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朴槿惠前大統領が、100万市民の「ローソク・デモ」によって退陣しなければ、文政権は誕生しなかったであろう。朴氏の後継者として、当時の国連事務総長の呼び声が高かったからだ。朴スキャンダルは、文氏と「共に民主党」に僥倖であった。こうして、文政権はローソク・デモを組織した労組と市民団体の意向を100%受入れなければならなくなっている。

 

これが、韓国経済にとって「不幸」の始りである。現実感覚の少ない、労組や市民団体の要求する経済政策が、韓国経済全体から見て整合性のとれる可能性は低い。彼らは、自らの利益達成が最大目的である。政府の役割は、利害関係の総合調整にある。だが、最初からそれを放棄して、労組や市民団体の要求に全て応じる信じがたい政策を選択している。これでは、韓国経済が回復軌道に乗れるはずがない。予想通りの結末に向かっている。高い失業率と設備投資の落ち込みで、間もなく「不況宣言」が発せられる所まで追い込まれてきた。それでも、路線変更はなさそうだ。支持基盤の了解が得られないからだ。

 

この支持基盤は、徹底的な「反企業主義」にこだわっている。韓国経済全体に良いことでも、大企業の利益になるようなことは一切、認めないという「原理主義集団」である。

 

『朝鮮日報』(10月8日付)は、「銀産分離、なぜ韓国の進歩陣営は一文字も修正させないのか」と題する社説を掲載した。

 

(4)「韓国公正取引委員会の金尚祚(キム・サンジョ)委員長はメディアの取材に対し『進歩(リベラル)陣営は2002年に制定された今の銀行法が定める銀産分離について、これをなぜ一文字も修正できない金科玉条のように考えるのか理解できない』と発言した。金委員長はさらに『最近はネットバンクをめぐる議論が活発化しているが、これに関してはサムスングループだけの規制を求める声も上がっている』とした上で、『サムスンは220兆ウォン(約22兆円)規模のサムスン生命を保有しているため、10兆ウォン(約1兆円)規模のネットバンクを持つべき理由などない』とも指摘した。金委員長は『かつて資本が足りなかった時代、財閥は銀行を保有しこれを私的な金庫としたい誘惑もあったが、通貨危機やクレジットカード問題、リーマンショックなどを経て(財閥にとっては)金融機関を持つリスクが逆に高まっている』との見方も示した。金委員長によると、韓国の金融機関は規制にがんじがらめとなっているため、アフリカの一部の国よりも競争力が低いという」

 

「銀産分離」とは、厳密に言えば金融が産業(事業)を支配しないという独禁法上の大原則である。韓国では、これが完全分離していない点で問題になってきた。サムスングループは、グループ内に製造業と金融証券業を抱えており、本来ならば違法である。製造業と金融(保険業)・証券業が同一企業グループに所属すれば、韓国経済への支配権が強まる懸念が持たれるからだ。こういう現実は、早急に改革すべきである。それを理由に、ネットバンクを規制しているのも理屈に合わない話である。江戸の仇を長崎で討つようなことだ。

 

(5)「左派陣営の『本能的』とも言える反資本主義感情の影響を受け、今なお一歩も進めることができない新産業分野はいくつもある。人工知能(AI)、ドローン、ビッグデータ、フィンテックなどの第4次産業分野はもちろん、韓国で最も多くの人材が集まる医療分野でさえ勢力争いや下方平準化の壁にぶち当たり、数十年にわたり規制緩和が実現しない。これに対してシンガポールや米国などでは医療やヘルスケア産業が発達し、欧州や中東、ロシアなど世界各国から患者が集まり今や経済の成長エンジンとしても機能している」

 

政治的左派が、資本主義経済=市場機構を受入れないのは過去のこと。反資本主義経済とは本来、市場機構軽視して直接統制経済を志向するものだ。それを、現代に復活させることは不可能である。中国経済の混乱が、それを見事に証明している。韓国左派が、学生時代に学んだ理論を検証もしないで実行して失敗しつつある。現在の「最賃大幅引上げ」だ。この失敗に懲りずに、新たな案を阻止しようとしている。労組と市民団体の支持を失うのが怖いのだ。

 

(7)「1980年代に広まった運動圏(左翼系学生運動)の思考方式に今なお縛られた与党や過激な貴族労組など既得権を持つ勢力が変わらない限り、第4次産業はもちろん今何とか持ちこたえている半導体や自動車など、従来型の主力産業もこのまま衰退していくのは目に見えている」

 

1980年代に広まった運動圏(左翼系学生運動)の思考方式は、まさに「86世代」のそれである。韓国経済は、反市場経済システムを信奉する彼らが率いている。上手く機能するとは思えないのだ。彼らの夢は、北朝鮮と連携すること。それには、労組と市民団体の意向を最大限受入れるだろう。かくて、韓国経済は破綻に向かう。