勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    あじさいのたまご
       

    中国社会は長く「家族・血縁・地縁」を中心に回ってきた。 儒教文化圏では「個」より「前後と相互の関係性」が重視される。 しかし、現代の中国の若者はむしろ「孤独を楽しむ」方向に変化している。一人火鍋、一人カラオケ、一人旅行 など「孤独経済」という言葉が数年前から流行している。孤独を楽しむ層が、確実に増えているのだ。一方では、付き添い経済の利用者が増えている。 これは、「孤独を楽しむ」結果、「知らない人と関係を築くのが面倒」 、「断られるリスクを避けたい」 という心理が強くなり、付き添いサービスを求めることになっている。人間は、一人では生きられないということになろう。

     

    『ロイター』(6月7日付)は、「中国で広がる『付き添い経済』、登山から外食まで有料で相手サービス」と題する記事を掲載した。

     

    中国で最も有名な山の一つとされる泰山の石段では、登山客が「登山パートナー(陪爬)」を予約して数百元を支払えば、一緒に歩いてもらったり、荷物を持ってもらったり、写真を撮ってもらったりすることができる。

     

    (1)「人気が高まっているこのサービスは、中国で台頭しつつある幅広い「陪伴(付き添い)経済」の一部だ。ほかにもランニングや観光、さらには伝統的に友人と囲む食事である火鍋などを外食時に同席する有料パートナーなどが挙げられる。サービス提供者の多くは学生や若いギグワーカー(単発の仕事を請け負う労働者)で、ソーシャルメディア上で「情緒価値(エモーショナル・バリュー)」や会話、実用的なだポートを約束して宣伝している。かつての友人同士の経験や厚意が、今や予約可能で有料のサービスへと姿を変えている形だ」

     

    中国の若者は、人間関係をドライなものにしたいとして捉えている。中国は、宗族社会で他者への介入が度を過ぎている。特に、結婚問題では善意も手伝い「鬱陶しい」ほどの干渉がある。若者は、そういう「ベタベタ」した人間関係から離れたいのだ。そうなると、後腐れのない「金銭でサービスを買う」という選択になる。金銭関係抜きの友情関係は不要のようである。

     

    (2)「陪伴経済の規模に関する公的なデータはない。ただ、国営メディアが引用した推計によると、2025年には約500億元(74億ドル)に達したとみられている。背景には、中国の都市部における生活スタイルとサービス経済の広範な変化がある。研究者や国営メディアは、若者が家族ネットワークから離れて暮らし、労働時間が長くなり、昔ながらの社会的な絆を維持することが困難になる中で、「情緒的消費」への需要が高まっていると説明する」

     

    陪伴経済の規模は、2025年で約500億元(74億ドル=1兆1800億円)という推計もある。数年前、帰省の際に「恋人役」サービスを提供したニュースがあった。女性が、帰省に当たり両親の結婚話を撃退すべく、恋人役を雇ったという話だ。

     

    (3)「中国で長期化する若者の失業問題は、若者の間でギグワークや柔軟な働き方への依存が高まっていることと重なり、またそのような働き方が増える一因にもなっている。安定した仕事がない中で、大学卒業生や求職者はデリバリー、配車、その他のオンラインプラットフォームを通じた仕事に目を向けており、公的データによると中国には2億人を超える規模のいわゆるフレキシブルワーカーが存在する」

     

    中国には、2億人を超える規模のいわゆる「フレキシブルワーカー」(日雇い)がいる。重労働よりも、陪伴経済でサービス提供する方がメリットはあろう。

     

    (4)「調査会社3ドリップス・サイコロジーのマネジングディレクターを務める心理療法士のサミ・ウォン氏は、有料パートナーの魅力について、多大な労力を要しリスクが高いと感じられがちな社会環境においてある種の「確実性とコントロール」を得られる点にあると分析する。人と会うには感情的な労力と投資が必要で「その結果は非常に不確実」なため、それが不安を生む、とウォン氏は指摘。顧客が拒絶される痛みを避けられる有料の付き添いサービスは「お金を払えばいつでも『イエス』が得られる」と強調した」

     

    興味深いのは、付き添いサービスの利用者の多くが 「人間関係に縛られたくない」という理由で有料サービスを選んでいる。「お金を払えばいつでも『イエス』が得られる」 という「コントロール可能な関係」を求めている。つまり、人間関係で気を遣いたくないという若い人たちが増えている。

     

    中国は、無償の助けが 「恩を受けた」 とみなされ、将来の返報義務が発生する。だから若者は避ける傾向がある。その点、金銭介在によるサービス提供を受けるのは、むしろ関係を軽くするための手段になりやすい。極論すれば、断りやすい、期待されない、面倒がない、トラブルが少ないということなのだろう。つまり、 金銭は「人間関係の重い関係性を薄める」道具 になっている。日本の江戸時代にみられた「長屋精神」(相互扶助)とは、別世界の話だ。

     

    中国は、宗族社会の名残をとどめている。苗字が、宗族を示している。それは、長老を頂点とした秩序が形成される年功序列社会である。一方では、年間1200万人もの大卒が生まれている。彼らには、「近代意識」による「個」が生まれ始めている。宗族社会とは相容れないものだ。こうしたことから、これまでの宗族から離れようとする葛藤が始まっている。孤独を生きがいとする意識を高めているのだ。

     

    一方では、「人恋しさ」もある。その満たされない部分が、陪伴経済でサービスによって補われている。この延長には、非婚化がある。中国にとっては極めて重大な問題になる。出生率低下による人口減だ。中国共産党には、これを解く用意はない。いや、忠誠心を要求していることからも分かるように、宗族主義に立ち戻っている。中国共産党は、現代の若者の価値観とは乖離していく運命だ。その先に何があるのか。おぼろげながらも「答え」は見えている。

     

     

     

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    中国で、配車サービス、フードデリバリー、宅配便は、いずれも参入障壁が低いことから大量の失業者の受け皿となってきた。この「最後の砦」も、今や過剰参入によって供給過多状態に陥っている。中国の失業状況が、いかに深刻であるかを物語っている。

     

    昨年、公表された調査では配車サービス運転手の77%が、失業後に同業界へ転職していた。フードデリバリー業界には、多くの農村出身労働者が流入している。国際労働機関(ILO)の調査によると、中国の主要デリバリープラットフォームの配達員の7割以上が農村部出身者だった。これらの人達に、安住の地はなさそうだ。

     

    『レコードチャイナ』(6月7日付)は、「中国、中年失業者の受け皿に限界=配車ドライバーも配達員も人余りシンガポールメディア」と題する記事を掲載した。

     

    シンガポールメディア『聯合早報』(6月3日付)は、中国で配車サービスのドライバーやデリバリーなどの配達員が飽和状態となっており、中年失業者の受け皿に限界が見えていると報じた。

     

    (1)「中国では「35歳で失業したら仕事は見つからない」とも言われる。記事によると、配車サービスのドライバー、フードデリバリー配達員、宅配便配達員は、こうした中年失業者の受け皿になってきた。しかし、こうした業界に職を求める労働者が次々と流入したことで競争が激化し、受注件数や収入が減少する傾向があるようだ」

     

    配車サービスのドライバー、フードデリバリー配達員、宅配便配達員は、中年失業者の受け皿になってきた。その最後の砦が、「過剰供給」状態に陥っている。内需停滞の深刻さを表わしている。

     

    (2)「広東省深セン市の交通運輸局は5月25日、市内の配車サービス市場はすでに飽和状態にあるとして、新たに参入を検討している人々に対し、市場調査を徹底した上で収益性を客観的に評価し、理性的かつ慎重に投資および就業の判断をするよう警告を発した。同時に、運営会社の経営悪化による損失や、高収入をうたう広告と実際の収入との乖離(かいり)による契約トラブルなどのリスクも指摘した」

     

    広東省深セン市は、配車サービス市場がすでに飽和状態であると警告した。参入者が増えている一方で需要が伸びないからだ。

     

    (3)「配車サービス市場の飽和は深セン市に限ったことではない。25年末時点で、中国では配車サービスの資格証を取得した運転手が約748万3000人に達し、390社以上の配車サービスプラットフォームが営業許可を取得、登録車両数は320万台を超えている。24年以降、重慶市、珠海市、大理市、合肥市など各地で同様の警告が出されており、重慶市交通運輸委員会は25年第1四半期のリスク報告で、「配車サービス車両の供給力は実際の需要を大きく上回っている」と指摘した」

     

    全国の配車サービスの資格証を取得した運転手は、25年末時点で約748万3000人にも達している。登録車両数は、320万台を超えている。重慶市は、供給超過と指摘しているほどだ。

     

    (4)「珠海市の報告では、専業ドライバーが1日10時間稼働しても平均の売り上げは300元(約7000円)程度にとどまり、必要経費を差し引くと実際の月収は約4000元(約9万5000円)で、地元の民間企業の従業員の平均月給を大きく下回るとされる」

     

    珠海市の報告では、専業ドライバーが1日10時間稼働しても実際の月収は約4000元(約9万5000円)。地元の民間企業の従業員の平均月給を大きく下回る。

     

    (5)「中国では、フードデリバリー配達員も急増した。25年には京東(JD.com)、淘宝閃購、美団が巨額の補助金を投じて激しいシェア争いを繰り広げ、「月収1万元(約23万円)超」「未経験歓迎」などの宣伝で大量の配達員を募集。その結果、業界には800万人以上の新規配達員が流入し、登録配達員数は一時2000万人近くに達した。しかし、補助金競争が落ち着くと、人員過剰が表面化。1日当たりの受注件数が約40件から30件程度まで落ち込んだとの声も上がっている」

     

    フードデリバリー配達員も急増した。登録配達員数は一時、2000万人近くに達した。1日当たりの受注件数が、約40件から30件程度まで落ち込んだ。25%減である。

     

    (6)「スイス金融大手UBSの試算によると、今年2月の時点で主要3社の1日当たりの注文数は約1億1000万件だった。配達員1人が1日30~40件を配達すると仮定すると、必要な配達員の数は約400万人となり、約1600万人は余剰人員となる。かつて柔軟な働き方の受け皿だったフードデリバリー業界だが、情報不足のまま農民工や失業者、事業に失敗した人が次々と参入した結果、低収入と過当競争が進行。こうした状況は宅配便業界でも見られ、取扱量が大きく増える一方で単価は下落し、労働者の負担増と収入低下が続いているという」

     

    スイス金融大手UBSの試算によると、必要なデリバリー配達員の数は約400万人となり、約1600万人は余剰人員となる。実に8割が過剰供給である。

     

    (7)「記事は、「こうした業界がほぼ同時に過当競争に陥ったのは偶然ではない」と指摘する。配車サービス、フードデリバリー、宅配便はいずれも参入障壁が低く、働く時間の自由度が高い上、現金収入を得やすいことから、多くの失業者の受け皿となってきた。昨年公表された調査では、配車サービス運転手の77%が失業後に同業界へ転職していた。また、フードデリバリー業界には多くの農村出身労働者が流入しており、国際労働機関(ILO)の調査によると、中国の主要デリバリープラットフォームの配達員の7割以上が農村部出身者だった。記事は、中国の経済成長の鈍化に伴い、雇用環境が厳しさを増していることが背景にあると指摘している」

     

    配車サービス運転手の77%が失業後に同業界へ転職した。フードデリバリー業界は、多くの農村出身労働者が流入している。農村戸籍者は、都市での公的医療サービスを受けられることに決まったので、都市で失業した農村戸籍者の医療負担が増えることになる。ここでも、新たな問題が起りそうだ。


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    中国は、合計特殊出生率が1.0(25年)と韓国に次いでワースト世界2位である。合計特殊出生率がここまで低下すると、将来の年金破綻問題が浮上する。35年には、早くも年金財政の赤字化が始まる。鄧小平が懸念した「未富先老」(豊かになる前に歳を取る)事態が、いよいよ現実化してきた。世界覇権などの大言壮語が虚しく響いてくるのだ。

     

    『レコードチャイナ』(6月6日付)は、「『富む前に老いた』中国の年金収支を計算してみる仏メディア」と題する記事を掲載した。

     

    仏国際放送局『RFI』(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)の中国語版サイトはこのほど、中国が経済発展を上回る速さで高齢化が進む「未富先老」に直面し、年金制度の深刻な格差や財政赤字の懸念があると報じた。

     

    (1)「記事は、中国の現在の定年退職人口は約3億人で、35年には米国の全人口を超える4億人を突破する見通しであること、ローディアム・グループが中国は今後15年以内に人口が約6000万人減少すると予測していることを紹介。中国では高齢化速度が経済発展を上回る「未富先老(豊かな社会になる前に高齢化する)」が起きていると伝えた」

     

    中国は、「未富先老」と並んで、「中所得国の罠」に嵌まり込む。所得が先進国へ伸びる前に、経済停滞へ落込むことだ。EVや人型ロボットと次から次へと新産業をつくり出しているが、技術的に未熟であることと過剰生産によって付加価値は伸びないというジレンマに立たされている。

     

    (2)「中国では都市部正規雇用者向けと、農村・非正規雇用者向けの二つの年金制度が並行して運用されていることに触れ、24年の平均月額年金は、都市部が約3825元(約8万9000円)であるのに対し、農村部等は約246元(約5700円)と15倍の格差があると指摘。中国の社会支出が国内総生産(GDP)に占める割合は13%で、欧州諸国平均の30%と比較して低いことを紹介した」

     

    24年の平均月額年金は、都市部が約8万9000円であるのに対し、農村部は約5700円と15倍もの格差である。中国は、農村部の犠牲の上に成り立っている国である。社会主義国が、こういう格差を放置したままである。

     

    (3)「その上で、中国のシンクタンク「全球化智庫」(CCG)の王子辰(ワン・ズーチェン)研究員が「国は一般市民への直接的な給付には一貫して極めて抑制的だ」との見方を示し、メルカトル中国問題研究所(MERICS)のアレクサンダー・ブラウン研究員も「中国の経済政策は家庭への恩恵よりも産業支援に重きを置いてきた」と論じたことを伝えている。記事は、中国社会科学院が「抜本的な改革がなければ年金制度は35年前後に赤字に陥る」と警告しており、政府が法定定年年齢について男性は60歳から63歳、女性労働者は50歳から55歳へと引き上げる措置を講じたことに触れた」

     

    社会保障よりも産業支援を重視してきたのは、過去の経済成長が背伸びしてきた結果である。大国論に取り憑かれて、着実な「国づくり」を怠ってきた結果だ。つまり、社会保障を充実させるよりも軍備を拡大させる政策に傾斜し過ぎた咎めが出ている。もはや、路線変更は不可能である。「未富先老」は、こういう背景の結果、陥った罠である。

     

    (4)「将来の年金制度を支える上で、不可欠な次世代の人口減少に歯止めがかからないことにも言及。今年13月の婚姻届提出数は10年前の半分程度となる170万組に満たず、25歳以下の失業率が16%を超えるなど、経済の不透明さによる出産計画の先延ばしが大きな要因になっていると分析した。記事はこのほか、中国本土に加えて香港でも高齢化をめぐる深刻な問題が起きていることに言及。65歳以上の人口の45%が貧困線以下の生活を送り、高齢者の自殺者数が年間平均470人に達していること、生活費の安い広東省へと「脱出」する高齢者が10年前から40%増加していることなどを伝えた」

     

    潜在成長率は、急速に低下している。25年の5%から毎年1%ポイントづつ低下し、29年には0%へ低下するという厳しい推計結果も出ている。「大国・中国」は、激浪に見舞われるのだ。

     

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    中国政府は5月、住民登録の「戸口(戸籍)」制度について新たな緩和措置を発表した。地方から都市部に移住した労働者は、子どもを新居近くの学校に入学させたり、政府資金で賄われている医療サービスを利用したりできるようになった。政府が、農民戸籍制度の自由化に向けて講じた措置とし、大きな部類に入る。これまでは、地方政府の裁量で農民戸籍者に都市戸籍を与えるか任せてきたが、中央政府が全国一律に義務教育と医療サービスの「解放」を決めた形である。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月5日付)は、「不安募らせる中国政府、労働者の自由拡大を選択」と題する記事を掲載した。

     

    中国政府は何十年にもわたり、全国規模の単一労働市場の発展を阻んできた。戸籍制度は1950年代終盤に登場し、農村部の労働者を出身地にとどめ置く役割を果たしてきた。その狙いは、貧しい農村部から都市部へ人口が殺到するのを防ぐことにあった。

     

    (1)「それはうまくいかなかった。経済発展を促す要因であり、その成果でもある都市化には、流れる水と同様に、あらがいがたい自然の力が働いている。都市部に住む中国人の比率は、改革開放時代が幕を開けた1980年には19%だったが、2024年には66%前後にまで上昇した。先進国の都市人口比率がおよそ80%か、それを上回っていることを考えると、この傾向はさらに続くとみられる」

     

    中国の都市化比率は66%程度である。先進国では、80%程度まで上がっているので中国の都市化は未だ進む可能性がある。

     

    (2)「戸籍登録制度は主に、都市部に流入した貧しい労働者層が経済成長の恩恵を受けにくくなるという影響をもたらした。この制度により、2億人から3億5700万人に上ると推計される底辺層が生まれている。これらの労働者は、居住する都市に正式に根を下ろす上で、障害に直面している。これによる経済的な影響を分析するのは困難だ。多くの西側諸国のエコノミストは、国内消費を喚起するには戸籍制度の改革が必要だと考えており、消費拡大こそが、行き詰まっている輸出依存型成長モデルから中国を転換させるための必要条件だとみている」

     

    中国の都市戸籍と農民戸籍は、一種の差別である。中国の「南北問題」である。この「宿痾」をこれまで解決できずにきたことは、中国のイノベーション能力の低さを示している。こうした国内問題の解決を放置して、南シナ海の占拠など「帝国主義的行動」に走ってしまった。とうてい,社会主義国家とは言いがたい行動である。農民戸籍を踏台として利用してきたのだ。

     

    (3)「この主張は、「都市戸籍を持たない国内移住者は社会的セーフティーネットを利用できないため、いざという時に備えて過剰な貯蓄をする」という理論に沿ったものだ。国際通貨基金(IMF)は最近の研究で、戸籍制度改革によって過度な家計貯蓄の必要性が薄れれば、国内総生産(GDP)に占める消費の割合は5年間で0.6ポイント押し上げられると主張している。これはわずかな差に聞こえるが、この種のものとしては決して小さくない数値だ」

     

    IMFは、農民戸籍者(約2億3000万人)が、都市で働く場合、子どもに義務教育を受ける権利が与えられず、公的医療サービスも受けられずにきたことが、貯蓄を増やす結果になったと分析している。これは、正しい分析である。農民戸籍という差別を批判している。(つづく)

     

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    (4)「全体として、IMFの着眼点は少しズレているように思える。中国経済を巡る議論において奇妙な点の一つは、生産的な投資の余地が極めて大きい発展途上段階の経済において、貯蓄は悪いものだという前提が根強く存在することだ。実際のところ、中国の成長の制約要因は国内貯蓄が慢性的に誤った投資に回っていることだ。貯蓄は国内サービス分野などへの投資ではなく、輸出向け製造業や生産性の低い国有企業に振り向けられている」

     

    WSJは、IMFの主張に反論している。貯蓄が悪いのでなく投資先を間違えていたという指摘である。ただ、中国経済全体の構造分析から言えば、消費を伸すことが経済循環を円滑にするのであって、農民戸籍がそれを疎外したことは間違いない。WSJの分析は、構造論でなく現象論であるゆえにIMFの分析が正しい。

     

    (5)「従って、戸籍制度改革は中国の労働者にとって有益かもしれないが、貯蓄に関する根本的な問題を解決することにはならないだろう。経済成長の鈍化や、先行きに対する悲観の高まりの中で、一般家庭には家計の守りを固める理由が他にも多くあることから、この改革では貯蓄率を全く引き下げられない可能性すらある」

     

    中国経済にとって必要なことは、貯蓄でなく消費促進である。消費を増やして、内需を増やすことが中国経済に不可欠である。それには、農民戸籍は障害物である。

     

    (6)「今回の戸籍制度改革は経済対策というよりも、社会的あるいは政治的な改革と捉える方が適切だ。年間経済成長率が長期にわたり5%を下回るとの見通しを受けて、中国政府は低成長経済がもたらす政治的影響への不安を募らせている。戸籍制度改革は、若者の失業率が極めて不都合な数値となったことを受けて2023年にデータの公表を停止した中国政府の決定と通じるところがある。国内の若者の境遇を改善するための成長促進策を見いだせない中、政府は弥縫(びほう)策に出たのだ」

     

    今回の戸籍制度改革は、経済対策と同時に社会的あるいは政治的な改革である。中国政府が今、最も恐れているのは、農村部の失業者と都市部の失業者が、結束して政治行動を起こすことである。政府は、このリスクへ対応したのであろう。

     

    (7)「相対的に貧しい世帯にとっての「家計の安定」や「基本的な社会的公正さ」を高めるための、遅ればせながらの試みについても同じことが言える。教育水準が高いにもかかわらず雇用面で恵まれていない多くの若者と、不満を抱えた大量の都市労働者という二つの集団は、権威主義的な政権にとって、他に匹敵するものがないほどの危険な要素になっている。こうした状況が今回の新たな戸籍制度改革につながった」

     

    都市部の若者失業者が、同じく都市部の不満を持った都市部労働者(この中に農村戸籍者包含されると)が、意気投合すると厄介な問題になる。その意味で、都市部で働く農民戸籍者の動向が関心を呼ぶのだ。

     

    (8)「一部の都市がこうした負担に耐えられない可能性があるため、自治体の不満は以前より緊急性を帯びてきている。中国では、今も続く不動産不況が、多くの地方政府の水面下での債務危機を引き起こしている。これら地方政府はかつて、不動産絡みの収入に依存していた。それゆえ、今回の戸籍制度改革は、中国政府が直面する経済成長面の課題を象徴する動きだと言える。中国の景気減速は、政治的・社会的に深刻な影響をもたらす恐れがある。中国政府が対応に苦慮する可能性があり、ひどい状況になりかねない。とはいえ、だからこそ今回の改革は歓迎すべきものだとも言える。勤勉な出稼ぎ労働者の自由を拡大する、希少な機会の一つであるからだ」

     

    不動産不況は、とりわけ農村部で深刻である。過剰な住宅在庫が、地価を引下げており地方政府の財政を痛撃している。それだけに、都市で働く農民戸籍者がより高いサービスを受けられることは、地方政府にとっても歓迎すべきことである。

     

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