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中国社会は二極分化である。国慶節の大型連休で、海外旅行へ出かける裕福層の一方で、30元(約490円)の映画代を節約する堅実派に分かれた。米中貿易戦争の余波が、庶民の手近な娯楽を奪った形だ。

 

中国でパスポートを所持する人口は全体の1%と言われる。残りは全員、庶民という訳だろう。この人々が映画代を節約した結果、大型連休中の興行収入は前年比で21%も減ったという。万年不況地帯の「東北三省」では4割減である。

 

9月の製造業PMI(購買担当者景気指数)では、雇用状態が悪化している。好不況の分岐点50を割り込んだ。失業者が増えている。これでは映画代の節約は当然であろう。

 

『日本経済新聞 電子版』(10月10日付)は、「中国映画、急成長に陰り、国慶節でも興収21%減」と題する記事を掲載した。

 

(1)「国慶節休暇は春節(旧正月)と並ぶ中国の一大商戦期で、今後の中国消費を占う先行指標となる。中国の映画調査会社、芸恩諮詢(エントグループ)によると、その国慶節休暇(1017日)における映画の興行収入は188900万元(約308億円)と前年同期比で21%も減った。同社は不振理由に、ヒット作不在のほか、映画料金の高さなどを挙げた。実際、米中貿易戦争のあおりで足元の景気に不透明感が増すなか、消費者の節約志向は強まっている。中国の映画料金は30元(約490円)と割安だが、そんな映画でさえ節約志向が広がる。特に男性の住む遼寧省、吉林省、黒竜江省の「東北3省」は景気低迷が加速し、期間中の興行収入は、いずれも前年比で約4割も落ち込んだ」

 

興行収入不振理由として、ヒット作不在のほか、映画料金の高さなどが上げられている。ヒット作不在は、映画館への足を遠ざける理由だろう。このヒット作の出ない理由として、①大連万達集団の経営不振、②当局の監視が厳しいという指摘がある。さらに、③景気の不透明要因を考えると、中国映画界はしばらく谷間に置かれる感じだ。

 

(2)「映画界の変調の背景には、中国映画をけん引してきた中国最大手のつまずきもある。大連万達集団(ワンダ・グループ)だ。同社は欧米の映画関連企業にM&A(合併・買収)攻勢をかけ、国内でも映画館の新設や米ハリウッドと映画の共同制作を進めてきた。同社の王健林董事長は「いずれ、米ウォルト・ディズニーなどに並ぶ映画配給会社になる」と豪語してきた。しかし度重なるM&Aで有利子負債が急増。17年に債務の焦げ付きを懸念した中国当局が国内銀行に対して万達への融資制限を迫った。その後、万達は借入金の返済に追われ、新規投資はほぼストップする羽目になり映画事業にも影響を与えた」

 

(3)「さらに急成長のひずみとみられる問題も噴出しており、中国共産党が監視の目を強めていることも映画界には大きい。従来は政府機関である国家新聞出版広電総局が映画を管理してきたが、今年3月から党の中央宣伝部の管轄に移した。これまでのような自由さで映画を制作できるようにはならなくなった。今後、さらに党の意向をより強く反映した作品があふれるようになれば、客足はさらに遠のきかねない」

 

共産党から映画まで監視され、「習近平万歳」を言わされそうな時代的な雰囲気では、国民は窒息させられる。こういう上から国民を押さえる手法は、下の下である。だが、党は不安だから取り締まる。国民は不満を持つ。共産党は相当、危機感を持っているが、「トランプ危機」とでも言うのだろう。今の日本人は気楽な生活だ。戦時中の日本は暗かった。「一億玉砕」「欲しがりません勝つまでは」「米英撃滅」。これからの中国は、この暗い時代へ向かうのか。