勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    訪日外国人観光客(インバウンド)による消費が、24年度に30.3兆円を超えた。経常黒字の主柱に踊り出てきた。日本列島が観光資源になっており、日本経済を支える重要な柱に育っている。日本嫌いの中国人観光客が最近、日本の清潔さに圧倒されたと帰国後SNSへ投稿。今、中国で話題になっている。日本社会そのものが、「一幅の絵」になっていると言う意味であろう。

    『日本経済新聞 電子版』(5月13日付)は、「訪日観光、経常黒字の柱 昨年度30.3兆円 旅行は58%増、初の特許使用料超え 人手不足が制約に」と題する記事を掲載した。

    日本が訪日外国人客(インバウンド)による消費で稼ぐ構図が強まっている。2024年度の旅行収支の黒字は前年度比で58%増え、特許使用料に関する収支の黒字を初めて上回った。日本の観光業は人手不足などの制約があり、ペースを維持できるかが課題となる。


    (1)「財務省が12日に発表した24年度の国際収支統計(速報)によると、海外との取引全体を表す経常収支は30兆3771億円の黒字だった。黒字額は16%増え、2年連続で過去最高を更新した。このうち旅行収支は6兆6864億円の黒字で、こちらも2年連続で最大となった。円安を追い風に訪日客の消費額が43%増えた。日本人が海外で使ったお金は10%の増加にとどまっている。旅行収支の黒字は他の分野と比べて高水準となった」

    24年度の経常収支は、30兆3771億円の黒字である。だが、経済的解釈では、国内投資不足を意味する。喜んでばかりではいられない。

    (2)「海外との特許使用料などの取引を示す産業財産権等使用料の収支は、4兆9345億円の黒字だった。黒字額は4%減り、旅行収支を下回った。比較可能な1996年度以降で初めて逆転した。旅行収支の黒字は、海外のクラウドサービスなどへの出費の増加に伴う「デジタル赤字」を帳消しにする規模にまで拡大している。24年度のデジタル関連のサービス収支の合計は6兆9651億円の赤字だった。デジタル赤字の方が2700億円ほど大きいものの、その差は23年度のおよそ2兆円から縮小した」

    ひと頃、超円安の原因とされた「デジタル赤字」は、旅行収支の黒字でほぼ埋められる形になってきた。当時の円安論者は、デジタル赤字を最大要因に上げていた。


    (3)「この先も同じペースで旅行収支の黒字が拡大するか不透明な面はある。足元では為替はやや円高水準にあり、訪日旅行の割安感は薄れつつある。国内の宿泊業は、人手不足が深刻で、受け入れ余地が狭まる恐れもある。交通渋滞や環境破壊といったオーバーツーリズム(観光公害)も深刻になっており、対策が求められる。旅行収支の黒字が拡大したのは、日本人による海外旅行消費が伸び悩み、支払いが少なくなっている側面もある。旅行需要は自然災害や感染症に左右されやすく、収益源として過度に期待するのは危うさをはらむ」

    旅行収支の黒字が拡大は、今後もこの調子で伸びるかといえばそうではなさそうだ。人手不足が立ちはだかっている。そこで、人数増加よりも「高額路線」の追求が求められている。高額所得者に長期滞在をしてもらう戦略展開だ。それには、最高級ホテルの建設が前提になる。政府は、国立公園内での高級ホテル建設を認める方針だ。


    (4)「訪日観光以外に稼げるサービスを育成する必要がある。旅行収支に追い抜かれたとはいえ、特許使用料に関する収支は有力な分野の一つとなる。国内メーカーの海外子会社が現地で製造・販売した際に得られるロイヤルティー収入は多く、業種別では自動車関連や医薬品が大半を占める。製品だけでなく技術を輸出して稼ぐモデルの重要性は一段と高まる。特許使用料に関する黒字額は一方で停滞感が見られ、日本企業が研究開発に資金を十分に回せず、革新的な製品や技術を生み出せていない可能性がある。開発力の底上げと同時に、業種の広がりが求められる」

    特許使用料の黒字額が、伸び悩んでいる。企業の研究開発が、頓挫している結果ではない。企業は潤沢な資金を抱えており、たまたま製品化が遅れているだけだ。間もなくラピダスのAI半導体やNTTの「IWON」を組み込んだ製品が世界市場を席巻するであろう。今は、その間隙にある。


    (5)「24年度の過去最大に上る経常黒字は、海外との投資のやりとりを示す第1次所得収支の黒字が支えた。黒字額は、41兆7114億円で4年連続で過去最高を更新した。サービス収支はデジタル赤字のほか、海外の再保険会社に支払うお金などが増え、全体では2兆5767億円の赤字だった。貿易収支は4兆480億円の赤字で、4年連続の赤字となった」

    サービス収支の赤字は、日本全体がDX(デジタル・トランスフォーメーション)への移行期という意味もある。デジタルテクノロジーを使用して、ビジネスプロセス・文化・顧客体験を新たに創造するという「胎動期」である。何事も悲観的にみないで、視点を変えれば希望が持てるのだ。


    あじさいのたまご
       

    韓国政界は泥沼状態にあるが、また一つ汚点が加わった。与党「国民の力」(保守派)の大統領候補として党大会で正式に選ばれた金文洙(キム・ムンス)氏は、党幹部によって前首相韓悳洙(ハン・ドクス)氏の支持が高いとして候補者の座を降ろされた。だが、党大会では金氏の支持率が高い結果、再び金氏が大統領候補になるというめまぐるしい事態だ。他の国では、みられないよう混乱した事態になっている。

    『中央日報』(5月12日付)は、「保守革新の課題を示した韓国政党『国民の力』単一化騒動」と題する社説を掲載した。

    韓国与党「国民の力」指導部が強行しようとした大統領候補交代が一昨日(10日)午後11時20分ごろ党員投票の否決で取りやめになり、金文洙(キム・ムンス)氏が候補に確定した。しかし今回の候補単一化過程で国民の力が見せた形態は民主主義政党とは信じられないほど非常識だった。


    (1)「10日午前2時30分ごろ、李亮寿(イ・ヤンス)党選管委員長の名義で候補登録申請公告を出したが、登録期間が午前3時から4時までわずか1時間だった。提出しなければならない書類は「最近5年間の候補・配偶者の所得税・財産税および総合不動産税納付実績証明書および滞納証明書」「候補の犯罪経歴回報書」など32件に達した。窓口は「国会本館228号」だ。午前3時から1時間で32件の書類の発給を受けて作成し、国会に提出することが果たして可能なことなのだろうか。党内で「このあきれた状況は誰のためのものなのか」〔裵賢鎮(ペ・ヒョンジン)議員〕という非難があふれたのは当然だった」

    大統領選に立候補するには、「候補の犯罪経歴回報書」も提出するという。李在明氏は、5つの被告人であることを提出しているのだ。


    (2)「拙速公告の後、韓悳洙(ハン・ドクス)候補が唯一登録したが、韓氏と指導部の間に「仕組んで打つ花札賭博」という皮肉だけが出てきた。その直後、党非常対策委員会が大統領候補を韓氏に交代する内容を議決したが、この日午前10時から午後9時まで行われた党員投票で指導部の予想とは違って案件が否決されて結局寸劇で終わってしまった」

    韓前首相への大統領候補一本化は、党員投票で否決された。もはや、大統領選での勝敗を度外視している選択とみられる。

    (3)「韓国政党政治歴史にもう一つの大きな汚点を残した今回の事態を経て、保守政党の革新が喫緊の課題であることが露呈した。大統領選挙勝利が有力な状況で権力争奪戦が起きたのであれば理解できなくもないが、いま国民の力は派閥を超えて力を合わせても勝利が難しい局面だ。このドタバタ劇の理由が大統領選挙以降の党権争いのためという分析が出ている理由だ。大統領選挙が1カ月も残されていない時点で内部争いに没頭する政党に存在の意味はあるのか」

    韓国の次期大統領選は、韓国の運命を左右するほど大きな意味を持っている。李在明(左派)氏が大統領に当選すれば、経済政策は一段と労組寄りになるであろう。これは、韓国経済にとって極めて高いリスクをはらむことになる。潜在成長率が低下するのだ。


    (4)「(保守派は)戒厳事態に対して心からの謝罪をし、中道層の攻略に乗り出しても勝利が難しいというのに、民心から遠ざかる道だけを進んでいる。このような渦中でこのような事態の発生源を提供した尹錫悦(ユン・ソクヨル)前大統領は、「候補予備選は激烈な論争と陣痛があったが、相変らず健康であるところを見せた」というコメントをSNSに投稿した。国民の力を助けようというのか、火事が起きている家をあおろうとしているのか分からない状況だ」

    国民の力は、政党としてすでに信頼を失っている。その上、大統領候補者選びで二転三転して、「醜悪さ」をみせてしまった。最悪状態である。

    (5)「辛うじて公式大統領候補に登録した金氏も、予備選の過程で22回も出した韓氏との単一化の約束を破った点で今回の事態の責任は大きい。昨日、権寧世(クォン・ヨンセ)非常対策委員長が辞任したが、議員の間で院内指導部の総辞職を要求する声が出るなど余震が続いている。国民の力は、これ以上醜態を見せずに一応当面の選挙準備に力を尽くすことが保守支持者に対する道理ではないだろうか。選挙結果とは無関係に、今回の候補決定過程で露呈した問題は国民の力の大手術が避けられないことを雄弁に物語っている」

    金氏は、大統領予備選の過程で22回も出した韓氏との単一化の約束を、最後は破るという後味の悪い結果になった。誰も約束を守らないのは、「共に民主党」の大統領候補李在明氏と何ら変わらないのだ。金氏が、予備選中に約束していたのならば、大統領候補を韓氏に一本化して、自らは首相候補になるくらいの度量をみせるべきであった。それが、正式な大統領候補になって目が眩み、前言を翻したのだ。



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    トランプ米大統領が5月8日、慌ただしく発表した英国との貿易交渉合意は、米国にとって多少のメリットがある程度の内容と報じられている。ロイターもウォール・ストリート・ジャーナルも、ほぼ同じ見方である。だが、米英貿易協定には鉄鋼や医薬品で、中国を排除する項目が含まれているとの報道が出てきた。これが、今後の相互関税撤廃における交渉でひな形になるとフィナンシャル・タイムズが指摘する。

    『フィナンシャル・タイムズ』(5月9日付)は、「米英貿易協定、中国を供給網から締め出しか」と題する記事を掲載した。

    英国は、米国との2国間貿易協定を結ぶことで合意した際、鉄鋼および医薬品業界に対する米国の経済安全保障上の厳しい「条件」を受け入れた。外交関係者は、米国が中国を他国の戦略的に重要なサプライチェーン(供給網)から締め出すためのひな型にしようとしていると見ている。


    (1)「8日の合意では、両業界への関税措置が緩和されるが、英国がサプライチェーンの安全や「関連する生産施設の所有権」について「米国の要求を満たすため迅速に行動する」ことが条件となっている。英政府関係者は、この条項が一部の第三国に適用されると話したが、トランプ米大統領が中国を標的にしていると示唆したことを認めた」

    米国は、生産施設が中国企業に買収されて、製品が米国へ輸出しないようにと警戒している。

    (2)「今回の協定は、トランプ政権が、戦略的に重要な輸入品への中国の関与を制限するという長年の要求を強めていることを示すものだと貿易の専門家らは指摘している。英ビジネス貿易省の元職員アリー・レニソン氏は、「米国は英国をはじめ各国に貿易の詳細を公開し、特に鉄鋼など重要分野で中国との貿易や投資から距離を置くよう求めている」と述べた」

    米国は、鉄鋼などの戦略産業が中国支配下に入ることを警戒している。中国資本が英国籍企業に入り込むと、米国が選別できなくなるリスクを抱えることになるからだ。


    (3)「4月2日にトランプ氏が関税政策を発表した後、米英両政府は1カ月あまりという短期間の交渉を経て5ページの確認文書を作成した。英国製品への関税引き下げは、特定の輸入品が米国の安全保障に影響を与えるかについての調査の結果次第だとされる。調査は、米国通商拡大法第232条に基づき行われる。また、英国製品への関税引き下げは、「共通の安全保障上の優先事項」と両国の「バランスの取れた貿易関係」に基づくとされている」

    米国が、英国企業製品の関税を引下げても、中国資本が英国企業を買収すれば「元の木阿弥」になる。

    (4)「英コンサルティング会社フリント・グローバルの貿易実務責任者のサム・ロウ氏は「他国、特にベトナムやカンボジアなど東南アジアの輸出拠点との合意でも同じような条件が課されるだろう」と予想する。だが、欧州連合(EU)の貿易担当高官は、米英合意の中国に関する条件がEUと米国との貿易協定交渉に予期せぬ深刻な影響を及ぼす可能性があるとしている。トランプ政権との交渉に携わる2人の関係者は、フィナンシャル・タイムズ(FT)に対し、米英合意に含まれる経済安全保障の要素をEUが米国との協定に取り入れるのは難しいとの見方を示した」

    米国と英国との協定内容は、ベトナムやカンボジアなど東南アジアの輸出拠点にも適用されるとみられている。EU企業への適応可能性も議論されている。一方、EUへの適応は困難との見方も。


    (5)「米英合意では、英国のアルミニウム製品への関税が引き下げられる。ある英政府関係者は、「英国の輸入関税は他国より大幅に低くなるため、米国は他国や企業が英国から米国への輸出を利用して規制をかいくぐることを警戒している。この点については今後詳細を詰める」と述べた。現在、イタリアのコンサルティング会社SECニューゲートに所属するレニソン氏は、米国の要求は勢いを増している経済安全保障の傾向に沿っていると見ている。同氏はバイデン前政権も1期目のトランプ政権が導入した鉄鋼製品への関税を撤廃する前に、中国系鉄鋼会社に関して英当局による監査を要求していた点に言及した。また、さらなる交渉を経て締結される最終合意が英国をより包括的に米国の対中貿易政策と連動させるものになった場合、中国が英国に何らかの報復措置を取るとの見方を示した」

    米国は、英国のアルミニウム製品への関税引下げでも、中国企業に利用されることを警戒している。


    (6)「英鉄鋼業界団体のUKスチールは、合意文書が不明瞭だと指摘している。関税をゼロにするという記述はなく、サプライチェーンへの条件についても疑問がある。またクオータ(輸入枠)が設定される可能性も指摘されている。UKスチールは、「英国の鉄鋼業界が米国との貿易協定で利益を得るには多くの難題があることが合意に向けた条件で明らかになった。当業界への影響を十分に評価するためには、満たすべきサプライチェーンへの条件やクオータの定義、またこれらがいつから実施されるのか全面的に理解する必要がある」と指摘した」

    英国のUKスチールによれば、米国との貿易協定で利益を得るには多くの難題があると指摘する。それほど,きめ細かい規程があるのだろう。米国が抱く中国への警戒心の強さを示している。


    あじさいのたまご
       

    中国は、関税戦争で「最後まで戦う」と大見得を切っていた。だが、スイスでの米中協議では、相互に90日間の条件付きで115%の関税引下げに同意した。最終的に米国は、対中関税30%に対して、中国は対米関税10%にする。ただ、双方とも24%は90日間維持する。米国も中国も、91%を撤廃するという内容だ。ちょっと、わかりにくい内容である。

    米中で、関税に差がついている理由は、中国には違法薬物フェンタニル流入に絡む懲罰関税が含まれるからだ。こうして、中国は自らその違法性を公式に認めることになった。「メンツ」が、汚されたことになったのである。

    トランプ米大統領は12日、今週末に中国の習近平国家主席と会談する可能性があると述べた。『ロイター」(5月12日)が伝えた。

    『日本経済新聞 電子版』(5月12日付)は、「米中が双方の関税115%引き下げで合意 90日間、共同声明発表」と題する記事を掲載した。

    トランプ米政権は12日、中国政府との間で90日間の関税引き下げに合意したと発表した。ベッセント米財務長官はスイスで開いた記者会見で「双方が関税を115%引き下げることで合意した」と述べた。ベッセント氏は「どちら側もデカップリング(分断)を望んでいないという点で一致した」と話し、両国が緊張緩和に向かっていると強調した。

       

    (1)「米国側は、現在の累計145%の対中追加関税を、14日までに累計30%に下げる。30%の内訳は相互関税の基本税率10%と、違法薬物対策の名目で中国にかけている20%の追加関税だ。トランプ米大統領は米中協議に先立ち「80%がよさそうだ」としていたが、それを上回る歩み寄りとなる。ベッセント氏は会見で米中が「不幸なエスカレーションが再発することを避けるためのとても良いメカニズム」をつくることで一致したと明かした」

    米中が、思い切った引下げ策に出た。それだけ、経済への影響が強くなってきたからだ。影響は、先ず中国側に強く出ている。労働集約型製品は,軒並み輸出契約がキャンセルになった。米国は、ベトナムなどへ発注先を変えているので、中国にとって「得意先」を失う危機となっていた。口先では、徹底抗戦などと強がりを言ってみていたが、実態は綱渡り状態であった。米国も、これから国内物価に跳ね返る。中国への「深追い」が、リスクを高めるからだ。


    (2)「トランプ政権は4月2日に詳細を公表した相互関税で、中国は基本税率10%と上乗せ税率24%を合わせて34%としていた。その後、中国が報復措置に動いたことを理由に最終的に125%に引き上げていた。米中両政府の共同声明によると、米国は中国の報復措置を理由に引き上げた部分の税率を撤回する。相互関税率を当初の34%に戻したうえで、上乗せ部分の24%を90日間停止する。自動車や鉄鋼・アルミニウム製品などにかける分野別関税は譲歩の対象には含まず、今後も維持する。ベッセント氏は「戦略的なリバランスは継続する」と述べた」

    米国が、自動車や鉄鋼・アルミニウム製品などにかける分野別関税は譲歩の対象に含まれない。米国が、対中貿易赤字を是正させる手段として今後も維持される。

    (3)「中国側も米国側と同様の措置を取り、現在125%の対米追加関税を90日間にわたり10%にまで下げる。貿易規制など米国に打ち出した関税以外の対抗策も一時停止したり取りやめたりする。違法薬物対策を名目にした米国の対中関税に対し、中国は2月に液化天然ガス(LNG)などに最大15%、3月に大豆などに最大15%の関税をかけると表明した。相互関税には米国からの全輸入品に報復を拡大し、税率も125%まで上げた」

    中国は、対米関税が10%で、米国の対中関税30%を容認するほかなかったのは、国家の「メンツ」を大きく傷付けることになった。その原因が「麻薬原料」とは一大汚点である。


    (4)「10〜11日の米中の初の閣僚級協議は、米国側からはベッセント氏と米通商代表部(USTR)のグリア代表が出席。中国は経済政策担当の何立峰(ハァ・リーファン)副首相が出席した。ベッセント氏によると、協議には貿易問題に直接関係しない中国政府の公安部門の担当閣僚も出席した。習近平国家主席の側近の一人で公安相の王小洪氏が参加したとみられる。ベッセント氏は「違法薬物危機に対する中国の関与の大きさに驚いた」と前向きに評価した。グリア氏は会見で「中国は(相互関税に対し)報復することを選んだ唯一の国だった」と話し、報復の応酬は「持続可能ではなかった」と述べた」

    米側の声明ではまた、「双方は経済・貿易関係を巡る協議継続のためのメカニズムを確立する」としている。この話合いが、円滑に行われるかどうかだ。中国は、米国の高い関税を引下げさせる「便法」で、米国へ歩み寄った振りをしていることもありうる。過去には、そういう事例が多いからだ。約束を100%守る国家体制でないからだ。



    テイカカズラ
       

    ベッセント米財務長官は11日(現地時間)、スイスのジュネーブで前日から行われた米中の貿易問題を巡る閣僚級協議で2国間の貿易戦争の緩和に向けて「大きな進展」があったと述べた。詳細は12日に説明するとした。中国の何立峰副首相は双方が「重要なコンセンサス」に達し、新たな経済対話の枠組みを設けることで合意したと表明。12日に共同声明を発表するとした。

    『ブルームバーグ』(5月12日付)は、「米中貿易協議、『著しい進展』と両国代表が自賛-具体性は欠く」と題する記事を掲載した。

    米国と中国は貿易戦争の緊張緩和を目指してスイスで開かれた2日間の協議を終え、「著しい進展」があったと発表した。中国の何立峰副首相は今回の協議を、両国の相違解消に向けた「重要な第一歩」と位置付けた。


    (1)「両国とも具体的な点をまだ明らかにしていないが、何立峰副首相は今後の協議に向けた枠組みを設けることで両国が一致したと述べた。ベッセント米財務長官は詳細をスイス時間12日に明らかにすると述べた一方、何立峰副首相は共同声明の発表を約束した。中国商務省の李成鋼次官はジュネーブで記者団に「中国には『料理がおいしければ出される時間は問題ではない』という表現がある」と語った。「発表のタイミングがいつであれ、世界にとって朗報になるだろう」と述べた。

    共同正式発表は、スイス時間12日にされる。日本時間では13日になる。中国代表団は「世界にとって朗報」と喜んでいる。中国は、危機を免れたという安堵感の表明であろう。

    (2)「何立峰副首相は、米国側のプロ意識を称賛し、米通商代表部(USTR)のグリア代表は米中の貿易衝突は誇張されているかもしれないと述べた。「われわれがいかに早く合意に達せたかを理解することが重要だ。見解の相違は考えられていたほど大きくなかったのかもしれない」とグリア氏。「とはいえ、この2日間に向けて入念な準備作業が行われた」と続けた」


    何立峰副首相は、米国側のプロ意識を称賛している。米国も相当の譲歩をしたのだろう。ただ、グリア氏は「合意に達するのがどれだけ早かったかを理解することが重要で、これはおそらく両国の相違が考えられていたほど大きくなかったことを反映している」と述べた。同氏は、米国が国家非常事態を宣言したことに影響を強調した。「中国のパートナーと結んだ合意は、この国家非常事態の解決に向けた取り組みに役立つと確信している」と述べた。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月12日付)が報じた。中国が、米国の「国家非常事態宣言」を重く捉えたという意味だ。

    (3)「週明けのアジア市場では、ドルはユーロ、円、スイス・フランなど主要通貨に対して上昇。一方、中国への市場のセンチメントを反映するとされるオーストラリア・ドルとオフショア人民元は、いずれも小幅に上昇した。ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのグローバル市場戦略責任者ウィン・シン氏は、「わずか2日間の協議で実質的な合意が得られる可能性については依然として懐疑的だが、両国が緊張緩和を目指しているのは明らかだ」とリポートで指摘した」

    米中合意発表を受けて、ドルは主要通貨に対して値上がりした。人民元は、中国と貿易面で繋がりの強い通貨への値上がりが小幅であった。この両通貨の値上がり幅の違いが、米国経済へのメリットが大きいことを示唆している。


    (4)「世界の二大経済大国である米中間では、トランプ大統領が中国に対する関税を145%まで段階的に引き上げたことで緊張が高まっていた。これらの関税措置は中国による違法薬物フェンタニル取引への関与や、大規模な対米貿易黒字、そして中国側の報復措置に対応するものとされている。これに対し中国も米国からの輸入品に対する関税を125%に引き上げて報復していた。

    違法薬物フェンタニル取引は、中国が積極的に取り締まることで合意した模様だ。

    (5)「関税の応酬で両国は互いに譲歩せず、打開策の見えない膠着状態に陥っていた。最終的に両国は緊張と関税を緩和する必要性を認め、公式な協議を行うことになった。米小売企業の幹部らはトランプ政権高官と会談し、関税が高止まりすればコロナ禍当時に匹敵する品不足やサプライチェーンの混乱を招くと訴えたことが、会談の緊急性を高めたとみられる。中国の習近平国家主席はこの協議を前に、自国経済の強化を図ろうとしたが、貿易データには弱含みの兆候も見られた」

    中国経済は、すでに相当の「傷み」を受けている。数年前までは、誰でも中国の広範な公式データを詳しく調べることができたが、今やそのデータが消え始めているのだ。土地(使用権)販売指標、外国投資データ、失業統計などがここ数年で公表されなくなった。火葬件数や企業信頼感指数、さらには公式の醤油生産報告の発表さえ打ち切られた。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(5月12日付)が報じた。中国経済は、すでに「ガタガタ状況」に陥っている。醤油生産統計の発表打ち切りは、不況で醤油まで消費が落込んでいるという意味だ。深刻な事態である。もはや、米国の145%関税に耐えられる力がなかったのは当然であろう。




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