勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

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    仏独は、これまで中国に対して柔軟姿勢を取ってきたが、中国製品の無軌道な輸入が自国産業を破壊するとして強硬姿勢に転じた。単なる反ダンピングの強化ではなく、EU(欧州連合)が米国通商法301条に匹敵する「地経学的対抗措置」を制度として常備しようとしている点にある。具体的には、次のような内容である。

     

    1)数日以内に発動可能な通商防衛措置 従来のEUは調査に数カ月〜1年かかるのが常態であった。これを「即応型」にするのは異例。

     

    2)加盟国の特定多数が反対しない限り採択 事実上、少数国の反対でも実施する仕組み。中国寄りの国の影響力を排除する。

     

    3)単一市場へのアクセス制限という「爆弾条項」 中国企業にとって最も手痛い条項になる。EV・化学品・PETなど、EU依存度の高い分野が直撃される。

     

    中国輸出が、EUで制度的に抑え込まれると、日本の供給力が必要になるという構造的状況が生まれる。日本車のトヨタ・ホンダ・日産などの欧州シェアは、確実に上昇する。化学品では、電池・素材で日本の化学産業が「代替供給国」になる。三菱ケミカル・住友化学・東レ・旭化成などが浮上する。

     

    『ロイター』(10月6日付)は、仏独 EUに迅速な貿易対抗措置を提案 中国念頭か

    と題する記事を掲載した。

     

    フランスとドイツは、欧州連合(EU)経済に打撃を与える国に迅速に対抗する新たな措置を導入し、域内経済を強化するよう提案した。中国が主な対象として念頭にあるとみられる。フランスのマクロン大統領とドイツのメルツ首相は5日、欧州委員会のフォンデアライエン委員長に書簡を送った。EU首脳は10日後にブリュッセルで開く首脳会議で、中国との貿易不均衡について協議する予定だ。

     

    (1)「両首脳は、「市場をゆがめる体系的な慣行」がEUの経済と産業基盤を脅かしており、緊急の対応が必要だと指摘した。欧州委は仏独の提案をまとめた文書を添えた同書簡を歓迎し、地経学的リスクと世界的な不均衡を巡る議論への貴重な貢献だと評価した。また、フォンデアライエン氏⁠の競争力に関する姿勢や、中国を含む貿易相手国への対応方針とも一致しているとした。新たな措置は特定の国を対象とするものではないが、ダンピング(不当廉売)、広範な補助金、通貨の交換性制限など市場をゆがめる慣行を取り上げている。多くのEU首脳は、中国がこうした慣行を行っていると指摘している」

     

    欧州委(EUの内閣)は、仏独の提案をまとめた文書を添えた同書簡を歓迎した。「地経学的リスクと世界的な不均衡を巡る議論への貴重な貢献だ」と評価したのだ。これは、独仏提案を実施する姿勢である。

     

    (2)「ドイツ政府当局者は、貿易がますます武器として利用される新たな世界情勢の下、米国の通商法301条に基づく関税や中国の重要鉱物の輸出規制に匹敵する強力な措置がEUには必要だと述べた。文書は、EUが通商防衛手段をより迅速かつ効率的に展開する必要があり、調査を増やすとともに、業界全体を対象とする広範な対応を取るべきだとしている。また、化学品、PET、ハイ⁠ブリッド車の輸入に対処する措置が急務だと指摘した」

     

    米国の通商法301条に基づく関税や、中国の重要鉱物の輸出規制に匹敵する強力な措置である。すでに、前例があるので「反対しにくい」状況をつくっている。特に、「中国の重要鉱物の輸出規制に匹敵する」と皮肉を込めている。

     

    (3)「仏独はさらに、EUが調達先の多様化と経済安全保障の確保に注力できるよう、欧州委は2つの新たな手段を早急に提案すべきだと主張した。1つ目は欧州委が既に言及しているもので、特定の重要物資について、企業が単一の調達先に依存することを抑える狙いがある。2つ目は、政治的・経済的手段を通⁠じて公正な市場環境を損なう国に対し、EU単一市場へのアクセスを制限するもの。ただ、EUが対応に踏み切る条件や、取るべき措置は明示していない」

     

    「企業が単一の調達先に依存する」と、「EU単一市場へのアクセスを制限」は同じ内容である。標的は、中国製品のEU市場へのアクセス(入場)制限である。中国製品の締出しを明らかにしている。

     

    (4)「文書は、欧州委が他国への対抗措置の発動を提案した場合、加盟国の特定多数が反対しない限り採択⁠されるべきだとした。一部の貿易措置よりも採択のハードルが低くなる。また、欧州委がこうした新措置を迅速に発動できるようにすべきだとした。独当局者によると、数日以内の発動を意味する可能性がある。新たな⁠制度を導入するための法案は、依然としてEU加盟国政府と欧州議会の承認が必要となる。仏大統領府顧問は、EUが行動を起こすことが急務であり、一部の貿易相手国との不均衡は持続不可能な水準に達していると指摘。仏独はEUが既存の反ダンピング措置をできるだけ早く発動するよう強く望んでいると述べた」

     

    加盟国の特定多数が、反対しない限り採択⁠されるべきという強硬姿勢である。中国寄りの国が反対しても多数決で決定すべきとしている。EUは、全加盟国の賛成が前提である。それに縛られないという姿勢を見せている。


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    日本が、アジアのエネルギー安全保障の「中枢国家」になり、サウジアラビア・UAE(アラブ首長国連邦)が日本主導のアジア秩序に正式参加した。これは、ホルムズ封鎖で、「日本しか頼れない」構造が露呈したからだ。

     

    中東産油国にとって、日本は「アジアの安全保障の唯一の柱」であることを証明した。だから、日本主導の枠組みに入ることを決断した。日本の備蓄技術・金融支援は、他国では「代替不能」である。日本は、世界最大級の備蓄量、備蓄技術、民間タンク貸し出し(産油国共同備蓄)、100億ドルのパワーアジア構想を持つ。サウジ・UAEはこれを利用することで、ホルムズ封鎖でも輸出を継続できるのだ。日本の技術と金融が、産油国の生命線になった。

     

    サウジ・UAEは、中国でなく日本を選んだ理由は何か。中国の政治リスク、中国の軍事的不安定、中国の海洋進出を嫌い、アジアのエネルギー秩序の「中心」として日本を選んだもの。これは、当初から進んできた「日本+UAEのアジア供給センター化」の制度化である。

     

    日本が、なぜアジアのエネルギー秩序の中心になったのか。アジアの備蓄量は、タイが61日、フィリピンは53日、ベトナムも30日である。これに対して、日本は200日以上である。ASEAN(東南アジア諸国連合)のエネルギー安全保障は、日本の金融力によって守る形になったのである。

     

    この枠組みが、実は「台湾有事抑止」に直結する。ASEANが、日本へ依存するからだ。中国の台湾侵攻は、「ASEAN全体のエネルギー危機」を招く。ASEANの石油備蓄が日本主導で整備されれば、中国が台湾に侵攻すると、ASEAN全体が日本側に結束する。つまり、日本主導の備蓄網は、台湾侵攻の「経済的抑止力」へ繋がるのだ。中国は、期せずしてASEANを敵に回すという事態を招く。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月4日付)は、「サウジとUAE、アジア石油備蓄に協力へ 日本がエネルギー安保主導」と題する記事を掲載した。

     

    サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がアジアの石油備蓄に協力する枠組みが動き出す。日本は、金融支援や備蓄技術の提供で連携を後押しする。様々な物資の供給網で結びつく地域のエネルギー調達の支援は日本の経済安全保障の強化にもつながる。

     

    (1)「日本が、主導する東南アジアなど11カ国のエネルギー分野の枠組みアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)が8日、フィリピンで閣僚会合を開く。特別協議にサウジ、UAE両政府の次官級幹部が参加し、石油備蓄に協力する方針を表明する。11日にはサウジで産油国と消費国の閣僚級対話「国際エネルギーフォーラム」がある。日本が参加し、アジアとの連携の枠組みを共有する見通しだ」

     

    AZECにサウジとUAE両政府の次官級幹部が参加し、石油備蓄に協力する方針を表明する。これは、ASEANにとって初めての経験であろう。アラブ産油国は、これまでASEANを重視してこなかった。だが、日本が一括して代理購入する制度を始めるだけにASEANへ目を向けることになった。画期的な動きである。

     

    (2)「アジア共同体の閣僚会合は、成果を共同声明にまとめる。加盟国が石油備蓄の増強で中東産油国と協議する土台になる。具体的な内容や規模は今後、個別に2国間で詰める。サウジやUAEが対象国に輸出を拡大したり、有事に優先供給したりすることが想定される。アジアとの連携は、産油国にもメリットがある。サウジとUAEの原油輸出量は、ホルムズ海峡の封鎖で落ち込んだ。消費国の備蓄に協力する枠組みを整えておけば、海上輸送が難しい状況でも備蓄タンクから出荷を続けられる」

     

    サウジやUAEが、ASEANへ積極的に原油を売り込むのは、日本が一括して支払い窓口になるからだ。アラブ産油国は、支払条件に厳しいだけに、これまで直接取引を控えてきた。ところが、日本によって100億ドルの基金を用意されているから、安心して売り込めるのだ。

     

    (3)「日本は、国内の民間タンクをサウジなどの国営会社に貸し出している。「産油国共同備蓄」と呼び、緊急時にはタンク内の原油を優先購入できる。こうした仕組みも先例となる可能性がある。日本は4月に高市早苗首相が100億ドル(約1.6兆円)規模の金融支援を柱とするエネルギー協力の「パワーアジア」構想を提唱した。今回の閣僚会合での合意を踏まえ、資金協力や備蓄ノウハウの供与を進める」

     

    日本が提供する100億ドル資金は、日本がASEANの「原油中央銀行」になるようなものである。これは、日本がASEANのエネルギー供給網を「差配」するからだ。日本には、ASEANを日本経済圏へ組込む機会になる。

     

    (4)「東南アジアは歴史的、地理的にエネルギーの多くを中東に依存してきた。2月に米国がイランを攻撃し、イランが報復で海上輸送の要衝ホルムズ海峡の封鎖に走ったことで石油の供給が途絶するリスクにさらされた。日本は、1970年代のオイルショックをふまえて石油備蓄の体制を整え、世界でも最大規模の200日分以上を確保してきた。アジアは備えが薄かった。資源エネルギー庁によると、3月時点で原油と石油製品を合わせた備蓄量はタイで61日分、フィリピンで53日分だった。ベトナムはさらに少なく30日分にとどまった。ホルムズ海峡の封鎖後、各国はガソリンの給油制限など消費抑制策を強いられた」

     

    各国の原油備蓄量の差は、外貨高準備高の差でもある。外貨事情にゆとりがあれば、日本のように200日を超える備蓄が可能である。だが、多くの国が1~2ヶ月の備蓄である。外貨のゆとりがない結果であろう。それだけに、日本の100億ドル提供は「ビッグ・プレゼント」になる。

     

     

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    米国中間選挙は、11月3日である。あと、1ヶ月足らずである。与党・共和党が敗北すればトランプ大統領はレームダック化すると関心が集まっている。だが、当のトランプ氏は自らの「物語」(ナラティブ)をつくって必勝を確信しているという。トランプ氏の非公式な発言に詳しい複数の関係者によれば、同氏は、共和党が中間選挙で予想以上の結果を出すとみているという。だが、トランプ氏のこの楽観的な見通しを共有する共和党員はほとんどいない。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(9月27日付)が報じた。

     

    『中央日報』(10月5日付)は、「早くも『トランプ2年』を巻き戻す準備…WP『国家の大改造作業になる可能性』」

     

    中間選挙を控え、米政界ではトランプ大統領の権限を制限する立法が足早に進められている。中間選挙で勝利する可能性があるとみられている民主党が、早くもトランプ大統領が就任後に進めてきた政策をすべて巻き戻すための立法措置に着手したとの見方が出ている。


    (1)「ワシントン・ポスト(WP)は4日(現地時間)、「トランプ氏の反対勢力は、同氏が大統領に復帰した後に導入した変化を巻き戻すための取り組みを計画している」とし、「1974年のリチャード・ニクソン大統領の辞任につながった『ウォーターゲート事件』直後と同様の、国家の大改造作業になる可能性がある」と報じた。実際、民主党議員らは最近、トランプ氏が外交・国防、政府支出、移民、司法、私生活などの分野で下した決定を無効にしたり、再発を防いだりするための法案を先を争うようにして提出している」

     

    トランプ氏は、国民に向って色々と「あめ玉」を提案している。これによって、中間選挙の敗北を免れると計算しているのかも知れない。ガソリン価格の値上がりが、国民生活の圧迫感を強調している。イラン戦争の結果である。

     

    (2)「民主党のスーザン・デルベネ下院議員(ワシントン州)とドン・ベイヤー下院議員(バージニア州)は、トランプ氏が関税賦課、移民の強制送還、州兵の配備などのために12回行使した非常事態宣言の権限を制限する法案を提出した。恣意的な非常事態宣言を根拠とした権限乱用を制限する狙いだ。ジェイミー・ラスキン下院議員(メリーランド州)は、議会の同意なしに大統領が外国政府から金銭を受け取ることを禁止し、ホワイトハウスの改修に公開審査を義務付ける法案をまとめた。トランプ氏がカタールから「超豪華専用機」を贈られ、ホワイトハウスの宴会場建設を強行したことに歯止めをかける内容だ」

     

    民主党は、トランプ氏がカタールから「超豪華専用機」を贈られ、ホワイトハウスの宴会場建設を強行したことに歯止めをかけるとしている。中間選挙に敗北すれば、トランプ氏の基盤は大きく揺さぶられる。いろいろな内政問題が、一斉に噴き出すであろう。外交問題は、圏外である。

     

    (3)「このほか、トランプ氏が自身の納税記録流出の責任を問い、内国歳入庁を相手取って起こした100億ドル(約1兆5800億円)の損害賠償訴訟を取り下げる見返りに、18億ドルの「司法被害者基金」を推進していたことに関連し、大統領が自らの政府と金銭的な合意を結ぶことを禁止する法案も提出された」

     

    政治の世界では、いったん権力が弱くなったとみられると、たたみかけられてくる。トランプ氏は、特有の粘り腰で交わすのであろう。

     

    (4)「上院のクリス・マーフィー議員(コネティカット州)も、行政府が個人または団体の発言を理由に起訴・処罰することを禁止する「政敵禁止法」を提出した。パム・ボンディ、トッド・ブランチ両長官が率いた司法省で、トランプ氏による「司法省の武器化」に問題意識を持つ弁護士らが大量に解雇されるなどしたことを受け、司法省の政治的独立性を回復するための法案だ」

     

    この2年間、トランプ氏は「怖いものなし」の振る舞いであった。中間選挙が、それをどこまで投票結果に表れるのか。トランプ氏の「勝利の方程式」では、どこかに勝因が潜んでいるのであろう。ただ、トランプ氏がバイデン氏に勝利できたのは、物価上昇であった。その条件は、今も変わらず有権者の最大関心事である。

     

    (5)「WPは、こうした動きがニクソン氏の辞任後、米議会が大統領による個人情報の悪用、国民の監視、選挙資金の流用、非常事態宣言などの権限を制限する法案を大量に可決した当時と同様の規模になる可能性があると予想した。ただし、民主党が当時と同じような政治的推進力を確保できるかは未知数だとした。ウォーターゲート事件当時、民主党は上院で61議席対39議席、下院では291議席対144議席の圧勝を収めた。しかし、米政治が二極化した現在は、民主党が上下両院選挙で勝利しても、議会を完全に掌握するほどの圧勝を収めるのは難しいとの見方が優勢だ。同時に、共和党が中間選挙で敗北した場合、トランプ氏がむしろ自身の権限を維持するため、現在よりもさらに強力な「大統領令による統治」に依存するようになるとの見方も出ている。

     

    民主党が、大差を付けて議席を伸さない限り、大変革は起らない。これが、一致した見方である。

     

    (6)「大統領の権限を制限する法案を提出したラスキン議員はWPに対し、「トランプ氏による大統領権力の行使は元に戻すことができ、また必ず元に戻さなければならないが、そのためには数十年かかるだろう」とし、「われわれの前には途方もない再建の課題が横たわっている」と述べた」

     

    トランプ氏は、内政面で大きな紛争の種をまき散らしている。これが、保守本流から評価されていれば、共和党を結束させよう。先ずは、党内がどこまで結束しているのか。これが、今後を図る上での有力尺度であろう。

     

     

     

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    ラピダスは、半導体の設計代行業務で内外の有力17社と提携する。これにより、一挙に受注能力を高めて先行する台湾のTSMCへ対抗する営業体制を構築する。

     

    今回の17社には、Synopsys(世界最大のEDA=設計業務)、Cadence(世界2位のEDA)、東芝情報システム、DNP(大日本印刷)、TOPPAN(凸版)、インフォシス(インド)、マレーシア企業などが加わっている。これは、世界標準の設計ツール+日本の設計企業+アジアの後工程企業という「国際企業の黄金構造」となる。

     

    これまで、ラピダスの先行きに「疑念」を持ってきた批判組も、こうした営業体制の構築をみることによって、ラピダスの現状を承認するほかないであろう。

     

    ラピダスは、国際企業として成長する基盤を整えた。顧客は、日本企業、米国企業、欧州企業、インド企業、ASEAN企業になる。こうした国際顧客を支える基盤が、17社による設計業務代行である。これによって、十分な設計能力が確保されることになる。

     

    TSMCの設計業務代行は、20社超とされる。ラピダスの17社はこのTSMCとほぼ同規模になる。営業面で、TSMCと同じ土俵に立った形である。ラピダスは、質と構造が国際標準になったことを示す。特に、SynopsysとCadenceが入ったことで、ラピダスが「世界標準の営業圏」を擁することになった。ラピダス連合は、この世界の設計ツールの二大巨頭が参加したことで重みを増す。これは営業面で決定的な優位性を持つ。

     

    SynopsysとCadenceがラピダスに参加したことは、ラピダスが世界標準の設計OSを手に入れ、世界中の顧客を営業圏にできる国際企業へと構造的に昇格するという意味だ。TSMCと営業面で張り合える体制が一挙に整ったことになる。これによって、工場増設の可能性が早まるであろう。

     

    17社設計連合の成立で、ラピダスの営業圏が日本はもとより欧米、インド、ASEANへ拡大される。これは、2026年内に顧客案件が急増する構造になる。営業圏が広がると、「2027年量産ラインだけでは足りない」という逼迫感が、2026年末に顕在化するとの観測も出ている。2026年末〜2027年初に増設判断が下されるのが最も合理的とみられている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(10月5日付)は、「ラピダス 東芝など17社と先端半導体の設計支援 潜在顧客を開拓」と題する記事を掲載した。

     

    2022年設立のラピダスは、外部から半導体製造を受託する事業モデルだ。回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの先端半導体を2027年度後半に量産するために、経済産業省が累計3兆円規模の支援を決めている。

     

    (1)「ラピダスは顧客の設計データに基づいて半導体を生産する。半導体の設計はスマートフォンやパソコン、自動車などの工業製品の性能を左右する。先端半導体の設計難易度は高まっており、設計業務を支援することで顧客獲得につなげる。日本企業は先端半導体の設計人材が乏しく、ラピダスの潜在顧客が少ない。ラピダスが主導する形で設計能力を底上げすることで国内企業が自前の先端半導体を自動車や生産設備などに搭載して性能を高められる」

     

    ラピダスは、国際企業として出発する。これまでは、TSMCの「落ち穂拾い」という程度からスタートする覚悟であった。それが量産化前に、早くも設計代行企業17社を揃えるという手早さである。質の高い2ナノが製造できる見通しとなったのであろう。

     

    (2)「新たに連携する17社は、ラピダスの顧客向けに半導体設計を担う。専門知識が乏しい企業でも自社ブランドの半導体開発に取り組みやすくなり、ラピダスの潜在顧客が増える。17社の構成企業は東芝傘下の東芝情報システム(川崎市)や大日本印刷、TOPPANなどだ。半導体設計サービスなどを手掛けるNSWやメイビスデザイン(熊本県益城町)も加わる。海外勢では半導体設計ツール大手の米シノプシスや米ケイデンス・デザイン・システムズなどが参画する。半導体の国産化政策が進むインドのIT(情報技術)大手インフォシスやマレーシア企業なども含まれる」

     

    海外勢では、半導体設計ツール大手の米シノプシスや米ケイデンス・デザイン・システムズなどの参画が目玉である。この両社は、TSMCの設計代行も担当している。ラピダスはTSMCと、技術的に同格とみているのであろう。

     

     

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    英国が、中国製EV(電気自動車)の輸入に追加関税を課すことを検討していると、英紙タイムズが4日報じた。EU(欧州連合)は、「メード・イン・ヨーロッパ」政策を掲げ、⁠欧州製品を優先することで中国製部品への依存を減らすことを目指している。

     

    英国が45%関税を導入すれば、EU市場向けの中国EV輸出は「英国経由の抜け道」が完全に塞がり、EU全体の中国EV販売に確実に影響が出る。現在、中国EVは以下の二つのルートで欧州市場に入っている。

     

    1)EU域内へ直接輸出(すでに45%の追加関税)

    2)英国へ輸出し英国からEUへ再輸出(関税差を利用)

    英国がEUと同じ45%を課すと、英国ルートが消滅する。EUの対中EV規制が、「英国経由の抜け道」を失い、EU全体の実効的な規制強度が上がる。

     

    『ロイター』(10月5日付)は、「英政府 中国製EVに追加関税検討 EUに同調=報道」と題する記事を掲載した。

     

    英国が、中国製電気自動車(EV)の輸入に追加関税を課すことを検討していると、英紙タイムズが4日報じた。中国メーカーが、補助金を受けた車を英国で「ダンピング(不当廉売)」しているとの懸念を受け、レイノルズ英ビジネス相が関税措置案を策定しているという。

     

    (1)「政府報道官は、「われわれの対応が自動車業界の利益と英国の国益を反映するよう、引き続き業界と緊密に連携している」と述べた。報道によると、政府は中国製EVに対する関税を欧州連合(EU)と同じ45%に設定する可能性がある。EUは「メード・イン・ヨーロッパ」政策を掲げ、⁠欧州製品を優先することで中国製部品への依存を減らすことを目指している」

     

    EUは、中国EV輸出の「標的」になっている。中国国内の余剰生産力を全てEUへ向けているからだ。EUが、中国の不況を「尻拭い」させられている形である。45%関税によって中国EVを防ぐ戦略だ。

     

    中国EVの欧州における強みは、補助金による低価格、バッテリー一体型の垂直統合、生産規模の巨大さである。だが、45%関税が英国でも導入されれば、価格優位性を大きく失うことになる。特に英国は、欧州での中国EVの「最初の橋頭堡」になっており、ここが塞がると欧州全体の販売戦略が崩れる。

     

    英国が中国EVへ45%関税を掛けると、EU内での中国EVは、次のような関税が課される。「45%+EU側の7.8〜35.3%の対中補助金是正関税+10%MFN(最恵国待遇)」によって、欧州での「圧倒的安さ」はほぼ消える形となる。これら関税を合計すると、最大90%余になる。

     

    (2)「バーナム首相は9月、提案されているEU規則下で英国を「信頼できるパートナー」⁠として扱うよう働きかけると述べ、英国を除外すれば同国の自動車産業に打撃を与えかねないと警告⁠した。フィナンシャル・タイムズは9月、EUがバーナム氏に対し、メード・イン・ヨーロッパ政策によ⁠る障壁を回避したいのであれば、EUの通商政策に一段と足並みをそろえ、中国製自動車への関税を引き上げるよう求めたと報じていた」

     

    英国では、EU離脱によって経済的損失が増えている。それだけに英国政府は、EUとの距離を縮めていかに損失を少なくするかに苦慮している。中国EV45%関税は、英国がEUへの「善意」を示すプレゼントである。これによって、英国はEUから譲歩を引出す戦術であろう。中国EVは、欧州への輸出が塞がれるとどこへ向うか。つぎの標的は日本である。最近、中国が日本へ接近し始めた背景には、こういう欧州での行き詰まりがある。「ニーハオ」の裏に隠された、したたかな中国の計算を忘れてはいけないのだ。

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