立場を取っている。習氏は、こういう事態に対して「内心」、困っているであろう。日米韓三カ国が、ますます結束するからだ。中国は、北朝鮮に手をかまれている感じである。

     

     

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