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中国国民は四六時中、当局によって監視されている。AI(人工知能)とIT網を駆使して、水も漏らさぬ「見えない壁」で仕切られている。市民は、言いたいことも言えない逼塞状態だ。これが、GDP世界2位の国家がすることか。そんな疑問が浮かぶ。

 

習近平国家主席は、これまでの2期10年という任期制を廃止した。習氏が、国家主席を続けたければ、「終身国家主席」も可能という毛沢東に匹敵する権力を掌握した。「いまどき終身国家主席」とは、首をひねらざるをえない。ここまでやって、国民の不満を抑えつけなければ、共産党政権を維持できない危機感が強いのだろう。

 

習近平氏は、AIやITを軸とするデジタルで政権を維持しようと狙っている。国民生活を監視して、不満が暴動に発展しないよう事前に抑圧する。この一方で、デジタル機能を国家の経済計画に利用して、市場経済に優る経済運営を目指していることも事実だ。こういう習氏の狙いは、「デジタル・レーニン主義」と呼ばれている。旧ソ連は、経済破綻で崩壊し、現在のロシアに衣替えした。共産主義とは決別した形だ。

 

習氏は、ソ連が失敗した「真の共産主義国家」を中国で実現させたい。それには、デジタル機能を経済計画に取り入れ、過不足ない生産を行って「平等社会」をつくる夢を持っている。さて、AIとITを組み合わせた経済計画が可能かどうか。過去の議論では、不可能とされている。中国は、この壮大な計画を実現させて、米国の世界覇権に挑戦する準備を進めている。

 

この「デジタル・レーニン主義」の一環として、まずは国民の不満を押しつぶすこと。この弾圧計画は、どのように行なわれているか。その実態を知っておくべきだ。この夏休みに、中国旅行を計画している方もおられるだろう。折角の楽しい旅行が、中国官憲によってメチャクチャにされないよう、一通りの知識をお勧めしたい。

 

『大紀元』(6月14日)は、「台湾女性、二度と中国には行かない、ネット検閲に恐怖」と題する記事を掲載した。

 

  中国当局によるネット検閲の恐ろしさを目の当たりにして、ある台湾人女性が勤務していた大陸の企業を辞めて台湾に戻った、と台湾メディアはこのほど相次いで報道した。台湾メディア『三立新聞』などによると、女性の友人の男子大学生が、メッセージアプリ『微信(ウィーチャット)』の家族チャットグループで、『中国の汚職官僚』を批判する文言を投稿した。その数日後、友人は警察当局から取り調べを受け、連絡が取れなくなったという」

 

   「報道によると、男子学生が通う大学は6月7日、構内に『社会的不安を煽るような言論を控えるように』との通達を掲示した。違反者に対して『警察当局が介入し捜査する』と警告。同通達には、当局の取り調べを受けている学生4人の名前が記されていた。この通達を目にした台湾人女性は恐怖を感じ、直ちに会社を辞めて台湾に戻ったという。そして自身のFacebookで『二度と大陸には行かない』とした」

 

中国の男子学生が、メッセージアプリ『微信(ウィーチャット)』の家族チャットグループで、「中国の汚職官僚」を批判する文言を投稿した。これが早速、当局の検閲に引っかかり、警察の取り調べ後に連絡が途絶えているというのだ。中国では、学生の中に「情報員」が配置されている。講義中、教員が「反革命的発言」をしたかを密告する役割である。当然、学生仲間の情報も収集しているはず。この「情報員」は働き次第で将来、共産党入党が認められるかも知れないポストだ。

 

こういう「危ない学生」もいる。あなたが中国旅行中、気軽に共産党批判をやると「反革命」か何かの嫌疑をかけられよう。政治が