中国経済は、不動産バブル崩壊で一変し内需不振の元凶となっている。政府は、EV(電気自動車)の育成強化に多額の補助金を出している。このアンバランスが、中国経済の回復を遅らせる。中国は、「一点突破主義」でEVに全力投球だが、ダンピング輸出で世界を混乱させている。結局、EVで景気回復を図る意図は大間違いであろう。
『東洋経済オンライン』(3月18日付)は、「不動産バブル崩壊で中国経済はまだまだ低迷続くのに EV産業などは台頭 世界は警戒し トランプ関税も重なり 誰も得しない未来が到来へ」と題する記事を掲載した。
中国経済は衰退するのか。それとも強い産業が牽引し、成長し続けるのか。そして日本をはじめ世界経済にどのように影響を及ぼすのか。『ピークアウトする中国』で現地取材と経済学の視点から今の中国経済を解き明かした梶谷懐・神戸大学教授とジャーナリストの高口康太・千葉大学客員教授に、中国経済の現状や行方を聞いた。
(1)「梶谷:短期的には2021年に不動産価格が下がり始め、2023年に持ち直しの動きが一時あったものの、再び下がり始めた。この要因は建設が停止していたマンションを行政が住宅政策と称して、最後まで完成させようとして供給が増えてしまったことにある。在庫が余っているときに、そのような幽霊マンションが建つと需給バランスは崩れてしまう。以上が短期的な背景だ」
住宅供給が増えた背景に、住宅ローンを払っても住宅を受け取れない人々のために住宅を完成させたことをあげている。これは、住宅の「青田売り」による弊害だ。完成物件だけを販売させれば、こういう矛盾は起こらない。
(2)「高口:中国では不動産が値上がりし続けると思われたので、農村の真ん中など不便な陸の孤島に建てられた高層マンションも購入するケースが相次いだ。ただ、不便な場所に実際に住む人はマンション購入者の1~2割で、あとは投資で購入しただけだ。デベロッパーが資金難に陥って建設が止まってしまい、実際に住みたい1~2割の人たちが抗議して、当局が完成させようとしたのだ」
「青田売り」の欠陥が、まさに表面化している。不便な場所の住宅は、実際に住む購入者の1~2割で、あとは投機で購入したものという。これこそ、バブルの典型である。
(3)「梶谷:中国で「合理的バブル」が生じやすいのは投資が飽和状態で、資本が過剰に蓄積されたために金利が成長率を下回る状況のときだ。中国では企業間競争の激化で付加価値の労働者への還元率を表す労働分配率が低下し続ける傾向や企業の内部留保増加、家計部門の貯蓄率増加などで資本の過剰蓄積が生じた。その結果、不動産市場に資本が流入して合理的バブルが生じたと思われる」
中国は、資本自由化を認めていない。国内の過剰貯蓄が、海外投資できれば不動産一極へ資金が集中するはずもなかった。だが、土地国有制が仇となり貯蓄を国内に止めてしまったことが、不動産バブルの規模を大きくした。中国固有の経済制度が、不動産バブルを深刻化させた。
(4)「梶谷:それに拍車をかけたのが社会保障体制の不備だ。中国では日本にあるような賦課方式の年金制度が十分に整備されていない。賦課方式の年金は現役世代からお金を徴収してリタイア世代に回して、世代を変えながらそれを繰り返すというものだ。日本でも年金に対する不安はあるものの、経済成長が続く際、この制度であれば今払っている以上の年金を将来もらえると考えて国民の将来不安を一定程度、抑制はできる。中国ではこれが十分に整備されていなかったことで、価格が上昇する不動産に投資して、リタイア後は値上がりした不動産に頼るという考えになっていた。つまり、不動産バブルが崩壊した今、将来不安が広がり、消費を抑えなければいけないと人々は考えざるを得なくなっている」
年金制度の不備が、不動産投機へ向わせた要因だ。地方政府は、土地売却収入を主要な財源へ繰り込んできた。土地投機が永遠につづくものと錯覚した結果だ。土地売却収入は、年金ファンドとして金融資産で運用せず、インフラ投資へ向けられてしまった。無駄な道路と高速鉄道の建設である。この悪弊は、今も続いている。
(5)「梶谷:中国がEVなどの産業で強くなったのは、著書の『ピークアウトする中国』内で「殺到する経済」として説明したように、政府がコントロールできないところで、無数の企業家たちがその産業に参入したからである。IoTがブームならIoTに、携帯電話・スマホがブームならスマホにと実業家が押し寄せて、競争する中で産業の足腰が強くなった。中国としても国内需要が不十分な中、国際的に強くなる企業が増えると、それらの企業が産業に従事する人たちはより富裕になっても社会保障制度が整備されなければ取り残される人が増え続け、消費も伸びない苦しい状況に置かれる。トランプ政権が関税を引き上げ続ければ、このような誰も得しない未来が見えてくる」
中国は、需要不足経済においてEV企業などで潤う人々がいる反面、社会保障不備で取残された人たちの不満は溜まる一方である。習氏は、経済のバランスを取ることの重要性を見落としている。