a0960_007395_m

中国は人口動態からいえば、青壮年期を過ぎて高齢社会へ入っている。この現実認識が、中国においてどこま
で浸透しているか疑問だ。すでに、預金残高の伸び率が急速に鈍化する状態に落込んでいる。中国の過去の高い貯蓄率が、生産年齢人口比率の上昇を反映したもので、今後の貯蓄率が急速に鈍化することを示唆している。

 

高度経済成長時代、日本の貯蓄率の高さがしばしば議論された。当時の経済知識では、今から振り返ってごく素朴な議論をしていた。日本人は、二宮尊徳のような勤倹貯蓄タイプが多いからだという結論であった。今から50年以上も前の話である。だが、最近の生産年齢人口比率上昇という概念を使えば、日本だけでなくどこの国でも貯蓄率が急増するものだ。中国も同じこと。中国が、生産年齢人口比率がピークであったのは2010年である。それ以降は低下に向かっている。現在の貯蓄率は減少過程にある。貯蓄の伸び率は、人口動態を反映する。

 

中国の場合、次のような要因が加わっているはずだ。

 

中国は、これまで高い経済成長を続けてきた。それを支えた要因の一つに、高い貯蓄額の伸びがあった。それが、突然の急ブレーキがかかっている。中国メディアは、中国人の「爆買い」を理由に挙げているがそうではない。中国の経済構造に大きな軋みが現れてきたとみるべきであろう。

 

考えられる要因を挙げたい。

 

人口の高齢化で貯蓄額が減少した。

住宅バブルでローン支払いが増えて貯蓄額が減っている。

MMF(マネー・マーケット・ファンド)の急増により、銀行預金が取り崩されてシフトした。

金利の自由化をしない限り、銀行預金の増加率が低下する。これは、中国経済にとって「信用創造機能」を低下させるという難問を生じる。銀行の貸出し能力の低下を引き起こすのだ。

 

以上、4つの項目のうち最大要因は、人口の高齢化で貯蓄額が減少したことであろう。これを、②以下の項目がさらに押し下げているのでないか。私は、このように推論する。比喩的に言えば、つぎのような表現ができよう。

 

水源の水は細り始めているにもかかわらず、②、③、④という支流をつくるので、銀行というダムに貯まる水(本源的預金)が減ってしまったことだ。これが、貸出量を制約するので新たな預金(派生的預金)が増えず、信用創造機能が低下していることだ。中国政府は、「一帯一路」で弱小国を「借金漬け」にして喜んでいるよりも、内政充実を先ず心がけないと足下が崩れる懸念が深まっている。

 

中国は、住宅バブルでGDPを押上げてきた。それが、住宅ローンを増やして個人消費を食込んでいる事実を知る必要があろう。

 

『ロイター』(7月25日付)は、「中国厦門で消費失速、家計債務が米住宅危機直前の水準に」と題する記事を掲載した。

 

(3)「中国の住宅価格は、所得比でみると世界で最も高い部類に入っており、何百万もの世帯が抱える債務はすでに、住宅危機直前の米国に匹敵する水準に達していることが、上海財経大学の高等研究院の調査で明らかになった。米国との貿易摩擦が熱を帯びる中、こうした債務が消費に悪影響を及ぼし、内需主導の成長を目指している中国政府の障害になる、とエコノミストは警鐘を鳴らす。中原銀行(北京)首席エコノミストのワン・ジュン氏は、減速する所得の伸びと高水準の家計債務により、短期的に消費者が経済成長に寄与するレベルが限られると指摘する。『住宅ローンの重荷が、それ以外の用途に支出できる可処分所得の額に影響を及ぼしている』と」

 

ここでは、住宅ローンの増加が個人消費に悪影響を与えていると指摘している。可処分所得にローン返済が圧力を加えているのだから当然の話である。

 

(4)「国際決済銀行(BIS)によれば、昨年末時点で厦門市における家計債務は同市の国内総生産(GDP)の98%に達し、全国レベルの同55%を大きく上回り、米国における家計債務の対GDP比79%よりも高くなっている。さらに、厦門市における家計貯蓄に対する家計債務の比率は182%と驚くほど高い。厦門市における小売売上高は今年1─5月に前年同期比で9.2%増加したが、全国平均の9.5%を下回っており、前年同期に記録した12.1%から大幅な減速となった」

 

厦門市の住宅高騰は凄まじいものがあった。

   昨年末時点で厦門市における家計債務は同市の国内総生産(GDP)の98%に達し

   全国レベルの同55%を大きく上回る。

   米国における家計債務の対GDP比79%よりも高くなっている。

 

これが、次のような結果をもたらした。

   厦門市における小売売上高は今年1─5月に前年同期比で9.2%増加。

   全国平均の9.5%を下回っている。

   前年同期に記録した12.1%から大幅な減速となった。

 

この結果を見れば、住宅バブルでGDPを押上げてもそれは一時的のこと。その後にローン支払いで、何十年間も貯蓄を減らして個人消費に悪影響を与えるのだ。中国政府は、こういうリアクションを計算に入れていただろうか。