勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    中国社会は、重圧社会である。国民の2人に1台という監視カメラが設置される異常な状態にある。息苦しさは格別であろう。これに加えて、長期の不況である。解雇、賃下げが日常茶飯事に行われている社会は地獄そのものだ。これに反発して無差別殺傷事件が続発している。

     

    当局は、事件の背後に「四無五失」層の存在を指摘している。「四無」とは、配偶者無し子ども無し家が無い無職、などを指す。「五失」とは、投資に失敗人生で失意に陥った人間関係で不和を抱える精神状態が正常 でない、を意味する。これら対象者を、ビックデータで把握するというのだ。これで、中国はますます国内で「みえない壁」をつくる。原因は、国民生活の苦境を顧みない政府の政策的貧困にある。

     

    『レコードチャイナ』(11月29日付)は、「中国で多発する無差別殺傷事件、当局はビッグデータで対応ーシンガポールーメディア」と題する記事を掲載した。

     

    シンガポール華字メディア『聯合早報』(11月24日付)は、10日も経たない内に広東省珠海市、江蘇省宜興市、湖南省常徳市の3件の悪質な無差別殺傷事件が起きている状況について、中国共産党中央政法委員会(法政委員会)などの司法当局がビッグデータを活用した予測により防犯能力を高めようとしていることを伝えた。

     

    (1)「記事は初めに「中国共産党中央政法委員会はSNSの情報発信プラットフォーム「中央政法政委長安剣」を通じて、24日に同委員会の誾柏(イン・ボー)秘書長が浙江省杭州市などの地方当局に、ビッグデータの分析を通じて事件発生のリスクを予測し、正確かつ精密な防犯能力の向上を調査研究するよう要求したと発表した。また、中国公安部長の王小洪(ワン・シアオホン)氏も先週、遼寧省で2日にわたって、ビッグデータを活用した新しい警務運営方式を、公安当局の新戦力として主体的かつ効率的に防犯能力と処置能力を高めるよう要求したという」と伝えた」

     

    ビックデータによって、事前に「犯罪予備軍」を把握するという。戦時中の日本は、自由思想の持ち主を「予防拘束」したり尾行を付けたりした。この「中国版」が始まる。対象者は、膨大な数に上るであろう。そんな予算余力が、地方政府にあるだろうか。

     

    (2)「国営メディアの新華社の22日付け報道を引用し、中央政法委員会の陳文清書記が招集した会議において、責任感を持って重要地点や大きな活動と社会の管理を強化し、凶悪事件の防止に努めるよう要求したことや、中国司法部でも党内部で会議を拡大招集し、社会の安全を維持する政治的責任を持って、社会問題の調査チーム設置や人員の配置により、家庭環境や人間関係、不動産などの財産状況などで見られる矛盾や紛糾を細部に至るまで調査し、情報を提供するよう指導すると述べたことを伝えた

     

    中国には、プライバシー保護などという「人権思想」の一片もないことを示している。

     

    (3)「記事は、この動静について北京師範大学政府管理研究院の唐任伍(タン・レンウー)院長は「公安当局などが地方にビッグデータ解析による調査研究を要求した目的は、最近連続して発生した悪質な無差別殺傷事件の根本原因をはっきりさせるためだ。公安当局などは長年にわたり、多くの科学技術を利用し社会的なリスクを監視してきたが、最近起きた3件の事件が示すように、現状は十分な防犯能力を満たしておらず、特にビッグデータの活用が不十分で、地方当局にもっとビッグデータの活用を重視してほしいと考えているようだ。同時に民衆の不満や脅迫行為をもっと真剣に向き合ってほしいとの思惑もあるようだ」との回答があったと伝えた

     

    問題解決のポイントは下線部にある。国民の苦しみに対して真面目に対応せず、逆に権力で押し潰してきた。「共産主義の原点」とは、全く逆方向である。共産主義は、政治権力掌握の手段にすぎなかった。大いなる欺瞞であろう。

     

    (4)「記事は、中国最高法院が23日専門者会議を開き、重大かつ悪質な犯罪の厳罰化と厳罰一辺倒にならないバランスの取れた刑事政策を堅持すると発表したことに触れ、「最高法院の会議は、民間の矛盾の激化により引き起こされた犯罪や、社会生活や生産運営上で起きた軽犯罪の処罰については、被害者の同意を得れば軽めの処分とするなど、最大限の分類により、犯罪の解決と犯罪者の更生を促すことを示している。各地の経済的弱者や、社会との連携が不十分な『四無五失』の人々に対して徹底的に調査を行い、矛盾のリスクを解きほぐし、社会の安定を維持する特別プロジェクトを展開し、地方安定の政治責任の所在を強調するようだ」と伝えた」

     

    「四無五失」層は、中国共産党にとって「政策的失敗」を意味している。国民生活改善へ真摯に向かい合ってこなかった結果である。習近平氏は、この事態をどこまで「自らの政策失敗」という視点で捉え直すか疑問だ。取締り強化で終わるであろう。

     

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    韓国の趙兌烈(チョ・テヨル)外交部長官が27日、佐渡金山追悼式を巡る問題に関連して対日強硬発言をした。日本の国際的評価を落とさせると息巻いているのだ。

     

    韓国メディアは、日本政府代表として出席した生稲晃子外務政務官の靖国神社への参拝歴が日本で報道されていた点や、追悼の辞で「強制動員」が触れられなかった点を欠席の理由に挙げた。韓国政府は、「日本の誠意がないと判断した」と報じている。韓国外務省は25日、共同通信が生稲氏の参拝の事実が誤りだったと配信した直後にも、「不参加決定は諸般の事情を考慮したものだ」と表明した。また、「追悼の辞の内容などが、登録時の合意水準に及ばないことが重要な考慮事項だった」とも言明した。

     

    『中央日報』(11月28日付)は、「韓国外交部長官『佐渡金山問題、責任取る 日本の国際評判に負担与えなければ』」と題する記事を掲載した。

     

    韓国外交部の趙兌烈(チョ・テヨル)長官が、最近の佐渡金山追悼式と関連し、合意を守らなかった日本に向けて「国際社会での評判に対する負担を背負わなければならないだろう」と強調した。

     

    (1)「趙長官は29日の国会外交統一委員会全体会議の懸案報告で、「政府は世界文化遺産委員国としてユネスコの枠組みの中で日本の世界文化遺産委員会決定履行の有無を持続的に点検し誠実な履行を促す予定」と明らかにした。続けて「(前日に)外交部公共文化外交局審議官がユネスコ大使とともにユネスコ関係者と会い、この問題に関する経過を説明して韓国の遺憾と懸念を表明した」と伝えた」

     

    韓国は、日本の式典内容が追悼よりも世界遺産登録を記念する性質であることから参加を取り消したもの。韓国政府は、25日に独自に追悼式典を開いた。韓国の本音は、日本の「謝罪」を期待していたのであろう。中国『環球時報』(11月26日付)は、次のように論じている。

     

    「尹政権による親日外交、価値観外交の方向性が続く限り、韓国は『歴史問題は実際の関係に影響を与えない』というスタンスで対日関係を処理することになると指摘。『しかし、この外交スタンスは歴史問題における日本の姿勢をより強固にさせるだけの可能性がある。佐渡金山の一件のような事態が今後も続いて起こるかもしれない』との見方を示した」。要するに、日韓にすれ違いが起こっているという指摘だ。歴史問題になると、双方で言い分がある。外交問題にすることは得策でないのだ。


    (2)「趙長官は日本が24日に「佐渡島の金山追悼式」に第2次世界大戦のA級戦犯が合祀された靖国神社に参拝したことがあると報道された生稲晃子外務政務官を政府代表として派遣したことが不参加の決定的原因ではなかったと改めて強調した。趙長官は「生稲政務官の過去の靖国神社参拝に関する共同通信の報道は追悼式不参加決定時の考慮要因のひとつでもあったが,この報道がなかったとしても韓国政府は追悼式不参加を決めただろう」と話した」

     

    共同通信報道は、誤報であることを共同自身が認め撤回した。かつては、朝日新聞が慰安婦報道で誤報し、長い日韓不和の原因を作っている。韓国にとっては、「誤報」であろうと自国に有利な歴史ニュースを待っているのだ。報道機関の責任は極めて重い。

     

    (3)「この日、議員らは与野党を問わず韓国政府の外交力不足と対日政策の方向性に対し強く叱咤した。民主党の魏聖洛(ウィ・ソンナク)議員は、「この問題を外交部や長官の問題だけと考えない。政府全体の対日政策の問題」と話した。魏議員は「(過去史問題と関連し)日本の反応が微温的や面皮性なのにかかわらず、解釈を美化して韓国中心に解釈し国民に(説明)してきたのが事実。現在の結果はこれまで推進してきた対日政策の自然な帰結」と指摘した。同党の権七勝(クォン・チルスン)議員は「韓日関係において韓国が先にコップの半分を満たしたが日本がその水をすっかり飲んでしまった格好だということに同意するか」と質問した。これに対し趙長官は「今回の(追悼式)結果と関連してそのような認識が強まるかもしれないということに同意する」と答えた」

     

    野党は、「口を開けて待っていた」最適ニュースを利用している。

     

    (4)「与党からも政府の対応に対する批判が出てきた。「国民の力」の尹相炫(ユン・サンヒョン)議員は2015年の軍艦島の世界文化遺産登録時の日本の約束未履行の事例に言及して「日本の善意だけに期待して交渉を終わらせるための交渉をしたため2回もやられた」と指摘した。同党の金基雄(キム・ギウン)議員は今回の問題と関連し「南北関係を見るようだ。合意を誠実に守らなかった側に対する糾弾が中心となるよりも『日本がそうすることがわからなかったのか』という形で状況が流れている」と指摘した。続けて「日本の誤った行動を熱心に知らせ日本に大きな国際的圧力が向くようにするのが賢明な方法」と強調した

     

    与党も、対日批判へ動き出している。日本は、静観するほかない。

     

     

     

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    何か、西部劇を見ているような展開だ。トランプ次期米国大統領が、中国へ10%関税引き上げを予告した途端に、中国は米国人3人を解放した。米国も、中国人3人を開放した。中国はこれまで、バイデン大統領が正規の外交交渉で開放を要求しても応じなかった。それが、トランプ氏の「一喝」で開放したのだ。「トランプに弱い習近平」という構図を、世界中へ知らせることになった。だが、「拍手喝采」しているだけで済まない事態でもある。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月28日付)は、「中国拘束の米国人3人解放、トランプ次期政権を警戒」と題する記事を掲載した。

     

    米ホワイトハウスは27日、中国で長期間不当に拘束されていた米国人3人が解放されたと発表した。3人は帰国し、近く家族の元に戻る。米政府が中国に解放を強く求めていた。来年1月に退任するバイデン大統領にとって外交成果となる。

     

    (1)「米政府は中国側への見返りや、拘束者の身柄交換をしたのかどうかについて明らかにしていないが、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は、米国で禁錮20年の刑を言い渡され服役していた中国の情報機関職員と関係者の計2人が27日時点で釈放されていたと報じた。バイデン氏は、今月16日にアジア太平洋経済協力会議(APEC)が開かれたペルーで中国の習近平国家主席と会談した際にも米国人の解放を要求した。ブリンケン国務長官やサリバン大統領補佐官もそれぞれ中国側への働きかけを続けていた」

     

    中国は、トランプ氏の米国大統領就任前に、米中の懸案事項を解決しておこうとしている。トランプ氏が就任すれば、どんな難題を吹っかけられるか分らないと警戒しているのだ。トランプ氏の「目には目、歯には歯を」という強硬策に怯んでいるようにみえる。

     

    (2)「発表によると、解放されたのはマーク・スウィダンさん、カイ・リーさん、ジョン・リアンさんの3人。米メディアによると、スウィダンさんは麻薬関連の罪で死刑判決を受け、リーさんとリアンさんはそれぞれスパイ罪で服役していた。来年1月に就任するトランプ次期大統領は、世界各地で拘束されている米国人について「私が大統領になる前に解放しなければ、大きな代償を払うことになる」と警告していた。既に、中国への追加関税を課すことも発表し、対中圧力を強める構えで、中国側は次期政権の出方をうかがっているとみられる」

     

    中国は、相手が強硬策を取らない限り対応しないことを示している。これは、極めて教訓的だ。中国の軍事侵攻を抑止するには、中国を上回る軍事力を持つしか解決策のないことを示している。中国へ軍事的に対抗する術は、「合従連衡」でしかないのだ。同盟を組むことで、中国の侵攻を防げる。

     

    「強面」のトランプ氏は、こういう力の信奉者である。それだけに、「独断政治」の危険性が指摘されている。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月28日付)は、「トランプ関税の意味『経済政策は自分で決める』」と題する記事を掲載した。

     

    トランプ次期米大統領が22日にヘッジファンドマネジャーのスコット・ベッセント氏を財務長官に指名すると、ウォール街や米経済界の多くは安堵した。

     

    (3)「ベッセント氏は財政タカ派で、ドルの基軸通貨としての地位を擁護し、最近まで関税に慎重だった。同氏の起用は、トランプ氏が市場寄りの政策を優先し、経済成長を後押ししてインフレと金利を抑制する意思があることを示唆した。だがその安堵(あんど)は72時間しか続かなかった。トランプ氏は25日、大統領就任初日にカナダとメキシコに25%の関税を、中国に10%の追加関税を課して、不法移民と合成オピオイド「フェンタニル」の流入が止まるまで続けると発表。これで同氏が選挙戦で示した通り、破壊的ポピュリスト(大衆迎合主義者)として統治する方針であることがはっきりした」

     

    トランプ氏は、カナダとメキシコに25%の関税を、中国に10%の追加関税を課すと発表した。これで、トランプ氏が自分で経済政策を決めるスタイルであることを明白にした。

     

    (4)「ここから得られる教訓は、トランプ氏の経済チームの最重要メンバーは同氏自身、ということだ。「トランプ氏の1期目は、多くの大言壮語が最終的に撤回された」。パイパー・サンドラーの政策アナリスト、アンディー・ラペリエル氏は26日の顧客向けメモでこう指摘した。「2期目も大言壮語は多いだろうが、実行に移されることも多くなるだろう。スタッフの大半はたいてい、トランプ氏にこうした政策を思いとどまらせようとはしないからだ」と指摘」

     

    トランプ氏が一人で物事を決めることは、極めてリスキーである。「大衆政治論」の危険性を予告しているのだ。中国が震え上がる前に、世界も同じ時限爆弾を抱えていることに気付くべきだろう。

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    中国の地方財政は、「蟻地獄」に陥っている。一度はまったら、脱出不可能であるからだ。不動産バブルでウナギ登りであった地価が、中国地方政府の土地売却益を膨らませてきた。土地売却益は、そのバブルが弾けて急減し、地方政府を恐慌へ陥れている。新税でも設定しない限り、財政赤字を埋める手段はないのだ。中国政府にその計画もなく、中国経済は方向感覚を失っている。ハッキリ言えば、お手上げだ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(11月28日付)は、「中国の土地売却収入、3年で5割超減 経済対策の足かせ」と題する記事を掲載した。

     

    地方政府の財政難が加速してきた。中国財政省によると110月の土地使用権の売却収入はピーク時の2021年同期と比べ5割超減った。地方の歳入の柱である売却収入の減少は習近平指導部が進める経済対策の足かせになる。

     

    (1)「財政省が発表した1〜10月の土地使用権の売却収入は2兆6971億元(約56兆円)で、前年同期と比べて23%減った。22年以降、3年連続で前年を下回る水準となっている。売却収入が最も多かった21年同期からは55%減った。売却収入は特別会計に相当する「政府性基金」に計上する。地方政府が発行する専項債(インフラ債)と呼ぶインフラ開発に充てる地方債の主要な返済原資にもなる」

     

    今年1〜10月の土地売却益は、最も多かった21年同期から55%も減っている。2021年の土地売却益は、地方政府の歳入全体で約35%も占めていた。それが、55%も減れば、歳入全体では約15%も減る計算になる。大変は「歳入欠陥」だ。行政サービスを大幅に削減するほかない。そのしわ寄せは、特に農村部の年金や医療衛生へ行くと憂慮されている。もはや、無駄なインフラ投資を行う余裕は100%消えた。

     

    (2)「中国の土地は国有制で、地方政府が土地の使用権を不動産開発企業に売る。マンション販売の長期不振で新規開発が冷え込んだ結果、土地使用権の売買も減った。中国国家統計局によると、1〜10月の新築住宅の販売面積は、前年同期と比べて18%減だった」

     

    土地国有制が、不動産バブルの「原点」になった。地方政府は、「打ちでの小槌」で地価を押上げて財源を作ってきた。「土地本位制」(学術用語でない)のなれの果てだ。

     

    (3)「習指導部が、これまで打ち出した経済対策は地方債の活用を柱に据える。地方政府による特別地方債の発行残高の上限を24年から3年間で6兆元引き上げた。これとは別に今後5年間で4兆元分の特別地方債を手当てする。不動産対策として専項債の活用範囲を広げた。不動産開発会社が開発に着手していない土地や、在庫住宅の買い取りにインフラ債の使用を認めた。いずれの対策にも中央の主体的な関与はなく、地方の責任での債務解消を進める」

     

    習近平氏は、自らの責任にならないように、すべて地方政府の責任へ転嫁している。地方政府は、負担増を恐れてインフラ債(専項債)の発行が低調だ。2024年通年の発行枠に占める18月の発行済み比率は66%で、3年ぶりの低水準に落ち込んでいる。中央政府は発行を加速するよう促すが、地方政府は歳入減を踏まえ過度な発行を抑えている。

     

    (4)「地方政府は、借金返済や利払いの原資となる売却収入の低迷で、将来の返済余力を見通せない。返済難に陥るのを危惧するところもあり、米ピーターソン国際経済研究所は「地方から十分な関心を集められず効果を発揮できない可能性がある」と指摘した。中国の中央政府(国務院)は、利払い費が歳出の10%を超えた地方政府に財政再建を指示する仕組みを設けている。地方政府は、この警戒基準を超えないよう自己防衛する姿勢を強めている」

     

    地方政府は、利払い費が歳出の10%を超えると財政再建を指示させる仕組になっている。これでは、インフラ債を円滑に発行するはずがない。中国は、中央政府も地方政府も「火の粉」を被るのを極力避けている。これでは、じり貧経済に陥って当然だろう。

     

    (5)「中央政府による追加の不動産支援策が、地方の税収を減らす可能性も出てきた。中国財政省や住宅都市農村建設省などは12月から、個人が住宅購入時に支払う不動産取得税(契税)の減税措置を拡充する。北京や上海など4大都市で、2軒目購入にかかる税率は最大1%に下げる。別荘などの高級住宅の売買で支払う土地増値税も、2年以上の居住歴を条件に免除する。減税となる不動産取得税と土地増値税は、いずれも地方税にあたる。政府は消費者の負担を軽くして住宅在庫の解消をめざす。だが、地方政府にとっては税収減を招くことになる。地方財政のさらなる逼迫は避けられない」

     

    不動産支援策で、個人が住宅購入時に支払う不動産取得税(契税)の減税措置をしている。これらの措置による「減税分」は、すべて地方政府の税収減になる。中央政府の「懐」は痛まない工夫がされている。なんとも「身勝手」な姿に映るのだ。中国経済の復活にはほど遠いのである。

     

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    中国の貨物船が、バルト海での破壊工作疑惑を巡る捜査対象となっている。すでに、1週間にわたり国際水域で欧州の艦船に包囲されている。貨物船「伊鵬3号」が先週、バルト海の海底で約160キロメートル余りにわたって錨を引きずり、2本の主要な海底通信ケーブルを意図的に切断した疑いがあるとみている。この貨物船は、ロシア産肥料を積載していた。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月28日付)は、「中国船、意図的に錨引きずったか バルト海ケーブル切断」と題する記事を掲載した。 

    伊鵬3号は11月15日にロシアのバルト海沿岸のウスチルガ港を出港した。捜査は現在、船長がロシアの情報機関によって破壊工作を実行するよう仕向けられたかどうかが焦点となっている。欧州の上級捜査官は「船のいかりが落ち、引きずりながら速度が落ちた状態で数時間にわたり航行し、途中でケーブルを切断したことに船長が気付かなかったとは非常に考えにくい」と話した。捜査に詳しい複数の関係者によると、伊鵬3号を所有する中国の寧波伊鵬海運は捜査に協力しており、国際水域での伊鵬3号の航行停止を許可した。

     

    (1)「海底ケーブルの損傷は、11月17~18日にスウェーデンの領海で発生し、同国当局が妨害行為の疑いで捜査を開始した。ロシアは関与を否定している。捜査官は伊鵬3号が11月17日午後9時(現地時間)頃、スウェーデンの領海でいかりを落としたまま航行を続けたことを確認している。捜査に詳しい2人の関係者によると、引きずられたいかりがその直後にスウェーデンとリトアニアを結ぶ最初のケーブルを切断した。その間、船舶の動きを追跡する自動船舶識別装置(AIS)のトランスポンダーが停止し、海上交通用語でいう「ダークインシデント」が発生した。捜査官が確認した衛星データなどによると、その後も船は引きずられたいかりによって速度が大幅に低下したにもかかわらず航行を続けた」 

    イカリを下ろして航行すれば、速度が大幅に低下するのは常識だ。衛星データで確認されている。船長が気づかないはずがない。意図的切断を疑われる理由だ。それにしても、中ロ関係の密接さ示す事件である。

     

    (2)「伊鵬3号は、翌18日午前3時頃、約180キロメートル航行した後、ドイツとフィンランドを結ぶ2本目のケーブルを切断した。その直後、船は蛇行し始め、いかりを上げて航行を続けた。デンマーク海軍の艦船がその後、伊鵬3号を追跡・阻止するために出動し、最終的にバルト海と北海を結ぶカテガット海峡で停泊させた。捜査に詳しい複数の関係者によると、船舶のいかりと船体を調査した結果、いかりを引きずってケーブルを切断したことと一致する損傷が確認された。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に国際海運のリアルタイムデータを提供した分析会社ケプラーの分析によると「穏やかな気象条件と管理可能な波高を考えると、偶発的にいかりを引きずる可能性は極めて低い」という」 

    伊鵬3号のイカリと海底ケーブル切断の傷跡が一致している。証拠は掴まれている。 

    (3)「西側の法執行機関および情報機関の当局者は、中国政府が関与しているとは考えていないが、ロシア情報機関の関与を疑っていると述べた。ロシア大統領府の報道官室はWSJに対し「これらは根拠のない不条理な非難だ」と主張。中国外務省の報道官は27日、記者団に対し「中国は一貫して、国際法にのっとり国際海底ケーブルやその他のインフラの安全を維持するため、全ての国と協力しているということを改めて述べたい」と語った」 

    ロシア情報機関が、伊鵬3号へ指示したと疑われている。伊鵬3号が、あえて海底ケーブル切断を請負った理由は何か。

     

    (4)「ロシアは、ウクライナへの全面侵攻を開始して以来、西側を不安定化させるため、バルト海や北極圏の海底パイプラインや通信ケーブルへの攻撃を含め、北大西洋条約機構(NATO)領内の欧州で「影の戦争」を仕掛けていると西側から非難されている。昨年10月、「ニューニュー・ポーラー・ベア号」という中国籍の船舶が、フィンランドとエストニアを結ぶガスパイプラインと通信ケーブルをいかりで切断したと、この件の捜査に詳しい複数の人物は述べている。同捜査について説明を受けた一部の当局者によると、当時、ロシア人が乗船していたという」 

    昨年10月も、中国船がガスパイプラインと通信ケーブルをいかりで切断した。同船には、ロシア人が乗船していた。 

    (5)「米ペンシルベニア大学クレインマン・エネルギー政策センターのベンジャミン・シュミット上級研究員によると、伊鵬3号は2019年12月から2024年3月初旬まで中国の領海内でのみ運航していたが、突然運航パターンを変更した。その後、伊鵬3号はロシアの石炭などの貨物を運び、日本海に面したナホトカなどのロシア港に寄港。バレンツ海のムルマンスク港を数回訪れ、バルト海へ航行した。「これだけでは、ロシアの関与を示す証拠としては不十分だが、何年も中国の領海内でのみ運航していた船舶の運航地域が根本的にロシアの港へと変更されたことは、欧州当局にとって捜査のカギとなるはずだ」とシュミット氏は述べた」 

    捜査は、始まったばかりだ。今後の展開次第で、中ロ関係の「裏事情」が明かされるかも知れない。

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