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国会で揉めに揉めた「働き方改革法案」は、ようやく成立の運びとなった。反対の向きも多かった。ただ、「残業時間規制」「同一労働同一賃金」の実現で、多様な働き方が実現する。問題発生の都度、是正に取り組むこと。まずは実施することが必要だろう。

 

「働き方改革」が法律の精神通りに行なわれれば、日本に大変革が起こる。それは、女性役員の登用が増える可能性を持つからだ。昔、私が記者をしていた頃、当時では全く珍しかった女性社長にインタビューする機会があった。その時、伺った話を思い出したので記しておきたい。「女性社長は、男性に比べて忍耐力がある。会社を潰すのは男性社長に多いが、女性社長は耐えながら成果を上げる」と言われたのだ。となると、女性役員が増える条件整備が必要になる。

 

女性役員が増えるのは、女性が働きやすい環境であることを示している。長時間残業が規制される。出産・育児にあたって離職しなくても済むような柔軟な働き方を確保する。こういう理想的な職場環境が維持できれば、女性が長く勤務しやがて役員として能力を発揮できるはずだ。

 

日本の大学進学率では女性が男性を上回っている。勉学心が旺盛なのだろう。この燃えるような向上心が、職場で踏み潰されることは、本人はもちろん企業にとってもマイナスである。今回の働き方改革で、これを防ぎ女性社員の能力発揮の場を確保できれば、日本にとって画期的な法律になろう。ぜひ、そうあって欲しいものである。

 

この働き方改革法が議決される前に、東証が企業統治(「コーポレートガバナンス」)指針を改定した。その一つに、「女性や外国人などを役員に積極登用する」ことを促している。女性役員の目で働き方改革を進めることは極めて有益である。男性だけの目線でなく、女性の視点で職場を変えることが求められる時代なのだ。人手不足が深刻化している現在、経営のソフト化は不可避となっている。

 

東京商工リサーチによると、17年3月時点で日本の主な上場企業の女性役員の比率は3%台にとどまり、2~4割程度の欧米に比べて著しく低いという。この面で、日本は大変な後進国である。霞ヶ関の官庁街では、女性局長の昇格が増えている。かつては、「刺身のツマ」程度に扱われたが、今後は「刺身」そのものにならなければならない環境へと変わっている。

 

ここで、女性役員が増えると「企業評価」(株価)が上がるというシンガポールの最新研究を紹介したい。

 

『ブルームバーグ』(6月29日付)は、「女性役員増えれば企業評価の向上招くーシンガポール国立大学の調査」という記事を掲載した。

 

   「企業における男女平等を提唱する人々は、女性役員の数と企業評価が連動していると結論付けたシンガポール国立大学(NUS)の調査を、もっとよく知りたいと思うだろう。NUSビジネススクールのローレンス・ロー准教授が主導した調査によれば、企業の取締役会に女性1人が加わるだけで、その会社の評価が向上し得ることを少なくとも1つの指標が示した。同准教授が着目したのは、企業の資産価値と時価総額を比較した『トービンのQレシオ』である」

 

トービンの「Qレシオ」とは、次のような内容だ。

株価を1株当たりの実質純資産(時価評価)で割って、その値(q)が1より小さければ投資を縮小する。逆に、1よりも大きければ投資を拡大するという投資理論だ。この「Qレシオ」を利用して、女性役員数との関係を調査したものがこの記事である。

 

② 「シンガポール上場の500社について過去5年間のデータを調べたロー准教授は、取締役会において女性の独立取締役の平均人数が1人増えるとQレシオが11.8%上昇するということを突き止めた。『企業がこうした恩恵を評価し、取締役会にもっと女性を増やすよう行動することを望んでいる』と同准教授は話している」

 

取締役会で女性の独立取締役(兼務でない)の平均人数が1人増えると、Qレシオが11.8%上昇(株価上昇)するという結果を得た。これは、興味深い話である。その企業の株価が上昇するならば、株主は女性役員の増加を求めるに違いない。冒頭、私が女性社長に聞いた話を紹介したが、この「Qレシオ」によってもその信憑性を裏付けるようである。

 

古来、女性は「太陽」に喩えられる。企業役員として株価上昇へ貢献するデータが出ている以上、やっぱり現代企業でも太陽と言えるのだろう。