中国経済は、不動産バブル崩壊後遺症によって金融危機へ発展しかねないリスクを抱えている。不動産不況の長期化が、地方政府債務を累増させ、投資の停滞と家計消費の不振を招いているからだ。中国経済の実体は、改革以来の後退局面に陥っている。これと歩調を合わせるように、政治面でも、習氏が人民解放軍中央軍事委員会副主席の張又侠氏ら二人を粛清した。こうした経済不振と軍事における人事の混乱は、中国にとってどういう意味を持つのか。国家として、極めて危険なシグナルである。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月27日付)は、「中国の退廃と軍幹部粛清」と題する記事を掲載した。
粛清の波によって人民解放軍の高位の人物が次々に失脚する中で、張又侠氏は手出しできない存在に見えていた。張氏は習近平国家主席に抜てきされ、共産党政治局員を務めるとともに、軍の序列で習氏に次ぐナンバー2に当たる中央軍事委員会副主席の地位にあった。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が最初に報じた24日の軍最高幹部向け会合で、張氏が家族との不正共謀から核兵器を巡る米国への機密漏えいに至るまで、ありとあらゆる疑惑で告発されたことが報告された。
(1)「このニュース自体が衝撃的なものだったが、これに関する論説記事はさらに不気味だった。有力な中国ウオッチャーのビル・ビショップ氏が自身のニュースレター「シノシズム」に掲載した翻訳によると、人民解放軍の日刊紙「解放軍報」の論説記事では、両容疑者は「政治的問題や腐敗を深刻なまでに助長し、軍に対する党の絶対的指導力に影響を与え、党の統治基盤を危険にさらした。(中略)彼らは軍の政治構造や政治体系、戦闘能力の構築に甚大な打撃を与え、党・国家・軍に極めて悪質な影響を及ぼした」と書かれていた」
追放された2人の軍最高幹部は、「悪人」扱いである。真相はどうなのか。習氏が、経済疲弊と台湾侵攻問題で行き詰まった結果と読むべきだ。これが、専制主義国家の最後の「あがき」として浮上するありふれた事態である。習氏の焦りである。
(2)「この文言からは、習氏の最も信頼する側近の1人が金銭的な不正行為に関与しただけでなく、習氏に対して陰謀を企てていたことが示唆されている。軍事クーデターが未然に防がれたのか。最高指導者を中心に固く結束しているイメージを常に打ち出している中国指導部だが、実際は派閥争いがあり、分裂しているのか。一般市民よりもはるかに多くの情報を持つ高官らは、習氏が導く中国の未来に懸念を抱いていたのだろうか」
人民解放軍は、統一と団結が特色である。真相は、漏れてこない。ただ、何十年後には「習氏の独断」という形で暴露されるに違いない。
(3)「米大統領の予測不能さ、多くの西側諸国の首脳の無能さ、そして多くの民主主義社会における政治不安や社会的対立が、自由な政治体制の持続可能性や有効性に疑問を投げ掛ける中、中国の粛清は他の政治体制にも欠点があることを思い起こさせてくれる。中国のような体制では、健全で自浄的な方策は機能し得ない。党が重要な状況への対応を間違えば間違うほど、当局者やメディアはより大きな声で一斉に党指導部を称賛しなくてはならないからだ」
西側諸国では、トランプ米大統領など日常的に批判の対象になっている。中国では逆だ。賞賛され尽くしている。
(4)「中国のほぼすべての世帯は、破滅的で非人間的な一人っ子政策の影響を受けている。この政策は国全体に人口動態上の危機をもたらした。しかし、誰も反対できなかった。今、それを強制した残酷で誤った考えを持った指導者たちに説明責任を要求できる人は誰もいない。中央政府の数十年にわたる誤った政策がもたらした、当然予想できたはずの不動産バブル崩壊によって、何百万もの世帯が生涯の貯蓄を失った。中央政府は、腐敗した地方政府の当局者や強力な利益集団にけしかけられて政策を実行していた。これについても誰も何も言うことができない」
専制主義国家は短期的には成功しても、長期的には腐敗する。批判することが許されないからだ。米国のトランプ批判は、中間選挙という関門によって「浄化」される。中国には、こういう自浄組織が存在しないのだ。
(5)「専制主義の官僚政治体制は短・中期的にはうまく機能することが多かった。ルイ14世、ナポレオン、ドイツ帝国、ヒトラー、東条英機、スターリンには、いずれも好調な時期があった。しかし、絶対的権力者に付きものの有害な孤立が彼らの洞察力を鈍らせ、社会の能力を損なうといった流れが何度も繰り返されてきた。中国に現在突き付けられている問題は、張又侠氏が軍事機密を米国に売り渡したかどうかではない。これまで破滅と敗北に追い込まれてきた歴史上の多くの専制主義体制と同様に、中国共産党が専制主義的退廃の犠牲になりつつあるのかどうかだ」
中国共産党は、これまで敗北に追い込まれてきた歴史上の多くの専制主義体制と同様に、専制主義的退廃の犠牲になりつつあるのか。客観的言えば、そういう危険性が高まっている。経済危機という時限爆弾が、中国の専制主義を追詰めるのだ。





