世界の半導体は、メモリーから非メモリーへと大きく転換している。特に、AI(人工知能)の実用化とともに、この流れが加速化している。韓国のサムスン電子は、こうした流れを見誤り、今や大きな差を付けられた。韓国半導体に危機が忍び寄っているのだ。
『ハンギョレ新聞』(3月23日付)は、「メモリー輸出も、AI時代の非メモリーも不振 赤信号灯った『半導体強国』韓国」と題する記事を掲載した。
(1)「830億ドル(2018年)から429億ドル(2023年)に。5年間で韓国メモリー半導体の輸出額は半分に減った。特にここ2年間は、毎年輸出額の減少率が2桁に達した。世界のメモリー市場で、サムスン電子とSKハイニックスを中心とした韓国の半導体大手のシェアは、約10年間にわたり60%前後に達するほど独占的地位を保っているにもかかわらず、輸出額において急激な変化が現れたのだ。専門家たちは、業況によって大きく左右されるメモリー中心の韓国の半導体産業構造に内在した弱点が露呈した2年だと評価する」
世界のメモリー市場で、サムスン電子とSKハイニックスは60%前後に達する高いシェアを持つ。だが、メモリー市場は世界半導体の23%にすぎない。76%は非メモリー市場である。韓国は、その狭い市場で6割を占めるという「お山の大将」である。
(2)「相対的に安定した成長をみせる非メモリー半導体市場では、韓国の影響力は微々たるものだ。産業研究院の資料によると、国別の非メモリー半導体のシェア(売上ベース)は韓国が3.3%で、台湾(10.3%)、日本(9.2%)、中国(6.5%)を下回っている。半導体設計分野の強い米国が54.5%を占めている。世界の半導体市場で、メモリー半導体の比重は23.88%(市場規模187兆ウォン)である一方、非メモリー半導体は76.12%(593兆ウォン)。韓国が強い存在感を放っているのは小規模な市場だけという話だ」
国別の非メモリー半導体のシェアでは、日本が9.2%であるが韓国は3.3%である。日本は、底力を発揮して韓国を大きくリードしている。こういう潜在的力量を持つ日本は今、半導体復興に賭けて立ち上がっているところだ。可能性は十分ある。
(3)「半導体強国に赤信号が灯ったのは、韓国の半導体産業を率いてきたサムスン電子の状況と相まっている。特に、サムスン電子はメモリー部門でも競争力を脅かされている。サムスン電子の半導体事業部(DS)内外では「四面楚歌」という反応まで出ている。大規模な投資を通じて汎用半導体市場をいち早く先取りすることに成功したサムスンの戦略が、注文生産に近づいた人工知能(AI)時代の新しい半導体地形にうまく対応できずにいるのだ。代表的な事例が、主力のDRAMのカテゴリーに属する高帯域幅メモリー(HBM)だ。AIサーバー用グラフィック処理装置(GPU)に欠かせないHBMは昨年から需要が急増したが、サムスン電子はGPUを独占しているNVIDIA(エヌヴィディア)にHBMを供給できなかった。サムスンを追撃していたSKハイニックスが事実上供給を独占した」
サムスンは、AI時代の到来を読み誤った。DRAMに属する高帯域幅メモリー(HBM)が、AIサーバー用グラフィック処理装置(GPU)に不可欠であることに気づかなかったのだ。技術陣の「大ミス」である。不注意の一語である。
(4)「ユジン投資証券リサーチセンター長のイ・スンウ氏は「AI時代に入り、汎用半導体のDRAMも顧客オーダーメード技術が重要になっているのに、サムスンの競争力が伸び悩んでいる。HBMだけでなくダブルデータレート(DDR)でも技術力の問題があり、以前には見られなかったサムスン内部の危機が大きくなっている雰囲気」だと語った。サムスンが2019年にHBM開発チームを解体したのは、サムスンが未来の動向をうまく予測できなかった事例に挙げられる。匿名の半導体業界関係者は「サムスンが、2019年に収益性が保障されないとの理由でHBM開発チームを解体した。当時は、下降局面に対応しようとした選択だったが、未来を読めなかった短期的な戦略がAI半導体市場の初期に苦戦する結果を生んだ」と話した」
サムスンは2019年、前記のHBM開発チームを解体してしまった。サムスンが、朴大統領事件に巻き込まれて大混乱していた当時のことだが、経営危機感から守りの姿勢に入っていた証拠であろう。
(5)「サムスンは、非メモリー分野で数年にわたって挑戦をしているものの、ライバルを遠くから追いかけている格好だ。非メモリー半導体を作る領域であるファウンドリ(半導体委託生産)市場でトップ業者である台湾のTSMCが、アップルやNVIDIA、AMDなど大型顧客企業を確保し、1位の地位を固めている。一方、サムスン電子が大手顧客企業から受注したというニュースは聞こえてこない。サムスン電子は家電および自社のスマートフォンに向けたチップ生産と、TSMCに集中した注文を分散して受け取る戦略で2位の座を保っている状況だ。最近は、米インテルがファウンドリ事業に再び進出し、サムスンを押しのけて2位にのし上がろうとしている状況だ」
サムスンは、長いこと「半導体世界一」を誇りにしてきたが、現在はそれどころの話でなくなった。台湾のTSMCに大きく引離されているほか、日本が国策半導体企業ラピダスによって追撃体制を固めている。韓国半導体は、かつての力を失った。